【解決手段】下記一般式(1)で表されるmの平均値が0〜1であるエポキシ化合物(A)、常温で液状のエポキシ化合物(B)、(A)又は(B)成分以外で特定範囲の重量平均分子量を有し、かつエポキシ当量が150〜500g/eqであるエポキシ化合物(C)、多価カルボン酸、それの無水物、及び多価カルボン酸の熱分解性エステルからなる群より選ばれる硬化剤(D)、並びに硬化促進剤(E)を含有する熱硬化性組成物(一般式(1)中、Arは、特定のC数を有するアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン基で置換されていてもよい炭素数6〜12の2価の芳香族炭化水素基を表す。)。
固形分の全質量に対して、(A)成分、(B)成分、(C)成分を含むエポキシ化合物の合計含有量が55〜85質量%であり、(D)成分の含有量が5〜40質量%であり、(E)成分の含有量が0.01〜2質量%であることを特徴とする、請求項1記載の熱硬化性組成物。
(A)成分、(B)成分、および(C)成分を含むエポキシ化合物の全質量に対して、(A)成分の含有量が5〜50質量%であり、(B)成分の含有量が10〜40質量%であり、(C)成分の含有量が10〜70質量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
(A)成分のエポキシ化合物は、一般式(1)で表される、mの平均値が0〜1のエポキシ化合物である。
【0018】
一般式(1)中、Arは炭素数6〜12の2価の芳香族炭化水素基である。また、Arで表される2価の芳香族炭化水素基の水素原子の一部は、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜5のアルコキシ基、またはハロゲン基で置換されていてもよい。
【0019】
(A)成分は、ビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物、またはビスナフトールフルオレン型エポキシ化合物とすることができる。(A)成分は、熱硬化性組成物の粘度に与える影響が比較的少なく、低発ガス性や耐熱性を付与するのに有効な成分である。特に低発ガス性を付与するためには、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂の方がより好ましいが、(B),(C)のエポキシ樹脂との組合せと配合量を最適化することで、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂を用いても、特定の膜厚の保護膜における平坦性と低発ガス性の要求特性を満たす熱硬化性組成物とすることが可能である。
【0020】
一般式(1)中のmは、平均値が0〜1であればよく、0以上であれば(A)成分の溶解性を高めることができ、1を超えると硬化膜の硬化性が不充分となる傾向がある。mの平均値は、0.01〜0.5であることが好ましく、0.02以上0.2未満であることがより好ましい。
mの平均値は、(A)成分のエポキシ当量から算出することができる。
ビスナフトールフルオレン型エポキシ化合物の場合
(エポキシ当量)×2=(mの平均値)×506.6+562.7
ビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物の場合
(エポキシ当量)×2=(mの平均値)×406.5+462.5
【0021】
(A)成分は、特開平9−328534号公報に記載の方法などの、公知の方法で合成することができるが、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンまたは9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレンとエピクロロヒドリンをアルカリ存在下縮合させて得る方法が最も一般的で好ましい。mの値は、合成時の原料化合物のモル比を調整したり、反応条件を調整したりして、所望の値とすることができる。
【0022】
(B)成分は、常温で液状のエポキシ化合物である。
【0023】
(B)成分は、常温で液状のエポキシ化合物であれば、鎖式脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物または芳香族エポキシ化合物を特に制限なく用いることができる。
【0024】
鎖式脂肪族エポキシ化合物としては、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、分岐アルキルエステルのモノまたはジグリシジルエーテル等が挙げられ、より多官能であるトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、分岐アルキルエステルのジグリシジルエーテルが好ましい。脂肪族エポキシ化合物は、硬化剤との反応で架橋密度の向上により耐熱性向上に寄与する。特に粘度が30〜500mPa・s(25℃)であるエポキシ化合物を好ましく用いることができる。
【0025】
