特開2018-52837(P2018-52837A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人理化学研究所の特許一覧 ▶ 動物アレルギー検査株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧

<>
  • 特開2018052837-エボラウイルスワクチン 図000021
  • 特開2018052837-エボラウイルスワクチン 図000022
  • 特開2018052837-エボラウイルスワクチン 図000023
  • 特開2018052837-エボラウイルスワクチン 図000024
  • 特開2018052837-エボラウイルスワクチン 図000025
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-52837(P2018-52837A)
(43)【公開日】2018年4月5日
(54)【発明の名称】エボラウイルスワクチン
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/04 20060101AFI20180309BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20180309BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20180309BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20180309BHJP
【FI】
   C07K7/04ZNA
   A61P31/14
   A61P37/02
   A61K39/00 H
   A61K39/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-188897(P2016-188897)
(22)【出願日】2016年9月27日
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】508141391
【氏名又は名称】動物アレルギー検査株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】増田 健一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】石井 保之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 礼人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 学
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隼輝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】奈良 拓也
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085AA38
4C085BB11
4C085CC32
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF12
4C085FF21
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA57
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA33
4H045GA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エボラウイルス感染を予防又は治療するために有用な薬剤の提供。
【解決手段】樹状コアと、前記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の抗原ペプチドを含む多重抗原ペプチドであって、スペーサーを介して結合された抗原ペプチドが、特定の32のアミノ酸からなる配列中の、連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、多重抗原ペプチド、並びに、該多重抗原ペプチドを含む免疫誘導剤。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹状コアと、前記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の抗原ペプチドを含む多重抗原ペプチドであって、スペーサーを介して結合された抗原ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、多重抗原ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号8〜12のアミノ酸配列中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、請求項1に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号2、配列番号3もしくは配列番号4のアミノ酸配列中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、請求項1に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが配列番号5のアミノ酸配列中の連続する7〜11アミノ酸からなるペプチド、配列番号32のアミノ酸配列中の連続する7又は8アミノ酸からなるペプチドもしくは配列番号6のアミノ酸配列中の連続する7〜9アミノ酸からなるペプチド、又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、請求項1又は3に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項5】
前記スペーサーを介して結合された抗原ペプチドがすべて同一のペプチドである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項6】
前記樹状コアが、複数のリジン残基を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項7】
前記樹状コアが、システイン残基をさらに含む、請求項6に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項8】
前記スペーサーがポリオキシアルキレン鎖を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項9】
前記多重抗原ペプチドが、下記の式I
【化1】
[式中、Rは、
【化2】
である。]
によって表されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の1種又は少なくとも2種の多重抗原ペプチドを有効成分として含有する、免疫誘導剤。
【請求項11】
インターフェロンγ産生能を有するアジュバントをさらに含む、請求項10に記載の免疫誘導剤。
【請求項12】
前記アジュバントがα−ガラクトシルセラミド又はその類縁体である、請求項11に記載の免疫誘導剤。
【請求項13】
哺乳動物においてエボラウイルス感染を治療又は予防するために使用される、請求項10〜12のいずれか1項に記載の免疫誘導剤。
【請求項14】
製薬的に許容可能な担体を含む、請求項10〜13のいずれか1項に記載の免疫誘導剤。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の免疫誘導剤を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物においてエボラウイルス感染を治療又は予防するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エボラウイルス感染を予防又は治療するための、多重抗原ペプチド(Multiple Antigen Peptide; MAP)、該MAPを含む免疫誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エボラウイルスは、マイナス1本鎖RNAウイルスであり、フィロウイルス科エボラウイルス属に分類される。このウイルスは、ヒトなどの霊長類に重篤なエボラ出血熱を引き起こし、その致死率は極めて高い。
【0003】
国立感染症研究所(東京、日本)が公表する情報によると、当該ウイルスは、対象の血液等の体液を介して、粘膜や傷口から体内に侵入し、初めに単球/マクロファージおよび樹状細胞等で増殖した後、全身の血管内皮細胞や臓器の実質細胞に感染が広がり、そこでもウイルスが増殖することで細胞の機能障害、ひいては全身の各臓器の機能的障害を引き起こす。エボラウイルスが感染したマクロファージからは様々なサイトカイン等が大量に放出され、血液凝固系の破綻、血漿漏出、多臓器不全などが起こる可能性が指摘されている。エボラウイルス属には、進化系統的に異なる5種が知られている:ザイールエボラウイルス(Zaire ebolavirus)、スーダンエボラウイルス(Sudan ebolavirus)、レストンエボラウイルス(Reston ebolavirus)、タイフォレストエボラウイルス(Tai forest ebolavirus)、ブンジブギョウイルス(Bundibugyo virus)。
【0004】
幾つかの研究によれば、エボラウイルスの膜貫通糖タンパク質(GP)に対する特異的抗体を非ヒト霊長類に投与したところ、エボラウイルス感染の防御に成功している。実際にヒトへの応用において治療用抗体として特徴が明らかになったもの全てがGPに対する特異的抗体である。
