前記式(I)で表される組成中、アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al比)が0.20以上0.30以下であり、窒素に対する酸素のモル比(O/N比)が0.010以上0.080以下である、請求項1又は2に記載の蛍光体。
前記組成において、アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al比)を0.20以上0.30以下とし、窒素に対する酸素のモル比(O/N比)を0.01以上0.08以下とする、請求項7に記載の蛍光体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る蛍光体、その製造方法及びそれを用いた発光装置の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下のものに限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。また、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
第1の実施形態
第1の実施形態では蛍光体について説明する。本実施形態に係る蛍光体(以下「本蛍光体」ともいう。)は、式Si
uEu
vAl
wO
xN
y(I)で表される組成を有し、前記式(I)中のu、v、w、x、及びyは、uとwの和を13とした場合に、下記式(1)から(5)の範囲を満たす値である。
2.77≦u≦2.88 (1)
0.04≦v≦0.08 (2)
10.12≦w≦10.23 (3)
0.42≦x≦0.95 (4)
12.89≦y≦13.65 (5)
【0013】
本蛍光体は、式Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有し、この結晶構造に賦活剤である元素を固溶したものであることが好ましい。
【0014】
図1は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造を示す模式図である。
図1に示すように、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造は、Si又はAlとO又はNとで構成された四面体が連なった骨格を有する構造である。
本蛍光体は、式Si
uEu
vAl
wO
xN
y(I)で表される組成を有し、式(I)中、Euは賦活元素であり、発光中心として作用する。Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造において、Si又はAlとO又はNとで構成された四面体が一部抜けて、この抜けた箇所に賦活元素が配置されて、賦活元素が結晶中に取り込まれると考えられる。
【0015】
本蛍光体が、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造と同一の結晶構造を母体結晶として有するかどうかは、粉末X線回折法により同定することができる。
本明細書において、蛍光体が、目的とする組成を有し、かつ、本質的にSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造と同一の結晶構造を母体結晶として有する場合には、その蛍光体は、目的の結晶相からなると表現する場合がある。蛍光体が粒子であり、粒子の集合体である場合も、目的の結晶相からなると表現する場合がある。具体的には、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られたX線回折シミュレーションパターンと、蛍光体のX線回折パターンとを比較する。Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造から計算したX線回折パターンの主要なピークの位置のブラッグ角度(2θ)と、蛍光体のX線回折パターンにおける主要なピークの位置のブラッグ角度(2θ)が類似している場合には、蛍光体は、目的の結晶相からなると判断できる。蛍光体のX線回折パターンにおける主要なピークの強度比(intensity)は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造から計算したX線回折シミュレーションパターンの主要なピークの強度比(intensity)と類似することが好ましい。
【0016】
図2は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られるX線回折シミュレーションパターンを示すグラフである。
例えば、CuKα線を用いた粉末X線回折法により得られた蛍光体のX線回折パターンが、
図2に示すSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶相のX線回折シミュレーションパターンの主要ピークと同じ位置のブラッグ角度(2θ)に、各ピークが存在している場合には、その蛍光体が、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造(結晶相)と同一の結晶構造を母体結晶として有し、目的の結晶相からなると簡易に判断することができる。
【0017】
Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造は、直方晶系(斜方晶系)に属し、また、Cmcm空間群(International Tables for Crystallographyの63番目の空間群)に属し、結晶構造解析から得られた単位格子の軸の長さを示す格子定数a、b、cは下記式(i)から式(iii)を満たす値であり、単位格子の軸間の角度を示すα、β、γは、それぞれ90度である。
a=0.30749±0.020nm (i)
b=1.87065±0.020nm (ii)
c=3.85432±0.020nm (iii)
【0018】
Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造のデータを表1に示す。表1は、本発明者が合成した無機化合物を、単結晶X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製、SMART APEXII Ultra)を用いて測定し、結晶構造解析によって得た結果である。
