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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-130876(P2019-130876A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】金属張積層板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/088 20060101AFI20190712BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20190712BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20190712BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   B32B15/088
   B32B15/08 J
   H05K1/03 670A
   H05K1/03 630H
   H05K1/03 610N
   H05K1/09 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-17736(P2018-17736)
(22)【出願日】2018年2月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智典
(72)【発明者】
【氏名】平石 克文
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】橘高 直樹
【テーマコード(参考)】
4E351
4F100
【Fターム(参考)】
4E351AA04
4E351BB01
4E351BB30
4E351CC14
4E351DD04
4E351DD19
4E351DD21
4E351DD54
4E351GG02
4F100AA24A
4F100AB01A
4F100AB16A
4F100AK49B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH46B
4F100EJ12
4F100EJ41
4F100GB43
4F100JA02B
4F100JK07B
(57)【要約】
【課題】ニッケル元素を含有する金属層とポリイミド層とのピール強度を向上させた金属張積層板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル元素を含有する金属層と、該金属層に積層された単層又は複数層のポリイミド層からなる絶縁樹脂層とを有する金属張積層体であって、前記金属層が、前記絶縁樹脂層に接する表面のX線光電子分光による測定により、酸化ニッケルのピークが観測され、ニッケルのピークが観測されないものである。この金属張積層板の製造方法は、(a)ニッケル元素を含有する金属部材に、ポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布し熱処理することによって、単層又は複数層のポリイミド層を有する絶縁樹脂層を形成する工程、(b)酸化剤を含む雰囲気中で前記金属部材を酸化処理することによって、前記絶縁樹脂層を形成する側の表面に、酸化ニッケルの被膜を形成する工程、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル元素を含有する金属層と、該金属層に積層された単層又は複数層のポリイミド層からなる絶縁樹脂層とを有する金属張積層体であって、
前記金属層が、前記絶縁樹脂層に接する表面のX線光電子分光による測定により、酸化ニッケルのピークが観測され、ニッケルのピークが観測されないものであることを特徴とする金属張積層板。
【請求項2】
前記金属層に接する前記ポリイミド層は、350℃での貯蔵弾性率が1×10Pa以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項3】
前記絶縁樹脂層の熱膨張係数が−5〜30ppm/Kの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属張積層板。
【請求項4】
下記の工程(a)及び(b);
(a)ニッケル元素を含有する金属部材に、ポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布し熱処理することによって、単層又は複数層のポリイミド層を有する絶縁樹脂層を形成する工程;
(b)酸化剤を含む雰囲気中で前記金属部材を酸化処理することによって、前記絶縁樹脂層を形成する側の表面に、酸化ニッケルの被膜を形成する工程;
を備えたことを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)における酸化処理が、前記工程(a)における熱処理の過程で行われることを特徴とする請求項4に記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項6】
