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特開2018-206900強磁性交換結合素子及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-206900(P2018-206900A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】強磁性交換結合素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/08 20060101AFI20181130BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20181130BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20181130BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20181130BHJP
   G02F 1/09 20060101ALI20181130BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20181130BHJP
   H01F 10/30 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
   H01L43/08 Z
   H01L43/10
   H01L43/12
   H01L29/82 Z
   G02F1/09 503
   H01F10/16
   H01F10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-109478(P2017-109478)
(22)【出願日】2017年6月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】麻生 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】船橋 信彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大典
(72)【発明者】
【氏名】金城 秀和
(72)【発明者】
【氏名】青島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】久我 淳
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏
【テーマコード(参考)】
2K102
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
2K102AA27
2K102BA05
2K102BB01
2K102BB05
2K102BC04
2K102BC09
2K102CA30
2K102DB08
2K102DD08
2K102EB11
5E049AA01
5E049AA04
5E049AC05
5E049BA06
5E049BA23
5E049CB02
5E049DB14
5E049GC06
5F092AA11
5F092AB10
5F092AC12
5F092AC30
5F092AD03
5F092AD23
5F092AD25
5F092AD26
5F092BB10
5F092BB22
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BB53
5F092BC12
5F092BC13
5F092BC14
5F092CA06
5F092CA08
5F092CA09
5F092CA25
(57)【要約】
【課題】熱耐性の無い材料との強磁性交換結合を高い生産効率で実現でき、各種微細加工プロセスに適用できる強磁性交換結合素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】強磁性材料からなる第1強磁性層と、前記第1強磁性層上に形成され、非磁性金属からなる非磁性金属層と、前記非磁性金属層上に形成され、酸化物又は窒化物からなるバッファ層と、前記バッファ層上に形成され、強磁性材料からなる第2強磁性層と、を有し、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層が、強磁性交換結合されている強磁性交換結合素子である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性材料からなる第1強磁性層と、
前記第1強磁性層上に形成され、非磁性金属からなる非磁性金属層と、
前記非磁性金属層上に形成され、酸化物又は窒化物からなるバッファ層と、
前記バッファ層上に形成され、強磁性材料からなる第2強磁性層と、を有し、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層が、強磁性交換結合されている強磁性交換結合素子。
【請求項2】
前記バッファ層は、MgO、Al、MgAl、TiO、ZnO又はRuOからなる請求項1に記載の強磁性交換結合素子。
【請求項3】
前記第2強磁性層は、Gd又はGdFeを含む請求項1又は2に記載の強磁性交換結合素子。
【請求項4】
前記第2強磁性層は、
前記第1強磁性層上に形成され、GdからなるGd層と、
前記Gd層上に形成され、GdFeからなるGdFe層と、の2層からなる請求項1から3いずれかに記載の強磁性交換結合素子。
【請求項5】
前記第1強磁性層は、Co−Fe−B又はCo/Pd多層膜からなる請求項1から4いずれかに記載の強磁性交換結合素子。
【請求項6】
前記バッファ層は、MgOからなる請求項1から5いずれかに記載の強磁性交換結合素子。
【請求項7】
前記非磁性金属層は、Taからなる請求項1から6いずれかに記載の強磁性交換結合素子。
【請求項8】
強磁性交換結合素子の製造方法であって、
強磁性材料からなる第1強磁性層を形成する第1強磁性層形成工程と、
前記第1強磁性層上に、非磁性金属からなる非磁性金属層を形成する非磁性金属層形成工程と、
前記非磁性金属層上に、酸化物又は窒化物からなるバッファ層を形成するバッファ層形成工程と、
前記バッファ層上に、前記第1強磁性層、前記非磁性金属層及び前記バッファ層の酸化を抑制するキャップ層を形成するキャップ層形成工程と、
前記キャップ層が形成された積層体中にレジストパターンが含まれる場合に該レジストパターンを除去するリフトオフ処理と、前記キャップ層が形成された積層体を加熱する熱処理と、のうち少なくともいずれか一方を行う処理工程と、
