特開2018-205124(P2018-205124A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2018-205124腐食速度測定装置及び腐食速度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-205124(P2018-205124A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】腐食速度測定装置及び腐食速度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20181130BHJP
   G01N 17/02 20060101ALI20181130BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20181130BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
   G01N27/26 351A
   G01N17/02
   G01N27/26 351F
   G01N27/26 351P
   G01N27/00 L
   G01N27/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-110923(P2017-110923)
(22)【出願日】2017年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】大木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】峯田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】水沼 守
(72)【発明者】
【氏名】東 康弘
【テーマコード(参考)】
2G050
2G060
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA08
2G050CA04
2G050EA10
2G050EB04
2G050EB06
2G060AA10
2G060AA14
2G060AE28
2G060AF02
2G060AF03
2G060AF07
2G060HC13
2G060HE01
2G060HE03
(57)【要約】
【課題】地中に埋設された金属材料の腐食速度をより正確に測定する。
【解決手段】交流測定部220が交流インピーダンス法により交流抵抗RCnを測定し、直流測定部221が直流分極抵抗法により直流抵抗RDnを測定し、分極抵抗算出部40が直流抵抗RDnから交流抵抗RCnを引いて分極抵抗Rpnを算出し、計算記録部50が分極抵抗Rpnを用いて腐食速度rを導出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食速度を求めたい金属材料を含む電極部と、
土壌に埋設された前記電極部に対して交流インピーダンス法による測定を実施する交流測定手段と、
前記電極部に対して直流分極抵抗法による測定を実施する直流測定手段と、
前記直流測定手段による測定で得られた直流抵抗から前記交流測定手段による測定で得られた交流抵抗を減じて分極抵抗を算出する分極抵抗算出手段と、
前記分極抵抗から腐食速度を導出する腐食速度導出手段と、
を有することを特徴とする腐食速度測定装置。
【請求項2】
前記交流測定手段は、高周波数から低周波数に向けて測定を実施し、測定点のナイキスト線図におけるインピーダンス虚部の値が所定の基準値以下に到達したときのインピーダンス実部の値を前記交流抵抗とすることを特徴とする請求項1に記載の腐食速度測定装置。
【請求項3】
複数の前記電極部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の腐食速度測定装置。
【請求項4】
土壌に埋設された腐食速度を求めたい金属材料を含む電極部に対して交流インピーダンス法による測定を実施するステップと、
前記電極部に対して直流分極抵抗法による測定を実施するステップと、
前記交流インピーダンス法による測定で得られた直流抵抗から前記直流分極抵抗法による測定で得られた交流抵抗を減じて分極抵抗を算出するステップと、
前記分極抵抗から腐食速度を導出するステップと、
を有することを特徴とする腐食速度測定方法。
【請求項5】
