【解決手段】焼結体10は、複数の鉄粒子1と炭素質物3とを含有する多孔質な焼結体である。焼結体10において、複数の鉄粒子1は、炭素質物3によって固定化されている。炭素質物3は、鉄粒子1を担持する構造体として機能するとともに、鉄粒子1との接触によって局部電池を形成する。焼結体10は、鉄粒子1と炭素質物3との比率が、鉄元素と炭素元素の重量比(鉄元素:炭素元素)で95:5〜5:95であり、見かけ比重が1.1〜4.0であり、開気孔率が20〜70%であり、圧壊荷重が50N以上である。
鉄粒子が炭素(C)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)の少なくとも1種以上の元素を含む鉄鋼材料または酸化鉄を原料とするものであり、炭素質物の50重量%以上がピッチコークス粉を原料とするものである請求項1又は2に記載の焼結体。
【背景技術】
【0002】
都市圏に面した湾奥部のような閉鎖性水域の底質は、流入する生活排水および工業排水によって富栄養化が進行して堆積した有機物がヘドロ化している。そのため、特に夏季においては、富栄養化した底質が貧酸素状態となることにより発生する硫化水素等の悪臭や、風による撹拌で上下層の逆転に伴う青潮が度々発生し、生活環境の悪化や漁業被害が大きな問題となっている。
【0003】
底質環境を改善し、悪臭や青潮の発生を抑えるため、浚渫やばっ気処理などが対策として行われている。しかし、汚泥は水を多く含むうえ、重金属類を含む可能性もあることから最終処分が困難であり、浚渫作業によってさらに環境を悪化させてしまうという問題がある。強制的なばっ気処理は、継続的に動力を投入し続ける必要があることからコストが高いという問題がある。
【0004】
また、底質を覆砂するなどの手法も行われており、水酸化マグネシウムや石灰、高炉スラグなどを散布することによって物理化学的作用で底質環境の改善を図る方法(例えば、特許文献1)がこれまでに実施されてきている。また、近年においては、2価鉄イオンを溶出するような材料を散布することによって、リンやイオウのトラップ、底床および水域の微生物活性を高めることによる改善手法(例えば、特許文献2〜4)も提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1のような高炉スラグの散布は、スラグの水硬性を利用した物理的な封じ込めが主であって、スラグからの鉄の溶出量もあまり多くないと考えられるため、即効性が期待できない。
また、特許文献2および3のような材料については、鉄と炭素の局部電池作用を利用するために鉄の溶出量は多いものの、バインダーとして、澱粉や焼酎滓などの水溶性有機物を使用しているため、実際に一旦塊状物が崩壊してしまうと鉄と炭素の接触が不充分になりやすく、長期的な底質改善には疑問がある。また、バインダーとして使用した水溶性有機物が、逆に底質環境の生物学的酸素必要量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)を上げてしまうという問題もある。
さらに、特許文献4については、鉄を焼結するために有機系産業廃棄物を主とする有機物を使用しているため、鉄の溶出効率の低下や廃棄物に含まれる有害な重金属等による新たな汚染の可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、海水中で新たな環境負荷を発生させることなく、2価鉄イオンを高濃度、かつ長期に渡って安定的に環境中に溶出させ続けることが可能な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、鉄粒子とコークス粉などの炭素質物の混合物を有機バインダーを用いて造粒・焼結することによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の焼結体は、鉄粒子と炭素質物とを含有する多孔質な焼結体であって、
前記鉄粒子と前記炭素質物との比率が、鉄元素と炭素元素の重量比(鉄元素:炭素元素)で95:5〜5:95であり、
見かけ比重が1.1〜4.0であり、
開気孔率が20〜70%であり、
かつ、
圧壊荷重が50N以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の焼結体は、濃度5重量%の塩水に10日間浸漬後の圧壊荷重が、塩水浸漬前の圧壊荷重の1/2以上であってもよい。
