特開2018-201382(P2018-201382A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-201382(P2018-201382A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】チーズ風味素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 20/00 20060101AFI20181130BHJP
【FI】
   A23C20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-109325(P2017-109325)
(22)【出願日】2017年6月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】田村 一二
(72)【発明者】
【氏名】石田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 基史
(72)【発明者】
【氏名】八尋 恒隆
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC20
4B001AC25
4B001AC26
4B001AC31
4B001AC46
4B001BC12
4B001BC99
4B001DC50
4B001EC01
(57)【要約】
【課題】 低コストで、かつ簡便な操作にて、より自然なチーズ風味を有するチーズ風味素材を、安全かつ効率的に製造可能な、チーズ風味素材の製造方法を提供する
【解決手段】 本発明は、乳酸菌を破砕して得られた菌体破砕物と、酵素とを、乳原料に添加して反応させることを含むチーズ風味素材の製造方法に関する。これより、上記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を破砕して得られた菌体破砕物と、酵素とを、乳原料に添加して反応させることを含む、チーズ風味素材の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌を、酸、アルカリ、または塩を用いて破砕して、菌体破砕物を得ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸を添加することによって乳酸菌を破砕して、菌体破砕物を得ることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
酵素が、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、およびリパーゼからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
乳原料が、チーズ、バター、クリームおよび脱脂粉乳からなる群より選択される1種以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズ風味素材の製造方法に関する。詳しくは、本発明は、自然なチーズ風味を有するチーズ風味素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズの代替素材として、一般にアナログチーズやイミテーションチーズ、EMC(酵素処理チーズ)と呼ばれる素材が使用されている。
アナログチーズやイミテーションチーズは、原料にチーズをほとんど使用していないにもかかわらず、チーズのような風味と物性を有する食品素材である。また、EMCは、原料のチーズに、乳酸菌、プロテアーゼ類、およびリパーゼ類等を加えて反応させることによって、チーズ風味を大幅に増強させた素材であり、アナログチーズやイミテーションチーズの原料素材としても用いられる。
【0003】
このように、従来から、チーズ風味を増強した様々なアナログチーズやイミテーションチーズ、EMCが検討されているが、更なる良好なチーズ風味の素材が依然として求められている。
【0004】
チーズは、その長期熟成により、乳酸菌が徐々に死滅し、乳酸菌の菌体内酵素が溶出することによって、複雑な風味が形成されていくと考えられている。
【0005】
チーズや乳原料などに、乳酸菌を添加したり、酵素処理などを行ったりすることで、チーズ風味素材が得られることが知られている。
【0006】
しかしながら、これらの素材は風味が人工的であり、自然なチーズの風味とは乖離したものであった。
【0007】
例えば、特表2007−527213号公報(特許文献1)には、ラクターゼ産生微生物と、乳酸菌とを用いるチーズ様製品の調製方法が記載されている(例えば、この文献の特許請求の範囲)。
【0008】
特開2009−296972号公報(特許文献2)には、チーズに、ラクトバチルス・ヘルベティカスが産生する酵素を作用させて得られる酵素処理チーズが記載されている(例えば、この文献の特許請求の範囲)。
【0009】
特開2013−503604号公報(特許文献3)には、乳酸菌を用いた乳製品の製造方法において、乳製品にはチーズが含まれることが記載され、また、発酵前に酵素を使用することが記載されている(例えば、この文献の特許請求の範囲)。
【0010】
しかしながら、これら文献のいずれにも、乳酸菌を菌体破砕処理して利用することについて、何ら記載も示唆もされていない。
【0011】