前記酸化剤が酸素ガスであり、該酸素ガスの濃度が1〜25体積%の範囲内であることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル元素を含有する金属層にポリイミド層が積層する金属張積層板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリイミドおよびその組成物と金属箔から構成される金属張積層体は、各種電子機器に使用されるフレキシブルプリント配線板(FPC)、フレキシブル太陽電池、リチウムイオン電池の負極材、ハードディスクドライブのサスペンション、LCDの材料、有機ELディスプレイの部材、補助材料等、広く検討され、各種用途での採用が拡大している。
【0003】
例えば、有機EL表示装置は、テレビのような大型ディスプレイをはじめ、携帯電話、パソコン、スマートフォンなどの小型ディスプレイや、照明等に使用されている。この有機EL表示装置は、支持基材であるガラスや樹脂からなる被蒸着体(被蒸着基板)上に薄膜トランジスタ(以下、TFT)を形成し、更に電極、発光層、電極を順次形成して、最後に別途ガラス基板や多層薄膜等で気密封止して作られる。
【0004】
従来、有機EL表示装置の発光層、カソード電極の形成には、被蒸着体に対して蒸着すべき領域に、例えば、多数の微細な開口部を配列してなる金属層のみからなる蒸着マスクが使用されていた。また、近年の生産性の向上のために、被蒸着体の大型化による生産性の向上や、有機EL表示装置の大型化に対応する必要があるため、蒸着マスクにも大型化の要請が高まってきている。
【0005】
例えば、特許文献1には、金属マスクと樹脂マスクを接着剤で張り合わせた蒸着マスクが開示されている。また、特許文献2には可視光を透過する樹脂製のフィルムと金属製板体とを面接合した蒸着マスクが開示されている。このうち、特許文献1には、樹脂マスクの材料として、レーザー加工等によって高精細な開口部を形成可能であり、熱や経時変化が小さく、軽量な材料が好ましいことが記載されており、このような材料として、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン等が例示されている。また、特許文献2には、ポリイミドは耐熱性が高く、かつ開口部を精度良く形成できる点で好ましいことが開示されている。
【0006】
しかしながら、粗度が高い金属製板体を使用すると、金属製板体に開口パターンを形成した際に、樹脂層の底部に金属製板体の表面プロファイルが転写された状態になる。このため、表面粗度の低い金属製板体を使用することが望まれるが、表面粗度の低い金属製板体は、アンカー効果、すなわち絶縁樹脂層の金属製板体の表面の凸凹への食い込みが小さいため、表面粗度の低い金属製板体と樹脂層との接着力を高めることが課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−163864号公報
【特許文献2】特開2013−83704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ニッケル元素を含有する金属層とポリイミド層とのピール強度を向上させた金属張積層板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属張積層板は、ニッケル元素を含有する金属層と、該金属層に積層された単層又は複数層のポリイミド層からなる絶縁樹脂層とを有し、前記金属層が、前記絶縁樹脂層に接する表面のX線光電子分光法による測定により、酸化ニッケルのピークが観測され、ニッケルのピークが観測されないものであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の金属張積層板は、前記金属層に接する前記ポリイミド層は、350℃での貯蔵弾性率が1×10Pa以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の金属張積層板は、前記絶縁樹脂層の熱膨張係数が−5〜30ppm/Kの範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明に金属張積層板の製造方法は、下記の工程(a)及び(b);
(a)ニッケル元素を含有する金属部材に、ポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布し熱処理することによって、単層又は複数層のポリイミド層を有する絶縁樹脂層を形成する工程;
(b)酸化剤を含む雰囲気中で前記金属部材を酸化処理することによって、前記絶縁樹脂層を形成する側の表面に、酸化ニッケルの被膜を形成する工程;
