【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2017年電気化学秋季大会講演要旨集(発行日 平成29年8月28日) 2.2017年電気化学秋季大会(日本・長崎)(開催日 平成29年9月10日)
【解決手段】複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクを含んでなり、少なくとも1種のカチオン及び少なくとも1種のアニオンを共に電気化学的に挿入可能な、二次電池用電極材料。
複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクを含んでなり、少なくとも1種のカチオン及び少なくとも1種のアニオンを共に電気化学的に挿入可能な、二次電池用電極材料。
前記金属−有機構造体が、窒素、ホウ素、酸素、フッ素、及び硫黄より選ばれる少なくとも1の元素を含有する配位子を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される、ロッキングチェア機構を基盤とする二次電池は、高容量、高出力密度が得られ、メモリー効果が実質的に存在しないなどの、優れた特性を有するため、モバイルデバイス等の各種電気電子機器、電気自動車等の各種輸送機械などの広範な用途において使用され、又は使用が提案されている。近年、これらの用途の拡大、性能向上に伴い、更なる高容量化、高出力密度化、繰り返し使用時の高安定性が求められている。
この様なロッキングチェア機構を基盤とする二次電池は、基本的に正極として層状酸化物やポリアニオン系物質、負極には主にグラファイトが用いられる。上記要求に答えるため、近年、エネルギー密度を向上させることを目的に様々な電極材料や動作原理が提案されてきた。
従来の上記二次電池においては、Li
+等のカチオンを電荷キャリアーとし、外部回路に電子を流すものが主流であるが、一方で、F
−などアニオンを電荷キャリアーとするものも、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、アニオンとカチオンを共に電子を外部回路に流す電荷キャリアーとして用い、これによりエネルギー密度を向上させる、二次電池の新たな動作原理が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)。しかし、これまでアニオンを電荷キャリアーとする動作原理や、アニオン・カチオンを共に電荷キャリアーとする動作原理が適用できる材料系は多くなく、このためこれらカチオン以外を電子キャリアーとする二次電池として提案されたものの特性は、従来の二次電池と比較して実質的に向上したものではなかった。例えば、特許文献2で作製された二次電池の電池電圧は必ずしも十分に高いものではなかった。また特許文献3には作製された二次電池の容量など電池特性自体が記載されておらず、実用的な電極材料が得られたことは確認されていない。
一方で、近年、様々な電子伝導性の高いシート状化合物が合成されている。その中でも、高い電子伝導性を有するのみならず、水系電解液及び多くの有機電解液に安定かつ酸化還元反応に活性な構造体が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、これらの構造体の用途としては電気二重層キャパシタが提案されているものの、二次電池の電極材料としての実用的な使用可能性は明らかではなかった。特に、ロッキングチェア機構を基盤とする二次電池としての使用にあたり必要となる、カチオン及び/又はアニオンが電気化学的に挿入可能かどうかや、挿入可能なカチオン及び/又はアニオンの種類及びその程度も不明であり、またカチオン及び/又はアニオンの電気化学的挿入に好適な構造も明らかではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の背景技術に鑑み、本発明の課題は、ロッキングチェア機構を基盤とする二次電池の電極材料として好適な材料であって、アニオン及びカチオンを共に電気的に挿入可能な材料を提供することにある。
本発明の更なる課題は、上記電極材料を使用して、アニオン及びカチオンを共に電子を外部回路に流す電荷キャリアーとして用い、これによりエネルギー密度が従来技術よりも格段に向上した二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、複数層
の金属−有機構造体を有する高結晶バルクが、二次電池における電荷キャリアーとして好適なアニオン及びカチオンを共に電気的に挿入可能であり、これを利用することで上記課題が効果的に解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクを含んでなり、少なくとも1種のカチオン及び少なくとも1種のアニオンを共に電気化学的に挿入可能な、二次電池用電極材料、である。
【0007】
また、以下[2]から[16]は、いずれも本発明の好ましい一形態、又は一態様である。
[2]
正極に用いられる、[1]に記載の二次電池用電極材料。
[3]
負極に用いられる、[1]に記載の二次電池用電極材料。
[4]
電気伝導度が、10
−6Scm
−1以上である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
[5]
前記少なくとも1種のカチオンが、Li
+、Na
+、Mg
2+、Ca
2+、又はAl
3+である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