菌体破砕処理した乳酸菌を使用する技術としては、機械的に乳酸菌の菌体を破砕し、その菌体破砕した乳酸菌を、ナチュラルチーズの製造に利用する技術が報告されている(特開2016−093198号公報(特許文献4))。しかしながら、ここに開示されている技術は、ナチュラルチーズの製造に関するものにとどまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2007−527213号公報
【特許文献2】特開2009−296972号公報
【特許文献3】特開2013−503604号公報
【特許文献4】特開2016−093198号公報
【発明の概要】
【0013】
本発明者等は今般、使用する乳酸菌を、酸添加により菌体破砕処理して、得られた菌体破砕処理物を、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼといった酵素とともに、乳原料に加えて反応させることで、従来の風味素材に比べて、より一層自然なチーズに近い風味を特徴とする、チーズ風味素材を得ることに成功した。本発明者等は、酸処理による菌体破砕処理物の代わりに、塩処理、およびアルカリ処理による菌体破砕処理物を使用した場合についても検討したところ、同様に、チーズ風味素材を得ることに成功した。酸、塩やアルカリの添加処理という簡便な操作によって効率的に得られた菌体破砕処理物を利用することによって、チーズ風味素材の風味を、より自然なチーズ風味のものに改善することができたことは予想外のことであった。
本発明は、これら知見に基づくものである。
【0014】
よって本発明は、簡便な手法により菌体破砕処理した乳酸菌と、酵素とをチーズなどの乳原料に作用させ、自然なチーズ風味を有するチーズ風味素材の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0016】
<1> 乳酸菌を破砕して得られた菌体破砕物と、酵素とを、乳原料に添加して反応させることを含む、チーズ風味素材の製造方法。
【0017】
<2> 乳酸菌を、酸、アルカリ、または塩を用いて破砕して、菌体破砕物を得ることを含む、前記<1>の方法。
【0018】
<3> 酸を添加することによって乳酸菌を破砕して、菌体破砕物を得ることを含む、前記<1>または<2>の方法。
【0019】
<4> 酵素が、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、およびリパーゼからなる群より選択される1種以上である、前記<1>〜<3>のいずれかの方法。
【0020】
<5> 乳原料が、チーズ、バター、クリームおよび脱脂粉乳からなる群より選択される1種以上である、前記<1>〜<4>のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、大掛かりな設備導入などを経ることなく、簡便な操作によって菌体破砕処理を行って、乳酸菌の菌体外酵素を効率良く溶出させることができ、それによって、チーズ風味素材に対してより一層自然なチーズ風味を付与することができる。本発明におけるように、酸等による菌体の破砕処理物を利用する場合によると、機械的な菌体の破砕物を使用する場合と同等かそれより優れた良好な自然なチーズに近い風味を実現することができる。このような酸処理等の簡便な手法による菌体破砕物を使用した、チーズ風味素材の製法は、本発明者等の知る限り、これまで例がない。
したがって、本発明によれば、低コストで、かつ簡便な操作にて、より自然なチーズ風味を有するチーズ風味素材を、安全かつ効率的に製造することが可能となる。本発明により得られたチーズ風味素材では、味の複雑さが増し、より自然なチーズ風味に近づくという風味向上効果が見られた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
本発明のチーズ風味素材の製造方法は、前記したように、乳酸菌を破砕して得られた菌体破砕物と、酵素とを、乳原料に添加して反応させることを含む。
【0024】
ここでチーズ風味素材とは、チーズの代替素材として、例えば、アナログチーズ、イミテーションチーズ、または、EMC(酵素処理チーズ)などと同様に使用することができる、チーズ風味の素材を意味する。
【0025】
本発明の方法においては、乳酸菌を破砕して菌体破砕物を得る。ここで使用可能な乳酸菌としては、特に限定はないが、具体例を挙げれば、Lactococcus 属、Lactobacillus 属、Streptococcus 属、Leuconostoc 属、Propionibacterium 属、Bifidobacterium 属などの乳酸菌が例示できる。より具体的には、Lactococcus lactis subsp. lactis、L. lactis subsp. lactis biovar diacetilactis、L. lactis subsp.cremoris、Lactobacillus helveticus、L. helveticus subsp. jugurti、L. delbrueckii subsp. bulgaricus、L. delbrueckii subsp. lactis、L. acidophilus、L. crispatus、L. amylovorus、L. gallinarum、L. gasseri、L. johnsonii、L. casei、L. paracasei、L. casei subsp. rhamnosus、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus、Leuconostoc cremoris、Leu. lactis、Leu. mesenteroides subsp. mesenteroides、Leu. mesenteroides subsp. dextranicum、Leu. parames enteroides、Propionibacterium shermani、Bifidobacterium bifidum、B. longum、B. breve. B. infantis、B. adolescentisなどを例示できる。このとき、これらの乳酸菌を単独で用いても、2種類以上を混合して組み合わせて用いても良い。
