芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む原料モノマーをアシル化反応させる工程、及び、該アシル化反応させる工程で得られた反応生成物及び原料モノマーを、ナノダイヤモンド粒子の存在下で重縮合させる工程を有する、液晶性樹脂の製造方法とする。アシル化反応させる工程が、ナノダイヤモンド粒子の存在下で行われることが好ましい。
芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む原料モノマーをアシル化反応させる工程、及び、該アシル化反応させる工程で得られた反応生成物及び原料モノマーを、ナノダイヤモンド粒子の存在下で重縮合させる工程を有する、液晶性樹脂の製造方法。
アシル化反応させる工程及び重縮合させる工程が、金属塩系触媒及び有機化合物系触媒から選ばれる少なくとも1種の触媒の存在下で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0009】
本発明者は、液晶性樹脂の製造方法について研究を重ねる過程で、ナノダイヤモンド粒子が、原料モノマーをアシル化反応させる際の反応速度、及び重縮合させる際の重合速度をいずれも上昇させる、触媒のような作用を有することを発見した。本実施形態に係る液晶性樹脂の製造方法は、この知見に基づくものであり、原料モノマーをアシル化反応させる工程(以下、「アシル化工程」ともいう。)、及び、該アシル化反応させる工程で得られた反応生成物及び原料モノマーをナノダイヤモンド粒子の存在下で重縮合させる工程(以下、「重縮合工程」ともいう。)を有する。少なくとも重縮合工程がナノダイヤモンド粒子の存在下で行われるので、重合速度を上昇させることができ、短時間で液晶性樹脂を製造することができる。従来よりも短時間で製造できるので、コストダウンが可能になるとともに、重縮合反応に伴う副反応を抑制することが可能となる。さらに、アシル化反応させる工程がナノダイヤモンド粒子の存在下で行われることが好ましい。アシル化工程及び重縮合工程のいずれもがナノダイヤモンド粒子の存在下で行われることにより、より短時間で液晶性樹脂を製造することができる。
【0010】
「液晶性」とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有することをいう。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性を有する樹脂は、直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0011】
[原料モノマー]
原料モノマーは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体としては、特に限定されず、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、m−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジクロロ−p−ヒドロキシ安息香酸、2−クロロ−p−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジメチル−p−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジフルオロ−p−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸、バニリン酸等を挙げることができる。これらから選択される少なくとも1種の化合物を用いることができる。中でも、入手の容易さの点で、p−ヒドロキシ安息香酸及び6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0012】
原料モノマーは、さらに、以下の(1)又は(2)を満たすことが好ましい。
(1)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、又は、
(2)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、
芳香族若しくは脂環族ジオール、芳香族若しくは脂環族ヒドロキシアミン、芳香族若しくは脂環族ジアミン、及びこれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む。
【0013】
芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(I)で表される化合物等を挙げることができる。
【化1】
(Y:−(CH
2)
n−(n=1〜4)及び−O(CH
2)
nO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
脂環族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、例えば、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1〜4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0014】
芳香族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(II)で表される化合物、及び下記一般式(III)で表される化合物等を挙げることができる。
【化2】
(X:アルキレン(C
1〜C
4)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO
2−、−S−、及び−CO−より選ばれる基である。)
【化3】
脂環族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1〜4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0015】
芳香族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、p−アミノフェノール、(m−アミノフェノール)等を挙げることができる。脂環族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、(4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、3−ヒドロキシシクロペンタンカルボン酸)等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1〜4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0016】
