【解決手段】レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品であり、かつ、レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品であって、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が100cm
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の成形品は、レーザー溶着時においてレーザー光吸収側に用いられる成形品であり、かつ、レーザー光を照射することによりマーキングが可能な成形品であって、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が100cm
3/100g以上であるカーボンブラックを0.1〜0.4質量部含む樹脂組成物からなることを特徴としている。
以下に先ず、本実施形態の成形品を構成する樹脂組成物中の各成分について説明する。
【0014】
[熱可塑性芳香族樹脂]
本実施形態において用いる熱可塑性芳香族樹脂は、構造単位中に芳香族基を有する熱可塑性樹脂である。炭化しやすい樹脂である芳香族樹脂を対象とし、そのような樹脂を用いた樹脂組成物からなる成形品のレーザー溶着性(レーザー光吸収性の成形品側として使用)及びレーザーマーキング性の両立を図るものである。以下に、そのような樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ。)を挙げて説明するが、本実施形態においてはそれらに限定されるものではない。
【0015】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
PBT樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0016】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されない。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0017】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は、0.65〜1.20dL/gであることが好ましい。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られる樹脂組成物が特に機械的特性と流動性に優れたものとなる。逆に固有粘度0.65dL/g未満では優れた機械的特性が得られず、1.20dL/gを超えると優れた流動性が得られないことがある。
また、固有粘度が上記範囲のPBT樹脂は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.7dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0018】
PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8−14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4−16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5−10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8−12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6−12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
PBT樹脂において、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2−10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2−4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2−6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0022】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε−カプロラクトン等)等のC3−12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0023】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂)
PAS樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、且つ加工性が良好であるという特徴を有する。
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として−(Ar−S)−(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0024】
上記アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0025】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンスルフィド基を繰返し単位とするポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンスルフィド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンスルフィド基とm−フェニレンスルフィド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンスルフィド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、本実施形態に用いるPAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0026】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0027】