【0019】
Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物において、各原子は表1に示す原子座標の位置を占める。原子座標は、単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造中には、表1に示すように、Si、Al、O、Nの各原子が存在し、SiとAlは18種類の席(Si、Al(1)〜Si、Al(14B))に存在する解析結果を得た。また、OとNは15種類の席(O、N(1)〜O、N(15))に存在する解析結果を得た。また、表1中、式量(Z)は、単位格子中に含まれる化学式の数を示す。表1に示すように、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物は、式量(Z)が8であり、格子定数a、b及びcで表される単位格子中に、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される分子が8個存在する。
【0021】
式Si
uEu
vAl
wO
xN
y(I)で表される組成を有する本蛍光体は、Siの一部又は全部がGe、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選択される少なくとも一種の元素に置き換わる場合があり、さらにはSiの一部がAl、B、Ga、In、Sc、Y、及びLaからなる群から選択される少なくとも一種の元素で置き換わってもよい。また、式(I)で表される本蛍光体は、Alの一部又は全部がB、Ga、In、Sc、Y、及びLaからなる群から選択される少なくとも一種の元素に置き換わる場合があり、さらにはAlの一部がGe、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選択される少なくとも一種の元素で置き換わってもよい。さらに、式(I)で表される組成を有する本蛍光体は、OとNの一部がフッ素(F)で置き換わる場合がある。
【0022】
本蛍光体は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造と同一の結晶構造を母体結晶として有し、式Si
uEu
vAl
wO
xN
y(I)で表される組成中、構成元素が他の元素で置換されたり、構成元素の一部に賦活元素が固溶したりすることによって、格子定数や原子位置は変化する場合がある。格子定数や原子位置が変化した場合であっても、結晶構造と、原子が占めるサイトと、その座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほど大きく変わることはないと考えられる。格子定数、空間群及び原子座標は、X線回折法を用いた解析法により求めることができる。
【0023】
本蛍光体について、X線回折法により解析した結果、格子定数が上記式(i)から式(iii)を満たす値であり、空間群がCmcm空間群に属し、原子座標から計算されたAl−N及びSi−Nの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示すSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶の原子座標から計算された化学結合の長さに近い場合には、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24と同一の結晶構造と同定することができる。
【0024】
一方、本蛍光体において、Euの固溶量が小さい場合には、格子定数やAl−N及びSi−Nの近接原子間距離を算出せずに、本蛍光体の結晶構造を特定することもできる。本蛍光体は、X線回折パターンにおいて、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造から計算したX線回折シミュレーションパターンの主要なピークとほぼ同一の位置のブラッグ角度(2θ)にピークが存在している場合には、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有すると同定する。
【0025】
本蛍光体において、Siは結晶構造を構成する骨格となる元素である。新規な結晶構造を有するSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有するために、式(I)で表される組成を有する蛍光体において、Siのモル比を表すuの数は、式(I)におけるuとwの和を13とした場合に、2.77≦u≦2.88を満たす数である。式(I)で表される組成を有する蛍光体において、Siのモル比を表すuの数が、2.77未満又は2.88を超えると、結晶構造が変化し、所望の発光強度を有する蛍光体ではない場合がある。
【0026】
本蛍光体において、Euは、発光中心となる賦活元素である。高い発光強度を得るために、式(I)で表される組成において、Euのモル比を表すvは、式(I)におけるuとwの和を13とした場合に、0.04≦v≦0.08を満たす数である。式(I)で表される組成において、Euのモル比を表すvの数が、0.04未満であると、賦活元素の量が少なすぎて、高い発光強度を得ることができず、vの数が0.08を超えると、賦活元素の量が多すぎて濃度消光が生じ、高い発光強度を得ることができない。
【0027】
本蛍光体において、Alは、結晶構造を構成する骨格となる元素である。新規な結晶構造を有するSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有するために、式(I)におけるuとwの和を13とした場合に、Alのモル比を表すwの数は、10.12≦w≦10.23を満たす数である。式(I)において、Alのモル比を表すwの数が、10.12未満又は10.23を超えると、結晶構造が変化し、所望の発光強度を有する蛍光体ではない場合がある。
【0028】
