(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-70451(P2018-70451A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】ジアザビシクロ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20180406BHJP
【FI】
C07D487/04 150
C07D487/04 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-207767(P2016-207767)
(22)【出願日】2016年10月24日
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 智理
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
【テーマコード(参考)】
4C050
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB04
4C050BB08
4C050CC08
4C050CC10
4C050EE02
4C050FF01
4C050GG01
4C050HH01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ジアザビシクロ基を有する塩酸塩から、ジアザビシクロ化合物を得るために、工業的な生産に適した、製造方法の提供。
【解決手段】ジアザビシクロ基を有する塩酸塩に対して、2.0倍モル当量〜3.5倍モル当量となる、20重量%〜50重量%のアルカリ金属水酸化物水溶液、または10重量%〜50重量%のアルカリ金属アルコキシドのアルコール溶液を用いて、中和することによって、ジアザビシクロ化合物を、製造する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアザビシクロ基を有する塩酸塩から、塩酸塩に対して2.0倍モル当量〜3.5倍モル当量となる、20重量%〜50重量%のアルカリ金属水酸化物水溶液または10重量%〜50重量%のアルカリ金属アルコキシドのアルコール溶液を用いて、中和されたジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【請求項2】
ジアザビシクロ化合物が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンまたは1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンである、請求項1に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【請求項3】
ジアザビシクロ化合物が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンである、請求項1に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【請求項4】
アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【請求項5】
アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、またはカリウムエトキシドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中和によるジアザビシクロ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアザビシクロ化合物は、アミジン部位に由来する強塩基性を持ち、さらに求核性が比較的弱いことから、脱塩化水素を行う場合の塩基として用いられる。しかしながら、この脱塩化水素反応を進行させるには、等モル相当量のジアザビシクロ化合物を、塩酸塩に変換させる必要がある。ジアザビシクロ化合物は高価である上に、このジアザビシクロ化合物の塩酸塩を含む溶液の廃水処理にコストが掛かることが、工業的な製造方法に、ジアザビシクロ化合物を用いることの問題点である。
【0003】
ジアザビシクロ基を有する塩酸塩を、アルカリによって中和することによって、ジアザビシクロ化合物を得ることで、ジアザビシクロ化合物を回収できれば、工業的に有効である。しかしながら、ジアザビシクロ化合物は、加水分解を起こすため、中和反応のみで停止させて、ジアザビシクロ化合物を回収するのは困難である。
【0004】
例えば、非特許文献1には、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)の塩は安定であるが、DBUは、水と反応して、N−(3−アミノプロピル)カプロラクタムを生成するとされている。
【0005】
DBUのこの反応は、加水分解によって進行するものである。つまり、DBUの塩は安定であるが、DBUになると、容易に加水分解が起こることが知られている。
そこで、ジアザビシクロ基を有する塩から、効率良くジアザビシクロ化合物を得るための製造方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】有機合成化学 33(11)925-935(1975) 東京化学同人
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来技術が有する課題を解消し、工業的な生産に適した、ジアザビシクロ化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ジアザビシクロ基を有する塩酸塩に対して、2.0倍モル当量〜3.5倍モル当量となる、20重量%〜50重量%のアルカリ金属水酸化物水溶液または10重量%〜50重量%のアルカリ金属アルコキシドのアルコール溶液を用いて、中和することによって、ジアザビシクロ化合物を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の長所は、目的生成物であるジアザビシクロ化合物を高収率で得ることができることである。また、本発明の利用により、中和された反応液中からジアザビシクロ化合物を回収することができるので、ジアザビシクロ化合物を脱塩化水素反応に用いた場合の廃水処理のコストを下げることになる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
項1. ジアザビシクロ基を有する塩酸塩から、塩酸塩に対して2.0倍モル当量〜3.5倍モル当量となる、20重量%〜50重量%のアルカリ金属水酸化物水溶液または10重量%〜50重量%のアルカリ金属アルコキシドのアルコール溶液を用いて、中和されたジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【0012】
