特開2018-204949(P2018-204949A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧
<>
  • 特開2018204949-鋼材の耐水素脆化特性評価方法 図000004
  • 特開2018204949-鋼材の耐水素脆化特性評価方法 図000005
  • 特開2018204949-鋼材の耐水素脆化特性評価方法 図000006
  • 特開2018204949-鋼材の耐水素脆化特性評価方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-204949(P2018-204949A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】鋼材の耐水素脆化特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20181130BHJP
   C25B 1/04 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
   G01N17/00
   C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-106282(P2017-106282)
(22)【出願日】2017年5月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】上庄 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】三輪 貴志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正満
(72)【発明者】
【氏名】澤田 孝
【テーマコード(参考)】
2G050
4K021
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA04
2G050BA12
2G050CA04
2G050DA02
2G050EB03
2G050EC05
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
(57)【要約】
【課題】早期の破断やこの頻度を考慮した鋼材の耐水素脆化特性の評価ができるようにする。
【解決手段】第1工程S101で、鋼材からなる複数の試料に陰極チャージ法で水素をチャージし、第2工程S102で、複数の試料に水素をチャージしている状態で引張試験を行い、第3工程S103で、引張試験により試料が破断する破断時間を各々求め、第4工程S104で、複数の試料について各々求めた破断時間の分布をワイブル分布に当てはめ、形状パラメータmと位置パラメータγを求める。この後、第5工程S105で、当てはめたワイブル分布の形状パラメータおよび位置パラメータにより鋼材の耐水素脆化特性を評価する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなる複数の試料に陰極チャージ法で水素をチャージする第1工程と、
前記複数の試料に水素をチャージしている状態で前記複数の試料について各々引張試験を行う第2工程と、
引張試験により前記複数の試料が破断する破断時間を各々求める第3工程と、
前記複数の試料について各々求めた破断時間の分布をワイブル分布に当てはめる第4工程と、
当てはめたワイブル分布の形状パラメータおよび位置パラメータにより前記鋼材の耐水素脆化特性を評価する第5工程と
を備えることを特徴とする鋼材の耐水素脆化特性評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の耐水素脆化特性評価方法において、
前記第1工程では、試料々を電解質水溶液に浸漬し、電解質水溶液に浸漬している試料に負電位を印加して試料の表面に水素を発生させることで試料に水素をチャージし、
前記第2工程では、試料に負電位を印加して試料の表面に水素を発生させている状態で試料の引張試験を行う
ことを特徴とする耐水素脆化特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材における耐水素脆化を評価する鋼材の耐水素脆化特性評価方法。
【背景技術】
【0002】
高張力鋼などの高強度鋼材は、水素を含むと延性が失われ、強度が著しく低下する。この現象は、水素脆化と呼ばれている(非特許文献1参照)。このような鋼材の水素脆化に関し、この状態を評価する水素脆化特性評価方法がある。例えば、鋼材に一定の引張応力を付与(定荷重試験)しながら鋼材中に水素チャージし、鋼材の破断時間を測定することで評価する方法が広く用いられている(非特許文献を参照)。なお、水素チャージは、酸性溶液に浸漬させる方法や、電解質溶液に浸漬させて負電位を印加する陰極チャージ法などが用いられる(非特許文献3参照)。
【0003】
また、耐水素脆化特性の評価方法には、耐水素脆化試験により測定した破断時間を比較する方法が広く用いられている。水素脆化による破断時間は、一般的に大きくばらつくことが知られており、複数の試料を試験したうえで、破断時間の平均値や中央値などを代表値とし、各高強度鋼材の耐水素脆化特性の比較・評価が行われている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】白神 哲夫、「鉄鋼材料における水素脆化」、材料と環境、vol.60、No.5、236−240頁、2011年。
