【課題】寸法安定性、透明性、耐熱性に優れ、支持基材から容易に剥離して薄型ポリイミドフィルムを得ることができる耐熱透明樹脂基板材料として有用な透明ポリイミドフィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリイミド前駆体が、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル及び2,2’-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルから選ばれる1種又は2種を含むジアミンと、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物を反応させて得られたものであること、及び前記ポリイミドフィルムの熱膨張係数が45ppm/K以下であり、光透過率が308nmの光線では5%以下で、400nmの光線では70%以上であることを特徴とする透明ポリイミドフィルムの製造方法である。
ポリイミド前駆体又はその樹脂溶液を支持体の表面上に塗布する工程と、前記ポリイミド前駆体又はその樹脂溶液を加熱してイミド化し、支持体の表面上にポリイミド層を形成する工程と、前記ポリイミド層を前記支持体から剥離してポリイミドフィルムを得る工程と、を具備するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミド前駆体が、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル及び2,2’-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルから選ばれる1種又は2種を含むジアミンと、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物を反応させて得られたものであること、及び前記ポリイミドフィルムの熱膨張係数が45ppm/K以下であり、光透過率が308nmの光線では5%以下で、400nmの光線では70%以上であることを特徴とする透明ポリイミドフィルムの製造方法。
2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル及び2,2’-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルから選ばれるジアミンを全ジアミンの50モル%以上含み、かつ、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を全酸二無水物の70モル%以上含む請求項1に記載の透明ポリイミドフィルムの製造方法。
2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル又は2,2’-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル以外のジアミンを全ジアミン中1〜50モル%含むか、又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物以外の酸二無水物を全酸二無水物中1〜30モル%含む請求項1に記載の透明ポリイミドフィルムの製造方法。
請求項1〜5のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルムの製造方法において、ポリイミド層上に機能層を形成した後、機能層付きのポリイミド層を支持体から剥離する工程を具備することを特徴とする機能層付きの透明ポリイミドフィルムの製造方法。
前記機能層が、透明導電層、配線層、導電層、ガスバリア層、薄膜トランジスタ、電極層、発光層、接着層、粘着剤層、透明樹脂層、カラーフィルターレジスト、及びハードコート層からなる群から選択されたいずれか1種又は2種以上の層であることを特徴とする請求項4に記載の機能層付きの透明ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の透明ポリイミドフィルムの製造方法は、ポリイミド前駆体を支持体(支持基材)上に塗布し、イミド化してポリイミド層を形成した後、ポリイミド層を支持基材から剥離して、好ましくは厚さ30μm以下、より好ましくは厚さ20μm以下、さらに好ましくは15μm以下の透明樹脂基板材料として使用されるポリイミドフィルムを製造するために好適である。
【0014】
周知のようにポリイミド前駆体は、下記一般式(1)で表すことができる。
[-OCX(COOH)
2CO-HN-Y-NH-] (1)
また、ポリイミド前駆体をイミド化してなるポリイミドは、下記一般式(2)で表すことができる。
[-N(OC)
2X(CO)
2N-Y-] (2)
式(1)、(2)において、Xは、酸二無水物から2つの酸無水物基を取って生じる4価の残基であり、Yは、ジアミンから2つのアミノ基を取って生じる2価の残基である。
【0015】
ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の合成には、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物が用いられるが、本発明の製法においては、ジアミンとして、下記式(3a)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(略号:TFMB)又は下記式(3b)で表される2,2’-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル(略号:m-TB)から選ばれる1種又は2種を含むジアミンを使用する。
【化1】
【0016】
本発明の製法において、ジアミンとしてTFMB又はm-TBを必須の成分として使用する。TFMB又はm-TBを全ジアミンの50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上使用することにより、TFMB又はm-TBに由来する構造単位を、全ジアミン由来の構造単位中、それに対応する割合で含むことになる。上記範囲でTFMB又はm-TBを使用すれば、ポリイミドの可視光の光透過率に優れたものとなり、フレキシブル基板の透明性が向上するので好ましい。
【0017】
本発明の製法において、テトラカルボン酸二無水物として、下記式(4)で表される1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(略号:CBDA)を必須の成分として使用する。
【化2】
【0018】
CBDAを全酸二無水物の70モル%以上、好ましくは80モル%以上使用すれば、CBDAに由来する構造単位を、全酸二無水物由来の構造単位中、それに対応する割合で含むことになる。上記範囲でCBDAを使用すれば、得られるポリイミドのCTEが低いものとなる。これは、ポリイミドを使用するフレキシブル基板の寸法安定性を向上させ、フレキシブルデバイスの反りの抑制を可能とする。
【0019】
本発明の製法において、ポリイミド前駆体は、TFMB又はm-TBから選ばれる1種又は2種を含むジアミンと、CBDAを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得ることができる。全ジアミン中にTFMB又はm-TBを好ましくは50モル%以上含むとよい。また、全酸二無水物中にCBDAを好ましくは70モル%以上含むとよい。
【0020】
ただし、TFMB又はm-TB及びCBDAだけではなく、酸二無水物成分として、1〜30モル%の範囲で、CBDA以外のテトラカルボン酸二無水物成分を含むこと、及び/又は、ジアミン成分として、1〜50モル%、好ましくは1〜40モル%、より好ましくは1〜30モル%の範囲で、TFMB又はm-TB以外のジアミン成分を含むことが好ましい。この範囲であれば、ポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドの308nmの光透過率が低下し、剥離性(レーザーリフトオフ特性)が向上するので好ましい。TFMB又はm-TB以外のジアミン成分を含む場合、同時にCBDA以外のテトラカルボン酸二無水物成分を含むことで、ポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドは、308nmの光透過率が低く、400nmの光透過率が高く、かつ、CTEが低くなるので、より好ましい。
【0021】
これによって、TFMB又はm-TBに由来する構造とCBDAに由来する構造とからなる構造単位を有するポリイミド前駆体、次いでこれをイミド化して下記式(6)で表される構造単位を有するポリイミドを得ることができる。なお、式(5)、(6)において、ジアミン由来構造は、原料としてTFMBを使用した場合を示しており、原料としてm-TBを使用した場合、トリフルオロメチル基(CF
3)が、いずれもメチル基(CH
3)になり、二つを併用した場合、これらが使用量に応じて併存した構造となる。
【化3】
【化4】
【0022】
本発明の製法で使用されるポリイミド前駆体は、式(5)で表される構造単位を、ポリイミド前駆体中に、好ましくは50〜97モル%、より好ましくは70〜97モル%含むとよい。同様に、このポリイミド前駆体をイミド化してなる本発明の製法で使用されるポリイミドも、式(6)で表される構造単位を、ポリイミド中に、好ましくは50〜97モル%、より好ましくは70〜97モル%含むとよい。
【0023】
TFMB又はm-TB以外に、共重合に使用されるジアミンとしては、例えば、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4'-メチレンジ-o-トルイジン、4,4'-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4'-メチレン-2, 6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノビフェニル、3,3' -ジアミノビフェニル、3,3' -ジメチル- 4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3'-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジンなどが挙げられる。