前記交流インピーダンス法による測定では、高周波数から低周波数に向けて測定を実施し、測定点のナイキスト線図におけるインピーダンス虚部の値が所定の基準値以下に到達したときのインピーダンス実部の値を前記交流抵抗とすることを特徴とする請求項4に記載の腐食速度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された金属材料の腐食速度を導出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活を支えるインフラ構造物の中で水道及びガスのパイプライン、電力用ケーブル管路、地下タンク、鋼管柱、支線アンカ等、地中に埋設し使用される鋼材をはじめとする金属材料は極めて多く存在する。地中に埋設されるこれら構造物は土壌腐食により劣化し、設備の寿命短縮により故障等を生じる(非特許文献1)。したがって、これらインフラ構造物の高い信頼性及び安全性を担保するために、適切な更改が不可欠である。
【0003】
更改時期を判断する方法としては主に点検による方法がある。設備地上部では人または機械による直接的な点検が可能であるが、設備地中部は直接点検が困難である場合が多い。したがって、現行設備の保守・点検は地上部及び地際部のみ実施され、地中部の劣化度はほとんど確認されていない。
【0004】
土壌腐食による劣化の評価が困難な設備地中部の安全・安心を担保しつつコスト最小限に抑えるには、設備地中部の腐食状態を予測・推定し更改優先順位を付与することで計画的に対処を行うプロアクティブなマネジメントが有効である。地中埋設された金属材料の腐食状態を予測・推定するためには、土壌腐食による金属材料の腐食速度を知ることが重要であり、腐食速度は環境因子に依存していることから、環境因子と腐食速度との間の関係を求めることが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】門井 守夫、高橋 紹明、矢野 浩太郎、“金属材料の土壌腐食についての研究(第1報)”、防蝕技術、1967年、Vol. 16、No. 6、pp. 10-18
【非特許文献2】西方 篤、“腐食系のインピーダンス特性と腐食モニタリング”、材料と環境、1999年、Vol. 48、No. 11、pp. 686-692
【非特許文献3】西方 篤、高橋 岳彦、候 保栄、水流 徹、“乾湿繰り返し環境における炭素鋼の腐食速度のモニタリングとその腐食機構”、材料と環境、1994年、Vol. 43、No. 4、pp. 188-193
【非特許文献4】山本 悟、竹子 賢士郎、高谷 哲、“コンクリート中鋼材の腐食速度測定方法(CIPE法)の開発”、さび、日本防蝕工業株式会社、平成27年1月、第148号、pp. 2-8
【非特許文献5】宮田 義一、朝倉 祝治、“電気化学的手法を中心とした土壌腐食計測(その1)”、材料と環境、1997年、Vol. 46、No. 9、pp. 541-551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
埋設された金属材料の腐食速度は電気化学的手法を用いることで分極抵抗を測定し、その値から導出される(非特許文献2)。分極抵抗は、腐食速度に比例する腐食電流密度との相関が理論的にも実験的にも見出されている。電気化学的手法の中で分極抵抗を測定する手法として直流分極抵抗法や交流インピーダンス法が挙げられる。直流分極抵抗法による測定では系全体の抵抗値が算出されるため、土壌抵抗が高い値を示す土壌環境において、腐食反応を評価するための分極抵抗のみを分離して評価することが困難である。交流インピーダンス法は、腐食反応表面における多くの現象を周波数的に分離することが可能であり、様々な現象を内包する土壌環境において、腐食反応に由来する分極抵抗のみを抽出する方法として優れている。分極抵抗は、交流インピーンダンス法の低周波領域の測定データから算出することが可能である(非特許文献3)。
【0007】
図10に、理想的な土壌に埋設された金属材料に対して交流インピーダンス法による測定を行い、得られたNyquist(ナイキスト)線図の一例を示す。測定は三電極法により実施した。図10のナイキスト線図では、高周波領域及び低周波領域のそれぞれにおいて円弧が確認された。分極抵抗は低周波領域の円弧に由来すると考えられる。したがって、低周波領域の円弧の開始点から終着点までの横軸(インピーダンス実部)の値から分極抵抗が算出される。
【0008】
しかしながら、交流インピーダンス法の低周波領域では測定に要する時間が長いため、環境因子が時間変動する実土壌において、各測定の前後で環境因子量が大きく変化してしまうという問題があった。上記の分極抵抗に由来する低周波領域の円弧を構成するデータの測定時間は7分であった。
【0009】
実土壌環境では気象の時間変化に伴い環境因子が変動している。その顕著な例として降雨による土壌含水率の変動が挙げられる。実土壌環境における土壌含水率の変動は、降雨に連動して「濡れ」、「水はけ」、「乾き」のサイクルを絶えず繰り返している。したがって、腐食の進行が環境因子量に依存することを考えれば、1日の中でも腐食速度は異なっていると考えられる。
