特開2019-119731(P2019-119731A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2019-119731ダイマージアミン組成物、その製造方法及び樹脂フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-119731(P2019-119731A)
(43)【公開日】2019年7月22日
(54)【発明の名称】ダイマージアミン組成物、その製造方法及び樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/09 20060101AFI20190701BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20190701BHJP
   C07C 209/84 20060101ALI20190701BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190701BHJP
【FI】
   C07C211/09
   C08G73/10
   C07C209/84
   C08J5/18CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-224368(P2018-224368)
(22)【出願日】2018年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-254776(P2017-254776)
(32)【優先日】2017年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】柿坂 康太
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲平
【テーマコード(参考)】
4F071
4H006
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AF30
4F071AF34
4F071AH12
4F071AH13
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC02
4F071BC12
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB46
4H006AD11
4J043PA02
4J043PA19
4J043PB23
4J043QB26
4J043RA05
4J043RA34
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA42
4J043SA49
4J043SB01
4J043TA22
4J043TA44
4J043TA47
4J043TA61
4J043TA71
4J043TA74
4J043TA75
4J043TB01
4J043UA122
4J043UA132
4J043UA262
4J043UB122
4J043UB152
4J043XA14
4J043XA19
4J043ZA52
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】ダイマージアミンを使用しながら、透明性が高く、着色の程度が低い樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】ダイマージアミン組成物は、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とし、H−NMRにより定量される脂肪族二重結合が、1級アミノメチル基(NHCH−)におけるCH基(−CH−)1モルに対して1.0モル%以下である。このダイマージアミン組成物を、全ジアミン成分に対し40モル%以上使用して得られる樹脂フィルムは、厚みが30μmであるとき、i)波長400nmの光の透過率が70%以上、ii)YI値が5以下、iii)全光線透過率(T.T.)が90%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物であって、
H−NMRにより定量される脂肪族二重結合が、1級アミノメチル基(NHCH−)におけるCH基(−CH−)1モルに対して1.0モル%以下であることを特徴とするダイマージアミン組成物。
【請求項2】
前記ダイマージアミン組成物に対するゲル浸透クロマトグラフィーを用いた測定によるクロマトグラムの面積パーセントで、下記成分(a)〜(c);
(a)ダイマージアミン;
(b)炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
(c)炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
における前記成分(c)が2%以下である請求項1に記載のダイマージアミン組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイマージアミン組成物の製造方法であって、
ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを含有する原料ダイマージアミン組成物に対して、脂肪族二重結合の含有量を低減する処理を行うことにより、前記ダイマージアミン組成物を得ることを特徴とする、ダイマージアミン組成物の製造方法。
【請求項4】
ポリイミドをフィルム化してなる樹脂フィルムであって、
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、請求項1又は2に記載のダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分と、を反応させてなるものであり、かつ、
厚みが30μmであるとき、以下のi)〜iii)の条件;
i)波長400nmの光の透過率が70%以上であること、
ii)YI値が5以下であること、
iii)全光線透過率(T.T.)が90%以上であること
を満たすことを特徴とする樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物、その製造方法及び樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、スマートフォン等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