【0024】
これらのジアミンの中でも、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(AAPBZI)又は5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(AAPBZO)が好適なものとして例示される。
【0025】
TFMB又はm-TB以外のこれらのジアミン成分を併用する場合、その使用割合は、全ジアミンに対し、好ましくは1〜50モル%、より好ましくは1〜30モル%である。
【0026】
CBDA以外に、共重合に使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、4,4'-(2,2'-ヘキサフルオロイソプロポリデン)ジフタル酸二無水物(「ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物」、又は略して「6FDA」ともいう。)、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}、トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物などが挙げられる。
【0027】
これらのテトラカルボン酸二無水物の中でも、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸無水物(PMDA)又は6FDAが好適なものとして例示される。
【0028】
CBDA以外のこれらのテトラカルボン酸二無水物成分を併用する場合、その使用割合は、全テトラカルボン酸二無水物に対し、好ましくは1〜30モル%、好ましくは1〜28モル%、より好ましくは1〜20モル%、更に好ましくは1〜10モル%である。
【0029】
本発明の製法において、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、ジアミンと酸二無水物とを0.9〜1.1のモル比(実質等モル)で使用し、有機極性溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。具体的には、窒素気流下N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性アミド系溶媒にジアミンを溶解させた後、酸二無水物を加えて、室温で3〜20時間程度反応させることにより得られる。この際、分子末端は芳香族モノアミン又は芳香族モノカルボン酸無水物で封止してもよい。溶媒としては、他にジメチルホルムアミド、2-ブタノン、ジグライム、キシレン、γブチルラクトン等が挙げられ、1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0030】
そして、本発明の製法において、こうして得られたポリイミド前駆体を熱イミド化法又は化学イミド化法によりイミド化される。熱イミド化は、ガラス、金属、樹脂(ポリイミドフィルム等)などの任意の支持基板材上に、ポリイミド前駆体を、アプリケーターを用いて塗布し、130℃以下の温度で3〜60分予備乾燥した後、溶剤除去、イミド化のために通常室温〜360℃程度の温度で30分〜24時間程度熱処理することにより行われる。化学イミド化は、ポリイミド前駆体(「ポリアミド酸」ともいう。)溶液に脱水剤と触媒を加え、30〜60℃で化学的に脱水を行う。代表的な脱水剤としては無水酢酸が、触媒としてはピリジンが例示される。熱イミド化は、酸二無水物やジアミンの種類、溶剤の種類の組み合わせを選択すれば、イミド化が比較的短時間で完了し、予備加熱を含め熱処理は60分間以内で行うことも可能である。また、熱イミド化と化学イミド化の併用も可能である。ポリイミド前駆体を塗布する際、ポリイミド前駆体を公知の溶媒に溶解させたポリイミド前駆体溶液として、塗布してもよい。なお、支持基材の厚みは、例えば0.02〜1.0mm程度のものを使用するとよい。なお、ポリイミド前駆体を塗布する際、ポリイミド前駆体を公知の溶媒に溶解させたポリイミド前駆体溶液として、塗布してもよい。
【0031】
本発明の製法におけるポリイミド前駆体及びポリイミドの好ましい重合度は、ポリイミド前駆体溶液のE型粘度計による測定する粘度として1,000〜40,000cPであり、好ましくは 3,000〜5,000cPの範囲にあることがよい。また、ポリイミド前駆体の分子量はGPC法によって求めることができる。ポリイミド前駆体の好ましい分子量範囲(ポリスチレン換算)は、数平均分子量で15,000〜250,000、重量平均分子量で30,000〜800,000、好ましくは50,000〜300,000の範囲であることが望ましいが、これらは目安であり、この範囲外のポリイミドすべてが使用できないというわけではない。なお、ポリイミドの分子量も、その前駆体の分子量と同等の範囲にある。