【0010】
図11に、環境因子の一つである土壌含水率の経時変化例を示す。土壌含水率は降雨に連動し、濡れ、水はけ、乾きのサイクルを繰り返している。降雨から次の降雨までを1サイクルと定義すると、図11の例では、土壌含水率は1サイクルで19.4%変化する。図11の例において最も変化が大きい領域で交流インピーダンス法による低周波領域の測定を行った場合、測定の前後で土壌含水率は6.39%変化する。これは1サイクルの土壌含水率変化全体の32.9%に相当する。
【0011】
実土壌環境に埋設された金属材料の腐食量を精度良く予測・推定するためには、腐食速度の時間変化を正確にモニタリングする必要がある。しかしながら、従来の電気化学測定方法から腐食速度を導出した場合、その測定時間の長さから、測定前後で環境因子量が大きく変化してしまう。その結果、腐食速度をモニタリングするに当たり、各測定時点における正確な腐食速度を導出することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、地中に埋設された金属材料の腐食速度をより正確に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の本発明に係る腐食速度測定装置は、腐食速度を求めたい金属材料を含む電極部と、土壌に埋設された前記電極部に対して交流インピーダンス法による測定を実施する交流測定手段と、前記電極部に対して直流分極抵抗法による測定を実施する直流測定手段と、前記直流測定手段による測定で得られた直流抵抗から前記交流測定手段による測定で得られた交流抵抗を減じて分極抵抗を算出する分極抵抗算出手段と、前記分極抵抗から腐食速度を導出する腐食速度導出手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
第2の本発明に係る腐食速度測定方法は、土壌に埋設された腐食速度を求めたい金属材料を含む電極部に対して交流インピーダンス法による測定を実施するステップと、前記電極部に対して直流分極抵抗法による測定を実施するステップと、前記交流インピーダンス法による測定で得られた直流抵抗から前記直流分極抵抗法による測定で得られた交流抵抗を減じて分極抵抗を算出するステップと、前記分極抵抗から腐食速度を導出するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地中に埋設された金属材料の腐食速度をより正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の腐食速度測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図2】本実施形態の腐食速度測定装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図3】交流測定部による測定結果の一例を示す図である。
図4】直流測定部による測定結果の一例を示す図である。
図5】交流インピーダンス法による測定で得られたナイキスト線図の一例を示す図である。
図6】直流分極抵抗法で得られた電流−電位特性の一例を示す図である。
図7】複数の電極部を有する腐食速度測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図8】複数の電極部を有する別の腐食速度測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図9】複数の電極部を有するさらに別の腐食速度測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図10】交流インピーダンス法による測定で得られたナイキスト線図の一例を示す図である。
図11】環境因子の一つである土壌含水率の経時変化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の腐食速度測定装置1の構成を示す機能ブロック図である。同図に示す腐食速度測定装置1は、電極部10、測定部20、指示判定部30、分極抵抗算出部40、及び計算記録部50を備える。
【0019】
電極部10は、対極11、作用電極(分極抵抗を求めたい金属サンプル)12、及び参照電極13を用いた三電極で構成される。これらの電極は土壌100に埋設される。作用電極12については、予め電極面積を把握している必要がある。
【0020】
