特開2018-201394(P2018-201394A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-201394(P2018-201394A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】細胞シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20181130BHJP
   C12M 3/04 20060101ALN20181130BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12M3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-109958(P2017-109958)
(22)【出願日】2017年6月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】石塚 保行
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC11
4B029DG08
4B065AA90X
4B065BB01
4B065BC41
4B065BD50
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】細胞へのダメージを極力抑えて、培養容器に接着して形成された細胞シートを培養容器から容易に剥離させることが可能な細胞シートの製造方法を提供する。
【解決手段】液体培地が入った培養容器内で、当該培養容器の培養面に接着した細胞を、前記培養面でシート状になるまで増殖させ、増殖させた前記シート状の細胞を、タンパク質分解酵素を含まず、少なくともキレート剤を含む剥離液により、前記培養面から剥離する細胞シートの製造方法であって、前記培養容器のうち、少なくとも前記培養面が脂環構造含有重合体で形成されていることを特徴とする、細胞シートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体培地が入った培養容器内で、当該培養容器の培養面に接着した細胞を、前記培養面でシート状になるまで増殖させ、
増殖させた前記シート状の細胞を、タンパク質分解酵素を含まず、少なくともキレート剤を含む剥離液により、前記培養面から剥離する細胞シートの製造方法であって、
前記培養容器のうち、少なくとも前記培養面が脂環構造含有重合体で形成されていることを特徴とする、細胞シートの製造方法。
【請求項2】
前記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸である、請求項1に記載の細胞シートの製造方法。
【請求項3】
前記培養容器の培養面の水接触角が、85°以上110°以下である、請求項1または2に記載の細胞シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シートの製造方法に関し、特に、培養容器に接着して増殖する細胞で形成される細胞シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療等に用いられる細胞シートの開発が進んでいる。培養容器底面に形成された細胞シートを、細胞がダメージをなるべく受けないように剥離するため、培養容器底面に温度感受性基材や光感受性基材を形成することが検討されている(特許文献1〜4)。
【0003】
しかしながら、これらいずれの方法も、細胞へのダメージを低減することはできるものの、新たな培養工程を要するなど、生産性に劣るものであった。このほか、スクレイパーなどを用いて細胞を物理的に培養容器底面から剥がす方法も行われているが、細胞の受けるストレスが大きすぎることが懸念されている。
【0004】
ところで、特許文献5には、シクロオレフィン樹脂製容器による細胞培養では、ポリスチレン製容器を用いた場合と比べて、細胞の増殖性が向上することが報告されている。実施例においては、抗CD3抗体やレトロネクチンなどのタンパク質をコートした環境下で、接着型細胞ではない血球系細胞の増殖性が向上していることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−025335号公報
【特許文献2】特開2016−013111号公報
【特許文献3】特開2016−079268号公報
【特許文献4】特開2012−044905号公報
【特許文献5】特開2008−048653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、細胞へのダメージを極力抑えて、培養容器に接着して形成された細胞シートを培養容器から容易に剥離させることができる、細胞シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、培養容器として脂環構造含有重合体製の培養容器を用いると、キレート剤を細胞剥離剤として用いるだけで、培養容器に接着して増殖した細胞を、シート状に容易に剥がして回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の細胞シートの製造方法は、液体培地が入った培養容器内で、当該培養容器の培養面に接着した細胞を、前記培養面でシート状になるまで増殖させ、増殖させた前記シート状の細胞を、タンパク質分解酵素を含まず、少なくともキレート剤を含む剥離液により、前記培養面から剥離する細胞シートの製造方法であって、前記培養容器のうち、少なくとも前記培養面が脂環構造含有重合体で形成されていることを特徴とする。
培養面が脂環構造含有重合体で形成されている培養容器であれば、キレート剤を含む剥離液を使用するだけで、培養面に接着した細胞をシートの状態で容易に剥離させることができる。そのため、生産性を低下させることなく、細胞シートを剥離して回収することができる。また、スクレイパーなどの器具やタンパク質分解酵素を使用しないため、細胞へのダメージを極力低減できる。
【0009】
また、本発明の細胞シートの製造方法は、前記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸であることが好ましい。キレート剤の中でも、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を剥離剤に用いると、細胞シートの剥離性が特に良好となるためである。
【0010】
