【解決手段】 エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)及びイミダゾール系硬化助剤(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物の硬化方法であって、イミダゾール系硬化助剤(C)としてエポキシ樹脂組成物をDSCにて昇温速度10℃/分の条件で測定したとき、発熱開始温度が135℃以上となるものを使用し、エポキシ樹脂組成物を90℃〜140℃でプレキュアさせることを特徴とするエポキシ樹脂組成物の硬化方法。
エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)及びイミダゾール系硬化助剤(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物の硬化方法であって、イミダゾール系硬化助剤(C)としてエポキシ樹脂組成物をDSCにて昇温速度10℃/分の条件で測定したとき、発熱開始温度が135℃以上となるものを使用し、エポキシ樹脂組成物を90℃〜140℃でプレキュアさせることを特徴とするエポキシ樹脂組成物の硬化方法。
エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)及びイミダゾール系硬化助剤(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物と強化繊維を含む繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化させて繊維強化複合材料を製造する方法であって、エポキシ樹脂組成物としてDSCにて昇温速度10℃/分の条件で測定したとき、発熱開始温度が135℃以上となるものを使用し、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を90℃〜140℃でプレキュアさせることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。しかし、一般にエポキシ樹脂(硬化物)は脆い、すなわち靭性や伸びが低いことが欠点であるため、これをそのまま用いた繊維強化複合材料の力学特性は低くなってしまい満足するものではなかった。
【0003】
エポキシ樹脂の靱性や伸びを向上させる方法として、靱性に優れるゴム成分や熱可塑性樹脂を配合する方法などが試されてきた。例えば、カルボキシル基を含有するアクリロニトリル−ブタジエンゴムのようなゴム成分をエポキシ樹脂に配合することにより、エポキシ樹脂の靱性が改善されることは1970年代から検討されており、一般によく知られている。しかしながら、ゴム成分は、耐熱性低下や弾性率低下を引き起こす上、ゴム成分による靱性改質効果を十分に得るためには、ゴム成分を多量に配合する必要がある。このため、エポキシ樹脂本来の耐熱性や力学特性が低下し、良好な物性を有する複合材料が得られないという欠点があった。
【0004】
エポキシ樹脂の硬化は、硬化剤や触媒(硬化助剤)を用いて、エポキシ環の開環を伴う付加重合や開環重合によって進行する。硬化剤としては、アミン、酸無水物、ジシアンジアミド、フェノール類など多種多用であり、目的や用途に応じて適宜選択され使用される。
その中で、ジシアンジアミドは、融点200℃以上の固体結晶であることから、潜在性硬化剤として知られ、貯蔵安定性が要求される用途で使用される。一方、100℃以上で溶解し硬化反応が開始することから、硬化温度が高温となり、繊維強化複合材料用途においてエポキシ樹脂を使用する場合、得られる硬化物の靭性等が要求物性を満たさない場合もある。
【0005】
また、エポキシ樹脂組成物を硬化させる際、予定の硬化温度以下の温度で予備硬化を行うプレキュアと呼ばれる操作が一般的に行われている。これは、型内での硬化時間を短くする、硬化物の発熱を制御する、または固形化することでタック性を低減し、取り扱いを容易にするために使用される技術である(特許文献1、2)。しかしながら、繊維強化複合材料に使用されるエポキシ樹脂組成物については検討されておらず、その際の硬化物の物性への影響については触れられていない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の硬化方法は、エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)及びイミダゾール系硬化助剤(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物を硬化する方法であって、エポキシ樹脂組成物をプレキュア(予備加熱)した後、プレキュアよりも高温で本硬化する二段階によって硬化を行う。
イミダゾール系硬化助剤(C)として、エポキシ樹脂組成物を示差走査熱量分析(DSC)にて昇温速度10℃/分の条件で測定したとき、発熱開始温度が135℃以上となるものを使用する。
【0014】
エポキシ樹脂組成物中にエポキシ樹脂とジシアンジアミド、イミダゾールが存在する場合、その硬化反応は主にエポキシ樹脂とイミダゾールとの反応とイミダゾールを触媒としたエポキシ樹脂とジシアンジアミドとの反応が協奏的に進行する。更にエポキシ樹脂とジシアンジアミドとの反応も進行するため、その反応機構は非常に複雑なものとなる。