[6]
前記少なくとも1種のアニオンが、TFSI
−、PF
6−、ClO
4−、F
−、又はCl
−である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
[7]
前記金属−有機構造体が、錯体部分の金属として、少なくとも1種の3d遷移元素を有する、[1]から[6]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
[8]
前記金属−有機構造体が、窒素、ホウ素、酸素、フッ素、及び硫黄より選ばれる少なくとも1の元素を含有する配位子を有する、[1]から[7]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
[9]
有機電解液及び水系電解液に対して安定である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
[10]
更に、助電剤及び結着剤を含んでなる、[1]から[9]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料。
[11]
[1]から[10]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料を用いた正極、負極、及び電解液を有する、二次電池。
[12]
[1]から[10]のいずれか一項に記載の二次電池用電極材料を用いた負極、正極、及び電解液を有する、二次電池。
[13]
前記少なくとも1種のカチオン及び前記少なくとも1種のアニオンが、共に電荷キャリアーとして機能する、[11]又は[12]に記載の二次電池。
[14]
前記電解液が、有機電解液である、[11]から[13]のいずれか一項に記載の二次電池。
[15]
前記電解液が、水系電解液である、[11]から[13]のいずれか一項に記載の二次電池。
[16]
[10]から[15]のいずれか一項に記載の二次電池を有する、電気電子機器、又は輸送機械。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次電池における電荷キャリアーとして好適なアニオン及びカチオンを共に実用的に十分なレベルで電気的に挿入可能であり、ロッキングチェア機構を基盤とする二次電池の電極における使用に好適な電極材料が提供される。
本発明の電極材料を用いた二次電池は、エネルギー密度が従来技術よりも格段に向上したものであり、現在強く求められている、二次電池の高性能化に大きな貢献をもたらすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクを含んでなり、少なくとも1種のカチオン及び少なくとも1種のアニオンを共に電気化学的に挿入可能な、二次電池用電極材料である。
本発明の電極は、金属と有機物を組み合わせた金属−有機構造体を含んでなる電極材料なので、金属部分と有機部分、特に配位子部分との組み合わせを変えることで、電気化学特性を比較的自由に調整することができるので、目的とする二次電池の特性、性能、それを実現するための電極の機能、物性に合わせて、比較的高い自由度で所望の電極を設計、製造することができる。
また、複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクを含むことで、すなわち金属−有機構造体の複数の層が、高結晶性を示すほどに密にかつ規則的に積層されたバルク状の構造を有することで、層間に電荷キャリアーであるアニオン及びカチオンを高い密度で電気化学的に挿入可能であるので、二次電池用電極材料として使用したときに、エネルギー密度が従来技術よりも格段に向上した二次電池を実現することができる。
【0011】
(金属−有機構造体)
本発明の二次電池用電極材料を構成する金属−有機構造体(Metal Organic Frameworks)は、当該技術分野において広く知られた概念であり、本発明においては、その範疇に含まれる限りにおいて任意の金属−有機構造体を使用することができる。
本発明において好ましく使用される金属−有機構造体は、少なくとも一種の金属で構成される金属部分と、当該少なくとも一種の金属に配位した配位子を含む有機部分とを含み、当該金属部分と当該有機部分とが周期的に繰り返される周期的構造を有するものである。
【0012】
本発明において好ましく使用される上記金属−有機構造体においては、上記金属部分と有機部分との間の配位構造に起因して、二次元的な周期的構造を有していてもよく、また一次元的若しくは三次元的な周期的構造を有していてもよいが、二次元的な周期的構造を有する、いわゆる二次元金属錯体であることが特に好ましい。このとき、二次元的な周期的構造を有する金属−有機構造体は、実質的に全ての配位子と金属部分とが略同一平面状に存在するシート状の構造を形成し、当該シート状の金属−有機構造体が高結晶性を示すほどに密にかつ規則的に積層されたバルク状の構造を形成することで、層間にアニオン及びカチオンを電気化学的に挿入可能なバルク構造を形成することができる。
なお、ここで「高結晶バルク」、「高結晶性を示す」とは、当該複数層のシート状の金属−有機構造体の積層方向のX線回折強度が、シート面内方向のX線回折強度の1.5倍以上であることをいう。当該複数層のシート状の金属−有機構造体の積層方向のX線回折強度は、シート面内方向のX線回折強度の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。
【0013】
