特開2018-35306(P2018-35306A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2018-35306シロキサン変性キトサンの製造方法、シロキサン変性キトサン、乳化剤、及び乳化組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-35306(P2018-35306A)
(43)【公開日】2018年3月8日
(54)【発明の名称】シロキサン変性キトサンの製造方法、シロキサン変性キトサン、乳化剤、及び乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/08 20060101AFI20180209BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20180209BHJP
   C08L 5/08 20060101ALI20180209BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20180209BHJP
【FI】
   C08B37/08 A
   A61K8/73
   C08L5/08
   C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-171473(P2016-171473)
(22)【出願日】2016年9月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠幸
(72)【発明者】
【氏名】一宮 洋介
(72)【発明者】
【氏名】作田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕司
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4C083AD321
4C083AD322
4C083BB06
4C083BB34
4C083CC01
4C083EE01
4C090AA05
4C090AA07
4C090AA08
4C090BA47
4C090BB65
4C090BB68
4C090BB84
4C090BB92
4C090BB94
4C090BD02
4C090BD36
4C090BD37
4C090CA36
4C090CA38
4C090DA04
4C090DA26
4J002AB052
4J002CP031
4J002GB00
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】乳化安定性に優れた化粧料等のエマルションを調製しうる乳化剤として有用なシロキサン変性キトサンを、良好な反応効率で製造することができるシロキサン変性キトサンの製造方法を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が2,000〜200,000であり、脱アセチル化度が70〜100%であり、16メッシュの篩をパスする粒度である粉末状のキトサンと、下記一般式(1)で表されるシロキサン化合物とを反応させて、キトサンにシロキサン化合物に由来する置換基が導入されたシロキサン変性キトサンを得る工程を有し、シロキサン変性キトサンにおける置換基の導入率が、キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルであるシロキサン変性キトサンの製造方法である。
2−Si(R1a{[(OSi(R12)]b−R1c ・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が2,000〜200,000であり、脱アセチル化度が70〜100%であり、16メッシュの篩をパスする粒度である粉末状のキトサンと、下記一般式(1)で表されるシロキサン化合物とを反応させて、前記キトサンに前記シロキサン化合物に由来する置換基が導入されたシロキサン変性キトサンを得る工程を有し、
前記シロキサン変性キトサンにおける前記置換基の導入率が、前記キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルであるシロキサン変性キトサンの製造方法。
2−Si(R1a{[(OSi(R12)]b−R1c ・・・(1)
(前記一般式(1)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、R2は、その末端にエポキシ基、カルボキシ基、下記式(1−1)で表される基、下記式(1−2)で表される基、又は下記式(1−3)で表される基を有する、1以上の酸素原子を含んでいてもよい炭素数2〜20の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表し、bは1〜10の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、a+c=3である)
【請求項2】
前記シロキサン化合物が、下記式(A)〜(F)で表される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載のシロキサン変性キトサンの製造方法。
【請求項3】
触媒非存在下で、前記キトサンと、前記シロキサン化合物とを反応させる請求項1又は2に記載のシロキサン変性キトサンの製造方法。
【請求項4】
