特開2018-88780(P2018-88780A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-88780(P2018-88780A)
(43)【公開日】2018年6月7日
(54)【発明の名称】振動発電素子
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20180511BHJP
【FI】
   H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-231879(P2016-231879)
(22)【出願日】2016年11月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー・環境新技術先導プログラム/トリリオンセンサ社会を支える高効率MEMS振動発電デバイスの研究」委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169029
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】年吉 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博之
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 久幸
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和徳
(57)【要約】
【課題】振動発電素子を大型化することなく発電起電力を増加させる。
【解決手段】振動発電素子は、第1の電極と、第1の電極に対して所定の方向に沿って移動する第2の電極と、第3の電極と、第3の電極に対して所定の方向に沿って移動する第4の電極と、第2の電極と第4の電極とを前記所定の方向に沿って移動可能に支持する支持部と、を備え、第1の電極と第3の電極とは、所定の方向に沿って配置され、第1の電極と第2の電極との対向面の少なくとも一方と、第3の電極と第4の電極との対向面の少なくとも一方とが帯電され、支持部は、第1の電極と第2の電極による静電力と、第3の電極と第4の電極による静電力とが所定の方向に沿って釣り合った状態で、第2の電極と第4の電極とを支持する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
前記第1の電極に対して所定の方向に沿って移動する第2の電極と、
第3の電極と、
前記第3の電極に対して前記所定の方向に沿って移動する第4の電極と、
前記第2の電極と前記第4の電極とを前記所定の方向に沿って移動可能に支持する支持部と、を備え、
前記第1の電極と前記第3の電極とは、前記所定の方向に沿って配置され、
前記第1の電極と前記第2の電極との対向面の少なくとも一方と、前記第3の電極と前記第4の電極との対向面の少なくとも一方とが帯電され、
前記支持部は、前記第1の電極と前記第2の電極による静電力と、前記第3の電極と前記第4の電極による静電力とが前記所定の方向に沿って釣り合った状態で、前記第2の電極と前記第4の電極とを支持する振動発電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の振動発電素子において、
前記第2の電極と前記第4の電極とを支持する前記支持部が有する支持剛性のうち、前記所定の方向に沿った支持剛性は前記所定の方向とは異なる方向に沿った支持剛性よりも小さい振動発電素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動発電素子において、
前記第1の電極と前記第3の電極とに接続された負荷をさらに備え、
前記負荷は、前記第1の電極と前記第2の電極との相対的な変位により変化した静電容量による発電と、前記第3の電極と前記第4の電極との相対的な変位により変化した静電容量による発電とから得られる電力によって駆動する振動発電素子。
【請求項4】
請求項3に記載の振動発電素子において、
前記負荷は、前記第2の電極または第4の電極における静電容量Cと、前記第2の電極または第4の電極の共振角振動数ωとが以下の式(1)を満たす値Rを有する振動発電素子。
