【解決手段】搬送モジュール(2)に設けられた一系統の主ガスライン(10)が、分割用開閉弁(10V)により第1領域(11)と第2領域(13)とに分割される。第1領域から並列に複数の分岐供給ライン(12)が分岐し、各々が対応する作業モジュールにガスを供給する。第2領域から並列に複数の分岐排出ライン(14)が分岐して、各々が対応する前記作業モジュールから前記主ラインにガスを排出する。各分岐供給ラインに供給用開閉弁(12V)が設けられ、各分岐排出ラインに排出用開閉弁(14V)が設けられている。
前記主ガスラインの前記第1領域からさらに前記搬送モジュールの内部の搬送空間にガスを供給する分岐供給ラインが分岐し、前記主ガスラインの前記第2領域からさらに前記搬送空間から前記第2領域にガスを排出する分岐排出ラインが分岐している、請求項1記載の細胞培養システム。
前記搬送モジュールは、前記作業モジュールを接続するための複数の接続ポートを有しており、前記各接続ポートにゲートバルブが設けられている、請求項1記載の細胞培養システム。
ガス送出ラインを有する滅菌ガス供給ユニットをさらに備え、前記ガス送出ラインは、前記主ガスラインの前記第1領域の上流端に接続されて前記主ガスラインに滅菌ガスを供給する、請求項1記載の細胞培養システム。
前記滅菌ガス供給ユニットはガス回収ラインをさらに有し、前記ガス回収ラインは、前記主ガスラインの前記第2領域の下流端に接続され、前記主ガスラインから排出された滅菌ガスを回収し、前記ガス回収ラインに回収された滅菌ガスが再び前記ガス送出ラインに流される、請求項4記載の細胞培養システム。
前記滅菌ガス供給ユニットは、前記ガス送出ラインから、空気または不活性ガスを単独で送出することができるように構成されている、請求項4記載の細胞培養システム。
前記滅菌ガス供給ユニットは、前記ガス送出ラインから、空気若しくは不活性ガスと過酸化水素とを含む滅菌ガスとしての混合ガスと、過酸化水素ガスを含まない空気若しくは不活性ガスとを選択的に供給できるように構成されている、請求項4記載の細胞培養システム。
前記作業モジュールおよび前記搬送モジュールの少なくとも一つは、チャンバと、前記チャンバ内の一部に滅菌管理区域を区画する仕切壁と、前記チャンバの内部空間のうちの前記滅菌管理区域の外側にあるガスを濾過して前記滅菌管理区域内に吹き出すファンフィルタユニットと、対応するガス供給ラインから供給されたガスを前記チャンバ内の前記滅菌管理区域に供給するガス供給口と、対応するガス戻しラインに前記チャンバ内のガスを排気するガス排気口と、を有している請求項1記載の細胞培養システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して細胞培養システムの実施形態について説明する。
【0011】
図1に示すように、細胞培養システム1は、搬送モジュール2と、搬送モジュール2に連結されたプレートローダーモジュール3及びおよび複数の作業モジュール4とを備えている。搬送モジュール2は、2つの搬送モジュール部分2Aと搬送モジュール部分2Bとを結合することにより形成されている。
【0012】
搬送モジュール2の内部空間(搬送空間)には搬送ロボット82(
図2参照)が設けられており、プレートローダーモジュール3及び作業モジュール4の間で、培養プレート(図示せず)およびCI(ケミカルインジケータ)およびBI(バイオロジカルインジケータ)(いずれも図示せず)などを搬送する。
【0013】
プレートローダーモジュール3は、培養容器の一種である培養プレート(図示せず)を複数枚(例えば16枚)収容するカセット(図示せず)を受け取り、かつ払い出すロードポート(容器搬出入部)として構成されている。
【0014】
作業モジュール4はそれぞれ、細胞培養のために行われる様々な作業(培養、培養の前処理および後処理、培養後検査等)を実行するために特化した機能を有している。作業モジュール4には、プレートローダーモジュール、インキュベータモジュール(培養モジュール)、撮像モジュール、顕微鏡モジュール、リムーバーモジュール、プレパレーションモジュール、リキッドエクスチェンジモジュール、培地分析モジュール等が含まれる。