また、電子機器の高機能化の更なる進展により、伝送信号の高周波化への対応も必要とされている。高周波信号を伝送する際に、伝送経路における伝送損失が大きい場合、電気信号のロスや信号の遅延時間が長くなるなどの不都合が生じる。そのため、今後はFPCにおいても、伝送損失の低減が重要となる。高周波化に対応するFPCや接着剤が求められる。
【0004】
ところで、ポリイミドを主成分とする接着層に関する技術として、ダイマージアミンを含むジアミン成分を原料とするポリイミドと、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物と、を反応させて得られる架橋ポリイミド樹脂を、カバーレイフィルム等の接着剤層に適用することが提案されている(例えば、特許文献1)。
また、ジアミン成分としてダイマージアミンを用いるポリイミドと、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と、架橋剤とを併用した樹脂組成物を、銅張積層板に適用することが提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
ダイマー酸は、例えば大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸及びこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス−アルダー反応させて得られる二量体化脂肪酸である(例えば、特許文献3)。ダイマー酸を含む多塩基酸化合物は、原料の脂肪酸や三量体以上の脂肪酸の混合物として得られることが知られている。そのため、市販されているダイマージアミンは、実際には、ジアミン成分以外に、その原料である脂肪酸に由来するモノアミン、トリアミンなどを含有する混合物である。なお、このような混合物の状態のものを、本発明では「ダイマージアミン組成物」と表現することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−1730号公報
【特許文献2】特開2017−119361号公報
【特許文献3】特開2017−137375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ジアミン成分として市販のダイマージアミンを使用してポリイミドの樹脂フィルムを製造する場合、フィルムの透明性が低下したり、着色が生じたりする、という問題があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、ダイマージアミンを使用しながら、透明性が高く、着色の程度が低い樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ダイマージアミン組成物をジアミン成分として使用するポリイミドによる樹脂フィルムの製造において、ダイマージアミン組成物の原料である脂肪酸に由来する二重結合の量が、樹脂フィルムの着色、さらに、保存安定性や回路配線間への充填性に影響を及ぼしているとの知見を得た。そして、ダイマージアミン組成物に含まれる二重結合の量を制御することによって、透明性が高く、着色の程度が低い樹脂フィルムを安定的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のダイマージアミン組成物は、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物であって、H−NMRにより定量される脂肪族二重結合が、1級アミノメチル基(NHCH−)におけるCH基(−CH−)1モルに対して1.0モル%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明のダイマージアミン組成物は、該ダイマージアミン組成物に対するゲル浸透クロマトグラフィーを用いた測定によるクロマトグラムの面積パーセントで、下記成分(a)〜(c);
(a)ダイマージアミン;
(b)炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
(c)炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
における前記成分(c)が2%以下であってもよい。
【0012】
本発明のダイマージアミン組成物の製造方法は、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを含有する原料ダイマージアミン組成物に対して、脂肪族二重結合の含有量を低減する処理を行うことにより、上記ダイマージアミン組成物を得ることを特徴とする。
【0013】
本発明の樹脂フィルムは、ポリイミドをフィルム化してなる樹脂フィルムであって、
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、請求項1又は2に記載のダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分と、を反応させてなるものであり、かつ、厚みが30μmであるとき、以下のi)〜iii)の条件;
i)波長400nmの光の透過率が70%以上であること、
ii)YI値が5以下であること、
iii)全光線透過率(T.T.)が90%以上であること
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のダイマージアミン組成物によれば、二重結合の量が制御されているので、これを用いることによって、透明性が高く、着色の程度が低いポリイミド製の樹脂フィルムを安定的に製造することが可能である。そのため、樹脂フィルムの製造における品質の安定化と歩留まりの向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態のダイマージアミン組成物は、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とする。このダイマージアミン組成物は、H−NMRにより定量される脂肪族二重結合の割合が、1級アミノメチル基(NHCH−)におけるCH基(−CH−)1モルに対して1.0モル%以下であり、好ましくは0.8モル%以下である。ダイマージアミン組成物は、脂肪族二重結合の割合が1.0モル%以下に抑制されていることによって、透明性が高く、着色の程度が低く、視認性が改善された、ポリイミドによる樹脂フィルムを安定的に製造できる。さらに、脂肪族二重結合の割合が1.0モル%以下に抑制されていることによって、樹脂フィルムの保存安定性や回路配線間への充填性も改善することができる。脂肪族二重結合の割合が1.0モル%を超えると、ダイマージアミンを原料として製造する樹脂フィルムが黄色〜黄褐色に着色し、透明性が低下する。また、樹脂フィルムの保存安定性や回路配線間への充填性も低下する。
