特開2018-59870(P2018-59870A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-59870(P2018-59870A)
(43)【公開日】2018年4月12日
(54)【発明の名称】試料の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2202 20180101AFI20180316BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20180316BHJP
【FI】
   G01N23/22 310
   G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-199046(P2016-199046)
(22)【出願日】2016年10月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高原 晃里
(72)【発明者】
【氏名】大渕 敦司
(72)【発明者】
【氏名】村井 健介
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001KA01
2G001LA03
2G001MA10
2G001RA01
2G001RA03
2G001RA10
(57)【要約】
【課題】不均質効果を除去することで高精度に、かつ、簡便に試料に含まれる元素の分析を行うことができる試料の分析方法を提供する。
【解決手段】試料の分析方法であって、採取された状態でガラス形成材料を含有する試料の少なくとも一部を直接加熱することにより、加熱された前記少なくとも一部をガラス化する工程と、前記加熱された試料を冷却する工程と、前記加熱によりガラス化された領域にX線を照射し、放出された蛍光X線の強度に基づいて、前記試料に含まれる元素を特定する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取された状態でガラス形成材料を含有する試料の少なくとも一部を直接加熱することにより、加熱された前記少なくとも一部をガラス化する工程と、
前記加熱された試料を冷却する工程と、
前記加熱によりガラス化された領域にX線を照射し、放出された蛍光X線の強度に基づいて、前記試料に含まれる元素を特定する工程と、
を含む前記試料の分析方法。
【請求項2】
前記ガラス形成材料は、SiO、B、P、GeO、BeF、As、SiSeまたはGeSであることを特徴とする請求項1記載の試料の分析方法。
【請求項3】
前記試料は土壌、岩石またはセメントであることを特徴とする請求項1又は2に記載の試料の分析方法。
【請求項4】
前記加熱の方法は、前記試料を電気炉に入れて加熱する方法であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の試料の分析方法。
【請求項5】
前記加熱の方法は、前記試料にレーザー光を照射して加熱する方法であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の試料の分析方法。
【請求項6】
前記試料は、一部のみ加熱されることを特徴とする請求項5に記載の試料の分析方法。
【請求項7】
さらに、前記試料を粉砕する工程と、
前記粉砕された試料に、前記レーザー光の波長に応じた増感剤を添加する工程と、を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の試料の分析方法。
【請求項8】
前記増感剤は、カーボン又は芳香族系色素であることを特徴とする請求項7に記載の試料の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる元素や当該元素の含有量を分析する方法として、X線を照射した際に発生する蛍光X線を検出し、当該蛍光X線のエネルギーと強度から試料組成を分析する蛍光X線分析法が知られている。蛍光X線分析法は、高精度な分析を行うことができるが、いわゆる鉱物効果や粒度効果と呼ばれる不均質効果によって、分析の精度が低下する場合がある。
【0003】
具体的には、鉱物効果は、分析対象である試料に複数の異なった種類の鉱物が存在する場合,鉱物の種類の構成が変化すると分析結果に誤差が発生する現象である。
【0004】
粒度効果は、粉砕した試料を分析する場合、粒子の大きさによって目的元素の蛍光X線強度が変化する現象である。特に軽元素を分析対象とする場合には、軽元素から発生するエネルギーの低い蛍光X線は試料表面から浅い位置で発生し、軽元素の分析領域は試料表面から近い領域であることから、粒度効果の影響が大きくなる。
【0005】
そこで、不均質な試料を分析する場合には、当該試料に含まれる元素を高精度に分析するため、事前に当該試料を均質化する処理を行う必要がある。当該処理は、例えば、粉末にした試料に融剤を加えた上で熔融するガラスビード法が知られている。