芳香族ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン等を挙げることができる。脂環族ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロペンタンジアミン等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1〜4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0017】
原料モノマーの具体的な組み合わせとしては、例えば、
(I)(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、又は、
(II)(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、(b)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、(c)芳香族若しくは脂環族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む組み合わせとすることができる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0018】
(ナノダイヤモンド粒子)
ナノダイヤモンド粒子は、50μm以下のメディアン径(粒径D50)を有するダイヤモンド粒子のことをいう。ナノダイヤモンド粒子は、一次粒子であってもよく、一次粒子が複数集成して形成された二次粒子であってもよい。ナノダイヤモンドの一次粒子とは、粒径が10nm以下のナノダイヤモンドのことをいう。二次粒子は、一次粒子同士が強く相互作用して集成している凝着体であり、後述する爆轟法で得られる粗生成物は、通常、二次粒子である場合が多い。
【0019】
ナノダイヤモンド粒子は、メディアン径(粒径D50)が2nm以上50μm以下である二次粒子を好ましく用いることができる。メディアン径(粒径D50)は、20nm〜30μmであることがより好ましく、200nm〜10μmであることが特に好ましい。メディアン径(粒径D50)は、動的光散乱法により測定することができる。
【0020】
ナノダイヤモンド粒子は、爆轟法により得られたものであることが好ましい。爆轟法は、空冷式爆轟法と水冷式爆轟法とが知られているが、いずれの方法で得られたものであってもよい。爆轟法により得られたナノダイヤモンド粒子は、金属酸化物やグラファイト等を含む場合が多い。ナノダイヤモンド粒子は、酸処理や酸化処理により、金属酸化物やグラファイトが除去されたものを用いることもできる。酸処理は、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸及び王水等の強酸を用いて水溶媒中で処理する方法等により行うことができる。酸化処理は、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸等の酸化剤を用いる方法により行うことができる。
【0021】
ナノダイヤモンド粒子は、液晶性樹脂を固相重縮合する際の触媒的な作用をより発現しやすい点で、酸処理及び/又は酸化処理の他に、水素化処理をされていることが好ましい。水素化処理は、水素を含む不活性ガス中で500〜1000℃で加熱することにより行うことができる。
【0022】
ナノダイヤモンド粒子は、さらに化学的処理や金属ビーズミル等による水分散処理により、二次粒子から一次粒子を分離させたものを用いることもできる。化学的処理は、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリ化合物を用いて行うことができる。水分散処理は、例えば、水中でZrビーズ等とナノダイヤモンド粒子とを攪拌することにより行うことができる。
【0023】
ナノダイヤモンド粒子の使用量は、反応に用いる物質の総量中、0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましく、0.1〜0.5質量%であることが特に好ましい。ナノダイヤモンド粒子は、後述する固相重合反応後に得られた生成物中にも含まれていてもよく、その含有量は、反応生成物全量に対して、0.001〜5質量%であることが好ましい。
【0024】
(アシル化反応させる工程)
アシル化反応させる工程では、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む原料モノマーを、アシル化剤を用いてアシル化反応させる。アシル化剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸等が挙げられるが、特に限定されるものでない。これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸等の無水カルボン酸等を挙げることができる。これらから選択される少なくとも1種を用いることができる。中でも、入手の容易さの点で、無水酢酸が好ましい。アシル化剤の使用量は、反応制御の容易さの点で、反応に用いる物質の水酸基総量中、1.0〜1.1当量であることが好ましく、1.01〜1.05当量であることがより好ましい。
【0025】
アシル化反応は、公知の方法により行うことができる。例えば、原料モノマーを、アシル化剤と混合し、120〜160℃の温度範囲で、0.5〜5時間程度加熱してアシル化反応させ、アシル化物を含む反応生成物を得る。
【0026】
アシル化反応は、後述する重縮合させる工程で用いるナノダイヤモンド粒子の存在下で行われることが好ましい。さらに、重縮合させる工程で用いる触媒の存在下で行われることがより好ましい。アシル化反応が、ナノダイヤモンド粒子及び触媒から選択される少なくとも一つの存在下で行われることにより、反応速度をより高めることができ、より短時間で製造することができるとともに、アシル化工程と重縮合工程との間に触媒の混合工程を挟む必要がなく効率的に液晶性樹脂を製造することができる。この場合のナノダイヤモンド粒子の種類及び使用量は上述のとおりであり、触媒の種類及び使用量については後述する。ナノダイヤモンド粒子及び/又は触媒を用いる場合、原料モノマーとアシル化剤とを混合する際に併せて混合して用いればよい。
【0027】
(重縮合させる工程)
重縮合させる工程では、上記アシル化工程で得られた反応生成物をナノダイヤモンド粒子の存在下で重縮合させる。ナノダイヤモンド粒子の存在下で重縮合させることにより、重合速度を上昇させることができ短時間で液晶性樹脂を製造することが可能となる。従来よりも短時間で製造できるので、コストダウンが可能になるとともに、重合反応に伴う副反応を抑制することが可能となる。ナノダイヤモンド粒子の種類及び使用量については上述のとおりである。