【非特許文献2】20%チオシアン酸アンモニウム溶液中でのPC鋼材の水素脆化試験方法、社団法人 腐食防食協会、JSCE S 1201、2012年。
【非特許文献3】漆原 亘 他、「自動車用材料特集 解説 SSRTによる高強度鋼の遅れ破壊評価」、神戸製鋼技報、vol.52、no.3、2002年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、構造物に用いられる鋼材のように、製品の故障(破断)が重大事故につながりやすいものにおいては、早期に破断する場合の破断時間やこの頻度が、安全性評価の重要な指標となる。しかし、破断時間の平均値や中央値を用いた従来の評価方法では、破断時間の分布を全く考慮することができておらず、早期の破断やこの頻度を考慮した鋼材の耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、早期の破断やこの頻度を考慮した鋼材の耐水素脆化特性の評価ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鋼材の耐水素脆化特性評価方法は、鋼材からなる複数の試料に陰極チャージ法で水素をチャージする第1工程と、複数の試料に水素をチャージしている状態で複数の試料について各々引張試験を行う第2工程と、引張試験により試料が破断する破断時間を各々求める第3工程と、複数の試料について各々求めた破断時間の分布をワイブル分布に当てはめる第4工程と、当てはめたワイブル分布の形状パラメータおよび位置パラメータにより鋼材の耐水素脆化特性を評価する第5工程とを備える。
【0008】
上記耐水素脆化特性評価方法において、第1工程では、試料を電解質水溶液に浸漬し、電解質水溶液に浸漬している試料に負電位を印加して試料の表面に水素を発生させることで試料に水素をチャージし、第2工程では、試料に負電位を印加して試料の表面に水素を発生させている状態で試料の引張試験を行う。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、複数の試料について各々求めた破断時間の分布をワイブル分布に当てはめ、このワイブル分布の形状パラメータおよび位置パラメータにより鋼材の耐水素脆化特性を評価するようにしたので、早期の破断やこの頻度を考慮した鋼材の耐水素脆化特性の評価ができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態における鋼材の耐水素脆化特性評価方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は、実施の形態における評価方法を実施するために用いる実験装置の構成を示す断面図である。
図3図3は、数の試料について各々求めた破断時間の分布より、ワイブル分布の形状パラメータmと位置パラメータγを求める方法を説明するための説明図である。
図4図4は、実施した実験の結果により得られた12個の試料の各破断時間をワイブル分布に当てはめた結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態における鋼材の耐水素脆化特性評価方法ついて図1を参照して説明する。
【0012】
まず、第1工程S101で、鋼材からなる複数の試料に陰極チャージ法で水素をチャージする。次に、第2工程S102で、複数の試料に水素をチャージしている状態で複数の試料について各々引張試験を行う。例えば、引張試験の定荷重には、鋼材の引張強度の0.7倍の応力を採用する。
【0013】
例えば、図2に示す装置を用いて上述した第1工程および第2工程を実施すればよい。この装置は、アクリル樹脂などから構成された容器201と、同様にアクリル樹脂から構成された蓋202と、容器201に収容された電解質溶液203とを備える。電解質溶液203は、例えば1mol/Lの炭酸水素ナトリウム水溶液である。また、この装置は、電解質溶液203中に配置された参照電極204,対極205を備える。参照電極204は、例えば、Ag/AgCl(銀塩化銀)電極であり、対極205は、Pt電極である。また、試料となる鋼材206は、容器201の底部から蓋202を貫通して電解質溶液203に接触する状態とされている。
【0014】
鋼材206は、直径7mm、長さ500mmの断面視円形の棒状としている。また、鋼材206が電解質溶液203に接触している領域の長さは、150mmである。なお、容器201の底部の鋼材206が貫通する部分は、電解質溶液203が漏れないようにシールされている。
【0015】
この状態で、ポテンショスタット(不図示)を用い、鋼材206を作用極とし、参照電極204および対極205を用いた3極構成で、鋼材206に、参照電極204に対して負の電位(−1Vvs.SSE)を印加する。なお、この条件は、電解質溶液203に触れている鋼材206の表面が、腐食しない電気化学条件である。このように陰極チャージすることで、鋼材206の表面に水素を発生させる。これにより、鋼材206に水素が吸蔵(吸収)する状態となる。このように、陰極チャージ法により、試料となる鋼材の表面に水素を発生させて水素が鋼材に吸蔵される状態で、試料の引張試験を行う。
【0016】