従来の金属−有機構造体の電気化学的特性を活かした応用としては、例えば非特許文献1に記載のように電気二重層キャパシタが提案されているが、二次電池用電極としての実用的な使用可能性は確認されていなかった。これは、従来技術においては、シート状の金属−有機構造体の高い比表面積に着目し、その表面反応を利用することを前提としていたためである。一方、電池の反応は、基本的に固体内部も反応に寄与するバルク反応であり、それ故に高いエネルギー密度が得られているものであるため、シート状の金属−有機構造体は、電極材料に好適とは思われていなかった。
本発明においては、複数層のシート状の金属−有機構造体が高結晶性を示すほどに密にかつ規則的に積層されたバルク構造を形成したところ、驚くべきことに層間に二次電池における電荷キャリアーとして好適なアニオン及びカチオンを高密度で電気化学的に挿入可能であり、これを電極材料として利用することで、アニオンもカチオンも共に電荷キャリアーとして使用する、高密度の二次電池を製造できることが見出された。
電極として適切な導電性を実現する観点から、本発明で使用する層状の金属−有機構造体の電気伝導度は、10
−2Scm
−1以上であることが好ましく、10
−1〜10
3Scm
−1であることがより好ましく、10
2〜10
3Scm
−1であることが特に好ましい。
【0014】
シート状の金属−有機構造体が複数積層された高結晶のバルク構造を形成する観点から、上記金属−有機構造体は、二次元的な周期的構造を有していることが好ましいが、アニオン及びカチオンを電気化学的に挿入可能である限りにおいて、三次元的な周期構造を有していても良い。
また、二次元的な周期的構造を有するシート状の金属−有機構造体が、一部に三次元的構造を有していてもよい。
【0015】
(錯体部分の金属)
本発明の電極材料を構成する金属−有機構造体は、錯体部分の金属として、少なくとも1種の3d遷移元素を有することが好ましい。3d遷移元素を錯体部分の金属として用いることで、配位構造として平面配位の構造を取り易くなり、金属部分と有機部分とが二次元的な周期的構造を有する、シート状の金属−有機構造体を形成することが容易となる。
より具体的には、錯体部分の金属として、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛より選ばれる少なくとも1種の金属を用いることが好ましい。これらの中でも、銅又はニッケルを用いることが特に好ましい。
また、錯体部分の金属の種類は、所望の電気伝導性や、電気化学的に挿入されるカチオン及び/又はアニオンの種類に応じて適宜選択してもよい。
錯体部分の金属は、金属−有機構造体を通じて1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
(配位子)
本発明の電極材料を構成する金属−有機構造体は、有機部分の配位子として、13族(ホウ素族)、14族(炭素族)、15族(窒素族)、16族(カルコゲン)、及び17族(ハロゲン)より選ばれる少なくとも1の元素を含有する配位子を有することが好ましく、窒素、ホウ素、酸素、フッ素、及び硫黄より選ばれる少なくとも1の元素を含有する配位子を有することが特に好ましい。
また、配位子として、2座で配位する箇所を3箇所以上有し、該2座のうちの少なくとも1座がNHであるものを使用することも好ましい。ここで、「2座」とは同一の配位子において、同一の金属核に配位する結合が2つあることをいう。また、「2座で配位する箇所を3箇所以上有する」とは、同一の配位子が、「2座」を1組とするものを3組以上有することをいう。
【0017】
配位子は、アリール基を有することが好ましく、特に好ましい配位子は、Ar(NH)
nX
m−nで表される化合物である。ここで、Arは、アリール基を表し、特にベンゼン環であることが好ましい。
Xは、O、S、Se及びTeからなる族から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはO又はS、特に好ましくはSである。
mはアリール基の大きさ、構造に依存する結合子の数であって6以上の整数を表す。nは、3以上m以下の整数を表す。
特に好ましくは、配位子は、Bz(NH)
nX
6一nで表される化合物であるのがよい。
ここで、Bzはベンゼン環を表し、X、nは上述のものと同じ定義を有する。なお、nは好ましくは3または6であり、より好ましくは6である。
特に好ましい配位子は、ヘキサアミノベンゼンである。
有機部分の配位子は、金属−有機構造体を通じて1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
(電極材料)
本発明の電極材料は、上記の複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクに加えて、更に助電剤及び結着剤を含んでいても良い。
助電剤を含むことで、電極材料に含まれる複数層の金属−有機構造体同士を電気的に結合し、電極材料に十分かつ均一な伝導性を付与することができる。
助電剤としては、例えば、チタン、白金、金、銀、銅、アルミ、コバルト、鉄、マグネシウム、ニッケル、亜鉛等の金属や、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化銅、酸化鉄、炭化チタン、炭化バナジウム、炭化タングステン等の金属化合物や、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、活性炭、グラファイト等の炭素材料などが挙げることができる。
これらの中でも、炭素材料を用いることが好ましく、アセチレンブラックを用いることが特に好ましい。