【0016】
ダイマージアミンは、常温で液状の脂肪族ジアミンであり、これをジアミン成分として得られるポリイミドは、脂肪族鎖(又は脂環)構造を有するものとなる。この脂肪族鎖(又は脂環)構造が、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、溶剤に対する可溶性を向上させるとともに、化学構造上、電荷移動を生じさせにくくすることから、本来ならばポリイミドを無色透明に近づけるはずである。しかし、市販のダイマージアミン組成物から得られるポリイミドは透明性が低く着色している。また、市販のダイマージアミン組成物として、YI値が低いものを選択しても、得られるポリイミドのYI値を低減できるとは限らない。
上記のとおり、市販のダイマージアミン組成物は、ジアミン成分以外に、原料である脂肪酸に由来するモノアミン、トリアミンなどを含有する混合物であり、二重結合を豊富に含んでいる。本実施の形態では、ダイマージアミン組成物中に含まれる二重結合、特に脂肪族二重結合の量が、樹脂フィルムの透明性の低下と着色、さらに、保存安定性や回路配線間への充填性の低下に関与しているとの知見に基づき、脂肪族二重結合の量を制御している。脂肪族二重結合の量は、H−NMRにより、2.6〜2.9ppmに見られるアミノ基が結合するCH基(NHCHにおけるCH)のHピークの積分値に対する、4.6〜5.7ppmに見られる脂肪族二重結合由来のHピークの積分値の比から、下式に基づいて算出される値である。
脂肪族二重結合割合[mol%]=(X/Y)×100
[ここで、Xは、4.6〜5.7ppmのHピークの積分値を意味し、Yは2.6〜2.9ppmのHピークの積分値を意味する。]
【0017】
市販のダイマージアミン組成物は、脂肪族二重結合以外に、芳香族環に由来する二重結合も含有しているが、本実施の形態では、脂肪族二重結合の割合に着目し、制御の対象としている。なお、H−NMRにより定量される芳香環の割合は、アミノ基1モルに対して20モル%以下であることが好ましい。
【0018】
本実施の形態のダイマージアミン組成物は、下記の成分(a)を含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されていることが好ましい。
成分(a)は、ダイマージアミンである。成分(a)のダイマージアミンは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(−COOH)が、1級のアミノメチル基(−CH−NH)又はアミノ基(−NH)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11〜22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20〜54の他の重合脂肪酸を含有する。
【0019】
本実施の形態のダイマージアミン組成物は、原料ダイマージアミン組成物に対する分子蒸留等の精製方法によって、(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものであることがよい。成分(a)のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、成分(a)のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0020】
成分(b)は、炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物である。炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物は、ダイマー酸の原料に由来する炭素数10〜20の範囲内にある一塩基性不飽和脂肪酸、及びダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数21〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の混合物である。モノアミン化合物は、これらの一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0021】
成分(b)のモノアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を抑制する成分である。ポリアミド酸又はポリイミドの重合時に、該モノアミン化合物の単官能のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応することで末端酸無水物基が封止され、ポリアミド酸又はポリイミドの分子量増加を抑制する。
【0022】
成分(c)は、炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物である(但し、前記ダイマージアミンを除く)。炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物は、ダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数41〜80の範囲内にある三塩基酸化合物を主成分とする多塩基酸化合物である。また、炭素数41〜80のダイマー酸以外の重合脂肪酸を含んでもよい。アミン化合物は、これらの多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0023】
成分(c)のアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を助長する成分である。トリマー酸を由来とするトリアミン体を主成分とする三官能以上のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応し、ポリイミドの分子量を急激に増加させる。また、炭素数41〜80のダイマー酸以外の重合脂肪酸から誘導されるアミン化合物も、ポリイミドの分子量を増加させ、ポリアミド酸又はポリイミドのゲル化の原因となる。
【0024】
なお、本実施の形態では、後述する二重結合低減処理によって不飽和度を低下させたものも、成分(a)〜(c)に含めるものとする。
【0025】