【0026】
本発明において、乳酸菌は、必要により、菌体の破砕に先立って、予め培養しておき、菌体量を適切に増やし、それを使用するのが好ましい。また乳酸菌は、膜分離法、遠心分離法、真空蒸発法の何れか1以上の方法により濃縮されたものを用いることができる。また、凍結乾燥法、減圧噴霧乾燥法、噴霧乾燥法の何れかの方法により乾燥された乳酸菌を用いても良い。更に、中和培養した乳酸菌を用いても良い。
【0027】
膜分離法、遠心分離法、真空蒸発法、凍結乾燥法、減圧噴霧乾燥法、噴霧乾燥法、中和培養法などにより、単位容量当たりの乳酸菌数を増やして、乳酸菌の培養物などで乳酸菌を高濃度に調整できる。
【0028】
本発明において、乳酸菌を破砕して菌体破砕物を得る手法としては、菌体の細胞壁や細胞膜を破砕もしくは破壊することができるものであれば特に限定はなく、機械的(物理的)破砕法であっても、非機械的な破砕法であってもよい。機械的破砕法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ホモゲナイザー(均質機)、超音波装置などを使用することができ、これらは、乾式粉砕や湿式粉砕であってよい。
【0029】
本発明においては、乳酸菌を破砕して菌体破砕物を得る手法としては、好ましくは、非機械的手法、特に、酸、アルカリ、または塩を用いて破砕する方法である。これらの方法によれば、大掛かりな設備導入などを経ることなく、簡便な操作によって菌体破砕処理を実施でき、かつ、得られるチーズ風味素材において、良好で自然なチーズ風味を実現できる。これらのうち、酸を用いるのがより好ましい。
【0030】
本発明のより好ましい態様によれば、乳酸菌を破砕して菌体破砕物を得る手法は、酸を添加することによって乳酸菌を破砕して、菌体破砕物を得る方法である。
【0031】
酸を用いて乳酸菌を破砕して菌体破砕物を得る場合において、使用可能な酸としては、チーズ風味素材という食品用途において使用可能なものであれば、特に限定はされず、例えば、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、酢酸などが使用できる。好ましくは、酸は、クエン酸、リン酸である。
【0032】
酸を使用する場合、酸を乳酸菌に添加し、必要により、水酸化ナトリウム等で中和した後、酸による菌体破砕物として使用する。ここで、酸を乳酸菌に添加する際には、乳酸菌を含む液のpHが、2.5〜3.8、好ましくは3.0〜3.5程度になるように一旦調整し、その後中和するのが好ましい。このとき、反応の温度が、10℃〜50℃の間であるのが好ましく、20℃〜40℃の間であるのがより好ましい。
【0033】
アルカリを用いて乳酸菌を破砕して菌体破砕物を得る場合において、使用可能なアルカリとしては、チーズ風味素材という食品用途において使用可能なものであれば、特に限定はされず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどが使用できる。好ましくは、アルカリは、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウムである。
【0034】
アルカリを使用する場合、アルカリを乳酸菌に添加し、必要により、クエン酸等で中和した後、アルカリによる菌体破砕物として使用する。ここで、アルカリを乳酸菌に添加する際には、乳酸菌を含む液のpHが、9.0〜10.5、好ましくは9.7〜10.3程度になるように一旦調整し、その後中和するのが好ましい。
【0035】
塩を用いて乳酸菌を破砕して菌体破砕物を得る場合において、使用可能な塩としては、食品用途において使用可能なものであれば、特に限定はされず、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムなどが使用できる。好ましくは、塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウムである。
【0036】
本発明のチーズ風味素材の製造方法においては、乳酸菌を破砕して得られた菌体破砕物と、酵素とを、乳原料に添加して反応させる。
ここで、菌体破砕物は、破砕の前と比較して、数の生存率が50%未満にまで減少していることが好ましい。生存率が50%以上であると、まだ十分な菌が生存しており、破砕が十分でないことから、本発明の効果が得られにくくなる。また、菌体破砕物は、加える乳原料に対して、0.1%〜5%で添加することが好ましい。
【0037】