助電剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
結着剤を用いることで、電極の機械的強度を確保し、安定的な電極を形成することができる。
結着剤としては、各材料を結着させることが可能な樹脂であれば特に制限されない。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体(PVDF−HFP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)等が挙げられるが、これらには制限されない。
これらの中でも、ポリビニリデンフロライドを用いることが特に好ましい。
本発明の電極材料においては、1種の結着剤が単独で使用されてもよいし、2種以上の結着剤が併用されてもよい。結着剤は、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の窒素含有溶媒、γ−ブチロラクトン等のエステル類、エチレングリコール類、アルコール類、ケトン類、ニトリル類等の溶媒で希釈して使用されてもよい。
【0020】
前記複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクを必須成分として含有し、助電剤、結着剤等の任意成分を含有してもよいし含有しなくてもよい電極材料の総質量に対して、前記複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクの含有量は、例えば10〜90質量%が好ましく、15〜90質量%がより好ましく、25〜90質量%がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上にすることにより、二次電池の定格容量を高めることができる。上記範囲の上限値以下にすることに伴って、結着剤の含有量を高めることにより電極材料の機械的強度を高めることができ、また徐電剤の含有量を高めることにより、電極材料の導電性及びその均一性を高めることができる。
【0021】
本発明の二次電池用電極材料の電気伝導度には特に制限はないが、10
−6Scm
−1以上であることが好ましく、10
−3Scm
−1以上であることがより好ましく、10
−2Scm
−1以上であることが特に好ましい。
電気伝導度が10
−6Scm
−1以上であることによって、電荷を外部に効率的に輸送し、二次電池用電極材料として、特に好適に使用することができる。
【0022】
本発明の二次電池用電極材料は、カチオン及びアニオンを電気化学的に挿入することができるので、二次電池用電極材料の正極及び負極のいずれとしても、好適に使用することができる。
(正極)
本発明の二次電池用電極材料は、特に、二次電池用電極材料の正極として好適に使用することができる。このとき、本発明の二次電池用電極材料を構成する複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクは、充電時に電解質に含まれるカチオンを放出可能であり、且つ、充電時に電解質に含まれるアニオンを吸蔵可能である。
このとき、対極である負極は、同じく本発明の二次電池用電極材料で構成されていてもよく、あるいは、リチウム金属やリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)等のリチウム化合物、シリコン、スズ等の他の負極材料で構成されていてもよい。
【0023】
(負極)
本発明の二次電池用電極材料は、二次電池用電極材料の負極としても好適に使用することができる。このとき、本発明の二次電池用電極材料を構成する複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクは、充電時に電解質に含まれるカチオンを吸蔵可能であり、且つ、充電時に電解質に含まれるアニオンを放出可能である。
【0024】
(電解液)
本発明の電極材料で構成される正極及び/又は負極と組み合わせて使用される電解液は、本発明の電極材料を構成する複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクに電気化学的に挿入可能な少なくとも1種のカチオン及び少なくとも1種のアニオンを含むものであればよく、それ以外の制限は特に存在しない。
高いエネルギー密度及び高い動作電圧を実現する観点から、前記少なくとも一種のカチオンは、Li
+、Na
+、Mg
2+、Ca
2+、又はAl
3+であることが好ましく、Li
+であることが特に好ましい。
高いエネルギー密度及び高い動作電圧を実現する観点から、前記少なくとも一種のアニオンは、TFSI
−、PF
6−、ClO
4−、F
−、又はCl
−であることが好ましく、ClO
4−、PF
6−であることが特に好ましい。また、水系電解液の場合には、アニオンとしてTFSI
−を用いることが特に好ましい。
【0025】
本発明の電極材料で構成される正極及び/又は負極と組み合わせて使用される電解液は、水系電解液であってもよく、また有機電解液であってもよい。
水系電解液を用いることで、高いエネルギー密度を実現することが可能となり、高出力密度の二次電池を実現することができる。
有機系電解液を用いることで、安定性を向上することができる。
本発明の電極材料を構成する複数層の金属−有機構造体を有する高結晶バルクは、有機電解液及び水系電解液のいずれに対しても安定となる様に設計できるので、各種の構成の二次電池において、高い自由度で使用することができる。
【0026】