式(I)で表される組成中の窒素(N)原子又は酸素(O)原子の一部は、フッ素(F)原子で置き換わっていてもよい。この場合であっても、主成分が、式(I)で表される場合、すなわち式(I)におけるuとwの和を13としたときに、フッ素のモル比が0.01以上0.41以下を満たす場合には、その蛍光体は、式(I)に含まれるものとする。
【0029】
本蛍光体は、式(I)で表される組成中のアルミニウムに対するケイ素のモル比が(Si/Al比)0.20以上0.30以下であり、窒素に対する酸素のモル比(O/N比)が0.01以上0.08以下であることが好ましい。本明細書において、蛍光体のアルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al比)及び窒素に対する酸素のモル比(O/N比)は、本蛍光体の組成分析の結果に基づいて算出される。本蛍光体のSi/Al比は、より好ましくは0.25以上0.29以下である。また、本蛍光体のO/N比は、より好ましくは0.03以上0.07以下である。
本蛍光体のアルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al比)が前記範囲内であり、窒素に対する酸素のモル比(O/N比)が前記範囲内であると、新規な結晶構造を有するSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有し、高い発光強度が得られる。
【0030】
本蛍光体は、CuKα線によるX線回折パターンにおいて、ブラッグ角度(2θ)が35.4°以上36.0°以下の範囲にある回折ピークの強度を100%とした場合に、ブラッグ角度(2θ)が33.0°以上33.6°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が10%以上45%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が37.6°以上38.2°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が8%以上24%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が59.8°以上60.4°以下範囲内にある回折ピークの相対強度が3%以上30%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が60.5°以上61.1°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が6%以上32%以下である結晶相を含むことが好ましい。
本蛍光体は、CuKα線によるX線回折パターンにおいて、ブラッグ角度(2θ)が35.4°以上36.0°以下の範囲にある回折ピークの強度を100%とした場合に、ブラッグ角度(2θ)が上記各範囲内にある回折ピークが前記範囲の相対強度である結晶相を含む場合は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有し、高い発光強度が得られる。
【0031】
本蛍光体は、CuKα線によるX線回折パターンにおいて、ブラッグ角度(2θ)が35.4°以上36.0°以下の範囲にある回折ピークの強度を100%とした場合に、ブラッグ角度(2θ)が33.0°以上33.6°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が11%以上43%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が37.6°以上38.2°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が8%以上22%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が59.8°以上60.4°以下範囲内にある回折ピークの相対強度が5%以上28%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が60.5°以上61.1°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が7%以上32%以下である結晶相を含むことがより好ましい。
【0032】
本蛍光体は、紫外線から可視光の短波長側領域の光を吸収して、励起光の発光ピーク波長よりも長波長側に発光ピーク波長を有する。具体的には260nm以上460nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する励起光源からの光により励起され、
図5の発光スペクトルに示されるように、480nm以上490nm以下の波長範囲に発光ピーク波長をもつ、青色から青緑色の蛍光を発光する。
270nm以上430nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する励起光源を用いることにより、
図6の励起スペクトルに示されるように、当該波長範囲では本蛍光体の励起スペクトルが比較的高い強度を示すので、本蛍光体の発光効率を高くすることができる。特に、280nm以上410nm以下に発光ピーク波長を有する励起光源を用いることが好ましく、290nm以上380nm以下に発光ピーク波長を有する励起光源を用いることが更に好ましい。
【0033】
本蛍光体は、平均粒径0.1μm以上50.0μm以下の粒子であることが好ましい。本蛍光体は、粉砕し、必要に応じて分散、濾過することによって、平均粒径が0.1μm以上50.0μmの粒子とすることができる。本蛍光体は、粒子の平均粒径がより好ましくは0.5μm以上40.0μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以上30.0μm以下、よりさらに好ましくは2.0μm以上25.0μm以下である。本蛍光体は、前記範囲の平均粒径を有する粒子を頻度高く含有していることが好ましい。また、本蛍光体は、粒子の粒度分布が狭い範囲であることが好ましい。粒径のばらつきが小さく、高い発光強度を有する粒径の大きな粒子を含むことによって、より色むらが抑制され、良好な色調を有する発光装置が得られる。前記範囲の粒径を有する蛍光体は、光の吸収率及び変換効率を高く維持することができる。なお、平均粒径が1.0μmよりも小さい蛍光体は、凝集体を形成しやすい傾向がある。