本発明において、使用可能な酵素としては、一般的なチーズの発酵過程に通常、関与する酵素または発酵の際に存在し得る酵素であれば、特に制限はなく、食品加工に用いることのできる酵素のうち、タンパク質や脂質に作用するものであれば、動物由来、植物由来、微生物由来のいずれの酵素も使用可能であるが、本発明では微生物由来の酵素が好ましい。使用可能な酵素として、具体的には、例えば、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼ、アミノペプチターゼ等が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、酵素は、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、およびリパーゼからなる群より選択される1種以上であり、より好ましくは、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、およびリパーゼの組合せである。
【0038】
ここで、使用する酵素の量は、加える乳原料に対して、例えば、0.001%〜0.3%程度であることが好ましい。
【0039】
本発明において使用可能な乳原料としては、チーズ用乳、チーズカード、チーズフード、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、生乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、成分調整乳、生クリーム、バターなどが挙げられる。好ましくは、乳原料は、チーズ、バター、クリーム、脱脂粉乳であり、より好ましくは、チーズカード、生クリーム、バターである。これらは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0040】
本発明においては、菌体破砕物と、酵素とを、乳原料に添加して反応させる。すなわち、菌体破砕物と、酵素とを、乳原料に添加して、適宜撹拌した後、所定の温度で所定の時間維持し、反応させる。反応温度は、使用する酵素の種類や、酵素の乳原料に対する量比に応じて適宜調整することができる。また反応時間も、菌体破砕物の量、使用する酵素の種類や、酵素の乳原料に対する量比に応じて適宜調整することができ、また希望するチーズ風味の強さ等に応じて、適宜調整することができる。例えば、反応温度及び反応時間の例として、20℃〜50℃で、8時間から7日間反応させる条件が挙げられる。好ましくは、反応温度及び反応時間は、25℃〜40℃で、12時間から4日間である
【0041】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の方法により製造されたチーズ風味素材が提供される。
【実施例】
【0042】
以下において、本発明を下記の実施例によって詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0043】
実施例1: チーズ風味素材の製造(酸による乳酸菌の破砕)
(1) 破砕する乳酸菌の準備
脱脂粉乳10%および酵母エキス0.1%の培地200gを調製し、95℃で60分間、加熱殺菌した。
ついで、この培地に、0.4gの中温乳酸菌スターター(凍結品)を無菌的に添加し、27℃で18時間、保持した。
【0044】
なおここで使用した乳酸菌スターターは、Lactococcus lactis subsp. lactis (ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス)、Lactococcus lactis subsp. cremoris(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス)、Lactobacillus paracasei(ラクトバチルス・パラカゼイ)、およびLactobacillus helveticus(ラクトバチルス・ヘルベティカス)の4種の乳酸菌を含むものであった。
【0045】
(2a) 乳酸菌の破砕(酸破砕)
前記(1)で得られた保持後の培養培地に、クエン酸を添加し、その培地のpH3.3とし、37℃で1時間、保持した。
次いで、ここに水酸化ナトリウムを添加し、pH5.0に調整した。これを破砕済み乳酸菌液(酸による菌体破砕物)とした。このとき、酸による菌体破砕の前後で生菌数を測定したところ、菌の生存率は37.5%であった。
【0046】
(3a)乳原料の調製(乳原料/チーズ)
ゴーダチーズ1009gに水372gを加え、よく懸濁させた後、ここに、糸状菌由来のプロテアーゼを5.4g添加し、36℃で4時間、撹拌した。
その後、63℃で30分間、加熱殺菌し、次いで36℃に冷却した。
これを乳原料(前処理済みチーズ)とした。
【0047】
(4a) 酵素処理および乳酸菌発酵
前記(3a)で得られた乳原料に、以下のもの:
(i) 前記(2a)で得られた破砕済み乳酸菌液(酸による菌体破砕物)170g、
(ii) 塩化ナトリウム16.9g、および
(iii) 糸状菌由来プロテアーゼ2種を合計7.6gと、糸状菌由来ペプチダーゼを2.3gと、酵母由来リパーゼを0.04gと、糸状菌由来リパーゼを0.17g、
を添加し、36℃で3日間撹拌保持した。
【0048】
次いで、得られた懸濁液1400gを回収し、65℃に加熱して、カゼインナトリウム塩96gと、キサンタンガム3.2gと、水70gとを添加した後、85℃に加温して、殺菌した。
得られた液をホモジナイザーで15MPaで、5分間、処理し、均質化を行った。