さらに、本発明の細胞シートの製造方法は、前記培養容器の培養面の水接触角が、85°以上110°以下であることが好ましい。水接触角が85°以上110°以下であれば、細胞シートの剥離性が特に良好となるためである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の細胞シートの製造方法によれば、細胞へのダメージを極力抑えて、培養容器に接着して形成された細胞シートを培養容器から容易に剥離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】細胞が、シート状に外周から剥離している様子を示す写真である。
図2】細胞が、シート状に外側から剥離している様子を示す写真である。
図3】細胞が、シート状に外側から剥離している様子を示す写真である。
図4】細胞が、シート状に外側から剥離している様子を示す写真である。
図5】細胞シートをOil Red染色した写真である。
図6】細胞シートをAlizarin Red染色した写真である。
図7】細胞シートをAlcian Blue染色した写真である。
図8】細胞が、シート状に外側から剥離している様子を示す写真である。
図9】培養容器から剥離して別の培養容器に移した細胞シートの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(細胞の培養方法)
本実施形態においては、細胞を懸濁させた培地を培養容器内に移し、培養容器を静置して、細胞を培養容器に接着させて培養する。細胞を接着させてシートを形成する部分は、例えば、培養容器の底面が挙げられるが、細胞が接着して増殖できればどのような面や部位であってもよく、これに限定されない。
<細胞>
細胞は、培養容器に接着して増殖するものであれば良く、目的に応じて任意に選択することができる。好ましい細胞としては、脂肪幹細胞(ASC)、骨髄幹細胞(MSC)、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞などの組織幹細胞(成体幹細胞、体性幹細胞とも言う);軟骨細胞;骨芽細胞;毛乳頭細胞;などが挙げられる。
【0014】
<液体培地>
液体培地を用いて、上記細胞を培養する。
液体培地としては、通常、pH緩衝作用があり、浸透圧が細胞に好適なものであり、細胞の栄養成分を含み、かつ、細胞に対して毒性がないものが用いられる。
液体培地にpH緩衝作用を付与する成分としては、トリス塩酸塩、各種リン酸塩、各種炭酸塩等が挙げられる。
液体培地の浸透圧調整は、通常、細胞の浸透圧とほぼ同じになるように、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、グルコース等の濃度を調整した水溶液を用いて行われる。かかる水溶液としては、具体的には、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等の生理食塩水;乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等のリンゲル液;等が挙げられる。
細胞の栄養成分としては、アミノ酸、核酸、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
液体培地としては、市販の、各種細胞に好適な培地を利用することができる。
【0015】
<添加剤>
液体培地には、添加剤を配合することもできる。
用いる添加剤としては、ペプチド;ミネラル;金属;ビタミン成分;細胞表面の受容体に作用する、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト;核内受容体の、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト;コラーゲンやファイブネクチンなどの細胞外マトリックス;細胞外マトリックスの一部分あるいは、細胞外マトリックスを模擬した化合物;細胞内の情報伝達経路に関わるタンパク質に作用する成分;細胞内の1次代謝または2次代謝の酵素に作用する成分;細胞内の核内またはミトコンドリア内の遺伝子の発現に影響を与える成分;等が挙げられる。
これらの添加剤は、一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができ、細胞の増殖を促進させる、所定の細胞に分化誘導する、といった目的に応じて添加される。
【0016】
<細胞の培養条件>
細胞の培養条件は特に限定されず、用いる細胞や目的に応じて適宜決定することができる。例えば、二酸化炭素濃度が5%程度で、温度が20℃〜37℃の範囲で一定に維持された、加湿された恒温器を用いて細胞を培養することができる。
【0017】
(培養容器)
本実施形態において、培養容器は、脂環構造含有重合体を任意の形状に成形してなるものである。なお、本発明においては、培養容器のうち、少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で形成されていればよい。
脂環構造含有重合体は、主鎖および/または側鎖に脂環構造を有する樹脂であり、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環構造を含有するものが好ましい。
【0018】
<脂環構造>
脂環構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
【0019】
脂環構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。脂環構造を構成する炭素原子数がこの範囲内であるときに、機械的強度、耐熱性、および成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0020】
脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと耐熱性に劣り好ましくない。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0021】
<脂環構造含有重合体>
脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、および、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体が好ましい。
【0022】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
【0023】