前記キトサンの粒度が、60メッシュの篩をパスする粒度である請求項1〜3のいずれか一項に記載のシロキサン変性キトサンの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシロキサン変性キトサンの製造方法によって製造されるシロキサン変性キトサン。
【請求項6】
請求項5に記載のシロキサン変性キトサンを含む乳化剤。
【請求項7】
水、乳化剤、及びシリコーンオイルからなる乳化液滴を含有する乳化組成物であって、
前記乳化剤が、請求項6に記載の乳化剤である乳化組成物。
【請求項8】
水、乳化剤、及びシリコーンオイルからなる乳化液滴を含有する乳化組成物であって、
前記乳化剤が、下記一般式(1)で表されるシロキサン化合物に由来する置換基を有するシロキサン変性キトサンであるともに、前記シロキサン変性キトサンにおける前記置換基の導入率が、キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルであり、
前記乳化液滴のメジアン径(d50)が、12.0μm以下である乳化組成物。
2−Si(R1a{[(OSi(R12)]b−R1c ・・・(1)
(前記一般式(1)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、R2は、その末端にエポキシ基、カルボキシ基、下記式(1−1)で表される基、下記式(1−2)で表される基、又は下記式(1−3)で表される基を有する、1以上の酸素原子を含んでいてもよい炭素数2〜20の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表し、bは1〜10の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、a+c=3である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン変性キトサンの製造方法、シロキサン変性キトサン、乳化剤、及び乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類にオルガノポリシロキサンをグラフトして得られるシロキサン変性多糖類は、毛髪や皮膚に用いられる皮膜形成用化粧料、ガス分離膜、感熱転写用のバックコート剤、及び塗料などに配合される成分として有用である。多糖類にオルガノポリシロキサンをグラフトさせる方法としては、例えば、特許文献1〜4で提案されている方法が知られている。
【0003】
なお、化粧料の原料として用いられる乳化剤としては、皮膚への浸透性が低い高分子量のものが求められている。例えば、特許文献5では、触媒を用いなくとも反応効率が高いために未反応物が少なく、化粧料原料としても有用なシロキサングラフト多糖類誘導体の製造方法、及びその製造方法によって製造されたシロキサングラフト多糖類誘導体を用いた化粧料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭64−8001号公報
【特許文献2】特公昭64−11201号公報
【特許文献3】特開平7−70204号公報
【特許文献4】特開平9−136901号公報
【特許文献5】特開平11−349601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シロキサン変性多糖類を化粧料の原料として用いる場合には、未反応物や触媒を予め除去しておく必要がある。但し、多糖類とオルガノポリシロキサンはいずれもポリマーであるとともに、これらの性質は大きく異なるため、多糖類とオルガノポリシロキサンの反応効率が低いような場合には精製工程が煩雑になる。また、特許文献1〜4で提案された方法により、多糖類とオルガノポリシロキサンを触媒存在下で反応させた場合であっても、反応効率が低く、未反応物が多く残存しやすいといった課題があった。さらに、特許文献5においては、製造されたシロキサングラフト多糖類誘導体を用いて調製される化粧料の乳化安定性について何ら検討されていない。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、乳化安定性に優れた乳化組成物等のエマルションを調製しうる乳化剤として有用なシロキサン変性キトサンを、良好な反応効率で製造することができるシロキサン変性キトサンの製造方法、及びこの製造方法によって製造されるシロキサン変性キトサンを提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記のシロキサン変性キトサンを用いた乳化剤、及び乳化安定性に優れた乳化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の脱アセチル化度、重量平均分子量、及び粒度のキトサンと、特定のシロキサン化合物とを反応させることによって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すシロキサン変性キトサンの製造方法が提供される。
[1]重量平均分子量が2,000〜200,000であり、脱アセチル化度が70〜100%であり、16メッシュの篩をパスする粒度である粉末状のキトサンと、下記一般式(1)で表されるシロキサン化合物とを反応させて、前記キトサンに前記シロキサン化合物に由来する置換基が導入されたシロキサン変性キトサンを得る工程を有し、前記シロキサン変性キトサンにおける前記置換基の導入率が、前記キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルであるシロキサン変性キトサンの製造方法。