【0005】
エボラウイルスに対するペプチドワクチンの例は少なく、例えばエボラウイルスのGPと実質的に同一の抗原性を有する人工ポリペプチド(特許文献1)、エボラウイルス由来の特定のアミノ酸配列を含み、9〜11アミノ酸の長さを有する、HLA−A*0201に拘束されたエボラウイルスワクチンとして有用なペプチドを結合したリポソーム(特許文献2)などが報告されている。また、これまでザイールエボラウイルスについて、ウイルス侵入に重要な残基は、エボラウイルスGPタンパク質のLys114, Lys115, Lys140, Gly143, Pro146及びCys147であり、また受容体結合に関係する残基は、Phe88, Ile113, Pro116, Asp117, Gly118, Ser119, Glu120, Arg136, Tyr137, Val138, His139, Val141, Ser142, Thr144, Gly145, Arg172及びGly173であること(例えば、非特許文献1)が報告されてきた。しかしながら、エボラウイルスに対する有効なペプチドワクチンは未だ開発されていない。
【0006】
加えて、上記の各エボラウイルス種間ではGPの抗原性が異なるため、汎用的な(広域な交差反応性を示す)治療抗体の開発は困難を極めており、ワクチン開発においても同様である。非特許文献2では、GP、マトリックスタンパク質VP40及び核タンパク質NPを発現するための各プラスミドを等量でHEK293T細胞に導入し、その培養上清から精製されたウイルス様粒子を15週齢BALB/cマウスに免疫して、汎用的なエボラウイルス治療用抗体を得ることに成功した。しかしながら、変異を獲得して抗体認識を逃れるウイルス株に対しては効果を失うため、再び変異株に対しても効果を有する同様の抗体を得ることが難しい状況である。
【0007】
近年では合成ペプチドワクチンの開発が盛んに行われるようになった。そのなかで特に、多重抗原ペプチド(MAP)が注目されている。MAPペプチドは、例えばアミノ酸の一つである複数のリジン(Lys)および、場合により、システイン(Cys)を含む結合体をコアとし、Lysの場合そのαアミノ基とεアミノ基に、あるいは、Cysの場合、スルフヒドリル基にペプチド(細胞が認識する抗原の一部分)を結合させることによって得ることができる。
【0008】
例えば、特許文献3には、肺炎双球菌に対してMAPを使用している。具体的には、肺炎双球菌の抗原のペプチドから2箇所を選定し、この2種類のペプチドを交互に、合計4つのペプチドを有するMAP−4構造を作ったことが記載されている。その他、MAPの作製に関しては、特許文献4、特許文献5、非特許文献3〜5にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−265197号公報
【特許文献2】特開2014−005205号公報
【特許文献3】特開2011−57691号公報
【特許文献4】国際公開WO1993/022343A1
【特許文献5】国際公開WO2015/190555A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.E. Lee and E.O. Saphire, Future Virol. 2009, 4(6):621-635
【非特許文献2】Wakako Furuyama et al., Scientific Reports 2016, 6:20514−20523
【非特許文献3】Myron Christodoulides and John E. Heckels, Microbiology 1994, 140:2951−2960
【非特許文献4】Manju B. Joshi et al., Infection and Immunity 2001, 69:4884−4890
【非特許文献5】Jon Oscherwitz et al., Infection and Immunigy 2009, 77:3380−3388
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、エボラウイルス由来のペプチドを用いてエボラウイルス感染を予防又は治療するための汎用的な免疫誘導剤(例えばワクチン)を提供することである。
【0012】
上記の背景技術の欄に記載したように、複数種に渡って効果を有する汎用的なエボラウイルスに対するワクチン開発が望まれており、とりわけ変異株に対しても対応可能となる実用可能な免疫誘導剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。各種のエボラウイルスのGPのアミノ酸配列から特定の部分を汎用的な抗原ペプチドとして最適であることを見出し、当該抗原ペプチドを複数有する多重抗原ペプチドを開発したところ、当該ペプチドに対するIgG抗体の産生が確認され、ワクチンとしても使用可能な免疫誘導剤に関する本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
(1)樹状コアと、該樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の抗原ペプチドを含む多重抗原ペプチドであって、スペーサーを介して結合された抗原ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、多重抗原ペプチド。
(2)上記ペプチドが、配列番号8〜12のアミノ酸配列中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は該ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、上記(1)に記載の多重抗原ペプチド。
(3)上記ペプチドが、配列番号2、配列番号3もしくは配列番号4のアミノ酸配列中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は該ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、上記(1)に記載の多重抗原ペプチド。
(4)上記ペプチドが配列番号5のアミノ酸配列中の連続する7〜11アミノ酸からなるペプチド、配列番号32のアミノ酸配列中の連続する7又は8アミノ酸からなるペプチドもしくは配列番号6のアミノ酸配列中の連続する7〜9アミノ酸からなるペプチド、又は該ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、上記(1)又は(3)に記載の多重抗原ペプチド。
(5)上記スペーサーを介して結合された抗原ペプチドがすべて同一のペプチドである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(6)上記樹状コアが、複数のリジン残基を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(7)上記樹状コアが、システイン残基をさらに含む、上記(6)に記載の多重抗原ペプチド。
(8)上記スペーサーがポリオキシアルキレン鎖を含む、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(9)上記多重抗原ペプチドが、下記の式I
【化1】
[式中、Rは、
【化2】
である。]
によって表されることを特徴とする、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の1種又は少なくとも2種の多重抗原ペプチドを有効成分として含有する、免疫誘導剤。
(11)インターフェロンγ産生能を有するアジュバントをさらに含む、上記(10)に記載の免疫誘導剤。
(12)前記アジュバントがα−ガラクトシルセラミド又はその類縁体である、上記(11)に記載の免疫誘導剤。
(13)哺乳動物においてエボラウイルス感染を治療又は予防するために使用される、上記(10)〜(12)のいずれかに記載の免疫誘導剤。
(14)製薬的に許容可能な担体を含む、上記(10)〜(13)のいずれかに記載の免疫誘導剤。
(15)上記(10)〜(14)のいずれかに記載の免疫誘導剤を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物においてエボラウイルス感染を治療又は予防するための方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エボラウイルスの表面糖タンパク質(GP)由来の特定領域のペプチドを樹状コアに結合して製造された多重抗原ペプチド(MAP)が、哺乳動物においてIgG抗体価を上昇させ、ワクチンとして機能しうるという効果を有する。従来、エボラウイルス感染に対する有効な予防法又は治療法がなかったことを考慮するならば、本発明の効果は優れたものであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この図は、MAP−4、MAP−8などのMAP構造を示す。
図2】この図は、マウスにエボラ1MAP4を静脈内投与したときのエボラ1に対するIgG抗体価の測定結果を示す。
図3】この図は、マウスにエボラ1MAP4を腹腔内投与したときのエボラ1に対するIgM抗体価の測定結果を示す。
図4】この図は、マウスにエボラ1MAP4及びエボラ2MAP4を同時に(混合して)腹腔内投与したときのエボラ1及びエボラ2に対するIgG抗体価の測定結果を示す。
図5】この図は、マウスにエボラ1MAP4及びエボラ2MAP4を同時に(混合して)腹腔内投与したときのエボラ1及びエボラ2に対するIgM抗体価の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.多重抗原ペプチド
