特開2018-70571(P2018-70571A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-70571(P2018-70571A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】免疫誘導剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20180406BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20180406BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20180406BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180406BHJP
【FI】
   C07K19/00ZNA
   A61K39/00 H
   A61P31/16
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-216753(P2016-216753)
(22)【出願日】2016年11月4日
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】508141391
【氏名又は名称】動物アレルギー検査株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】増田 健一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】石井 保之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 礼人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 学
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隼輝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】奈良 拓也
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BB11
4C085CC32
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF14
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA17
4H045BA41
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】鳥インフルエンザウイルス感染を予防又は治療するために有用な薬剤を提供することを課題とする。
【解決手段】樹状コアと、配列番号4のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチドとを含む多重抗原ペプチドであって、前記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の同種もしくは異種の前記ペプチドを含み、かつ、哺乳動物又は鳥類においてIgG抗体の産生を誘導することを特徴とする多重抗原ペプチド、並びに、該多重抗原ペプチドを含む免疫誘導剤。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹状コアと、前記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の抗原ペプチドを含む多重抗原ペプチドであって、スペーサーを介して結合された抗原ペプチドが配列番号4のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、多重抗原ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号5〜9のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、請求項1に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号15のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、請求項1に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号16〜20のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、請求項3に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号21〜25のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、請求項4に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項6】
前記スペーサーを介して結合された抗原ペプチドがすべて同一のペプチドである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項7】
前記樹状コアが、複数のリジン残基を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項8】
前記樹状コアが、システイン残基をさらに含む、請求項7に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項9】
前記スペーサーがポリオキシアルキレン鎖を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項10】
前記多重抗原ペプチドが、下記の式I
【化1】
[式中、Rは、
【化2】
である。]
によって表されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の1種又は少なくとも2種の多重抗原ペプチドを有効成分として含有する、免疫誘導剤。
【請求項12】
インターフェロンγ産生能を有するアジュバントをさらに含む、請求項11に記載の免疫誘導剤。
【請求項13】
前記アジュバントがα−ガラクトシルセラミド又はその類縁体である、請求項12に記載の免疫誘導剤。
【請求項14】
哺乳動物において鳥インフルエンザウイルス感染を治療又は予防するために使用される、請求項11〜13のいずれか1項に記載の免疫誘導剤。
【請求項15】
製薬的に許容可能な担体を含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の免疫誘導剤。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の免疫誘導剤を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において鳥インフルエンザウイルス感染を治療又は予防するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥インフルエンザウイルス感染を予防又は治療するための、多重抗原ペプチド(Multiple Antigen Peptide; MAP)、並びに該MAPを含む免疫誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスが鳥類に感染して起こる感染症であるが、当該ウイルスのなかには強毒性又は高病原性を獲得したものが存在する。さらにヒトからヒトへ感染する能力をもつウイルスは世界的流行を引き起こす可能性があることから、鳥インフルエンザウイルスは危険視されている。鳥インフルエンザウイルスは、2種類の粒子表面糖蛋白質、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)、の組み合わせによって亜型に分けられる。現在までに、HAは16種類(H1〜H16)、NAは9種類(N1〜N9)が見つかっている。鳥インフルエンザウイルス亜型の具体例は、H1N1、H3N2、H5N1、H6N1、H7N7、H7N9、H9N2、H10N8などであり、トリからヒトへの感染事例として認められた亜型は、H7N7、H5N1、H7N3、H7N9、H10N8などである。とりわけ、HAは抗体による選択圧を受けやすいので頻繁に抗原変異を起こす。