詳細は明らかではないが、この硬化反応を、プレキュア及び本硬化の二段階硬化とし、特定の温度及び時間で制御することにより、高い破壊靭性と伸びを両立する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0015】
プレキュア(予備硬化)は、本硬化反応の際の発熱を抑制するとともに、本組成物の複雑な硬化反応を温度で制御することにより、伸び、破壊靱性に優位性のある硬化反応を進行させるために行う。プレキュアは、90〜140℃の任意温度、好ましくは100〜130℃、より好ましくは105〜125℃で、0.5〜3時間の範囲の任意時間、好ましくは0.5〜2時間加熱することにより行う。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良い。硬化温度が90℃未満では反応が遅滞し生産性の面から好ましくなく、同様に3時間を超える硬化時間も好ましくない。また0.5時間未満の硬化時間ではプレキュアの効果が十分に発現せず、また140℃より高い硬化温度は硬化物の伸びが低下する。
【0016】
プレキュア後に、本硬化を行い、架橋反応により所望の硬化物を得る。本硬化は、プレキュア温度以上の任意温度、好ましくは10℃以上高い温度で、0.5〜2時間の範囲の任意時間、好ましくは0.5〜1時間加熱することにより、架橋反応を進行させて硬化物を得る。本硬化温度は、140〜180℃、好ましくは140〜160℃、より好ましくは145〜155℃の温度域において適宜選択する。本硬化の加熱条件も、1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良いが、2時間を超える硬化時間は生産性の面から好ましくない。
【0017】
本発明の硬化方法に使用するエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)、イミダゾール系硬化助剤(C)を必須成分とする。また(D)成分としてゴム成分を含むことが好ましい。以下、エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)、イミダゾール系硬化助剤(C)、コアシェルゴム(D)を、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分ともいう。
【0018】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)の配合量は、(A)〜(C)成分の合計100質量部の内、40〜75質量部、好ましくは40〜70質量部、より好ましくは50〜70質量部である。(D)成分も含む場合、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して、同様な配合量である。
エポキシ樹脂としては、1分子中に2つのエポキシ基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、これらビスフェノール型エポキシ樹脂のハロゲン、アルキル置換体、水添品、単量体に限らず複数の繰り返し単位を有する高分子量体、アルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレ−ト、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂中、粘度増加率の観点から1分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましく、それよりエポキシ基が多い多官能のエポキシ樹脂は好ましくない。その中でビスフェノールF型エポキシ樹脂が最も好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)は、25℃におけるE型粘度計(コーンプレートタイプ)を使用して測定した粘度が5〜30Pa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは6〜25Pa・s、より好ましくは7〜20Pa・sである。これにより良好な強化繊維への含浸性を有し、含浸後にも繊維から樹脂の液垂れが起きにくいものとなる。また、エポキシ樹脂(A)は数種類の混合物でも良く、その混合物の粘度が上記範囲であることが好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂組成物には、硬化剤としてジシアンジアミド(B)が用いられる。ジシアンジアミドは常温で固体の硬化剤であり、室温ではエポキシ樹脂にほとんど溶解しないが、180℃以上まで加熱すると溶解し、エポキシ基と反応するという特性を有する室温での保存安定性に優れた潜在性硬化剤である。使用する量としてはエポキシ樹脂(A)のエポキシ当量に対して0.2〜0.8当量(ジシアンジアミド1モルを4当量として計算)の範囲で配合することが好ましい。より好ましくは0.2〜0.5当量である。エポキシ当量に対して0.2当量未満では硬化物の架橋密度が低くなり、破壊靱性が低くなりやすくなり、0.8当量を超えると未反応のジシアンジアミドが残りやすくなるため、機械物性が悪くなる傾向にある。