R=2/(Cω …(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境中からエネルギーを収穫するエナジーハーベスティング技術の一つとして、振動発電素子(振動発電デバイス)を用いて環境振動から発電を行う手法が注目されている。こうした用途の振動発電素子では、小型で高い発電効率を得るために、エレクトレットによる静電力を利用することが提案されている。たとえば特許文献1には、軟X線を利用して、可動部と固定部にそれぞれ形成された櫛歯電極の垂直面にエレクトレットを形成した静電誘導型変換素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5551914号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の静電誘導変換素子は、環境振動により可動部を所定方向に加振することで発電を行う。このとき、対向する櫛歯電極のエレクトレット面の重なり面積が変化することで、櫛歯電極間に働く静電力により力学的な仕事が静電エネルギーに変換され、起電力を発生することができる。しかし、より大きな起電力を得るためには、可動部の振動方向に余分なスペースが必要となり、静電誘導変換素子が大型化してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、振動発電素子は、第1の電極と、前記第1の電極に対して所定の方向に沿って移動する第2の電極と、第3の電極と、前記第3の電極に対して前記所定の方向に沿って移動する第4の電極と、前記第2の電極と前記第4の電極とを前記所定の方向に沿って移動可能に支持する支持部と、を備え、前記第1の電極と前記第3の電極とは、前記所定の方向に沿って配置され、前記第1の電極と前記第2の電極との対向面の少なくとも一方と、前記第3の電極と前記第4の電極との対向面の少なくとも一方とが帯電され、前記支持部は、前記第1の電極と前記第2の電極による静電力と、前記第3の電極と前記第4の電極による静電力とが前記所定の方向に沿って釣り合った状態で、前記第2の電極と前記第4の電極とを支持する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、振動発電素子を大型化することなく発電起電力を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施の形態による振動発電素子の概略構成を示す平面図である。
図2】実施の形態による振動発電素子の弾性支持部の構造を模式的に示す図である。
図3図1に示す本実施の形態の振動発電素子の等価回路を示す図である。
図4】シミュレーションの結果を示す図である。
図5】変形例における振動発電素子の構成を示す平面図である。
図6】変形例における振動発電素子の弾性支持部の構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る振動発電素子1の概略構成を示す平面図である。 振動発電素子1は、たとえばSOI(Silicon On Insulator)基板を用いて、一般的なMEMS加工技術により形成される。SOI基板は、たとえばハンドル層が形成される下部Si層と、BOX層が形成されるSiO層と、デバイス層が形成される上部Si層とを重ねて構成されている。
振動発電素子1は、ベース2と、固定電極3aおよび3bと、可動電極4aおよび4bと、可動部5と、弾性支持部6とを備えている。振動発電素子1には、負荷9が接続されている。
なお、以下の説明では、図1に示すように設定したX軸、Y軸、Z軸からなる直交座標系を用いるものとする。
【0009】
可動部5は、後述する弾性支持部6によって移動可能に支持されている。可動部5は、X方向−側の端部に可動電極4aを有し、X方向+側の端部に可動電極4bを有する。
固定電極3a、3bおよび可動電極4a、4bは、それぞれ櫛歯構造を有している。固定電極3aには複数の櫛歯30aが形成され、可動電極4aには複数の櫛歯40aが形成されている。固定電極3aと可動電極4aとは、振動発電素子1のX方向−側にて櫛歯30aと櫛歯40aとが互いに歯合するように配置されている。同様に、固定電極3bには複数の櫛歯30bが形成され、可動電極4bには複数の櫛歯40bが形成されている。固定電極3bと可動電極4bとは、振動発電素子1のX方向+側にて櫛歯30bと櫛歯40bとが互いに歯合するように配置されている。