【0028】
重縮合反応は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、上記アシル化工程に引き続き、さらに150〜400℃の温度範囲、常圧〜0.15MPa程度の加圧下で、1〜10時間程度反応させて行うことができる。
【0029】
重縮合工程は、ナノダイヤモンド粒子に加えて、触媒の存在下で重縮合させることが好ましい。ナノダイヤモンド粒子及び触媒の存在下で重縮合させることで、重縮合反応の反応促進効果をより高めることができるとともに、溶融加工時のガスの発生量を低減することが可能となる。
触媒としては、金属塩系触媒及び有機化合物系触媒から選ばれる少なくとも1種の触媒を挙げることができる。金属塩系触媒としては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン等を挙げることができる。有機化合物系触媒としては、N−メチルイミダゾール、4−ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。
【0030】
触媒の使用量は、一般には原料モノマーの総量に対して、0.001〜1質量%であることが好ましく、0.005〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0031】
(固相重合工程)
液晶性樹脂の製造方法は、溶融重合工程で得られた樹脂を、さらに固相重合させる工程を有していてもよい。固相重合により、原料樹脂の分子量の増加を図ることができ、強度や耐熱性に優れた液晶性樹脂(LCP)を得ることができる。固相重合工程においても、上記ナノダイヤモンド粒子の存在下で固相重合させることが好ましい。ナノダイヤモンド粒子の存在下で固相重合させることにより、固相重合の反応速度を高めることができる。
【0032】
固相重合は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、減圧又は真空下、窒素ガス等の不活性ガス気流中で、原料樹脂の液晶形成温度よりも10〜120℃低い温度で加熱することにより行うことができる。なお、液晶性樹脂は固相重合が進むにしたがってその融点も上昇するので、原料樹脂の元も融点以上で固相重合することも可能である。固相重合は、一定の温度で実施してもよいし段階的に高温にしてもよい。加熱方法は、特に限定されず、マイクロ波加熱、ヒータ加熱等を用いることができる。
【0033】
[液晶性樹脂]
上記製造方法により得られる液晶性樹脂は、液晶性ポリエステル及び液晶性ポリエステルアミドから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。液晶性ポリエステル及び液晶性ポリエステルアミドとしては、特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルとすることもできる。
【0034】
芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとしては、より具体的には、
(1)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、
(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジオール、脂環族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等、を挙げることができる。
【0035】
液晶性樹脂の分子量(数平均分子量Mn)は、特に限定されず、溶融重合工程で得られた樹脂としては、10000〜45000であることが好ましく、15000〜40000であることがより好ましい。固相重合工程で得られた樹脂としては、12000〜60000であることが好ましく、15000〜55000であることがより好ましい。なお、数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定することができる。
【0036】
液晶性樹脂の融点は、特に限定されず、250〜380℃とすることができる。液晶性樹脂の溶融粘度は、特に限定されず、溶融重合で得られた樹脂としては、液晶性樹脂の融点よりも10〜30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec
−1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上150Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上100Pa・s以下である。さらに固相重合工程を行った場合の樹脂は、液晶性樹脂の融点よりも10〜30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec
−1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上150Pa・s以下である。
【0037】
「液晶性樹脂の融点よりも10〜30℃高いシリンダー温度」とは、液晶性樹脂が溶融粘度の測定が可能な程度まで溶融することができるシリンダー温度を意味しており、融点よりも何℃高いシリンダー温度とするかは、10〜30℃の範囲で原料樹脂の種類によって異なる。液晶性樹脂は、粉粒体混合物の形態とすることができ、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)の形態とすることもできる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた(アシル化工程)。その後、更に325℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った(重縮合工程)。減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間は、21分であった。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。その後、ストランドをペレタイズして液晶性樹脂ペレットを得た。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸(HBA);1660g(73モル%)
2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA);837g(27モル%)
ナノダイヤモンド粒子;株式会社ダイセル製、爆轟法で得られたもの、メディアン径6.7μm、使用量11g
アシル化剤(無水酢酸);1714g