項2. ジアザビシクロ化合物が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンまたは1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンである、項1に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【0013】
項3. ジアザビシクロ化合物が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンである、項1に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【0014】
項4. アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、項1〜3のいずれか1項に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【0015】
項5. アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、またはカリウムエトキシドである、項1〜3のいずれか1項に記載のジアザビシクロ化合物を製造する方法。
【0016】
本発明の原料となるのは、ジアザビシクロ基を有する塩酸塩である。この塩酸塩を中和することにより、ジアザビシクロ化合物を製造する。
【0017】
本発明の製造方法で得られるジアザビシクロ化合物は、好ましくは、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)またはDBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン)である。より好ましくは、DBUである。
【0018】
ジアザビシクロ基を有する塩酸塩からジアザビシクロ化合物を製造する反応の例として、DBUの場合を、反応式で示す。
【0019】
ジアザビシクロ基を有する塩酸塩は、ジアザビシクロ化合物を脱塩化水素剤として用いた反応を行う時に、生成される。ジアザビシクロ基を有する塩酸塩は精製されていなくとも、ジアザビシクロ基を有する塩酸塩を含む粗液であれば、本反応の製造方法に用いることができる。
【0020】
DBUの塩酸塩は、アミノアルキルシラン化合物とモノクロロシラン化合物をDBUの存在下で、反応させることによって、N−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する場合に、副生される。このように、DBUの塩酸塩は、DBUを脱塩化水素剤として用いた反応を行なう際に得られる。
【0022】
ジアザビシクロ基を有する塩酸塩は、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)の塩酸塩、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン)の塩酸塩などが挙げられる。
【0023】
中和反応を進行させるアルカリは、アルキル金属水酸化物またはアルカリ金属アルコキシドである。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシドなどが挙げられる。
【0024】
中和反応を進行させるアルカリの量は、ジアザビシクロ基を有する塩酸塩に対して、2.0倍モル当量〜3.5倍モル当量が必要である。2.0倍モル当量以上であると、中和されたジアザビシクロ化合物の加水分解反応を抑制できる。3.5倍モル当量以下であると、装置の容積を小さくできる。中和反応を進行させるアルカリは、ジアザビシクロ基を有する塩酸塩に対して、2.3倍モル当量〜3.0倍モル当量が好ましい。
【0025】
中和反応を制御させるアルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は、20重量%〜50重量%である。20重量%以上であると中和されたジアザビシクロ化合物の加水分解を抑制できる。50重量%以下であると、アルカリ金属水酸化物水溶液の取り扱いが容易であり、中和により副生する塩化ナトリウムが析出を抑制されやすい。アルカリ金属水酸化物水溶液の好ましい濃度は、 20重量%〜30重量%である。中和反応を進行させるアルカリ金属水酸化物水溶液は、均一の溶解された溶液でなくても、懸濁液であってもよい。
【0026】
中和反応を進行させるアルカリ金属アルコキシドの濃度は、10重量%〜50重量%である。10重量%以上であると中和されたジアザビシクロ化合物の加水分解を抑制できる。50重量%以下であると、アルカリ金属水酸化物水溶液の取り扱いが容易であり、中和により副生する塩化ナトリウムが析出が抑制されやすい。アルカリ金属水酸化物水溶液の好ましい濃度は、10重量%〜30重量%である。中和反応を進行させるアルカリ金属アルコキシドは、均一の溶解された溶液でなくても、懸濁液であってもよい。
【0027】
中和反応を制御させる目的で、中和反応を進行させるアルカリ金属水酸化物水溶液またはアルカリ金属アルコキシドを、滴下させることが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法の中和反応の時間は、滴下時間を含めて、1時間〜4時間の範囲であることが好ましい。反応時間を1時間以上にすることで、中和反応を進行させることができる。反応時間を4時間以下にすることで、加水分解反応を抑制しやすくできる。反応時間は、好ましくは、1時間〜2時間の範囲が好ましい。
【0029】
中和反応の反応温度は、10℃〜40℃の範囲が好ましい。特に、加熱することなく、室温で反応は進行する。必要に応じて、中和熱を除熱させる。
【0030】
本発明の製造方法の中和反応において、溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、水と混和しない性質を有することが好ましい。好ましくは、炭化水素系非極性溶媒が用いられ、トルエン、ヘキサンなどが挙げられる。
【0031】
溶媒の量は、容積比で、ジアザビシクロ基を有する塩酸塩の1倍〜3倍であることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法における反応の一例としては、溶媒のトルエンに、DBUの塩酸塩を懸濁した状態で攪拌させておき、室温において、25%水酸化ナトリウム水溶液を滴下させる。中和されたDBUは、トルエン層に抽出されていく。この抽出されたDBUを、GC分析のより追跡して、反応の進行を確認することができる。
【0033】
反応の圧力は、特に制限されないが、減圧にすると、水や溶媒が、揮散しやすくなるので、常圧以上が好ましい。
【0034】