2−Si(R1a{[(OSi(R12)]b−R1c ・・・(1)
(前記一般式(1)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、R2は、その末端にエポキシ基、カルボキシ基、下記式(1−1)で表される基、下記式(1−2)で表される基、又は下記式(1−3)で表される基を有する、1以上の酸素原子を含んでいてもよい炭素数2〜20の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表し、bは1〜10の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、a+c=3である)
【0009】
【0010】
[2]前記シロキサン化合物が、下記式(A)〜(F)で表される少なくとも一種の化合物である前記[1]に記載のシロキサン変性キトサンの製造方法。
【0011】
【0012】
[3]触媒非存在下で、前記キトサンと、前記シロキサン化合物とを反応させる前記[1]又は[2]に記載のシロキサン変性キトサンの製造方法。
[4]前記キトサンの粒度が、60メッシュの篩をパスする粒度である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のシロキサン変性キトサンの製造方法。
【0013】
また、本発明によれば、以下に示すシロキサン変性キトサン及び乳化剤が提供される。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のシロキサン変性キトサンの製造方法によって製造されるシロキサン変性キトサン。
[6]前記[5]に記載のシロキサン変性キトサンを含む乳化剤。
【0014】
さらに、本発明によれば、以下に示す乳化組成物が提供される。
[7]水、乳化剤、及びシリコーンオイルからなる乳化液滴を含有する乳化組成物であって、前記乳化剤が、前記[6]に記載の乳化剤である乳化組成物。
[8]水、乳化剤、及びシリコーンオイルからなる乳化液滴を含有する乳化組成物であって、前記乳化剤が、下記一般式(1)で表されるシロキサン化合物に由来する置換基を有するシロキサン変性キトサンであるともに、前記シロキサン変性キトサンにおける前記置換基の導入率が、キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルであり、前記乳化液滴のメジアン径(d50)が、12.0μm以下である乳化組成物。
2−Si(R1a{[(OSi(R12)]b−R1c ・・・(1)
(前記一般式(1)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、R2は、その末端にエポキシ基、カルボキシ基、下記式(1−1)で表される基、下記式(1−2)で表される基、又は下記式(1−3)で表される基を有する、1以上の酸素原子を含んでいてもよい炭素数2〜20の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表し、bは1〜10の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、a+c=3である)
【0015】
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、乳化安定性に優れた乳化組成物等のエマルションを調製しうる乳化剤として有用なシロキサン変性キトサンを、良好な反応効率で製造することができるシロキサン変性キトサンの製造方法、及びこの製造方法によって製造されるシロキサン変性キトサンを提供することができる。また、本発明によれば、上記のシロキサン変性キトサンを用いた乳化剤、及び乳化安定性に優れた乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<シロキサン変性キトサンの製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のシロキサン変性キトサンの製造方法は、粉末状のキトサンと、特定のシロキサン化合物とを反応させて、キトサンにシロキサン化合物に由来する置換基が導入されたシロキサン変性キトサンを得る工程(反応工程)を有する。そして、得られるシロキサン変性キトサンにおける置換基の導入率が、キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルである。
【0018】
(キトサン)
キトサンは、キチンの脱アセチル化物であり、2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース(グルコサミン)を構成単位とする塩基性多糖類である。キトサンは工業的に生産されており、種々のグレードのものを入手することができる。
【0019】
本発明の製造方法で用いるキトサンの重量平均分子量は、2,000〜200,000であり、好ましくは5,000〜150,000、さらに好ましくは10,000〜120,000である。キトサンの重量平均分子量が2,000未満であると、得られるシロキサン変性キトサンを乳化剤として用いる際に、調製されるエマルションを安定化させるために配合量を過度に増加させる必要が生ずる。さらに、キトサンの分子サイズが小さすぎると、化粧料原料として用いた場合に皮膚への浸透性が高まりやすい。一方、キトサンの重量平均分子量が200,000超であると、溶液粘度が高くなりすぎてしまい、化粧料に配合する際に制約が生ずる場合がある。