ダイマージアミン組成物に対し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた測定によって成分(a)〜(c)の定量を行うことができる。ダイマージアミン組成物の各成分のピークスタート、ピークトップ及びピークエンドの確認を容易にするために、ダイマージアミン組成物を無水酢酸及びピリジンで処理したサンプルを使用し、また内部標準物質としてシクロヘキサノンを使用することが好ましい。このように調製したサンプルを用いて、GPCのクロマトグラムの面積パーセントで各成分を定量することができる。各成分のピークスタート及びピークエンドは、各ピーク曲線の極小値とし、これを基準にクロマトグラムの面積パーセントの算出を行うことができる。
【0026】
ダイマージアミン組成物は、GPC測定によって得られるクロマトグラムの面積パーセントで、成分(c)が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、ダイマージアミン組成物中の脂肪族二重結合を効果的に低減できる。なお、成分(c)は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0027】
また、成分(b)のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の低下を抑制することができ、更にテトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の仕込みのモル比の範囲を広げることができる。なお、成分(b)は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0028】
また、成分(b)及び(c)の合計が4%以下、好ましくは4%未満がよい。成分(b)及び(c)の合計を4%以下とすることで、ダイマージアミン組成物中の脂肪族二重結合を効果的に低減できるとともに、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。
【0029】
[ダイマージアミン組成物の製造方法]
本実施の形態のダイマージアミン組成物は、成分(a)のダイマージアミンを含有する原料ダイマージアミン組成物(例えば、市販のダイマージアミン組成物)に対し、例えば、水素添加、蒸留などの処理(「二重結合低減処理」と記すことがある)を行い、脂肪族二重結合の含有量を低減することによって製造できる。二重結合低減処理として蒸留を行う場合、同時に上記成分(b)、成分(c)等を低減することも可能である。
ここで、脂肪族二重結合の含有量を低減するための蒸留は、減圧蒸留、真空蒸留、水蒸気蒸留等によることが好ましい。
また、脂肪族二重結合の含有量を低減するための水素添加は、ニッケル、白金、パラジウム、銅、クロム等の触媒やギ酸ナトリウム等を使用して行うことが好ましい。
【0030】
二重結合低減処理前の原料ダイマージアミン組成物は、市販品での入手が可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0031】
[ポリイミドの製造]
次に、本実施の形態のダイマージアミン組成物を用いるポリイミドの製造方法について説明する。ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させて得られる前駆体のポリアミド酸をイミド化することによって得られる。
【0032】
ポリイミドの製造に使用可能なテトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、2,2‐ビス〔4-(3,4‐ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、4,4’- (ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート、2,2‘−ビス(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物等の酸二無水物が挙げられる。これらの中でも、透明性が高く、着色の程度が低いポリイミドを製造する観点から、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート、2,2‘−ビス(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物などの酸二無水物が好ましい。また、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を使用する場合は、分子骨格に存在するケトン基と、上記の成分(b)又は(c)のアミノ基が反応してC=N結合を形成する場合があり、高分子量体のポリイミドが容易に得られるので好ましい。
【0033】
ジアミン成分としては、その一部分又は全部として本実施の形態のダイマージアミン組成物を使用できる。本実施の形態のダイマージアミン組成物を、全ジアミン成分に対し、40モル%以上、好ましくは60〜100モル%使用することによって、ポリイミドから得られる樹脂フィルムの透明性を高め、着色の程度を低下させ、視認性を改善することができる。さらに、保存安定性や回路配線間への充填性も改善することができる。全ジアミン成分に対するダイマージアミン組成物の量が40モル%未満では、樹脂フィルムの透明性を高める効果が十分に得られず、さらに、保存安定性や回路配線間への充填性を改善する効果も十分に得られない。
【0034】
ポリイミドの製造に使用可能なダイマージアミン組成物以外のジアミン成分としては、芳香族ジアミン化合物、脂肪族ジアミン化合物を挙げることができる。それらの具体例としては、1,4−ジアミノベンゼン(p−PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(APAB)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2'―ビス(トリフルオロメチル)―4,4'―ジアミノビフェニル、4,4'-bビス(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(3−(トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−(トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−ビス(2−トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ]ベンゼン等のジアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、透明性が高く、着色の程度が低いポリイミドを製造する観点から、2,2−ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−bビス(2−(トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−(2−(トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4‘−ビス(3−(トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−(トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−ビス(2−トリフルオロメチル)−4−アミノフェノキシ]ベンゼンなどのジアミン化合物が好ましい。