脂環式エポキシ化合物としては、(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル)3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,1−スピロ(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−m−ジオキサンやビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノール−ビス3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等を挙げることができ、粘度が50〜3500mPa・s(25℃)であるエポキシ化合物を好ましく用いることができる。
【0026】
芳香族エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物等の低分子量化合物が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル)3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の低分子量液状化合物をより好ましく用いることができる。
【0028】
これら液状エポキシ樹脂を用いることにより、ビスフェノールフルオレン型やビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂等の(A)成分のみでは機能付与することが困難なレベルの平坦性を付与することができる。
【0029】
(C)成分は、(A)成分または(B)成分以外のエポキシ化合物であって、重量平均分子量が900〜20000かつエポキシ当量が150〜500g/eqであるエポキシ化合物である。
【0030】
(C)成分は、上記要件を満たす限りにおいて、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、多価アルコールのグリシジルエーテル、多価カルボン酸のグリシジルエステル、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(例えばダイセル社製「EHPE3150」)等の脂環式エポキシ化合物、(メタ)アクリル酸グリシジルを必須成分とする(メタ)アクリル酸エステル類の共重合体、エポキシ化ポリブタジエン(例えば日本曹達社製「NISSO−PB・JP−100」)、シリコーン骨格を有するエポキシ化合物等、公知のエポキシ化合物を特に制限なく使用できる。
【0031】
(メタ)アクリル酸グリシジルを必須成分とする2種以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体は、(メタ)アクリル酸グリシジルと(メタ)アクリルエステル類およびその他の重合性不飽和化合物を常法によりラジカル共重合して得られる化合物である。上記ラジカル共重合に際しては、アゾ化合物または過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。また、公知の連鎖移動剤または重合禁止剤等を利用して、重量平均分子量が900〜20000となるように重合度を制御してもよい。
【0032】
上記共重合体に用いる(メタ)アクリル酸グリシジル以外の(メタ)アクリルエステル類およびその他の重合性不飽和化合物を以下に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル類は、(メタ)アクリル酸((メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸をいう)とアルコール(R
1OH)成分とを縮合反応させて得ることができる。(R
1OH)成分としては、公知のものが特に制限なく利用できる。R
1の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、アダマンチル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、フェニル基、トリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ベンジル基、2−フェニルエチル基、および2−フェニルビニル基等の飽和または不飽和の一価の炭化水素基、ならびに、ピリジル基、ピペリジル基、ピペリジノ基、ピロリル基、ピロリジニル基、イミダゾリル基、イミダゾリジニル基、フリル基、テトラヒドロフリル基、チエニル基、テトラヒドロチエニル基、モルホリニル基、モルホリノ基、およびキノリル基等の飽和または不飽和の一価の複素環基等を挙げることができる。上記炭化水素基または複素環基等は、任意の位置に、ハロゲン原子、カルボニル基、チオカルボニル基、ニトロ基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、ウレタン基、チオウレタン基、ウレイド基、およびチオウレイド基等を置換基として導入した構造であってもよい。このような一価の基は、目的とする(C)成分の構造に応じて適宜選定されればよいが、性能および経済性の点から炭素原子数1〜20の飽和または不飽和の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1〜6の飽和または不飽和の一価の炭化水素基であることがより好ましい。なお、飽和または不飽和の一価の炭化水素基は、分岐構造や環構造を有している炭化水素基でもよく、更には任意の置換基で置換されていてもよい。ただし、上記置換基は、酸性基などの反応性の構造を有さないことが好ましい。