次に、第3工程S103で、引張試験により試料が破断する破断時間を各々求める。次に、第4工程S104で、複数の試料について各々求めた破断時間の分布をワイブル分布に当てはめ、形状パラメータmと位置パラメータγを求める。γを求める方法は、例えば、図3に示すように、横軸にln(t−γ)、縦軸にln{ln(1/R)}をとって、γの値を任意に変化させて試験結果をプロットし、最小二乗法により直線近似した際の決定係数が最小となるようにγを求めれば良い。tは、破断時間である。また、Rは累積破断確率である。
【0017】
図3は、γ=0とすると、白四角で示すように試験結果がプロットされ、γ=0.36とすると、白丸で示すように試験結果がプロットされる場合を示している。図3に示されているように、γ=0.36の場合、プロットはほぼ直線状に並び、最小二乗法により直線近似した際の決定係数が最小となることが分かる。また、mを求める方法は、例えば上記の方法で試験結果を直線近似した直線の傾きの大きさをmの値とすれば良い。
【0018】
この後、第5工程S105で、当てはめたワイブル分布の形状パラメータおよび位置パラメータにより鋼材の耐水素脆化特性を評価する。上述したように求めたmとγの値により高強度鋼材の耐水素脆化特性を評価する。形状パラメータmは、値が小さいほど早期に破断する頻度が高いことを表しており、位置パラメータγはγ未満の時間では破断確率が0であり、γの値が最短破断時間とみなすことができることを表している。mの値が小さければ早期に破断する頻度が高いことから、mの値が小さいものほど耐水素脆化特性は悪いと評価することができ、γの値が小さければ最短破断時間が短いことから、γの値が小さいものほど耐水素脆化特性は悪いと評価することができる。
【0019】
次に、実際に実施した実験の結果について説明する。実験では、鋼材Aと鋼材Bとについて、実施の形態における鋼材の耐水素脆化特性評価方法を実施した。また、実験では、各々について、12個の試料を作製し、以下の表1に示すように、各々の破断時間を求めた。表1に示すように、鋼材Aおよび鋼材Bの平均値および中央値を比較すると、いずれも鋼材Aの方が鋼材Bよりも小さい。この結果より、従来の評価方法では、鋼材Aの方が耐水素脆化特性は悪いと判定される。
【0020】
【表1】
【0021】
次に、各々の破断時間をワイブル分布に当てはめると、図4に示すように、白丸で示す鋼材Aはm=0.68、γ=0.36隣、白四角で示す鋼材Bは、m=0.49、γ=0.18となる。形状パラメータmおよび位置パラメータγのいずれも、鋼材Bの方が鋼材Aよりも小さく、本発明の評価方法によると鋼材Bの方が耐水素脆化特性は悪いと判定される。破断時間の測定結果を見ると、鋼材Bの方が早期に破断する場合の破断時間が短く、早期に破断する頻度が高いことから、本発明による評価方法では早期の破断やその頻度を考慮した評価が可能となっている。
【0022】
以上に説明したように、本発明によれば、複数の試料について各々求めた破断時間の分布をワイブル分布に当てはめ、このワイブル分布の形状パラメータおよび位置パラメータにより鋼材の耐水素脆化特性を評価するようにしたので、早期の破断やこの頻度を考慮した鋼材の耐水素脆化特性の評価ができるようなる。本発明によれば、これまで困難であった破断時間の分布を考慮した耐水素脆化特性の評価を行うことができる。
【0023】
発明者らの鋭意の検討の結果、上記の耐水素脆化試験によって得られた破断時間の分布をワイブル分布に当てはめると、形状パラメータm<1、位置パラメータγ>0のワイブル分布に良く適合することを見出した。通常、ワイブル分布を利用した解析は、将来の寿命予測や故障モードの分類などを目的として用いられるが、本発明では各パラメータの性質を利用し、高強度鋼材の耐水素脆化特性の評価にmとγを用いることとした。
【0024】
ワイブル分布におけるγは、物理的意味が不明確な場合はγ=0とする場合が多いが、定荷重試験における水素脆化の場合は、水素が高強度鋼材中に侵入して破断に至るまでの間に時間遅れが生じることが知られており、γはこの時間遅れの最小値を表していると考えられる。この知見は、γ>0であることは従来の知見とも矛盾がない。γの物理的意味が不明確な場合は、評価指標として不適当であるが、水素脆化の破断時間をワイブル分布に当てはめる場合においては、γの物理的意味が比較的明確である。従って、耐水素脆化特性の評価指標としてγの値を用いることができると考えられる。
【0025】
最短破断時間は、γの値ではなく試験結果の最小値を用いても推定することができるが、最小値のみを用いた推定では試験数が少ないときに真の最短破断時間との誤差が大きくなる可能性がある。また、推定値は、必ず真の破断時間以上の値となるため、危険側の評価となってしまう。一方、γの値を用いる場合は、試験結果の最小値のみではなく全てのデータを利用して破断確率が0ではなくなる時間を求めることができるため、最小値のみを用いた推定に比べてより正確に最短破断時間を推定することができる。また、推定値は試験によって得られた最小値よりも必ず小さくなるため、より安全側の評価とすることができる。
【0026】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0027】
201…容器、202…蓋、203…電解質溶液、204…参照電極、205…対極、206…鋼材。
図1
図2
図3
図4