【0010】
上述したように、固定電極3a、3bは固定櫛歯電極を構成し、可動電極4a、4bは可動櫛歯電極を構成している。櫛歯電極とは、図1の固定電極3a、3bや可動電極4a、4bのように、複数の櫛歯を並列配置したものである。なお、本発明における櫛歯の本数は図1に示したものに限定されない。櫛歯の本数が最小である場合の櫛歯電極は、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極の一方の電極に2つの櫛歯が形成され、その2つの櫛歯の間に挿入されるように他方の電極に1つの櫛歯が形成されている。このような基本構成を有する櫛歯電極であれば、櫛歯の本数に関わらず、以下に記載のような機能を有する振動発電素子を構成することができる。
【0011】
弾性支持部6によってベース2に弾性支持された可動部5は、可動電極4a、4bと一体に、X方向にスライド移動することができる。可動部5をX方向にスライド移動させるため、弾性支持部6は、X方向へのばね定数kが小さく、Y方向およびZ方向のばね定数が大きい。
【0012】
図2は、図1に破線で囲んで示す領域100に含まれる構造を模式的に示す図である。図2に示す例では、弾性支持部6は、Y方向に沿って延在する平板形状を有する。弾性支持部6は、平板形状のY方向の一方の端部側でベース2に接続し、他方の端部側で可動部5に接続する。平板形状の弾性支持部6では、X方向の厚み(長さ)は、Z方向の厚み(長さ)よりも短い。弾性支持部6のY方向の長さは、X方向の厚み(長さ)よりも長い。すなわち、弾性支持部6は、X方向の剛性は、Y方向およびZ方向の剛性と比較して小さい。したがって、弾性支持部6は、可動部5に対するX方向への支持剛性が、Y方向およびZ方向への支持剛性よりも小さいので、可動部5はX方向にスライド移動する。
なお、弾性支持部6は、図2に示すように、1個の平板形状の部材により形成されるものに限定されず、複数個の平板形状の部材により形成されてもよい。弾性支持部6として、たとえば特許5551914号明細書に記載された構造を適用することもできる。
また、弾性支持部6は平板形状であるもの、すなわちZX平面での断面が矩形であるものに限定されず、楕円形状や多角形状でもよい。この場合、弾性支持部6の断面のX方向の最大の長さがZ方向の長さよりも小さくなるように形成することにより、X方向の支持剛性を他の方向の支持剛性よりも小さくすることができる。
【0013】
歯合している固定電極3aの櫛歯30aと可動電極4aの櫛歯40aとの少なくとも一方、および固定電極3bの櫛歯30bと可動電極4bの櫛歯40bとの少なくとも一方には、それぞれ対向面の表面近傍にエレクトレットが形成されている。これにより、固定電極3aおよび可動電極4aの対向面の少なくとも一方と、固定電極3bおよび可動電極4bの対向面の少なくとも一方とが、それぞれ帯電されている。本実施の形態では、固定電極3aおよび可動電極4aの対向面の少なくとも一方と、固定電極3bおよび可動電極4bの対向面の少なくとも一方とには、実質的に同一の帯電電圧にてエレクトレットが形成されている。これにより、可動部5のX方向−側端部に働くエレクトレットの静電力と、X方向+側端部に働くエレクトレットの静電力とが釣り合った状態となり弾性支持部6によって支持される。すなわち、可動部5がX方向に振動する際には、その振動中心位置が、弾性支持部6の安定点位置に位置する。なお、振動中心位置が弾性支持部6の安定点位置を基準として、試験等の結果によって設定された所定の許容範囲内に位置してもよい。
なお、帯電電圧は厳密に同一であるものに限定されず、上述したように可動部5に働く静電力が釣り合った状態、すなわち振動中心位置が弾性支持部6の安定点位置に位置することが実現できる帯電電力であればよい。また、エレクトレットを形成する方法の一例として、たとえば公知の特開2016−149914号公報に記載されているように、櫛歯構造表面に酸化膜を製膜し高温バイアス処理を施す方法等を用いることができる。もちろん上記の方法に限定されるものではなく、例えば特許5551914号明細書等に開示の各種の方法を適用させることができる。
