【実施例】
【0057】
[実施例1]
実施例1では、SiおよびFeを含有する材料としてSiとFeとの混合物と、Fe
3Pとを原料に用いて、FeSi
2−xP
x(x=0.01)を満たすように調製し、熱電材料を製造し、その熱電特性を評価した。
【0058】
詳細には、Si(バルク体、純度99.9999999%以上)、Fe(バルク体、純度99.99%以上)およびFe
3P(粉末、純度99.9%以上)を、FeSi
2−xP
x(x=0.01)を満たすように調製した。なお、β化の促進のため、Cuを0.006mol%用いた。表1に各原料のモル比を示す。
【0059】
調製された原料を高周波溶解により溶解し、固化体を得た(
図1のステップS110)。原料を鉄の融点まで昇温・加熱し、15分間保持し、溶解した。溶解した原料を鋳込んで急冷させ、固化体を得た。
【0060】
固化体を、自動乳鉢を用いて粉砕した(
図1のステップS120)。粉砕後の固化体の粒子をメッシュ(目開き38μm)により篩分けし、メッシュを通過した粒径38μm以下の粒子のみ取り出した。
【0061】
固化体の粒子をホットプレス(HP)により焼結し(
図1のステップS130)、得られた焼結体を773Kまで冷却した後、熱処理した(
図1のステップS140)。
【0062】
図3は、実施例1による焼結および熱処理の温度プロファイルを示す図である。
【0063】
焼結処理は、Ar雰囲気中、50MPa、1423Kで30分間の条件で行った。熱処理は、Ar雰囲気中、1123Kで10分および10時間の2つの条件で行った。
【0064】
このようにして得られた焼結体は、約24mm×12mm×5mmのサイズを有するペレット状であった。焼結体についてエネルギー分散型X線マイクロ分析装置(EDS)付走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6500F、日本電子株式会社)により組織観察した。結果を
図4に示す。焼結体の組成をX線回折(RINT2500、株式会社リガク)、電子線マイクロアナライザ(EPMA、JXA−8900F,日本電子株式会社)を用いて分析した。結果を
図5〜
図7、表2および表3に示す。
【0065】
焼結体から約4mm×4mm×20mmのサイズを有する小片を切り出し、これを熱電特性測定用の試料とした。試料の電気伝導度およびゼーベック係数を、熱電特性評価装置(ZEM−3、アドバンス理工株式会社)を用いて測定した。雰囲気ガスはHeであった。結果を
図8および
図9に示す。次いで、得られた電気伝導度およびゼーベック係数からパワーファクターを算出した。結果を
図10に示す。
【0066】
[実施例2]
実施例2では、原料にSiとFeとFe
3Pとを用いて、FeSi
2−xP
x(x=0.02)を満たすように調製し、熱電材料を製造し、その熱電特性を評価した。xの値を変えた以外、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0067】
実施例1と同様に、得られた焼結体についてSEM観察し、X線回折、EPMAを用いて組成分析を行った。結果を
図4〜
図7、表2および表3に示す。実施例1と同様に、得られた焼結体の熱電特性(電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクター)を評価した。結果を
図8〜
図10に示す。
【0068】
[比較例3]
比較例3では、原料にSiとFeとFe
3Pとを用いて、FeSi
2−xP
x(x=0.005)を満たすように調製し、熱電材料を製造し、その熱電特性を評価した。xの値を変えた以外、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0069】
実施例1と同様に、得られた焼結体についてSEM観察し、X線回折、EPMAを用いて組成分析を行った。結果を
図5〜
図7、表2および表3に示す。実施例1と同様に、得られた焼結体の熱電特性(電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクター)を評価した。結果を
図8〜
図10に示す。
【0070】
[実施例4]
実施例4では、原料にSiとFeとFe
3Pとを用いて、FeSi
2−xP
x(x=0.04)を満たすように調製し、熱電材料を製造し、その熱電特性を評価した。xの値を変えた以外、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0071】