【0011】
また、本発明の焼結体は、濃度5重量%の塩水に10日間浸漬後の塩水中の2価鉄(Fe
2+)イオン溶出量が2ppm以上であってもよい。
【0012】
また、本発明の焼結体は、鉄粒子が炭素(C)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)の少なくとも1種以上の元素を含む鉄鋼材料または酸化鉄を原料とするものであり、炭素質物の50重量%以上がピッチコークス粉を原料とするものであってもよい。
【0013】
本発明の焼結体は、環境改善材として用いられるものであってもよく、底質環境改善材として用いられることが好ましい。
【0014】
本発明の第1の観点における焼結体の製造方法は、上記いずれかの焼結体を製造する方法であって、
鉄原料、炭素質原料及び有機バインダーを加熱溶融混練し、それらの複合物を製造する工程と、
前記複合物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の観点における焼結体の製造方法は、上記いずれかの焼結体を製造する方法であって、
鉄原料、炭素質原料、有機バインダー及び水または有機溶媒を混合、混練してそれらの混合物を得る工程と、
前記混合物を造粒する工程と、
前記造粒物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の焼結体は、鉄と炭素の焼結体であるために造粒物の強度が高く、低い嵩密度と高い開気孔率でありながら、崩壊し難い。このため、鉄と炭素の良好な接触が持続的に続くため、局部電池効果によって高濃度の2価鉄イオンを底質環境中に溶出し続けることが可能である。
【0017】
また、本発明の焼結体は、鉄原料と炭素質原料とを、有機バインダーを用いて焼結しているため、安価でかつ安全な材料であり、大量の散布が可能である。しかも、使用によって重金属類による汚染やBOD、CODを増加させるなどの懸念がなく、新たな環境負荷が生じることもない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る焼結体の外観構成を模式的に示す図である。
図2は、
図1に示す焼結体の要部を拡大して示す説明図である。
図1に示すように、本実施の形態の焼結体10は、複数の鉄粒子1と炭素質物3とを含有する多孔質な焼結体である。焼結体10において、複数の鉄粒子1は、炭素質物3によって固定化されている。炭素質物3は、鉄粒子1を担持する構造体として機能するとともに、鉄粒子1との接触によって局部電池を形成する。焼結体10は、後述するように、所定の見かけ比重と開気孔率を有する多孔質体であり、複数の細孔5が形成されている。
図2に例示するように、炭素質物3は、コークス等の炭素質原料由来部分3aと、有機バインダー等の有機物に由来する接着部分3bとが区別できる状態で存在していてもよいし、あるいは、両者が互いに区別できない状態で実質的に一体となって炭素質物3を形成していてもよい。
【0020】
<組成>
焼結体10における鉄粒子1と炭素質物3との重量比は、水中での2価鉄イオン溶出の持続性に応じて調整され得るが、例えば、鉄粒子1:炭素質物3=95:5〜5:95の範囲であり、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは50:50〜80:20である。炭素質物3に対する鉄粒子1の重量比が5重量%未満であると炭素質物3が多すぎて、水との接触面積が小さく、2価鉄イオンの供給能力が低いとともに持続性が悪くなる。一方、炭素質物3に対する鉄粒子1の重量比が95重量%を超えると、局部電池が形成され十分な鉄イオン供給能力は備わっているが、炭素分が少ない為に一体化物として脆くなり、表面から鉄粒子1が欠落したり、焼結体10の崩壊が発生しやすくなる。なお、焼結体10には、鉄、炭素以外に酸素(10重量%以下)やその他微量の元素(Ni、Mnなど)も含まれるが、上記重量比は、単純に鉄元素と炭素元素の比率をいう。また、炭素質物3には、予め配合するコークス等の炭素質原料以外に、有機バインダーなどの有機物が焼成されて、炭化された炭素も含む。
【0021】