前記リフトオフ処理又は熱処理が施された積層体における前記キャップ層の全部及び前記バッファ層の一部を除去する除去工程と、
前記除去工程により一部が除去されたバッファ層上に、強磁性材料からなる第2強磁性層を形成する第2強磁性層形成工程と、を有する強磁性交換結合素子の製造方法。
【請求項9】
前記処理工程における熱処理温度は、300℃以上である請求項8に記載の強磁性交換結合素子の製造方法。
【請求項10】
前記除去工程では、イオンビームミリング又は高密度プラズマエッチングを行う請求項8又は9に記載の強磁性交換結合素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性交換結合素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非常に薄い非磁性金属薄膜を介して形成された二つの強磁性薄膜は、交換結合磁界により強磁性交換結合させられることが知られている(例えば、特許文献1参照)。この強磁性交換結合を利用したものとしては、保磁力差型TMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子が挙げられる。保磁力差型TMR素子では、MgO層の両側の界面に形成されたMR(磁気抵抗)効果の大きなCo−Fe−B層のうちの一方を、他の強磁性薄膜と強磁性交換結合させてその保磁力を制御することで、両Co−Fe−B層間で大きな保磁力差を得ている。
【0003】
また、特性の異なる磁性層を直接重ね合わせた場合においても、交換結合磁界により強磁性交換結合することが知られている。この場合には、各磁性層の特性が複合化されたような磁気特性が得られるという効果がある。このような効果は、例えば複合型垂直磁気記録媒体やスピンバルブ型TMR素子等で利用されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/110119号
【特許文献2】特開2011−114151号公報
【特許文献3】特許第4039656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、TMR素子に多く用いられるMgO中間層は、熱処理によって結晶性を向上させることができる。その結果、TMR効果が向上するとともにスピン注入効率も向上し、スピン注入磁化反転に必要な電流量も、より小さくすることができる。しかし、磁化自由層に熱耐性の無い材料を適用する場合には、従来の製造方法では、MgO中間層を含む熱処理耐性のある層(後述する第2実施形態に係る強磁性交換結合素子の断面図である図9中のCo−Fe−B層65)まで製膜した後、真空中一貫で熱処理を行い、その後、基板温度が下がってから熱処理耐性の無い層(上記図9中のGd層68、GdFe層69)を製膜する必要がある。この場合、熱処理は昇温・冷却時間が必要で製膜と比較して工程時間が長いため、量産装置等では実用的ではない。
【0006】
また、微細加工プロセスにおいて、その工程上、2つの強磁性薄膜を真空中一貫で連続して製膜できない場合がある。そのため、このような微細加工プロセスの場合には、強磁性薄膜同士を強磁性交換結合することができない。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱耐性の無い材料との強磁性交換結合を高い生産効率で実現でき、各種微細加工プロセスに適用できる強磁性交換結合素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記目的を達成するため本発明は、強磁性材料からなる第1強磁性層(例えば、後述の第1磁化固定層11,第2磁化固定層21)と、前記第1強磁性層上に形成され、非磁性金属からなる非磁性金属層(例えば、後述の非磁性金属層12,22)と、前記非磁性金属層上に形成され、酸化物又は窒化物からなるバッファ層(例えば、後述のバッファ層13,23)と、前記バッファ層上に形成され、強磁性材料からなる第2強磁性層(例えば、後述の光変調層30)と、を有し、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層が、強磁性交換結合されている強磁性交換結合素子(例えば、後述の強磁性交換結合素子10,20)を提供する。
【0009】
(2) (1)の強磁性交換結合素子において、前記バッファ層は、MgO、Al、MgAl、TiO、ZnO又はRuOからなるものでもよい。
【0010】
(3) (1)又は(2)の強磁性交換結合素子において、前記第2強磁性層は、Gd又はGdFeを含んでいてもよい。
【0011】
(4) (1)から(3)いずれかの強磁性交換結合素子において、前記第2強磁性層は、前記第1強磁性層上に形成されGdからなるGd層と、前記Gd層上に形成されGdFeからなるGdFe層と、の2層からなるものでもよい。
【0012】
(5) (1)から(4)いずれかの強磁性交換結合素子において、前記第1強磁性層は、Co−Fe−B又はCo/Pd多層膜からなるものでもよい。
【0013】
(6) (1)から(5)いずれかの強磁性交換結合素子において、前記バッファ層は、MgOからなるものでもよい。
【0014】
(7) (1)から(6)いずれかの強磁性交換結合素子において、前記非磁性金属層は、Taからなるものでもよい。
【0015】
(8) 強磁性交換結合素子の製造方法であって、強磁性材料からなる第1強磁性層を形成する第1強磁性層形成工程と、前記第1強磁性層上に、非磁性金属からなる非磁性金属層を形成する非磁性金属層形成工程と、前記非磁性金属層上に、酸化物又は窒化物からなるバッファ層を形成するバッファ層形成工程と、前記バッファ層上に、前記第1強磁性層、前記非磁性金属層及び前記バッファ層の酸化を抑制するキャップ層を形成するキャップ層形成工程と、前記キャップ層が形成された積層体中にレジストパターンが含まれる場合に該レジストパターンを除去するリフトオフ処理と、前記キャップ層が形成された積層体を加熱する熱処理と、のうち少なくともいずれか一方を行う処理工程と、前記リフトオフ処理又は熱処理が施された積層体における前記キャップ層の全部及び前記バッファ層の一部を除去する除去工程と、前記除去工程により一部が除去されたバッファ層上に、強磁性材料からなる第2強磁性層を形成する第2強磁性層形成工程と、を有する強磁性交換結合素子の製造方法を提供する。
【0016】
(9) (8)の強磁性交換結合素子の製造方法において、前記処理工程における熱処理温度は、300℃以上であってもよい。