本発明は、第1の態様により、樹状コアと、該樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の抗原ペプチドを含む多重抗原ペプチドであって、スペーサーを介して結合された抗原ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、多重抗原ペプチドを提供する。
【0018】
本明細書中で使用する「多重抗原ペプチド」(MAP)は、樹状高分子(すなわち、デンドリマー)構造を有する樹状コアと、当該コアの樹状末端に直接又はスペーサーを介して結合した複数個の同種又は異種のエボラウイルス表面糖タンパク質由来のペプチドとを含む高分子物質である。
【0019】
本明細書で使用する「前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチド」とは、上記抗原ペプチド内のアミノ酸と置換するアミノ酸が、システイン(Cys)以外の任意のアミノ酸であり、好ましくは被置換アミノ酸と類似の化学的性質(疎水性、極性、陽イオン性、陰イオン性、電気的中性など)もしくは構造的性質(分枝構造、芳香族性など)をもつアミノ酸であるペプチドをいう。
【0020】
樹状コアは、上記のエボラウイルス表面糖タンパク質由来のペプチド(以下、便宜的に「抗原ペプチド」とも呼ぶ)を複数個、好ましくは4〜8個を結合するための樹状の支持コアである。樹状コアは、通常知られる構造であってよく、樹状ポリマーは少なくとも2個の官能基をもつコア分子から発生する2またはそれ以上の同一の枝を基礎とするものを好適に選択すればよい。当該樹状コアは樹状ポリマーとも呼ばれ、例えば米国特許第4,289,872号、米国特許第4,515,920号等に記載された構造体が挙げられるがこれらに限定されず、製造上の簡便さなどから好ましくは複数のリジン残基(K)を含むペプチドである。当該リジン残基を含むペプチドは、さらにシステイン残基(C)を含んでもよい。例えば、3個のリジン残基(K)からなるK−K−K構造の場合、各末端のリジン残基(K)のα−アミノ基側とε−アミノ基側にそれぞれ1個の上記抗原ペプチドを結合することができる。この場合、最高4個の抗原ペプチドを結合することができる。また、リジン残基(K)には、そのα−カルボキシル基を介してスペーサーペプチドを結合してもよい。スペーサーペプチドは、好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸残基からなるペプチドであり、例えばK−K−C、K−βA−C(ここで、βAはβ−アラニン残基を表し、Cはシステイン残基を表す。)などを挙げることができる。スペーサーペプチドのN末端のアミノ酸残基には、例えばリジン残基(K)であれば、そのα−アミノ基を介して上記と同様の最高4個の抗原ペプチドを結合したK−K−K−構造を連結することができる。この場合、作製されるMAPは最高8個の抗原ペプチドを有する。
【0021】
本発明によれば、上記抗原ペプチドは、エボラウイルスの糖タンパク質に由来する。
エボラウイルスには、当該ウイルス感染が発生した地域により、ザイールエボラウイルス(Zaire ebolavirus)、スーダンエボラウイルス(Sudan ebolavirus)、レストンエボラウイルス(Reston ebolavirus)、タイフォレストエボラウイルス(Tai forest ebolavirus)、ブンジブギョウイルス(Bundibugyo virus)が報告されており、上記例示のエボラウイルス由来の糖タンパク質のアミノ酸配列は、例えば米国NCBIのGenBank登録番号KR534526(Zaire ebolavirus)、FJ968794(Sudan ebolavirus)、NC_004161(Reston ebolavirus)、FJ217162(Tai forest ebolavirus)、KR063673(Bundibugyo ebolavirus)などに記載されている配列である。
【0022】
例えばZaire ebolavirusゲノムの糖タンパク質遺伝子(KR534526)のヌクレオチド番号5900..8305は、spike glycoprotein precursor(配列番号7)をコードしている。また、この配列に対応する他の種のエボラウイルス由来の糖タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列は、GenBank登録番号FJ968794、NC_004161、FJ217162、KR063673などに記載されている配列である。
配列番号7:
MGVTGILQLPRDRFKRTSFFLWVIILFQRTFSIPLGVIHNSTLQVSDVDKLVCRDKLSSTNQLRSVGLNLEGNGVATDVPSVTKRWGFRSGVPPKVVNYEAGEWAENCYNLEIKKPDGSECLPAAPDGIRGFPRCRYVHKVSGTGPCAGDFAFHKEGAFFLYDRLASTVIYRGTTFAEGVVAFLILPQAKKDFFSSHPLREPVNATEDPSSGYYSTTIRYQATGFGTNEAEYLFEVDNLTYVQLESRFTPQFLLQLNETIYASGKRSNTTGKLIWKVNPEIDTTIGEWAFWETKKNLTRKIRSEELSFTAVSNGPKNISGQSPARTSSDPETNTTNEDHKIMASENSSAMVQVHSQGRKAAVSHLTTLATISTSPQPPTTKTGPDNSTHNTPVYKLDISEATQVGQHHRRADNDSTASDTPPATTAAGPLKAENTNTSKSADSLDLATTTSPQNYSETAGNNNTHHQDTGEESASSGKLGLITNTIAGVAGLITGGRRTRREVIVNAQPKCNPNLHYWTTQDEGAAIGLAWIPYFGPAAEGIYTEGLMHNQDGLICGLRQLANETTQALQLFLRATTELRTFSILNRKAIDFLLQRWGGTCHILGPDCCIEPHDWTKNITDKIDQIIHDFVDKTLPDQGDNDNWWTGWRQWIPAGIGVTGVIIAVIALFCICKFVF
配列番号7のアミノ酸配列中のアミノ酸番号110〜147の配列、すなわちNLEIKKPDGSECLPAAPDGIRGFPRCRYVHKVSGTGPC(配列番号8)は、配列番号1のアミノ酸配列:
NL(Xaa = E, A, or D)IKK(Xaa = P, S, V, or A)DGSECLP(Xaa = A, P, L, or E)(Xaa = A or P)P(Xaa = D or E)G(Xaa = I or V)R(Xaa = G or D)FPRCRYVHK(Xaa = V or A)(Xaa = S or Q)GTGPC
の一つの例である。配列番号1のアミノ酸配列の他の例は、次の配列番号9〜12によって表されるアミノ酸配列である。
【0023】
配列番号9:
NLEIKKPDGSECLPPPPDGVRGFPRCRYVHKAQGTGPC
配列番号10:
NLEIKKSDGSECLPLPPDGVRGFPRCRYVHKVQGTGPC
配列番号11:
NLAIKKVDGSECLPEAPEGVRDFPRCRYVHKVSGTGPC
配列番号12:
NLDIKKADGSECLPEAPEGVRGFPRCRYVHKVSGTGPC
【0024】
エボラウイルスは、エボラウイルスGP遺伝子のRNA編集によって3種の糖タンパク質、すなわち、non−structural soluble glycoprotein (sGP)、small non−structural soluble glycoprotein (ssGP)、及び膜貫通糖タンパク質GPを生成する。膜貫通糖タンパク質GPは、ホモ3量体スパイクを形成し、標的細胞受容体への結合との細胞膜とウイルスエンベロープとの膜融合(ウイルス侵入)を担うため、当該ウイルスのライフサイクルおよび病原性発現にとって重要である。エボラウイルスの3種の糖タンパク質のうち非構造かつ可溶性(すなわち分泌型)糖タンパク質であるsGP及びssGPがウイルスの病原性に重要な役割をもつか否かについてはよく分かっていないが、膜貫通糖タンパク質GPは、sGP及びssGPのN末端側のアミノ酸配列(この配列は配列番号1のアミノ酸配列を含む。)と同じ配列を有している。エボラウイルス粒子表面糖タンパク質である3量体GPは、当該ウイルスのライフサイクルにとって重要であり、ウイルスの株間の病原性の違いに関与している。
本発明の多重抗原ペプチドは、エボラウイルスGPタンパク質のなかで配列番号1のアミノ酸配列に注目し、3種の糖タンパク質のいずれも共有する配列番号1のアミノ酸配列(例えば配列番号8〜12のアミノ酸配列)中の連続する7〜15アミノ酸からなるペプチドまたは前記ペプチドの1〜3アミノ酸が置換されたペプチドを抗原ペプチドとして含み、同種又は異種、好ましくは同種、の複数の抗原ペプチドが、上記の樹状コアと結合されたとき、エボラウイルス感染に対するワクチンとしても使用しうる免疫誘導剤を提供することができる。
【0025】
本発明の抗原ペプチドのさらなる具体例は、以下のとおりであるが、それらのペプチドに限定されない。
【0026】
第1の例は、配列番号2、13〜17のアミノ酸配列(配列番号7のアミノ酸配列のアミノ酸番号110〜126に相当する配列)中の連続する7〜15アミノ酸、好ましくは連続する9〜12アミノ酸からなるペプチドである。
【0027】
配列番号2:
NL(Xaa = E, A or D)IKK(Xaa = P, S, V or A)DGSECLP(Xaa = A, P, L or E)(Xaa = A or P)P
配列番号13:
NLEIKKPDGSECLPAAP
配列番号14:
NLEIKKPDGSECLPPPP
配列番号15:
NLEIKKSDGSECLPLPP
配列番号16:
NLAIKKVDGSECLPEAP
配列番号17:
NLDIKKADGSECLPEAP
【0028】
第2の例は、配列番号3、18〜22のアミノ酸配列(配列番号7のアミノ酸配列のアミノ酸番号126〜143に相当する配列)中の連続する7〜15アミノ酸、好ましくは連続する9〜12アミノ酸からなるペプチドである。
【0029】
配列番号3:
P(Xaa = D or E)G(Xaa = I or V)R(Xaa = G or D)FPRCRYVHK(Xaa = V or A) (Xaa = S or Q)G
配列番号18:
PDGIRGFPRCRYVHKVSG
配列番号19:
PDGVRGFPRCRYVHKAQG
配列番号20:
PDGVRGFPRCRYVHKVQG
配列番号21:
PEGVRDFPRCRYVHKVSG
配列番号22
PEGVRGFPRCRYVHKVSG
【0030】
第3の例は、配列番号4、23〜27のアミノ酸配列(配列番号7のアミノ酸配列のアミノ酸番号130〜147に相当する配列)中の連続する7〜15アミノ酸、好ましくは連続する9〜12アミノ酸からなるペプチドである。
【0031】
配列番号4:
R(Xaa = G or D)FPRCRYVHK(Xaa = V or A)(Xaa = S or Q)GTGPC
配列番号23:
RGFPRCRYVHKVSGTGPC
配列番号24:
RGFPRCRYVHKAQGTGPC
配列番号25:
RGFPRCRYVHKVQGTGPC
配列番号26:
RDFPRCRYVHKVSGTGPC
配列番号27:
RGFPRCRYVHKVSGTGPC
【0032】
第4の例は、配列番号5、28〜31のアミノ酸配列(配列番号7のアミノ酸配列のアミノ酸番号113〜123に相当する配列)中の連続する7〜11アミノ酸からなるペプチドである。
【0033】
配列番号5
IKK(Xaa = P, S, V or A)DGSECLP
配列番号28:
IKKPDGSECLP
配列番号29:
IKKSDGSECLP
配列番号30:
IKKVDGSECLP
配列番号31:
IKKADGSECLP
【0034】
第5の例は、配列番号6のアミノ酸配列(配列番号7のアミノ酸配列のアミノ酸番号132〜140に相当する配列)中の連続する7〜9アミノ酸からなるペプチドである。
【0035】
配列番号6:
FPRCRYVHK
【0036】
第6の例は、配列番号32〜36のアミノ酸配列(配列番号7のアミノ酸配列のアミノ酸番号126〜133に相当する配列)中の連続する7〜8アミノ酸からなるペプチドである。
【0037】
配列番号32:
P(Xaa = D or E)G(Xaa = I or V)R(Xaa = G or D)FP
配列番号33:
PDGIRGFP
配列番号34:
PDGVRGFP
配列番号35:
PEGVRDFP
配列番号36:
PEGVRGFP
【0038】
本発明はまた、配列番号1、2、3及び4のアミノ酸配列のペプチドからなる群から選択される抗原ペプチド、並びに、配列番号5、6、8〜36のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる抗原ペプチドも提供する。
【0039】
本発明の多重抗原ペプチド(MAP)を構成する抗原ペプチドは、上記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合され、好ましくは樹状コアの各末端に1個ずつ共有結合される。例えば、官能化された固相レジンに官能化された樹状コアを結合し、この樹状末端の反応性官能基に抗原ペプチドの反応性官能基を結合反応することができる(W. kowalczyk et al., J. Pep. Sci. 2011, 17: 247−251)。この場合、抗原ペプチドは、所定のアミノ酸配列に基づいて自動ペプチド合成機等を用いて合成するなど、公知の技術によって合成することができる(例えばJ.M. Stewart and J.D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., Pierce Chemical Company, 1984, G.B. Fields et al., Principles and Practice of Peptide Synthesis, in G.A. Grant (ed): Synthetic Peptides: A User’s Guide, W.H. Freeman, 1992)。或いは、公知のDNA組換え技術を用いて作製してもよい(例えばM.R. Green and J. Sambrook, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Vol. 1 and Vol. 2, Cold Spring Horbor Laboratory Press, fourth edition, 2012)。
【0040】
本発明のMAPは、抗原ペプチドを複数個、好ましくは2〜16個、より好ましくは4〜8個を含み、抗原ペプチドは同種又は異種であってよく、好ましくは同種である。本明細書では、「同種の抗原ペプチド」とは、エピトープとして同じ性質を持つペプチドであって、高い同一性を有するペプチドを含む意味である。「高い同一性を有するペプチド」とは、複数の抗原ペプチドのうち任意の一つの抗原ペプチドを基準として、1〜3アミノ酸、好ましくは1もしくは2アミノ酸、より好ましくは1アミノ酸の置換を有するペプチドである。抗原ペプチド内のアミノ酸と置換するアミノ酸は、システイン(Cys)以外の任意のアミノ酸であり、好ましくは被置換アミノ酸と類似の化学的性質(疎水性、極性、陽イオン性、陰イオン性、電気的中性など)もしくは構造的性質(分枝構造、芳香族性など)をもつアミノ酸である。またここで、「エピトープとして同じ性質」とは、目的の標的タンパク質もしくはポリペプチドと結合可能な、かつウイルスに対し免疫誘導可能なIgG抗体の産生をインビボ(in vivo)で誘導できるという性質をいう。抗原ペプチドが異種(すなわち、「同種」ではない。)である場合には、異なる抗原ペプチドの各々は少なくとも1つ上記樹状コアに結合されている。
【0041】
本明細書中で使用する「多重抗原ペプチドを投与する対象」(以下、便宜的に被験体ともいう)には、ヒト、家畜動物(例えばウシ、ブタ、ラクダ、等)、愛玩動物(例えばイヌ、ネコ、等)、競争用動物(例えば、ウマ、等)、動物園で飼育される観賞用動物などの哺乳動物が含まれ、好ましくは、ヒトである。
【0042】
本発明のMAPは被験体の体内でクラススイッチされた抗体産生を誘導する。本発明によって産生される抗体は、IgG、IgA、IgEであり、好ましくはIgGである。一般的に、体内に異物が侵入した場合には最初の約1週間以内にB2B細胞からIgM抗体が産生されて初期の生体内防御が機能するが、IgMは半減期が短く1週間から10日間程度で血中のその抗体価は低下する。IgM産生に遅れて次第にその異物に反応するT細胞が体内で活性化されることにより、IgG抗体が産生されて液性免疫による防御が強化されるようになる。IgGはいったん産生されるとその半減期が長く、数週間から数カ月以上血中の抗体価は持続する。
【0043】
また、別の態様において、本発明のMAPは自然免疫系B細胞(B1 B細胞)を刺激してIgMをB2B細胞産生の場合よりも長期に産生することができる。本発明のMAPの投与によって上昇したIgMは、例えば14日以上、好ましくは21日間以上、血中でのIgM上昇が確認される。
【0044】
本発明のMAPは、例えば図1に示すような構造を有するが、とりわけMAP−4およびMAP−8に示されるような4〜8個の抗原ペプチド、好ましくは同一の抗原ペプチド、を含む樹状構造を有する。具体的には、次のような式IのMAP−4構造であるが、この構造に限定されない。
【0045】
式IのMAP:
【化3】
[式中、Rは、
【化4】
である。]
【0046】
2.多重抗原ペプチド(MAP)の製造
本発明のMAPは、例えば以下の工程(1)〜(4):
(1)反応性官能基を有する樹状コアを用意する工程、
(2)反応性官能基を有する複数の同種又は異種の上記抗原ペプチドを用意する工程、
(3)樹状コアの反応性官能基と上記の各抗原ペプチドの反応性官能基を結合反応して多重抗原ペプチドを作製する工程、および
(4)多重抗原ペプチドを回収する工程
を含む方法によって作製されうる。
【0047】
樹状コアは、上で説明したように、複数個の同種又は異種、好ましくは同種、の上記抗原ペプチド、好ましくは4〜8個の同種の(好ましくは同一の)抗原ペプチドを結合するための樹状の支持コアである。樹状コアは、通常知られる構造であってよく、複数のリジン残基(K)を含むのがよく、および、さらにシステイン残基(C)を含んでもよい。図1に、本発明のMAPの構造(好ましくはMAP−4およびMAP−8のような構造)を例示するように、4〜8個の抗原ペプチド以外の部分を形成するのが樹状コアである。樹状コアは、MAP−4の場合、例えばK−K−K配列を含むのがよいし、また、MAP−8の場合、例えばK−K−K−K−K配列を含むのがよい。これらの配列の中央のKには、通常、スペーサーペプチドが結合する。スペーサーペプチドは、好ましくは2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドであり、例えばK−K−C、K−βA−C(ここで、βAはβ−アラニン残基を表す。)などであるが、これらに限定されないものとする。中央のK以外の左右のKまたはK−Kには、K1個あたり2個の抗原ペプチドが結合するように設計される。また、樹状コアとペプチドとの間にはスペーサーを配置してもよい。スペーサーは、ポリオキシアルキレン鎖(例えばポリオキシエチレン鎖又はポリオキシプロピレン鎖)を含む水親和性の高い基であるのが好ましい。ポリオキシアルキレン鎖のオキシアルキレン単位の繰り返し数は、2以上、好ましくは2〜50、より好ましくは3〜30である。