【0014】
負荷9は、たとえば電圧と符号とを整える電源コントローラの入力インピーダンス等であり、振動発電素子1から供給される電力を消費して所定の動作を行う。負荷9の正極側は固定電極3aに接続され、負極側は固定電極3bに電気的に接続される。なお、負荷9の負極側が固定電極3aに接続され、正極側が固定電極3bに電気的に接続されても良い。
【0015】
環境中の振動によって振動発電素子1がX方向を含む方向に揺り動かされると、固定電極3a、3bに対して可動電極4a、4bがX方向に振動して変位する。たとえば可動電極4a、4bがX方向+側に向けて変位すると、固定電極3aと可動電極4aとの間の対向面積が減少し、固定電極3bと可動電極4bとの間の対向面積が増加する。このような対向面積の変化によってエレクトレットの誘導電荷が変化する。これにより、固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの間の電圧が変化して起電力が発生することで、振動発電素子1の発電が行われる。振動発電素子1の発電によって得られた起電力は、前述の電気的接続を介して負荷9に印加され、負荷9が駆動される。
【0016】
上記の構成を有する振動発電素子1の可動電極4a、4bの運動について説明する。
図3は、図1に示す振動発電素子1の構成に対応する等価回路図である。この等価回路を用いることにより、可動部5がX方向に沿って振動している場合の可動部5の運動方程式を以下の式(1)のように表すことができる。
【数1】

なお、mは可動部5の質量、Xは振動発電素子1内における可動部5の固定部(たとえば固定電極3a、3b)に対する相対変位、Xoutは振動発電素子1の外部振動の変位、rは空気や機械の摩擦によるダンピング係数、VおよびVは固定電極3a、3bで発生する電圧、Vは固定電極3a、3bでのエレクトレット帯電電圧である。また、Aはエレクトレットによる強さの量を示す力係数であり、以下の式(2)により表すことができる。
【0017】
A=2nεbV/g …(2)
なお、nは櫛歯30aまたは40aの歯数、εは真空の誘電率、bは櫛歯30a、40aの厚さ(Z方向の長さ)、Vはエレクトレット帯電電圧、gは櫛歯30aおよび櫛歯40a間の間隔である。力係数Aの値を変更する、すなわちエレクトレットによる効果の強さを変更するためには、式(2)に示す、櫛歯30aおよび40a間の間隔gと、エレクトレット帯電電圧Vとの少なくとも一方を変更すれば良い。たとえば、間隔gを小さくする、または、帯電電圧Vを大きくする、またはその両方を行うことにより、力係数Aを大きな値に変更することができる。
【0018】
式(1)の右辺の第1項は振動発電素子1の外部振動が可動部5に作用する力、第2項は弾性支持部6によって可動部5に作用する弾性力、第3項は空気や機械摩擦等が可動部5に作用する力を表している。第4項は可動電極4aに作用する静電力、第5項は可動電極4bに作用する静電力を表している。この式(1)を、負荷9の値を以下の式(3)で示す最適値Rに設定し、外部振動が正弦波でありその周波数が可動部5の共振周波数近傍であるという条件の下で近似して変形することにより、式(4)が得られる。
【0019】
R=2/(Cω) …(3)
【数2】

なお、Cは可動電極4aまたは4bの静電容量であり、ωは可動部5の共振角振動数、すなわち可動電極4aまたは4bの共振角振動数である。静電容量Cは、固定電極と可動電極とが対向するときのX方向の長さをwとし、浮遊容量をCとして、C=C+(2nεbw/g)のように表され、共振角振動数ωは、ω={(k+A/C)/m}1/2のように表される。式(3)は、固定電極および可動電極の静電容量と負荷9による放電との時定数が、可動部5の振動の時定数と一致する場合に、負荷9が有し得る抵抗値を最適値Rとして設定されていることを表す。
【0020】