【0035】
ポリイミドは、上記のテトラカルボン酸無水物とジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜50重量%の範囲内、好ましくは10〜40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5〜50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0036】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps〜100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0037】
ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。また、温度は一定の温度条件で加熱しても良いし、工程の途中で温度を変えることもできる。
【0038】
ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000〜200,000の範囲内が好ましく、この範囲内であれば、ポリイミドの重量平均分子量の制御が容易となる。また、例えばFPC用の接着剤として適用する場合、ポリイミドの重量平均分子量は、40,000〜150,000の範囲内がより好ましい。ポリイミドの重量平均分子量が40,000未満である場合、フロー耐性が悪化する傾向となる。一方、ポリイミドの重量平均分子量が150,000を超えると、過度に粘度が増加して溶剤に不溶になり、塗工作業の際に接着層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0039】
[樹脂フィルム]
樹脂フィルムは、テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、本実施の形態のダイマージアミン組成物を40モル%以上、好ましくは60〜100モル%含有するジアミン成分と、を反応させてなるポリイミドから形成された樹脂フィルムである。本実施の形態の樹脂フィルムは、厚みが30μmであるとき、以下のi)〜iii)の条件を満たす。
【0040】
i)波長400nmの光の透過率が70%以上であること。
波長400nmの光の透過率が70%以上であることによって、樹脂フィルムの透明性が確保できる。波長400nmの光の透過率が70%未満では、透明性が低く、樹脂フィルムの視認性が低下する。
【0041】
ii)YI値が5以下であること。
YI値が5以下、好ましくは4以下であることによって、樹脂フィルムをほぼ無色に近づけることができる。YI値が5を超えると、黄色〜黄褐色の着色が強くなって、樹脂フィルムの視認性が低下する。
【0042】
iii)全光線透過率(T.T.)が90%以上であること。
全光線透過率(T.T.)が90%以上であることによって、樹脂フィルムにおける光の反射、散乱による白濁が抑制され、優れた透明性を有するものとなる。全光線透過率(T.T.)が90%未満では、濁度が高くなって、樹脂フィルムの透明性が低下する。
【0043】
本実施の形態の樹脂フィルムの形態は、特に限定されるものではなく、フィルム(シート)であってもよく、例えば、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの基材に積層された状態であってもよい。
【0044】
また、樹脂フィルムの厚みは、使用目的に応じて適宜設定できるが、例えばFPCの接着剤層に適用する場合は、接着性を確保するため、好ましくは1〜100μmの範囲内、より好ましくは5〜50μmの範囲とすることができる。
【0045】
本実施の形態の樹脂フィルムの形成方法については特に限定されないが、例えば、[1]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化して樹脂フィルムを製造する方法(以下、キャスト法)、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化して樹脂フィルムを製造する方法などが挙げられる。また、本実施の形態で製造される樹脂フィルムが、複数層のポリイミド樹脂層からなる場合、その製造方法の態様としては、例えば、[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(以下、逐次塗工法)、[4]支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(以下、多層押出法)などが挙げられる。ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。
【0046】
本実施の形態の樹脂フィルムは、保存安定性や回路配線間への充填性が改善されているため、例えば電子機器などにおける絶縁樹脂層、接着層、保護層など各種の用途に利用可能である。ダイマージアミンの重要な特性として、ポリイミドに低弾性率、柔軟性、接着性を付与できることや、ポリイミドの誘電特性の改善(低誘電率化、低誘電正接化)が挙げられるが、ダイマージアミン組成物として、脂肪族二重結合の量が低減されたものを使用しても、これらの特性はほとんど影響を受けないことが確認されている。従って、本実施の形態の樹脂フィルムは、例えばFPC等の回路基板、カバーレイフィルム等における接着剤層や、多層回路基板におけるボンディングシートなどの用途に好ましく使用できる。