実施例1と同様に、得られた焼結体についてSEM観察し、X線回折、EPMAを用いて組成分析を行った。結果を
図4〜
図7、表2および表3に示す。実施例1と同様に、得られた焼結体の熱電特性(電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクター)を評価した。結果を
図8〜
図10に示す。
【0072】
[比較例5]
比較例5では、原料にSiとFeとFe
3Pとを用いて、FeSi
2−xP
x(x=0.06)を満たすように調製し、熱電材料を製造し、その熱電特性を評価した。xの値を変えた以外、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0073】
実施例1と同様に、得られた焼結体についてSEM観察し、X線回折、EPMAを用いて組成分析を行った。結果を
図4〜
図7、表2および表3に示す。実施例1と同様に、得られた焼結体の熱電特性(電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクター)を評価した。結果を
図8〜
図10に示す。
【0074】
[比較例6]
比較例6では、原料にFe
3Pを用いない以外は、実施例1と同様であった。実施例1と同様に、得られた焼結体についてSEM観察し、X線回折、EPMAを用いて組成分析を行った。結果を
図5〜
図7、表2および表3に示す。実施例1と同様に、得られた焼結体の熱電特性(電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクター)を評価した。結果を
図8〜
図10に示す。
【0075】
[比較例7]
比較例7として、非特許文献2で開示されるPドープしたβ−FeSi
2試料のX線回折パターンおよび熱電特性を参照した。
【0076】
以上の結果をまとめて示す。表1に簡単のため、実施例/比較例1〜6の熱電材料の原料のモル比を示す。
【0077】
【表1】
【0078】
図4は、実施例/比較例1、2、4および5の焼結体のSEM像を示す図である。
【0079】
図4(A)〜(D)は、それぞれ、実施例1、実施例2、実施例4および比較例5の焼結体(熱処理時間:10時間)のSEM像である。設計時のFeSi
2−xP
xにおけるxの値が大きくなる、すなわち、Pの添加量が多くなるにつれて、空孔(図中の黒く示される部分)などが増える傾向が見られたが、いずれも緻密な焼結体であることを確認した。なお、図示しないが、熱処理時間の異なる焼結体ならびに比較例3の焼結体も同様に緻密な焼結体であることを確認した。
【0080】
図5は、実施例/比較例1、2および4〜6の焼結体のXRDパターンを示す図である。
【0081】
図5は、いずれも、10時間熱処理した焼結体のXRDパターンを示す。いずれのXRDパターンも、その主要な回折ピーク(図中黒丸で示すピーク)は、β−FeSi
2相を示す回折ピーク(JCPDS番号71−0642)に一致した。このことから、焼結体の主相は、β−FeSi
2相であることを確認した。β−FeSi
2相以外を示す回折ピーク(図中白丸で示すピーク)が、2θ(°)=28、35および45に見られた。これらのピークは、第二相のε−FeSi相であることを確認した。なお、β−FeSi
2相およびε−FeSi相以外を示す回折ピークは見られなかった。このことから、焼結体中に未反応の原料や固溶していないPは実質的にないことを確認した。なお、図示しないが、比較例3の焼結体ならびに熱処理時間の異なる焼結体も同様にβ−FeSi
2相を主相としており、ε−FeSi相以外の第二相は見られないことを確認した。
【0082】
図6は、実施例/比較例1、2および4〜6の焼結体におけるβ−FeSi
2相の含有量を示す図である。
【0083】
図6におけるβ−FeSi
2相の含有量は、
図5のXRDパターンにおいて、β−FeSi
2相の最大強度のピークと、ε−FeSi相の最大強度のピークとの比から算出した。
図6には、比較例7として、非特許文献2に記載の
図1から同様に算出したβ−FeSi
2相の含有量をあわせて示す。
図6の横軸は、設計時のFeSi
2−xP
xにおけるxの値である。算出された値は±3%の誤差を含むが、傾向を理解するには十分である。
【0084】
図6によれば、本発明の原料にFe
3Pを用いた製造方法は、原料にP粉末を用いた比較例7の製造方法に比べて、β−FeSi