可動部5に作用する力は、式(4)の右辺に示すように、外部振動からの力と、右辺第2項のエレクトレットによるハードスプリング効果による力(以下、ハードスプリング項と呼ぶ)と、右辺第3項の電気的なダンピング効果による力(以下、電気的ダンピング項と呼ぶ)とに分類できる。式(2)で示した力係数Aを変更すると、ハードスプリング項(k+A/C)の値と電気的ダンピング項(r+Aω)の値とを変更することが可能である。上述したように、櫛歯30aおよび40a間の間隔gと、エレクトレット帯電電圧Vとの少なくとも一方を変更すれば力係数Aを変更できる。したがって、櫛歯30aおよび40a間の間隔gと、エレクトレット帯電電圧Vとの少なくとも一方を変更することにより、ハードスプリング項の値と電気的ダンピング項の値とを変更することができる。
【0021】
式(4)に含まれる電気的ダンピング項は可動部5の振動のバンド幅に依存する。力係数Aを変更して電気的ダンピング項を変更することにより、可動部5の振動周波数応答性の共振Q値を任意の値に設定することができる。全体のQ値は、機械的なダンピングによるQ値をQとし、電気的なダンピングによるQ値をQとして、以下の式(5)により表される。
【数3】
式(5)に示すように、力係数Aを大きな値に設定すると、Q値を低い値に下げることが可能になる。Q値が低い値であるほど共振のピークがなだらかとなり、可動部5の共振周波数と外部振動の周波数のマッチングを容易にすることができる。すなわち、振動発電素子1内部を高真空にしなくても、広い帯域において、加わった外部振動に対して可動部5が共振をして発電が行われ、固定電極3a、3bから電力が出力される。
【0022】
この場合、固定電極3a、3bからの出力電力Pは、以下の式(6)により表される。
【数4】

力係数Aの値を大きくする程、上記式(6)のうち発電効率Eである{1/(1+Ck/(A))}の値は1に近い値になり、機械的ダンピングの影響を無視することが可能となる。すなわち、力係数Aの値を大きな値に設定することにより、機械的ダンピングを増加させることなくQ値を低い値に設定でき、機械的ダンピングの増加による損失を抑制して発電特性を向上させることができる。本実施の形態の場合では、力係数Aの値を大きく設定することにより、電気的ダンピングによる効果を機械的ダンピングによる効果に対して上回る構成とすることができるので、振動発電素子1による発電効率を大きくさせることができる。
【0023】
式(4)のハードスプリング項は共振周波数に依存する。力係数Aを変更してハードスプリング項を変更することにより、可動部5の共振周波数を変更することができる。一般的に可動部5の共振周波数は、機械的な質量と弾性支持部6のばね定数kとにより決まる。これに対して、本実施の形態の振動発電素子1では、エレクトレットの静電力によるハードスプリング効果が発生するので、帯電電圧Vを調整することにより力係数Aを調整して、共振周波数を変更することができる。これにより、外部振動の周波数に適した共振周波数に変更可能な振動発電素子1を製造することができる。
【0024】
図4は、振動発電素子1に対するシミュレーションの結果を示す図である。シミュレーションにおいては、機械的ダンピングを無いものとし(すなわちr=0)、負荷9の値を式(3)に示す最適値Rとし、振動発電素子1に正弦波振動を与え、可動部5の最大振幅を200[μm]とした。図4では、縦軸を出力電力[μW]、横軸を周波数[Hz]とし、後述する第1の条件における周波数と出力電力との関係をグラフL1で示し、後述する第2の条件における周波数と出力電力との関係をグラフL2で示す。
【0025】
第1の条件は以下の通りである。
エレクトレット帯電電圧V=300[V]。
力係数A=13.5[μC/m]。
負荷9の最適値R=18.37[MΩ]。
加速度24.6[m/s]。
Q値=7.9。
【0026】
第2の条件は以下の通りである。
エレクトレット帯電電圧V=50[V]。
力係数A=2.25[μC/m]。
負荷9の最適値R=19.62[MΩ]。
加速度0.685[m/s]。
Q値=250。
【0027】
上記の第1の条件では、第2の条件と比較して、力係数Aの値を大きな値に設定、すなわち式(5)に示すQ値を小さな値に設定している。図4に示すように、Q値が大きな第2の条件のグラフL2では、共振のピークが鋭い。グラフL2に示すように、共振周波数においては、小さな外部振動を受けても可動部5は最大振幅に到達するが、出力電力は小さくなる。これに対して、Q値が低い第1の条件のグラフL1では、上述したように、共振のピークがなだらかとなっている。グラフL1に示すように、比較的大きな外部振動を受けると可動部5は最大振幅に到達し、出力電力も大きくなる。また、グラフL1は、グラフL2と比較して、広い周波数帯域にて固定電極3a、3bが発電できることを示している。また、力係数Aが異なるグラフL1とL2とでは共振周波数が異なり、上述したハードスプリング効果により、グラフL1における共振周波数が上昇している。すなわち、上述したように、力係数Aを調整することにより、外部振動の周波数に適した共振周波数に変更することが可能となる。