【0003】
鳥インフルエンザウイルスに感染したときの初期症状は、高熱、咳などの気道症状、全身倦怠、時に、下痢、嘔吐、腹痛などを含み、重症化すると肺炎、ARDS、多臓器不全などを発症すると言われている。この感染症の治療のために抗インフルエンザウイルス薬であるノイラミニダーゼ阻害薬が使用されているが、その治療効果を疑問視する指摘もある。感染予防用のワクチンは開発されているが、有効性については明らかでなく、引き続き、ヒト用のワクチンについて研究・開発が行われている。
【0004】
鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンは、例えば、特許文献1には、GILGFVFTL(配列番号1)、IILKANFSV(配列番号2)、GMFNMLSTV(配列番号3)の各ペプチドを結合したリポソームを開示しており、当該ペプチド結合リポソームをマウス脾臓細胞にパルスしたところ、いずれも高いCTL誘導活性を認めたこと、また、当該ペプチド(GILGFVFTL(配列番号1))結合リポソームによって免疫したマウスにH1N1亜型又はH3N2亜型のウイルスを鼻腔内投与により感染させたときにはウイルス増殖が有意に抑制されたことが記載されている。
【0005】
さらにまた、特許文献2には、H5亜型のヘマグルチニン又はその抗原性ペプチドを含む汎用H5N1ワクチン組成物が開示されている。また、この文献には、不活化全粒子H5N1ウイルスワクチン、3種のH5ヘマグルチニンペプチドミックスなどについては、単独か、或いはアジュバントと組み合わせることによって高い中和抗体力価を誘導したことがさらに記載されている。さらにまた、中和エピトープの同定が行われ、重要な変異を含有する抗原性エピトープ領域として、成熟HA1領域のアミノ酸位置138から218までの配列内の領域が記載されている。
【0006】
近年では合成ペプチドワクチンの開発が盛んに行われるようになった。そのなかで特に、多重抗原ペプチド(MAP)が注目されている。MAPペプチドは、例えばアミノ酸の一つである複数のリジン(Lys)および、場合により、システイン(Cys)を含む結合体をコアとし、Lysの場合そのαアミノ基とεアミノ基に、あるいは、Cysの場合、スルフヒドリル基にペプチド(細胞が認識する抗原の一部分)を結合させることによって得ることができる。
【0007】
例えば、特許文献3には、肺炎双球菌に対してMAPを使用している。具体的には、肺炎双球菌の抗原のペプチドから2箇所を選定し、この2種類のペプチドを交互に、合計4つのペプチドを有するMAP−4構造を作ったことが記載されている。その他、MAPの作製に関しては、特許文献4、特許文献5、非特許文献1〜3にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開第2011-126853号公報
【特許文献2】特許第5815676号
【特許文献3】特開2011-57691号公報
【特許文献4】国際公開WO1993/022343A1
【特許文献5】国際公開WO2015/190555A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Myron Christodoulides and John E. Heckels, Microbiology 1994, 140:2951-2960
【非特許文献2】Manju B. Joshi et al., Infection and Immunity 2001 69:4884-4890
【非特許文献3】Jon Oscherwitz et al., Infection and Immunigy 2009, 77:3380-3388
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の背景技術の欄に記載したように、現在臨床的に使用できる鳥インフルエンザウイルス感染に対する有効なワクチンが見いだされてなく、とりわけ複数種に渡って効果を有する汎用的な鳥インフルエンザウイルスに対するワクチン開発が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、鳥インフルエンザウイルス由来のペプチドを用いて鳥インフルエンザウイルス感染を予防又は治療するための汎用的な免疫誘導剤(例えばワクチン)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。各種の鳥インフルエンザウイルスのHAのアミノ酸配列から特定の部分を汎用的な抗原ペプチドとして最適であることを見出し、これまで抗体産生を誘導できた報告がない部位であるものの、当該抗原ペプチドを複数有する多重抗原ペプチドを開発した。その結果、当該ペプチドに対するIgG抗体の産生が確認され、さらに驚くべきことにIgM抗体の長期産生する効果も誘導することを見出し、鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンとして有用な免疫誘導剤に関する本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
(1)樹状コアと、前記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の抗原ペプチドを含む多重抗原ペプチドであって、スペーサーを介して結合された抗原ペプチドが配列番号4のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、多重抗原ペプチド。
(2)上記ペプチドが、配列番号5〜9のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、上記(1)に記載の多重抗原ペプチド。
(3)上記ペプチドが、配列番号15のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、上記(1)に記載の多重抗原ペプチド。
(4)上記ペプチドが、配列番号16〜20のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、上記(3)に記載の多重抗原ペプチド。
(5)上記ペプチドが、配列番号21〜25のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドである、上記(4)に記載の多重抗原ペプチド。
(6)上記スペーサーを介して結合された抗原ペプチドがすべて同一のペプチドである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(7)上記樹状コアが、複数のリジン残基を含む、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(8)前記樹状コアが、システイン残基をさらに含む、上記(7)に記載の多重抗原ペプチド。
(9)上記スペーサーがポリオキシアルキレン鎖を含む、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(10)上記多重抗原ペプチドが、下記の式I
【化1】
[式中、Rは、
【化2】
である。]
によって表されることを特徴とする、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の多重抗原ペプチド。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の1種又は少なくとも2種の多重抗原ペプチドを有効成分として含有する、免疫誘導剤。