本腐食速度測定装置1により腐食速度を導出するにあたって、腐食速度の導出を希望する金属材料が埋設された現地で電気化学測定を実施しても良いし、現地の土壌を採取し構築した模擬環境下で実施しても良い。実際に現地に赴くことが困難であれば、類似の成分を含有し、類似の物理量を示し、類似の土性区分(土壌粒径分布)を示す、類似の土を用いることが好ましい。特定の場所に限定せず、ある地域に埋設された金属材料の腐食速度を知りたい場合、その地域の代表的な土壌、もしくは国土地理院等が発行する土壌マップに記載された土壌を用いる。例えば、関東であれば関東ロームを採用してもよい。
【0021】
測定部20は、スイッチ部21と電気化学測定部22を備える。電気化学測定部22は、交流測定部220と直流測定部221を備える。
【0022】
スイッチ部21が電極部10の接続先を交流測定部220と直流測定部221で切り替えて、交流測定部220が交流インピーダンス法による測定を行い、直流測定部221が直流分極抵抗法による測定を行う。スイッチ部21の切り替え制御は、指示判定部30の判断に依る。
【0023】
指示判定部30は、分極抵抗算出部40にて交流抵抗又は直流抵抗が算出されたことを検知し、測定部20に測定方法の切り替えを指示する。交流測定部220と直流測定部221の両方の測定が終了したときは、測定回数nを1つ増加し、n+1回目の測定を開始する。
【0024】
分極抵抗算出部40は、交流測定部220の測定結果から交流抵抗を算出し、直流測定部221の測定結果から直流抵抗を算出する。
【0025】
計算記録部50は、直流抵抗から交流抵抗を減じることで分極抵抗を算出し、分極抵抗を用いて腐食速度を導出する。
【0026】
次に、本実施形態の腐食速度測定装置1の処理の流れについて説明する。
【0027】
図2は、本実施形態の腐食速度測定装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
【0028】
まず、交流測定部220による交流測定と直流測定部221による直流測定のいずれを実施するか判定する(ステップS11)。本実施形態では、交流測定と直流測定を交互に実施するので、前回実施した測定方法とは異なる測定方法を実施すると判定する。本実施形態では、分極抵抗算出部40において交流抵抗RCnが算出されたことを指示判定部30が検知した場合は交流測定が終わったとみなし、指示判定部30がスイッチ部21に対して直流測定部221に測定を切り替える指示を出す。分極抵抗算出部40において直流抵抗RDnが算出されたことを指示判定部30が検知した場合は直流測定が終わったとみなし、指示判定部30がスイッチ部21に対して交流測定部220に測定を切り替える指示を出す。これにより、交流測定部220と直流測定部221による測定が交互に行われる。なお、初回の測定は、交流測定部220から行ってもよいし、直流測定部221から行ってもよい。
【0029】
交流測定を実施すると判定した場合、スイッチ部21が電極部10の接続先を交流測定部220に切り替えて、交流測定部220が電極部10に対して交流インピーダンス法による測定を実施する(ステップS12)。
【0030】
図3に、交流測定部220による測定結果の一例を示す。「湿潤」は土壌を浸漬させた状態を示し、「乾燥」は土壌を浸漬させた状態から水はけによる1日放置した後の状態を示す。
【0031】
交流測定部220は、高周波数から低周波数に向かって、測定点のナイキスト線図の縦軸(インピーダンス虚部)の値が基準値以下に到達する測定を実施する。測定開始が、例えば50kHz程度の高周波数の場合、測定開始点のナイキスト線図の縦軸の値が基準値を下回っている可能性が考えられる。したがって、高周波数から低周波数に向かう測定において、測定点のナイキスト線図の縦軸の値が減少し続け、かつ基準値以下に到達したことを測定終了の条件とする。
【0032】
一方、直流測定を実施すると判定した場合、スイッチ部21が電極部10の接続先を直流測定部221に切り替えて、直流測定部221が電極部10に対して直流分極抵抗法による測定を実施する(ステップS13)。
【0033】
図4に、直流測定部221による測定結果の一例を示す。「湿潤」及び「乾燥」は、交流インピーダンス法の測定と同様の条件である。
【0034】
直流測定部221は、自然電位を基準に鋼表面を荒らさない範囲で、かつ得られる電流−電位特性から抵抗値の算出が可能な電位範囲で掃引を実施する。例えば、電気化学測定において鋼表面への影響が小さいと考えられている交流インピーダンス法における印加電圧である±5[mV]で実施してもよい。図4の測定結果は、自然電位を基準として±5[mV]で掃引して得られた例である。
【0035】
直流測定部221における掃引電位は指示判定部30で設定することができる。設定した電位範囲で掃引が終了したことを指示判定部30が検知すると測定を終了する。
【0036】
分極抵抗算出部40は、交流測定部220及び直流測定部221で得られた測定データを取得し、交流抵抗RCn又は直流抵抗RDnを算出する(ステップS14,S15)。