本実施形態に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1216sec
−1)は、上記混合系の場合も含め5〜100Pa・sのものを用いることが好ましい。
【0028】
[カーボンブラック]
本実施形態に係るカーボンブラックは、一次粒子径が20〜40nmであり、かつ、DBP吸油量が100cm
3/100g以上のカーボンブラックである。そして、当該カーボンブラックを、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して0.1〜0.4質量部有する。本実施形態において、上記のような特定のカーボンブラックを特定量含むことにより、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性の両立を図ることができる。
【0029】
ここで、本実施形態の成形品は、カーボンブラックを含むことにより黒色系の色味を呈する。そして、レーザーマーキングにおいては、レーザー光照射部はカーボンブラックが分解、昇華して脱色することで、レーザー光の非照射部(黒色系の色味を有する)との色味の差(輝度比)が大きくなり十分な視認性が得られる。従って、レーザーマーキングにおいて十分な視認性を得るためには少量の添加で黒色系に着色することができ、かつ、レーザー光の照射により分解、昇華しやすいカーボンブラックを用いることが重要である。一方、レーザー溶着においては、樹脂を効率よく発熱、溶融させるため、カーボンブラックでの着色によりレーザー光を吸収させることが必要となる。そのため、カーボンブラックの昇華しやすさのみを追求すると、十分なレーザー溶着性が得られないことがある。これは、カーボンブラックの昇華が早すぎた場合、溶着に必要な程度の発熱が得られないためである。つまり、レーザーマーキングに最適なカーボンブラックであっても、それがレーザー溶着にも最適であるとは限らない。そこで、本実施形態においては、カーボンブラックの一次粒子径、DBP吸油量及び含有量を上記のように規定することにより、レーザーマーキング性とレーザー溶着性との両立を図っている。
【0030】
本実施形態において、カーボンブラックの一次粒子径は20〜40nmであるが、20nm未満であるとレーザー光照射による昇華が起こりにくく、脱色が不十分となり、レーザーマーキング部の視認性に劣り、40nmを超えると黒色系への着色性が不利となり、成形品(マーキング前)の漆黒度が低下(白味が上昇)し、レーザーマーキング部とそれ以外の箇所との輝度比が小さくなり視認性に劣る。カーボンブラックの一次粒子径は、20〜40nmであることが好ましく、20〜35nmであることがより好ましい。なお、本実施形態における一次粒子径は、ASTM D3849規格に準じ、取得された拡大画像から3,000個の単位粒子径を測定し、求められる平均値をいう。
【0031】
一方、DBP吸油量は、ストラクチャーの大きさに相関する指標であり、その数値が大きいほどカーボンブラックのストラクチャーが大きいことを反映する。そして、本実施形態において、カーボンブラックのDBP吸油量は100cm
3/100g以上であるが、100cm
3/100g未満では、レーザー光照射による発熱が不十分となり、レーザー溶着性及びレーザーマーキング性に劣る。DBP吸油量は、110cm
3/100g以上が好ましく、120cm
3/100gがより好ましく、150cm
3/100gがさらに好ましい。DBP吸油量の上限は特に制限されないが、ストラクチャーが大きすぎる場合、製造自体が困難となり、入手性面で不利となるため、600cm
3/100g以下であることが好ましく、500cm
3/100g以下であることがより好ましく、400cm
3/100g以下(例えば300cm
3/100g以下)であることがさらに好ましい。なお、本実施形態におけるDBP吸油量は、JIS K6217−4:2008に準拠して測定される値をいう。
【0032】
カーボンブラックは、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが知られているが、これらの中で、ケッチェンブラックは多孔性で比表面積が大きく昇華しやすいため好ましい。
【0033】
本実施形態において、カーボンブラックは、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して0.1〜0.4質量部含む。カーボンブラックが0.1質量部未満では、レーザーマーキングにおいてはレーザー光照射部と非照射部における輝度比が小さくレーザーマーキング性に劣り、レーザー溶着においては十分な発熱量を確保するのが困難なため接合強度が不十分となり、0.4質量部を超えると、レーザーマーキングにおいて、カーボンブラックを昇華させるために必要なレーザー光照射による発熱量が大きくなり、樹脂部の炭化や変色が発生し、レーザー光非照射部との輝度比が小さくなり視認性が悪化してしまう。
【0034】
ここで、カーボンブラックの含有量を少なくしつつ、レーザー光の出力を高くすることにより十分なレーザー溶着性を確保することも考えられる。しかし、レーザー光の出力を高くすると、レーザー溶着に際し、レーザー光透過側の成形品に異物が存在した場合、その異物が高出力のレーザー光照射により発熱し、その異物の周囲が溶けたり発泡したりしてしまうことがある。従って、レーザー光は出力を高くしすぎない方が安定生産上好ましい。そして、低出力のレーザー光で樹脂の溶融に必要な発熱量を確保するには、レーザー光吸収側の成形品が効率よくレーザー光を吸収できるよう、カーボンブラックの含有量を一定以上に増やすことが好ましいが、増やし過ぎるとレーザーマーキングの際に、カーボンブラックを昇華させるために必要なレーザー光照射による発熱量が大きくなり、樹脂部の炭化や変色による視認性の低下が起こりやすくなってしまう。そこで、本実施形態において、カーボンブラックの含有量を上記数値範囲とした。
【0035】
[無機充填材]