【0017】
(10) (8)又は(9)の強磁性交換結合素子の製造方法において、前記除去工程では、イオンビームミリング又は高密度プラズマエッチングを行ってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱耐性の無い材料との強磁性交換結合を高い生産効率で実現でき、各種微細加工プロセスに適用できる強磁性交換結合素子及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の構成を示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の構成を示す側面図である。
図3】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の動作を示す図である。
図4】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の一例の構成を示す断面図である。
図5A】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図5B】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図5C】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図5D】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図5E】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図5F】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図5G】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図5H】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図6】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の磁気光学特性を示す図である。
図7】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の磁気光学特性を示す図である。
図8】第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の磁気光学特性を示す図である。
図9】第2実施形態に係る強磁性交換結合素子の一例の構成を示す断面図である。
図10A】第2実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
図10B】第2実施形態に係る強磁性交換結合素子の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と共通する構成についてはその説明を省略する。なお、説明の便宜上、図中の上下左右を強磁性交換結合素子の上下左右として説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の構成を示す斜視図である。図2は、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の構成を示す側面図である。図3は、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子の動作を示す図である。図1及び図3中の矢印は、磁化方向の向きを示している。
これら図1図3に示すように、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10は、磁壁移動を利用した空間光変調素子を構成する。
【0022】
図1に示すように、強磁性交換結合素子10は、図示しないSi等の基板上に形成され、第1強磁性交換結合部1と、第2強磁性交換結合部2と、光変調部3と、を有する。
第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2は、それぞれ図示しないCu、Al、Au、Ag、Ru、Ta、Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される下部電極を最下層に有し、この下部電極にパルス電流源9が接続されることでパルス電流を印加可能となっている。
【0023】
強磁性交換結合素子10の形状については特に限定されないが、例えば図1に示すように、光変調部3が所定方向に延びる平板状に形成され、その両端に第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2が配置された形状が挙げられる。光変調部3と第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2の上面は連続して面一とされ、第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2の厚みは光変調部3の厚みよりも厚くなっている。
【0024】
図2に示すように、第1強磁性交換結合部1は、第1磁化固定層11と、非磁性金属層12及びバッファ層13と、光変調層30と、がこの順に積層されて構成される。
【0025】
第1磁化固定層11は、強磁性材料からなり、本発明の第1強磁性層に相当する。第1磁化固定層11は、磁化方向が一方向に固定された層であり、大きな保磁力を有する。第1磁化固定層11は、後述する光変調層30と同一方向の磁気異方性を有し、光変調層30に垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いた場合には、第1磁化固定層11も垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いる。好ましくは、第1磁化固定層11及び光変調層30ともに、垂直磁気異方性を有する強磁性材料で構成される。
【0026】
第1磁化固定層11は、磁化が垂直方向に固定された磁化固定層と磁化の方向が反転可能な磁化自由層で非磁性層を挟持する構造の垂直磁気異方性を有するCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子やTMR素子等の磁化固定層として公知の強磁性材料で構成可能である。具体的には、Fe、Co、Niのような遷移金属及びそれらを含む合金、例えばTbFe系、TbFeCo系、CoCr系、CoPt系、CoPd系、FePt系の合金を用いることができる。これにより、第1磁化固定層11の保磁力を大きくすることができ、第1磁化固定層11の磁化方向が外部磁場によって容易に変化しないように固定することが可能となる。