(12)インターフェロンγ産生能を有するアジュバントをさらに含む、上記(11)に記載の免疫誘導剤。
(13)上記アジュバントがα−ガラクトシルセラミド又はその類縁体である、上記(12)に記載の免疫誘導剤。
(14)哺乳動物において鳥インフルエンザウイルス感染を治療又は予防するために使用される、上記(11)〜(13)のいずれかに記載の免疫誘導剤。
(15)製薬的に許容可能な担体を含む、上記(11)〜(14)のいずれかに記載の免疫誘導剤。
(16)上記(11)〜(15)のいずれかに記載の免疫誘導剤を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において鳥インフルエンザウイルス感染を治療又は予防するための方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鳥インフルエンザウイルスの HA由来の特定領域のペプチドを樹状コアに結合して製造されたMAPが、哺乳動物又は鳥類においてIgG抗体価を上昇させ、ワクチンとして機能しうるという免疫誘導効果を提供する。従来、鳥インフルエンザウイルス感染に対する有効な予防法又は治療法が極めて少なく、複数種に渡って効果を有する汎用的な鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンが実用化されていないことから、本発明の効果は有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この図は、MAP−4、MAP−8などのMAP構造を示す。
図2】この図は、マウスに鳥インフルエンザMAP4を腹腔内投与したときの鳥インフルエンザウイルスに対するIgG抗体価の測定結果を示す。
図3】この図は、マウスに鳥インフルエンザMAP4を腹腔内投与したときの鳥インフルエンザウイルスに対するIgG抗体のサブクラスの測定結果を示す。
図4】この図は、マウスに鳥インフルエンザMAP4を腹腔内投与したときの鳥インフルエンザウイルスに対するIgM抗体価の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
1.多重抗原ペプチド
本発明は、第1の態様により、樹状コアと、抗原ペプチドとして配列番号4のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド又は前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチドとを含む多重抗原ペプチドであって、上記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合された4〜8個の同種もしくは異種の前記抗原ペプチドを含み、かつ、哺乳動物においてIgG抗体の産生を誘導することを特徴とする、多重抗原ペプチドを提供する。
【0018】
本明細書中で使用する「多重抗原ペプチド」は、樹状高分子(すなわち、デンドリマー)構造を有する樹状コアと、当該コアの樹状末端に直接又はスペーサーを介して結合した複数個の同種又は異種の鳥インフルエンザのHAタンパク質由来のペプチドとを含む高分子物質である。
【0019】
本明細書中で使用する「多重抗原ペプチド」は、樹状高分子(すなわち、デンドリマー)構造を有する樹状コアと、当該コアの樹状末端に直接又はスペーサーを介して結合した複数個の同種又は異種の鳥インフルエンザウイルスヘマグルチニン由来のペプチドとを含む高分子物質である。
【0020】
本明細書で使用する「前記ペプチドのアミノ酸のうち1〜3個が置換されたペプチド」とは、上記抗原ペプチド内のアミノ酸と置換するアミノ酸が、システイン(Cys)以外の任意のアミノ酸であり、好ましくは被置換アミノ酸と類似の化学的性質(疎水性、極性、陽イオン性、陰イオン性、電気的中性など)もしくは構造的性質(分枝構造、芳香族性など)をもつアミノ酸であるペプチドをいう。
【0021】
樹状コアは、上記の鳥インフルエンザウイルスヘマグルチニン由来のペプチド(以下、便宜的に「抗原ペプチド」とも呼ぶ)を複数個、好ましくは4〜8個を結合するための樹状の支持コアである。樹状コアは、通常知られる構造であってよく、樹状ポリマーは少なくとも2個の官能基をもつコア分子から発生する2またはそれ以上の同一の枝を基礎とするものを好適に選択すればよい。当該樹状コアは樹状ポリマーとも呼ばれ、例えば米国特許第4,289,872号、米国特許第4,515,920号等に記載された構造体が挙げられるがこれらに限定されず、製造上の簡便さなどから好ましくは複数のリジン残基(K)を含むペプチドである。当該リジン残基を含むペプチドは、さらにシステイン残基(C)を含んでもよい。例えば、3個のリジン残基(K)からなるK-K-K構造の場合、各末端のリジン残基(K)のα−アミノ基側とε−アミノ基側にそれぞれ1個の上記抗原ペプチドを結合することができる。この場合、最高4個の抗原ペプチドを結合することができる。また、リジン残基(K)には、そのα−カルボキシル基を介してスペーサーペプチドを結合してもよい。スペーサーペプチドは、好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸残基からなるペプチドであり、例えばK−K−C、K−βA−C(ここで、βAはβ−アラニン残基を表し、Cはシステイン残基を表す。)などを挙げることができる。スペーサーペプチドのN末端のアミノ酸残基には、例えばリジン残基(K)であれば、そのα−アミノ基を介して上記と同様の最高4個の抗原ペプチドを結合したK−K−K−構造を連結することができる。この場合、作製されるMAPは最高8個の抗原ペプチドを有する。
【0022】
本発明によれば、上記抗原ペプチドは、鳥インフルエンザウイルスの HAに由来する。
【0023】
鳥インフルエンザウイルスは、上記のとおり(H1〜H16)×(N1〜N9)の多数の組合せからなる亜型が存在し、亜型の具体例は、H1N1、H3N2、H5N1、H6N1、H7N7、H7N9、H9N2、H10N8などであり、トリからヒトへの感染事例として認められた亜型は、H7N7、H5N1、H7N3、H7N9、H10N8などである。
【0024】
上記ウイルスの亜型は、HA及びNAの抗原性の違いによって区別されている。本発明は、とりわけHAに注目し、亜型間で高度にアミノ酸配列が保存されている領域の中から多重抗原ペプチドを構築するための抗原ペプチドを選択した。
【0025】
そのように選択された抗原ペプチドのアミノ酸配列は、以下の配列番号4のアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなる。
配列番号4
(Q又はE)G(S,T,E又はV)G(Y,Q,T又はM)AAD(Q,L,Y又はR)(K,E又はD)STQ(N,A,K又はS)AID(G,Q又はK)(I又はV)(T又はN)(N,G又はS)
【0026】
上記配列番号4のアミノ酸配列の具体例は、配列番号5、6、7、8及び9のアミノ酸配列であり、それぞれ亜型H1N1、H3N2、H5N1、H7N9及びH9N2のヘマグルチニンの対応するアミノ酸配列である。
配列番号5
QGSGYAADQKSTQNAIDGITN
配列番号6
EGTGQAADLKSTQAAIDQING
配列番号7
QGSGYAADQESTQKAIDGVTN
配列番号8
QGEGTAADYKSTQSAIDQITG
配列番号9
QGVGMAADRDSTQKAIDKITS
【0027】
亜型H1N1、H3N2、H5N1、H7N9及びH9N2のHAのアミノ酸配列の具体例は以下のとおりである。
【0028】
配列番号10(H1N1のHA)
GenBank登録番号AGG82811
mat peptide 345..566
Influenza A virus (A/American black duck/New Brunswick/00326/2010(H1N1))
1 MEAKLFVLFC TFTVLKADTI CVGYHANNST DTVDTVLEKN VTVTHSVNLL EDSHNGKLCS