開環重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、並びにこれらの水素化物などが挙げられる。
付加重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の付加重合体およびノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体などが挙げられる。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体、および当該付加重合体の水素添加物などの飽和ノルボルネン系重合体が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましく、細胞の剥離のしやすさから、とりわけ官能基を有しないものが好ましい。ここで、官能基とは、炭素及び水素以外の原子を有する原子又は原子団のことをいう。官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0024】
ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環式単量体;トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、2−メチルジシクロペンタジエン、2,3−ジメチルジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロキシジシクロペンタジエン等の3環式単量体;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8,9−ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチル−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデン−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4−メタノ−8−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−クロロ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−ブロモ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン等の4環式単量体;等が挙げられる。
【0025】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,4−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、1,5−シクロデカジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1,5,9,13−シクロヘキサデカテトラエン等の単環のシクロオレフィン系単量体が挙げられる。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0026】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜20のα−オレフィン系単量体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンとも言う)等のシクロオレフィン系単量体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等の非共役ジエン系単量体;等が挙げられる。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、α−オレフィン系単量体が好ましく、エチレンがより好ましい。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0027】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0028】
ノルボルネン系単量体の付加重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体は、単量体成分を、公知の付加重合触媒の存在下で重合して得ることができる。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
【0029】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体などが挙げられる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体およびその水素化物などが挙げられる。
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体およびその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられる。
ビニル脂環式炭化水素重合体は、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
これらの脂環構造含有重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
脂環構造含有重合体の分子量に格別な制限はないが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常5,000以上であり、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは8,000〜200,000、特に好ましくは10,000〜100,000である。重量平均分子量がこの範囲内であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
【0031】
脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50〜300℃、好ましくは100〜280℃、特に好ましくは115〜250℃、さらに好ましくは130〜200℃である。ガラス転移温度がこの範囲内であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。なお、上記脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
【0032】
