特開2018-44124(P2018-44124A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-44124(P2018-44124A)
(43)【公開日】2018年3月22日
(54)【発明の名称】注入材、注入材の充填方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20180223BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20180223BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20180223BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20180223BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20180223BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20180223BHJP
【FI】
   C09K17/02 P
   C04B28/02
   C04B18/14 A
   C04B14/10 B
   C09K17/10 P
   E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-181960(P2016-181960)
(22)【出願日】2016年9月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正博
(72)【発明者】
【氏名】川上 明大
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040AB01
2D040CA01
2D040CA04
2D040CA10
2D040CB03
2D040CC02
4G112PA06
4G112PA29
4H026CA01
4H026CA05
4H026CB01
4H026CC03
(57)【要約】
【課題】空隙への注入時に十分な可塑性を発現し、空隙からの流出を抑制することができると共に、比較的高い圧縮強度を発現する注入材を提供することを課題とする。
【解決手段】セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されており、ベントナイトの膨潤力は、25ml/2g未満であり、セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、ベントナイトの質量に対する水の質量の比は、5.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されており、
ベントナイトの膨潤力は、25ml/2g未満であり、
セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、
ベントナイトの質量に対する水の質量の比は、5.0以下である
注入材。
【請求項2】
空隙へ向かって圧送されて該空隙へ充填される注入材であって、
セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されており、
ベントナイトの膨潤力は、25ml/2g未満であり、
セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、
ベントナイトの質量に対する水の質量の比は、5.0以下である
注入材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の注入材を空隙へ向かって圧送し、該注入材を空隙へ充填する注入材の充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空隙に注入可能な注入材に関し、特に、可塑性を有する注入材、及び、該注入材の充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、構造物に形成される空隙(亀裂や空洞など)に注入されて硬化するように構成された注入材が知られている。斯かる注入材は、注入直後に空隙から流出してしまうのを防止するために、ある程度の可塑性を有するように構成される。
【0003】
このような注入材としては、水硬性材料であるセメントと水とを含むA液と、可塑性を付与するベントナイトと水とを含むB液とが混合されて形成されるものが知られている(特許文献1参照)。前記A液及びB液は、注入材よりも流動性が良好なものであるため、ポンプ等を用いて長距離の圧送を行うことができる。このため、注入材そのものの長距離圧送が困難な場合であっても、A液及びB液を別々に長距離圧送し、空隙の直前でA液とB液とを混合して注入材を形成することで、空隙から比較的遠くへ離れた位置から空隙への注入材の注入を行うことができる。
【0004】
ところで、上記のような二液型の注入材では、A液を圧送する設備とB液を圧送する設備とが必要になるため、比較的大がかりな設備が必要になる。このため、より簡易な設備で使用できる一液型の注入材が提案されている(特許文献2参照)。斯かる一液型の注入材を空隙へ注入する方法としては、あらかじめ、セメント、ベントナイト、水等のすべての成分を混練して注入材を形成し、該注入材を圧送して空隙へ注入するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−310779号公報