【0048】
樹状コアの末端には、抗原ペプチドと結合するための適切な官能基を有することができる。官能基は、タンパク質の修飾に使用可能な官能基であればよく、例えば、アミノ基、スルフヒドリル基、アセチレン基、N−ヒドロキシスクシンイミジル基などである。
【0049】
一方の抗原ペプチドの側の官能基は、樹状コアの末端官能基と結合反応しうる任意の官能基であり、例えばアミノ基に対するN−ヒドロキシスクシンイミジル基、スルフヒドリル基に対するスルフヒドリル基またはカルボキシル基、アセチレン基に対するアジド基、などである。抗原ペプチドは、上で説明したとおりである。
【0050】
本発明の実施形態により、K−K−K配列を有する樹状コアは、末端官能基がアセチレン基を有する下記の構造:
【化5】
を有する。
【0051】
上記構造のアセチレン基と反応する抗原ペプチドの末端官能基はアジド基である。この場合の結合反応は、下記のヒュスゲン反応である。
【0052】
【化6】
【0053】
この反応は、アルキンとアジドを一価の銅イオンを触媒とし結合させる反応であり、反応生成物は安定で副反応がほとんど無いとされ、クリックケミストリーとして注目されている。銅イオン触媒溶液は、硫酸銅・5水和物水溶液とアスコルビン酸を用いて調製しうる。
【0054】
MAPを回収する工程では、該ペプチドを精製する。ペプチドの回収の手法は、一般的なタンパク質またはポリペプチドの精製法でよく、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などのクロマトグラフィーを単独でまたは組み合わせて行われうる。目的物の同定は、核磁気共鳴スペクトル分析法NMR、マススペクトル分析法、アミノ酸分析法などによって行うことができる。
【0055】
3.免疫誘導剤
本発明はさらに上記の1種又は少なくとも2種の多重抗原ペプチド(MAP)を含む免疫誘導剤を提供する。本発明の免疫誘導剤は、IgG抗体、或いはIgG抗体及びIgM抗体の産生を誘導する製剤である。
【0056】
本発明の免疫誘導剤は、医薬組成物として、エボラウイルス感染に対するIgG抗体産生を誘導することにより、該感染の予防又は治療もしくは改善のために用いることができ、「ワクチン」としても使用することができる。
【0057】
本発明の免疫誘導剤は、医薬組成物として、エボラウイルス感染に対するIgM抗体産生を長期にわたって持続させることにより、非感染者においては当該感染の予防することができる。また、長期に渡るIgM抗体の産生よって、感染者においては非感染者への感染伝播防止に用いることができる。
【0058】
本発明のMAPのヒトでの有効量は、非限定的に、1回投与量としてMAP−4では約0.05〜2.5μg/kg体重から1mg〜10mg/kg体重、MAP−8では、0.5〜25.0μg/kg体重から1mg〜10mg/kg体重である。ここで、投与量は、ヒトを含む被験体の体重、年齢、性別、症状、重症度、投与方法などによって適宜変更しうるものとする。
【0059】
本発明の免疫誘導剤の形態は、例えば溶液剤、懸濁剤、錠剤、注射剤、顆粒剤、乳化剤などであり、賦形剤、希釈剤、結合剤、香味剤、界面活性化剤などの添加剤を適宜含むことができる。アジュバントは投与対象においてインターフェロンγの産生が確認される限りにおいて基本的に必要ないが、必要に応じて添加してもよい。
【0060】
本発明の免疫誘導剤はアジュバントを含んでもよい。アジュバントは、所望する抗体のアイソタイプによって適宜選択される。例えば、IgGを優位に産生させる場合では、アジュバントはインターフェロンγ産生を優位に誘導する物質である。インターフェロンγ産生を誘導する物質は特に限定されないが、例えば、α‐ガラクトシルセラミド、α‐ガラクトシルセラミド類縁体、細菌のオリゴヌクレオチドであるCpGなどが挙げられる。α‐ガラクトシルセラミド類縁体としては、例えば国際公開WO2007/099999号(米国特許8163705号)、国際公開WO2009/119692号(米国特許8551959号)、国際公開WO2008/102888号(米国特許8299223号)、国際公開WO2010/030012号(米国特許8580751号)、国際公開WO2011/096536号(米国特許8853173号)、国際公開WO2013/162016号(米国公開番号2015−0152128)に記載された化合物が挙げられるが、これらに限定されない。また、アジュバントと同様に本発明の免疫誘導剤のIgG抗体誘導の効果を高めるために、インターフェロンγを含んでもよい。
【0061】
本発明の免疫誘導剤は、医薬組成物として、エボラウイルス感染の予防、感染拡大防止または治療のために使用することができる。
【0062】
したがって、本発明はさらに、上記のMAPまたは上記の免疫誘導剤を被験体に投与することを含む、上記疾患の予防または治療方法を提供する。この方法では、抗体の産生は、IgG抗体の産生を含み、IgM抗体の産生も含みうる。本発明の方法における抗体の産生は、エボラウイルス感染の治療、予防または感染拡大防止の目的で行うことができる。
【0063】
投与経路は、静脈内投与、経粘膜投与、腹腔内投与、直腸内投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与などであるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明の免疫誘導剤は、製薬的に許容可能な担体をさらに含んで製剤化されていてもよい。
【0065】
「製薬的に許容可能な」とは、医薬業界で通常使用される意味を有し、場合により、ヒトに投与された場合にアレルギー反応または同様の有害反応を生じさせない分子的実体物質または組成物等の使用が可能であることを表す。タンパク質を活性成分として含む水性組成物の調製は当技術分野で十分に理解されている。典型的に、そのような組成物は、注射剤として、液体溶液または懸濁液として調製され、注射前の液体中での溶解または懸濁に好適な固体剤形を調製することもできる。調製物は乳化することもできる。
【0066】
「担体」には、任意およびすべての溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張(isotonic)および吸収遅延剤、バッファー、担体溶液、懸濁液、コロイド、などが含まれる。担体としては、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸塩のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10アミノ酸残基未満)ポリペプチド;タンパク質(例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン);疎水性ポリマー(例えばポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリシン);グルコース、マンノース又はデキストランを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシアルキレン系)といった例も挙げられる。医薬活性物質のためのそのような媒体および物質の使用は当技術分野で周知である。任意の慣用の媒体または物質が活性成分と不適合である場合を除き、治療用組成物でのその使用が想定される。補助活性成分を組成物に組み入れることもできる。
【0067】
本発明の免疫誘導剤は、製剤に使用される各種の界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤の種類は特に限定されず、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または両性界面活性剤等が挙げられ、中でもノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、またはポリオキシエチレンモノアリールエーテル等のポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤;多価アルコール(例えばソルビタン、ソルビトール)の高級脂肪酸エステル;および多価アルコールの高級脂肪酸エステルにエチレンオキシドを重合付加させたもの;等が挙げられる。
【0068】
本発明の免疫誘導剤は、1つまたは複数の追加成分をさらに含むことができ、限定されないがそのような追加成分として懸濁剤、安定化剤、または分散剤が挙げられる。また、本発明の免疫誘導剤の安定化のための処置として、MAPの等電点を下げて代謝安定性を向上させることができる。具体的には、酸性アミノ酸(例えばアスパラギン、グルタミン酸)、および/またはデオキシヌクレオチド(例えばGpCオリゴヌクレオチド、CpGオリゴヌクレオチド)をさらに免疫誘導剤に含ませることでもよい。一つの態様として、酸性アミノ酸および/またはデオキシオリゴヌクレオチドを本発明のMAPに直接結合させることでもよい。
【実施例】
【0069】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって制限されないものとする。
【0070】
[実施例1]
<多重抗原ペプチド(MAP)の構造>
MAPの構造について下記のものを使用した。
【化7】
[式中、Rは、
【0071】
【化8】
である。]
【0072】
エボラウイルスの糖タンパク質由来の4種のペプチド、すなわちIKKADGSECLP(配列番号31)、IKKADGSEC(Boc−Cys−OH)LP(配列番号37)、FPRCRYVHK(配列番号6)及びFPRC(Boc−Cys−OH)RYVHK(配列番号38)を選択し、MAP作製のための抗原ペプチドとして使用した。
【0073】
<エボラ1MAP4の合成>
1.略語表