を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の金属張積層板の製造方法は、前記工程(b)における酸化処理が、前記工程(a)における熱処理の過程で行われることが好ましい。
【0014】
また、本発明の金属張積層板の製造方法は、前記酸化剤が酸素ガスであり、該酸素ガスの濃度が1〜25体積%の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属張積層板は、金属層と絶縁樹脂層との密着性に優れ、熱安定性及び寸法安定性に優れる。また、本発明の金属張積層板の製造方法によれば、簡便な方法で密着性に優れる金属張積層板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<金属層>
金属層は、ニッケル元素を含有するものであれば特に制限はないが、ニッケル合金として用いられるものが好適に使用することができる。具体的には、ステンレス、鉄ニッケル合金、ニッケル銅合金等が例示される。これらの中でも、鉄ニッケル合金であるインバーは、熱による変形が少ないため好適に使用される。また、被蒸着体に蒸着を行うにあたり、被蒸着体の後方に磁石等を設置し、蒸着マスクを磁力によって引き付ける場合には、金属層が磁性体で形成されることが好ましい。
【0017】
金属層は、金属箔を用いてもよいし、例えばスパッタリング等の方法により金属層を形成してもよい。また、必要に応じ、電解めっき等により金属層の厚みを調整してもよい。金属層の厚みは、特に制限はないが、破断や変形を抑制できるとともに、蒸着シャドウの発生を考慮した厚みにするのがよく、好ましくは2〜100μmである。
【0018】
金属層は、絶縁樹脂層に接する表面のX線光電子分光法(XPS)による測定により、酸化ニッケルのピークが観測され、ニッケルのピークが観測されないという特徴を有している。なお、本明細書では「酸化ニッケル」と「ニッケル」の用語をそれぞれ区別して使用し、単に「ニッケル」という場合は、「酸化ニッケル」を含まないことを意味する。
【0019】
酸化ニッケルは、NiO及びNi以外にNi(OH)として存在してもよく、金属層の表面に存在する酸化ニッケルの被膜として形成されている。このような酸化ニッケルの被膜は、金属層の表面に部分的に存在する被膜でもよいが、該金属層の表面全体に亘る被膜であることが好ましい。また、酸化ニッケルの被膜は、結晶性が高い酸化ニッケルで構成されていてもよいし、結晶性が低いアモルファス状の酸化ニッケルで構成されていてもよい。
【0020】
金属層と絶縁樹脂層のピール強度を低下させる要因は、現時点では完全に解明されていないが、以下のi)又はii)の現象が推定される。
i)金属層に含まれるニッケルの存在によって、絶縁樹脂層の内部に脆弱なスキン層が形成される結果、このスキン層で絶縁樹脂層の局所的な破壊が生じやすくなって十分なピール強度が得られなくなる。
ii)金属層に含まれるニッケルの存在によって、金属層と絶縁樹脂層との界面の接着力が強固になり過ぎる結果、絶縁樹脂層の内部で局所的な破壊が生じやすくなって十分なピール強度が得られなくなる。
ここで、上記i)の場合に、ニッケルの存在によるスキン層の形成の理由としては、以下のいずれかが考えられる。
(1)ニッケルの作用により、金属層に接するポリイミド前駆体の表層部での局所的な低分子量化が生じ、金属層に接するポリイミド層の表層部でスキン層が形成される。
(2)ニッケルの作用によって、金属層に接するポリイミド層の表層部での局所的な配向差が生じ、金属層に接するポリイミド層の表層部でスキン層が形成される。
【0021】
本実施の形態の金属張積層板では、金属層の表面に酸化ニッケルの被膜が存在することにより、上記i)の場合には、ポリイミド層内でのスキン層の形成が抑制され、また、上記ii)の場合には、金属層と絶縁樹脂層との界面の接着力が適度に調節されるものと推測される。その結果として、ポリイミド層の局所的な引き裂き応力の集中を抑制でき、金属層と絶縁樹脂層のピール強度を向上させることができると考えられる。
【0022】
<絶縁樹脂層>
絶縁樹脂層を構成するポリイミド層は、単層でも複数層でもよいが、非熱可塑性ポリイミド層を含むことが好ましい。ここで、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であるポリイミドをいう。
【0023】
本実施の形態の絶縁樹脂層は、ポリイミドからなるポリイミド層を有し、ポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンと、を反応させて得られるポリアミド酸をイミド化して得られるものである。従って、本実施の形態のポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基及びジアミンから誘導されるジアミン残基を含むものである。なお、本発明において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。なお、本発明におけるポリイミドとしては、いわゆるポリイミドの他、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するものが含まれる。