【0027】
また、第1磁化固定層11は、これらの遷移金属の層と非磁性金属の層とを交互に積層した多層の積層体で構成してもよく、Co/Pt、Fe/Pt、Co/Pd等の多層膜を用いることができる。これらの強磁性材料を用いることにより、強い垂直磁気異方性を有するとともに、大きな保磁力を有する第1磁化固定層11が得られる。
【0028】
ここで、上述の多層膜は、熱処理することにより保磁力が増大する特性を有する。そのため、上述の多層膜からなる第1磁化固定層11を熱処理してその保磁力を増大させると、光変調層30と結合した後の強磁性交換結合部の保磁力もより大きくなり、光変調部3との保磁力差をより大きくすることができる。
【0029】
非磁性金属層12及びバッファ層13は、第1磁化固定層11と光変調層30との間に配置され、第1磁化固定層11と光変調層30の間の磁気的結合を保つようにすることができる。
【0030】
非磁性金属層12は、上述の第1磁化固定層11上に積層されて形成される。この非磁性金属層12は、後述する製造工程において、第1磁化固定層11にエッチングのダメージが及ばないようにするために設けられる。非磁性金属層12は、非磁性金属からなり、非磁性の各種金属の薄膜層を用いることができる。例えば、非磁性金属層12として、Ta、Mo、Ruを用いることができ、中でも、Taからなるものが好ましく用いられる。
【0031】
バッファ層13は、上述の非磁性金属層12上に積層されて形成される。バッファ層13は、磁壁移動を利用した空間光変調素子でもTMR素子でも電流を流せることが必要であるため、薄膜化したときに抵抗が大き過ぎず、高い導電性を有するものである。また、バッファ層13は、後述する製造工程におけるエッチングのレートが遅く、且つSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)の検出感度が高い元素を含み、SIMS式エンドポイントモニターで見える材料であることが必要である。これにより、エッチングをバッファ層13で確実に止めることが可能となり、第1磁化固定層11にダメージが及ぶのを回避できる。
【0032】
バッファ層13は、酸化物又は窒化物からなるもので構成される。より具体的には、バッファ層13は、MgO、Al、MgAl、TiO、ZnO又はRuOから構成されることが好ましい。中でも、バッファ層13としては、MgOからなるものが好ましく用いられる。このMgOからなるMgO層によれば、高い導電性を有し、エッチングのレートが遅いうえSIMS感度が高いバッファ層13を形成できる。
【0033】
光変調層30は、上述のバッファ層13上に積層されて形成される。この光変調層30は、強磁性材料からなり、本発明の第2強磁性層に相当する。光変調層30は、公知の強磁性材料を適用でき、好ましくは磁気光学効果(カー効果)の大きい材料を適用する。磁気光学効果を大きくするためには、垂直磁気異方性を有する磁性層を用いることが好ましく、具体的には、Co/Pd多層膜のような遷移金属とPd、Pt、Cuとを繰り返し積層した多層膜、又はTbFeCo、GdFe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。中でも、光変調層30としては、GdFeからなるGdFe層が好ましく用いられる。
【0034】
なお、光変調層30は、後述する第2強磁性交換結合部2における第2強磁性層を構成するとともに、光変調部3自体を構成する。
【0035】
上述の構成からなる第1強磁性交換結合部1では、第1磁化固定層11と光変調層30は、非磁性金属層12及びバッファ層13を介して強磁性交換結合されている。この強磁性交換結合により、第1磁化固定層11の磁化方向と第1強磁性交換結合部1における光変調層30の磁化方向は同時反転する。
【0036】
第2強磁性交換結合部2は、第2磁化固定層21と、非磁性金属層22及びバッファ層23と、光変調層30と、がこの順に積層されて構成される。
【0037】
また、第2強磁性交換結合部2では、第1強磁性交換結合部1と同様に、第2磁化固定層21と光変調層30は、非磁性金属層22及びバッファ層23を介して強磁性交換結合されている。この強磁性交換結合により、第2磁化固定層21の磁化方向と第2強磁性交換結合部2における光変調層30の磁化方向は同時反転する。
【0038】
第2磁化固定層21は、第1磁化固定層11で使用可能な材料の中から選択され、同様に、非磁性金属層22及びバッファ層23も、それぞれ非磁性金属層12及びバッファ層13で使用可能な材料の中から選択される。
【0039】
ここで、第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2は、後段で詳述するように磁壁33及び光変調領域300を形成するために、互いの保磁力が異なるように設計される。
【0040】
具体的には後段で詳述するように、第1磁化固定層11と第2磁化固定層21とで、互いに形状(例えば幅、厚み等)を異なるものとするか、一方のみ熱処理するか、あるいは互いの層構成を異なるものとするか、のいずれかが選択される。これにより、第1磁化固定層11の保磁力と第2磁化固定層21の保磁力を互いに異なるものとすることで、第1強磁性交換結合部1の保磁力と第2強磁性交換結合部2の保磁力が異なるものとなっている。
【0041】
上述したように、光変調層30は、光変調部3を構成する。この光変調層30からなる光変調部3には、磁壁33と、磁区31,32が形成されている。これについては、後段で詳述する。
【0042】
なお、各磁化固定層(以下、第1磁化固定層11及び第2磁化固定層21を単に磁化固定層とも言う。)、各非磁性金属層、各バッファ層、及び光変調層30の各層間、又は下部電極との界面に、機能層を適宜設けてもよい。例えば、微細加工プロセス中に光変調層30が受けるダメージを防ぐために、光変調層30上に、Ta、Ru又はSiNを含む、あるいはTa、Ru又はSiNからなるキャップ層を設けてもよい。このキャップ層は、光変調層30の形成に用いられて酸化し易いGdFeやTbFeCoが、素子完成後に大気中で酸化するのを防止する機能を有する。
【0043】
次に、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の磁気特性について、詳しく説明する。