【0034】
その他の重合性不飽和化合物としては、スチレンおよびその誘導体を挙げることができ、具体的化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、又はスチレンの芳香環にアルキル基、ハロゲン原子およびヒドロキシ基等を導入した化合物が使用できる。
【0035】
(C)成分には、上記の他にも、メタクリル酸グリシジル以外のエポキシ基含有重合性不飽和化合物(例えばアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸[4−(グリシジルオキシ)ブチル]、(メタ)アクリル酸[(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル]、および4−(グリシジルオキシメチル)スチレン等)、ならびに、アルコキシシリル基含有重合性不飽和化合物(例えば(メタ)アクリル酸[3−(トリメトキシシリル)プロピル]、(メタ)アクリル酸[3−(トリエトキシシリル)プロピル]、および4−(トリメトキシシリル)スチレン等)等を共重合させてもよい。
【0036】
上記に例示した共重合体の中で、好ましい例としては、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アルキルエステル(C1〜C4のアルキル基)を共重合させたものや、更にスチレンを共重合させたもので、軟化点(Tg)が10〜90℃になるものを挙げることができる。共重合体のTgのより好ましい範囲は、40〜90℃である。
【0037】
(C)成分の重量平均分子量(Mw)は、900〜20000であり、2000〜15000であることが好ましく、3000〜13000であることがより好ましい。重量平均分子量が20000より大きい場合は、硬化膜の平坦性が低下しやすい。また、重量平均分子量が900より小さいエポキシ化合物を得るように重合反応を制御することは一般に困難であるため、重量平均分子量が900より小さいエポキシ化合物は想定しにくい。(C)成分の重量平均分子量は、GPC(SEC)測定により求めることができる。
【0038】
また、(C)成分のエポキシ当量は、150〜500g/eqであり、200〜490g/eqであることが好ましい。エポキシ当量が500g/eqより大きい場合は、エポキシ基の含有量が低下して硬化性が不足し、硬化膜の特性が悪化する。また、メタクリル酸グリシジルのみを重合させた場合のエポキシ当量は142g/eqであるため、エポキシ当量が150g/eqより小さいエポキシ化合物は、化学構造上の制約があり想定しにくい。
【0039】
上記のエポキシ当量を上記範囲とするため、(C)成分は、(C)成分を構成する重合性不飽和化合物に由来する繰返し単位の総数におけるメタクリル酸グリシジルに由来する繰返し単位の割合が、50モル%以上であることが好ましく、65モル%以上であることがより好ましい。上記メタクリル酸グリシジルに由来する繰返し単位の割合は、通常は(C)成分を合成する際に原料として用いた重合性不飽和化合物のモル比が反映される。
【0040】
本発明の熱硬化性組成物には、(A)成分〜(C)成分に該当しないエポキシ化合物を含有させることもできる。そのようなエポキシ化合物としては、例えば、トリアジン骨格を有する3官能エポキシ化合物(日産化学社製 TEPICシリーズ)の常温で固体でありエポキシ当量が(C)成分の範囲外のエポキシ化合物、常温でロウ状またはグラニュール状であり融点が低いエポキシ化合物である(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル)3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートのε−カプロラクタム変性物(テトラケム社製 TTA2081、TTA2083)等を例示することができる。なお、TEPICシリーズやTTAシリーズで、(B)成分および(C)成分に範囲内の特性を有するエポキシ化合物が開発されれば、(B)成分および(C)成分として使用することができることは勿論のことである。
【0041】
(D)成分は、多価カルボン酸、多価カルボン酸の無水物、および多価カルボン酸の熱分解性エステルからなる群より選ばれる硬化剤である。
【0042】
多価カルボン酸は1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物であり、例えばコハク酸、マレイン酸、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキセン−4,5−ジカルボン酸、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸、フタル酸、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、およびブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸等を挙げることができる。