有機系電解液を構成する溶媒としては、前記カチオン及びアニオンが溶解し、二次電池が機能し得る溶媒であれば特に制限されず、例えば、公知のリチウムイオン二次電池に使用される有機溶媒を適宜調整のうえ使用することができる。
上記有機溶媒としては、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート挙げることができる。また、有機溶媒として、イオン液体を用いても良い。
助電剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
(二次電池)
上記正極、負極及び電解液を組み合わせることで、本発明の好ましい実施形態である二次電池を構成することができる。
本発明の好ましい実施形態である二次電池においては、アニオン及びカチオンの双方を電子を外部回路に流す電荷キャリアーとして用いることができるので、エネルギー密度を従来技術よりも格段に向上することができる。
この様にエネルギー密度が従来技術よりも格段に向上することで高性能化した上記二次電池は、モバイルデバイスをはじめとする各種電気電子機器、電気自動車等をはじめとする各種輸送機械などにおいて、特に好適に用いられる。
【0028】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
(金属−有機構造体の合成)
3mLの脱気したジメチルスルホキシドに32mgのNi(NO
3)
2・6H
2O(0.11mmol)と、0.7mLの14M NH
4OHを加えた。これを溶液1とした。
3mLの脱気したジメチルスルホキシドにヘキサアミノベンゼン・3HCl(0.072mmol)を20mg加える。これを溶液2とする。
溶液1及び溶液2を容器に入れて混ぜ、蓋をして65℃の環境に2時間静置して、黒い沈殿物を得た。得られた沈殿物を純水とアセトンで洗浄し、真空乾燥して、金属−有機構造体を得た。
上記で得られた金属−有機構造体について、粉末X線回折(PXRD)、X線光電子分光(XPS)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)など、種々の観測を行った結果、Niを金属核としてヘキサアミノベンゼンを配位子とする層状金属錯体であることを確認した。より具体的には、放射光源X線回折実験による詳細な結晶構造解析により、積層状物質であることを確認した。また、当該層状金属錯体の積層方向のX線回折強度は、面内方向のX線回折強度の2倍以上であり、当該層状金属錯体が高結晶バルクであることが確認された。
【0030】
(二次電池用電極の作製)
上記で作製した、層状の金属−有機構造体を活物質とし、助電剤としてのアセチレンブラック、及び結着剤としてのポリビニリデンフロライドと、7:2:1の比で混ぜ、それをアルミ箔の上に塗布して二次電池用電極を作製した。
【0031】
(水系電解液を用いた二次電池の作製と評価)
水系電解液として、水に、電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(LiTFSI)を21mol/L溶解したものを使用し、正極として上記で作製した二次電池用電極を、負極としてLiFePO
4を使用して、二次電池を作製した。
二次電池の充放電特性を評価した結果を、
図1に実線で示す。容量は130mAh/gに達し、従来技術を大きく上回る高容量が実現された。また、電流密度500mA/gでも駆動可能であり、従来技術を大きく上回る高出力が得られた。
この様な大幅な容量及び出力の向上は、カチオン及びアニオンの双方が電荷キャリアーとして機能していることに起因するものと考えられる。
【0032】
(有機電解液を用いた二次電池の作製と評価)
有機電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート7:3の混合溶媒に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/L溶解したものを使用し、正極として上記で作製した二次電池用電極を使用し、負極としてリチウム金属を用い、二次電池を作製した。
二次電池の充放電特性を評価した結果を、
図1に破線で示す。
300サイクルを繰り返しても、充放電特性は安定しており、従来技術(50サイクル程度)と比較して、大幅に安定性が向上した。
【0033】
[実施例2]
(カチオンの寄与度が容量に与える効果)
二次電池の構成として、正極に本発明の二次電池用電極材料(実施例1の電極と同様にして作製したもの)を、負極にリチウム金属を使用し、電解液として1 mol/LのLiPF
6がエチレンカーボネートとジエチルカーボネート7:3の混合溶媒に溶解している有機電解液を用いた。
充放電試験における印加電圧を制御し、カチオン挿入の寄与度を変化させて、電池容量に与える影響を評価した結果を
図2に示す。具体的には、下限電位をカチオンの挿入が起こらない3Vまでとした場合(
図2(c))、カチオンの挿入が大幅に起こる2Vまでとした場合(
図2(a))、及びその中間である2.5Vまでとした場合(
図2(b))について、容量を測定し比較した。
カチオン挿入が大幅に起こり、カチオン及びアニオンの双方が電荷キャリアーとして十分に機能している
図2(a)の場合、カチオン挿入が起きず、アニオンのみが電荷キャリアーとして機能している
図2(b)の場合と比較して、容量が充電時及び放電時のいずれにおいても2倍以上に増加しており、本発明においてカチオン及びアニオンの双方が電荷キャリアーとして機能することによる顕著な容量向上の効果が確認できた。