【0021】
エポキシ樹脂組成物は、様々な公知の方法で調整することができる。例えば、各成分をニーダーにて混練する方法がある。また、二軸の押出機を用いて混練してもよい。ジシアンジアミド(B)は、固形状態のまま各成分中に分散されるが、一度に全ての成分を混練した場合、ジシアンジアミドが凝集して分散不良となる場合がある。分散不良のエポキシ樹脂組成物は、硬化物中に物性ムラが生じたり、硬化不良を生じたりするため好ましくない。よって、ジシアンジアミドはエポキシ樹脂の一部を使用し、三本ロールにて予備混練を行い、マスターバッチとして使用することが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂組成物に含まれるイミダゾール系硬化助剤(C)の配合量は、ジシアンジアミド(B)の量100質量部に対し、好ましくは50〜250質量部、より好ましくは50〜100質量部とする。イミダゾール系硬化助剤が50質量部より少ない場合、速硬化性の発現が困難となり、250質量部より多くなると速硬化性に変化はないものの、硬化物が脆くなる傾向にある。
【0023】
イミダゾール系硬化助剤(C)としては、粘度増加率の抑制(保存安定性)を向上させるために、(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物としたときのDSC(示差走査熱量分析)発熱開始温度が135℃以上であるものを使用する。好ましくは137℃以上、より好ましくは140℃以上であるものがよい。発熱開始温度が135℃より低いと室温での保存安定性が低下するばかりでなく、含浸時に硬化反応が進行してしまい流動性向上効果が十分に発現されない。このDSC発熱開始温度は、硬化触媒としてのイミダゾール系硬化助剤(C)を配合した(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物を、昇温速度10℃/分の条件でDSC測定したときの時間当たりの発熱量の外挿で表される温度であり、
図1にその測定法を示す。
図1において、(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物について、時間当たりの発熱量を外挿し、その交点を発熱開始温度と定義し、また発熱量の最大値を示す温度を発熱ピーク温度とした。
【0024】
更にイミダゾール系硬化助剤(C)としては、硬化時の発熱を抑制させるために、エポキシ樹脂組成物としたときのDSC発熱ピーク温度が、好ましくは145℃〜160℃、より好ましくは148℃〜155℃であるものがよい。発熱ピーク温度が145℃より低いと室温での保存安定性が低下するばかりでなく、含浸時に硬化反応が進行してしまい流動性向上効果が十分に発現されない。また、160℃を超えると硬化時の硬化発熱により樹脂自体の異常発熱、分解が起こるため好ましくない。このDSC発熱ピーク温度は、硬化触媒としてのイミダゾール系硬化助剤(C)を配合したエポキシ樹脂組成物を、昇温速度10℃/分の条件でDSC測定したときの、発熱ピーク温度である。
【0025】
イミダゾール系硬化助剤(C)として、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性に加え、硬化時における耐熱性をより満足させるためには、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。また、発熱ピーク温度が145℃以上を示す組成となるものであれば、その他のイミダゾール系化合物を、硬化助剤成分の一部として1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えばこれら他のイミダゾール系硬化助剤(C1)としては、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル6−4′,5′−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物を用いることが良い。更に、トリアジン環を含有するイミダゾール化合物としては、例えば、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン等が挙げられる。
【0026】
イミダゾール系硬化助剤(C)も固形であるため、分散不良を起こしやすいためジシアンジアミド(B)と同様にエポキシ樹脂の一部を使用し、三本ロールにて予備混練を行い、マスターバッチとして使用することが好ましい。
【0027】
必須成分である(A)〜(C)成分に、コアシェルゴム(D)を配合する場合、コアシェルゴム(D)としては、架橋されたゴム状ポリマーまたはエラストマーを主成分とする粒子状コア成分の表面に、コア成分とは異種のシェル成分ポリマーをグラフト重合することで粒子状コア成分の表面の一部あるいは全体をシェル成分で被覆したものである。
【0028】