【0024】
以下、酸無水物とジアミンを説明することにより、本実施の形態で用いるポリイミドの具体例が理解される。
【0025】
金属層に接するポリイミド層は、熱安定性及び寸法安定の観点から、350℃での貯蔵弾性率が1×10Pa以上であることが好ましい。また、このような貯蔵弾性率のポリイミド層とすることで、金属層から絶縁樹脂層への金属拡散を抑えることができる。
【0026】
また、絶縁樹脂層の熱膨張係数(CTE)は、寸法変化を低減するため、−5ppm/K〜30ppm/Kの範囲内が好ましい。また、金属層と絶縁樹脂層のCTE差による内部応力の緩和の観点から、金属層と絶縁樹脂層のCTE差を±5ppm/K以下とすることが好ましい。例えばインバー(Fe−Ni合金)を金属層に適用する場合、絶縁樹脂層のCTEは、好ましくは−5ppm/K〜10ppm/Kの範囲内、より好ましくは−3ppm/K〜5ppm/Kの範囲内がよい。このような範囲内にすることで、金属層のエッチング後に露出したポリイミド層の寸法のずれを小さくすることができる。従って、金属層とのポリイミド層における開口部の位置精度が保たれるほか、反りも抑制できるので有利である。
【0027】
このようなCTEの絶縁樹脂層とするには、好ましくは、絶縁樹脂層を形成する主たるポリイミドが下記式(1)で表わされる構造単位を有するポリイミド前駆体をイミド化したものであるのがよく、より好ましくは、式(1)で表される構造単位を60モル%以上、更に好ましくは80モル%以上含んだポリイミド前駆体をイミド化したものとするのがよい。ここで、「主たるポリイミド」とは、絶縁樹脂層が単層である場合は、そのポリイミド層自体を指し、絶縁樹脂層が複数層である場合は、最も体積分率の大きい層のポリイミド層を指す。この主たるポリイミドが式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(ポリアミド酸)をイミド化したものとすることで、低熱膨張性のポリイミドが得られて、ポリイミド層のCTEを10ppm/K以下にする点で好適である。また、式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体から得られたポリイミドは、ポリイミドとしては低吸湿性を示すことから、工程中の湿度環境の変化によっても寸法の変化を抑えられる点でも有利である。なお、主たるポリイミドについて、これを形成する一般式(1)とは別の残りのポリイミド前駆体については、特に制限はなく、一般的なポリイミド前駆体を用いることができる。
【0028】
【化1】
【0029】
上記式(1)において、Rは下記式(2)で表わされる群より選択される2価の有機基を示し、Rは下記式(3)で表わされる群より選択される4価の有機基を示し、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、nは繰り返し数を表す正の整数である。
【0030】
【化2】
【0031】
上記式(2)において、R’は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、炭素数6〜18の芳香族基、またはハロゲン基を示し、前記芳香族基の水素原子はハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はハロゲン化アルキル基で置換されてもよく、ZはNH又はOである。
【0032】
【化3】
【0033】
ところで、上記の式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体は、イミド化してポリイミドにした際に接着性に劣ることがある。このため、絶縁樹脂層を複数層のポリイミド層からなるようにして、金属層に接する層を低熱膨張性のポリイミドとしてもよい。すなわち、ポリイミド前駆体(又はポリイミド前駆体がイミド化したポリイミド)を含む液状組成物を金属層に塗布し、加熱してポリイミド層を形成するキャスト法の場合は、金属層上に、ポリイミド前駆体(又はポリイミド前駆体がイミド化したポリイミド)を含む第一の液状組成物を塗布した後、その上に式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体からなるポリイミドを塗布により形成すればよい。
【0034】
また、金属層との接着力向上や絶縁樹脂層のCTEの調整のため、例えば、絶縁樹脂層が複数層のポリイミド層からなり、金属層に接するポリイミド層のCTEが、当該ポリイミドと隣接する他のポリイミド層のCTEより小さくなるようにしてもよい。或いは、絶縁樹脂層のCTEの調整のため、絶縁樹脂層が3つ以上の複数層のポリイミド層からなり、表面と裏面を形成する最表面の2つのポリイミド層のCTEが、これら最表面のポリイミド層に挟まれた中間層を形成するポリイミド層のCTEに比べて大きく、また、最表面を形成するいずれか一方のポリイミド層が金属層に接するようにしてもよい。