61 LNGIAPLQLG KCNVAGWLLG NPECDLLLTA NSWSYIIETS NSENGTCYPG EFIDYEELRE
121 QLSSVSSFEK FEIFPKTNSW PNHETTKGVT AACSYSGASS FYRNLLWITK KGTSYPKLSK
181 SYTNNKGKEV LVLWGVHHPP TTSEQQSLYQ NTDAYVSVGS SKYNRRFTPE IAARPKVRGQ
241 AGRMNYYWTL LDQGDTITFE ATGNLIAPWY AFALNKGSDS GIITSDAPVH NCDTRCQTPH
301 GALNSSLPFQ NVHPITIGEC PKYVKSTKLR MATGLRNVPS IQSRGLFGAI AGFIEGGWTG
361 MIDGWYGYHH QNEQGSGYAA DQKSTQNAID GITNKVNSVI EKMNTQFTAM GKEFNNLERR
421 IENLNKKVDD GFLDVWTYNA ELLVLLENER TLDFHDSNVR NLYERVRSQL RNNAKELGNG
481 CFEFYHKCDD ECMESVKNGT YDYPKYSEES KLNREEIDGV KLESMGIYQI LAIYSTVASS
541 LVLLVSLGAI SFWMCSNGSL QCRICI
【0029】
配列番号11(H3N2のHA)
GenBank登録番号AFY06393
mat_peptide 346..566
Influenza A virus (A/American black duck/New Brunswick/02650/2007(H3N2))
1 MKTIIVLSCF FCLAFSQNPS ENNNNTATLC LGHHAVPNGT IVKTITDDQI EVTNATELVQ
61 SSSTGKICNN PHRILDGRDC TLMDALLGDP HCDVFQDETW DLYVERSSAF SNCYPYDVPD
121 YASLRSLVAS SGSLEFITEG FTWTGVTQNG GSGACKRGPA NGFFSRLNWL TKSGNAYPLL
181 NVTMPNNDDF DKLYVWGVHH PSTNQEQTSL YVQASGRVTV STRRSQQTII PNIGSRPWVR
241 GQSGRISIYW TIVKPGDILV INSNGNLIAP RGYFKMRTGK SSIMGSDAPV DTCISECITP
301 NGSIPNDKPF QNVNKITYGA CPKYVKQSTL KLATGMRNVP EKQTRGLFGA IAGFIENGWE
361 GMIDGWYGFR HQNSEGTGQA ADLKSTQAAI DQINGKLNRV IEKTNEKFHQ IEKEFSEVEG
421 RIQDLEKYVE DTKIDLWSYN AELLVALENQ HTIDLTDSEM NKLFEKTRRQ LRENAEDMGN
481 GCFKIYHKCD NACIESIRNG TYDHDIYRDE ALNNRFQIKG VELKSGYKDW ILWISFAISC
541 FLLCVVLLGF IMWACQRGNI RCNICI
【0030】
配列番号12(H5N1のHA)
GenBank登録番号AAC32101
mat peptide 347..568
Influenza A virus (A/Chicken/Hong Kong/728/97 (H5N1))
1 MEKIVLLLAT VSLVKSDQIC IGYHANNSTE QVDTIMEKNV TVTHAQDILE RTHNGKLCDL
61 NGVKPLILRD CSVAGWLLGN PMCDEFINVP EWSYIVEKAS PANDLCYPGN FNDYEELKHL
121 LSRINHFEKI QIIPKSSWSN HDASSGVSSA CPYLGRSSFF RNVVWLIKKN SAYPTIKRSY
181 NNTNQEDLLV LWGIHHPNDA AEQTKLYQNP TTYISVGTST LNQRLVPEIA TRPEVNGQSG
241 RMEFFWTILK PNDAINFESN GNFIAPEYAY KIVKKGDSTI MKSELEYGNC NTKCQTPMGA
301 INSSMPFHNI HPLTIGECPK YVKSNRLVLA TGLRNTPQRE RRRKKRGLFG AIAGFIEGGW
361 QGMVDGWYGY HHSNEQGSGY AADQESTQKA IDGVTNKVNS IINKMNTPFE AVGREFNNLE
421 RRIENLNKKM EDGFLDVWTY NAELLVLMEN ERTLDFHDSN VKNLYDRVRL QLRDNAKELG
481 NGCFEFYHKC DNECMESVKN GTYDYPQYSE EARLNREEIS GVKLESMGTY QILSIYSTVA
541 SSLALAIMVA GLSLWMCSNG SLQCRICI
【0031】
配列番号13(H7N9のHA)
GenBank登録番号AJJ95060
mat peptide 340..560
Influenza A virus (A/chicken/Dongguan/1022/2014(H7N9))
1 MNTQILVFAL IAIIPTNADK ICLGHHAVSN GTKVNTLTER GVEVVNATET VERTNIPRIC
61 SKGKKTVDLG QCGLLGTITG PPQCDQFLEF SADLIIERRE GSDVCYPGKF VNEEALRQIL
121 RKSGGIDKEA MGFTYSGIRT NGATSACRRS GSSFYAEMKW LLSNTDNAAF PQMTKSYKNT
181 RKSPAIIVWG IHHSVSTAEQ TKLYGSGNKL VTVGSSNYQQ SFVPSPGARP QVNGLSGRID
241 FHWLMLNPND TVTFSFNGAF IAPDRASFLR GKSMGIQSGV QVDADCEGDC YHSGGTIISN
301 LPFQNIDSRA VGKCPRYVKQ RSLLLATGMK NVPEIPKGRG LFGAIAGFIE NGWEGLIDGW
361 YGFRHQNAQG EGTAADYKST QSAIDQITGK LNRLIEKTNQ QFELIDNEFN EVEKQIGNVI
421 NWTRDSITEV WSYNAELLVA MENQHTIDLA DSEMDKLYER VKRQLRENAE EDGTGCFEIF
481 HKCDDDCMAS IRNNTYDHSK YREEAMQNRI QIDPVKLSSG YKDVILWFSF GASCFILLAI
541 VMGLVFICVK NGNMRCTICI
【0032】
配列番号14(H9N2のHA)
GenBank登録番号AMP44491
mat peptide 339..560
Influenza A virus (A/chicken/Anhui/36/2014(H9N2))
1 METVSLITIL LVATVSNADK ICIGYQSTNS TETVDTLTEN NVPVTHAKEL LHTEHNGMLC
61 ATSLGQPLVL DTCTIEGLIY GNPSCDLSLE GREWSYIVER PSAVNGLCYP GNVENLEELR
121 SLFSSARSYQ RIQIFPDTIW NVSYDGTSSA CSGSFYKSMR WLTRKNGDYP IQDAQYTNNQ
181 GKNILFMWGI NHPPTDTTQR DLYTRTDTTT SVATEEINRI FKPLIGPRPL VNGLMGRIDY
241 YWSVLKPGQT LRIKSDGNLI APWYGHILSG ESHGRILKTD LKRGSCTVQC QTEKGGLNTT
301 LPFQNVSKYA FGNCSKYIGI KSLKLAVGLR NVPSRSSRGL FGAIAGFIEG GWSGLVAGWY
361 GFQHSNDQGV GMAADRDSTQ KAIDKITSKV NNIVDKMNKQ YEIIDHEFSE VETRLNMINN