【0032】
本発明の製法において、ポリイミド前駆体又はポリイミドに、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて各種充填剤や添加剤を配合することもできる。例えば、滑り性の向上、熱伝導性の向上などの目的で、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの無機微粒子を添加しても良い。
【0033】
支持体(支持基材)の表面上にポリイミド層を形成されたポリイミド積層体は、次に、支持体からポリイミド層を剥離してポリイミドフィルムを得る。この剥離は支持体の種類によって、適する手段が異なるので、それに適した手段を採る。支持体が銅箔等であれば、これを酸で溶解する手段等がある。支持体が樹脂(ポリイミド)フィルムである場合、25μm厚み以上、耐熱性が400℃以上のポリイミドが適する。支持体がガラス基板等の透明材料からなる場合は、レーザーリフトオフ(LLO)法が適する。LLO法では、ガラス基板側からレーザー光を照射する。レーザー光は紫外領域、好ましくは308μm付近の近紫外領域の波長を有するものであれば、本発明で得られるポリイミドフィルムに効率よく吸収されて熱を発生し、同時にガラス基板とポリイミド層との間に隙間が生じて剥離を容易又は可能とする。
【0034】
また、本発明の製法によって得られるポリイミドフィルムは、単層だけでなく、複数層のポリイミドからなるようにしてもよい。
【0035】
本発明の製法によって、薄いポリイミド層(フィルム)を支持基材上に形成でき、透明性、寸法安定性、耐熱性、支持基材からの剥離容易性において優れた性能を示す透明ポリイミドフィルムを得ることができる。すなわち、光透過率が400nmの光線では70%以上、好ましくは80%以上であり、熱膨張係数(CTE)が45ppm/K以下、好ましくは35ppm/K以下、より好ましくは30ppm/K以下であり、公知の手法によって支持基材から簡便に剥離可能である。特に、本発明の製法において、ポリイミドは、光透過率がレーザー光線の波長域(例えば308nm)にて5%以下、好ましくは3%以下であり、支持基材のガラス基板とは異なり、レーザー光が透過することなく吸収されるため、支持基材(ガラス基板)との界面において簡単に剥離し、レーザー光照射による支持基材からの剥離性(レーザーリフトオフ:LLO)に優れ、厚さ30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下の薄い透明ポリイミドフィルムを得るために好適である。
【0036】
ここで、熱膨張係数(CTE)は、別段の断りがない限り、250℃から100℃まで変化させたときの線膨張係数であり、本発明の製法におけるポリイミドは、ガラスの熱膨張係数(10ppm/K以下)との差が大きくないことから、ガラスを支持基材にした場合において形状安定性に優れる。例えば、ボトムエミッション構造又はトップエミッション構造を有する有機EL装置用TFT基板、タッチパネル基板、カラーフィルター等における機能層積層等のフレキシブルデバイスの製造時に、基板の反りを抑制でき、フレキシブルデバイスの製造歩留まりに優れる。そして、不可視光領域の光線を吸収し、可視光領域の透過率を高めることができる。この範囲であれば、可視光領域の透明性を保持しながら、308nmレーザー光(エキシマレーザー)を吸収することができる。その結果、有機EL装置用基板、タッチパネル基板、カラーフィルター基板等のフレキシブル基板を、レーザー照射することにより、透明ポリイミド層の上の表示装置にダメージを与えることなく、ポリイミド層(フィルム)をガラスから剥離させ、レーザーリフトオフ法で好適に製造することができる。黄色度(YI)が6以下、好ましくは4以下であることがよい。この範囲であれば、有機EL装置用TFT基板、タッチパネル基板、カラーフィルター基板等の透明性や無色であることを要求される基板に好適に使用できる。加えて、耐熱性の観点からは、ガラス転移温度が300℃以上、好ましくは350℃以上、より好ましくは380℃以上であり、熱分解温度(Td1)が340℃以上、好ましくは380℃以上である。
【0037】
本発明の製法で得られるポリイミドフィルムは、薄型ディスプレイやタッチパネル用途などにおいて、既存材料であるガラス基板を代替し、寸法安定性等の要求特性を満足する実用的なフレキシブル耐熱透明樹脂基板材料として好適に利用できる。すなわち、ポリイミドフィルムを基板材料として用い、その表面上に、さまざまな機能を有する素子等の機能層を形成することができる。例示すると、液晶表示装置、有機EL表示装置、タッチパネル、電子ペーパーなどの主要表示装置だけでなく、それに関連する構成部品、例えば薄膜トランジスタ(TFT)、カラーフィルター、導電性フィルム、ガスバリアフィルム、フレキシブル回路基板、接着フィルムなども形成可能である。
この場合、ポリイミドフィルムは、単層だけでなく、複数層のポリイミドからなるようにしてもよい。
【0038】