反応は、乾燥空気または乾燥窒素気流下で行なうことが好ましい。反応には、可燃物を取り扱うので、不活性雰囲気下、例えば、窒素、アルゴンの環境が好ましい。
【0035】
本発明の製造方法における反応の一例としては、フラスコ内で、溶媒のトルエンに、DBUの塩酸塩を懸濁した状態で攪拌させておき、室温において、25%水酸化ナトリウム水溶液を滴下させる。中和されたDBUは、トルエン層に抽出されていく。この抽出されたDBUを、ガスクロ分析により、反応の進行を追跡することができる。
【実施例】
【0036】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。
【0037】
化合物は、下記の手順により合成した。合成した化合物は、NMR分析により同定し、ガスクロマト分析により定量を行なった。
【0038】
NMR分析:測定には、JEOL社製のECP400を用いた。
1H−NMRの測定では、試料をCDCl
3の重水素化溶媒に溶解させ、室温、400MHz、積算回数32回の条件で測定した。クロロホルムを内部標準として用いた。
13C−NMRの測定では、CDCl
3を内部標準として用い、積算回数14回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、mはマルチプレットであることを意味する。
【0039】
例えば、目的物の1つであるDBUのスペクトルデータを示す。
【0040】
ガスクロマト分析:測定には、島津製作所製のGC−2014型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、パックドカラム内径2.6mm、長さ3m、充填剤、SE−30 10% 60/80、Shimalite WAWを用いた。キャリアーガスとしてはヘリウム(20ml/分)を用いた。試料気化室の温度を250℃、検出器(TCD)部分の温度を250℃に設定した。試料は0.5μmのシリンジフィルタでろ過後、ろ液1μlを試料気化室に注入した。記録計には島津製作所製のGCsolutionシステムなどを用いた。
【0041】
[DBU塩酸塩の調製]
10Lのセパラブルフラスコの系内を窒素で置換した後、室温下で、トルエン3.12kg、DBU1.86kg(12.2mol)、およびトリメチルクロロシラン1.29kg(11.9mol)を仕込んだ。攪拌を行いながら、50℃に加熱し、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン(APMS−E)0.90kg(4.70mol)を加えた。その後、50℃で1時間、さらに60℃に加熱し、3時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、20時間ほど熟成させた。室温でエチルアルコール0.15kg(3.26mol)を加えて、さらに1時間熟成した。反応液は、DBUの塩酸塩を含むスラリー液となり、このスラリー液を10Lの加圧濾過器でろ過を行った。濾過器に残ったDBUの塩酸塩は、トルエン2.10kg/回で、洗浄を2回行い、さらに、窒素で乾燥させて、2.72kgのDBUの塩酸塩を得た。このDBUの塩酸塩の一部をロータリーエバポレーターで100℃、真空度0.2kPa以下で乾燥させたところ、トルエンが、17.4重量%含まれていることが確認された。DBUの塩酸塩を、収率97.6%で得た。
【0042】
[実施例1]
塩基として、水酸化ナトリウム、濃度25重量%、2.3倍モル当量とした。
100mLのスクリュー管に攪拌子を入れ、室温下で、DBUの塩酸塩11.5g(50mmol)、およびトルエン8.5g、25%水酸化ナトリウム水溶液18.5g(116mmol)を仕込んだ。マグネチックスターラーの上に置き、1時間攪拌して混合した。100mLの分液漏斗で分液し、DBUを含む上層を18.8g、水層の下層を18.4g得た。上層部分をガスクロマト分析し、DBUが31.9重量%含んでおり、収量6.0g(39.4mmol)、収率78.8%で得た。
【0043】
実施例1で用いた水酸化ナトリウム、25重量%、2.3倍モル当量を含めて、実施例および比較例に用いた、塩基、濃度、および当量を、表1に示す。
【0044】
表1.塩基・濃度・当量
なお、水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムは、それぞれの濃度では、完全に溶解していないため、懸濁した状態である。また、ナトリウムエトキシドは、エタノール溶液で、その他の塩基は、すべて水溶液である。
【0045】
[実施例2〜14]
実施例1で用いた25重量%水酸化ナトリウム水溶液2.3倍モル当量の代わりに、表1に記載の塩基・濃度・当量、例えば、20重量%水酸化ナトリウム水溶液2.0倍モル当量(実施例2)を用い、使用するDBUの塩酸塩、およびトルエンは実施例1と同一とし、実施例1と同一の、DBUの塩酸塩とトルエンの仕込みの重量、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0046】
[比較例1〜11]
実施例1で用いた25重量%水酸化ナトリウム水溶液2.3倍モル当量の代わりに、表1に記載の塩基・濃度・当量、例えば、10重量%水酸化ナトリウム水溶液2.3倍モル当量(比較例1)を用い、使用するDBUの塩酸塩、およびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、DBUの塩酸塩とトルエンの仕込みの重量、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0047】
反応によっては、副生成物として、DBUの加水分解物であるN−(3−アミノプロピル)カプロラクタムが得られたが、非常に水に溶けやすい性質のため、トルエン層と水層に分配する状態であった。実施例1〜14および比較例1〜11の反応1時間後のDBUの収率を、表2に示す。収率は、ガスクロマト分析において、反応における溶媒のトルエンを内部標準として、DBUとトルエンの補正係数より算出した。
【0048】
表2.収率
【0049】
比較例1〜11は、DBUの収率が70%未満となり、DBUの加水分解が進行した。これに対して、実施例1〜14は、DBUを収率良く得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製造方法で、ジアザビシクロ基を有する塩酸塩から、ジアザビシクロ化合物を得ることができる。つまり、ジアザビシクロ化合物を効率良く回収できることとなる。このことにより、脱塩化水素剤として効果的なジアザビシクロ化合物を工業的に活用できる機会が拡がる。そこで、アミノプロピル変性シリコーンの製造、低燃費タイヤ用などのシランカップリング剤、表面処理剤、各種シランカップリング剤原料として有用な化合物を、短時間で効率的にしかも安価に製造することが可能となる。