本実施形態の成形品において、耐熱性及び機械強度を向上させるために無機充填材を含有することが好ましい。無機充填材の種類は、本願の効果を阻害しない限り特に限定されないが、例えばガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、タルク、マイカ等が挙げられ、ガラス繊維が特に好ましい。ガラス繊維の繊維長(溶融混練などにより組成物に調製する前の状態)は1〜10mmのものが好ましく、ガラス繊維の直径は5〜20μmのものが好ましい。
【0036】
本実施形態において、無機充填材繊維は、耐熱性及び機械強度を向上させる観点から、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して20〜200質量部含むことが好ましく、30〜150質量部含むことがより好ましい。
【0037】
[エラストマー]
本実施形態の成形品において、耐衝撃性を向上させるためにエラストマーを含有することが好ましい。当該エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、アクリルゴム系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコーン系エラストマーが挙げられ、具体的には、エチレンエチルアクリレート(EEA)、メタクリル酸エステル・ブチレン・スチレン(MBS)、エチレングリシジルメタアクリレート(EGMA)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)系ポリエステルエラストマー等を使用することができる。
本実施形態において、エラストマーは、耐衝撃性向上の観点から、熱可塑性芳香族樹脂100質量部に対して5〜30質量部含むことが好ましく、10〜20質量部含むことがより好ましい。
【0038】
[他の成分]
本実施形態においては、本発明の効果を害さない範囲で、上記各成分の他、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。
【0039】
本実施形態の成形品は、以上説明した樹脂組成物を成形してなる。本実施形態の成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記のような樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0040】
次いで、レーザー溶着及びレーザーマーキングについて順次説明する。
【0041】
[レーザー溶着]
既述の通り、レーザー溶着は、レーザー光透過性の材料からなる成形品(レーザー光透過側)と、レーザー光吸収性の材料からなる成形品(レーザー光吸収側)とを重ね合わせて、レーザー光透過性の成形品側からレーザー光を照射し、レーザー光吸収性の成形品との界面を発熱させて溶着する。そして、本実施形態の成形品は、レーザー光吸収側に用いられる成形品である。つまり、レーザー溶着に当たり、レーザー光透過側の成形品を別途用意し、本実施形態の成形品とレーザー光透過側の成形品とを、溶着しようとする面同士が接触するように重ね合わせて、レーザー光透過側の成形品側からレーザー光を照射して溶着する。
【0042】
本実施形態において、レーザー溶着のために使用し得るレーザー光としては、近赤外域のレーザー光が挙げられる。近赤外域のレーザー光としては、特に、900〜1200nmの波長の光を放射するレーザーが好ましく、半導体レーザー、YAGレーザーが好ましい。
【0043】
レーザー溶着に当たり、レーザー光の照射条件は特に限定されず、使用する材料の組合せや成形品の形状に応じ適宜調整すればよい。この照射条件は、レーザー光透過側成形品とレーザー光吸収側成形品との界面を溶融させるのに必要なエネルギーを与えられるように設定する必要があり、特にレーザー光透過側成形品のレーザー光透過率や厚さによって適切な条件範囲は変わることになるが、当業者であれば、保有する装置の仕様を考慮しつつ、主にレーザー光の出力と照射時間(スキャン速度)を変更した有限回数の試行により、適切な条件を見出すことができる。
一例として、レーザー光透過側成形品に波長940nmのレーザー光の透過率が40%である厚さ1mmのポリブチレンテレフタレート樹脂成形品を、レーザー光吸収側成形品にカーボンブラックを0.2質量%含有するポリブチレンテレフタレート樹脂成形品を、それぞれ用いて、波長940nmのレーザー光を、スキャン速度10mm/secで照射してレーザー溶着を行う場合、出力は5W〜15W程度に設定することができる。
なお、既述の通りレーザー光透過側の成形品内部の異物等により、溶着部以外での予期せぬ溶融や発泡といった不具合が発生するのを抑えるためには、照射エネルギー量が高くなり過ぎないように、出力や照射時間を低めに設定することが好ましい。
【0044】
[レーザーマーキング]
既述の通り、レーザーマーキングは、本実施形態の成形品に対してレーザー光を照射し、当該成形品中に含まれるカーボンブラックを分解、昇華させて脱色することにより行われる。従って、本実施形態の成形品に対してレーザーマーキングをするに当たり、マーキングしたい文字や図形を描画するようにレーザー光を走査して照射する。または、マーキングしたい部分にのみレーザー光が届くよう、光源と成形品の間にマスキング層を配置した上でレーザー光を全面に照射する。描画する文字、図形は特に制限はなく任意に選定することができる。
【0045】
使用するレーザー光としては、上述のレーザー溶着に用いるレーザー光、例えばNd:YAGレーザーやNd:YVO
4レーザーが挙げられる。
また、レーザーマーキングに当たり、レーザー光の照射条件は特に限定されず、対象となる成形品に用いる材料に含まれるカーボンブラックの濃度や樹脂の耐熱性に応じ適宜調整すればよい。この照射条件は、成形品を脱色するためにカーボンブラックを分解、昇華させられるように設定する必要があるが、既述の通り、レーザー光照射による発熱量が大きくなりすぎると、樹脂の炭化や変色により視認性が低下してしまうため、照射エネルギー量が高くなり過ぎないように抑えることが好ましい。具体的には、主にレーザー光の出力、照射時間(スキャン速度)、周波数の変更によりエネルギー量を調整することができるが、これらは照射装置の設定で容易に変更できるため、当業者であれば、保有する装置の仕様等を考慮しつつ、これらの組合せを変えた有限回数の試行により、適切な条件を見出すことができる。