【0015】
各作業モジュールについて簡単に説明する。インキュベータモジュールは、細胞培養が行われるモジュールであり、細胞培養に適した環境(温度、湿度、二酸化炭素濃度等)を維持するためのデバイスを備えている。撮像モジュールおよび顕微鏡モジュールは、培養された細胞のマクロ的およびミクロ的な撮像を行うためのデバイスを備えている。プレパレーションモジュールは、培養プレートに培養準備のための処理(ECM(Extracellular matrix)塗布、PBS(Phosphate buffered saline(リン酸緩衝生理食塩水)処理等)を行うためのデバイスを有している。リムーバーモジュールは、撮像モジュールおよび顕微鏡モジュール等の撮像結果に基づいて不良細胞を除去するデバイスを有している。リキッドエクスチェンジモジュールは、播種、定期的な培地の交換、培養した細胞の取り出し等を行うためのデバイスを有している。培地分析モジュールは、培地の分析を行うためのデバイスを有している。作業モジュールには、上述したデバイス以外の細胞培養に関わるデバイスを搭載することも可能である。
【0016】
細胞培養システム1は、さらに搬送モジュール2および作業モジュール4に対して滅菌ガスを供給するための滅菌ガス供給/回収ユニット50を有している。滅菌ガス供給/回収ユニット50は、滅菌処理を行うときのみ細胞培養システム1に接続する(組み込む)できるよう、搬送モジュール2に対して着脱自在であってもよい。
【0017】
搬送モジュール2には、1本の連続した主ガスライン10が設けられている。主ガスライン10は、滅菌ガス供給/回収ユニット50に接続されるガス供給用の接続ポートとなる入口端10aから、滅菌ガス供給/回収ユニット50に接続されるガス排出用の接続ポートとなる出口端10bに至るまで連続的に延びる。主ガスライン10の途中にノーマルオープン(非通電時開放)の開閉弁10Vが設けられており、この開閉弁10Vを境界として、主ガスライン10を上流側の第1領域11と下流側の第2領域13とに分割することができる。第1領域11は主供給ラインとしての役割を持ち、また、第2領域13は主排出ラインとしての役割を持つことになる。
【0018】
搬送モジュール2には、主ガスライン10の第1領域11から分岐した複数の分岐供給ライン12が設けられている。分岐供給ライン12は、搬送モジュール2に連結された各作業モジュール4に第1領域11を流れるガスを分配するためのものである。
【0019】
搬送モジュール2には、主ガスライン10の第2領域13から分岐した複数の分岐排出ライン14を有している。分岐排出ライン14は、搬送モジュール2に連結された各作業モジュール4から排出されたガスを第2領域13に流入させるためのものである。
【0020】
搬送モジュール2には、各作業モジュール4内の圧力を計測するための主圧力計測ライン15と、主圧力計測ライン15から分岐した複数の分岐圧力計測ライン16を有している。各作業モジュール4内の圧力は、対応する分岐圧力計測ライン16および主圧力計測ライン15を介して、滅菌ガス供給/回収ユニット50内に設けられた圧力計59に伝達される。
【0021】
各作業モジュール4には、各作業モジュール4内の圧力を計測するための圧力計19も設けられている。
【0022】
各作業モジュール4には、作業モジュール4の内部空間の圧力が高くなりすぎたときに圧を逃がすために、リリーフ弁4RVが設けられたリリーフライン4Lが設けられている。搬送モジュール2には、各作業モジュール4からリリーフライン4Lを介して排出されたガスを除害装置70に送るための主排気ライン17と、主排気ライン17から分岐した複数の分岐排気ライン18を有している。除害装置70により無害化された排気は、研究設備等の建屋など細胞培養システム1の外部に設定された排気システム中に排出することができる。