【0006】
図8は、従来から知られた、ガラスビード法によって試料を調整する方法を示すフローチャートである。まず、分析対象である試料は、粉砕機によって粉砕され、乾燥される(S801)。次に、試料と融剤が既定の割合で精秤される。(S802)。次に、試料と融剤が混合される(S803)。次に、混合した試料と融剤がるつぼに充填され、剥離剤が添加される(S804)。次に、るつぼがビードサンプラーに設置され、るつぼに充填された試料は、撹拌されながら加熱され、溶融される(S805)。次に、加熱された試料は、低温環境下で急冷される(S806)。最後に、急冷されることで固形化した試料は、るつぼから剥離される(S807)。以上の工程を経ることで、試料のガラスビードが作成される。
【0007】
ガラスビード法では1:10の割合で試料と融剤を配合するのが一般的であるが、融剤を多く混合するために、微量成分の分析精度が低くなる。例えば、下記特許文献1は、試料に対する融剤の配合比率を1:3にした場合でも、剥離剤の添加を間欠的に行うことにより、良好に溶融や剥離を行う方法を開示している。融剤の配合比率を低下させることにより、ガラスビード法における微量成分の分析精度を向上させることができる。
【0008】
また、蛍光X線分析装置を用いた分析方法以外の分析方法として、原子吸光光度分析法や、誘導結合プラズマ質量分析法等の分析方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−239290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガラスビード法は、不均質効果を低減し、高精度な分析を行う有効な方法である。しかしながら、図8のフローチャートのように、精秤、混合、溶融等の煩雑な手順を必要とする。また、この手順を遂行するためには、攪拌、溶融を行うことができる高価なガラスビード作製装置や白金製のるつぼを準備する必要がある。またガラスビード法では試料が融剤により希釈されるために微量成分の分析精度が低下する。
【0011】
同様に、原子吸光光度分析法や、誘導結合プラズマ質量分析法による化学分析法は、事前に分析対象である試料を硝酸と塩酸の混合酸で溶解する工程や、廃液等の処理工程を含むことから煩雑である。このような化学分析法やガラスビード法のような煩雑な手法を用いて、土壌汚染調査等の現場で分析を行うのは困難である。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、不均質効果を簡便に除去できる、高精度な試料の分析方法を提供することにある。また、試料を融剤で希釈せずに、微量成分を含む全成分について、高精度の分析が可能な分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の試料の分析方法は、採取された状態でガラス形成材料を含有する試料の少なくとも一部を直接加熱することにより、加熱された前記少なくとも一部をガラス化する工程と、前記加熱された試料を冷却する工程と、前記加熱によりガラス化された領域にX線を照射し、放出された蛍光X線の強度に基づいて、前記試料に含まれる元素を特定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の試料の分析方法は、請求項1に記載の試料の分析方法において、前記ガラス形成材料は、SiO、B、P、GeO、BeF、As、SiSeまたはGeSであることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の試料の分析方法は、請求項1または2に記載の試料の分析方法において、前記試料は土壌、岩石またはセメントであることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の試料の分析方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の試料の分析方法において、前記加熱の方法は、前記試料を電気炉に入れて加熱する方法であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の試料の分析方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の試料の分析方法において、前記加熱の方法は、前記試料にレーザー光を照射して加熱する方法であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の試料の分析方法は、請求項5に記載の試料の分析方法において、前記試料は、一部のみ加熱されることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の試料の分析方法は、請求項5又は6に記載の試料の分析方法において、さらに、前記試料を粉砕する工程と、前記粉砕された試料に、前記レーザー光の波長に応じた増感剤を添加する工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の試料の分析方法は、請求項7に記載の試料の分析方法において、前記増感剤は、カーボン又は芳香族系色素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、融剤を使用することなしに不均質効果を除去することで高精度に、かつ、簡便に試料に含まれる元素の分析を行うことができる。