【課題】硬化性、保存安定性に優れた性能を有するカーボナート樹脂組成物、取扱い性に優れた炭素繊維強化複合材料用プリプレグ、及び自動車や航空機等の構造材料、電気電子機器の筐体等の用途に好適な機械強度、密着性に優れる炭素繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】分子内に少なくとも2つのカーボナート基を有するカーボナート樹脂及びアミン系硬化剤を必須成分としてなる炭素繊維強化複合材料用カーボナート樹脂組成物、及びこのカーボナート樹脂組成物を炭素繊維に含浸してなるプリプレグ、及びこのプリプレグを加熱硬化させて得られる炭素繊維強化複合材料である。
カーボナート樹脂が、エポキシ当量100〜300g/eq.のエポキシ樹脂をカーボナート化して得られるカーボナート樹脂である請求項1に記載の炭素繊維強化複合材料用カーボナート樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料、特に炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材料は、軽量性と優れた力学特性から航空機や車両などの構造材料、コンクリート構造物をはじめ、ゴルフクラブ、釣り竿などのスポーツ分野など幅広い分野で使用されている。このような炭素繊維強化複合材料は、熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸して得られるプリプレグを積層して得られることが多い。
【0003】
上記用途に用いられるプリプレグに要求される諸特性としては、機械特性、密着性といった成形物の物性が優れていることに加え、保存安定性に優れ、かつ硬化性に優れることが挙げられる。特に、プリプレグの成形に成形型を使用する場合は、硬化速度が重要である。プリプレグの硬化時間が半分となれば、生産量を2倍にすることができ、生産性が向上するためである。
【0004】
このような要求特性に対し、エポキシ樹脂組成物の速硬化技術として、硬化剤にジシアンジアミド、硬化促進剤にDCMU(3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレア)を用いた技術が開示されている(特許文献1)。しかしながらこの組成物では硬化性に優れるものの、樹脂の混練や炭素繊維への含浸工程の熱履歴でエポキシの反応が進行するため、保存安定性における課題があった。
【0005】
一方、熱硬化性樹脂の一つである五員環カーボナート樹脂は、アミン類と選択的に反応し、開環することで水酸基を有するウレタン誘導体を与えることが知られており、塗料、接着剤などの材料へ応用可能なベース樹脂として検討されている。
【0006】
このウレタン誘導体の製造方法は、原料として五員環カーボナートを用い、さらに五員環カーボナートの原材料として二酸化炭素を使用して得られるものである。そのため、構造中に二酸化炭素が取り込まれた樹脂となる。これは、近年問題となっている温室効果ガス削減に貢献する技術という別の観点からも、注目されるべき技術であることを意味している。
【0007】
従って、上記背景から種々の五員環カーボナートが検討されている。特許文献2には五員環カーボナート適用例の一つとして、一分子中に少くとも二個の五員環カーボナート基を有するカーボナートモノマーと一分子中に一級アミノ基および二級アミノ基より選ばれる少くとも2個のアミノ基を有するアミンモノマーとの混合物を高分子量化反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する例が示されている。二官能性五員環カーボナートとして、ビスフェノールA型カーボナート樹脂や1,6−ヘキサンジオール型カーボナート樹脂を用い、ジアミン類と反応させることでポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する例が記載されている。しかし、得られるポリヒドロキシウレタンの物性について詳細な検討例は示されていなかった。
【0008】
一方、特許文献3には、エポキシ樹脂と五員環カーボナート樹脂との併用系による樹脂組成物の例が示されており、塗料としての応用例は示されているが、炭素繊維との複合化に着目した例は示されていない。
【0009】
また、特許文献4には多官能型五員環カーボナートとして、フェノールノボラック型カーボナート樹脂の合成例および硬化物の物性例が示されているが、ここでも炭素繊維との複合化に着目した検討例は開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の炭素繊維強化複合材料用カーボナート樹脂組成物について説明する。以下、炭素繊維強化複合材料用カーボナート樹脂組成物を、カーボナート樹脂組成物又は樹脂組成物ともいう。
まず、本発明のカーボナート樹脂組成物に用いられるカーボナート樹脂について説明する。
カーボナート樹脂は、エポキシ樹脂と二酸化炭素を反応させることにより得ることができる。
【0021】
上記のカーボナート化反応に用いるエポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を2個以上有するものであるが、そのエポキシ当量としては100〜300g/eq.の範囲のものが好ましい。この範囲よりも高い場合、得られるカーボナート樹脂の官能基密度が低下し硬化性が低下する。一方、この範囲よりも低い場合、硬化性は良くなるものの、プリプレグとした時の保存安定性が低下する。
【0022】
エポキシ樹脂に対し二酸化炭素を反応させる方法として、アルカリ金属などの触媒の存在下、40〜200℃の温度で反応を行う方法が挙げられる。