・NH2−SAL−Trt(2−Cl)− Resin: Rink−Bernatowitz−amide Barlos Resin(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Lys(Fmoc)−OH:N−α,N−ε−Bis(9−fluorenylmethoxycarbonyl)−L−lysine(渡辺化学工業株式会社)
・Boc−Pra−OH:N−Boc−L−propargylglycine(東京化成工業株式会社)
・N−PEG−COOH:11−Azido−3,6,9−trioxaundecanoic Acid(東京化成工業株式会社)
・Fmoc−Pro−TrtA−PEG− Resin: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−proline tritylcarboxamidomethyl polyethyleneglycol resin (渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Ala−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl) −L−alanine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Cys(Trt)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−S−trityl−L−cysteine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Asp(OtBu)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−aspartic acid β−t−butyl ester(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Glu(OtBu)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−glutamic acid γ−t−butyl ester(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Gly−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−glycine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Ile−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−isoleucine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Lys(Boc)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−N−ε−(t−butoxycarbonyl)−L−lysine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Ile−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−leucine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Pro−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−proline(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Ser(tBu)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−O−(t−butyl)−L−serine(渡辺化学工業株式会社)
・Boc−Cys(Npys)−OH: N−α−(t−Butoxycarbonyl)−S−(3−nitro−2−pyridinesulfenyl)−L−cysteine (国産化学)
・HATU:O−(7−aza−1H−benzotriazol−1−yl)−N,N,N’,N’−tetramethyluronium hexafluorophosphate(Genscript)
・DIEA: N,N−Diisopropylethylamine(和光純薬・ペプチド合成用)
・DMF: N,N−Dimethylformamide(関東化学・ペプチド合成用)
・TFA: 2,2,2−Trifluoroacetic acid(和光純薬)
・TIPS: Triisopropylsilane(渡辺化学工業株式会社)
・Thioanisole(渡辺化学工業株式会社)
・m−Cresol(東京化成)
・DCM: Dichloromethane(関東化学)
・ACN: acetonitrile(関東化学・HPLC用)
・α−CHCA:α−Cyano−4−hydroxycinnamic Acid
・分取カラム:YMC−Pack Pro C18, 20mm(I.D.) X 250mm(Length), 粒子径5μm, 細孔径12μm(YMC)
・分析カラム:YMC−Pack Pro C18, 4.6mm(I.D.) X 250mm(Length), 粒子径5μm, 細孔径12μm(YMC)
・MALDI−TOF MASS: Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time Of Flight Mass Spectrometry
・D.W.: distilled water
・硫酸銅五水和物(関東化学)
・アスコルビン酸(関東化学)
【0074】
2.MAPコアの合成
MAP4を例としてMAPコアの合成法を以下に記載する。
MAPコア合成は通常のFmoc固相合成法を用い、全ての工程を手動にて行った。具体的にはNH2−SAL−Trt(2−Cl)− Resin 1mmol分を固相担体として以下の手順で合成した。
【0075】
【表1】
【0076】
合成終了後、固相0.1mmolに対しD.W.(ml):TIPS(ml):TFA(ml)の比が1.5:1.5:30となるように加え、1.5時間撹拌し、切出と脱保護を行った。切出後は、ろ過により溶液を回収しこれを減圧濃縮後、少量の水を加え凍結乾燥した。凍結乾燥後、0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて以下の条件で精製を行った。
【0077】
精製条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 100%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 100%→溶出液A 70%/溶出液B 30%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
【0078】
精製物はMALDI−TOF MASSを用いた質量分析(下記の条件)にて目的物の確認を行った。
【0079】
質量分析条件:
・マトリックス溶液:10mg/mL α−CHCA in 0.1%TFA 50%CAN水溶液
・サンプル:HPLC溶出液もしくは0.1%TFA 50%ACN水溶液(概ね1mg/mL ペプチド)
・マトリックス溶液とサンプルを1:1で混合しプレート上で混晶を形成した
【0080】
3.抗原ペプチド合成
抗原ペプチド合成もMAPコア合成と同様にFmoc固相合成法を用いて行った。
具体的にはFmoc−Pro−TrtA−PEG− Resin 0.4mmol分を固相担体として用い、最初にレジンをDMFで膨潤し、20%ピペリジンでFmoc基を脱保護した。以降は以下の手順で合成した。
【0081】
抗原ペプチドの配列はN−IKKADGSECLP−OHでありC末端からN末端に向かいペプチドを伸長した。
【0082】
【表2】
【0083】
合成終了後、固相1mmolに対しチオアニソール(ml):m−クレゾール(ml):TIPS(ml):TFA(ml)=3.6:1:0.6:25を加え1.5時間撹拌し切出と脱保護を行った。切出後は、ろ過により溶液を回収しこれを減圧濃縮し、さらにエーテルを加え沈殿を回収し未精製ペプチドを得た。未精製ペプチドは0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて以下の条件で精製を行った。
【0084】
精製条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 90%/溶出液B 10%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 90%/溶出液B 10%→溶出液A 50%/溶出液B 50%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
【0085】
HPLC 分析条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 95%/溶出液B 5%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 90%/溶出液B 10%→溶出液A 40%/溶出液B 60%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
【0086】
精製物はMALDI−TOF MASSを用いた質量分析(上記と同じ条件)にて目的物の確認を行った。
【0087】
精製が終了した抗原ペプチド155mg(113μmol)をDMSO 1mL に溶解し、BOC−Cys(Npys)−OH 85mg(226μmol)を加えジスルフィドを形成し 配列中のCys残基側鎖のSH基を保護した。この反応後もHPLCにて上記と同様に精製し凍結乾燥を行い抗原ペプチドとした。