また、機能層の形成方法は、目的とするデバイスに応じて、適宜、形成条件が設定されるが、一般的には金属膜、無機膜、有機膜等をポリイミドフィルム上に成膜した後、必要に応じて所定の形状にパターニングしたり、熱処理したりするなど、公知の方法を用いて得ることができる。すなわち、これら表示素子を形成するための手段については、特に制限されず、例えば、スパッタリング、蒸着、CVD、印刷、露光、浸漬など、適宜選択されたものであり、必要な場合には真空チャンバー内などでこれらのプロセス処理を行うようにしてもよい。そして、ポリイミドフィルム上に機能層を形成した後、支持基材と機能層付ポリイミドフィルムとを分離するのは、各種プロセス処理を経て機能層を形成した直後であってもよく、又はある程度の期間を経過させて支持基材と一体にしておき、例えば表示装置として利用する直前に分離して取り除くようにしてもよい。
【0039】
本発明の製法において、支持基材上に形成されたポリイミド層(フィルム)は、さらにその上に機能層を形成した後に、支持基材からポリイミドフィルムを機能層ごと剥離する。例えば、ポリイミドフィルム上に機能層を形成する各種電子部品の組付け製造工程が完了した後、得られた支持基材上の機能層付きポリイミドフィルムについて、レーザー光の照射により、機能層付きポリイミド層(フィルム)を支持基材から剥離する。上述のとおり、エキシマレーザー(波長308nm)を用いて、支持基材(ガラス)とポリイミドフィルムとの界面に照射すれば、機能層付きのポリイミドフィルムを簡便に支持基材から剥離できる。
【0040】
なお、支持基材からポリイミドフィルムを機能層ごと剥離する際に、ポリイミドフィルムが延伸されると、リタデーションが大きくなる。このため、剥離の際にポリイミドフィルムにかかる応力が小さくなるように剥離する方法が好ましい。ポリイミドフィルムの延伸を防止するためには、支持基材上に、粘着剤等の延伸防止層を形成し、その上にポリイミド層(フィルム)を形成させ、さらにその上に機能層を形成した後に、ポリイミドフィルムを延伸防止層及び機能層ごと剥離し、剥離に必要な応力を当該他の層に分散する方法が好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例等に用いた原材料の略号を以下に示す。
・TFMB:2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル・m-TB:2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル
・AAPBZI:5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール
・AAPBZO:5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール・CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
・PMDA:ピロメリット酸二無水物
・BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
・6FDA:2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
・NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0043】
実施例等における各物性の測定方法及び評価方法を以下に示す。
[光透過率及び黄色度(YI)]
ポリイミドフィルム(50mm×50mm、厚み10〜15μm)をSHIMADZU UV-3600分光光度計にて、308nm、355nm、400nm及び430nmにおける光透過率(T308、T 355、T 400、T 430)を求めた。また、下記の計算式に基づいてYI(黄色度)を算出した。
YI=100×(1.2879X−1.0592Z)/Y
X, Y, Zは試験片の三刺激値、JIS Z 8722に規定する。
【0044】
[熱膨張係数(CTE)]
3mm×15mmのサイズのポリイミドフィルムを、熱機械分析(TMA)装置にて5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度(10℃/min)で30℃から280℃まで昇温し、次いで、250℃から100℃までの降温し、降温時におけるポリイミドフィルムの伸び量(線膨張)から熱膨張係数を測定した。
【0045】
[ガラス転移温度(Tg)]
ポリイミドフィルム(5mm×70mm)を動的熱機械分析装置にて23℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(tanδ極大値:℃)を求めた。
【0046】
[熱分解温度(Td1)]
窒素雰囲気下で10〜20mgの重さのポリイミドフィルムを、SEIKO製の熱重量分析(TG)装置TG/DTA6200にて一定の速度で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、200℃での重量を基準とし、重量減少率が1%の時の温度を熱分解温度(Td1)とした。