【0043】
多価カルボン酸の無水物としては、上記例示した多価カルボン酸の酸無水物が挙げられ、これは分子間酸無水物でもよいが、一般には分子内で閉環した酸無水物が用いられる。好ましい酸無水物としては、無水トリメリット酸を例示することができる。
【0044】
多価カルボン酸の熱分解性エステルとしては、上記例示した多価カルボン酸のt−ブチルエステル、1−(アルキルオキシ)エチルエステル、1−(アルキルスルファニル)エチルエステル(ただし、ここでいうアルキルは炭素数1〜20の飽和又は不飽和の炭化水素基を表し、かかる炭化水素基は分岐構造や環構造を有していてもよく、任意の置換基で置換されていてもよい)等を挙げることができる。
【0045】
また、(D)成分としては2つ以上のカルボキシ基を有する重合体または共重合体も用いることができる。上記重合体または共重合体のカルボキシ基は、無水物または熱分解性エステルであってもよい。このような重合体または共重合体の例としては、(メタ)アクリル酸を構成成分として含む重合体または共重合体、無水マレイン酸を構成成分として含む共重合体、テトラカルボン酸二無水物をジアミンまたはジオールと反応させて酸無水物を開環させた化合物等を挙げることができる。
【0047】
(E)成分としては、エポキシ化合物の硬化促進剤、硬化触媒または潜在性硬化剤等として知られる公知の化合物を利用できる。(E)成分としては、例えば、三級アミン、四級アンモニウム塩、三級ホスフィン、四級ホスホニウム塩、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、およびイミダゾール類等を挙げることができるが、特に1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン若しくは1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンまたはそれらの塩が好ましい。
【0048】
(F)成分は、カップリング剤である。
【0049】
(F)成分としては、シランカップリング剤(3−(グリシジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、および3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等)、チタン系カップリング剤、ならびにアルミニウム系カップリング剤などを利用できる。
【0050】
本発明の熱硬化性組成物には、溶剤(G)を含有させることができる。溶剤としては公知の化合物を利用でき、例えばエステル系溶剤(ブチルアセテート、およびシクロヘキシルアセテート等)、ケトン系溶剤(メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノン等)、エーテル系溶剤(ジエチレングリコールジメチルエーテル、およびジエチレングリコールエチルメチルエーテル等)、アルコール系溶剤(3−メトキシブタノール、およびエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル等)、芳香族系溶剤(トルエン、およびキシレン等)、脂肪族系溶剤、アミン系溶剤、ならびにアミド系溶剤等を特に制限なく使用することができる。安全性の点からはプロピレングリコール骨格を有するエステル系やエーテル系の溶剤、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、およびプロピレングリコールジアセテート等が好ましい。また、これらに類似の構造を有する3−メトキシブチルアセテート、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、および1,3−ブチレングリコールジアセテート等も好ましい。
【0051】
熱硬化性組成物の固形分濃度については特に制限はないが、カラーフィルターの保護膜用途としては、溶剤以外の成分の合計量である固形分濃度が10〜30質量%の範囲に調整されることが一般的である。また、カラーフィルターの保護膜の平坦性を高めるため、常圧における沸点が150℃未満の溶剤40〜90質量%及び常圧における沸点が150℃以上の溶剤10〜60質量%を併用して、熱硬化性組成物の乾燥性を制御することが好ましい。
【0052】
本発明の熱硬化性組成物は、固形分の全質量に対して、(A)成分、(B)成分、(C)成分を含むエポキシ化合物の合計含有量(A+B+C)が55〜85質量%であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。(A+B+C)が55質量%未満であると、(A+B+C)に対する硬化剤の比率が大きくなり、エポキシ化合物の硬化物としての特性が十分に得られなかったり、硬化反応に寄与しない余剰の硬化物が発ガス性に悪影響を及ぼしたりする。また、(A+B+C)が85質量%を超えると、(A+B+C)に対する硬化剤の比率が極端に少なくなり、硬化反応が十分に進まず、硬化物の耐熱性が不足したり、特に(B)成分が余剰になった場合は発ガス性への悪影響も大きくなる。
【0053】