また試料を融剤で希釈しないために、微量成分を含む全成分について高精度の分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明における分析方法を示すフローチャートである。
図2】X線回折パターンの測定結果の一例を示す図である。
図3】X線回折パターンの測定結果の他の一例を示す図である。
図4】検量線の一例を示す図である。
図5】元素の分析結果を示す一例である。
図6】加熱後の試料の表面形状及び各分析位置における各元素の蛍光X線の強度を示す一例である。
図7】加熱後の試料の表面形状及び各分析位置における各元素の蛍光X線の強度を示す他の一例である。
図8】ガラスビード法による試料の調整方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。図1は、本発明に係る試料の分析方法を表すフローチャートである。
【0024】
まず、採取された状態でガラス形成材料を含有する試料の粉末ペレットを作成する(S101)。具体的には、例えば、採取された状態でガラス形成材料を含有する試料は、メノウ乳鉢を用いて粉砕される。粉砕された試料は、105℃の温度で1時間乾燥される。乾燥する工程の時間及び温度は、試料に応じて適宜設定される。
【0025】
ガラス形成材料は、具体的には、例えば、SiO、B、P、GeO、BeF、As、SiSeまたはGeSである。また、ガラス形成材料を含む試料は、具体的には、例えば、土壌、岩石、セメント、汚泥、スラグ、廃棄物等である。
【0026】
続いて、試料は、内径が10乃至50mmのダイスに充填され、加圧成形機に設置される。ここで、試料は、成形性を向上させる成形助剤を混合した上で、ダイスに充填されてもよい。ダイスに充填された試料は、加圧成形機によって、20乃至4000MPaの圧力で1分間乃至3分間加圧されることでペレット状に成形される。使用されるダイスの大きさ及び加圧時の圧力は、採取された試料の質量及び種類に応じて適宜設定される。
【0027】
続いて、採取された状態でガラス形成材料を含有する試料の少なくとも一部を直接加熱することにより、加熱された少なくとも一部をガラス化する(S102)。具体的には、例えば、ペレット状に成形された試料は、電気炉に設置され、500乃至1700℃の温度で10分間乃至10時間加熱される。ガラス形成材料を含む試料は、加熱されることによってガラス化する。加熱の温度及び時間は、採取された試料の質量及び種類に応じて適宜設定される。
【0028】
なお、加熱の方法は、試料にレーザー光を照射して加熱する方法であってもよい。具体的には、例えば、加熱の方法は、35Wの出力で炭酸ガスレーザー装置によって発生させたレーザー光を10秒間照射することで、ペレット状の試料を加熱するようにしてもよい。また、レーザー光を発生させる装置は、炭酸ガスレーザー装置に限られず、半導体レーザー装置またはYAGレーザー装置であってもよい。また、レーザー光照射により試料を加熱する場合は、S101の工程において、必要に応じて使用するレーザー光の波長に応じた増感剤を試料に添加してもよい。増感剤の例としてはカーボンや芳香族系色素である。
【0029】
さらに、レーザー光を照射する場合には、試料は、一部のみ加熱されるようにしてもよい。具体的には、12mmの径を有する粉末ペレット状の試料に対して、5mmの照射径のレーザー光を照射することで、レーザー光が照射された領域のみを加熱するようにしてもよい。試料の一部のみを加熱するようにすることで、試料全体を加熱する場合と比較して、加熱に要するエネルギーと時間を削減することができる。レーザー光照射により試料の一部を加熱する場合は、S101の工程において、ダイスの代わりに、内径が10乃至50mmで厚みが5mm程度の大きさのアルミリング、塩ビリング又はアルミカップを用いて加圧成形してもよい。この場合、ペレットは、加圧成形機によって20乃至4000MPaの圧力で1分間乃至3分間加圧されることで成形される。なお、使用されるリングやカップの材質や大きさ、及び加圧時の圧力は、採取された試料の質量及び種類に応じて適宜設定される。
【0030】
次に、加熱された試料を冷却する(S103)。具体的には、例えば、加熱された試料を、10分間、常温環境の下で放冷する。冷却の温度及び時間は、採取された試料の質量、種類及び加熱条件に応じて適宜設定される。