【0028】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)固定電極3aと可動電極4aの対向面の少なくとも一方と、固定電極3bと可動電極4bとの対向面の少なくとも一方とが帯電される。弾性支持部6は、固定電極3aと可動電極4aとによる静電力と、固定電極3bと可動電極4bとによる静電力とがX方向に沿って釣り合った状態で、可動電極4a、4bを支持する。
本実施の形態においては、上述したシミュレーションの第1の条件の場合のように、力係数Aを大きな値に設定している。すなわち、式(2)におけるエレクトレット帯電電圧Vを大きな値にし、櫛歯30aと櫛歯40aとの間隔gが小さくなるように振動発電素子1を作成する。
【0029】
一般に、エレクトレット帯電電圧Vを大きな値にすると、静電力も大きくなる。たとえば特開2016−149914号公報に開示されているような構成を有する振動素子においては、静電力が大きくなると可動櫛歯電極のX方向への移動量も大きくなる。このため、可動櫛歯電極の移動のためにX方向にスペースが必要となる。また、弾性支持部の撓む量も大きくなり弾性支持部が破損する虞があるため、大きく撓んだ弾性支持部の破損を防ぐための構成が必要となる。そのため、振動素子の形状をY方向にも大きなものとする必要がある。
【0030】
これに対して本実施の形態の振動発電素子1では、静電力が釣り合った状態で可動部5が弾性支持部6に支持されている。すなわち、可動部5が振動中であっても、振動中心位置が安定点位置に位置するので、X方向にスペースを設ける必要もなく、弾性支持部6の破損を防ぐための構成も不要となる。これにより、力係数Aの値を大きくして、振動発電素子1のサイズを大きくすることなく発電量を増やすことができる。換言すると、同一サイズの従来技術の振動素子と比較して発電量の大きな振動発電素子1とすることが可能である。
また、静電力が釣り合った状態で可動部5が弾性支持部6に支持されていることにより、加振によって可動部5に作用する力がエレクトレットの静電力に応じた所定の力を超えない場合でも、可動部5は、振動中心位置において、微小な外部振動によって振動を開始することができる。特に、外部振動が共振周波数と一致している場合には、可動部5を共振によって大きく振動させることが可能になる。すなわち、振動発電素子1に加わる外部振動が微小な場合であっても発電を行うことが可能になる。
また、従来の発電素子がインパルス状の環境振動に対応するものであるのに対し、本実施の形態の振動発電素子1は微弱な正弦波的な環境振動、たとえば、ポンプやファン等の微弱振動をも検出できる。この場合の周波数は負荷によって変動するので、ワイドバンドな特性を有する本実施の形態の振動発電素子1を好適に用いることができる。
【0031】
また、静電力が釣り合った状態で可動部5が弾性支持部6に支持されているので、エレクトレット帯電電圧Vを大きな値にすることができ、これにより、機械的エネルギーから電気的エネルギーへの変換速度が大きな振動発電素子1を製造することが可能になる。エレクトレット帯電電圧Vを大きくできることにより、上述した式(2)に示す力係数Aを大きな値として、機械的ダンピングを増加させることなく、式(5)に示すようにQ値を下げることが可能となる。これにより、図4のグラフL1に示すようなワイドバンドな特性の振動発電素子1を実現できるので、振動発電素子1の共振周波数と外部振動の周波数のマッチングを容易にし、発電効率を向上させることができる。
また、エレクトレット帯電電圧Vを調整して、力係数Aの値を変更することにより、外部振動の周波数に合わせた共振周波数を有する振動発電素子1を製造することができる。
【0032】