上述した通り、第1強磁性交換結合部1は、光変調層30と強磁性交換結合する第1磁化固定層11を有し、第2強磁性交換結合部2は、同じく光変調層30と強磁性交換結合する第2磁化固定層21を有する。即ち、これら第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2は、それぞれ内部に強磁性交換結合を有し、それぞれの磁化方向は同時に反転する。そして、図1及び図3に示すように、第1強磁性交換結合部1の磁化方向は下向きに設計されている一方で、第2強磁性交換結合部2の磁化方向は上向きに設計されている。
【0044】
光変調部3には、光変調部3の延びる方向に対して直交する方向に延びる磁壁33が形成されている。即ち、磁壁33の両側に形成される磁区31,32の磁化方向は互いに逆方向となっている。例えば図1及び図3に示すように、磁壁33よりも第1強磁性交換結合部1側の磁区31の磁化方向は上向きであり、磁壁33よりも第2強磁性交換結合部2側の磁区32の磁化方向は下向きとなっている。
【0045】
このように、磁壁33を介して磁化方向の向きが異なる磁区31,32を光変調部3に形成することにより、強磁性交換結合素子10を空間光変調素子として機能させることができる。より詳しくは、例えば強磁性交換結合素子10を反射型の空間光変調素子として構成した場合には、強磁性交換結合素子10の上方から光変調部3の上面に対して偏光の揃った光を入射すると、磁化方向の向きに応じて反射光の偏光面の回転角度が異なったものとなる。そのため、これら異なる偏光面の回転角度に応じた各反射光を、偏光フィルタを介してそれぞれ光の明暗に割り当てることにより、光の変調が可能となる。ただし、基板を、ガラスやサファイア等の透光性の材料で構成することにより、強磁性交換結合素子10を透過型の空間光変調素子として機能させることも可能である。
【0046】
ここで、図2及び図3を参照して、磁壁33の生成メカニズムについて説明する。
先ず、光変調部3に磁壁33を形成するためには、光変調層30と強磁性交換結合する第1磁化固定層11の保磁力と、同じく光変調層30と強磁性交換結合する第2磁化固定層21の保磁力とを、互いに異なるものとすることが必要である。そのためには、第1磁化固定層11と第2磁化固定層21とで、互いに形状(例えば幅、厚み等)を異なるものとするか、一方のみ熱処理するか、あるいは互いの層構成を異なるものとするか、のいずれかの手法により、第1磁化固定層11の保磁力と第2磁化固定層21の保磁力を、互いに異なるものとすることができる。
【0047】
例えば、上記手法のいずれかにより、第1磁化固定層11の保磁力を第2磁化固定層21の保磁力よりも大きく設計する。この場合、図2に示すように第1強磁性交換結合部1の保磁力をHc1とし、第2強磁性交換結合部2の保磁力をHc2とし、光変調層の保磁力をHc_mとすると、Hc1>Hc2>Hc_mの関係が成立する。
【0048】
そして、上述のような保磁力の関係が成立する構造の素子に対して、磁場の強さHが、H>Hc1である磁場を、素子に対して下向きに印加する。すると、第1強磁性交換結合部1、第2強磁性交換結合部2及び光変調部3のいずれにおいても、磁化方向の向きは下向きとなる。
【0049】
次いで、磁場の強さH’が、Hc1>H’>Hc2である磁場を、素子に対して上向きに印加する。すると、第1強磁性交換結合部1の磁化方向の向きは下向きのままであるのに対して、第2強磁性交換結合部2及び光変調部3の磁化方向の向きは、いずれも上向きに変化する。
【0050】
このとき、図3に示すように光変調部3の両端には、初期磁区31a,32aが生成する。より詳しくは、光変調部3の第1強磁性交換結合部1側の端部には、第1強磁性交換結合部1からの漏れ磁界(図3中の破線矢印参照)により、第1強磁性交換結合部1の下向きの磁化とは反平行な上向きの磁化方向の初期磁区31aが生成する。また、光変調部3の第2強磁性交換結合部2側の端部には、第2強磁性交換結合部2からの漏れ磁界(図3中の破線矢印参照)により、第2強磁性交換結合部2の上向きの磁化とは反平行な下向きの磁化方向の初期磁区32aが生成する。
【0051】
次いでこの状態で、パルス電流源9からパルス電流を印加し、第1強磁性交換結合部1から第2強磁性交換結合部2、又は第2強磁性交換結合部2から第1強磁性交換結合部1に向けてパルス電流を流す。すると、初期磁区31a,32aの生成により形成される磁壁33を、パルス電流の向きと逆向き(電子の流れと同じ向き)に移動させることができる。これにより、図3に示すように、光変調部3の両端を除く光変調領域300の磁化の向きを反転(図3の例では、光変調領域300の磁化の向きを上向きに反転)させることが可能となっている。
【0052】
次に、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の詳細な構成について、図4を参照して説明する。
図4は、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の一例の構成を示す断面図である。図4中、各層の括弧内の数値は、各層の好ましい厚み(nm)の一例を示している。
【0053】
図4に示す例では、強磁性交換結合素子10は、Siバックプレーン41上に形成されている。
第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2はいずれも、Siバックプレーン41側から順に、Ta層44、Ag層45、Co/Pd層11,21、Ta層12,22、MgO層13,23、GdFe層3が積層されて構成されている。
【0054】
Siバックプレーン41には、図示しない下部電極が含まれている。下部電極は、Cu、Al、Au、Ag、Ru、Ta、Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される。
ただし、本実施形態では電流を流すことができればよく、例えばSiバックプレーン41と同様に、アクティブマトリックス駆動する構成としてTFTバックプレーンを用いてもよい。また、例えばSiバックプレーンの代わりに、単純マトリックス駆動する構成としてもよい。
【0055】
Ta層44及びAg層45は、上述の下部電極への密着性を向上させるために設けられる下地層である。これらTa及びAgであれば、Co/Pd多層膜11,21の磁気特性に悪影響を与えることがないため好ましい。なお、Taの代わりにRuを用いてもよい。
【0056】
Co/Pd層11,21はそれぞれ上述の第1,第2磁化固定層を構成し、Ta層12,22は上述の非磁性金属層を構成し、MgO層13,23は上述のバッファ層を構成する。