【0047】
[剥離性:LED]
ポリイミド層と支持基材(ガラス基板)を剥離できるまでのレーザー照射エネルギー密度(mJ/cm
2)である(略号:LED)。照射条件は、次の段落「0048」に記載した「剥離性:レーザーリフトオフ(LLO)」と同様である。エネルギー密度が高いほど剥離しにくい。レーザー照射装置の寿命を考えても、照射エネルギー密度の小さいものが好ましい。測定上限は300mJ/cm
2であり、300mJ/cm
2以下で剥離できないものは「×」とした。
【0048】
[剥離性:レーザーリフトオフ(LLO)]
エキシマレーザー加工機(波長308nm)を用いて、ビームサイズ14mm×1.2mm、移動速度6mm/s、オーバーラップ率80%のレーザーを支持基材(ガラス)側から照射し、支持基材とポリイミド層が完全に分離された状態(カッターで剥離範囲を決め、切り口を1周入れてからポリイミドフィルムがガラスから自然剥離)を「○」、塗工基材とポリイミド層の全面若しくは一部の分離が不可、又はポリイミド層が変色した状態を「×」とした。
【0049】
合成例1
ポリイミド前駆体を合成するため、窒素気流下で、100mlのセパラブルフラスコの中に、8.57gのTFMBを、85gのNMPに溶解させた。次いで、この溶液に、0.67gのAAPBZIを加えた。10分間撹拌してから、5.76gのCBDAを加えた。なお、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分のモル比は、0.99(実質等モル)とした。その後、この溶液を室温で24時間攪拌を続けて重合反応を行い、高重合度(Mw8万以上、粘度5,000cP以上)のポリアミド酸A(粘稠な無色溶液)を得た。
【0050】
合成例2〜18
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を表1及び表2に示す組成に変更した以外は、合成例1と同様にしてポリアミド酸溶液を調製し、ポリアミド酸B〜Rを得た。
【0051】
なお、表1及び表2において、ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の量の単位はgであり、括弧内の数値は、ジアミン成分又はテトラカルボン酸二無水物成分中のモル%を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1
合成例1で得られたポリイミド前駆体溶液Aに、溶剤NMPを加えて、粘度が4000cPになるように希釈した上で、ガラス基板(コーニング製E-XG、サイズ=150mm×150mm、厚み=0.7mm)上に、スピンコーターを用いて、硬化後のポリイミド厚みが15μm程度になるように塗工した。続いて、100℃で15分間加熱を行った。そして、窒素雰囲気中で、一定の昇温速度(3℃/min)で室温から300℃(比較例4は360℃)まで昇温させ、途中130℃で10min保持し、ガラス基板上に150mm×150mmのポリイミド層(ポリイミドA)を形成し、ポリイミド積層体Aを得た。
【0055】
実施例2〜11、比較例1〜7
ポリイミド前駆体Aをポリイミド前駆体B〜Rのいずれかに代えた他は、実施例1と同様にして操作を行い、ポリイミド積層体B〜Rを得た。ポリイミド前駆体とポリイミド積層体の符号は対応し、ポリイミド前駆体Bからはポリイミド積層体Bを得たことを意味し、符号C以下についても同様である。
【0056】
得られたポリイミド積層体A〜Rについて、レーザーリフトオフ(LLO)、及びLEDについて測定した。結果を表3及び表4に示す。
【0057】
上記以外の測定については、積層体からポリイミドフィルムを剥離して行ったが、この場合の積層体は、基板としてガラス基板の代わりに75μmのポリイミドフィルムを使用したほかは、上記に準じて作成した。詳細な作成条件を下記に示す。
合成例1〜15で得られたポリアミド酸溶液A〜Rに、溶剤NMPを加えて、粘度が3000cPになるように希釈した上で、75μmのポリイミドフィルム(Upilex-S)基材の上に、塗工した。続いて、100℃で15分間加熱を行った。そして、窒素雰囲気中で、一定の昇温速度(3℃/min)で室温から300℃(比較例4は360℃)まで昇温させ、途中130℃で10min保持し、ポリイミド積層フィルムを得た。その後、ポリイミド基材(Upilex-S)を剥離し、ポリアミド酸溶液A〜Rをイミド化してなる単体としてのポリイミドフィルムA〜Rを得た。上記剥離は、形成されたポリイミド層だけを、カッターで切り口を1周作って、剥離する範囲を決めてから、ピンセットで基材から剥離することによって行った。なお、これらのフィルムの厚みは、厚みの項に示した。
【0058】
得られたポリイミドフィルムA〜Rについて、それぞれのCTE、光透過率、YI、Td1及びTgなど各種評価を行った。結果を表3と表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】