【実施例】
【0030】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0031】
(1)ガラス転移温度(Tg)
厚さ4mm、直径3mmの試験片を、示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製EXSTAR6000 DSC6200)を用いて、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値よりガラス転移温度を計算した。
(2)透明性及び黄色変色性
厚さ4mm、幅40mm、長さ40mmの試験片5枚を、目視により判定した。透明性の評価は次のとおり。○:濁りなし、△:一部に非相溶部を確認、×:相溶せず。黄色変色性評価は次のとおり。○:変色なし、△:やや変色を認める、×:黄色変色。
(3)熱膨張係数(CTE)
厚さ4mm、幅7mm、長さ7mmの試験片を、熱機械測定装置(セイコーインスツル製TMA120C)を用いて、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲で測定し、50℃〜100℃の線膨張率を測定した。
(4)ゲル分率(Gel)
未架橋成形体1gをテトラヒドロフラン100gに室温にて溶解したときに、溶解されずに残存している部分をゲルとし、このゲル部分の重量と溶剤で溶かす前の重量との比(百分率)を求めた。ゲル分率が100%に近いほど架橋(硬化)が進んでいることを示し、完全に溶解した場合はゲル分率が0%となる。
【0032】
実施例及び比較例で使用した、フェノキシ樹脂、架橋剤、エポキシ樹脂、及び硬化促進剤は以下の通りである。当量の単位は、g/eqである。
【0033】
1.フェノキシ樹脂
(a-1):フェノトートYP-50S(新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールAタイプ、Mw=40,000、水酸基当量=284)
(a-2):フェノトートYP-70(新日鉄住金化学社製ビスフェノールA・ビスフェノールF共重合タイプ、Mw=41,000、水酸基当量=270)
【0034】
2.架橋剤
(b-1):4,4'-オキシジフタル酸無水物(酸無水物当量=155、融点=225℃)
(b-2):4,4'-ビフタル酸無水物(酸無水物当量=147、融点=299℃)
(b-3):1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン(酸無水物当量=150、融点=198℃)
(b-4):1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(酸無水物当量=99、融点=260℃)
(b-5):水添トリメリット酸無水物(酸無水物当量=99、融点=155℃)
(b-6):水添ピロメリット酸無水物(酸無水物当量=112、融点=299℃)
(b-7):無水ヘキサヒドロフタル酸(酸無水物当量=154、融点=33℃)
【0035】
3.エポキシ樹脂
(d-1):YSLV-80DE(新日鉄住金化学株式会社製ジフェニルエーテルタイプ、エポキシ当量=163、融点=83℃)
(d-2):YSLV-80XY(新日鉄住金化学株式会社製テトラメチルビスフェノールFタイプ、エポキシ当量=192、融点=72℃)
(d-3):YSLV-120TE(新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールスルフィドタイプ、エポキシ当量=245、融点=118℃)
(d-4):エポトートYDC-1312(新日鉄住金化学株式会社製ハイドロキノンタイプ、エポキシ当量=176、融点=138℃)
(d-5):エポトートYD-011(新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールAタイプ、エポキシ当量=475、軟化点=65℃)
【0036】
4.硬化促進剤
(e-1):2−フェニルイミダゾール
【0037】
実施例1〜11
フェノキシ樹脂、架橋剤、エポキシ樹脂、硬化促進剤を、それぞれ粉砕、篩分けし、100メッシュパスの粉砕品を、表1に示す割合(質量部)でドライブレンドした後、東洋精機製ラボプラストミル30mm径の二軸混練機で150〜250℃で10〜30分の温度条件で加熱混練押出して、ペレット状のフェノキシ樹脂組成物を得た。得られたペレット状のフェノキシ樹脂組成物を4mmのスペーサーを挟んだ鉄板を用いて、プレス成形機により180〜280℃、0.1〜4.9MPaの条件で15分間プレス成形し、4mm厚平板状の未架橋成形体を得た。得られた未架橋成形体の一部を使用してゲル分率を測定した。得られた未架橋成形体を更に180〜280℃、30〜60分間加熱して架橋・硬化させて、架橋フェノキシ樹脂成形体を得た。得られた架橋フェノキシ樹脂成形体を決められた寸法にそれぞれ加工して各評価用の試験片を得た。得られた試験片を用いて、ガラス転移温度、透明性、黄色変色性を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
比較例1
フェノキシ樹脂としてフェノトートYP−50Sを用いた。これを4mmのスペーサーを挟んだ鉄板を用いて、プレス成形機により180℃、0.1〜4.9MPaの条件で15分間プレス成形し、4mm厚平板状の未架橋成形体を得た。得られた未架橋成形体を決められた寸法にそれぞれ加工して各評価用の試験片を得た。
【0039】
比較例2
フェノキシ樹脂と架橋剤とメチルエチルケトン(MEK)をサンプル管の中に所定量計量し、自転・公転ミキサーを用いて30分間室温で混合し、均一なフェノキシ樹脂組成物ワニスを得た。このワニスをプレス成形したところ、溶剤の離散に伴う発泡が起こり、均一な成形体を得ることは出来なかった。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例12〜13
フェノキシ樹脂、架橋剤、エポキシ樹脂、硬化促進剤を、それぞれ粉砕、篩分けし、100メッシュパスの粉末とした。この粉末を、表2に示す割合(質量部)でドライブレンドしてフェノキシ樹脂組成物とした後、実施例1〜11と同様の操作を行い、各評価用の試験片を得た。得られた試験片を用いて、ガラス転移温度、熱膨張係数、透明性、黄色変色性を評価した。結果を表2に示す。
【0042】
実施例14
比較例2で得られたフェノキシ樹脂組成物ワニスを180℃、0.2kPaに設定した真空オーブン中に120分間保持し、溶剤を完全に除去し、フェノキシ樹脂組成物の塊を得た。得られたフェノキシ樹脂組成物の塊を粉砕、篩分けし、100メッシュパスの粉末とした。この粉末を使用して実施例1〜11と同様の操作を行い、各評価用の試験片を得た。
【0043】
比較例3
比較例1と同様の操作を行い、各評価用の試験片を得た。得られた試験片を用いて、ガラス転移温度、熱膨張係数、透明性、黄色変色性を評価した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例15、比較例4
実施例12で得られたフェノキシ樹脂組成物と比較例2で得られたフェノキシ樹脂組成物ワニスをそれぞれ25℃の恒温室に7日間、14日間保管した後の状態を目視で観察した。実施例12で得られたフェノキシ樹脂組成物は14日間後でも目視で変化が認められなかったが、比較例2で得られたフェノキシ樹脂組成物ワニスは7日間後で濁りが確認でき、14日後では不溶解物の沈殿が認められた。目視で変化が認められなかった実施例12で得られたフェノキシ樹脂組成物の保管品をそれぞれ、実施例1〜11と同様の操作を行い、各評価用の試験片を得た。得られた試験片を用いて、ガラス転移温度、熱膨張係数、透明性、黄色変色性を評価した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
本発明のフェノキシ樹脂組成物は、耐熱性を向上させることができ、また、未架橋成形体の形状を維持したまま、さらに加熱することによって架橋密度が上昇することが確認できた。また、特定の架橋剤(脂肪族酸無水物)を用いることにより透明性や変色防止を確保できることが確認された。更に、機械的特性を向上させることや、光を照射することによって架橋密度が上昇することも期待できる。