2相の生成を効率的に促進し、ε−FeSi相の生成を抑制していることが分かる。このことから、Pをドープしたβ−FeSi
2相を主相する焼結体を得るには、原料にFe
3Pを用いることが好ましいことが示された。
【0085】
表2は、実施例/比較例1〜5の焼結体(熱処理時間:10時間)のEPMAによるβ−FeSi
2相およびε−FeSi相の含有量を示す。表3は、実施例/比較例1〜5の焼結体(熱処理時間:10時間)のEPMAによるβ−FeSi
2相およびε−FeSi相中のPの含有量を示す。表には示さないが、熱処理時間が10分の焼結体についても、実質的に同じ結果が得られたことを確認した。
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
図7は、実施例/比較例1〜6の焼結体のEPMAによるβ−FeSi
2相およびε−FeSi相中のPの含有量の変化を示す図である。
【0089】
表2、表3および
図7を参照すれば、FeSi
2−xP
xにおいて、xを0.005<x≦0.04を満たすように原料を調製すれば、β−FeSi
2相を90体積%より多く含み、かつ、β−FeSi
2相が0.1at%より多く0.3at%以下の範囲でPを含有した焼結体が得られることが分かった。これらの傾向に基づけば、実施上の誤差も考慮すれば、FeSi
2−xP
xにおいて、xを0.0075≦x≦0.025を満たすように原料を調製すれば、0.15at%以上0.25at%以下の範囲でPを含有したβ−FeSi
2相を95体積%以上99体積%以下含み、かつ、ε−FeSi相を1体積%以上5体積%以下含む焼結体が得られることが示唆される。
【0090】
図8は、実施例/比較例1〜7の焼結体の電気伝導度の温度依存性を示す図である。
図9は、実施例/比較例1〜7の焼結体のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
【0091】
図8および
図9は、いずれも、10時間熱処理した焼結体の電気伝導度およびゼーベック係数の温度依存性を示す。
図8および
図9中の比較例7の値は、非特許文献2の
図3および
図4に基づく。
図8によれば、いずれの焼結体も温度の上昇に伴い電気伝導度が上昇し、半導体的なふるまいをした。
図9によれば、Pを添加した焼結体は、いずれも1023K以下の温度範囲において負のゼーベック係数を有しており、n型熱電材料であることが分かった。
【0092】
注目すべきは、比較例7の焼結体の電気伝導度およびゼーベック係数は、温度の上昇に伴い漸次増加する傾向を示したが、Fe
3Pを用いた製造方法によって製造された焼結体(実施例/比較例1〜5)のそれらは、いずれも、少なくとも400K以上700K以下の比較的低い温度範囲において一定した値を維持し、800Kを超えると増加した。このことから、原料にFe
3Pを用いることにより、Pが効果的にSiサイトにドープされ、バンド伝導が有利に働くことが示唆される。なお、図示しないが、熱処理時間が10分の焼結体についても、実質的に同じ結果が得られたことを確認した。
【0093】
図10は、実施例/比較例1〜7の焼結体のパワーファクターの温度依存性を示す図である。
【0094】
パワーファクター(PF)は、電気伝導度(σ)とゼーベック係数(α)とを用いて以下の式により算出される。
PF=α
2×σ
図10は、
図8および
図9で得られた電気伝導度およびゼーベック係数の値を用いて、上記式から算出したパワーファクターを温度に対してプロットした。
【0095】
図10によれば、比較例7の焼結体のパワーファクターは、600Kにピークを有しており、せいぜい3×10
−4W/mK
2程度であったが、Fe
3Pを用いた製造方法によって製造された焼結体(実施例/比較例1〜5)のそれは、ピークが全体的に600Kよりも低温側にシフトしており、プラトー領域が増大するだけでなく、4×10
−4W/mK
2を超えるパワーファクターであった。このことからも、原料にFe
3Pを用いることにより、Pが効果的にSiサイトにドープされ、バンド伝導に有効に寄与していることが示唆される。
【0096】
詳細には、実施例1、2および4の焼結体は、400K以上700K以下の比較的低い広い温度範囲において、4.5×10
−4W/mK
2以上のパワーファクターを達成する熱電材料であった。このことから、β−FeSi
2相を主相として90体積%より多く、Pを0.1at%より多く0.3at%以下の範囲で含有する熱電材料が好ましいことが示された。
【0097】