一例として、一次粒子径が21nm、DBP吸油量が175cm
3/100gのカーボンブラックを0.2質量%含有するポリブチレンテレフタレート樹脂成形品を用いて、波長1064nmのレーザー光を出力2W、Qスイッチ周波数20kHzで照射してレーザーマーキングを行う場合、スキャン速度は200〜700mm/sec程度に設定することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1〜4、比較例1〜6]
各実施例・比較例において、表1に示す部数(質量部)で、PBT樹脂と、カーボンブラックと、エラストマーと、ガラス繊維とを混合・攪拌し、樹脂組成物を調製した。表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
PBT樹脂:(ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度(IV)=0.88dL/g、CEG=16meq/kg)
カーボンブラック1:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径22nm、DBP吸油量116cm
3/100g)
カーボンブラック2:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径21nm、DBP吸油量175cm
3/100g)
カーボンブラック3:(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、ケッチェンブラック、一次粒子径30nm、DBP吸油量396cm
3/100g)
カーボンブラック4:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径15nm、DBP吸油量48cm
3/100g)
カーボンブラック5:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径16nm、DBP吸油量62cm
3/100g)
カーボンブラック6:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径24nm、DBP吸油量42cm
3/100g)
カーボンブラック7:(三菱ケミカル(株)製、ファーネスブラック、一次粒子径50nm、DBP吸油量115cm
3/100g)
エラストマー:((株)NUC製、NUC−6570(エチレン−エチルアクリレート共重合体)
ガラス繊維:(日本電気硝子(株)製、ECS03T−187、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
【0048】
カーボンブラック1〜7の一次粒子径及びDBP吸油量を下記表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
[評価]
得られた樹脂組成物を用いて、70mm×50mm×3mmの平板状成形品を作製し、レーザーマーキングの評価を行った。
(1)レーザーマーキング性(輝度比)
得られた成形品に対して、以下に示すスキャンスピードとQスイッチ周波数条件の組合せにてレーザーマーキングを実施した。レーザーマーキング後、マーキング部及び非マーキング部をキヤノン(株)製LiDE210でスキャンした画像をもとに、Adobe社製Photoshop Elementsを用いてヒストグラムの輝度を取得し、マーキング部の中で最も高い輝度の値と、非マーキング部の輝度の値から、輝度比(マーキング部の最高輝度値÷非マーキング部の輝度値)を計算した。測定結果を表1に示す。
(レーザーマーキング条件)
レーザーマーキング装置:KEYENCE社製、MD−V9900A
レーザーの種類:Nd:YVO
4レーザー 波長1064nm
Qスイッチ周波数:0,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100Hz
レーザー出力:2W
スキャンスピード:100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000mm/s
(2)成形品のL値(明度)
作製した成形品に対し、日本電飾工業(株)製、Spectrophotometer SE6000を用いてL値を測定した。測定結果を表1に示す。
(3)レーザー溶着強度
作製した成形品をレーザー光吸収側とし、ウィンテックポリマー社製、ジュラネックス(登録商標) 3300 EF2001(ガラス繊維30質量%を含む無着色のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物)にて作製した80mm×20mm×1mmの短冊状の成形品をレーザー光透過側とし、両者を重ね合わせた状態で、以下に示すレーザー溶着条件にてレーザー溶着を行った。次いで、島津製作所製万能試験機 オートグラフAG−Xを用いて試験速度10mm/minにて破壊強度を測定し、溶着強度を算出した。結果を表1に示す。
(レーザー溶着条件)
レーザー溶着装置:株式会社ファインデバイス FD-2430
レーザーの種類:Nd:YAGレーザー(波長:940nm)
照射速度:10mm/sec
照射径:φ1.6mm
照射距離:4mm
レーザー出力:5W〜13W
なお、「レーザー出力:5W〜13W」とは、各実施例について、出力を5Wから13Wの範囲内で変更した複数の条件にてレーザー溶着を行った中で、最も高い接合強度が得られた条件を「レーザー溶着強度」の評価条件として採用したことを意味する。これは、既述の通り、レーザー光の照射条件によっては、レーザー光吸収側成形品に含まれるカーボンブラックが分解しすぎてしまい、レーザー溶着に必要な発熱量を得にくくなる点で、レーザー溶着における最適なレーザー照射条件は材料によっても異なってくることを考慮したものである。
【0052】
表1より、実施例1〜4の成形品は、いずれも輝度比が大きく、レーザーマーキング性が良好であった。また、レーザー溶着強度も優れており、レーザーマーキング性とレーザー溶着性との両立を図ることができたことが分かる。これに対して、比較例1〜6は、レーザーマーキング性及びレーザー溶着強度の少なくとも一方において劣っており、それらの性能の両立を図ることができなかった。