【0088】
4.MAP−ペプチドの合成
MAPコアと抗原ペプチドはヒュスゲン反応を利用し結合させた。すなわち、MAPコア中のアルキンをCuで活性化し抗原ペプチドN末端のアジド基と反応させトリアゾールにより結合させた。具体的な工程を以下に記載する。
【0089】
(工程1)MAPコアと抗原ペプチドを0.1%TFA水溶液に溶解した。このとき混合比は、MAPコア15mg(19μmol):抗原ペプチド114mg(71μmol)とし、これらを8M尿素水溶液2mlに溶解した(ペプチド溶液)。
【0090】
(工程2)硫酸銅・5水和物水溶液とアスコルビン酸水溶液の調製を次のように行った。硫酸銅・5水和物50mg(200μmol)を1mlのD.W.に溶解した(硫酸銅水溶液)。また、アスコルビン酸 176mg (1mmol)を1mlのD.W.に溶解した(アスコルビン酸水溶液)。次に、硫酸銅水溶液とアスコルビン酸水溶液を全量混和した(Cu溶液)。
【0091】
(工程3)次にヒュスゲン反応を行なった。具体的には、ペプチド溶液2mlとCu溶液0.35mlを混和し、室温で数時間反応した。
【0092】
(工程4)反応物を0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて抗原ペプチド付近に出たピークをすべて分取し凍結乾燥した(87mg回収)。
【0093】
(工程5)上で得た凍結乾燥物試料87mgを1/15M リン酸緩衝液(K/Na2、pH7.2)1mLに溶解し、4%炭酸水素ナトリウム溶液でpHを中性とした。この溶液にジチオスレイトール34mg(220μmol)を加え室温で還元し、逆相HPLCにて目的物を精製した。精製条件は、上記抗原ペプチドの精製と同様である。
【0094】
(工程6)MALDI−TOF MASSを用いた質量分析(条件は上と同じ)によって目的物の確認を行った。また、HPLC分析によって純度を検定した。HPLC純度検定条件は、上記抗原ペプチドの場合と同様であった。
【0095】
5.合成結果
合成結果は以下の通りであった。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
<エボラ2MAP4の合成>
1.略語表
・NH2−SAL−Trt(2−Cl)− Resin: Rink−Bernatowitz−amide Barlos Resin (渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Lys(Fmoc)−OH:N−α,N−ε−Bis(9−fluorenylmethoxycarbonyl)−L−lysine(渡辺化学工業株式会社)
・Boc−Pra−OH:N−Boc−L−propargylglycine(東京化成工業株式会社)
・N−PEG−COOH:11−Azido−3,6,9−trioxaundecanoic Acid(東京化成工業株式会社)
・Fmoc−Lys(Boc)−Alko−PEG resin:N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−N−ε−(t−butoxycarbonyl)−L−lysine p−methoxybenzyl alcohol polyethyleneglycol resin(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Cys(Trt)−OH:N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−S−trityl−L−cysteine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Phe−OH:N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−phenylalanine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−His(Trt)−OH:N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−N−τ−trityl−L−histidine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Pro−OH:N−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−proline(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Arg(Pbf)−OH:N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−N−ω−(2,2,4,6,7−pentamethyldihydrobenzofuran−5−sulfonyl)−L−arginine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Val−OH:N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−valine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Tyr(tBu)−OH:N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−O−(t−butyl)−L−tyrosine(渡辺化学工業株式会社)
・Boc−Cys(Npys)−OH: N−α−(t−Butoxycarbonyl)−S−(3−nitro−2−pyridinesulfenyl)−L−cysteine(国産化学)
・HATU:O−(7−aza−1H−benzotriazol−1−yl)−N,N,N’,N’−tetramethyluronium hexafluorophosphate(Genscript)
・DIEA: N,N−Diisopropylethylamine(和光純薬・ペプチド合成用)
・DMF: N,N−Dimethylformamide(関東化学・ペプチド合成用)
・TFA: 2,2,2−Trifluoroacetic acid(和光純薬)
・TIPS: Triisopropylsilane(渡辺化学工業株式会社)
・Thioanisole(渡辺化学工業株式会社)
・m−Cresol(東京化成)
・DCM: Dichloromethane(関東化学)
・ACN: acetonitrile(関東化学・HPLC用)
・α−CHCA:α−Cyano−4−hydroxycinnamic Acid
・分取カラム:YMC−Pack Pro C18, 20mm(I.D.) X 250mm(Length), 粒子径5μm, 細孔径12μm(YMC)
・分析カラム:YMC−Pack Pro C18, 4.6mm(I.D.) X 250mm(Length), 粒子径5μm, 細孔径12μm(YMC)
・MALDI−TOF MASS: Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time Of Flight Mass Spectrometry
・D.W.: distilled water
・硫酸銅五水和物(関東化学)
・アスコルビン酸(関東化学)
【0099】
2.MAPコアの合成
MAP4を例としてMAPコアの合成法を以下に記載する。
MAPコア合成は、通常のFmoc固相合成法を用い、全ての工程を手動にて行った。具体的にはNH2−SAL−Trt(2−Cl)− Resin 1mmol分を固相担体として以下の手順で合成した。
【0100】
【表5】
【0101】
合成終了後、固相0.1mmolに対しD.W.(ml):TIPS(ml):TFA(ml)の比が1.5:1.5:30となるように加え、1.5時間撹拌し、切出と脱保護を行った。切出後は、ろ過により溶液を回収しこれを減圧濃縮後、少量の水を加え凍結乾燥した。凍結乾燥後、0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて以下の条件で精製を行った。
【0102】
精製条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 100%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 100%→溶出液A 70%/溶出液B 30%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
【0103】
精製物はMALDI−TOF MASSを用いた質量分析(下記の条件)にて目的物の確認を行った。
【0104】
質量分析条件:
・マトリックス溶液:10mg/mL α−CHCA in 0.1%TFA 50%CAN水溶液
・サンプル:HPLC溶出液もしくは0.1%TFA 50%ACN水溶液(概ね1mg/mL ペプチド)
・マトリックス溶液とサンプルを1:1で混合しプレート上で混晶を形成した
【0105】
3.抗原ペプチド合成
抗原ペプチド合成もMAPコア合成と同様にFmoc固相合成法を用いて行った。
具体的にはFmoc−Lys(Boc)−Alko−PEG− Resin 0.4mmol分を固相担体として用い、最初にレジンをDMFで膨潤し、20%ピペリジンでFmoc基を脱保護した。以降は以下の手順で合成した。抗原ペプチドの配列はN−PEG−FPRCRYVHK−OHでありC末端からN末端に向かいペプチドを伸長した。
【0106】
【表6】
【0107】