その後、容器に充填して冷却し、これを、チーズ風味素材1(実施例1)とした。
【0049】
実施例2〜4: チーズ風味素材の製造(塩、アルカリ、および機械的破砕による乳酸菌の破砕)
実施例1の(2a)の酸破砕処理の代わりに、後述する塩破砕処理(2b)、アルカリ破砕処理(2c)または機械的破砕処理(2d)を行った以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、チーズ風味素材2(実施例2、塩破砕)、チーズ風味素材3(実施例3、アルカリ破砕)、およびチーズ風味素材4(実施例4、機械的破砕)の各サンプルを調製した。
【0050】
(2b) 乳酸菌の破砕(塩破砕)
実施例1の(1)で得られた保持後の培養培地を60g調製し、そこに塩化ナトリウムを12g添加し、37℃で1時間、保持した。
これを破砕済み乳酸菌液(塩による菌体破砕物)とした。このとき、塩による菌体破砕の前後で生菌数を測定したところ、菌の生存率は41.7%であった。
【0051】
(2c) 乳酸菌の破砕(アルカリ破砕)
実施例1の(1)で得られた保持後の培養培地を200g調製し、そこに水酸化ナトリウム溶液(25w/v%)をpH10.0となるように添加し、37℃で、1時間、保持した。
次いで、ここにクエン酸を添加し、pH5.0に調整した。これを破砕済み乳酸菌液(アルカリによる菌体破砕物)とした。このとき、アルカリによる菌体破砕の前後で生菌数を測定したところ、菌の生存率は37.5%であった。
【0052】
(2d) 乳酸菌の破砕(機械的破砕(ホモ破砕))
実施例1の(1)で得られた保持後の培養培地を200g調製し、ホモジナイザー(Niro Soavi社製 PANDA2K)を用いて、1200barで均質化した。
これを破砕済み乳酸菌液(機械的破砕による菌体破砕物)とした。このとき、機械的破砕による菌体破砕の前後で生菌数を測定したところ、菌の生存率は25.0%であった。
【0053】
実施例5および6: チーズ風味素材の製造(乳原料としてそれぞれ、生クリーム、バターを使用)
乳原料として、実施例1(3a)で調製した「チーズ」を使用する代わりに、後述する(3b)で調製した「生クリーム」、または(3c)で調製した「バター」を使用し、かつ、実施例1の「(4a)酵素処理および乳酸菌発酵」を実施する代わりに、後述する「(4b) 酵素処理および乳酸菌発酵」を実施した以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、チーズ風味素材5(実施例5、乳原料/生クリーム)、チーズ風味素材6(実施例6、乳原料/バター)の各サンプルを調製した。
【0054】
(3b)乳原料の調製(乳原料/生クリーム)
脱脂粉乳400gに水600gを加え、よく懸濁させた後、ここに、脂肪分47%の生クリームを570g添加し、よく撹拌した。
その後、63℃で30分間、加熱殺菌し、次いで36℃に冷却した。
これを乳原料(生クリーム)とした。
【0055】
(3c)乳原料の調製(乳原料/バター)
脱脂粉乳400gに水873gを加え、よく懸濁させた後、ここに、加温溶解させた無塩バターを327g添加し、よく撹拌した。
その後、63℃で30分間、加熱殺菌し、次いで36℃に冷却した。
これを乳原料(バター)とした。
【0056】
(4b) 酵素処理および乳酸菌発酵
前記(3b)または(3c)で得られた乳原料に、以下のもの:
(i) 前記(2a)で得られた破砕済み乳酸菌液(酸による菌体破砕物)170g、
(ii) 塩化ナトリウム16.9g、および
(iii) 糸状菌由来プロテアーゼ1種を2.2gと、酵母由来リパーゼを0.04gと、糸状菌由来リパーゼを0.17g、
を添加し、36℃で3日間撹拌保持した。
【0057】
次いで、得られた懸濁液1400gを回収し、65℃に加熱し、カゼインナトリウム塩96gと、キサンタンガム3.2gを添加した後、85℃に加温して、殺菌した。
得られた液をホモジナイザーで15MPaで、5分間、処理し、均質化を行った。
その後、容器に充填して冷却し、これを、チーズ風味素材5または6(実施例5または6)とした。
【0058】
比較例: チーズ風味素材の製造(破砕なし)
実施例1の(2)の酸破砕処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、チーズ風味素材(比較例、破砕なし)のサンプルを調製した。
【0059】
評価試験
上記で得られた実施例1〜6のチーズ風味素材1〜6について、下記様な風味評価試験を実施した。
【0060】
・評価方法
牛乳200mLを鍋で加熱し、ホワイトソース(キユーピー社製、缶入り、1缶245g)を、ダマにならないよう混ぜながら少量ずつ添加した。次いで、沸騰しない温度で完全に混合し、小分けにして実施例1〜4の風味素材それぞれを3%ずつ添加し混合した。次いでこれらを冷蔵(4℃)し、評価時には室温(23℃)に戻した。
【0061】
・評価基準
評価項目として、「自然なチーズらしい風味」、「複雑な香り」、および「総合的な美味しさ」の3項目について、独立した評価者10名によって、それぞれ−3(弱い、または感じない)〜+3(強く感じる)の基準によるスコアで評価した。
【0062】
またこれら各評価項目に基づいて総合評価(A(優れている)、B(普通)、C(少し劣る))を行った。
【0063】
結果は下記表の通りであった。
【0064】
【表1】