本発明の熱硬化性組成物は、エポキシ化合物の全質量に対して、(A)成分の含有量が5〜50質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。また、本発明の熱硬化性組成物は、エポキシ化合物の全質量に対して、(B)成分の含有量が10〜40質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。また、本発明の熱硬化性組成物は、エポキシ化合物の全質量に対して、(C)成分の含有量が10〜70質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0054】
本発明の熱硬化性組成物は、固形分の全質量に対して、(D)成分の含有量が5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。(D)成分が5質量%未満であると、硬化反応が十分に進まず、硬化物の耐熱性が不足するなど硬化物の物性が十分に得られず、また、特に(B)成分が余剰になった場合は発ガス性への悪影響も大きくなる。(D)成分が40質量%を超えると、硬化反応に寄与しない余剰の硬化物が発ガス性に悪影響を及ぼし、硬化物としての特性が十分に得られなかったりする。
【0055】
本発明の熱硬化性組成物は、硬化膜の透明性を確保しつつ、硬化を促進させる効果と保存安定性のバランスをとる観点から、固形分の全質量に対して、(E)成分の含有量が0.01〜2質量%であることが好ましく、0.05〜1.5質量%であることがより好ましい。(E)成分が0.01質量%未満では促進剤としての効力に乏しく、十分な硬化物物性の硬化物を得るのが難しい。また、(E)成分が2質量%を超えると、熱硬化性組成物溶液としたときに十分な保存安定性が得られなかったり、加熱時の着色に悪影響を及ぼしたりする。
【0056】
本発明の熱硬化性組成物は、固形分の全質量に対して、(F)成分の含有量を1〜20質量%にして用いることができる。(F)成分が1質量%未満であると塗布した下層との密着性が不足する傾向があり、20質量%を超えると密着性に寄与しない余剰の(F)成分が発ガス性を悪化させてしまう。カラーフィルターの保護膜として用いる場合、下層がRGB画素といった有機層である場合は、1〜10質量%であることが好ましく、RGBW方式のようにガラス基板と直接接触する場合のように有機層以外との密着性も問題になる場合には、5〜20質量%であることが好ましい。下層種類に依存しない場合に、より好ましい範囲は5〜15質量%である。
【0057】
本発明の熱硬化性組成物は、必要に応じてその他の任意の成分を含んだものであってもよく、例えば着色材、フィラー、樹脂、添加剤等を含有させることができる。ここで、着色材としては染料、有機顔料、無機顔料、カーボンブラック顔料等を、フィラーとしてはシリカ、タルク等を、樹脂としてはビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂等を、添加剤としては架橋剤、分散剤、界面活性剤、シランカップリング剤、粘度調整剤、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等をそれぞれ挙げることができる。これら任意の成分としては、公知の化合物を特に制限なく使用することができる。カラーフィルターの保護膜として使用する場合は、界面活性剤(フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等)等を使用してもよく、ただし、その含有量の合計は熱硬化性組成物の固形分中10質量%を上限とすることが好ましい。
【0058】
本発明の熱硬化性組成物の硬化物を作製する方法としては公知の方法が利用できる。たとえば、目的や用途に合わせた適切な基材や型へ熱硬化性組成物を塗布または注入した後、加熱により溶剤の除去及び硬化が行われればよい。溶剤の除去には減圧乾燥等も適用できる。
【0059】
本発明の熱硬化性組成物の硬化物は、膜状の硬化膜とすることができる。当該硬化膜は、カラーフィルターの基材上に塗布した画素用の着色組成物の表面に塗布して、硬化させて作製することで、カラーフィルターの保護膜とすることができる。このとき、RGBのほかに、カラーフィルターの画素用の着色組成物を塗布しないホワイト(W)の画素を有するカラーフィルターを作製する際に、本発明の熱硬化性組成物を塗布および硬化させて保護膜を作製すると、着色組成物を塗布しなかったために形成された深さ1.0〜3.0μm程度のWの空間を充填させつつ、基材に塗布されたRGBの着色組成物上に形成された保護膜の表面とWの空間上に形成された保護膜の表面との間での、平坦性を満足させることができる。
【0060】