【0035】
絶縁樹脂層を複数層とする場合、層数は特に限定はないが、生産性の観点から二層または三層が好ましい。塗布は複数層を同一のコーターで塗布する同時塗工でもよく、一層ごと別々のコーターで塗布する逐次塗工でもよい。
【0036】
また、本発明の金属張積層板は、金属層と絶縁樹脂層とのピール強度が300N/m以上であることが好ましい。より好ましくは、600N/m以上である。金属層と絶縁樹脂層のピール強度が300N/m以上であれば、例えば被蒸着体上に一定形状の薄膜パターンを蒸着形成する作業を繰り返し行った際や付着した蒸着成分の洗浄の際に、金属層と絶縁樹脂層が剥離しにくい。なお、ピール強度は、後記実施例に記載した方法、条件で測定される値である。
【0037】
(ポリイミド前駆体・ポリイミドの合成)
一般にポリイミドは、酸無水物成分と、ジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリイミド前駆体を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリイミド前駆体が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリイミド前駆体の樹脂溶液の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0038】
合成されたポリイミド前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリイミド前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリイミド前駆体の樹脂溶液の粘度は、500cps〜100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。ポリイミド前駆体をイミド化させてポリイミドを合成する方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0039】
<溶媒>
また、本実施の形態のポリイミド前駆体の樹脂溶液は、溶媒を含有するワニスの状態で使用することが好ましい。溶媒としては、ポリイミド前駆体の重合反応に用いる上記例示の有機溶媒を挙げることができる。溶媒は、1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0040】
<任意成分>
本実施の形態のポリイミド前駆体の樹脂溶液は、発明の効果を損なわない範囲で、例えば、難燃化剤、充填材などの任意成分を含有することができる。
【0041】
[金属張積層板の製造方法]
次に、金属層と、該金属層に積層された絶縁樹脂層とを有する金属張積層板を製造する方法について説明する。本実施の形態の金属張積層板の製造方法は、上記ポリイミド前駆体の樹脂溶液を金属層となる金属部材の表面に塗布して塗布膜を形成した後、ポリイミド前駆体をイミド化することによってポリイミド層を形成する方法(キャスト法)によって行うことが好ましい。金属層とポリイミド層とのピール強度は、300N/m以上であることが好ましく、600N/m以上であることがより好ましいが、キャスト法で形成されるポリイミド層は、金属層との接着性が高く剥離しにくいため、熱可塑性樹脂による接着剤層を必要とせずに、十分な接着性を確保できる。また、キャスト法で形成されるポリイミド層は、長手方向(MD方向)と幅方向(TD方向)のポリマー鎖の配向性に差が生じにくくなるため、面内での寸法バラつきが小さい、という長所もある。
【0042】
以下、キャスト法によってポリイミド層を形成する場合を例に挙げて本実施の形態の金属張積層板の製造方法について、具体的に説明する。
【0043】
本実施の形態の金属張積層板の製造方法は、以下の工程(1)〜(3)を含むことができる。
工程(1):
工程(1)は、ポリイミド前駆体の樹脂溶液を得る工程である。この工程では、まず、上記のとおり、原料のジアミン成分と酸無水物成分を適宜の溶媒中で反応させることにより、ポリイミド前駆体を合成する。ポリイミド前駆体は、溶媒を含む溶液の状態でポリイミド前駆体の樹脂溶液として使用される。
【0044】
工程(2):
工程(2)は、金属層となる金属部材の表面に、工程(1)で得られたポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程である。本工程までに、金属層となる金属部材におけるポリイミド層と接する表面に、酸化ニッケルの被膜を形成しておいてもよいし、本工程の後で、酸化ニッケルの被膜を形成してもよい。酸化ニッケルの被膜を形成する方法については、後で説明する。
【0045】