<見かけ比重・開気孔率>
本実施の形態の焼結体10は、1.1〜4.0の見かけ比重(嵩密度)と20〜70%の開気孔率を有する多孔質な焼結体であることが好ましい。ここで、見かけ比重は、1.3〜3.5であるとより好ましい。見かけ比重が1.1未満であると水中で浮遊してしまい散布域から焼結体10が流出しやすくなるほか、4.0を超えると、内部空隙が減少するので2価鉄イオンの溶出量が少なくなってしまう。また、開気孔率は30〜60%であるとより好ましい。開気孔率が20%未満であると2価鉄イオンの溶出量が少なくなり、70%を超えると、材料の強度が低下して崩壊しやすくなるため好ましくない。
【0022】
<圧壊荷重>
本実施の形態の焼結体10は、圧壊荷重が50N以上であることが好ましく、80N以上であることがより好ましい。圧壊荷重が50N未満であると、散布時や散布後に水流による搖動で粒子同士が接触して焼結体10が破壊されやすくなる。このように、水流によって焼結体10が破壊されると、鉄と炭素が分離することにより局部電池の効果が消失し、2価鉄イオンの溶出が少なくなってしまう恐れがある。このような観点から、本実施の形態の焼結体10は、5重量%濃度の塩水浸漬10日後の圧壊荷重が、50N以上であり、かつ、塩水浸漬前の圧壊荷重の1/2以上維持していることが、さらに好ましい。5重量%濃度の塩水浸漬10日後の圧壊荷重が、塩水浸漬前の圧壊荷重の1/2以上であることによって、局部電池の効果を長期間保持することができる。
【0023】
<鉄イオン溶出量>
また、本実施の形態の焼結体10は、5重量%濃度の塩水浸漬10日後の2価鉄イオンの溶出量が2ppm以上であることが好ましく、より好ましくは5ppm以上、さらに、10ppm以上であることが望ましい。このように底質環境中に高濃度の2価鉄イオンを供給することによって、硫化水素やリンをトラップして短期間で水質改善効果を得ることができるほか、微生物をはじめとする生物群の活性を高めてより高い水質改善効果を上げることが可能となる。
【0024】
<熱重量減少率>
さらに、本実施の形態の焼結体10は、不活性雰囲気中での熱重量分析における室温〜500℃までの温度における焼結体10の重量減少率が3%以下であることが好ましい。室温から500℃までの重量減少率が3%以下であるということは、有機バインダーおよびコークス粉が完全に炭素化していることを示している。そのため、水中に散布したときに焼結体10が崩壊しにくく、かつ環境に有害な有機化合物が焼結体10から溶出することが無いため、本材料による新たな環境負荷を生じることもない。
【0025】
<鉄粒子>
本実施の形態の焼結体10は、0価の金属鉄が炭素と接触することによる局部電池の形成により、水中へ2価鉄イオンとして溶出し、夏場、特に貧酸素状態での悪臭(硫化水素など)や赤潮(異常プランクトン発生)を抑制するとともに、磯やけによる藻場の再生に寄与するものである。このため、鉄粒子1としては、鉄原料の段階で酸化鉄であっても、焼成後の最終製品で金属鉄になっていれば良いが、好ましくは鉄(Fe)を主成分として炭素(C)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)の少なくとも一種以上が0.5重量%以上含まれている鉄鋼材料を原料とすることが良い。なお、このような鉄粒子1として、鋳鉄や炭素鋼、ステンレス鋼等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本実施の形態の焼結体10を構成する鉄粒子1は、海水中において焼結している炭素との局部電池効果によって2価イオンとして水中に放出されるため、徐々に小さくなる。従って使用する鉄粒子1の粒度としては、JIS規格で200〜5メッシュであることが好ましい。粒度が200メッシュ未満というようにあまりにも小さいと水との接触期間が短くなるとともに、製造時に発火、粉塵爆発などのおそれがある。また、5メッシュを超えるまで大きすぎると混合、混練、造粒が難しくなる。鉄粒子1の形状は、例えば球形などの粒状であればよく、不定形の塊状であってもよい。なお、
図1及び
図2では、説明の便宜上、鉄粒子1を平面視が正6角形の多面体形状に描いているが、これに限るものではない。
【0027】
<炭素質物>