【0040】
[実施例2]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた(アシル化工程)。その後、更に325℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った(重縮合工程)。減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間は、16分であった。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズして液晶性樹脂ペレットを得た。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸(HBA);1660g(73モル%)
2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA);837g(27モル%)
ナノダイヤモンド粒子;株式会社ダイセル製、爆轟法で得られたもの、メディアン径6.7μm、使用量11g
金属塩系触媒(酢酸カリウム触媒);165mg
アシル化剤(無水酢酸);1714g
【0041】
[実施例3]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた(アシル化工程)。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った(重縮合工程)。減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間は、23分であった。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。その後、ストランドをペレタイズして液晶性樹脂ペレットを得た。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸(HBA);1380g(60モル%)
2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA);157g(5モル%)
テレフタル酸(TA);484g(17.5モル%)
4,4’−ジヒドロキシビフェニル(BP);388g(12.5モル%)
4−アセトキシアミノフェノール(APAP);160g(5モル%)
ナノダイヤモンド粒子;株式会社ダイセル製、爆轟法で得られたもの、メディアン径6.7μm、使用量11g
アシル化剤(無水酢酸);1659g
【0042】
[比較例1]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に325℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間は、39分であった。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズして液晶性樹脂ペレットを得た。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸;1660g(73モル%)
2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸;837g(27モル%)
アシル化剤(無水酢酸);1714g
【0043】
[比較例2]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間は、27分であった。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズして液晶性樹脂ペレットを得た。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸;1380g(60モル%)
2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸;157g(5モル%)
テレフタル酸;484g(17.5モル%)
4,4’−ジヒドロキシビフェニル;388g(12.5モル%)
4−アセトキシアミノフェノール;160g(5モル%)
アシル化剤(無水酢酸);1659g
【0044】
[反応速度の検討]
実施例及び比較例において、減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間を確認した。結果を表1に示した。なお、目標の溶融粘度となる際に示すトルク値を所定の値とする。目標の溶融粘度は、実施例1、2、比較例1のポリマーはシリンダー温度300℃、せん断速度1000sec
−1での溶融粘度が30Pa・sであり、実施例3、比較例2のポリマーは、シリンダー温度350℃、せん断速度1000sec
−1での溶融粘度が10Pa・sである。なお、溶融粘度の測定は、キャピラリー式レオメーター(株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、上記シリンダー温度及びせん断速度で、見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。
【0045】
表1に示すように、ナノダイヤモンド粒子の存在下で溶融重合した実施例1及び実施例3は、ナノダイヤモンド粒子及び触媒のいずれも用いなかった比較例1及び比較例2よりも、短時間で攪拌トルクの値が所定の値まで達しており、短時間で所定の分子量の樹脂が得られたことがわかる。金属塩系触媒を併用した場合も、実施例2と比較例1との比較から、ナノダイヤモンド粒子を用いた場合の方が短時間で攪拌トルクの値が所定の値まで達しており、短時間で所定の分子量の樹脂が得られたことがわかる。この結果から明らかなように、ナノダイヤモンド粒子の存在下で溶融重合することにより、短時間で液晶性樹脂を製造することが可能である。従来よりも短時間で製造できるので、コストダウンが可能になるとともに、重合反応に伴う副反応を抑制することが可能となる。
【0046】
[溶融加工時のCO
2発生量の測定]
実施例及び比較例において、溶融重合工程で得られたポリマーをバイアル瓶内に窒素雰囲気で封止し、ブロックヒーターにて260℃、300℃、340℃の各温度で10分間加熱し、室温まで放冷した。その後、ヘッドスペースサンプラー(株式会社パーキンエルマー製TurboMatrix40)を備えたガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製GC−2010)にてCO
2発生量(ppm)を測定した。滞留温度とCO
2発生量との関係を
図1に示した。
図1に示すように、ナノダイヤモンド粒子と触媒とを併用することで、上記の効果に加えて、溶融加工時のガス発生量を極めて低減することも可能となる。
【表1】