【0023】
なお、
図7に示すように、リリーフライン4Lを主排出ライン13に接続してもよく、この場合、主排気ライン17を廃止することができる。
【0024】
分岐供給ライン12、分岐排出ライン14、分岐圧力計測ライン16にはそれぞれノーマルクローズ(非通電時閉鎖)の開閉弁12V、14V、16Vが設けられている。
【0025】
搬送モジュール2も滅菌対象モジュールであるため、搬送モジュール2には、搬送モジュール2の搬送空間に通じている各種ライン(分岐供給ライン12、分岐排出ライン14、分岐圧力計測ライン16分岐排気ライン18と同等のもの)が設けられている。また、搬送モジュール2には、搬送モジュール2の搬送空間に通じているリリーフ弁付きのリリーフライン(4L,4RVと同等のもの)が設けられ、また、圧力計19も設けられる。
【0026】
なお、
図1では、各作業モジュール4と同様に、プレートローダーモジュール3に対応して各種ライン(12,14,16,18)および圧力計19等が設けられているが、このようなラインは、プレートローダーモジュール3がロードロックモジュールのような外部環境から隔離されて雰囲気調整可能なチャンバを有する場合に設けられるものである。プレートローダーモジュール3が開放型のカセット載置モジュールであり、かつ、プレートローダーモジュール3上に載置されたカセットの内部空間を搬送モジュール2の内部空間に直接的に気密に接続することができる構成が設けられている場合には、上記の各種ラインおよび圧力計は設けられない。なお、この場合、プレートローダーモジュール3は作業モジュール4とは異なる特別なモジュールであり、搬送モジュール2におけるプレートローダーモジュール3の取付部(マウント、取付ポート等)に、作業モジュール4が取付可能となってはいない。
【0027】
搬送モジュール2(搬送モジュール部分2Aおよび搬送モジュール部分2B)は全体として概ね中空の直方体または立方体の形状を有する。各作業モジュール4も概ね中空の直方体または立方体の形状を有する。
図2に示すように、搬送モジュール2には作業モジュール4を接続するために複数の(図では4つを示した)接続ポート2Pが設けられている。作業モジュール4には、搬送モジュール2の接続ポート2Pと気密に連結することができる接続ポート4Pが設けられている。
【0028】
搬送モジュール2の各接続ポート2Pは全て同じ構造および寸法を有している。各作業モジュール4の接続ポート4Pは、作業モジュール4の種類によらず、全て同じ構造および寸法を有している。従って、搬送モジュール2に所望の種類の作業モジュール4を組み合わせることにより、ユーザーの要望に対応する機能を有するシステムを構築することができる。
【0029】
2つの搬送モジュール部分2A、2Bの相互接続は、例えば、両搬送モジュール部分の対向する端面に設けられたフランジ間にシールを挟んだ状態でフランジ同士をねじ締結することにより行うことができる。搬送モジュール2と作業モジュール4の接続も、例えば、搬送モジュール2の接続ポート10Pに設けたフランジと、作業モジュール4に設けたフランジとの間にシールを挟んだ状態でフランジ同士をねじ締結することにより行うことができる。なお、モジュール同士を連結することにより、一方のモジュールに設けられた雄コネクタと他方のモジュールに設けられた雌コネクタが連結され、対応するライン同士が接続されるようになっていてもよい。
【0030】
搬送モジュール部分2A、2Bの床面には、ガイドレール81が設けられている。ガイドレール81に案内されて、培地プレート搬送ロボット82のベース83が走行する。培地プレート搬送ロボット82は、例えば水平多関節ロボットから構成することができ、その先端のピック(培地プレート保持部材)は水平面内において任意の向きを向くことができかつ任意の方向に移動することができ、かつ昇降可能である。2つの搬送モジュール部分2A,2Bが連結されて搬送モジュール2が構成されると、2つのガイドレール81も連結され、搬送モジュール2の端から端までベース83が走行できるようになる。