本発明において炭素質物3は、鉄と局部電池を形成する為に必要であり、鉄との接触が非常に重要である。局部電池を形成させるための炭素質物3の原料(炭素質原料)としては、例えば、コークス、木炭、石炭粉、黒鉛、コールタールピッチや有機化合物、高分子材料の炭化物等が使用可能である。これらは単独もしくは2種以上混合して使用することもできる。炭素質原料の形状は問われないが、焼結後に鉄粒子1との接触箇所を多くして局部電池機能を発現しやすい粉粒状、塊状などが好ましく、不定形な外観形状であってもよい。鉄原料と配合する炭素質原料の50重量%以上は、高温で溶融して流動性を示さない固体炭素質材料であることが好ましい。そのような固体炭素質材料としては、例えば黒鉛、コークス粉などを挙げることができ、特に、450℃以上の温度履歴があり、かつ導電性を有するピッチコークス粉であることがより好ましい。
【0028】
450℃以上の温度履歴があるピッチコークス粉は、コールタールピッチや高分子材料のように高温で溶融して流動することが無いため、造粒した形状を保ちやすく、かつ多孔質な焼結体10を得ることが容易である。コークス粉に代表される炭素質原料の粒度は、焼結後に鉄粒子1との接触箇所を多くして局部電池機能を効率化させるため、及び造粒性を向上させる為に、例えばJIS規格で300〜5メッシュがよい。粒度が5メッシュよりも大きくなると、鉄粒子1と局部電池を形成するための接触点数が減り溶出効率が低下し、300メッシュよりも小さくなると嵩比重が小さくなりすぎ、混合性、造粒性が悪化するばかりか、発火、粉塵爆発などのおそれがある。
【0029】
なお、コークス粉は、石油系または石炭系重質油から得られるコークスのいずれも使用することができる。これらの中でも、石炭系重質油から得られるコークスは、メソフェースリッチでニードルコークスになりやすいため、導電性が高く、結果的に局部電池としての電流が流れやすく、鉄イオンを発生しやすいので好ましい。
【0030】
<バインダー>
本実施の形態の焼結体10は、有機物ではない導電性を有する炭素と、鉄との焼結体であるが、その製造過程において有機バインダーを使用する。有機バインダーを用いることによって、粉粒状の原料の凝集を促進させて粒状化速度を上げ、収率を向上させるとともに、焼結体10の物性(強度、表面状態、耐崩壊性など)を改善し、さらには鉄粒子1と炭素質物3との接着を強固なものとすることができる。そのような観点から、有機バインダーとしては、固定炭素分を20重量%以上有しており、芳香環を多く含有したピッチやフェノール樹脂、リグニン、またはフェノール成分を主成分とするリグニンスルホン酸塩などが好ましく、これらの中でも、固定炭素及び結着力に優れたコールタールピッチが最も好ましい。なお、有機バインダーとしては、水溶性であったり、水溶性でなくても鉄粒子1と炭素質物3との間に水が容易に浸透するような弱い接着状態しか得られないものは好ましくない。
【0031】
コールタールピッチは、不活性または還元雰囲気における500℃以上の焼成により、固定炭素以外の水素、酸素、窒素、硫黄分等が分解、揮発して、焼成物の実質95%以上が炭素となる。また、コールタールピッチは、焼成時に、水素、酸素、窒素、硫黄などが放出されることから空隙を形成し、水と鉄との接触面積を多くし、効率的に鉄イオン発生に寄与する。さらに、コールタールピッチは、導電性を有する強固な炭化物になるため、鉄粒子1と炭素質物3とを固定化するよいバインダーとなる。
なお、コールタールピッチの中でも固定炭素量が50%以上あるものが焼成時の形状維持の面からも好ましく、このようなコールタールピッチとしては、例えば、株式会社シーケム製のBPやIP(いずれも製品名)が例示される。
【0032】
有機バインダーは、鉄原料と炭素質原料の混合物100重量部に対して、例えば5〜20重量%の範囲内で配合することがよい。有機バインダーが5重量%未満ではバインダーとしての効果がなく、20重量%を越えると焼成時に有機バインダーが溶融することにより、所望の形状や好適な見かけ比重、開気孔率が得られなくなる。なお、鉄原料とコールタールピッチなどの有機バインダーのみで複合物を形成させた場合、焼成時に有機バインダーが溶融して、複合物の形状が維持できない。
【0033】