コアシェルゴム(D)の配合量は、エポキシ樹脂組成物100質量部中に、0.5〜15質量部配合されることが好ましく、1〜10質量部であればさらに好ましい。配合量が0.5質量部以上であれば、成形後の繊維強化複合材料に必要とされる破壊靭性が得られやすく、さらに、配合量が15質量部以下であれば、得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなることを抑え、強化繊維に無理なく含浸できるため、繊維強化複合材料用により適したものとなる。
【0029】
エポキシ樹脂組成物は、さらに他の安定剤、改質剤等を含んでいても良い。好ましい安定剤としては、B(OR)
3(但し、Rは水素原子、アルキル基あるいはアリール基を表す。)で表されるホウ酸化合物が好ましい。ホウ酸化合物の配合量は、樹脂組成物全体を100質量部に対して0.01〜10質量部であり、好ましくは0.1〜3質量部である。0.01質量部未満の添加量では貯蔵時の安定性を確保することができず、また10質量部を越えると硬化反応を阻害する効果のほうが大きくなってしまい、硬化不良を誘発するので好ましくない。
【0030】
エポキシ樹脂組成物には、添加剤として表面平滑性を向上させる目的で消泡剤、レベリング剤を添加することが可能である。これら添加剤は樹脂組成物全体を100質量部に対して0.01〜3質量部、好ましくは0.01〜1質量部を配合することができる。配合量が0.01質量部未満では表面を平滑にする効果が表れず、3質量部をこえると添加剤が表面にブリードアウトを起こしてしまい、逆に平滑性を損なう要因となるため好ましくない。
【0031】
エポキシ樹脂組成物は、上記の(A)〜(C)成分等を均一に混合することにより調整される。このエポキシ樹脂組成物は、良好な強化繊維への含浸性を有し、含浸後にも繊維から樹脂の液垂れが起きにくい。さらに、室温23℃では安定で粘度変化がほとんどなく、温度40℃、大気雰囲気または不活性ガス雰囲気の条件下において、72時間経過後の粘度増加率が20%以下であり、長時間の含浸工程を有するプリプレグの製造時に安定した強化繊維への含浸性を担保できるだけでなく、保管時に増粘することがないことから、樹脂流れ性が悪くなることに起因する硬化時に空隙が少なく、表面平滑性に優れた繊維強化複合材料が得られる。
【0032】
エポキシ樹脂組成物には、他の硬化性樹脂を配合することもできる。このような硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性シアネートエステル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0033】
本発明の硬化方法に使用する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、E型粘度計を使用して測定した粘度が好ましくは5〜30Pa・s/25℃、より好ましくは6〜25Pa・s/25℃、特に好ましくは7〜20Pa・s/25℃である。粘度が高すぎると炭素繊維への含浸性が悪化し、粘度が低すぎる場合、ジシアンジアミドやイミダゾール系硬化助剤の沈降を招く。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化方法は、トウプリプレグ繊維強化複合材料に好適に用いられる。ここで用いられるトウプリプレグの製造方法は特に限定されないが、該エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンやメタノールなどの有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させた後、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させてトウプリプレグとするウェット法、あるいは、有機溶媒を用いずに加熱して低粘度化した該エポキシ樹脂組成物をロールや離型紙上にフィルム化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させるホットメルト法、該エポキシ樹脂組成物を、加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させるフィラメントワインディング法などで製造でき、トウプリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無であり、生産性が高く高品位なトウプリプレグが製造できることから、フィラメントワインディング法を好ましく用いることができる。このような製造法を用いることで樹脂含浸されたトウプリプレグを得ることができる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化方法において、エポキシ樹脂組成物とともに用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等から選ばれるが、強度に優れた繊維強化複合材料を得るためには炭素繊維を使用するのが好ましい。
【0036】