脂環構造含有重合体には、熱可塑性樹脂材料で通常用いられている配合剤、例えば、軟質重合体、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などの配合剤を、通常採用される量で添加することができる。
また、脂環構造含有重合体には、軟質重合体以外のその他の重合体(以下、単に「その他の重合体」という)を混合しても良い。脂環構造含有重合体に混合されるその他の重合体の量は、脂環構造含有重合体100重量部に対して、通常200重量部以下、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
脂環構造含有重合体に対して配合する各種配合剤やその他の重合体の割合が多すぎると細胞が浮遊し難くなるため、いずれも脂環構造含有重合体の性質を損なわない範囲で配合することが好ましい。
【0033】
脂環構造含有重合体と、配合剤やその他の重合体との混合方法は、ポリマー中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。また、配合順序に格別な制限はない。混合方法としては、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などを用いて樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させた後、凝固法、キャスト法、または直接乾燥法により溶剤を除去する方法などが挙げられる。二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
【0034】
<培養容器の成形>
培養容器の成形方法は、培養容器の形状に応じて任意に選択することができる。成形方法の具体例としては、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形法、圧縮成形法、回転成形法、カレンダー成形法、圧延成形法、切削成形法、紡糸等が挙げられ、これらの成形法を組み合わせたり、成形後必要に応じて延伸等の後処理をすることもできる。
【0035】
また、培養容器は、少なくとも細胞が接着する面、すなわち培養面が脂環構造含有重合体成形体で構成されたものであればよく、培養容器の全体が脂環構造含有重合体で形成されたものでなくてもよい。
つまり、培養容器は、脂環構造含有重合体成形体を構成部材の一部として含む容器であってもよいし、脂環構造含有重合体成形体で全体が構成された容器であってもよいし、脂環構造含有重合体成形体と他の重合体成形体との積層体で構成された容器であってもよい。
【0036】
細胞が接着して増殖する培養面を形成する脂環構造含有重合体成形体の形状に格別な制限はなく、板状、シート状などが挙げられ、また、その表面は平らであっても、凹凸形状を有していてもよい。
培養容器の形状としては、ディッシュ、プレート、バッグ、チューブ、スキャホールド、カップ、ジャー・ファーメンターなどが挙げられる。
【0037】
<培養容器の滅菌処理>
培養容器は、細胞培養に使用する前に滅菌処理を施すことが好ましい。
滅菌処理の方法に格別な制限はなく、高圧蒸気法や乾熱法などの加熱法、γ線や電子線などの放射線を照射する放射線法、高周波を照射する照射法、酸化エチレンガス(EOG)などのガスを接触させるガス法、滅菌フィルタを用いる濾過法など、医療分野で一般的に採用される方法から、培養容器の形状や用いる細胞に応じて、選択することができる。なかでも、表面状態の変化が少ないことから、ガス法が好ましい。
【0038】
<培養面の表面処理>
また、細胞が接着して増殖する培養面の表面は、プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理、紫外線照射処理など、細胞の接着を促すために容器内面に親水性を付与する目的で一般的に施す親水化処理を行うこともできる。ただし、これらの表面処理操作を施すことにより発生する費用を抑えることができること;表面処理に伴う形成体表面の部分分解により清浄性が損なわれるおそれがあること;細胞シートの剥離性が低下するおそれがあること(即ち、後述の水接触角の範囲を維持できなくなること);などの理由から、親水化処理を実質的に行わないことが好ましい。
【0039】
<培養面の水接触角>
細胞が接着して増殖する培養面の水接触角は、85°以上110°以下であることが好ましく、85°以上105°以下であることがより好ましく、85°以上100°以下であることが特に好ましい。ここで、水接触角は、公知の全自動接触角計(例えば、協和界面科学社製「LCD−400S」)を用い、測定する面を直径30mmのサークルカッターで切り取って、試料の中心と、そこを中央とする1辺20mmの正方形の頂点4か所の計5か所を測定点とし、液滴の半径rと高さhを求め、tanθ=h/r、θ=2θ→θ=2arctan(h/r)で求められるθである(θ/2法)。
【0040】
(細胞シートの剥離)
細胞シートを培養容器から剥離するためには、培養容器の培養面から細胞シートを剥がすことを要する。上記培養面で形成された細胞シートは、タンパク質分解酵素を必要とせず、少なくともキレート剤を含む剥離液の添加で剥離可能である。キレート剤の中でも、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を剥離剤に用いると、細胞シートの剥離性が特に良好となる。また、培養容器の培養面が上述した水接触角を有していると、細胞の剥離性がさらに良好となる。細胞シートを容器から剥離するにあたっては、タンパク質分解酵素も、細胞に直接力を与えるスクレイパーなどの器具も必要としない。
<細胞シート>
培養面のほぼ全面に細胞を増殖させる、即ち90%コンフルエント以上、好ましくは95%コンフルエント以上、より好ましくは100%コンフルエントまで培養を継続し、細胞がシート状となるようにする。100%コンフルエントを超えて細胞を培養することは、細胞の死滅を促進するため好ましくない。
【0041】
<剥離液>
剥離液は、キレート剤の他、キレート剤を希釈する目的で、生理食塩水やPBS等の緩衝液を含むこととしてもよいが、トリプシンのようなタンパク質分解酵素は含まない。剥離液に含まれるキレート剤の濃度は、0.1〜10mMが好ましい。より好ましくは、0.5〜5mMである。
剥離液に含まれるキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などのアミノカルボン酸系キレート剤が好適な例として挙げられる。これらの中でも、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が細胞シートの剥離性の良さから好ましい。