【0034】
本明細書において、「平均粒径」は、コールター原理に基づいて、電気抵抗を利用した粒子測定法により測定される平均粒径を意味する。具体的には、溶液中に蛍光体を分散させ、アパーチャーチューブの細孔を通過することによって生じる電気抵抗に基づいて、蛍光体の粒子の粒径を求めることができる。
【0035】
第2の実施形態
第2の実施形態では蛍光体の製造方法について説明する(以下「本製造方法」ともいう。)。本製造方法は、EuF
3を含む原料混合物の熱処理により、式Si
uEu
vAl
wO
xN
y(I)で表される組成を有し、前記式(I)中のu、v、w、x、及びyは、uとwの和を13とした場合に、前記式(1)から(5)の範囲を満たす値となる蛍光体を得ることを含む。
蛍光体を製造する原料は、EuF
3と、式(I)で表される組成を構成する元素のいずれかの元素を含む化合物であり、目的の組成比(モル比)となるように各原料を秤量する。式(I)であらわされる組成を構成する元素を含む化合物としては、例えばSiを含む化合物、Alを含む化合物が挙げられる。
【0036】
原料
蛍光体を製造するための具体的な原料について説明する。Siを含む化合物は、Si単独の金属、Siを含む化合物として、酸化物、イミド、アミド、窒化物及び各種塩類等の化合物を原料として用いることができる。具体的には、Si
3N
4、SiO
2等を用いることができる。また、予め式(I)で表される組成に含まれる他の元素とSiを含む化合物を用いてもよい。また、原料として、Siを含む化合物は、Siの純度が3N以上のものを用いることが好ましい。Siを含む化合物は、Siの他に、Li、Na、K、B、Cu等の異なる元素を含む化合物を原料として用いてもよい。さらに、Siの他に、Al、Ga、In、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む化合物を用いてもよく、この化合物を用いた場合には、Siの一部が、Al、Ga、In、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選択される少なくとも一種の元素で置換される場合がある。
【0037】
Alを含む化合物は、Al単独の金属、酸化物、イミド、アミド、窒化物及び各種塩類等の化合物を原料として用いることができる。具体的には、AlN、Al
2O
3等を用いることができる。また、予め式(I)で表される組成に含まれる他の元素とAlを含む化合物を用いてもよい。また、原料として、Alを含む化合物は、Alの純度が3N以上のものを用いることが好ましい。Alを含む化合物は、Alの他に、Li、Na、K、B、Cu等の異なる元素を含む化合物を原料として用いてもよい。さらに、Alの他に、Ga及び/又はInを含む化合物を用いてもよく、この化合物を用いた場合には、Alの一部が、Ga及びInから選ばれる少なくとも一種の元素で置換される場合がある。
【0038】
Euを含む化合物は、EuF
3を用いる。Euを含む化合物の一部として、EuF
3の代わりにEu
2O
3等を用いてもよい。原料として、EuF
3を用いることにより、結晶構造中に所望のモル比のEuを固溶させることができるだけでなく、後述のフラックスとしても機能させることができる。
【0039】
各々の原料は、平均粒径が約0.1μm以上15μm以下、より好ましくは約0.1μm以上10μm以下の範囲であることが、他の原料との反応性、熱処理時及び熱処理後の粒径制御等の観点から好ましい。この範囲以上の粒径を有する場合は、アルゴン雰囲気中若しくは窒素雰囲気中、グローブボックス内で粉砕を行うことで達成できる。
【0040】
フラックス
原料として反応性を高めるため、必要に応じてハロゲン化物、リン酸塩等のフラックスを含んでいてもよい。原料混合物にフラックスが含有されることにより、原料同士の反応が促進され、固相反応がより均一に進行しやすい。これは、原料を熱処理する温度が、フラックスとして用いるハロゲン化物等の液相の生成温度とほぼ同じであるか、前記液相の生成温度よりも高い温度であるため、反応が促進されると考えられる。
フラックスとして使用される化合物としては、アルカリ土類金属、アルカリ金属又はNH
3のフッ化物、塩化物、リン酸塩等が挙げられる。フラックスとして使用される化合物としては、具体的には、例えば、Li、Na、Cs、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、又はNH
3からなる群より選択される少なくとも一種の元素を含むフッ化物、塩化物、又はリン酸塩が挙げられる。
原料を混合した原料混合物のフラックスの含有量は、原料混合物(100質量%)を基準として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上である。フラックス含有量が前記範囲であると、粒子成長が促進され、目的の結晶相からなる蛍光体を形成することができる。
【0041】
原料の混合
EuF
3と、例えばSiを含む化合物、Alを含む化合物を混合して原料混合物を得る。式Si
uEu
vAl
wO
xN
y(I)で表される組成において、アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al比)が0.20以上0.30以下となるように、Siを含む化合物と、Alを含む化合物とを混合することが好ましい。式(I)で表される組成において、アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al比)が0.20以上0.30以下となるように、Siを含む化合物とAlを含む化合物とを混合することによって、新規な結晶構造を有するSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造と同一の結晶構造を有し、高い発光強度を有する蛍光体が得られる。式(I)で表される組成におけるアルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al比)は、より好ましくは0.25以上0.29以下である。