(2)可動電極4a、4bを支持する弾性支持部6が有する支持剛性のうち、X方向に沿った支持剛性はX方向とは異なる方向(たとえばY方向、Z方向)に沿った支持剛性よりも小さい。これにより、弾性支持部6は、可動部5をX方向にスライド移動させ、可動部5の振動中心位置をばねの安定点位置で動かすことなく振動可能に支持することができる。
【0033】
(3)負荷9は、固定電極3a、3bに接続され、固定電極3aと可動電極4aとの相対的な変位により変化した静電容量による発電と、固定電極3bと可動電極4bとの相対的な変位により変化した静電容量による発電とから得られる電力によって駆動する。これにより、本実施の形態の振動発電素子1は、たとえば特開2016−149914号公報の発電素子のような構成を有する場合と比較して、固定電極3a、3bから合わせて2倍の電力を得られる。したがって、振動発電素子1のサイズを大きくすることなく負荷9に供給する発電量を増やすことができる。換言すると、同一サイズの従来技術の振動素子と比較して発電量の大きな振動発電素子1とすることが可能である。
【0034】
本発明による振動発電素子の構造は、上述した実施の形態で説明したものに限定されない。たとえば図1においては、固定電極3aの複数の櫛歯30aのそれぞれと固定電極3bの複数の櫛歯30bのそれぞれとは、X方向に沿って形成される場合を例に挙げていたが、これに限定されない。
【0035】
また、図1に示す実施の形態で説明した振動発電素子1では、可動部5をY方向+側とY方向−側の2箇所にて弾性支持部6が支持したが、3箇所以上にて弾性支持部6に支持されてもよい。たとえば、図5のXY平面においては、可動部5が4箇所にて弾性支持部6に支持される場合を例に示す。この場合、可動部5は、X方向+側の端部近傍にて、Y方向+側から第1の弾性支持部61に支持され、Y方向−側から第2の弾性支持部62に支持される。可動部5は、X方向−側の端部近傍にて、Y方向+側から第3の弾性支持部63に支持され、Y方向−側から第4の弾性支持部64に支持される。
【0036】
また、実施の形態で説明した振動発電素子1では、弾性支持部6の断面形状によりX方向の支持剛性を小さくするものを一例として挙げたが、これに限定されない。たとえば、振動発電素子1は、Y方向に沿って延在する弾性支持部6がZ方向に沿って、複数個配置される構成とすることができる。この場合の構造の一例を図6に示す。図6は、図2と同様に、図1における領域100に含まれる構造を模式的に示す図である。図6に示す例では、振動発電素子1は、Y方向に沿って延在する2個の板状の弾性支持部6(以後、上部弾性支持部611、下部弾性支持部612と呼ぶ)を備える。上部弾性支持部611および下部弾性支持部612は、Y方向の一方の端部側でベース2に接続し、他方の端部側で可動部5に接続する。この場合、上部弾性支持部611と下部弾性支持部612とは、Z方向に沿って配置される。これにより、Z方向には2個の弾性支持部6による剛性が働くことになる。したがって、振動発電素子1では、X方向の支持剛性を、他の方向の支持剛性よりも小さくすることができる。なお、振動発電素子1は、上部弾性支持部611および下部弾性支持部612の2個の弾性支持部6を有するものに限定されず、3個以上の弾性支持部6を有しても良い。
【0037】
また、弾性支持部6を板状の部材にて構成する場合に限定されない。たとえば、可動部5をコイルバネにより支持してもよい。このとき、可動部5はX方向とY方向とZ方向とのそれぞれの方向において、コイルバネを介してベース2と接続される。このとき、Y方向およびZ方向に接続されるコイルバネのばね定数を、X方向に接続されるコイルバネのばね定数よりも大きくすることにより、可動部5のX方向への支持剛性を小さくすることができる。この場合、たとえば、可動部5のY方向およびZ方向に接続されるコイルバネの個数を、X方向に接続されるコイルバネの個数よりも多くすればよい。
【0038】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1…振動発電素子、2…ベース、3a、3b…固定電極、
4a、4b…可動電極、5…可動部、6…弾性支持部、
9…負荷、30a、30b…櫛歯、40a、40b…櫛歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6