【0057】
なお、本例では、第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2とでは、各層の構成材料は全て同一である一方で、互いの形状が異なっている。具体的には図4に示すように、光変調部の延びる方向(左右方向)の幅寸法が、第2強磁性交換結合部2(第2磁化固定層21)よりも第1強磁性交換結合部1(第1磁化固定層11)の方が大きく設計されている。これにより、第1強磁性交換結合部1の保磁力が第2強磁性交換結合部2の保磁力よりも小さくなり、光変調部に、磁壁及び磁区の形成が可能となっている。
【0058】
光変調部、即ち光変調層は、GdFe層3で構成されている。また、GdFe層3上には、キャップ層としてのRu層4が形成されている。
なお、第1強磁性交換結合部1の左右両側、及び第2強磁性交換結合部2の左右両側は、絶縁部材としてのSiO層42が隣接して配置されている。
【0059】
次に、強磁性交換結合素子10の製造方法の一例について、図5A図5Hを参照して詳しく説明する。
ここで、図5A図5Hは、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の製造方法を示す図である。
【0060】
第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の製造方法は、第1強磁性層形成工程と、非磁性金属層形成工程と、バッファ層形成工程と、キャップ層形成工程と、処理工程と、除去工程と、第2強磁性層形成工程と、を有する。
以下、これらの各工程について説明する。
【0061】
先ず、図5Aに示すように、Siバックプレーン41上に形成された絶縁部材のSiO層42に対して、従来公知の電子線リソグラフィ等を用いて、第1磁化固定層及び第2磁化固定層の各形状に対応したレジストパターニングを実施する。即ち、第1磁化固定層及び第2磁化固定層の各形状に対応したレジスト層40を、SiO層42上に形成する。そして、レジストパターニング後、高密度プラズマエッチングを実施する。この高密度プラズマエッチングは、イオンミリングより異方性エッチング特性が優れているため、本工程に特に好適に利用される。
【0062】
すると、図5Bに示すように、レジスト層40が形成されていない領域のSiO層42がエッチングにより除去される。このSiO層42が除去された領域が、第1磁化固定層及び第2磁化固定層の形状にそれぞれ対応する。
【0063】
次いで、図5Cに示すように、第1強磁性層を構成する磁化固定層、非磁性金属層、バッファ層、及びバッファ層の酸化を抑制するキャップ層をこの順に形成する(第1強磁性層形成工程、非磁性金属層形成工程、バッファ層形成工程、及びキャップ層形成工程)。具体的には、Ta層44、Ag層45、Co/Pd層11,21,51、Ta層12,22,52、MgO層13,23,53、及びSiO層14,24,54を、この順に連続して製膜する。製膜は、全てイオンビームスパッタ装置により実施可能である。ナノメートルオーダーと開口サイズが小さく、それに対して深さが深い領域の中に材料を製膜する必要があるため、スパッタ粒子の直進性が高いイオンビームスパッタ法が特に好ましいからである。ただし、これに限定されず、例えば分子線エピタキシー(MBE)法等の従来公知の方法を利用できる。
【0064】
次いで、図5Dに示すように、リフトオフを実施し、残存しているレジスト層40を除去する(処理工程)。具体的には、素子を真空中から大気中に取り出した後、リフトオフを実施する。これにより、レジスト層40上に形成されていた層の全てが除去される。レジスト層40の除去には、従来公知のレジスト剥離剤を用いることができる。
【0065】
そして、リフトオフ後、必要に応じて、アニール炉にて350℃の熱処理を実施する(処理工程)。この熱処理により、各磁化固定層を構成するCo/Pd層11,21の保磁力が増大する。処理工程における熱処理温度は、例えば300℃以上であることが好ましい。
【0066】
次いで、図5Eに示すように、イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)を実施する(除去工程)。これにより、最表面のSiO層14,24を全て除去するとともに、MgO層13,23の一部を除去する。即ち、エッチングを、MgO層13,23の途中まで実施する。このとき、MgO層13,23は、エッチングレートが遅いうえ、MgはSIMS感度が高い特性を有するため、SIMS式エンドポイントモニターでの検出に最適である。これにより、エッチングをMgO層13,23の途中で確実に止めることができるようになっている。
【0067】
イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)終了後、光変調層製膜装置まで素子を真空(例えば、1×10−6[Pa])搬送する。そして、図5Fに示すように、光変調層製膜装置内で、光変調層としてのGdFe層3を例えばイオンビームスパッタ装置により製膜する。加えて、GdFe層3上に、さらにキャップ層としてのRu層4を例えばイオンビームスパッタ装置により製膜する。
【0068】
次いで、図5Gに示すように、電子線リソグラフィ等にて光変調層のレジストパターニングを実施する。即ち、Ru層4上に所望のパターンに対応したレジスト層40を形成する。そして、レジストパターニング後、イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)を実施する。
【0069】
すると、図5Hに示すように、レジスト層40が形成されていない領域のGdFe層3及びRu層4がエッチングにより除去される。これにより、光変調層を構成するGdFe層3が所望のパターン形状に形成される(第2強磁性層形成工程)。
【0070】
最後に、最上層に残存しているレジスト層40を、従来公知のレジスト剥離剤で除去する。以上により、図4に示す強磁性交換結合素子10が得られる。
【0071】
以上説明した第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の製造方法によれば、第1強磁性層上に、非磁性金属層、バッファ層、及びバッファ層の酸化を抑制するキャップ層をこの順に形成し、この状態で、リフトオフ処理と必要に応じて熱処理を実施する。そして、キャップ層の全部及びバッファ層の一部を除去した後に、第2強磁性層を形成する。
【0072】