【0023】
この際、エポキシ樹脂と二酸化炭素との割合としては、エポキシ基1モルに対する二酸化炭素は1モル以上、好ましくは大過剰使用して、エポキシ樹脂のエポキシ基の実質的全部を反応させることがよい。しかし、樹脂組成物にエポキシ樹脂の配合を予定する場合は、未反応エポキシ樹脂が一部残るような二酸化炭素量であってもよい。
【0024】
また、本発明に使用するカーボナート樹脂の150℃における溶融粘度は0.01〜10.0Pa・sの範囲のものが好ましい。溶融粘度がこの範囲よりも高い場合、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際に、樹脂が十分に表面に流れないため、成形物の平滑性を損なってしまうことが問題となる。一方、この範囲よりも低い場合には、成形物表面の平滑性は向上するが、粘度の低下により樹脂が金型から漏れてしまい、所望の成形物を得ることができなくなってしまうことが問題となる。溶融粘度は上記範囲において低い程好ましい。
【0025】
カーボナート樹脂の軟化点は40〜150℃であることがよく、好ましくは50〜100℃の範囲である。ここで、軟化点は、JIS−K−2207の環球法に基づき測定される軟化点を指す。これより低いと、カーボナート樹脂組成物を硬化させたとき、硬化物の耐熱性が低下し、これより高いと成形時の流動性や炭素繊維への含浸性が低下する。
【0026】
本発明に使用するカーボナート樹脂は、分子内に少なくとも2つのカーボナート基を有するものである。このカーボナート基は上記式(a)中の五員環の基である。本発明のカーボナート樹脂組成物は、何種類のカーボナート樹脂を含んでもよいが、一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるカーボナート樹脂が好適に用いられる。
【0027】
一般式(1)で表されるカーボナート樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有する芳香族構造含有の多官能エポキシ樹脂をベースにカーボナート化されたカーボナート樹脂から選択される。多官能エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等のエポキシ化物が挙げられる。その中でも、フェノールノボラックやクレゾールノボラック等のノボラック型のエポキシ化物から得られるカーボナート樹脂が架橋密度を増加させる効果に起因して機械強度、耐熱性向上を図ることができるため、より好適に用いることができる。
【0028】
一般式(1)には含まれないその他の好ましいカーボナート樹脂としては、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等の3価以上のフェノール類のエポキシ化物、ジシクロペンタジエンとフェノール類の共縮合樹脂のエポキシ化物、フェノール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるフェノールアラルキル樹脂類のエポキシ化物、フェノール類とビスクロロメチルビフェニル等から合成されるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ナフトール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるナフトールアラルキル樹脂類のエポキシ化物等から得られるカーボナート樹脂が挙げられる。
【0029】
一般式(1)において、nは1〜20の数を示すが、好ましくは、平均として1.5〜10.0の範囲である。これもより大きい場合、樹脂の分子量が増大し、成形時の樹脂流れ性が低下することにより、成形体の平滑性が低下する問題がある。
【0030】
一般式(2)で表されるカーボナート樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個有する芳香族構造含有の2官能型エポキシ樹脂をベースにカーボナート化されるカーボナート樹脂から選択される。2官能型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、3,3',5,5’−テトラメチル−ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビフェノール、3,3',5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェノール等の2官能型ジヒドロキシ化合物のエポキシ化物が挙げられる。その中でも、ビスフェノールAやビスフェノールF型のカーボナート樹脂が、密着性および機械強度の向上の観点からより好適に用いることができる。
【0031】
一般式(2)において、mは0〜10の数を示すが、好ましくは、平均として0〜5の範囲である。これもより大きい場合、一般式(1)の場合と同様に、樹脂の分子量が増大することで、官能基密度が低下することにより、硬化性が低下する問題がある。一般式(2)において、Aは、-C(CH
3)
2-、-CH
2-、-O-、-S-、-SO
2-、または単結合である。
一般式(1)及び(2)において、R
1、R
2は、水素又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、好ましくは水素又はメチル基である。
【0032】
一般式(3)で表されるカーボナート樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有する脂肪族系エポキシ樹脂をベースにカーボナート化されたカーボナート樹脂から選択される。一般式(3)において、R