421 KIDDQIQDIW AYNAELLVLL ENQKTLDEHD ANVNNLYNKV KRALGSNAVE DGKGCFELYH
481 KCDDQCMETI RNGTYNRRKY QEESKLERQK IEGVKLESEG TYKILTIYST VASSLVIAMG
541 FAAFLFWAMS NGSCRCNICI
【0033】
好ましい抗原ペプチドは、以下の配列番号15、16、17、18、19又は20のアミノ酸配列中の7〜12アミノ酸からなる。
配列番号15
AAD(Q,L,Y又はR)(K,E又はD)STQ(N,A,K又はS)AID
配列番号16
AADQKSTQNAID
配列番号17
AADLKSTQAAID
配列番号18
AADQESTQKAID
配列番号19
AADKSTQSAID
配列番号20
AADRDSTQKAID
【0034】
さらに好ましい抗原ペプチドは、以下の配列番号21、22、23、24又は25のアミノ酸配列からなる。
配列番号21
STQ(N,A,K又はS)AID
配列番号22
STQNAID
配列番号23
STQAAID
配列番号24
STQKAID
配列番号25
STQSAID
【0035】
本発明の抗原ペプチドは、鳥インフルエンザウイルスHAのなかで配列番号4のアミノ酸配列に注目し、当該アミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなる同種又は異種、好ましくは同種、の複数のペプチドが、上記の樹状コアと結合されたとき、鳥インフルエンザウイルス感染に対するワクチンとしても使用しうる免疫誘導剤を提供することができる。
【0036】
本発明はまた、配列番号5〜9のいずれかのアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド類からなる群から選択される抗原ペプチド、並びに、配列番号15〜25のいずれかのアミノ酸配列中の連続する7〜12アミノ酸からなるペプチド類からなる群から選択される抗原ペプチド、さらに具体的には配列番号22〜25のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド類からなる群から選択される抗原ペプチドも提供する。
【0037】
本発明の多重抗原ペプチド(MAP)を構成する抗原ペプチドは、上記樹状コアの末端に直接またはスペーサーを介して結合され、好ましくは樹状コアの各末端に1個ずつ共有結合される。例えば、官能化された固相レジンに官能化された樹状コアを結合し、この樹状末端の反応性官能基にペプチドの反応性官能基を結合反応することができる(W. kowalczyk et al., J. Pep. Sci. 2011, 17: 247−251)。この場合、抗原ペプチドは、所定のアミノ酸配列に基づいて自動ペプチド合成機等を用いて合成するなど、公知の技術によって合成することができる(例えばJ.M. Stewart and J.D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., Pierce Chemical Company, 1984,G.B. Fields et al., Principles and Practice of Peptide Synthesis, in G.A. Grant (ed): Synthetic Peptides: A User‘s Guide, W.H. Freeman, 1992)。或いは、公知のDNA組換え技術を用いて作製してもよい(例えばM.R. Green and J. Sambrook, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Vol. 1 and Vol. 2, Cold Spring Horbor Laboratory Press, fourth edition, 2012)。
【0038】
本発明のMAPは、抗原ペプチドを複数個、好ましくは2〜16個、より好ましくは4〜8個を含み、抗原ペプチドは同種又は異種であってよく、好ましくは同種である。本明細書では、「同種の抗原ペプチド」とは、エピトープとして同じ性質を持つペプチドであって、高い同一性を有するペプチドを含む意味である。「高い同一性を有するペプチド」とは、複数の抗原ペプチドのうち任意の一つの抗原ペプチドを基準として、1〜3アミノ酸、好ましくは1もしくは2アミノ酸、より好ましくは1アミノ酸の置換を有するペプチドである。抗原ペプチド内のアミノ酸と置換するアミノ酸は、システイン(Cys)以外の任意のアミノ酸であり、好ましくは被置換アミノ酸と類似の化学的性質(疎水性、極性、陽イオン性、陰イオン性、電気的中性など)もしくは構造的性質(分枝構造、芳香族性など)をもつアミノ酸である。またここで、「エピトープとして同じ性質」とは、目的の標的タンパク質もしくはポリペプチドと結合可能な、かつウイルスに対し免疫誘導可能なIgG抗体の産生をインビボ(in vivo)で誘導できるという性質をいう。抗原ペプチドが異種(すなわち、「同種」ではない。)である場合には、異なる抗原ペプチドの各々は少なくとも1つ上記樹状コアに結合されている。
【0039】
本明細書中で使用する「多重抗原ペプチドを投与する対象」(以下、便宜的に被験体ともいう)には、ヒト、家畜(例えばウシ、ブタ、ラクダ等)、家禽(ニワトリ、アヒル、ウズラ等)、愛玩動物(例えばイヌ、ネコ、トリ等)、競争用動物(例えば、ウマ、ニワトリ等)、動物園で飼育される観賞用動物などの哺乳動物、鳥類が含まれ、好ましくは、ヒトである。
【0040】
本発明のMAPは被験体の体内でクラススイッチされた抗体産生を誘導する。本発明によって産生される抗体は、IgG、IgA、IgEであり、好ましくはIgGである。一般的に、体内に異物が侵入した場合には最初の約1週間以内にB2B細胞からIgM抗体が産生されて初期の生体内防御が機能するが、IgMは半減期が短く1週間から10日間程度で血中のその抗体価は低下する。IgM産生に遅れて次第にその異物に反応するT細胞が体内で活性化されることにより、IgG抗体が産生されて液性免疫による防御が強化されるようになる。IgGはいったん産生されるとその半減期が長く、数週間から数カ月以上血中の抗体価は持続する。
【0041】
また、別の態様において、本発明のMAPは自然免疫系B細胞(B1B細胞)を刺激してIgMをB2B細胞産生の場合よりも長期に産生することができる。本発明のMAPの投与によって上昇したIgMは、例えば14日以上、好ましくは21日間以上、血中でのIgM上昇が確認される。
【0042】
本発明のMAPは、例えば図1に示すような構造を有するが、とりわけMAP−4およびMAP−8に示されるような4〜8個の抗原ペプチド、好ましくは同一の抗原ペプチド、を含む樹状構造を有する。具体的には、次のような式IのMAP−4構造であるが、この構造に限定されない。
式IのMAP:
【化3】
[式中、Rは、
【化4】
である。]
【0043】
2.多重抗原ペプチド(MAP)の製造
本発明のMAPは、例えば以下の工程(1)〜(4):
(1)反応性官能基を有する樹状コアを用意する工程、
(2)反応性官能基を有する複数の同種又は異種の上記抗原ペプチドを用意する工程、
(3)樹状コアの反応性官能基と上記の各抗原ペプチドの反応性官能基を結合反応して多重抗原ペプチドを作製する工程、および
(4)多重抗原ペプチドを回収する工程
を含む方法によって作製されうる。
【0044】