【0020】
キトサンの脱アセチル化度は、70〜100%であり、好ましくは75〜99%である。キトサンの脱アセチル化度が70%未満であると、酢酸等の溶媒への溶解性が低下する。
【0021】
キトサンの脱アセチル化度は、コロイド滴定を行い、その滴定量から算出することができる。具体的には、指示薬にトルイジンブルー溶液を用い、ポリビニル硫酸カリウム水溶液でコロイド滴定することにより、キトサン分子中の遊離アミノ基を定量し、キトサンの脱アセチル化度を求める。脱アセチル化度の測定方法の一例を以下に示す。
【0022】
(1)滴定試験
0.5質量%酢酸水溶液にキトサン純分濃度が0.5質量%となるようにキトサンを添加し、キトサンを撹拌及び溶解して100gの0.5質量%キトサン/0.5質量%酢酸水溶液を調製する。次に、この溶液10gとイオン交換水90gを撹拌混合して、0.05質量%のキトサン溶液を調製する。さらに、この0.05質量%キトサン溶液10gにイオン交換水50mL、トルイジンブルー溶液約0.2mLを添加して試料溶液を調製し、ポリビニル硫酸カリウム溶液(N/400PVSK)にて滴定する。滴定速度は2〜5ml/分とし、試料溶液が青から赤紫色に変色後、30秒間以上保持する点を終点の滴定量とする。なお、キトサン純分とは、原料キトサン試料中のキトサンの質量を意味する。具体的には、原料キトサン試料を105℃で2時間乾燥して求められる固形分質量である。
【0023】
(2)空試験
上記の滴定試験に使用した0.5質量%キトサン/0.5質量%酢酸水溶液に代えて、イオン交換水を使用し、同様の滴定試験を行う。
【0024】
(3)アセチル化度の計算
X=1/400×161×f×(V−B)/1000
=0.4025×f×(V−B)/1000
Y=0.5/100−X
X:キトサン中の遊離アミノ基質量(グルコサミン残基質量に相当)
Y:キトサン中の結合アミノ基質量(N−アセチルグルコサミン残基質量に相当)
f:N/400PVSKの力価
V:試料溶液の滴定量(mL)
B:空試験滴定量(mL)
脱アセチル化度(%)
=(遊離アミノ基)/{(遊離アミノ基)+(結合アミノ基)}×100
=(X/161)/(X/161+Y/203)×100
なお、「161」はグルコサミン残基の分子量、「203」はN−アセチルグルコサミン残基の分子量である。
【0025】
キトサンの粒度は、16メッシュの篩をパスする粒度(16メッシュパス)であり、好ましくは16メッシュの篩をパスするとともに、200メッシュの篩をパスしない粒度(200メッシュオン)であり、さらに好ましくは60メッシュの篩をパスする粒度(60メッシュパス)である。16メッシュの篩をパスしない粒度(16メッシュオン)のキトサンを用いると、シロキサン化合物に由来する置換基の導入率が低下するとともに、得られるシロキサン変性キトサンを乳化剤として用いて調製されるエマルションの乳化安定性が低下する。なお、篩の「メッシュ」は、1平方インチ当たりの篩の目の数を意味し、JIS Z 8801:2006に規定されている標準篩によるものである。
【0026】
(シロキサン化合物)
本発明の製造方法で用いるシロキサン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
2−Si(R1a{[(OSi(R12)]b−R1c ・・・(1)
(前記一般式(1)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、R2は、その末端にエポキシ基、カルボキシ基、下記式(1−1)で表される基、下記式(1−2)、又は下記式(1−3)で表される基を有する、1以上の酸素原子を含んでいてもよい炭素数2〜20の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表し、bは1〜10の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、a+c=3である)
【0027】
【0028】
1で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は、1〜10であることが好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル等の直鎖状及び分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、ノルボルニル等のシクロアルキル基などを挙げることができる。
【0029】
1で表されるアリール基の炭素数は、6〜20であることが好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アントリル、フェナントリル、o−ビフェニリル、m−ビフェニリル、p−ビフェニリルなどを挙げることができる。
【0030】
1で表されるアラルキル基の炭素数は、7〜20であることが好ましい。アラルキル基の具体例としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、ナフチルプロピルなどを挙げることができる。