3は脂肪族炭化水素基を示すが、鎖中にエーテル型の酸素原子を含んでいても良く、具体的には炭素数2〜15の範囲の炭化水素基、−(C
2H
4O)
b−、−(C
3H
6O)
b−、さらにはこれらの基に水酸基が置換基として導入されたものであることができる。ここで、bは1〜20の数を表す。lは2〜3の数を表す。
炭素数がこれもより大きい場合、樹脂の分子量が増大し、成形時の樹脂流れ性が低下することにより、成形物の平滑性が低下する問題がある。
例えば具体的な化合物として、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ化物をベースにしたカーボナート樹脂が挙げられる。その中でも、エチレングリコールやトリメチロールプロパン型のカーボナート樹脂が、成形性および密着性の向上の観点からより好適に用いることができる。
【0033】
一般式(1)、(2)及び(3)において、Xは上記式(a)で表される基であり、カーボナート基含有基である。
【0034】
次に、本発明に使用するカーボナート樹脂の製造方法について説明する。
【0035】
エポキシ樹脂と二酸化炭素からカーボナート樹脂を得る反応は触媒の存在下に行うことができ、その触媒量は1〜20wt%の範囲で用いられ、好ましくは1〜10wt%の範囲である。これより多いと生成したカーボナート樹脂そのものが重合反応により分子量を増大させ易くなり、低粘度性を低下させる。一方、これより少ないと反応性が低下し、未反応エポキシ樹脂を多く残存させる。また、ここでいう触媒量とは反応に用いるエポキシ樹脂の重量に対する触媒の量を意味する。
【0036】
この触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるためにトリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0037】
また、この反応における反応温度は40〜200℃の範囲で行われる。これより低いと、反応性が低下し反応時間が長時間となる。また、これより高いとカーボナート結合が一部開裂し易くなり、硬化性および耐熱性を低下させる。
【0038】
この反応は通常、1〜20時間行われる。更に、反応の際には、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等の極性溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物等を溶媒として使用することができる。
【0039】
この反応を実施する具体的方法としては、二酸化炭素以外の全原料を一括装入し、二酸化炭素雰囲気下または二酸化炭素をバブリングさせながら所定の温度で反応させるか、又はエポキシ樹脂と溶媒を装入し、所定の温度に保ちつつ、触媒類を間欠添加させながら反応させる方法が一般的である。反応後、溶媒を使用した場合は、必要により、触媒成分を取り除いた後、溶媒を留去させて本発明の樹脂を得ることができ、溶媒を使用しない場合は、直接熱時排出することによって目的物のカーボナート樹脂を得ることができる。このカーボナート樹脂はエポキシ基がカーボナート基となった構造を有する。
【0040】
次に、本発明のカーボナート樹脂組成物に使用されるアミン系硬化剤ついて述べる。
【0041】
硬化剤の配合量は、カーボナート樹脂のカーボナート基とアミン系硬化剤中のアミノ基の当量バランスを考慮して配合する。カーボナート樹脂及び硬化剤の当量比は、通常、0.2〜5.0の範囲であり、好ましくは0.5〜2.0の範囲である。これより大きくても小さくても、カーボナート樹脂組成物の硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下する。
【0042】
硬化剤の配合量は、通常、カーボナート樹脂100重量部に対して2〜200重量部、好ましくは5〜80重量部の範囲が保たれる範囲内で決定される。硬化剤の配合量がこの範囲外だと成形性及び硬化物の強度が低下する問題がある。
【0043】
アミン系硬化剤としては、芳香族及び脂肪族アミン類等があり、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の鎖状脂肪族アミン類、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジンなどの環状脂肪族アミン類、p−キシリレンジアミン、o-キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族アミン類、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノピリジン等の芳香族アミン類が挙げられる。好ましくは、脂肪族アミンである。
これらのアミン系硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