樹状コアは、上で説明したように、複数個の同種又は異種、好ましくは同種、の上記抗原ペプチド、好ましくは4〜8個の同種の(好ましくは同一の)抗原ペプチドを結合するための樹状の支持コアである。樹状コアは、通常知られる構造であってよく、複数のリジン残基(K)を含むのがよく、および、さらにシステイン残基(C)を含んでもよい。図1に、本発明のMAPの構造(好ましくはMAP−4およびMAP−8のような構造)を例示するように、4〜8個の抗原ペプチド以外の部分を形成するのが樹状コアである。樹状コアは、MAP−4の場合、例えばK−K−K配列を含むのがよいし、また、MAP−8の場合、例えばK−K−K−K−K配列を含むのがよい。これらの配列の中央のKには、通常、スペーサーペプチドが結合する。スペーサーペプチドは、好ましくは2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドであり、例えばK−K−C、K−βA−C(ここで、βAはβ−アラニン残基を表す。)などであるが、これらに限定されないものとする。中央のK以外の左右のKまたはK−Kには、K1個あたり2個の抗原ペプチドが結合するように設計される。また、樹状コアとペプチドとの間にはスペーサーを配置してもよい。スペーサーは、ポリオキシアルキレン鎖(例えばポリオキシエチレン鎖又はポリオキシプロピレン鎖)を含む水親和性の高い基であるのが好ましい。ポリオキシアルキレン鎖のオキシアルキレン単位の繰り返し数は、2以上、好ましくは2〜50、より好ましくは3〜30である。
【0045】
樹状コアの末端には、抗原ペプチドと結合するための適切な官能基を有することができる。官能基は、タンパク質の修飾に使用可能な官能基であればよく、例えば、アミノ基、スルフヒドリル基、アセチレン基、N−ヒドロキシスクシンイミジル基などである。
【0046】
一方の抗原ペプチドの側の官能基は、樹状コアの末端官能基と結合反応しうる任意の官能基であり、例えばアミノ基に対するN−ヒドロキシスクシンイミジル基、スルフヒドリル基に対するスルフヒドリル基またはカルボキシル基、アセチレン基に対するアジド基、などである。抗原ペプチドは、上で説明したとおりである。
【0047】
本発明の実施形態により、K−K−K配列を有する樹状コアは、末端官能基がアセチレン基を有する下記の構造:
【化5】
を有する。
【0048】
上記構造のアセチレン基と反応する抗原ペプチドの末端官能基はアジド基である。この場合の結合反応は、下記のヒュスゲン反応である。
【0049】
【化6】
【0050】
この反応は、アルキンとアジドを一価の銅イオンを触媒とし結合させる反応であり、反応生成物は安定で副反応がほとんど無いとされ、クリックケミストリーとして注目されている。銅イオン触媒溶液は、硫酸銅・5水和物水溶液とアスコルビン酸を用いて調製しうる。
【0051】
MAPを回収する工程では、該ペプチドを精製する。ペプチドの回収の手法は、一般的なタンパク質またはポリペプチドの精製法でよく、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などのクロマトグラフィーを単独でまたは組み合わせて行われうる。目的物の同定は、核磁気共鳴スペクトル分析法NMR、マススペクトル分析法、アミノ酸分析法などによって行うことができる。
【0052】
3.免疫誘導剤
本発明はさらに上記の1種又は少なくとも2種の多重抗原ペプチド(MAP)を含む免疫誘導剤を提供する。本発明の免疫誘導剤は、IgG抗体、或いはIgG抗体及びIgM抗体の産生を誘導する製剤である。
【0053】
本発明の免疫誘導剤は、医薬組成物として、鳥インフルエンザウイルス感染に対するIgG抗体産生を誘導することにより、該感染の予防又は治療もしくは改善のために用いることができ、「ワクチン」としても使用することができる。
【0054】
本発明の免疫誘導剤は、医薬組成物として、鳥インフルエンザウイルス感染に対するIgM抗体産生を長期にわたって持続させることにより、非感染者においては当該感染の予防することができる。また、長期に渡るIgM抗体の産生よって、感染者においては非感染者への感染伝播防止に用いることができる。
【0055】
本発明のMAPのヒトでの有効量は、非限定的に、1回投与量としてMAP−4では約0.05〜2.5μg/kg体重から1mg〜10mg/kg体重、MAP−8では、0.5〜25.0μg/kg体重から1mg〜10mg/kg体重である。ここで、投与量は、ヒトを含む被験体の体重、年齢、性別、症状、重症度、投与方法などによって適宜変更しうるものとする。
【0056】
本発明の免疫誘導剤の形態は、例えば溶液剤、懸濁剤、錠剤、注射剤、顆粒剤、乳化剤などであり、賦形剤、希釈剤、結合剤、香味剤、界面活性化剤などの添加剤を適宜含むことができる。アジュバントは投与対象においてインターフェロンγの産生が確認される限りにおいて基本的に必要ないが、必要に応じて添加してもよい。
【0057】
本発明の免疫誘導剤はアジュバントを含んでもよい。アジュバントは、所望する抗体のアイソタイプによって適宜選択される。例えば、IgGを優位に産生させる場合では、アジュバントはインターフェロンγ産生を優位に誘導する物質である。インターフェロンγ産生を誘導する物質は特に限定されないが、例えば、α‐ガラクトシルセラミド、α‐ガラクトシルセラミド類縁体、細菌のオリゴヌクレオチドであるCpGなどが挙げられる。α‐ガラクトシルセラミド類縁体としては、例えば国際公開WO2007/099999号(米国特許8163705号)、国際公開WO2009/119692号(米国特許8551959号)、国際公開WO2008/102888号(米国特許8299223号)、国際公開WO2010/030012号(米国特許8580751号)、国際公開WO2011/096536号(米国特許8853173号)、国際公開WO2013/162016号(米国公開番号2015−0152128)に記載された化合物が挙げられるが、これらに限定されない。また、アジュバントと同様に本発明の免疫誘導剤のIgG抗体誘導の効果を高めるために、インターフェロンγを含んでもよい。
【0058】
本発明の免疫誘導剤は、医薬組成物として、鳥インフルエンザウイルス感染の予防、感染拡大防止または治療のために使用することができる。
【0059】
したがって、本発明はさらに、上記のMAPまたは上記の免疫誘導剤を被験体に投与することを含む、上記疾患の予防または治療方法を提供する。この方法では、抗体の産生は、IgG抗体の産生を含み、IgM抗体の産生も含みうる。本発明の方法における抗体の産生は、鳥インフルエンザウイルス感染の治療、予防または感染拡大防止の目的で行うことができる。
【0060】
投与経路は、静脈内投与、経粘膜投与、腹腔内投与、直腸内投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与などであるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明の免疫誘導剤は、製薬的に許容可能な担体をさらに含んで製剤化されていてもよい。
【0062】
「製薬的に許容可能な」とは、医薬業界で通常使用される意味を有し、場合により、ヒトに投与された場合にアレルギー反応または同様の有害反応を生じさせない分子的実体物質または組成物等の使用が可能であることを表す。タンパク質を活性成分として含む水性組成物の調製は当技術分野で十分に理解されている。典型的に、そのような組成物は、注射剤として、液体溶液または懸濁液として調製され、注射前の液体中での溶解または懸濁に好適な固体剤形を調製することもできる。調製物は乳化することもできる。
【0063】
「担体」には、任意およびすべての溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張(isotonic)および吸収遅延剤、バッファー、担体溶液、懸濁液、コロイド、などが含まれる。担体としては、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸塩のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10アミノ酸残基未満)ポリペプチド;タンパク質(例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン);疎水性ポリマー(例えばポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリシン);グルコース、マンノース又はデキストランを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシアルキレン系)といった例も挙げられる。医薬活性物質のためのそのような媒体および物質の使用は当技術分野で周知である。任意の慣用の媒体または物質が活性成分と不適合である場合を除き、治療用組成物でのその使用が想定される。補助活性成分を組成物に組み入れることもできる。