本発明の硬化方法によって得られるエポキシ樹脂組成物と強化繊維より構成された成形体(繊維強化複合材料)において、強化繊維の体積含有率は、好ましくは30〜75%、より好ましくは45〜75%であり、この範囲であると空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。各実施例の樹脂組成物を得るために、下記の樹脂原料を用いた。
【0038】
(A)エポキシ樹脂
・液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF−170(新日鉄住金化学株式会社製)
(エポキシ当量160〜180g/eq,粘度2〜5Pa・s)
・液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂:YD−128(新日鉄住金化学株式会社製)
(エポキシ当量184〜194g/eq,粘度11〜15Pa・s)
(B)ジシアンジアミド
・ジシアンジアミド:DICYANEX1400F(AIRPRODUCT社製)
(C)イミダゾール系硬化助剤
・2MAOK−PW(四国化成工業製)
(D)コアシェルゴム
・MX−154(株式会社カネカ製):エポキシマスターバッチ
(コアシェルゴム配合量40wt%、BPA型エポキシ樹脂配合量60wt%、平均粒径100nm、株式会社カネカ製)
【0039】
測定方法を以下に示す。
エポキシ当量:JIS K 7236規格に準拠して測定した。具体的には、電位差滴定装置を用い、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸−酢酸溶液を用いた。
粘度:JIS K7117−1に準じた。具体的には硬化前樹脂組成物の25℃における粘度をE型粘度計で測定した。
増粘率:40℃の熱風循環式オーブンに3日間静置した後、JIS K7177−1に準じて測定した。
反応ピーク温度:示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時の時間辺りの発熱量が最大になったときの温度で表した。
反応開始温度:示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時の時間当たりの発熱量の外挿で表した。
Tg:示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時のDSC外挿値の温度で表した。
破壊靭性(K1c):ASTM E399に準じた。具体的には、幅10mm、厚み4mm、長さ50mmの試験片を作成し、室温23℃下、クロスヘッドスピード0.5 mm/分で測定した。
引張り弾性率、引張り強度、引張り伸び:JIS K7161に準じた。具体的には、万能材料試験機(島津サイエンス株式会社製 オートグラフAGS−H)を使用した。室温にて、掴み部を含めた全長215mm、幅10mm、厚み4mmの寸法のダンベル試験片を、チャック間114mm、速度50mm/min.で引張試験し、得られた応力−歪線図から引っ張り強度、引っ張り弾性率、引っ張り伸びを求めた。
【0040】
参考例
発熱開始温度及び反応ピーク温度の測定に使用するエポキシ樹脂組成物は、以下に従い調製した。
YD−128(A)/ジシアンジアミド(B)/イミダゾール系硬化助剤−2MAOK−PW(C)を、それぞれ、93.7/5.3/1の配合(wt%)で加え混練して、エポキシ樹脂組成物とした。示差走査熱量測定装置にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時の時間辺りの発熱量から外挿した、イミダゾール系硬化助剤の発熱開始温度及び発熱ピーク温度はそれぞれ143℃と154℃であった。
【0041】
実施例1〜7、比較例1,2
(1)エポキシ樹脂組成物の調製
YDF−170(A)/DICYANEX1400F(B)/2MAOK−PW(C)/MX−154(D)を、それぞれ、69.7/5.3/3/25の配合(重量部)で加え、THINKY PLANETARY VACUUM MIXER(株式会社シンキー社製)を用いて2000rpm、4.0mmhgの条件下で6分混練して、エポキシ樹脂組成物を調製した。(B)ジシアンジアミドは、エポキシ樹脂(A)の一部と予備混練したものを使用し、(D)コアシェルゴムもコアシェルポリマーの製造過程でエポキシ樹脂(A)中に分散したマスターバッチを使用した。調整されたエポキシ樹脂組成物のゴム含率は、10重量%であった。また、初期粘度は6.8mPa・s/25℃、40℃3日後の粘度は7.2 mPa・s/25℃であり増粘率は5.9%であった。
調整されたエポキシ樹脂組成物は、粘度、増粘率が低く、プリプレグ製造時の含浸性、貯蔵安定性も優れていた。
【0042】
(2)試験片の作製
上記(1)で調整したエポキシ樹脂組成物を、80℃の温度に加熱して、モールドに注入し、50℃の温度のオーブンで3/分で所定の温度まで昇温後、表1に示す種々のプレュア温度・時間およびポストキュア(本硬化)温度・時間の条件で硬化して、厚さ4mmのエポキシ樹脂硬化物の板を作製した。次に、得られたエポキシ樹脂硬化物の板を切り出して試験分析に使用した。結果を合わせて表1に示す。
【0043】
【表1】