上記組成物には、エポキシ樹脂を配合してもよい。使用されるエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するもの中から選択される。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、3,3',5,5’−テトラメチル−ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、2,2' −ビフェノール、3,3',5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェノール、レゾルシン、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類のエポキシ化物、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類のエポキシ化物、ジシクロペンタジエンとフェノール類の共縮合樹脂のエポキシ化物、フェノール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるフェノールアラルキル樹脂類のエポキシ化物、フェノール類とビスクロロメチルビフェニル等から合成されるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ナフトール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるナフトールアラルキル樹脂類のエポキシ化物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
本発明のカーボナート樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデン樹脂、インデン・クマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を他の改質剤等として適宜配合してもよい。添加量は、通常、カーボナート樹脂100重量部に対して、2〜30重量部の範囲である。
【0046】
また、本発明のカーボナート樹脂組成物には、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤等の添加剤を配合できる。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、又は水和アルミナ等が挙げられる。
【0047】
顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。
【0048】
更に、本発明のカーボナート樹脂組成物には必要に応じて塩基触媒およびルイス酸触媒等の硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、DBU(ジアザビシクロウンデセン)、DABCO(ジアザビシクロオクタン)、ピリジンなどの3級アミン類;リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類;塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類;テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩類;炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類;酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類;水素化カルシウムなどの金属水素化物;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物;テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類、ベンジルテトラヒドロチオフェニウムクロリドなどのスルホニウム塩類;等が挙げられる。添加量としては、通常、カーボナート樹脂とアミン系硬化剤の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部である。
【0049】
更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0050】
更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、その他の添加剤を加えてもよい。例えば、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)、光安定剤(ヒンダードアミン系など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)、加水分解防止剤(カルボジイミドなど)金属不活性剤などやこれら2種類以上の併用が挙げられる。
【0051】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、炭素繊維に含浸させ、プリプレグとして好ましく用いることができる。また、本発明のプリプレグは、強化繊維として炭素繊維を用いる。炭素繊維を強化繊維として用いることにより、繊維強化複合材料に優れた機械強度を発現させることができる。
【0052】
本発明において、炭素繊維は、用途に応じてあらゆる種類のものを用いることが可能であり、通常引張強度が1.0GPa〜9.0GPaである炭素繊維が好ましく使用可能である。炭素繊維本来の引張強度や複合材料としたときの耐衝撃性が高いという面から、引張強度は高ければ高いほど好ましく、より好ましい引張強度は2.0GPa〜9.0GPaである。
【0053】
本発明で用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系およびピッチ系等の炭素繊維に分類されるものがあるが、高弾性に優れるピッチ系炭素繊維は良好な機械強度発現の観点から好ましく用いられる。
【0054】
また、本発明のカーボナート樹脂組成物は、炭素繊維以外にも、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー等のポリエステル不織布、等の繊維状物に含浸させることができる。更に溶剤除去を行い、プリプレグとすることができる。また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に塗布することにより積層物とすることができる。