コールタールピッチに代表される有機バインダーは、鉄原料及び炭素質原料に対して均一に混合させるために、粉粒体がよい。この粉粒体の粒度としては、例えば200〜32メッシュがよい。有機バインダーの粒度が小さすぎると見かけ比重が小さくなりすぎ、混合、混練性が悪化し、大きすぎると混合、加熱溶融及び造粒品内部が不均一になる可能性がある。
また、コールタールピッチは、例えば30〜150℃に軟化点があるものが好ましい。このような軟化点を持つコールタールピッチの使用は、加熱しながら混合物を成型(造粒)するブリケットマシンや溶融造粒などの乾式造粒などの分子間力による造粒方法には非常に都合がよい。それらによる造粒後、それをそのまま焼成すれば良いので、効率良く焼結体10を製造することが可能である。
【0034】
また、有機バインダーには、コールタールピッチやフェノール樹脂などに加えて、造粒性を向上させるための造粒助剤を添加してもよい。造粒助剤は、焼結時に炭素質物3となるものであれば特に限定されない。造粒助剤の例として、ゼラチンやデンプン糊、廃糖蜜、リグニンスルホン酸塩、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミドなどが好適である。造粒助剤を使用する場合、有機バインダーと造粒助剤の重量配合比(有機バインダー:造粒助剤)は、例えば100:0〜30:70とすることが好ましい。このような範囲内となるように造粒助剤の配合比を調整することによって、焼結時の見かけ比重や開気孔率、圧壊強度等に悪影響を及ぼすことなく、所望の形状の焼結体10を容易に製造することができる。
【0035】
本実施の形態の焼結体10は、圧壊荷重、見かけ比重や開気孔率などの物性値や局部電池効果による2価鉄イオンの溶出を妨げない範囲において、鉄と炭素以外に、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム等の元素を含有する鉱物系の無機物等をさらに含んでいても構わない。
【0036】
[製造方法]
本実施の形態の焼結体10は、鉄原料と炭素質原料の混合物に有機バインダーを配合して、必要に応じて所望の形状に造粒したのち、不活性または還元雰囲気において500℃以上の温度で焼結することによって製造される。
【0037】
焼結体10の好ましい製造方法の一例は、
鉄原料としての鉄粒子または酸化鉄粒子、炭素質原料及び有機バインダーを加熱溶融混練し、それらの複合物を製造する工程と、
複合物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体10を得る工程と、
得られた焼結体を冷却する工程と、
を含むことができる。
【0038】
焼結体10の好ましい製造方法の他の例は、
鉄原料としての鉄粒子または酸化鉄粒子、炭素質原料、有機バインダー、及び水または有機溶媒を混合、混練してそれらの混合物を得る工程と、
混合物を造粒して造粒物を得る工程と、
造粒物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体10を得る工程と、
得られた焼結体を冷却する工程と、
を含むことができる。
【0039】
鉄原料や炭素質原料、有機バインダーの配合順序は、特に限定されず、鉄原料と炭素質原料の混合物をまず作成してから有機バインダーを配合してもよいし、すべての原料を一度に配合してもよい。他の添加物を配合する場合もまた同様である。
【0040】
配合方法については、各種ブレンダーやミキサー、ニーダーなど一般的な混合・混練器を使用することができる。
【0041】
各種原料が配合された混合物は、必要に応じて、任意の形状となるように造粒が行われる。造粒形状については、特に限定されず、例えば球状、回転楕円状、円柱状、不定形状等とすることができる。これらの中でも、底質環境改善材として使用される際に海水等との接触面積が大きくなるので、球状もしくは回転楕円状が好ましい。また、造粒物の大きさについては、底質環境改善材として使用される環境等によって好ましい形状が異なることから特に限定されるものではないが、球形の場合には、直径5mm以上、好ましくは直径5〜100mm程度が好ましい。また、造粒物の形状が球形以外である場合は、直径5〜100mmの球と同程度の体積となるような大きさとすることが好ましい。
なお、造粒は人手にて行うことも可能であるが、作業性や安全性、形状制御などの面からは、ペレタイザやブリケットマシン等の造粒機の使用が好ましい。