【0042】
式Si
uEu
vAl
wO
xN
y(I)で表される組成において、窒素に対する酸素のモル比(O/N比)が0.01以上0.08以下となるように、Oを含む化合物と、Nを含む化合物を混合することが好ましい。具体的には、原料として、Si
3N
4、SiO
2、AlN及びAl
2O
3を用いて、Si
3N
4に対するSiO
2のモル比(SiO
2/Si
3N
4比)、及び/又は、AlNに対するAl
2O
3のモル比(Al
2O
3/AlN比)が、0.01以上0.08以下となるように、各化合物を混合することが好ましい。式(I)で表される組成における窒素に対する酸素のモル比(O/N比)が0.01以上0.08以下となるように各化合物を混合することによって、新規な結晶構造を有するSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有し、高い発光強度を有する蛍光体が得られる。式(I)で表される組成における窒素に対する酸素のモル比(O/N比)は、より好ましくは0.01以上0.06以下である。
【0043】
原料となる各化合物は、混合機を用いて湿式又は乾式で均一になるように混合して原料混合物を得る。混合機は、工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いることができる。また、粉末の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器等の湿式分離機、サイクロン、エアセパレータ等の乾式分級機を用いて分級することもできる。
【0044】
熱処理
原料混合物は、SiC、石英、アルミナ、窒化ホウ素等の材質からなる坩堝内、円筒型の容器内、又は、板状のボートに載置され、熱処理される。熱処理には、抵抗加熱を利用した電気炉、管状炉、小型炉、高周波炉、メタル炉等を使用できる。
【0045】
熱処理する雰囲気は、流通する還元雰囲気であることが好ましい。具体的には、窒素雰囲気、窒素及び水素の混合雰囲気、アンモニア雰囲気、又はそれらの混合雰囲気(例えば、窒素とアンモニアとの混合雰囲気)中で熱処理することが好ましい。
【0046】
熱処理温度は、好ましくは1200℃以上2000℃以下であり、さらに好ましくは1700℃以上1900℃以下である。また熱処理時間は、好ましくは2時間以上200時間以下であり、より好ましくは5時間以上150時間以下であり、最も好ましくは8時間以上150時間以下である。
【0047】
後処理
原料混合物を熱処理することによって得られた製造物は、目的の組成を有する蛍光体である。この蛍光体を、粉砕、分散、固液分離、分級、乾燥して、目的の組成を有する蛍光体粉末を得ることができる。固液分離は、濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションのような、工業的に通常用いられる分離方法により行うことができる。また分級は、サイクロン、エアセパレータのような乾式分級機、篩い分けのような工業的に通常用いられる方法により行うことができる。また乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターのような工業的に通常用いられる装置や方法により行うことができる。
【0048】
第3の実施形態
第3の実施形態では発光装置(以下「本発光装置」ともいう。)について説明する。本発光装置は、第1の実施形態に係る蛍光体と、励起光源とを含む。
本発光装置に含まれる励起光源は、近紫外から可視光の短波長領域内にピーク波長を有する光を放つものであることが好ましい。蛍光体は、励起光源からの光の一部を吸収して蛍光を発する。本発光装置に含まれる蛍光体は、第1の実施形態に係る蛍光体(以下「第一の蛍光体」ともいう。)以外に、1種類又は2種類以上の蛍光体(以下「第二の蛍光体」ともいう。)を有していてもよい。
【0049】
図3を参照しながら、本発光装置について説明する。
図3は、本発光装置100の模式断面図である。発光装置100は、成形体40と、発光素子10と、蛍光部材50とを備える。成形体40は、第1のリード20及び第2のリード30と、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂部42を含み、これらが一体的に成形されてなるものである。成形体40は凹部を有しており、その凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極はそれぞれ第1のリード20及び第2のリード30とそれぞれワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は蛍光部材50により被覆されている。蛍光部材50は、例えば、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70と樹脂を含む。更に蛍光体70は、第一の蛍光体71と第二の蛍光体72とを含む。発光素子10の正負一対の電極に接続された第1のリード20及び第2のリード30は、発光装置100を構成するパッケージの外方に向けて、第1のリード20及び第2のリード30の一部が樹脂部42から露出されている。これらの第1のリード20及び第2のリード30を介して、外部から電力の供給を受けて発光装置100を発光させることができる。
以下、本発光装置を構成する部材について説明する。
【0050】
発光素子
発光素子10は、紫外線領域から可視光領域までの光を発する励起光源として利用することができる。発光素子10の発光ピーク波長は、好ましくは270nm以上430nm以下であり、より好ましくは280nm以上410nm以下、さらに好ましくは290nm以上380nm以下である。
蛍光体70は、上記範囲に発光ピーク波長を有する励起光源からの光により効率よく励起される。発光装置100は、発光素子10からの光と、蛍光体70からの光との混色光を発する。
【0051】
発光素子10は、例えば、窒化物半導体(In
XAl
YGa
1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いた半導体発光素子を用いることができる。半導体発光素子を用いることで機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