【0031】
次に、加熱によりガラス化された領域にX線を照射し、放出された蛍光X線の強度に基づいて、試料に含まれる元素の含有量を特定する(S104)。具体的には、あらかじめ含まれる元素の含有量が既知である標準試料を準備し、加熱によりガラス化する。当該ガラス化された標準試料を蛍光X線分析装置に設置し、ガラス化された領域にX線を照射し、当該X線によって発生した蛍光X線の強度を測定する。既知の含有量と、得られた蛍光X線強度と、の関係を検量線として求める。分析試料を加熱によりガラス化し、蛍光X線強度を測定する。当該分析試料における蛍光X線強度から、あらかじめ作成した検量線で表される式にあてはめ、分析試料の含有量を特定する。
【0032】
以上のように、本発明によれば、精秤、混合の煩雑な手順や、ビードサンプラーによって試料を撹拌する工程等が不要になることにより、蛍光X線分析を行う前に行う試料の調整が、ガラスビード法よりも簡易になる。また、本発明によれば、ガラスビード法に必要な白金製のるつぼ、剥離剤や、融剤が不要となり、安価に試料の分析をすることができる。さらに、土壌汚染調査を行う場合には、試料を採取する場所が実験設備を備えた場所から遠方である場合が多いが、分析装置が簡易なものとなることにより、試料が採取された場所で分析を行うことが出来る。さらに、試料を融剤で希釈しないために、微量成分を含む全成分について高精度の分析が可能となる。
【0033】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記においては、試料を加熱する工程の前に、粉末ペレットを作成する実施形態について説明したが、粉末を成型せずに、粉末のままアルミナ製のるつぼやボートなどに充填し、加熱をおこなってもよい。
【0034】
粉末のまま加熱する場合は、粉末ペレットを形成するための加圧工程が含まれない。従って、粉末ペレットを作成する代わりに粉末のまま用いることによって、試料の調整がより簡易になる。
【0035】
続いて、実験結果を用いて、本発明の効果について説明する。まず、加熱工程によって、試料がガラス化されていることを表す実験結果について説明する。図2は、S101の工程によって、堆積岩の標準試料から作成した粉末ペレットに対して、X線回折による結晶構造解析を行った結果(以下、X線回折パターン)を示す図である。また、図2は、加熱工程S102及び冷却工程S103を経た試料と、加熱工程S102及び冷却工程S103を経ていない試料に対するX線回折パターンである。また、図2の下部は、上部の一部を拡大した図である。なお、X線回折による結晶構造解析については、従来技術を用いるため説明を省略する。
【0036】
図2に示すように、加熱工程及び冷却工程を経た試料は、ガラス化している。具体的には、加熱工程及び冷却工程を経た試料のX線回折パターンに表れたピークの数は、加熱工程及び冷却工程を経ていない試料のX線回折パターンに現れたピークの数よりも少ない。また、非晶質の試料を測定した場合におけるX線回折パターンに特徴的なブロードなハローパターンが現れている。当該事実は、特に、図2の拡大図に示された範囲において、顕著である。X線回折パターンに現れたピークは、分析対象である試料の結晶構造を表すことから、ピークの数の減少やブロード化は、分析対象である試料が非晶質化(ガラス化)したことを表す。従って、図2に示すX線回折パターンは、加熱工程及び冷却工程を経た試料がガラス化していることを示す。
【0037】
図3は、S101の工程によって、火成岩の標準試料から作成した粉末ペレットに対するX線回折パターンである。また、図3は、加熱工程S102及び冷却工程S103を経ていない試料と、レーザー光による加熱工程S102及び冷却工程S103を経た試料と、加熱炉による加熱工程S102及び冷却工程S103を経た試料とに対するX線回折パターンである。
【0038】
なお、レーザー光によって加熱される粉末ペレットは、S101の工程において、試料が粉砕され、105℃の温度の環境下で1時間乾燥された後、加圧成形機によって700MPaの圧力で1分間加圧されることで成形されている。その後、粉末ペレットは、S102の工程において、35Wの出力で発生されたレーザー光が10秒間照射されている。
【0039】
また、電気炉によって加熱される粉末ペレットは、S101の工程において、試料が粉砕され、105℃の温度の環境下で1時間乾燥された後、加圧成形機によって700MPaの圧力で1分間加圧されることで成形されている。その後、S102の工程において、粉末ペレットは、電気炉の中で1200℃の温度で1時間加熱されている。
【0040】
図3に示す結果は、図2に示す結果と同様に、加熱工程及び冷却工程を経た試料がガラス化していることを示す。具体的には、レーザー光及び加熱炉による加熱工程及び冷却工程を経た粉末ペレットに対するX線回折パターンに表れたピークの数は、いずれも、加熱工程及び冷却工程を経ていない粉末ペレットに対するX線回折パターンに表れたピークの数よりも少ない。また、ハローパターンも現れている。