また、本実施の形態の樹脂シートは、透明性に優れており、かつ、低弾性率であり残留応力を抑制できるため、例えば、有機EL、液晶等の画像表示装置におけるタッチパネル材料、TFT基板材料、透明電極基板材料、薄膜太陽電池等の受光デバイスなどとしての利用も可能である。
【0047】
[金属張積層板]
金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された金属層と、を有する。このような金属張積層板において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有する。そして、ポリイミド層の少なくとも1層(好ましくは接着層)が、本実施の形態の樹脂フィルムと同様の構成を有していればよく、好ましくは、絶縁樹脂層と金属層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における金属層に接する接着層が、本実施の形態の樹脂フィルムと同様の構成を有することがよい。金属張積層板における金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。金属張積層板の好ましい具体例としては、例えば銅張積層板(CCL)などを挙げることができる。
【0048】
金属張積層板は、例えば本実施の形態の樹脂フィルムを含む絶縁樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成することによって調製してもよい。
【0049】
また、金属張積層板は、本実施の形態の樹脂フィルムを含む絶縁樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0050】
さらに、金属張積層板は、金属箔の上に、本実施の形態のダイマージアミン組成物を所定量含有するジアミン成分を使用したポリアミド酸の塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成することによって調製してもよい。
【0051】
[回路基板]
回路基板は、絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層上に形成された配線層と、を有する。本実施の形態の回路基板において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有することができる。この場合、ポリイミド層の少なくとも1層(好ましくは接着層)が、本実施の形態の樹脂フィルムと同様の構成を有していればよい。また、絶縁樹脂層と配線層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における配線層に接する接着層が、本実施の形態の樹脂フィルムと同様の構成を有することが好ましい。
【0052】
回路基板を作製する方法は問われない。例えば、本実施の形態の樹脂フィルムと同様の構成を有するポリイミド層を含む絶縁樹脂層と金属層で構成される金属張積層板を用意し、金属層をエッチングして配線を形成するサブトラクティブ法でもよい。また、本実施の形態の樹脂フィルムと同様の構成を有するポリイミド層を含む絶縁樹脂層の上にシード層を形成した後、レジストをパターン形成し、さらに金属をパターンメッキすることにより配線形成を行うセミアディティブ法でもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0054】
[脂肪族二重結合割合及び芳香環割合の算出]
ダイマージアミン組成物の脂肪族二重結合割合及び芳香環割合は、以下の手順で算出した。まず、ダイマージアミン組成物約50μlをTHF−d8 550μlに溶解させ、サンプルを調製した。調製したサンプルに対し、FT−NMR装置(JEOL製JNM−ECA400)を使い、室温にて液体H−NMR測定を実施した。2.6〜2.9ppmに見られるNH基に直結するCH基由来のHピークの積分値に対して、4.6〜5.7ppmに見られる脂肪族二重結合由来のHピークの積分値と6.6〜7.2ppmに見られる芳香環由来のHピークの積分値の比から、下式のとおり、脂肪族二重結合割合及び芳香環割合を算出した。
脂肪族二重結合割合[mol%]=(X/Y)×100
芳香環割合[mol%] =(Z/Y)×100
[ここで、Xは4.6〜5.7ppmにおけるHピークの積分値を意味し、Yは2.6〜2.9ppmにおけるHピークの積分値を意味し、Zは6.6〜7.2ppmにおける(芳香環由来の)Hピークの積分値を意味する。]
【0055】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
(a)ダイマージアミン;
(b)炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
(c)炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
【0056】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
GPCは、20mgのダイマージアミン組成物を200μLの無水酢酸、200μLのピリジン及び2mLのTHFで前処理した100mgの溶液を、10mLのTHF(1000ppmのシクロヘキサノンを含有)で希釈し、サンプルを調製した。調製したサンプルを東ソー株式会社製、商品名;HLC−8220GPCを用いて、カラム:TSK−gel G2000HXL,G1000HXL,G1000HXL、 フロー量:1mL/min、カラム(オーブン)温度:40℃、注入量:50μLの条件で測定した。なお、シクロヘキサノンは流出時間の補正のために標準物質として扱った。
【0057】
このとき、シクロヘキサノンのメインピークのピークトップがリテンションタイム27分から31分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのメインピークのピークスタートからピークエンドが2分になるように調整し、シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークトップが18分から19分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークスタートからピークエンドまでが2分から4分30秒となる条件で、各成分(a)〜(c);
(a)メインピークで表される成分;
(b)メインピークにおけるリテンションタイムが遅い時間側の極小値を基準にし、それよりも遅い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