発光素子10の発光スペクトルの半値幅は、例えば、30nm以下とすることができる。励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0052】
蛍光部材
蛍光部材は、樹脂と蛍光体70を含む。蛍光体70は、第一の蛍光体71と第二の蛍光体72を含むことが好ましい。第一の蛍光体71としては、本発明の一実施形態に係る蛍光体を用いることができる。蛍光体70は、蛍光部材50中で部分的に偏在するよう配合されていてもよい。蛍光部材50は、発光素子10や蛍光体70を外部環境から保護するための部材としても機能し、波長変換部材としても機能する。蛍光体70は、発光素子10に接近して配置することにより、発光素子10からの光を効率よく波長変換することができ、発光効率の優れた発光装置100とすることができる。なお、蛍光体70を含む蛍光部材50と、発光素子10との配置は、それらを接近して配置させる形態に限定されることなく、蛍光体70への熱の影響を考慮して、発光素子10と蛍光体70を含む蛍光部材50との間隔を空けて配置することもできる。また、蛍光体50を蛍光部材50中にほぼ均一の割合で混合することによって、色むらのない光を得ることもできる。
【0053】
蛍光部材50中の蛍光体70の総含有量は、例えば、樹脂(100質量部)に対して5質量部以上300質量部以下とすることができ、10質量部以上250質量部以下が好ましく、15質量部以上230質量部以下がより好ましく、15質量部以上200質量部以下が更に好ましい。蛍光部材50中の蛍光体70の総含有量が、上記範囲内であると、発光素子10から発した光を蛍光体70で効率よく波長変換することができる。
【0054】
蛍光体70は、2種以上の蛍光体を用いてもよい。例えば、発光素子10と、第一の蛍光体71として第1の実施形態による蛍光体と、第一の蛍光体71以外の赤色光を発する第二の蛍光体72を併用してもよい。2種以上の蛍光体を用いることで、色再現性や演色性に優れた白色光を得ることができる。赤色光を発する第二の蛍光体72としては、(Ca
1−mSr
m)AlSiN
3:Eu(0≦m≦1.0)又は(Ca
1−m−nSr
mBa
n)
2Si
5N
8:Eu(0≦m≦1.0、0≦n≦1.0)等の窒化物蛍光体、K
2(Si
1−m−nGe
mTi
n)F
6:Mn(0≦m≦1.0、0≦n≦1.0)等のフッ化物蛍光体を、第一の蛍光体71と併用して用いることができる。
【0055】
その他、赤色光を発する第二の蛍光体としては、(Sr,Ca)LiAl
3N
4:Euの窒化物蛍光体、(La,Y)
2O
2S:Eu等のEu賦活酸硫化物蛍光体、(Ca,Sr)S:Eu等のEu賦活硫化物蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)
10(PO
4)
6Cl
2:Eu,Mn等のEu,Mn賦活ハロリン酸塩蛍光体、Lu
2CaMg
2(Si,Ge)
3O
12:Ce等のCe賦活酸化物蛍光体、α型サイアロン等のEu賦活酸窒化物蛍光体を用いることができる。
【0056】
また、蛍光体70は、緑色蛍光体や青色蛍光体も含むことができる。第1の実施形態に係る蛍光体とは発光ピーク波長が異なる緑色に発光する蛍光体や、青色に発光する蛍光体をさらに追加することで、色再現性や演色性を更に向上させることができる。また、紫外線を吸収して青色に発光する蛍光体を追加することにより、青色に発光する発光素子に代えて紫外線を発光する発光素子を組み合わせることで、色再現性や演色性を向上させることもできる。
【0057】
緑色光を発する蛍光体としては、例えば、(Ca,Sr,Ba)
2SiO
4:Eu、Ca
3Sc
2Si
3O
12:Ce等のケイ酸塩蛍光体、Ca
8MgSi
4O
16Cl
2:Eu,Mn等のクロロシリケート蛍光体、(Ca,Sr,Ba)
3Si
6O
9N
4:Eu、(Ca,Sr,Ba)
3Si
6O
12N
2:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si
2O
2N
2:Eu等の酸窒化物蛍光体、Si
6−kAl
kO
kN
8−k:Eu(0<k<4.2)のβ型サイアロン等の酸窒化物蛍光体、(Y,Lu,Gd)
3(Al,Ga)
5O
12:Ce等のCe賦活アルミン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl
10O
17:MnのMn賦活アルミン酸塩蛍光体、SrGa
2S
4:Eu等のEu賦活硫化物蛍光体、CaSc
2O
4:Ce等の酸化物蛍光体を用いることができる。
【0058】
また、青色光を発する蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca,Ba)Al
2O
4:Eu、(Sr,Ca,Ba)
4Al
14O
25:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl
10O
17:Eu、BaMgAl
14O
25:Eu,Tb,Sm等のEu賦活アルミン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl
10O
17:Eu,Mn等のEu,Mn賦活アルミン酸塩蛍光体、SrGa
2S
4:Ce、CaGa
2S
4:Ce等のCe賦活チオガレート蛍光体、(Ba,Sr,Ca,Mg)
2SiO
4:Eu等のEu賦活シリケート蛍光体(Sr,Ca,Ba,Mg)
10(PO
4)
6Cl
2:Eu等のEu賦活ハロリン酸塩蛍光体、(Ca,Sr,Ba)
3MgSi
2O
8:Eu等のEu賦活ケイ酸塩蛍光体を用いることができる。
【0059】