【0031】
2は、キトサン中のアミノ基等の官能基との反応性を有する基(反応性基)をその末端に有する、1以上の酸素原子を含んでいてもよい炭素数2〜20の炭化水素基を表す。このような反応性基としては、エポキシ基、カルボキシ基、式(1−1)で表される基、式(1−2)、及び式(1−3)などを挙げることができる。R2の具体例としては、以下に示す基を挙げることができる。
【0032】
【0033】
本発明の製造方法で用いるシロキサン化合物としては、下記式(A)〜(F)で表される化合物が好ましい。
【0034】
【0035】
一般式(1)で示されるシロキサン化合物は、公知の方法にしたがって合成することができる。例えば、下記一般式(2)で示されるヒドロシロキサンと、下記式で表される、その末端に不飽和二重結合を有する化合物とを付加反応させることにより、一般式(1)で示されるシロキサン化合物を合成することができる。
H−Si(R1a{[(OSi(R12)]b−R1c ・・・(2)
(前記一般式(2)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、aは0〜2の整数を表し、bは1〜10の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、a+c=3である)
【0036】
【0037】
(反応工程)
反応工程では、キトサンと、シロキサン化合物とを反応させ、キトサンにシロキサン化合物に由来する置換基を導入してシロキサン変性キトサンを生成させる。
【0038】
キトサンとシロキサン化合物は、例えば、水及び水溶性有機溶媒を含有する反応溶媒中で反応させることができる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサンなどのエーテル類;N−メチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などを挙げることができる。これらの中でも、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルケトン、メチルエチルケトンがより好ましい。これらの水溶性有機溶媒は、単独で用いても混合して用いてもよい。
【0039】
反応温度は特に限定されないが、適度な加熱条件下で反応させることが好ましい。反応温度は、通常、40〜90℃、好ましくは50〜80℃である。また、反応時間についても特に限定されない。反応温度にもよるが、通常、6時間以上、好ましくは10時間以上とすればよい。なお、反応温度及び反応時間を適宜設定することで、得られるシロキサン変性キトサンにおける置換基の導入率を制御することができる。
【0040】
反応終了後、必要に応じて洗浄、精製、乾燥等することによって、所望とする本発明のシロキサン変性キトサンを得ることができる。上記の製造方法によって製造される本発明のシロキサン変性キトサンの詳細な構造を分析等により解析することは、原料として用いるキトサンが分子量の異なる種々の分子鎖を含むポリマーであること;シロキサン化合物が反応しうる反応性基がキトサンの分子中に複数存在すること;等の理由により実質的に困難である。
【0041】
<シロキサン変性キトサン、乳化剤、及び乳化組成物>
上記の製造方法によって製造される本発明のシロキサン変性キトサンにおける、シロキサン化合物に由来する置換基の導入率は、キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルであり、好ましくは0.05〜0.38モル、さらに好ましくは0.06〜0.35モルである。置換基の導入率が上記の範囲内である本発明のシロキサン変性キトサンは、乳化安定性に優れた乳化組成物(エマルション)を調製しうる乳化剤として有用である。なお、置換基の導入率が0.01モル未満であると、乳化剤としての機能が発揮されない。一方、置換基の導入率が0.4モル超であると、酢酸等の溶媒への溶解性が低下してしまい、乳化剤としての機能が発揮されない。
【0042】
<乳化組成物>
上記のシロキサン変性キトサンを含む乳化剤、実質的には上記のシロキサン変性キトサンからなる乳化剤を用いれば、乳化安定性に優れた乳化組成物を調製することができる。すなわち、本発明の乳化組成物は、水、乳化剤、及びシリコーンオイルからなる乳化液滴を含有する乳化組成物であり、乳化剤が、一般式(1)で表されるシロキサン化合物に由来する置換基を有するシロキサン変性キトサンである。このシロキサン変性キトサンにおける置換基の導入率は、キトサンを構成するピラノース環1モル当たり、0.01〜0.4モルである。
【0043】
本発明の乳化組成物は、前述のシロキサン変性キトサン(乳化剤)によって調製されるものであるため、微細な乳化液滴が形成されており、乳化安定性に優れたものである。より具体的には、乳化組成物中の乳化液滴のメジアン径(d50)は、12.0μm以下であり、好ましくは10.0μm以下、さらに好ましくは8.0μm以下である。なお、乳化液滴のメジアン径(d50)の下限値については特に限定されないが、実質的には0.3μm以上であればよい。
【0044】