【0064】
本発明の免疫誘導剤は、製剤に使用される各種の界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤の種類は特に限定されず、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または両性界面活性剤等が挙げられ、中でもノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、またはポリオキシエチレンモノアリールエーテル等のポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤;多価アルコール(例えばソルビタン、ソルビトール)の高級脂肪酸エステル;および多価アルコールの高級脂肪酸エステルにエチレンオキシドを重合付加させたもの;等が挙げられる。
【0065】
本発明の免疫誘導剤は、1つまたは複数の追加成分をさらに含むことができ、限定されないがそのような追加成分として懸濁剤、安定化剤、または分散剤が挙げられる。また、本発明の免疫誘導剤の安定化のための処置として、MAPの等電点を下げて代謝安定性を向上させることができる。具体的には、酸性アミノ酸(例えばアスパラギン、グルタミン酸)、および/またはデオキシヌクレオチド(例えばGpCオリゴヌクレオチド、CpGオリゴヌクレオチド)をさらに免疫誘導剤に含ませることでもよい。一つの態様として、酸性アミノ酸および/またはデオキシオリゴヌクレオチドを本発明のMAPに直接結合させることでもよい。
【実施例】
【0066】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって制限されないものとする。
【0067】
[実施例1]
<多重抗原ペプチド(MAP)の構造>
MAPの構造について下記のものを使用した。
【0068】
【化7】
[式中、Rは、
【化8】
である。
【0069】
鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニン由来のペプチド、すなわちSTQKAID(配列番号24)を選択し、MAP作製のための抗原ペプチドとして使用した。
【0070】
<鳥インフルエンザMAP4の合成>
1.略語表
・NH2−SAL−Trt(2−Cl)− Resin: Rink−Bernatowitz−amide Barlos Resin(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Lys(Fmoc)−OH:N−α,N−ε−Bis(9−fluorenylmethoxycarbonyl)−L−lysine(渡辺化学工業株式会社)
・Boc−Pra−OH:N−Boc−L−propargylglycine(東京化成工業株式会社)
・N−PEG−COOH:11−Azido−3,6,9−trioxaundecanoic Acid(東京化成工業株式会社)
・H−Asp(OtBu)−Trt(2−Cl) resin:L−Aspartic acid β−t−butyl ester 2−chlorotrityl resin(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Ala−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl) −L−alanine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Ieu−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−L−isoleucine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Gln(Trt)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−N−β−trityl−L−glutamine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Ser(tBu)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−O−(t−butyl)−L−serine(渡辺化学工業株式会社)
・Fmoc−Thr(tBu)−OH: N−α−(9−Fluorenylmethoxycarbonyl)−O−(t−butyl)−L−threonine(渡辺化学工業株式会社)
・HATU:O−(7−aza−1H−benzotriazol−1−yl)−N,N,N’,N’−tetramethyluronium luorophosphate(Genscript)
・DIEA: N,N−Diisopropylethylamine(和光純薬・ペプチド合成用)
・DMF: N,N−Dimethylformamide(関東化学・ペプチド合成用)
・TFA: 2,2,2−Trifluoroacetic acid(和光純薬)
・TIPS: Triisopropylsilane(渡辺化学工業株式会社)
・Thioanisole(渡辺化学工業株式会社)
・m−Cresol(東京化成)
・DCM: Dichloromethane(関東化学)
・ACN: acetonitrile(関東化学・HPLC用)
・α−CHCA:α−Cyano−4−hydroxycinnamic Acid
・分取カラム:YMC−Pack Pro C18, 20mm(I.D.)×250mm(Length), 粒子径5μm, 細孔径12μm(YMC)
・分析カラム:YMC−Pack Pro C18, 4.6mm(I.D.)×250mm(Length), 粒子径5μm, 細孔径12μm(YMC)
・MALDI−TOF MASS: Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time Of Flight Mass Spectrometry
・D.W.: distilled water
・硫酸銅五水和物(関東化学)
・アスコルビン酸(関東化学)
【0071】
2.MAPコアの合成
MAP4を例としてMAPコアの合成法を以下に記載する。MAPコア合成は通常のFmoc固相合成法を用い、全ての工程を手動にて行った。具体的にはNH2−SAL−Trt(2−Cl)− Resin 1mmol分を固相担体として以下の手順で合成した。
【0072】
【表1】
【0073】
合成終了後、固相0.1mmolに対しD.W.(ml):TIPS(ml):TFA(ml)=1.5:1.5:30を加え1.5時間撹拌し切出と脱保護を行った。切出後は、ろ過により溶液を回収しこれを減圧濃縮後、少量の水を加え凍結乾燥した。凍結乾燥後、0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて精製を行った。精製物はMALDI−TOF MASSを用いた質量分析にて目的物の確認を行った。
【0074】
精製条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 100%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 100%→溶出液A 70%/溶出液B 30%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
質量分析:
・マトリックス溶液:10mg/mL α−CHCA in 0.1%TFA 50%CAN水溶液
・サンプル:HPLC溶出液もしくは0.1%TFA 50%ACN水溶液(概ね1mg/mL ペプチド)
・マトリックス溶液とサンプルを1:1で混合しプレート上で混晶を形成
【0075】
3.抗原ペプチド合成