(c)メインピークにおけるリテンションタイムが早い時間側の極小値を基準にし、それよりも早い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
を検出した。
【0058】
[光透過率(400nm透過率)、b、YIの算出]
ダイマージアミン組成物の光透過率(400nm透過率)、b、YIは、島津製作所製UV-3600 Plus UV-VIS-NIR SPECTROPHOTOMETER及び光路長1cmの石英標準セルを用い、キシレンをブランクとしてJIS Z 8722に準拠して測定した。
フィルムの光透過率(400nm透過率)、b、YIは、島津製作所製UV-3600 Plus UV-VIS-NIR SPECTROPHOTOMETERを用いてJIS Z 8722に準拠して測定した。
【0059】
[全光線透過率(T.T.)、HAZE(濁度)の算出]
フィルムの全光線透過率(T.T.)、HAZE(濁度)は日本電飾製HAZE METER NDH5000でJIS K 7136に準拠して測定した。
【0060】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC−8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いた。
【0061】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。なお、成分(b)、成分(c)の「%」は、GPC測定におけるクロマトグラムの面積パーセントを意味する。
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
【0062】
[DDA1〜5]
DDA1:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(成分(a);96.1重量%、成分(b):2.4%、成分(c);1.5%)
DDA2:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(成分(a);97.8重量%、成分(b):0.3%、成分(c);1.9%)
DDA3:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(成分(a);98.5重量%、成分(b):0.2%、成分(c);1.3%)
DDA4:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(成分(a);98.8重量%、成分(b):0.2%、成分(c);1.0%)
DDA5:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(成分(a);98.9重量%、成分(b):0.2%、成分(c);0.9%)
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
なお、蒸留精製は、減圧蒸留で行った。
【0063】
DDA1〜5の脂肪族二重結合割合及び芳香環割合と、光透過率(400nm透過率)及びb及びYIを算出すると以下の表1に示す通りとなる。
【0064】
【表1】
【0065】
[実施例1]
1000mlのセパラブルフラスコに、56.22gのBTDA(0.174モル)、93.78gのDDA1(0.176モル)、210gのNMP及び140gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、4時間加熱、攪拌し、140gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;30重量%、重量平均分子量;63,300)を調製した。得られたポリイミド溶液1を離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、80℃で15分間乾燥を行い、樹脂フィルム1(厚さ;22μm)を調製した。樹脂フィルム1の厚み、光透過率(400nm透過率)、b、YI、全光線透過率(T.T.)、HAZE(濁度)を表2に示す。
【0066】
[実施例2〜5]
表1に示すDDAを使用した以外は、実施例1と同様にしてポリイミド溶液2〜5を調製した。ポリイミド溶液2〜5を用いて得られた樹脂フィルム2〜5の厚み、光透過率(400nm透過率)、b、YI、全光線透過率(T.T.)、HAZE(濁度)を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
[DDA6〜8]
DDA6:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075(成分(a);97.0重量%、成分(b):0.7%、成分(c);2.3%)
DDA7:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075(成分(a);95.8重量%、成分(b):0.2%、成分(c);4.0%)
DDA8:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075(成分(a);97.3重量%、成分(b):0.2%、成分(c);2.5%)
【0069】
DDA6〜8の脂肪族二重結合割合及び芳香環割合と、光透過率(400nm透過率)及びb及びYIを算出すると、表3に示す通りとなる。
【0070】
【表3】
【0071】
[比較例1〜3]
表3に示すDDA6〜8を使用した以外は、実施例1と同様にしてポリイミド溶液6〜8を調製した。ポリイミド溶液6〜8を用いて得られた樹脂フィルム6〜8の厚み、光透過率(400nm透過率)、b、YI、全光線透過率(T.T.)、HAZE(濁度)を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
表1及び表2と、表3及び表4との比較から、実施例1〜5では、脂肪族二重結合の割合が低減されたダイマージアミン組成物を使用することによって、透明性が高く、着色の程度が低く、視認性が良好なポリイミド製の樹脂フィルムが得られることが確認された。一方、脂肪族二重結合の割合を制御していないジアミン成分を使用した比較例1〜3では、原料自体のYI値が低いにもかかわらず、実施例1〜5に比べて、樹脂フィルムの透明性が低く、着色が濃くなって、視認性に劣る結果となった。
【0074】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。