ここで、本実施形態のように磁壁移動を利用した光変調素子を製造するためには、光変調層30の製膜前に、一旦素子を大気中に取り出してリフトオフする必要がある。そのため、従来の微細加工プロセスでは、その工程上、2つの強磁性薄膜を真空中一貫で連続して製膜できず、強磁性交換結合させることができなかったところ、本実施形態の製造方法によれば、処理工程と製膜工程とを分けることができるため、第1強磁性層と第2強磁性層を強磁性交換結合させることができる。従って、本実施形態に係る製造方法によれば、各種微細加工プロセスに適用可能である。
【0073】
また、本実施形態の製造方法によれば、バッファ層13上にバッファ層13以下の層の酸化を抑制するキャップ層を形成するため、素子を真空一貫装置から取り出した際に、別装置にて300℃〜400℃程度で熱処理することもできる。そして、熱処理後、イオンビームミリング等でキャップ層全てとバッファ層13の途中までを除去し、もう一方の熱耐性の無いGdFe、Gd等の第2強磁性層を製膜することで、強磁性交換結合させることができる。
【0074】
次に、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の磁気光学特性について、マイクロカー効果測定装置を用いたカー回転角測定結果を参照して詳しく説明する。
具体的には、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の模擬サンプルを作製し、その磁気光学特性を評価することで本実施形態の効果を確認した結果について説明する。
【0075】
模擬サンプルの作製では、Siバックプレーンの代わりにただのSi基板を用い、上述の第1強磁性交換結合部1のうち光変調層30を除く、第1磁化固定層11、非磁性金属層12及びバッファ層13からなる積層体を、横5μm×縦5μmの大きさ(即ち、四角(square)形状)で形成した。また、上述の第2強磁性交換結合部2のうち光変調層30を除く、第2磁化固定層21、非磁性金属層22及びバッファ層23からなる積層体を、横1μm×縦2mmの大きさ(即ち、ライン(line)形状)で形成した。
【0076】
ここで、図6図8は、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の模擬サンプルにおける磁気光学特性を示す図である。図6図8中、横軸は外部磁界の強さ(kOe)を表しており、縦軸は、カー回転角(°)、即ち強磁性材料の磁化方向により入射光の偏光面が回転するときの回転角度を表している。
【0077】
図6中、太実線のグラフは、第2磁化固定層21に相当する、横1μm×縦2mmのライン(line)形状の磁化固定層上にGdFe(9)/Ru(3)層が製膜された領域のカー回転角測定結果である(図6中、「GdFe on line」と表示)。破線のグラフは、第1磁化固定層11に相当する、横5μm×縦5μmの四角(square)形状の磁化固定層上にGdFe(9)/Ru(3)層が製膜された領域のカー回転角測定結果である(図6中、「GdFe on 5μ_sq」と表示)。細実線のグラフは、上述の絶縁部材としてのSiO層42に相当するSiO上に、GdFe(9)/Ru(3)層が製膜された領域のカー回転角測定結果である(図6中、「GdFe on SiO2」と表示)。
【0078】
図6の結果から、磁化固定層と光変調層のGdFe(9)/Ru(3)層が強磁性交換結合していることにより、光変調層の下にある保磁力の異なる2つの磁化固定層とSiO(絶縁体層)に対応して、3段階の保磁力差が生成していることが分かった。これにより、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10は、磁壁移動型の光変調素子として機能し得ることが確認された。
【0079】
なお、太実線のグラフと破線のグラフでは、ヒステリシスループが2段になっているが、これは、カー回転角測定のレーザースポット径が磁化固定層よりも大きいため、磁化固定層の周囲のSiO(絶縁体層)上にGdFe(9)/Ru(3)層が製膜された領域の測定結果(細実線のグラフ)も合算されて出力されていることによる。
【0080】
図7は、第2磁化固定層21に相当する、横1μm×縦2mmのライン(line)形状の磁化固定層上における光変調層形成前後のカー回転角を示している。また、図8は、第1磁化固定層11に相当する、横5μm×縦5μmの四角(square)形状の磁化固定層上における光変調層形成前後のカー回転角を示している。
図7及び図8中、細実線のグラフは、上述の図5Dの状態に対応する(光変調層を形成する前で強磁性交換結合していない状態)におけるカー回転角測定結果である(図7中「Pin in line」、図8中「Pin in 5μ_sq」と表示)。また、太実線のグラフは、上述の図5Fの状態に対応する(磁化固定層と光変調層が強磁性交換結合した状態)における素子のカー回転角測定結果である(図7中「GdFe on line」、図8中「GdFe on 5μ_sq」と表示)。
【0081】
図7及び図8いずれにおいても、太実線のグラフ、即ち強磁性交換結合した状態における保磁力は、細実線のグラフ、即ち強磁性交換結合していない状態における保磁力よりも小さくなっており、これは磁化固定層と光変調層が強磁性交換結合したことを示している。従って、これら図7及び図8の結果から、磁化固定層と光変調層が確実に強磁性交換結合していることが確認された。
【0082】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態に係る強磁性交換結合素子20の一例の構成を示す断面図である。本実施形態に係る強磁性交換結合素子20は、第1実施形態のような磁壁移動型の光変調素子ではなく、保磁力差型TMR素子を利用した光変調素子である。
図9に示すように、強磁性交換結合素子20は、下部電極61、Co/Pt多層膜62、Co−Fe−B層63、MgO層64、Co−Fe−B層65、Ta層66、MgO層67、Gd層68、GdFe層69、及びRu層70が、この順に積層されて構成されている。
【0083】
ここで、Co/Pt多層膜62、Co−Fe−B層63、MgO層64、及びCo−Fe−B層65は、従来公知の保磁力差型TMR素子を構成する。このTMR素子は、MR効果が非常に大きい特性を有し、Co−Fe−B層65が磁化自由層として本発明の第1強磁性層を構成する。
【0084】
磁化自由層は、磁化の方向が例えば上下方向(層の厚み方向)であり、必要な駆動電流が供給されることにより、磁化の方向が上下反転する。磁化自由層はスピン注入によって容易に磁化方向が反転されるとともに、磁気光学効果の大きいことが好ましい。磁気光学効果を大きくするためには、垂直磁気異方性を有する磁性層を用いることが好ましい。