【0042】
造粒された原料混合物は、水や有機溶剤を造粒時に使用した場合は60℃以上で乾燥した後、500℃以上の不活性又は還元雰囲気下において焼結を行う。焼結には、例えば、リードハンマー炉、トップチャージ炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンあるいはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また、仮焼処理は、連続式又はバッチ式のどちらでもよい。焼結温度は700℃であることがより好ましく、900℃であることがさらに好ましく、1000℃以上であることが最も好ましい。500℃以上の不活性または還元雰囲気下で焼結を行うことにより、有機バインダーを確実に炭化させるとともに、鉄原料中に含まれる酸化鉄の還元も行うことができる。焼成によって得られた焼結体10は、速やかな2価鉄イオンの溶出と高い圧壊強度を発現する環境負荷のない底質環境改善材として利用できる。
なお、焼成は複数回行ってもよく、一度焼結した焼結材を鉄やマンガンなどの化合物の水溶液に浸漬したのち、再度焼成を行うこともできる。
【0043】
焼結工程を経た焼結体10はその後、不活性または還元雰囲気下のまま徐冷、もしくは徐冷の後、大気雰囲気下で取り扱いが可能な温度まで放冷されたのち、底質環境改善材として使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0045】
[見かけ比重測定]
造粒物の体積(V)を105℃で乾燥した造粒物の重さ(W1)で割った値(=W1/V)を見かけ比重とし、造粒物5点の平均値を採用した。
【0046】
[開気孔率測定]
105℃で乾燥した造粒物を純水に浸漬し、25℃、真空下(−0.88MPa)で2時間脱気処理を行い、取り出して、造粒物表面に付着した水を紙ウエスで拭きとり、水分を含有した造粒物の重量を測定する(W2)。含水による重量増加分を体積増加分と見なして、(W2−W1)/Vを開気孔率とし、造粒物5点の平均値を採用した。
【0047】
[圧壊荷重測定]
造粒物の崩壊する荷重(座屈する荷重)を圧壊荷重とした。荷重測定には、島津製作所製 油圧式REH竪型100kN引張-圧縮試験機を使用し、サンプルに圧縮荷重を加え、最大荷重を圧壊荷重とし、造粒物5点の平均値を採用した。
【0048】
[熱重量減少率測定]
造粒物を乳鉢で粉砕し、窒素雰囲気下で熱重量分析(TGA)を行い、熱重量減少率を測定した。測定には、株式会社リガク製 急速加熱示差熱天秤 R−TG−DTA/H8120を用い、昇温スピードは15℃/分で、100℃から500℃まで昇温させたときの重量減少率を測定した。
【0049】
[焼成体の鉄含有量測定]
焼成した造粒物を乳鉢で粉砕し、ICP発光分光分析法で測定した。
【0050】
[固定炭素測定]
JIS K−2425に準拠して測定した。
【0051】
[塩水浸漬テストと2価鉄イオン濃度及びCODの測定]
5重量%濃度の塩化ナトリウム水溶液を作製し、超音波で10分処理した後、25℃、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理したものを塩水浸漬テストに用いた。また、塩水浸漬は窒素雰囲気のデシケータ内で行った。
造粒物の重量に対して、20倍量の塩化ナトリウム水溶液をガラス製サンプル瓶にいれる(たとえば、造粒物が5gの場合には100gの塩化ナトリウム水溶液に浸漬する)。これを真空デシケータ内で、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理して、窒素ガスを大気圧になるまで封入する。10日静置後、上澄み液をパックテスト(登録商標;株式会社共立理化学研究所)によって2価鉄イオン濃度及びCODを測定した。
【0052】
[造粒方法]
・造粒方法A
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー)を所定量測りとり、150℃でニーダーにより混合・混練し、直径約1cmの球状の粒を手動(手のひらで丸めて球形にする)で作成した。
・造粒方法B