【特許文献2】特開2002−155277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の一液型の注入材では、膨潤力が比較的高いベントナイトが使用されているため、混練性を確保するべく、ベントナイトに対する水の量が比較的多くなるように構成されている。このような水量の注入材は、硬化した際の圧縮強度が比較的低いものとなってしまう。また、上記の一液型の注入材では、良好な圧送性を得るべく、混練直後のフロー値が比較的高くなるように構成されている。つまり、上記の一液型の注入材は、十分に可塑していない状態で、空隙へ注入されるため、空隙の形状や位置等によっては、空隙から流出してしまう虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、空隙への注入時に十分な可塑性を発現し、空隙からの流出を抑制することができると共に、比較的高い圧縮強度を発現する注入材、及び、該注入材の充填方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る注入材は、セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されており、ベントナイトの膨潤力は、25ml/2g未満であり、セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、ベントナイトの質量に対する水の質量の比は、5.0以下である。
【0009】
本発明に係る注入材は、空隙へ向かって圧送されて該空隙へ充填される注入材であって、セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されており、ベントナイトの膨潤力は、25ml/2g未満であり、セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、ベントナイトの質量に対する水の質量の比は、5.0以下である。
【0010】
斯かる構成によれば、セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されており、ベントナイトの膨潤力が25ml/2g未満という比較的低い膨潤力であり、セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、ベントナイトの質量に対する水の質量の比は、5.0以下であることで、膨潤力の比較的高いベントナイトを使用する場合よりも、注入材を形成する水量を比較的低く設定することができる。これにより、注入材が硬化した際に発現する圧縮強度を比較的高くすることができる。更に、上記のような配合であることで、ベントナイトのみの作用によって可塑性が発現する場合よりも、高い可塑性を発現させることができるため、空隙へ注入された注入材が空隙から流出してしまうのを抑制することができる。
【0011】
本発明に係る注入材の充填方法は、上記の何れかに記載の注入材を空隙へ向かって圧送し、該注入材を空隙へ充填する。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、空隙への注入時に十分な可塑性を発現し、空隙からの流出を抑制することができると共に、比較的高い圧縮強度を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
本発明に係る注入材は、構造物に形成される空隙(亀裂や空洞など)に注入されて硬化するように構成されたものである。具体的には、前記注入材は、セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されるものである。
【0015】
前記セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、超速硬セメント、アルミナセメント等を挙げることができる。また、ポルトランドセメントにフライアッシュなどを混練した各種混練セメントも使用することができる。前記セメントとしては、特に普通ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0016】
前記高炉スラグとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定されるものを用いることができる。注入材に高炉スラグが含まれることで、注入材が硬化した後の強度発現が良好なものとなる。
【0017】
前記ベントナイトとしては、膨潤力が25ml/2g未満のものであり、7ml/2g以上18ml/2g以下であってもよい。ベントナイトの膨潤力が上記の値であることで、注入材に充分な可塑性を付与できると同時に、比較的短時間の混練でも混練直後に可塑性を発現させることができる。膨潤力とは、日本ベントナイト工業会「ベントナイト(粉状)の膨潤試験方法(JBAS−104)」によって求められるものである。
【0018】
前記水としては、特に限定されるものではなく、例えば、一般的な水道水(上水)を用いることができる。また、ベントナイトの質量に対する水の質量比としては、5.0以下であり、4.0以上5.0以下であることが好ましい。また、セメントと高炉スラグとベントナイトとの合計質量(以下、粉体成分の質量とも記す)に対する水の質量比としては、0.4以上0.8以下であることが好ましい。
【0019】
前記注入材には、他の成分が含まれてもよい。例えば、混和材、細骨材、粗骨材、減水剤、遅延剤、及び、分散剤等から選択される一つ以上が注入材に含まれてもよい。混和材としては、フライアッシュ、シリカフューム、石膏、石灰石微粉末、生石灰微粉末等が挙げられる。
【0020】
注入材を構成する各成分の含有量は、特に限定されるものではない。具体的には、ベントナイトの質量に対するセメントと高炉スラグとの合計質量の比は、6以上8以下であることが好ましく、7以上8以下であることが好ましい。また、セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、0.05以上0.3以下であることが好ましい。また、前記粉体成分の質量に対するセメントの質量割合としては、1質量%以上55質量%以下であることが好ましい。また、ベントナイトの質量に対するセメントの質量の比としては、0.3以上5以下であることが好ましい。
【0021】
上記のように構成される注入材のフロー値としては、注入材が空隙に注入された後に、該空隙から注入材が流出しない程度のフロー値であれば、特に限定されるものではない。例えば、注入材のフロー値としては、可塑による限定領域注入の観点から、150mm以下であることが好ましく、120mm以下であることがより好ましい。また、圧送性を考慮した場合、注入材のフロー値としては、一般的なコンクリートやモルタルを圧送する設備を用いて圧送可能なフロー値であることが好ましく、例えば、80mm以上であることが好ましく、100mm以上であることがより好ましい。なお、注入材のフロー値とは、下記の実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0022】