【0031】
搬送モジュール2の各接続ポート2Pにはゲートバルブ85が設けられている。ゲートバルブ85を開くことにより、対応する接続ポート2P,4Pを介して作業モジュール4に培地プレートを搬出入することができる。なお、細胞培養システム1の構成次第では、作業モジュール4が接続されない接続ポート2Pが存在しうるが、このような接続ポート2Pのゲートバルブ85は常時閉鎖しておけばよい。
【0032】
なお、前述したようにプレートローダーモジュール3が開放型の特別なモジュールである場合には、プレートローダーモジュール3は作業モジュール4とは別の接続構造により搬送モジュール2に対して接続することができる。この場合、プレートローダーモジュール3が取り付けられる部分にゲートバルブ85を設ける必要はない。
【0033】
搬送モジュール2を、複数の搬送モジュール部分(2A、2B)を直列に接続することにより形成することに代えて、一つのモジュール部分から構成してもかまわない。また、搬送モジュール2を3つ以上の搬送モジュール部分を結合することにより構成することも可能である。
【0034】
各作業モジュール4の構成について
図3を参照して簡単に説明する。作業モジュール4は、チャンバ41と、チャンバ内に設けられた作業用機器42と、チャンバ41の内部空間の一部である滅菌管理区域43を画定する仕切壁44とを有している。仕切壁44の一部は可動としてもよい。チャンバ41の内部空間には、前述したリリーフ弁4RVが介設された前述したリリーフライン4Lが接続されている。リリーフライン4Lは搬送モジュール2の分岐排気ライン18に接続される。
【0035】
作業モジュール4内に設けられる作業用機器42は、作業モジュール4の種類によって異なる。作業用機器42としては、培地プレートを保持する部材、チャンバ内の温度、湿度、二酸化炭素ガス濃度等の培養環境を調節する機器、培地の調整、細胞の取り出し等を行う各機器、顕微鏡等の観察用機器等が例示される。
【0036】
作業モジュール4はガス供給ライン45を有する。ガス供給ライン45は、搬送モジュール2の分岐供給ライン12と接続されている。ガス供給ライン45は、滅菌管理区域43内で開口し、滅菌管理区域43内に滅菌ガス等のガスを吐出する。図示例では、滅菌管理区域43は、その周囲のチャンバ41内空間(周囲チャンバ内空間41’)から完全に隔離されているわけではなく、一部が周囲チャンバ内空間41’と連通している。つまり、仕切壁44は滅菌管理区域43を完全に囲んでいるわけではない。従って、滅菌管理区域43内に滅菌ガスを供給すると、周囲チャンバ内空間41’にも滅菌ガスが充満し、周囲チャンバ内空間41’内も滅菌される。
【0037】
周囲チャンバ内空間41’にはガス排出ライン46が開口している。このガス排出ライン46は、搬送モジュール2の分岐排出ライン14と接続されている。従って、ガス排出ライン46を介して、チャンバ41内のガスをチャンバ41の外側に排出することができる。仕切壁44の天井部にFFU(ファンフィルタユニット)47が設けられている。FFU47は、ファンと、ULPAフィルタ(Ultra Low Penetration Air Filter)等のパーティクルフィルタを有しており、周囲チャンバ内空間41’に存在するガスを濾過して滅菌管理区域43内に吐出する。これにより、チャンバ41内のガスのパーティクルレベルを一定以下に保つことができる。
【0038】
上記のようにチャンバ41内に仕切壁44で仕切られた滅菌管理区域43を設定することにより、直接培養に関わる作業用機器42およびその周囲の滅菌効率を向上させることができる。
【0039】
なお、
図3において、符号47は分岐圧力測定ライン16に連通する圧力検出ラインである。
【0040】