【0037】
交流抵抗RCnは、交流測定部220の測定結果における最終測定点のナイキスト線図の横軸(インピーダンス実部)の値である。したがって、交流測定の終了を検知するためのナイキスト線図の縦軸の基準値は、円弧がナイキスト線図の横軸と交わる値と交流抵抗RCnの値が同等、もしくはほぼ近似する範囲で設定する必要がある。
【0038】
直流抵抗RDnは、直流測定部221の測定で得られた電流−電位特性の傾きから算出する。傾きの算出方法は、例えば最小二乗法を用いてもよいし、外挿法を用いてもよい。
【0039】
交流抵抗RCn又は直流抵抗RDnが得られると、ステップS11に戻り、測定部20による次の測定を実行する。このとき、n回目の交流抵抗RCnと直流抵抗RDnの両方が得られていた場合、測定回数nを1つ増加し、測定部20はn+1回目の測定を開始する(ステップS16)。
【0040】
n回目の交流抵抗RCnと直流抵抗RDnの両方が得られていた場合、分極抵抗算出部40は、直流抵抗RDnから交流抵抗RCnを減じることで分極抵抗Rpnを算出する(ステップS17)。
【0041】
計算記録部50は、分極抵抗Rpnを用いて腐食速度rを導出する(ステップS18)。具体的には、以下のように腐食速度rを導出する。
【0042】
分極抵抗Rpnから次式(1)に基づいて腐食電流密度icorrnを計算する。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、icorrnは、腐食電流密度[A/cm2]、Kは換算係数[V]、Rpnは分極抵抗[Ω・cm2]である。換算係数Kは予め求めておく。換算係数Kは、アノード及びカソード分極曲線からターフェル勾配を導いて次式(2)に基づいて計算する(非特許文献4参照)。
【0045】
【数2】
【0046】
ここで、βaはアノード勾配[V/decade]、βcはカソード勾配[V/decade]である。
【0047】
もしくは、ターフェル勾配測定することなく、βa=βc=0.1[V/decade]と仮定し、換算係数Kを算出してもよい(非特許文献5参照)。
【0048】
そして、次式(3)に基づいて腐食速度rを導出する。
【0049】
【数3】
【0050】
ここで、rは腐食速度[cm/sec]、zはイオン価数、ρは密度[g/cm2]、Fはファラデー定数[C]、Mは原子量[g/mol]である。
【0051】
計算記録部50は、腐食速度r、交流抵抗RCn、及び直流抵抗RDnの値をn回目の測定結果として記録する。
【0052】
腐食速度測定装置1は、以上の処理を繰り返し、各測定時点における腐食速度rを導出する。測定終了は、予め測定時間を設定しておいてもよいし、外的要因により測定終了を判断してもよい。
【0053】
次に、直流抵抗から交流抵抗を減じることで分極抵抗が算出可能であることを説明する。
【0054】
図5に、交流インピーダンス法による測定で得られたナイキスト線図の一例を示す。同図に示すように、高周波領域及び低周波領域のそれぞれで円弧が確認される。高周波領域の円弧から交流抵抗Rが算出され、低周波領域の円弧から分極抵抗Rが算出される。
【0055】
図6に、直流分極抵抗法で得られた電流−電位特性の一例を示す。図6は、自然電位を基準に±15[mV]掃引させて得られた結果である。図6の電流−電位特性の傾きから直流抵抗Rが算出される。
【0056】
表1に、図5で得られた交流抵抗Rと分極抵抗Rの和、及び図6で得られた直流抵抗Rの値を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から、「湿潤」と「乾燥」の異なる条件においても両者の値は近似することが分かる。つまり、直流抵抗Rから交流抵抗Rを減じることで分極抵抗Rが算出可能である。
【0059】
なお、本実施形態において、直流抵抗Rを交流抵抗R+分極抵抗Rと等価として扱ってもよいし、予め求めておいた直流抵抗R及び交流抵抗R+分極抵抗Rの値から補正項αを求め、直流抵抗Rに補正項αを掛けた値を交流抵抗R+分極抵抗Rと等価として扱ってもよい。
【0060】
本実施形態では、交流インピーダンス法による高周波領域の測定を1分以内、直流分極抵抗法による測定を1分以内、計2分以内で測定を終了させることを目安とする。
【0061】
ここで、図11の土壌含水率の1サイクルで、従来手法に要する7分間において最も土壌含水率が変化したケースにおいて、本実施形態を適用した際の土壌含水率の変化と比較する。
【0062】