塗布膜は、溶液状のポリイミド前駆体の樹脂溶液を金属部材の上に直接塗布した後に乾燥することで形成できる。塗布方法は、特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0046】
ポリイミド層を複数層とする場合、異なる構成成分からなるポリイミド前駆体の樹脂層の上に他のポリイミド前駆体を順次塗布して形成することができる。この場合、少なくとも1層が上記の式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体の樹脂溶液であることが好ましい。ポリイミド前駆体の層が3層以上からなる場合、同一の構成のポリイミド前駆体を2回以上使用してもよい。また、単層又は複数層のポリイミド前駆体の層を一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド層とした後に、更にその上にポリイミド前駆体の樹脂層を形成することも可能である。
【0047】
なお、ポリイミド層が、金属層の面内で2つ以上の領域に分割して積層されるように、ポリイミド前駆体の樹脂溶液を分割して塗布してもよい。金属層の面内で、2つ以上の領域に異なる種類のポリイミド層が積層されるようにすることで、金属張積層板の反りを効果的に抑制することができる。
【0048】
工程(3):
工程(3)は、塗布膜を熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成する工程である。イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。熱処理により、塗布膜中のポリイミド前駆体がイミド化し、ポリイミドが形成される。
【0049】
ポリイミド前駆体の塗布膜を熱処理する過程で、ニッケルを効率良く酸化させるために、ポリイミド層(又はポリイミドフィルム)としての酸素透過係数が1×10−19mol・m/m・s・Pa以上であることが好ましい。このような観点から、ポリイミド層の厚みは、好ましくは1〜25μmの範囲内がよい。
【0050】
以上のようにして、ポリイミド層(単層又は複数層)と金属層とを有する金属張積層板を製造することができる。そして、本実施の形態の金属張積層板を用いて蒸着マスクを製造する方法は、上記(1)〜(3)の工程に加え、さらに、以下の工程(4)及び工程(5)を含むことができる。
【0051】
工程(4):
工程(4)は、金属張積層板の金属層を加工して複数の開口部を形成する工程である。本工程では、金属層に、所定形状をなす複数の開口パターンを形成する。例えば、フォトリソグラフィー技術を利用して、金属層の表面に感光性レジストを塗布し、所定の箇所を露光し、現像後、エッチングすることにより開口部を形成してもよいし、レーザー照射により開口部を形成してもよい。
【0052】
工程(5):
工程(5)は、金属張積層板のポリイミド層に開口部を形成することによって蒸着マスクを得る工程である。本工程では、工程(4)で形成した金属層の開口部の開口範囲内に対応させて、ポリイミド層に複数の貫通開口パターンを加工する。この貫通開口パターンは、被蒸着体上に蒸着形成される薄膜パターンに対応する。
【0053】
ポリイミド層に貫通孔を設けて開口パターンを形成する方法については特に制限されず、例えば、ポリイミド層の表面に感光性レジストを塗布し、所定の箇所を露光し、現像後、エッチングにより貫通孔を形成する方法、レーザーを照射して貫通孔を形成する方法、メカニカルドリルで貫通孔を形成する方法等を挙げることができる。精度や生産性等の観点から、レーザー照射が好ましい。レーザー照射により、薄膜パターンに対応した開口パターンを形成する場合、レーザーの波長でのポリイミド層の透過率が高いと良好な開口パターン形状を得られないことがある。そのため、レーザーの波長でのポリイミド層の光透過率は50%以下であるのがよく、好ましくは10%以下、より好ましくは0%であるのがよい。ここで、レーザー照射によりポリイミド層に貫通孔を設けて開口パターンを形成するのに用いられるレーザーとしては、例えば、UV−YAGレーザー(波長355nm)、エキシマレーザー(波長308nm)等を用いることが可能であり、これらの中でも、UV−YAGレーザー(波長355nm)が好ましい。
【0054】
以上のようにして、ポリイミド層(単層又は複数層)と金属層とを有する蒸着マスクを製造することができる。
【0055】
(酸化ニッケルの被膜の形成)
ニッケルを含有する金属部材の表面の酸化ニッケルの被膜の形成は、酸化剤を含む雰囲気中での酸化処理により行われる。酸化剤は、金属部材の表面に酸化ニッケルの被膜を形成する限りにおいて特に制限はなく、酸素、オゾン、水、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、二酸化マンガン、二クロム酸カリウム、ヨウ化カリウム、亜硫酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、クロラミン、硝酸、硫酸などが挙げられ、これらを単独にあるいは組み合わせて用いることができる。雰囲気中の酸化剤の濃度は、金属層の酸化の容易さなどを考慮して、適宜定めればよい。なお、酸化剤を含む雰囲気には、大気雰囲気が含まれる。また、酸化処理には、大気雰囲気下での自然酸化も含まれる。