蛍光体70が含有された蛍光部材50は、成形体40の凹部内に載置された発光素子10を覆うように形成される。製造のし易さを考慮すると、蛍光部材50に含まれる樹脂は、シリコーン樹脂や、エポキシ樹脂、アクリル樹脂を用いることができる。また、蛍光部材50には蛍光体70が含有される他、さらに適宜、例えば、フィラー、光拡散材等を含有させることもできる。例えば、蛍光部材50が光拡散材を含むことで、発光素子10からの指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。フィラー又は光拡散材としては、例えばシリカ、酸化チタン、アルミナ等を挙げることができる。蛍光部材50がフィラーを含む場合、フィラーの含有量は、例えば、樹脂100質量部に対して1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0061】
実施例1から9及び比較例1から7
原料として、フッ化ユウロピウム(EuF
3)と、α型窒化ケイ素粉末(SiN)と、窒化アルミニウム粉末(AlN)と、酸化アルミニウム粉末(Al
2O
3)とを用いて、各実施例及び比較例の原料組成比(モル比)が表2に示す組成比となるように、各原料となる化合物を混合して原料混合物を得た。なお、表2に示す原料組成比(モル比)は、アルミニウム(Al)を7として算出した。比較例7の原料のみ、フッ化ユウロピウム(EuF
3)を用いることなく、酸化ユウロピウム(Eu
2O
3)を用いた。
この原料混合物を円筒型窒化ホウ素容器に充填した。黒鉛抵抗加熱方式の電気炉を用いて、この電気炉に窒素を導入し、0.9MPaの加圧状態で2000℃まで昇温し、その温度で2時間保持して、前記原料混合物を熱処理し、蛍光体を得た。得られた蛍光体を、アルミナ乳鉢で粉砕して平均粒径が5.0μm以上20.0μm以下となるように篩を通して蛍光体粉末を得た。実施例1から9及び比較例1は、目的の組成を有し、かつ、本質的に同一の結晶構造を母体結晶として有し、目的の結晶相からなるものであった。比較例2及び比較例6は、目的の組成を有する無機化合物とは異なる結晶構造である副結晶相も含まれていた。比較例3は、目的の組成とは異なる他の組成の化合物の結晶構造(他の化合物の結晶相)が形成されていた。蛍光体粉末は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し、平均粒径が5.0μm以上20.0μm以下であることの確認を行った。
【0062】
以下表2は、実施例1から9及び比較例1から7の蛍光体粉末の原料の原料組成比(モル比)と、アルミニウムに対するケイ素の原料モル比(Si/Al比)と、窒素に対する酸素の原料モル比(O/N比)を示す。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例1から9及び比較例1から7の蛍光体について、以下の評価を行った。
組成分析
実施例及び比較例の蛍光体について、Eu及びAlについては、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy、Perkin Elmer社製)を用いて組成を構成する元素の定量分析を行った。Siについては、重量分析及びICP−AESを用いて定量分析を行った。O、Nについては、酸素・窒素分析装置(HORIBA社製)を用いて定量分析を行った。Fについてはイオンクロマトグラフィー法(DIONEX社製)を用いて定量分析を行った。
イオンクロマトグフラフィー法の分析条件は、以下の通りである。
カラム:IonPack AS12(4mm)
溶離液:2.7mM Na
2CO
3、0.3mM NaHCO
3
サプレッサー:有
カラム温度:35℃
検出:電気伝導検出器
実施例及び比較例の蛍光体を構成する元素の定量分析の結果を表3に示す。表3に示す実施例及び比較例の各蛍光体の組成比(モル比)の値は、Siのモル比とAlのモル比の和を13.00として組成分析の結果から算出した値である。
【0065】
X線回折分析
得られた蛍光体について、X線回折スペクトル(XRD)を測定した。測定は、全自動水平型多目的X線回折装置(製品名:SmartLab、リガク社製)を用い、CuKα線を用いて行った。各実施例及び比較例の蛍光体について、得られたX線回折パターンを
図2に示すSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造から計算したX線回折シミュレーションパターンと比較し、実施例1から9及び比較例1から7の蛍光体がSi
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶と同一の結晶構造を母体結晶として有し、目的の結晶相からなるか否かを確認した。各蛍光体のX線回折パターンを
図4に示す。また、粉末X線回折の結晶相解析結果(目的の結晶相、又は、副結晶相等)を表4に示す。また、X線回折パターンにおいて最大強度のピークを100%とした場合の、ブラッグ角度(2θ)が33.0°以上33.6°以下、35.4°以上36.0°以下、37.6°以上38.2°以下、59.8°以上60.4°以下、60.5°以上61.1°以下の範囲にある回折ピークの相対強度(%)を表5に示す。実施例1から9の蛍光体、比較例2、5及び7の蛍光体、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物は、X線回折パターンの最大強度が、ブラッグ角度(2θ)が35.4°以上36.0以下の範囲に存在したが、比較例1、3、4及び6の蛍光体は、X線回折パターンの最大強度が、ブラッグ角度(2θ)が35.4°以上36.0°の範囲には存在しなかった。
【0066】
発光特性の評価
発光スペクトル測定
実施例及び比較例の蛍光体について、蛍光分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、F−4500)を用いて、励起波長400nmの光を各蛍光体に照射し、室温(25℃±5℃)における420nm以上740nm以下の範囲で発光スペクトルを測定した。得られた各実施例及び比較例の発光スペクトルを、比較例2の蛍光体の発光ピーク強度を100%とした相対発光ピーク強度を表4に示す。また、比較例2の蛍光体の発光ピーク強度を100%とした実施例1から4の蛍光体及び比較例1から2の蛍光体の各波長における相対強度(%)を示す発光スペクトルを、
図5に示す。
【0067】
励起スペクトルの測定