【0041】
従って、図3に示す結果は、電気炉による加熱方法とレーザー光による加熱方法のいずれを用いた場合であっても、分析対象である試料がガラス化されていることを示す。また、図3に示す結果は、堆積岩及び火成岩のようにガラス形成材料を含む試料はガラス化することが出来ることを示している。
【0042】
続いて、分析対象である試料がガラス化されたことによって、試料に含まれる元素を特定する分析が高精度に行われていることを示す実験結果について説明する。図4は、S104の工程において、堆積岩または火成岩の標準試料から作成した粉末ペレットに対して得られたNaの蛍光X線強度を、既知のNaの含有量に対してプロットした検量線を示す図である。それぞれの試料に対して、レーザー光による加熱工程ありの場合と、加熱工程なしの場合と、を示している。
【0043】
図4に示す式は、それぞれ、各測定点を1次関数で近似した検量線を表す式であり、Rの2乗は、近似式の一致度の高さを表す相関係数である。検量線の相関係数は、レーザー光による加熱工程なしの場合より、加熱工程ありの場合ほうが1に近い値である。従って、加熱工程ありの場合は、検量線が表す式と測定点の差異が小さく、測定点のばらつきが少ないことから、分析精度が高いことがわかる。
【0044】
また、S104の工程において、土壌試料から作成した粉末ペレットに対するNaの蛍光X線強度を測定し、それに検量線で表される式にあてはめて求めたNa含有量を図5に示す。蛍光X線分析により得られたNa含有量を、別にICP-MSにより求めた分析値2.73 mass% と比較すると、レーザー光による加熱工程がある場合の方が誤差が少なくなった。従って、加熱工程がある場合の方が分析精度が高いことが期待される。
【0045】
以上のように、本発明によれば、蛍光X線分析を行う前に行う試料の調整が、ガラスビード法よりも簡易でありながら、ガラス化できており、鉱物効果や粒度効果等の不均質効果を除去した高精度な分析を行うことができる。
【0046】
また、発明者らは、粉末ペレットの一部をレーザー光で加熱した場合において、粉末ペレットの表面形状が分析結果に与える影響について検討した。具体的には、図6(a)は、堆積岩の標準試料から作成した粉末ペレットの加熱された領域における表面形状を示す図である。なお、当該粉末ペレットは、図3において示したレーザー光によって加熱される粉末ペレットと同じ条件で作成されている。
【0047】
図6(a)に示すように、粉末ペレットは、加熱された領域において、−100マイクロメートルから+400マイクロメートル程度の凹凸が形成された。
【0048】
また、図6(b)及び図6(c)は、加熱された領域内の異なる位置において、各元素の蛍光X線の強度を測定した結果を示す図である。なお、図6(b)及び図6(c)の縦軸は、正規化した強度を示し、横軸は、測定位置を示す。図6(b)及び図6(c)に示すように、粉末ペレットの表面に凹凸が形成されることにより、蛍光X線を測定する位置によって、蛍光X線の強度にばらつきが生じている。
【0049】
一方、図7は、火成岩の標準試料から作成した粉末ペレットの加熱された領域における表面形状を示す図である。なお、当該粉末ペレットは、図3において示したレーザー光によって加熱される粉末ペレットと同じ条件で作成されている。
【0050】
図7(a)に示すように、粉末ペレットは、加熱された領域において、−200マイクロメートルから+0マイクロメートル程度の凹凸が形成された。しかしながら、図7(a)が示す凹凸形状は、図6(a)が示す凹凸形状と比較して滑らかである。
【0051】
また、図7(b)及び図7(c)は、図6(b)及び図6(c)と同様に、加熱された領域内の異なる位置において、各元素の蛍光X線の強度を測定した結果を示す図である。図7(b)及び図7(c)に示すように、一部元素から発生する蛍光X線の強度はばらつきが若干大きいものの、図6(b)及び図6(c)が示す蛍光X線の強度と比較して、ばらつきが低減されている。
【0052】
従って、本発明は、分析対象となる試料、試料調整の条件、及び、加熱条件等を適宜選択し、表面形状の凹凸を低減することにより、ばらつきが除去された分析を行うことができる。
【0053】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。フローチャートは一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した工程と実質的に同一の工程、同一の作用効果を奏する工程または同一の目的を達成する工程で置き換えてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8