【0056】
酸化ニッケルの被膜を有する金属張積層板の好ましい製造方法は、下記の工程(a)及び(b)を含むことができる。
(a)ニッケル元素を含有する金属部材に、ポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布し熱処理することによって、単層又は複数層のポリイミド層を有する絶縁樹脂層を形成する工程。
(b)酸化剤を含む雰囲気中で金属部材を酸化処理することによって、絶縁樹脂層を形成する側の表面に、酸化ニッケルの被膜を形成する工程。
【0057】
ここで、工程(a)と工程(b)の順序は問わず、工程(a)が先で工程(b)が後でもよいし、工程(b)が先で工程(a)が後でもよいが、プロセスの簡素化を可能にする観点から、工程(b)における酸化処理が、工程(a)における熱処理の過程で行われることが最も好ましい。すなわち、本発明の金属張積層板の製造方法の最も好ましい態様においては、ニッケル元素を含有する金属部材にポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布し、酸素濃度が1〜25体積%の範囲内で含有する雰囲気下で熱処理することによって、単層又は複数層のポリイミド層を形成する。熱処理における雰囲気については、酸素濃度が上記範囲内になるようにして、その他として、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン等を含むようにするのがよい。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0059】
[粘度の測定]
粘度の測定は、E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV−II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%〜90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0060】
[350℃での貯蔵弾性率の測定]
貯蔵弾性率は、5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行った。その際、350℃での貯蔵弾性率を確認した。
【0061】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。なお測定は、長手方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)について実施した。
【0062】
[ピール強度の測定]
金属張積層板(金属/ポリイミド層)の金属箔を幅1.0mmに回路加工した後、幅;8cm×長さ;4cmに切断し、測定サンプルとした。ピール強度は、テンシロンテスター(東洋精機製作所製、商品名;ストログラフVE−1D)を用いて、測定サンプルの樹脂層側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅箔を180°方向に50mm/分の速度で、銅箔を樹脂層から10mm剥離したときの中央強度を求めた。
【0063】
[XPSの測定(ナロースキャン)]
光電子分光装置(日本電子製 JPS9010)を用いて、MgKα12kV 20mA、中和銃なしの条件で、Ni(2p3/2)のピークのナロースキャンを行なった。その後、文献値でNi:852.7eV、NiO:854.0eV、Ni(OH):855.7eV、Ni:856.6eVと考えられるピークの波形分離をガウス関数とローレンツ関数の混合関数を用いた自動フィッティングにより行い、それぞれのピーク面積比を算出して、酸化ニッケルを含む全体のニッケルピーク面積に対しての金属ニッケルのピーク面積比を算出した。その際の算出値が、15%以下である場合をピークが観測されないとした。なお、算出値が5%以下である場合は、ピークが検出されないものと見做す。
【0064】
[イミド基濃度の測定]
ポリイミド前駆体を加熱処理しイミド化することにより得られたポリイミド中のイミド基部(−(CO)−N−)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。
【0065】
[酸素透過率測定]
ポリイミドフィルムについて、差圧式ガス・蒸気透過率測定装置(GTR−30XAD2、G6800T−F)[GTRテック(株)・ヤナコテクニカルサイエンス(株)製]を用いて、23℃、65%RH、試験差圧1atmの条件で酸素透過率の測定を実施した。この際、透過した酸素の検出をガスクロマトグラフ[熱伝導度検出器(TCD)]を用いて行った。