全ての作業モジュール4に仕切壁44で仕切られた滅菌管理区域43を設定する必要はなく、チャンバ41内全体を滅菌管理区域としてもよい。また、比較的小さな作業モジュール4(但し接続ポート4Pのサイズは同じ)ではFFUをチャンバ41内に設けることが困難なこともある。この場合、チャンバ41に、ポンプ、フィルタ、パーティクルカウンタ等が介設された循環ラインを接続し(いずれも図示せず)、チャンバ41から取り出したガスを循環ラインを介してチャンバ41に戻す過程で、フィルタによりパーティクルを除去してもよい。
【0041】
図1に示すように、滅菌ガス供給/回収ユニット50は、滅菌ガスである過酸化水素蒸気、乾燥した空気(ドライエア)及び不活性ガスのうちの一つを単独で、あるいは二つ以上を混合ガスとして主ガスライン10の入口端10aに供給することができる。また、滅菌ガス供給/回収ユニット50は、主ガスライン10の出口端10bから排出される排気ガスを回収することができる。
【0042】
滅菌ガス供給/回収ユニット50は、主ガスライン10の入口端10aに接続されるガス送出ライン51を有する。ガス送出ライン51には、流量制御機構52及び緊急遮断バルブ53が介設されている。ガス送出ライン51には、この滅菌ガス供給/回収ユニット50に接続された外部のガス供給機構54から、乾燥した空気または不活性ガスが供給される。ガス送出ライン51には、過酸化水素蒸気供給機構55が接続されている。ガス供給機構54から供給されたガス(例えば乾燥空気)の流量が流量制御機構52により供給され、この流量制御されたガスの流れに過酸化水素蒸気供給機構55から供給された過酸化水素蒸気が添加されることにより、所定の過酸化水素濃度の滅菌ガス が主ガスライン10に送り出される。つまり、滅菌ガス供給/回収ユニット50は、ガス送出ライン51から、滅菌ガスとして空気(好ましくは乾燥空気)(不活性ガスでもよい)と過酸化水素とを含む混合ガスと、過酸化水素ガスを含まない空気(不活性ガスでもよい)とのいずれかを選択的に供給できるように構成されている。
【0043】
滅菌ガス供給/回収ユニット50は、主ガスライン10の出口端10bに接続されるガス回収ライン56を有する。ガス回収ライン56には、排気ガス中に含まれる人体に有害な成分(例えば過酸化水素)を無害化する除害機構57が介設されている。また、ガス回収ライン56には、ガス回収ライン56内を流れるガス中の過酸化水素濃度を測定するための過酸化水素濃度計58が設けられている。ガス回収ライン56は、流量制御機構52を介してガス送出ライン51に接続されている。
【0044】
主ガスライン10から回収された排気ガスは、除害機構57により除害され、ガス送出ライン51に戻され、このガスに過酸化水素蒸気供給機構55から供給された過酸化水素蒸気が添加されて所定の過酸化水素濃度の滅菌ガスが主ガスライン10に送り出される。なお、ガス送出ライン51に戻されたガスを再度主ガスライン10に送り出すための駆動力をガスに与えるために、ガス送出ライン51に図示しないブロアが設けられている。また、ガス送出ライン51に湿度が高いガスが戻されたときに、ガスの湿度を低下させるために、ガス送出ライン51に、図示しないドライヤが、過酸化水素蒸気供給機構55の接続ポイントよりも上流側の位置に介設されている。
【0045】
緊急遮断バルブ53は、リークにより細胞培養システム1が設置されている部屋の過酸化水素濃度が上昇するなどの危険な状況が生じた場合、滅菌ガスの供給を遮断するために閉じられる。
【0046】
滅菌ガス供給/回収ユニット50は、さらに、圧力計59を有している。この圧力計59は、搬送モジュール2に設けられた主圧力計測ライン15の接続ポートに接続され、主圧力計測ライン15および分岐圧力計測ライン16を介して搬送モジュール2の各作業モジュール4内の圧力を検出する。圧力計59は、滅菌ガス供給/回収ユニット50の外部に設けられていても構わない。
【0047】