本発明の熱硬化性組成物の硬化物は、RGBW方式を含めたLCDのカラーフィルターの保護膜として適用できることはもちろんのこと、特に平坦性、低発ガス性に優れた透明な硬化膜を必要とする表示装置に対して適用することも可能である。すなわち、LCD以外の有機EL表示装置、μLED表示装置、量子ドットを適用した表示装置の構成要素として、特に凹凸や段差を平坦化する透明膜が必要である場合には好適に適用することが可能である。更には、カラーフィルター層を装備したCMOS等のセンサーへの適用も可能である。また、本発明の熱硬化性組成物の硬化物は、上述したような段差部の穴埋めをしつつ、表面の平坦性を高くすることができるため、ソルダーレジスト層、メッキレジスト層、エッチングレジスト層などのレジスト層、多層プリント配線板などの層間絶縁層、ガスバリア用のフィルム、レンズおよび発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子用の封止材、塗料やインキのトップコート、プラスチック類のハードコート、金属類の防錆膜等にも用いることができる。また、コーティング剤としてだけではなく、熱硬化性組成物そのものを成形してフィルム、基板、プラスチック部品、光学レンズ等の作製にも応用できることから極めて有用である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
[合成例1]
攪拌装置、コンデンサー、油水分離管を備えた減圧反応ができる反応容器に9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン451質量部、エピクロルヒドリン555質量部を仕込み、完全に溶解した後、系内を減圧にして20kPa、73℃にし、その後、129.2質量部の49%NaOH水溶液を3時間かけて滴下した。反応中は、還流状態で行い還流留出した水とエピクロルヒドリンとを油水分離管で分離し、エピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応させた。反応終了後、エピクロルヒドリンを留去し、トルエン600質量部に溶解した。その後生成した塩を除去し、更に水洗した後、49%NaOH溶液36.5質量部と水14.5質量部とを投入して80℃で3時間、加熱撹拌して精製した。精製後、水洗を繰り返し、塩類などの不純物を洗浄した。洗浄したトルエン溶液からトルエンを回収してエポキシ化合物380質量部を得た(エポキシ化合物(A)−1)。得られた樹脂のエポキシ当量は296g/eqであった。
【0063】
[合成例2]
合成例1において、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン451質量部のかわりに9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン350質量部を用いた以外は、合成例1と同様に反応、精製することにより、エポキシ化合物(A)−2を得た。得られた樹脂のエポキシ当量は257g/eqであった。
【0064】
(熱硬化性組成物の作製)
表1〜表5に示す組成によって配合を行い、室温で3時間攪拌混合して固形分成分を溶剤に溶解させ、熱硬化性組成物を作製した。組成の数値は質量部であり、固形分の合計が100質量部となるように記載されている。固形分成分の中にははじめから溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)に溶解した状態で合成されたものもあるが、その場合は組成の数値には固形分としての質量部を示し、持ち込まれる溶剤分は溶剤の質量部に含めて記した。実施例の配合に使用した成分を以下に示す。
【0065】
(成分(A):一般式(1)で表されるエポキシ化合物)
(A)−1:合成例1で調製した一般式(1)において、mの平均値が0.06であるビスナフトールフルオレン型エポキシ化合物
(A)−2:合成例2で調製した一般式(1)において、mの平均値が0.12であるビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物
【0066】
(成分(B):常温で液状のエポキシ化合物)
(B)−1:(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル)3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製 セロキサイド2021P、エポキシ当量135)
(B)−2:ビスフェノールA型エポキシ化合物(三菱ケミカル製JER828、エポキシ当量190)
【0067】
(成分(C):で重量平均分子量が900〜20000かつエポキシ当量が150〜500g/eqであるエポキシ化合物)
(C)−1:2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(株式会社ダイセル製、EHPE3150、Mw:約1400、エポキシ当量:170〜190g/eq)
(C)−2:グリシジルメタクリレート:メチルメタクリレート:n−ブチルメタクリレート=5:3:2の共重合組成のグリシジルメタクリレート共重合ポリマー(Mw:約9000、エポキシ当量:295g/eq)
(C)−3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、JER1001、Mw:約900、エポキシ当量:450〜500g/eq)
【0068】
(成分(D):硬化剤)
(D):無水トリメリット酸
【0069】
(成分(E):硬化促進剤)
(E):1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンのオクチル酸塩