【0066】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
4,4’−DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0067】
(合成例1)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、0.862gの4,4’−DAPE(0.0043モル)、17.381gのm‐TB(0.0817モル)及び212.5gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、3.703gのBPDA(0.0126モル)及び15.554gのPMDA(0.0712モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを調製し、粘度は28600cPであった。
【0068】
(合成例2)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、23.734gのBAPP(0.0578モル)、及び212.5gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、3.471gのBPDA(0.0118モル)及び10.292gのPMDA(0.0472モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液bを調製し、粘度は11200cPであった。
【0069】
[実施例1]
シート状のインバー(厚さ30μm、100mm×300mm)上に、ポリイミド溶液aを、熱処理後のポリイミド層の厚みが10μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、空気雰囲気下で、100℃で5分間の加熱後、360℃まで段階的に昇温して加熱処理を行い、金属張積層板1を調製した。金属張積層板1のピール強度は1.2kN/mであり、XPSによるナロースキャンにおいて、酸化ニッケルのピークが観測されたが、Niピークは観測されなかった。また、金属張積層板1におけるポリイミド層のMD方向のCTEは2.4ppm/K、TD方向のCTEは2.1ppm/Kであり、350℃での貯蔵弾性率は1×10Pa以上であった。
【0070】
[実施例2]
シート状のインバー(厚さ30μm、100mm×300mm)を360℃の空気雰囲気下で1分間加熱処理を行った後、前記インバー箔上に、ポリイミド溶液aを、熱処理後のポリイミド層の厚みが10μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度0.1%未満)で、100℃で5分間の加熱後、360℃まで段階的に昇温して加熱処理を行い、金属張積層板2を調製した。金属張積層板2のピール強度は0.3kN/mであり、XPSによるナロースキャンにおいて、酸化ニッケルのピークが観測されたが、Niピークは観測されなかった。また、金属張積層板2におけるポリイミド層のMD方向のCTEは1.9ppm/K、TD方向のCTEは2.3ppm/Kであり、350℃での貯蔵弾性率は1×10Pa以上であった。
【0071】
[実施例3]
シート状のSUS304(厚さ30μm、100mm×300mm)上に、ポリイミド溶液bを、熱処理後のポリイミド層の厚みが10μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、空気雰囲気下で、100℃で5分間の加熱後、360℃まで段階的に昇温して加熱処理を行い、金属張積層板3を調製した。金属張積層板3のピール強度は0.8kN/mであり、XPSによるナロースキャンにおいて、酸化ニッケルのピークが観測されたが、Niピークは観測されなかった。また、金属張積層板3におけるポリイミド層のMD方向のCTEは58.1ppm/K、TD方向のCTEは56.4ppm/Kであり、350℃での貯蔵弾性率は1×10Pa未満であった。
【0072】
比較例1
シート状のインバー(厚さ30μm、100mm×300mm)上に、ポリイミド溶液aを、熱処理後のポリイミド層の厚みが10μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度0.1%未満)で、100℃で5分間の加熱後、360℃まで段階的に昇温して加熱処理を行い、金属張積層板4を調製した。金属張積層板4のピール強度は0.1kN/m未満であり、剥離面におけるインバー表面に強固に密着したポリイミドの薄膜を確認し、ポリイミド層の内部での破壊が観察され、XPSによるナロースキャンにおいてNiピークが観測された。また、金属張積層板4におけるポリイミド層のMD方向のCTEは2.1ppm/K、TD方向のCTEは1.5ppm/Kであり、350℃での貯蔵弾性率は1×10Pa以上であった。
【0073】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。