また、上記のように構成される注入材が硬化した際の圧縮強度としては、特に限定されるものではなく、例えば、12N/mm以上であることが好ましく、15N/mm以上であることがより好ましい。なお、圧縮強度は、下記の実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0023】
上記のように構成される注入材を作製する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、まず初めに、セメントと高炉スラグとベントナイトとを混合して粉体混合物を作製する。注入材に他の粉体成分を配合する場合には、セメント、高炉スラグ、及び、ベントナイトと共に他の粉体成分も混合して粉体混合物を作製してもよい。粉体混合物を作製する際の混合方法は、特に限定されるものではなく、例えば、V型混合機、ナウターミキサー、パン型ミキサー、リボン型ミキサー等の粉体混合装置を用いることができる。次に、前記粉体混合物に水を添加して混練することで注入材が作製される。粉体混合物と水とを混練する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ハンドミキサー、モルタルミキサー等の混練装置を用いることができる。
【0024】
上記のように作製された注入材は、空隙へ向けて圧送される。具体的には、上記のような注入材は、作製後、比較的早期に上記のようなフロー値になるような可塑性を発現するため、圧送距離が比較的短い(例えば、30m程度の)小規模な施工現場において好適に用いられる。
【0025】
以上のように、本発明の注入材、及び、該注入材の充填方法は、空隙への注入時に十分な可塑性を発現し、空隙からの流出を抑制することができると共に、比較的高い圧縮強度を発現することができる。
【0026】
即ち、セメントと、高炉スラグと、ベントナイトと、水とが混練されて形成されており、ベントナイトの膨潤力が25ml/2g未満という比較的低い膨潤力であり、セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比は、0.05以上0.6以下であり、ベントナイトの質量に対する水の質量の比は、5.0以下であることで、膨潤力の比較的高いベントナイトを使用する場合よりも、注入材を形成する水量を比較的低く設定することができる。これにより、注入材が硬化した際に発現する圧縮強度を比較的高くすることができる。更に、上記のような配合であることで、ベントナイトのみの作用によって可塑性が発現する場合よりも、高い可塑性を発現させることができるため、空隙へ注入された注入材が空隙から流出してしまうのを抑制することができる。
【0027】
なお、本発明に係る注入材は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
<使用材料>
・セメント(記号NC):普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
・高炉スラグ(記号S):エスメント(日鉄住金高炉セメント社製)
・ベントナイト1(記号B1):商品名 浅間(膨潤力7ml/2g、ホージュン社製)
・ベントナイト2(記号B2):商品名 穂高(膨潤力18ml/2g、ホージュン社製)
・ベントナイト3(記号B3):商品名 スーパークレイ(膨潤力30ml/2g、ホージュン社製)
・水(記号W):水道水
【0030】
<実施例・比較例の配合>
上記の各使用材料を用いて、表1〜4に示す配合で各実施例及び各比較例の注入材を作製した。
また、表4における「W/P」は、粉体成分の質量に対する水の質量の比である。
また、表4における「(S+NC)/B」は、ベントナイトの質量に対するセメントと高炉スラグとの合計質量の比である。
また、表4における「NC/(S+NC)」は、高炉スラグとセメントとの合計質量に対するセメントの質量の比である。
また、表4における「W/B」は、ベントナイトの質量に対する水の質量の比である。
【0031】
<注入材の作製>
各実施例及び各比較例の注入材の作製方法は、以下の通りである。具体的には、セメントと高炉スラグとベントナイトとを混合装置を用いて混合して粉体混合物を作製した。
得られた粉体混合物と水とを混練して各実施例及び各比較例の注入材を作製した。混練条件としては、1100rpmハンドミキサーを使用し、所定量の水を計量した容器に、粉体を投入後、2分30秒混練、掻き落とし後、30秒混練し、練り上りとした。
【0032】
<フロー値の測定>
各実施例及び各比較例における注入材のフロー値を、日本道路公団規格JHS-A-313-1992「エアモルタル及びエアミルクの試験方法 シリンダー法による注入材のコンシステンシー試験」に基づいて測定した。フロー値の測定結果は、下記表4に示す。
【0033】
<圧縮強度の測定>
各実施例及び各比較例における注入材の圧縮強度を、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験」に基づいて測定した。圧縮強度の測定結果は、下記表4に示す。なお、測定時に自立しないものは、硬化せずとした。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
<まとめ>
表4を見ると、各実施例は、比較例4〜6よりも圧縮強度が高く、且つ、比較例1よりもフロー値が小さくなることが認められる。つまり、膨潤力が25ml/2g未満であるベントナイトを使用し、ベントナイトの質量に対する水の質量の比が5.0以下であるという比較的水量の少ない注入材において、セメントと高炉スラグとの合計質量に対するセメントの質量の比が0.05以上0.6以下となるように、セメントの含有量を調整することで、圧送可能な程度で十分な可塑性を発現すると共に、空隙に注入されて硬化した際に比較的高い圧縮強度を発現する注入材となることが認められる。