【0055】
次に、本発明のプリプレグを得るために好適な製造方法について説明する。
【0056】
本発明のプリプレグは、上記のカーボナート樹脂組成物を炭素繊維に含浸させてなるものである。含浸させる方法としては、カーボナート樹脂組成物をメチルエチルケトンなど溶媒に溶解させて、低粘度化し炭素繊維に含浸させるウェット法、あるいはカーボナート樹脂組成物を、溶媒を用いずに加熱により低粘度化し炭素繊維に含浸させるホットメルト法などの方法により、プリプレグを製造することができる。
【0057】
本発明において、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながら、炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を加熱硬化させる方法などを好ましく用いることができる。
【0058】
炭素繊維強化複合材料は、熱硬化性のマトリクス樹脂が予め炭素繊維へ含浸されたプリプレグを用いるオートクレーブ成形法、炭素繊維へ液状のマトリクス樹脂を含浸させる工程と熱硬化による成形工程を含むフィラメントワインディング成形法や、レジントランスファーモールディング法等の手法によって成形される。この中でオートクレーブ成形法では予め炭素繊維へ樹脂が含浸されたプリプレグを積層したのち、減圧することで各層を密着させ、オートクレーブにて加圧・加熱することで高品質な成形物を得ることができる。しかしながら、この方法では減圧工程及びオートクレーブによる硬化工程が長いため生産性が低いという欠点を有している。そこで、生産性を向上させる手法として予め積層したプリプレグを金型にて加熱・加圧することで成形及び樹脂を硬化させて炭素繊維強化複合材料を得るプリプレグコンプレッションモールディング法(PCM法)が開発されている。
【0059】
PCM法は、短時間で熱硬化する熱硬化性樹脂を炭素繊維に予備含浸させたプリプレグを作成し、このプリプレグをあらかじめ成形物の形状に合わせてパターンカット、ラミネート、プリフォーム賦形を行う。その後、このプリフォームを、高出力油圧プレス機を用いて高圧高温短時間で成形することで所望の炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0060】
このPCM法に用いられるプリプレグに要求される諸特性としては一般的な機械物性に優れることはもちろんであるが、同時に取扱いを容易にするため貯蔵安定性に優れながら成形時の硬化温度において硬化時間が短いことが求められている。これは硬化時間を短くすることで限られた生産設備の中での生産性を向上させることが可能となるためである。
【0061】
PCM法ではプレス成形前に行われる作業においてプリプレグを室温にて積層する工程があるが、この工程においてプリプレグ表面にタック性(表面のべたつき)が強いと、積層時の位置あわせにおいて修正を行うことが困難となり作業性が悪化してしまう。更にはプリプレグが意図しない部分に張り付いたりすることでしわや積層不良が発生すると、不良品となるため歩留まりが低下してしまう。このため、生産性を向上させるためにタック性の低い材料が要求されている。
【0062】
また、PCM法においてはプリプレグに樹脂を含浸させているが、この樹脂には熱硬化性の樹脂が使用されている。この熱硬化性樹脂については先に述べた貯蔵安定性と速硬化性が求められている。更には硬化時の樹脂粘度が下がりすぎないことが求められる。これはプレス成型時の温度によって樹脂粘度が低下することで成形物表面の平滑性が向上するが、粘度低下時間が長いと樹脂が金型から漏れてしまい、所望の成形物を得ることができなくなってしまうためである。また、樹脂粘度が低下しきる前に硬化反応が進行してしまうと樹脂が十分に表面に流れないため、平滑性を損なってしまうことが問題となる。このため、硬化時間を短くするには樹脂粘度と硬化速度のバランスを取ることが重要となる。
【0063】
炭素繊維強化複合材料を得るための成形温度としては、カーボナート樹脂組成物に含まれる樹脂の種類などよるが、通常80〜220℃の温度が好ましい。かかる成形温度が低すぎると、十分な速硬化性が得られない場合があり、逆に高すぎると、熱歪みによる反りが発生しやすくなったりする場合がある。
【0064】
また、炭素繊維強化複合材料を得るためにプレス成形法で成形する圧力としては、プリプレグの厚みなどにより異なるが、通常0.1〜1MPaの圧力が好ましい。かかる成形圧力が低すぎると、プリプレグの内部まで十分に熱が伝わらず、局所的に未硬化となったり、反りが発生する場合がある。逆に高すぎると、樹脂が硬化する前に周囲に流れ出してしまい、炭素繊維強化複合材料中にボイドが発生する場合がある。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0066】
合成例1
1Lの4口フラスコに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製;YD−128、エポキシ当量190g/eq.、150℃での溶融粘度0.005Pa・s)100gをN−メチル−2−ピロリドン200gに溶解させ、臭化リチウム4.6gを添加し、炭酸ガスを吹き込みながら100℃で8時間反応させた。反応後、純水5Lに滴下して再沈殿させ、吸引濾過、リスラリーによる水洗を行ない減圧乾燥した。その後、メチルエチルケトンに溶解させ共沸により残存するN−メチル−2−ピロリドンを除去後、樹脂119gを得た(カーボナート樹脂A)。カーボナート樹脂Aの150℃での溶融粘度は0.64Pa・sであった。GPCチャートを