抗原ペプチド合成もMAPコア合成と同様にFmoc固相合成法を用いて行った。具体的にはH−Asp(OtBu)−Trt(2−Cl)resin 1mmol分を固相担体として用い、以下の手順で合成した。
【0076】
抗原ペプチドの配列はN−PEG−STQKAID−OHでありC末端からN末端に向かい、ペプチドを伸長した。
【0077】
【表2】
【0078】
合成終了後、固相1mmolに対しチオアニソール(ml):m−クレゾール(ml):TIPS(ml):TFA(ml)=5.4:1.5:0.9:30を加え1.5時間撹拌し切出と脱保護を行った。切出後は、ろ過により溶液を回収しこれを減圧濃縮。さらにエーテルを加え沈殿を回収し未精製ペプチドを得た。未精製ペプチドは0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて精製を行った。
【0079】
精製物はMALDI−TOF MASSを用いた質量分析にて目的物の確認を行った。
精製条件:
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 90%/溶出液B 10%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 90%/溶出液B 10%→溶出液A 60%/溶出液B 40%,
10mL/min, 30minリニアグラジエント
HPLC 分析条件
・溶出液A: 0.1%TFA, 溶出液B: 0.1%TFA ACN
・平衡化:溶出液A 95%/溶出液B 5%, 10mL/min, 10min
・溶出:溶出液A 95%/溶出液B 5%→溶出液A 60%/溶出液B 40%, 10mL/min, 30minリニアグラジエント
質量分析:上述のとおりである。
【0080】
4.MAPの合成
MAPコアと抗原ペプチドはヒュスゲン反応を利用し結合させた。すなわち、MAPコア中のアルキンをCuで活性化し抗原ペプチドN末端のアジド基と反応させ、トリアゾールにより結合させた。具体的な工程を以下に記載する。
【0081】
(工程1)MAPコアと抗原ペプチドを0.1%TFA水溶液に溶解した。このとき混合比はMAPコア28mg(36μmol)と抗原ペプチド145mg(148μmol)とし、これらを0.1%TFA水溶液2mlに溶解した(ペプチド溶液)。
【0082】
(工程2)硫酸銅・5水和物水溶液とアスコルビン酸水溶液の調製を次のように行った。硫酸銅・5水和物50mg(200μmol)を1mlのD.W.に溶解した(硫酸銅水溶液)。また、アスコルビン酸176mg(1mmol)を1mlのD.W.に溶解(アスコルビン酸水溶液)した。次に、硫酸銅水溶液とアスコルビン酸水溶液を全量混和した(Cu溶液)。
【0083】
(工程3)次にヒュスゲン反応を行った。具体的には、ペプチド溶液2mlとCu溶液1.1mlを混和し、室温で数時間反応した。
【0084】
(工程4)目的物を0.1%TFAとACNを溶出液に用いた逆相HPLCにて精製し、凍結乾燥した。
MALDI−TOF MASSを用いた質量分析にて目的物の確認を行った。
精製条件:上記の抗原ペプチドと同様である。
HPLC純度検定条件:上記の抗原ペプチドと同様である。
質量分析:上記と同様である。
【0085】
合成結果は以下の通りであった。
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
[実施例2]
<鳥インフルエンザMAP4投与手順>
試験:
Balb/cマウスに鳥インフルエンザMAP4を2%DMSO−1%マウス血清入り生理食塩水に溶解したものを腹腔内注射した。投与量は、Balb/cマウスあたり100μg/100μL/マウス/回投与とした。MAP投与方法は、4日間毎日1日1回連日投与し(合計4回投与)、初回投与日から7日目、14日目に投与した。α−ガラクトシルセラミド投与は、初回のみMAP4とともに腹腔内投与し、用量は2μg/マウスとした。投与前、投与後で眼窩静脈叢から採血し、血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した。
【0089】
<鳥インフルエンザMAP4のマウス血清中抗体価の測定法>
抗体MAP抗体の測定には、鳥インフルエンザのヘマグルチニンペプチドに牛血清アルブミン(BSA)を結合したものをELISAプレートに固相化し、その後100倍希釈した血清を添加し、37℃で1時間インキュベートした後、それぞれペルオキシダーゼ標識された抗IgM抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG1抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG2a抗体(SouthernBiotech社)、抗IgG3抗体(SouthernBiotech社)をメーカー推奨濃度で加え、ペルオキシダーゼによる基質分解後の発色(A450)をプレートリーダーを用いて測定し、血清中抗体価を測定した。
【0090】
また、鳥インフルエンザのヘマグルチニンペプチドに牛血清アルブミン(BSA)とFLAGを結合したものをELISAプレートに固相化し、血清の代わりに抗FLAGモノクローナル抗体(Clone: M2マウスIgG1、シグマアルドリッチ社)を各種濃度に希釈して添加し、抗MAP抗体価測定と同様にして測定することで、抗MAP抗体価の定量化のための標準曲線とした。この標準曲線から、抗MAP抗体のおおよその血清中抗体濃度を算出した。
【0091】
<試験の結果>
血清中の抗MAP抗体の濃度を測定した結果を、図2に示した。
図2から、鳥インフルエンザMAP4の腹腔内投与(ip)では、IgGが明らかに上昇したマウスが5匹中3匹認められた。抗FLAG抗体換算による総IgG抗体量は、14日目で157ng/ml、154ng/ml、106ng/ml、21日目でそれぞれ122ng/ml、148ng/ml、83ng/mlであった。
【0092】
得られたIgG抗体のサブクラスを測定した結果、図3に示されるように、上昇したIgG抗体はIgG1及びIgG3で構成されることが分かった。また、IgG1の上昇から、抗体遺伝子のクラススイッチが起こっていることが分かった。
【0093】
さらにまた、IgM価を測定した結果、図4に示すように、すべて(5匹中5匹)のマウスでIgMが誘導されることが分かった。
【0094】
さらにまた、上記の投与試験をマウスに対し静脈内投与したときにも鳥インフルエンザウイルスに対するIgG及びIgM抗体を誘導することができた。
【0095】
上記の試験から、次の結果が得られた。
(1)α−ガラクトシルセラミドとともにMAP4を静脈内投与又は腹腔内投与することによって、鳥インフルエンザウイルスに対するIgG及びIgM抗体を誘導することができた。
(A)α−ガラクトシルセラミドと鳥インフルエンザMAP4を腹腔内投与することによって、鳥インフルエンザウイルスに対するIgG及びIgM抗体を誘導することができた。
(B)IgG濃度は100ng/mlを超える程度であった。
(C)IgG抗体のサブクラスは、IgG1及びIgG3であった。
(D)IgMは投与したすべてのマウスで上昇した。
(2)鳥インフルエンザMAP4は、抗体価上昇を認め、ワクチンとしての機能をもつことが分かった。
(3)IgM及びIgG3が効率よく誘導できたことから、MAP4は腹腔内のB1B細胞に作用すると考えられた。
(4)IgG1も誘導されており、B2B細胞にも一部作用していると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、鳥インフルエンザウイルス感染に対する免疫誘導剤を提供するものであり、実施例に示すように多重抗原ペプチドによってIgG抗体及びIgM抗体の誘導を可能にしたことは鳥インフルエンザウイルスに対する免疫誘導によるワクチンとしての可能性を示した。このことは鳥インフルエンザウイルス感染に対する予防及び治療のために産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]