キレート剤を含む剥離液と細胞シートとの接触時間は、通常1〜20分間、好ましくは1〜15分間、より好ましくは1〜10分間である。
キレート剤を含む剥離液と細胞シートとの接触時の温度に格別な制限はないが、細胞の生存率や作業性を考慮して任意の温度を設定することができる。通常15〜37℃、好ましくは10〜25℃である。
キレート剤を含む剥離液と接触した細胞は、次第に外周から剥がれてくるが、容器の外周に沿ってピペッターのチップで細胞をこすることで、均一に剥がすことができる。これを培養面、例えば、シャーレ底面の直径より小さな円形のポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのプラスチック製膜や幅広のスパーテルなどの治具ですくい取る;ピンセットで挟んで取る;などして、回収することができる。回収方法は、膜の厚み、形状、その他の性状を勘案して選択することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
脂環構造含有重合体として、ノルボルネン系開環重合体水素化物〔日本ゼオン社製;ゼオノア(登録商標)1060R〕を用いて、射出成形法により、内径10cmのシャーレ状の培養容器を得た。以下、この培養容器を「1060R製ディッシュ」という。次いで、得られた培養容器のエチレンオキサイド滅菌処理を行った。1060R製ディッシュの底面(細胞と接触する側)の水接触角は、90°であった。
10mLのイスコブ変法ダルベッコ培地(ナカライテスク社製;以下、「IMDM」という。)に懸濁した脂肪由来幹細胞(ASC)を、20%コンフルエントになるように1060R製ディッシュに播種し、5%CO雰囲気37℃の条件で培養し、12時間後に2%ウシ胎児血清(FBS)を添加した脂肪由来幹細胞培養用培地(コスモ・バイオ社製;カタログ番号KBM ADSC−2)とIMDMとの混合培地に交換した。その後、引き続き5%CO雰囲気37℃の条件で100%コンフルエントな状態になるまで培養した。培養容器内の培養液を吸引除去し、生理食塩水で洗浄した後、1mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)含有生理食塩水5mLを添加し、10〜20分間静置したところ、外周から細胞がシート状に剥離してきたことを確認した。外周から細胞がシート状に剥離している様子の写真を図1に示す。周辺部は、白く剥離してきた細胞シートであり中央部は、まだ容器底面に接着している領域である。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様にして80%〜100%コンフルエント状態にまで培養したASCの培地を、脂肪細胞分化培地(DSファーマバイオメディカル社製、型番BBDM2)、骨芽細胞分化培地(DSファーマバイオメディカル社製、型番BBOB1)及び軟骨細胞分化培地(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社製、StemPro Chondrogenesis differentation Kit;型番A10070−01)に交換して、以後、3〜4日置きに新しい培地に交換して、2週間培養し分化誘導を行った。
分化誘導した各種細胞シートを上記の方法、即ち、1mM EDTA含有生理食塩水5mLを添加し、10〜20分間静置すると、図2〜4の写真に示されるように、細胞がシート状に剥離し始めたことを確認した。図2の写真(64×)では、脂肪細胞へと分化誘導された細胞が、シート状に外側から剥離し始めている。図3の写真(64×)では、骨芽細胞へと分化誘導された細胞が、シート状に外側から剥離し始めている。図4の写真(64×)では、軟骨細胞へと分化誘導された細胞が、シート状に外側から剥離し始めている。
【0044】
剥離途中の上記細胞シートのそれぞれを、4%中性ホルマリンで10分間固定し、蒸留水で洗浄後、脂肪細胞分化培地による培養で得られた細胞シートをOil Red染色、骨芽細胞分化培地による培養で得られた細胞シートをAlizarin Red染色、軟骨細胞分化培地による培養で得られた細胞シートをAlcian Blue染色により、染色した。図5の写真(160×)では、脂肪細胞へと分化誘導された細胞が油滴を形成し、細胞のシートがOil Redで赤く染色されている。図6の写真(64×)では、骨芽細胞へと分化誘導された細胞のシートがAlizarin Redで赤く染色されている。図7の写真(64×)では、軟骨細胞へと分化誘導された細胞のシートがAlcian Blueで青く染色されている。
この結果から、いずれも、各分化誘導培地に対応した目的の細胞にそれぞれ分化誘導され、これらの分化した細胞からなるシートが得られたことがわかった。
【0045】
(実施例3)
1060R製内径6cmディッシュに軟骨から分離した軟骨細胞を播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)添加ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地を用いたこと以外は、実施例1と同様に100%コンフルエントまで培養し、1mM EDTAで同様に処理した。図8の写真(64×)に示されるように、軟骨細胞がシート状に剥離し始めた。図9の写真に示されるように、実施例1で用いたものと同じ内径10cmの1060R製ディッシュに剥離した細胞シートを移動させることができた。
【0046】
(比較例1)
1060R製ディッシュの代わりに、市販の接着細胞用ディッシュ(TruLine社製;型番TR4002;直径10cm;ポリスチレン製)としたこと以外は、実施例1と同様にASCを培養した。培養容器内の培養液を吸引除去し、生理食塩水で洗浄した後、1mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)含有生理食塩水5mLを添加し、10分間静置したが、細胞シートは剥がれてこなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の細胞シートの製造方法によれば、細胞へのダメージを極力抑えて、培養容器に接着して形成された細胞シートを培養容器から容易に剥離させることが可能な細胞シートの製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9