図1に示す。
なお、全ての合成例において、炭酸ガスの吹込み量は理論量に対し大過剰量であり、エポキシ基はほぼカーボナート基に変換されている。
【0067】
合成例2
エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量174g/eq.、150℃での溶融粘度0.02Pa・s)100gを使用した以外は合成例1と同様の反応を行い、樹脂110gを得た(カーボナート樹脂B)。その150℃での溶融粘度は4.4Pa・sであった。GPCチャートを
図2に示す。
【0068】
合成例3
エポキシ樹脂としてエチレングリコール型エポキシ樹脂(共栄社化学社製;エポライト40E、エポキシ当量132g/eq.)100gを使用した以外は合成例1と同様の反応を行い、樹脂102gを得た(カーボナート樹脂C)。その150℃での溶融粘度は0.05Pa・sであった。GPCチャートを
図3に示す。
【0069】
合成例4
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製;YD−011、エポキシ当量475g/eq.、150℃での溶融粘度1.8Pa・s)100gを使用した以外は合成例1と同様の反応を行い、樹脂102gを得た(カーボナート樹脂D)。その150℃での溶融粘度は12.5Pa・sであった。GPCチャートを
図4に示す。
【0070】
測定条件を次に示す。
1) カーボナート樹脂の分子量分布
GPC測定装置(東ソー製、HLC−8320GPC)を用い、カラムにTSKgel SuperHZ2000(東ソー製)2本、TSKgel SuperHZ2500(東ソー製)2本、を使用し、検出器をRIとし、溶媒にテトラヒドロフラン、流量0.35ml/min、カラム温度40℃として測定した。
【0071】
2) 溶融粘度
BROOKFIELD製、CAP2000H型回転粘度計を用いて、150℃にて測定した。
【0072】
実施例1〜7及び比較例1
カーボナート樹脂成分として合成例1〜4で得られたカーボナート樹脂を使用し、比較としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製;YD−128)を使用した。硬化剤としてトリス(2−アミノエチル)アミン(和光純薬工業製試薬、硬化剤A)、メタキシレンジアミン(シグマアルドリッチ製試薬、硬化剤B)を使用し、溶媒としてシクロペンタノンを使用して、表1に示す処方にて配合してカーボナート樹脂組成物を得た。このカーボナート樹脂組成物は、溶液状であるのでワニスともいう。表1において配合量を示す数字は部(重量部)である。
【0073】
カーボナート樹脂組成物のゲルタイム、粘度および保存安定性の測定を行った結果を表1に示す。
【0074】
測定条件を次に示す。
3) ゲルタイム
150℃に加熱しておいたゲル化試験機(日新科学社製)のプレート上に、樹脂組成物を添加し、フッ素樹脂棒を用いて一秒間に2回転の速度で攪拌し、カーボナート樹脂組成物が硬化するまでに要したゲル化時間を調べた。
4) ワニス粘度及び保存安定性
東機産業製TVE−22形粘度計E型粘度計を用いて樹脂組成物の25℃での粘度を測定した。保存安定性は、配合直後の初期粘度と、これを5℃で一日間放置後の1日後粘度を測定し、次式で計算される粘度の上昇率により評価した。
粘度上昇率(%)=(1日後粘度-初期粘度)/初期粘度x100
【0075】
【表1】
【0076】
実施例8〜14及び比較例2
溶媒としてメチルエチルケトン100部を用いた以外は実施例1〜7と同様な配合にて表2に示すカーボナート樹脂組成物を得た。表2において、樹脂組成物における実施例番号は、その実施例と同様な配合(溶媒を除く)であることを示す。
このカーボナート樹脂組成物を用いて、炭素繊維(日本グラファイトファイバー製;PF−XA80−240)に含浸させ、続いて熱風循環式乾燥機にて80℃3分間乾燥し、メチルエチルケトンを除去した後プリプレグを得た。
このプリプレグを4層重ね、80℃、1時間、0.2MPaの圧力で加熱硬化した。その後、さらに同じ圧力で120℃1時間硬化して炭素繊維強化複合材料としての炭素繊維強化プラスチックを得た。
プリプレグのタック性の評価、及び炭素繊維強化プラスチックのガラス転移点、曲げ強度及び曲げ弾性、層間せん断強度の測定結果を表2に示す。
【0077】
測定条件を次に示す。
5) タック性の評価
離型処理されたPETフィルム上に樹脂組成物を載せ、1mm厚のフッ素樹脂シートをスペーサーに用い、カバーフィルムとしてポリエチレンフィルムを樹脂上に載せたのち、80℃で4分間プレスすることでPETフィルム-樹脂組成物(1mm厚)-ポリエチレンフィルムに積層されたサンプルを作成した。タック性の評価は作成したサンプルを23℃の恒温室に1時間静置後、ポリエチレンフィルムを剥した際にポリエチレンフィルムが容易に剥離した場合を○、ポリエチレンフィルムの剥離が困難、又は樹脂組成物がポリエチレンフィルムに残った場合を×として評価した。
【0078】
6) ガラス転移点(Tg)
セイコーインスツル製TMA7100型熱機械測定装置により、昇温速度10℃/分の条件で、Tgを求めた。
【0079】
7)曲げ強度及び曲げ弾性
JISK 6911に従い、3点曲げ試験法で常温にて測定した。
【0080】
8)層間せん断強度
JISK7078に従い、炭素繊維強化プラスチックの層間せん断試験法で常温にて測定した。せん断せずの場合を、〇とした。
【0081】
【表2】