次に、細胞培養システム1の動作について説明する。プレートローダーモジュール3に複数の培地プレートが収容されたカセット(搬送容器)が載置され、搬送容器から搬送ロボット82が培地プレート(培養容器)を取り出し、各作業モジュール4に搬送し、各作業モジュール4で、細胞培養に必要な準備、培養した細胞の観察、培養した細胞の取り出し等の各種作業が予め定められたスケジュールで行われる。培養後の細胞を保持する培地プレートは、プレートローダーモジュール3のカセットに戻される。各作業モジュール4で行われる作業の具体的内容の説明は省略する。
【0048】
各作業モジュール4で細胞または培地に対する作業が行われる場合、各作業モジュール4のチャンバ41の内部(滅菌管理区域43が設定されている場合には、少なくとも滅菌管理区域43の内部)の滅菌レベルは予め定められた基準を満たしていなければならない。また、各作業モジュール4に培地プレートを搬送する搬送モジュール2内部の滅菌レベルも予め定められた基準を満たしていなければならない。また、プレートローダーモジュール3内において培地プレートが周囲雰囲気に晒されるのであれば、プレートローダーモジュール3の滅菌も必要である。
【0049】
このため、(1)細胞培養システム1の設置後の最初の運転の前、(2)細胞培養システム1のメンテナンスの後、(3)ロット処理の終了後、(4)パーティクルの異常値が検出された時、等のタイミングで、必要なモジュールの滅菌処理が実行される。
【0050】
滅菌処理中のある一つの期間内には、複数のモジュール2,3,4から選択された一つのモジュール(以下、「滅菌対象モジュール」と呼ぶ)に対して滅菌処理が行われる。つまり、異なるモジュールの滅菌は異なる期間に行われる。二つのモジュールを連続して滅菌することも可能ではあるが、同時期に滅菌が行われるモジュールは一つだけであることが好ましい。
【0051】
滅菌処理は、細胞培養システム1を構成する各種機器の動作を制御するシステムコントローラ101の制御の下で、以下の手順に従い、自動的に行われる。なお、細胞培養システム1に含まれる各種計測機器(圧力計19,59、図示しない温度計、湿度計、二酸化炭素ガス濃度センサ等)の検出値もシステムコントローラ101に入力される。以下、滅菌対象モジュールが、作業モジュール4のうちの一つ(以下「滅菌対象モジュール4」とも記す)であるものとして説明を行う。
【0052】
[CI/BI搬入工程]
まず、CI(ケミカルインジケータ)およびBI(バイオロジカルインジケータ)がプレートローダーモジュール3に搬入され、これらCIおよびBIが搬送ロボット82によりプレートローダーモジュール3から滅菌対象モジュール4の滅菌管理区域43に搬送される。
【0053】
[リークチェック工程]
全てのゲートバルブ85が閉じられた後、滅菌対象モジュール4のリークチェックを行う。滅菌対象モジュール4に対応する分岐供給ライン12の開閉弁12Vが開かれ、滅菌ガス供給/回収ユニット50から、主ガスライン10の第1領域11および分岐供給ライン12を介して、過酸化水素蒸気を含まないドライエアを滅菌対象モジュール4内に供給する。このとき、滅菌対象モジュール4に対応する分岐排出ライン14の開閉弁は閉じた状態とする。滅菌対象モジュール4に設けられた圧力計19の検出値が所定の圧力(リリーフ弁30Rの設定圧力以下の圧力)になるまで滅菌対象モジュール4に空気を充填し、その後分岐供給ライン12の開閉弁12Vを閉じる。予め定められた時間の経過後、圧力計19の検出値に基づき算出された圧力低下が予め定められた閾値以下であったなら、滅菌対象モジュール4の密閉性は問題ないものと判断する。なお、圧力計19は、培養および培養前後の様々な作業を行う場合における作業モジュール内の圧力管理にも用いられる。
【0054】
[除湿工程]