表2に、図11の土壌含水率の1サイクルに対し、従来手法と本実施形態を用いたときの土壌含水率の変化を示す。従来手法の測定前後(7分間)では、土壌含水率は6.39%変化し、この土壌含水率の変化の割合は、1サイクルの土壌含水率変化の全体に対して32.9%である。一方で、従来手法の7分間で本実施形態(測定時間を1分40秒とした)を4回適用すると、1サイクルでの同変化の割合を最大で14.2%、最小で3.1%まで抑えることが可能である。
【0063】
【表2】
【0064】
次に、複数の電極部を有する腐食速度測定装置の構成例について説明する。
【0065】
図7は、複数の電極部を有する腐食速度測定装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【0066】
図7に示す腐食速度測定装置1は、複数の電極部10A,10Bを備え、電極部10A,10Bのそれぞれに測定部20A,20Bを接続した。測定部20A,20Bのそれぞれは、図1の腐食速度測定装置1と同様に、スイッチ部21A,21B、電気化学測定部22A,22Bを備える。
【0067】
分極抵抗算出部40は、電極部10A,10Bと測定部20A,20Bのそれぞれで得られた測定データを取得し、分極抵抗算出部40と計算記録部50は、それぞれの測定データから分極抵抗と腐食速度を導出する。また、測定部20A,20Bは、1つの指示判定部30によって制御される。
【0068】
なお、電極部10A,10Bを異なる土壌100A,100Bに埋設してもよい。異なる土壌100A,100Bに埋設した場合、埋設環境の異なる金属材料の腐食速度を並行して導出することができる。
【0069】
図8は、複数の電極部を有する別の腐食速度測定装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【0070】
図8に示す腐食速度測定装置1は、複数の電極部10A,10Bが1つの測定部20に接続されている構成である。
【0071】
交流測定部220と直流測定部221のそれぞれが別々の電極部10A,10Bを使用する。例えば、電極部10Aにおいて交流測定部220の交流インピーダンス測定を行っているとき、電極部10Bは直流測定部221の直流分極抵抗測定を行う。逆に、電極部10Aにおいて直流測定部221の直流分極抵抗測定を行っているとき、電極部10Bは交流測定部220の交流インピーダンス測定を行う。
【0072】
なお、図7の構成と同様に、図8の構成についても、電極部10A,10Bを異なる土壌100A,100Bに埋設してもよい。
【0073】
図9は、複数の電極部を有するさらに別の腐食速度測定装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【0074】
図9に示す腐食速度測定装置1は、測定部20がスイッチ部21を備えず、複数の電極部10A,10Bのそれぞれが交流測定部220と直流測定部221に直接接続されている構成である。
【0075】
電極部10A,10Bのそれぞれは、同じ土壌100A,100Bに埋設されて、交流測定もしくは直流測定のみを連続して行う。指示判定部30は、分極抵抗算出部40において交流抵抗RCn及び直流抵抗RDnが算出されたことを検知すると、測定部20に次の測定の開始を指示する。
【0076】
なお、いずれの腐食速度測定装置1においても3つ以上の電極部を備えてもよい。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態によれば、交流測定部220が交流インピーダンス法により交流抵抗RCnを測定し、直流測定部221が直流分極抵抗法により直流抵抗RDnを測定し、分極抵抗算出部40が直流抵抗RDnから交流抵抗RCnを引いて分極抵抗Rpnを算出し、計算記録部50が分極抵抗Rpnを用いて腐食速度rを導出することにより、交流インピーダンス法において高周波領域のみを測定すればよいので、従来手法に比べて環境因子の変動に対して十分短い時間で腐食速度rを導出することができ、環境因子が経時変化する条件において、各測定時点における腐食速度rをより正確に導出することが可能となる。
【0078】
本実施の形態によれば、複数の電極部10A,10Bを備えることにより、各測定を並行して行うことができるので、より短時間で腐食速度を導出することが可能となる。
【符号の説明】
【0079】
1…腐食速度測定装置
10,10A,10B…電極部
11,11A,11B…対極
12,12A,12B…作用電極
13,13A,13B…参照電極
20,20A,20B…測定部
21,21A,21B…スイッチ部
22,22A,22B…電気化学測定部
220,220A,220B…交流測定部
221,221A,221B…直流測定部
30…指示判定部
40…分極抵抗算出部
50…計算記録部
図1
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図11