本発明の乳化組成物は、一般式(1)で表されるシロキサン化合物に由来する置換基を有するシロキサン変性キトサンを乳化剤として用いること以外は、従来公知の乳化組成物の調製方法にしたがって調製することができる。シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のストレートシリコーンオイルの他;アミノ変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル等の各種の変性シリコーンオイルを挙げることができる。但し、シリコーンオイルの種類は特に限定されず、得られる乳化組成物の用途等に応じて適宜選択して用いることができる。
【0045】
本発明のシロキサン変性キトサンは、化粧品、塗料、製紙、繊維、建材、土木、食品、医薬、及びその他の分野において、増粘剤、分散剤、表面改質剤、展着剤、保護コロイド剤、保水剤などの広範な用途に利用可能である。
【実施例】
【0046】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0047】
<シロキサン化合物の用意>
下記式(A)〜(F)で表されるシロキサン化合物A〜Fを用意した。
【0048】
【0049】
<シロキサン変性キトサンの製造>
(実施例1)
キトサン(重量平均分子量100,000、脱アセチル化度95%、16メッシュパス)50部、イソプロピルアルコール(IPA)1,000部、水250部、及びシロキサン化合物A30部を反応容器に仕込み、撹拌下、70℃で30時間反応させた。冷却後、得られた反応混合物をイソプロピルアルコールで洗浄した。次いで、50℃で乾燥させて、シロキサン変性キトサン54部を得た。
【0050】
(実施例2〜13、比較例1〜4)
表1−1及び1−2に示す配合及び反応条件としたこと以外は、前述の実施例1と同様にしてシロキサン変性キトサンを得た。シロキサン変性キトサンの収量を表1−1及び1−2に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
<評価>
(置換基の導入率の測定)
得られたシロキサン変性キトサンを元素分析し、キトサン由来の窒素原子の割合から、置換基の導入率(キトサンを構成するピラノース環1モル当たりの置換基のモル数)を算出した。結果を表2に示す。
【0054】
(赤外吸収スペクトルの測定)
得られたシロキサン変性キトサンの赤外吸収スペクトルを測定し、1,100〜1,000cm-1付近におけるシロキサン結合(Si−O−Si)に由来するピークの有無、及び1,250cm-1付近におけるSi−CH3結合に由来するピークの有無を確認した。結果を表2に示す。
【0055】
(酢酸への溶解性)
得られたシロキサン変性キトサンの1%水分散液を調製した。調製した水分散液を等量の酢酸と混合し、以下に示す評価基準にしたがってシロキサン変性キトサンの酢酸への溶解性を評価した。結果を表2に示す。
◎:透明に溶解する。
○:ほぼ透明に溶解する。
△:濁りを生じるが不溶解分による溶け残りはなし。
×:懸濁状態で溶解しない。
【0056】
(乳化液滴径の測定)
得られたシロキサン変性キトサン1部、酢酸1部、水48部、及びジメチルシリコーンオイル(25℃における動粘度が6mm2/s)50部を混合し、ディゾルバーで撹拌して乳化液を調製した。レーザー回折粒度分布測定装置を使用して調製した乳化液中のジメチルシリコーンオイルの液滴径(乳化液滴径(メジアン径))を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
<乳化組成物の調製>
(実施例14)
実施例2で調製したシロキサン変性キトサン0.5部、転相水21.0部、及び乳酸0.3部を混合し、シロキサン変性キトサンを溶解させて均一な溶液を得た。得られた溶液にジメチルシリコーンオイル(6mm2/s)50.0部をベースオイルとして加えた後、ディスパーミキサーを使用し、3,000rpmで3分撹拌した。次いで、希釈水53.2部を加えて乳化組成物を得た。得られた乳化組成物の25℃における粘度は98mPa・sであり、乳化液滴径(メジアン径)は10.5μmであった。
【0059】
(実施例15〜20)
表3に示す種類のベースオイルを用いたこと以外は、前述の実施例14の場合と同様にして乳化組成物を得た。なお、実施例15及び17については、得られた乳化組成物を100MPaの加圧条件でガウリンホモジナイザーに1回通す高圧乳化処理を行った。また、表3中の「アミノ変性シリコーンオイル」及び「アルキル変性シリコーンオイル」の構造式を下記式(I)及び(II)に示す。なお、「アルキル変性シリコーンオイル」は、下記式(II)中のnの値が「12」のものと、「13」のものとの1:1(質量比)混合物である。得られた乳化組成物の粘度及び乳化液滴径(メジアン径)を表3に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
(比較例5、6)
実施例2で調製したシロキサン変性キトサンに代えて、(1)ポリオキシエチレン(EO=4モル)ラウリルエーテル0.24部又はポリオキシエチレン(EO=23モル)ラウリルエーテル0.36部を用いたこと;及び(2)乳酸を加えずにディスパーミキサーを使用して撹拌したこと以外は、前述の実施例14の場合と同様の操作を行った。しかし、転相水10.0〜21.0部の範囲で転相を確認することができず、乳化組成物を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法によって製造されるシロキサン変性キトサンは、化粧料などの乳化組成物を調製するための乳化剤として有用である。