【0085】
また、Ta層66が本発明の非磁性金属層を構成し、MgO層67が本発明のバッファ層を構成し、Gd層68及びGdFe層69が本発明の第2強磁性層としての光変調層を構成し、Ru層70がキャップ層を構成する。
【0086】
第1強磁性層を構成するTMR素子中のCo−Fe−B層65と、第2強磁性層を構成するGd層68及びGdFe層69は、強磁性交換結合されている。この強磁性交換結合により、TMR素子中のCo−Fe−B層65の磁化方向と、Gd層68及びGdFe層69からなる光変調層の磁化方向は同時反転する。即ち、磁化自由層のCo−Fe−B層65に、Gd層68及びGdFe層69が強磁性交換結合することにより、全体で一つの磁化自由層(=光変調層)が構成される。
【0087】
ここで、GdFe合金は、Co−Fe−BやCo−Feと組み合わされると、垂直磁気異方性を示さず、Co−Fe−B等と同じ面内磁気異方性を示す特性を有する。これは、Co−Fe−B等のFeによって、GdFe合金におけるFeの反磁界成分の影響が強くなることによると考えられる。この点本実施形態では、Co−Fe−B層65とGdFe層69の間にGd層68を備えることで、Co−Fe−B層65によるFeの影響を相殺し、GdFe層69が垂直磁気異方性を示すようになっている。
【0088】
なお、磁化自由層としては、GdFe系の合金、GdFeCo系の合金、CoPt系の合金、CoPd系の合金、MnBi合金、MnSb合金、PtMnSb系の合金等を用いることができる。また、Co/PtやCo/Pd等の多層膜を用いることもできる。
【0089】
なお、第1強磁性層、第2強磁性層、非磁性金属層、バッファ層、キャップ層等は、それぞれ第1実施形態で述べた各構成材料を適宜使用可能である。また、各層の界面に、機能層を適宜設けてもよい。
【0090】
次に、第2実施形態に係る強磁性交換結合素子20の製造方法について、図10A及び図10Bを参照して詳しく説明する。
ここで、図10A及び図10Bは、第2実施形態に係る強磁性交換結合素子20の製造方法を示す図である。
【0091】
第2実施形態に係る強磁性交換結合素子20の製造方法は、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10の製造方法と同様に、第1強磁性層形成工程と、非磁性金属層形成工程と、バッファ層形成工程と、キャップ層形成工程と、処理工程と、除去工程と、第2強磁性層形成工程と、を有する。
【0092】
先ず、図10Aに示すように、上述の下部電極61、Co/Pt多層膜62、Co−Fe−B層63、MgO層64、Co−Fe−B層65、Ta層66、MgO層67、及びRu層71を、この順にスパッタリング法等の公知の方法により製膜する(第1強磁性層形成工程、非磁性金属層形成工程、バッファ層形成工程、キャップ層形成工程)。
【0093】
次いで、一旦、真空一貫装置から素子を取り出し、アニール炉等の別装置にて300℃〜400℃程度で熱処理を実施する(処理工程)。これにより、MgO層64の結晶性が向上する結果、TMR効果が向上する。
【0094】
次いで、図10Bに示すように、イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)により、最上層のRu層71を全て除去するとともに、バッファ層のMgO層67が0.3nm程度残るまでエッチングする(除去工程)。このとき、MgO層67はエッチングレートが遅いうえ、MgO層67中のMgはSIMS感度が高い特性を有するため、SIMS式エンドポイントモニターでの検出に最適である。これにより、エッチングをMgO層67の途中で確実に止めることができるようになっている。
【0095】
次いで、MgO層67の途中までのエッチングが終了後、真空中一貫で製膜装置まで搬送し、熱耐性の無いGd層68、GdFe層69、及びキャップ層となるRu層70を、この順に製膜装置で製膜する(第2強磁性層形成工程)。
以上により、第2実施形態に係る強磁性交換結合素子20が得られる。
【0096】
第2実施形態に係る強磁性交換結合素子20によれば、第1実施形態に係る強磁性交換結合素子10と同様の効果が奏される。
【0097】
また、第2実施形態に係る強磁性交換結合素子20(TMR素子)中のMgO層64は、熱処理によって結晶性を向上させることができる。その結果、TMR効果が向上するとともにスピン注入効率も向上し、スピン注入磁化反転に必要な電流量をより小さくすることができる。しかしながら、第2強磁性層に相当する光変調層を構成するGdFe、Gd等は、熱耐性の無い材料であり、熱処理されると所望の磁気特性及び磁気光学効果が得られなくなるという特性がある。従って、従来の製造方法では、強磁性交換結合させる第1強磁性層に相当するCo−Fe−B層65を製膜した後、真空中一貫で熱処理を行い、次いで第2強磁性層に相当するGd層68及びGdFe層69を製膜する必要があるため、昇温・冷却時間が必要で工程時間が長くなるという問題がある。
【0098】
これに対して本実施形態によれば、バッファ層67上にバッファ層67以下の層の酸化を抑制するキャップ層を形成するため、素子を真空一貫装置から取り出し、別装置にて300℃〜400℃程度で熱処理できる。そして、熱処理後、イオンビームミリング等でキャップ層全てとバッファ層67の途中までを除去し、もう一方の熱耐性の無いGdFe、Gd等の第2強磁性層を製膜することで、強磁性交換結合させることができる。
【0099】
このように本実施形態の製造方法によれば、熱処理工程と製膜工程とを分けることができ、大量製膜・大量熱処理後にエッチングと製膜を行う工程を採用できるため、効率的な生産が可能となる。ひいては、熱耐性の無い材料を選択可能になる等、材料選択の自由度が高まり、素子の性能向上が期待できる。
【0100】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 第1強磁性交換結合部
2 第2強磁性交換結合部
3 光変調部
9 パルス電流源
10,20 強磁性交換結合素子
11 第1磁化固定層(第1強磁性層)
12,22 非磁性金属層
13,23 バッファ層
21 第2磁化固定層(第1強磁性層)
30 光変調層(第2強磁性層)
31,32 磁区
31a,32a 初期磁区
33 磁壁
300 光変調領域
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B