【0070】
(成分(F):カップリング剤)
(F):3−(グリシジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン
【0071】
(成分(G):溶剤)
(G)−1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
(G)−2:3−メトキシプロピオン酸メチル
(G)−3:ジエチレングリコールエチルメチルエーテル
【0072】
(成分(S):その他の成分)
(S):フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製、メガファックF−556)
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
(熱硬化性組成物の評価:平坦性)
カラーフィルター基板として、ブラックマトリクス及びレッド・グリーン・ブルーの画素およびモザイク状にブルーの画素が無いパターンが形成されており、画素上で高さ2.5μmの凹凸が生じているものを用意した。上記熱硬化性組成物をカラーフィルター基板にスピンコーターを用いて塗布し、90℃のホットプレートで2分間乾燥させて試験片を作製した。このとき、画素上に膜厚1.5μmの硬化膜が得られるように塗布条件(スピン回転数)を調節した。次に試験片を230℃の熱風オーブンで30分間焼成し、熱硬化性組成物の硬化膜を得た。
【0079】
画素を保護するように形成された硬化膜の表面のうち任意に選択した2点の凹凸の高さを、接触式表面粗さ計(商品名 株式会社小坂研究所社製 微細形状測定器 ET−4000A)で測定し、次の基準により3段階評価を行った。
◎(良好) :凹凸の高さの差は0.10μm以下だった
○(やや良好) :凹凸の高さの差は0.10μmを超え0.15μm以下だった
△(やや不良) :凹凸の高さの差は0.15μmを超え0.20μm以下だった
×(不良) :凹凸の高さの差は0.2μmを超えていた
【0080】
(熱硬化性組成物の評価:発ガス性)
上記熱硬化性組成物を無アルカリガラス基板にスピンコーターを用いて塗布し、90℃のホットプレートで2分間乾燥させて試験片を作製した。このとき、膜厚1.5μmの硬化膜が得られるように塗布条件(スピン回転数)を調節した。次に試験片を230℃の熱風オーブンで30分間焼成し、熱硬化性組成物の硬化膜を得た。試験片の硬化膜を10mg削り取ってサンプリングし、これを大気気流下、室温から120℃を10℃/分で昇温して120℃において30分保持後、120℃から230℃を10℃/分で230℃にて3時間保持した際の重量減少を、熱重量分析装置(商品名株式会社リガク社製 示差熱天秤 Thermo plus EVO2)で測定し、次の基準により3段階評価を行った。
◎ :重量減少は5%未満だった
○ :重量減少は5%以上7%未満だった
△ :重量減少は7%以上10%未満だった
× :重量減少は10%以上だった
【0081】
(熱硬化性組成物の評価:耐薬品性)
上記発ガス性評価と同様にして熱硬化性組成物の硬化膜が形成された試験片を作製した。試験片をN−メチルピロリドンに40℃で30分間浸漬させた後、硬化膜の状態を観察し、次の基準により3段階評価を行った。
○ :外観に変化なく膜厚変化が2%以内だった
△ :外観に変化はなかったが膜厚変化が2%を超えていた
× :外観に変化が見られた
【0082】
(熱硬化性組成物の評価:密着性)
上記発ガス性評価と同様にして熱硬化性組成物の硬化膜が形成された試験片を作製した。環境試験機を用いて試験片を121℃で湿度100%の環境下に5時間保持した後、硬化膜に対してクロスカット−テープ剥離試験を行い、ASTM D3359の基準により5Bから0Bまでの6段階にて評価を行った。
【0083】
(熱硬化性組成物の評価:電気的信頼性)
上記発ガス性評価と同様にして熱硬化性組成物の硬化膜が形成された試験片を作製した。試験片の硬化膜を40mg削り取ってサンプリングし、これを液晶(メルク社製「MLC−6608」)1gに浸漬させて100℃で72時間保持した後、液晶の電圧保持率を測定し、次の基準により3段階評価を行った。
○ :電圧保持率は95%以上だった
△ :電圧保持率は90%以上95%未満だった
× :電圧保持率は90%未満だった
【0084】
(熱硬化性組成物の評価:透明性)
上記発ガス性評価と同様にして熱硬化性組成物の硬化膜が形成された試験片を作製した。波長400nmにおける硬化膜の透過率を分光光度計で測定し、次の基準により3段階評価を行った。
○ :透過率は95%以上だった
△ :透過率は93%以上95%未満だった
× :透過率は93%未満だった
【0085】
それぞれの熱硬化性組成物の評価結果を表6〜表10に示す。
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
【表9】
【0090】
【表10】
【0091】
実施例1〜18と比較例21〜32の結果から、各実施例の熱硬化性組成物はカラーフィルターの保護膜に求められる平坦性、耐熱性、密着性及び硬度を同時に満足しており、更に耐薬品性、電気的信頼性及び透明性にも優れていることがわかる。