驚くべきことに、実施例1および2の焼結体は、400K以上700K以下の比較的低い広い温度範囲において、5×10
−4W/mK
2以上の高いパワーファクターを達成する熱電材料であった。このことから、β−FeSi
2相を主相として95体積%以上99体積%以下の範囲で含み、Pを0.15at%以上0.25at%以下の範囲で含有する熱電材料がさらに好ましいことが示された。
【0098】
[実施例8]
実施例8では、原料にSiとFeとFe
3Pとに加えてMとしてCoを用いて、Fe
1−yM
ySi
2−xP
x(x=0.01、y=0.01)を満たすように調製(表4)し、熱電材料を製造し、その熱電特性を評価した。Mを用い、熱処理時間を10時間とした以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。
【0099】
得られた焼結体についてSEM観察し、X線回折、および、エネルギー分散型X線分析(EDS)装置を用いた組成分析を行い、熱電特性(電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクター)を評価した。結果を
図11〜
図13および表5に示す。
【0100】
[比較例9]
比較例9では、Fe
3Pを用いない以外は、実施例8と同様であった。得られた焼結体についてSEM観察し、X線回折、EPMAおよびEDSを用いて組成分析を行い、熱電特性(電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクター)を評価した。結果を
図11〜
図13および表5に示す。
【0101】
以上の結果をまとめて示す。表4に簡単のため、実施例8および比較例9の熱電材料の原料のモル比を示す。
【0102】
【表4】
【0103】
図示しないが、SEMおよびXRDパターンから、実施例8および比較例9の焼結体も
図4と同様の緻密な焼結体であり、β−FeSi
2相を主相としており、ε−FeSi相以外の第二相は見られないことを確認した。
【0104】
表5は、実施例8および比較例9の焼結体のEDSによるβ−FeSi
2相およびε−FeSi相中のPおよびCoの含有量を示す。図示しないが、実施例8の焼結体は、β−FeSi
2相を90体積%より多く含んでいることを確認した。
【0105】
【表5】
【0106】
表5を参照すれば、Fe
1−yM
ySi
2−xP
xにおいて、xを0.005<x≦0.04およびyを0<y<0.1を満たすように原料を調製すれば、β−FeSi
2相を90体積%より多く含み、かつ、β−FeSi
2相がPを0.1at%より多く0.3at%以下の範囲で、Mを0.005at%以上1at%以下の範囲で含有した焼結体が得られることが分かった。
【0107】
図11は、実施例8および比較例9の焼結体の電気伝導度の温度依存性を示す図である。
図12は、実施例8および比較例9の焼結体のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
図13は、実施例8および比較例9の焼結体のパワーファクターの温度依存性を示す図である。
【0108】
図11〜
図13には、参考のため、実施例1の焼結体の電気伝導度、ゼーベック係数およびパワーファクターの温度依存性も併せて示す。
図11および
図12によれば、実施例8および比較例9の焼結体は、いずれも、n型熱電材料であることを示す。
図11によれば、実施例8の焼結体の電気伝導度は、全温度範囲において実施例1および比較例9のそれよりも大きくなった。
図12によれば、実施例8の焼結体のゼーベック係数は、実施例1および比較例9の焼結体のそれよりも、300K以上800K以下の範囲の広い温度範囲において、一定した値を維持した。
【0109】
図13によれば、実施例8の焼結体のパワーファクターのピーク(約550K)は、比較例9のそれ(約650K)よりも低温側にシフトしており、広いプラトー領域が得られることが分かった。さらには、実施例8の焼結体は、400K以上700K以下の範囲の温度範囲で6×10
−4W/mK
2以上のパワーファクターを達成した。この値は、Pのみが添加された実施例1の焼結体あるいはCoのみが添加された比較例9の焼結体のパワーファクターを超える値であった。このことから、原料にFe
3Pおよびn型熱電材料のドーパントであるMを用いることにより、Pが効果的にSiサイトにドープされるだけでなく、MがFe(II)サイトにドープされ、バンド伝導およびスモールポーラロンが有利に働き、熱電性能を向上させることが示唆される。