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー)を所定量測りとり、アルミナ乳鉢で混合して、水を固形分量に対して10〜20重量%添加し、直径約1cmの球状の粒を手動(手のひらで丸めて球形にする)で作成した。実施例6に関しては、バインダーは非水溶性で予め溶液であることから水は添加しなかった。
・造粒方法C
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー)を所定量測りとり、Vブレンダーで混合し、パン型造粒機(型式1237-S-3 株式会社 吉田製作所)を使用して、傾斜角度45℃、回転数40rpmで、原料100重量部に対して、水分20重量部を噴霧して、直径約1cmの球状粒を作製した。
・造粒方法D
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー、水)を所定量測りとり、混合攪拌機で混合・混練した後、ブリケッタ(BGS IN型 新東工業株式会社)を使用して、ポケット:18×14×深さ3.3mm、ロール回転:8rpm、ロール加圧力:12KNの条件で、ラグビーボール状粒を作製した。
なお、造粒方法B,C,Dにおいて、水を使用する場合には、70℃で乾燥して水分を除去した。
【0053】
[焼成方法]
造粒物をコークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉に入れ、100℃/時間で昇温し、400℃、900℃、1200℃でそれぞれ2時間焼成した。焼成後は、自然放冷して、50℃以下になった時点で造粒物を取り出した。
【0054】
[使用原料]
・鉄粉
鋳鉄粉(竹内工業株式会社 28メッシュアンダー品 炭素:2〜4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5〜1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)
・コークス粉
ピッチコークス粉(新日鉄住金化学株式会社製 200メッシュアンダー、50〜200メッシュ、6〜9メッシュ)
・有機バインダー
(1)コールタールピッチ(新日鉄住金化学株式会社製 軟化点:85℃、固定炭素分:58重量%、50メッシュアンダー)
(2)ゼラチン(和光純薬製 固定炭素分:16.2重量%)
(3)可溶性でんぷん(和光純薬製 固定炭素分:9.3重量%)
(4)リグニンスルホン酸マグネシウム(日本製紙株式会社製 商品名サンエキスP321、リグニンスルホン酸マグネシウム:59重量%、還元性糖類:17重量%、糖変性物:18重量%、無機塩類:6重量%、灰分:12重量%、灰分を予め差し引きした固定炭素分:25重量%)
(5)エチルセルロース(日新化成株式会社製 商品名 ECビヒクル EC−100 固形分濃度9重量% エチルセルロース粉の固定炭素分:1重量%以下)
【0055】
実施例1〜9、比較例1〜7
表1〜3に示す配合及び造粒方法で実施例および比較例となる鉄粒子と炭素質物の焼結体を作成し、それぞれの圧壊荷重、及び塩水浸漬10日後の造粒物の形状、圧壊荷重、圧壊荷重維持率、鉄イオン発生濃度、CODを測定し、底質環境改善材としての評価を行った。
なお、結果についても表1〜3に記す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
実施例1〜9の焼結体は、鉄粒子と炭素質物を含む多孔質な焼結体であるにもかかわらず、鉄粒子と炭素質物が強固に結合しているため、海水を模した塩水に浸漬しても崩壊したり、圧壊強度が低下したりすることがなく、比較例3〜6の焼結体に比べ、底質環境改善材として優れた特性を有している。すなわち、実施例1〜9の焼結体は、長期間にわたり、その形状を維持しながら、局部電池作用により高濃度の2価鉄イオンを放出し続けることが可能である。また、実施例1〜9の焼結体は、鉄と炭素を焼結させる有機バインダーが充分に炭素化されているため、CODの上昇といった新たな環境負荷を生じさせることもない。
【0060】
このように、本実施の形態の焼結体10は、環境改善材として優れており、特に閉鎖性海域の底質環境改善材として非常に良好である。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。