合成終了後、固相1mmolに対しチオアニソール(ml):m−クレゾール(ml):TIPS(ml):TFA(ml)=3.6:1:0.6:25を加え、1.5時間撹拌し、切出と脱保護を行った。切出後は、ろ過により溶液を回収し、これを減圧濃縮した。さらにエーテルを加え、沈殿を回収し、未精製ペプチドを得た。未精製ペプチドは0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて以下の条件で精製を行った。
【0108】
精製条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 90%/溶出液B 10%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 90%/溶出液B 10%→溶出液A 50%/溶出液B 50%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
【0109】
HPLC 分析条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 90%/溶出液B 90%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 90%/溶出液B 10%→溶出液A 40%/溶出液B 60%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
【0110】
精製物は、MALDI−TOF MASSを用いた質量分析(上記と同じ条件)にて目的物の確認を行った。
【0111】
精製が終了した抗原ペプチド370mg(260μmol)をDMSO 2mL に溶解し、BOC−Cys(Npys)−OH 220mg(586μmol)を加えジスルフィドを形成し、 配列中のCys残基側鎖のSH基を保護した。この反応後もHPLCにて上記と同様に精製し凍結乾燥を行い抗原ペプチドとした。
【0112】
4.MAP−ペプチドの合成
MAPコアと抗原ペプチドはヒュスゲン反応を利用して結合させた。すなわち、MAPコア中のアルキンをCuで活性化し抗原ペプチドN末端のアジド基と反応させ、トリアゾールにより結合させた。具体的な工程を以下に記載する。
【0113】
(工程1)MAPコアと抗原ペプチドを0.1%TFA水溶液に溶解した。このとき混合比は、MAPコア40mg(51μmol):抗原ペプチド320mg(195μmol)とし、これらを8M尿素水溶液2mlに溶解した(ペプチド溶液)。
【0114】
(工程2)硫酸銅・5水和物水溶液とアスコルビン酸水溶液の調製を次のように行った。硫酸銅・5水和物250mg(500μmol)を1mlのD.W.に溶解した(硫酸銅水溶液)。また、アスコルビン酸 440mg (2.5mmol)を1mlのD.W.に溶解した(アスコルビン酸水溶液)。次に、硫酸銅水溶液とアスコルビン酸水溶液を全量混和した(Cu溶液)。
【0115】
(工程3)次にヒュスゲン反応を行なった。具体的には、ペプチド溶液2mlとCu溶液1mlを混和し、室温で数時間反応した。
【0116】
(工程4)反応物を0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて抗原ペプチド付近に出たピークをすべて分取し凍結乾燥した(273mg回収)。
【0117】
(工程5)上で得た凍結乾燥物試料273mgを1/15M リン酸緩衝液(K/Na) pH7.2 1mLに溶解し、4%炭酸水素ナトリウム溶液で pHを中性とした。この溶液にジチオスレイトール68mg(440μmol)を加え室温で還元し、逆相HPLCにて目的物を精製した。精製条件は、上記抗原ペプチドの精製と同様である。
【0118】
(工程6)MALDI−TOF MASSを用いた質量分析(条件は上と同じ)によって目的物の確認を行った。また、HPLC分析によって純度を検定した。HPLC純度検定条件は、上記抗原ペプチドの場合と同様であった。
【0119】
5.合成結果
合成結果は以下の通りであった。
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
[実施例2]
<エボラ1MAP4又はエボラ2MAP4投与手順>
(1)試験A
エボラ1MAP4又はエボラ2MAP4(「エボラ−MAP4」という)の投与量(10%マウス血清中100μg、10μg、1μg)を変えてマウス1群、2群及び3群を設定した。また、血清添加群の対照として生理食塩水中100μgのエボラ−MAP4を投与するマウス4群を設置した。マウスは、BALB/cAJc(日本クレア)マウス(8週齢、雌)であり、各群5匹からなった。
【0123】
上記1群〜4群のマウスに、初回(0日)のみα−ガラクトシルセラミド(2μg)とエボラ−MAP4を静脈内投与し、その後1日目、3日目、7日目、14日目にエボラ−MAP4のみを投与し、初回投与3日前、初回投与後1日、7日、14日、21日にイソフルラン麻酔下で眼窩採血し、血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した。
【0124】
(2)試験B
Balb/cマウスにエボラ1MAP4を2%DMSO−1%マウス血清入り生理食塩水に溶解したものを腹腔内注射した。投与量は、Balb/cマウスあたり100μg/100μL/マウス/回投与とした。MAP投与方法は、5日間毎日1日1回連日投与し(合計5回投与)、初回投与日から7日目、14日目に投与した。α−ガラクトシルセラミド投与は、初回のみMAP4とともに腹腔内投与し、用量は2μg/マウスとした。投与前、投与後で眼窩静脈叢から採血し、血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した。
【0125】
(3)試験C
BDF1マウスにエボラ1MAP4及びエボラ2MAP4の混合物を2%DMSO−PBSに溶解したものを腹腔内注射した。用量は、マウスあたりMAP4総量として200μg/100μL/マウス/回投与とした。MAP投与方法は、5日間毎日1日1回連日投与し(合計5回投与)、初回投与日から7日目、14日目に投与した。α−ガラクトシルセラミド投与は、初回のみMAP4とともに腹腔内投与し、用量は2μg/マウスとした。投与前、投与後で眼窩静脈叢から採血し、血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した。
【0126】
<エボラ−MAP4のマウス血清中抗体価の測定法>
抗体MAP抗体の測定には、エボラ1又はエボラ2のペプチドに牛血清アルブミン(BSA)とFLAGを結合したものをELISAプレートに固相化し、その後100倍希釈した血清を添加し、37℃で1時間インキュベートした後、それぞれペルオキシダーゼ標識された抗IgM抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG1抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG2a抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG3抗体(SouthernBiotech社)をメーカー推奨濃度で加え、ペルオキシダーゼによる基質分解後の発色をプレートリーダーを用いて測定し、血清中抗体価を測定した。
【0127】
また、エボラ1又はエボラ2のペプチドに牛血清アルブミン(BSA)とFLAGを結合したものをELISAプレートに固相化し、血清の代わりに抗FLAGモノクローナル抗体(Clone: M2マウスIgG1、シグマアルドリッチ社)を各種濃度に希釈して添加し、抗MAP抗体価測定と同様にして測定することで、抗MAP抗体価の定量化のための標準曲線とした。この標準曲線から、抗MAP抗体のおおよその血清中抗体濃度を算出した。
【0128】
<試験Aの結果>
血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した結果を、図2に示した。
図2から、エボラ1MAP4の静脈内投与では、100μg投与群でのみIgG上昇が認められた。
【0129】
しかし、エボラ2MAP4の静脈内投与では、IgG及びIgM上昇は認められなかった。
【0130】
<試験Bの結果>
血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した結果を、図3に示した。
図3から、エボラ1MAP4の腹腔内投与では、IgMが明らかに上昇したマウスが1匹、軽度上昇したマウスが2匹認められたが、IgG上昇は認められなかった。
【0131】
<試験Cの結果>
血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した結果を、図4(IgG価)及び図5(IgM価)に示した。
【0132】
図4から、エボラ1MAP4及びエボラ2MAP4混合投与における、エボラ1及びエボラ2に対するIgG価を測定した結果、エボラ1には5匹中2匹で、エボラ2でも5匹中2匹でIgG上昇が認められた。測定したエボラ1−IgG濃度は、10〜20ng/mLであった。
【0133】
図5から、エボラ1及びエボラ2に対するIgM価が明らかに上昇したマウスが2匹、軽度に上昇したマウスが2匹認められた。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、実用的な治療法又はワクチンがないエボラウイルス感染に対する免疫誘導剤を提供するものであり、実施例に示すように多重抗原ペプチドによってIgG抗体の誘導を可能にしたことはエボラウイルスに対する免疫誘導によるワクチンとしての可能性を示した。このことは致死性の高いエボラウイルス感染に対する予防及び治療のために産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]