実施例及び比較例の蛍光体について、蛍光分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、F−4500)を用いて、各蛍光体のそれぞれの発光ピーク波長にて、室温(25℃±5℃)で220nm以上570nm以下の範囲で励起スペクトルを測定した。実施例1から4の各蛍光体それぞれの励起スペクトルの最大強度を100%とした各波長における相対強度(%)を示す励起スペクトルを、
図6に示す。また、各蛍光体において、400nmの相対強度を励起率として表4に示す。
【0068】
反射スペクトルの測定
実施例及び比較例の蛍光体について、蛍光分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、F−4500)を用いて、室温(25℃±5℃)における380nm以上730nm以下の範囲の反射スペクトルを測定した。基準試料にはリン酸水素カルシウム(CaHPO
4)を使用した。実施例1から4の各蛍光体のそれぞれの反射スペクトルについて、各波長における基準試料の反射率を100%とした場合の各波長における相対強度(反射率)(%)を示す反射スペクトルを、
図7に示す。また、各蛍光体において、400nmの相対強度を吸収率として表4に示す。
【0069】
SEM画像
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、実施例1及び2の蛍光体と比較例1の蛍光体のSEM写真を得た。
図8は実施例1の蛍光体のSEM写真であり、
図9は比較例1の蛍光体のSEM写真である。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
表3に示すように、原料にフッ化ユウロピウム(EuF
3)を用いても、得られた蛍光体中には、フッ素(F)がほとんど残存していないことが確認できた。
また、表3及び表4に示すように、実施例1から9の蛍光体は、相対発光ピーク強度が100%以上であり、発光強度が高くなった。実施例1から9の蛍光体は、新規な結晶構造を有し、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有していた。実施例1から9の蛍光体は、目的の結晶相からなるものであった。また、実施例1から9の蛍光体は、Si/Al比が0.20以上0.30以下であり、O/N比が0.01以上0.08以下であった。
【0074】
これに対し、比較例1から7の蛍光体は、比較例2の蛍光体を除き、相対発光ピーク強度が100%未満となり、発光強度が低かった。比較例1から7の蛍光体は、組成分析の結果、組成比(モル比)が式(I)において、u、v、w、x又はyのいずれかの数値が式(1)から(5)の範囲を満たす値ではなかった。また、比較例2及び比較例6の蛍光体は、目的の結晶相も有するが、一部に副結晶相が生成されていた。また、比較例3の蛍光体は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される組成とは異なるほかの組成を有する化合物の結晶相が生成されていた。
【0075】
表4に示すように、実施例1から9の蛍光体は、400nmにおける励起率が80%を超え、吸収率が60%を超えており、発光素子からの光を効率よく吸収し、励起して発光強度が高くなることが確認できた。
【0076】
図4に示すように、実施例1から9の蛍光体は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折法により得られるX線回折シミュレーションパターンと比べて、このX線回折シミュレーションパターンの主要なピークとほぼ同じブラッグ角度(2θ)の位置にピークが存在していた。この結果から実施例1から9の蛍光体は、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される無機化合物と同一の結晶構造を母体結晶として有し、目的の結晶相からなることが確認できた。
図4に示すように、比較例2と比較例6は、目的の結晶相の他に副結晶相が形成されており、X線回折シミュレーションパターンと異なるピークが存在した。比較例3の蛍光体のX線回折パターンには、X線回折シミュレーションパターンと異なる位置にピークが存在し、Si
2.24Al
10.76O
0.76N
13.24で表される組成とは異なる組成を有する化合物が生成していると推測された。
【0077】
表5及び
図4に示すように、実施例1から9の蛍光体は、CuKα線によるX線回折パターンにおいて、ブラッグ角度(2θ)が35.4°以上36.0°以下の範囲にある回折ピークの強度を100%とした場合に、ブラッグ角度(2θ)が33.0°以上33.6°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が10%以上45%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が37.6°以上38.2°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が8%以上24%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が59.8°以上60.4°以下範囲内にある回折ピークの相対強度が3%以上30%以下であり、ブラッグ角度(2θ)が60.5°以上61.1°以下の範囲内にある回折ピークの相対強度が6%以上32%以下である結晶相を含んでいた。
【0078】
図5及び表4に示すように、実施例1から4の蛍光体は、比較例2の蛍光体と比較して、発光ピーク強度が同程度であるか、発光ピーク強度が高くなった。
図6及び表4に示すように、実施例1から4の蛍光体は、400nmの励起率が80%以上であった。
また、
図7及び表4に示すように、実施例1から4の蛍光体は、400nmの反射率が40%未満であり、言い換えれば、400nmの吸収率が60%以上であり、発光素子からの光を効率よく吸収し、励起して発光強度が高くなることが確認できた。
【0079】
図8の実施例1の蛍光体のSEM写真と、
図9の比較例1の蛍光体のSEM写真を比較すると、SEM写真の外観上、
図8に示される実施例1の蛍光体の方が、粒径が大きく、粒径のばらつきが少ないことが確認できた。