リークチェックの終了後、滅菌対象モジュール4に対応する分岐供給ライン12および分岐排出ライン14の開閉弁12V,14Vを開く。次いで、滅菌ガス供給/回収ユニット50から、過酸化水素を含まないドライエアを、主ガスライン10の第1領域11および対応する分岐供給ライン12を介して滅菌対象モジュール4に送る。滅菌対象モジュール4に送られたドライエアは、滅菌管理区域43(
図3参照)を通って流れて滅菌管理区域43を含むチャンバ41内を除湿した後に、滅菌対象モジュール4から流出し、分岐排出ライン14および主ガスライン10の第2領域13を通って滅菌ガス供給/回収ユニット50に戻る。滅菌ガス供給/回収ユニット50のガス回収ライン56に戻ってきたガスは、ガス送出ライン51に再び流入し、ガス送出ライン51に介設された図示しないドライヤにより除湿された後に、主ガスライン10に供給される。
【0055】
このようにドライエアが、ガス送出ライン51、主ガスライン10の第1領域11、滅菌対象モジュール4に対応する分岐供給ライン12、滅菌対象モジュール4、滅菌対象モジュール4に対応する分岐排出ライン14、主ガスライン10の第2領域13およびガス回収ライン56からなる循環経路(以下、「第1循環経路」とも呼ぶ)を通って循環することにより、滅菌対象モジュール4の滅菌管理区域43を含むチャンバ41内の除湿が行われる。
【0056】
[滅菌工程]
予め定められた時間だけ除湿工程を行った後、ガス送出ライン51を流れるドライエアに、過酸化水素蒸気が添加され、ドライエアおよび過酸化水素蒸気の混合ガスからなる滅菌ガスが滅菌対象モジュール4に送られる。滅菌ガスは第1循環経路を循環して流れ、滅菌対象モジュール4の滅菌管理区域43を通過するときに、滅菌管理区域43および周囲チャンバ内空間41’を滅菌する。ガス送出ライン51を通過するときに、第1循環経路を循環する滅菌ガスに、生成された過酸化水素蒸気が添加され、過酸化水素濃度が高められた滅菌ガスが再び滅菌対象モジュール4に送られる。
【0057】
このように、滅菌ガスが上記の第1循環経路を通って循環するときに滅菌管理区域43を通って流れることにより、滅菌対象モジュール4の滅菌管理区域43の滅菌が行われる。
【0058】
滅菌工程中における滅菌対象モジュール4内の圧力は滅菌ガス供給/回収ユニット50の圧力計59により常時モニタされており、モジュール30内の圧力が予め定められた圧力範囲に維持されるように、流量制御機構52により滅菌ガス供給/回収ユニット50からの滅菌ガス供給流量が調節される。
【0059】
滅菌対象モジュール4内の圧力は、滅菌対象モジュール4に対応する分岐圧力計測ライン16の開閉弁18Vを開くことにより、分岐圧力計測ライン16および主圧力計測ライン15を介して圧力計59に伝播する。このため、滅菌対象モジュール4から離れた位置にある圧力計59により滅菌対象モジュール4内の圧力を監視することができる。
【0060】
また、滅菌工程中において、過酸化水素濃度計58が、ガス回収ライン56を流れる滅菌ガス中の過酸化水素濃度を常時モニタしている。過酸化水素濃度計58の検出結果に基づいて、過酸化水素蒸気発生器55からガス送出ライン51に送り込まれる過酸化水素蒸気の流量(つまり過酸化水素/空気混合比)が制御される。
【0061】
ところで滅菌対象モジュールの滅菌中に、他のモジュールで細胞の培養、検査を行っている場合がある。その場合、滅菌対象モジュールが陽圧になるため滅菌対象モジュールから滅菌ガスがゲートバルブのシール部から搬送モジュール側に僅かであるがリークする可能性が有り得るので、滅菌対象モジュールが滅菌工程中にある場合は、他のモジュールのゲートバルブは開けないことが望ましい。この場合培養容器の各モジュールへの搬送や回収はできないが各モジュール内での処理は継続することが出来る。
【0062】
[エアレーション工程]
予め定められた時間だけ滅菌工程を行った後、滅菌ガス供給/回収ユニット50の過酸化水素蒸気発生器55からガス送出ライン51に過酸化水素蒸気を供給することをやめ、滅菌ガス供給/回収ユニット50から空気(ドライエア)だけを送り出すようにする。つまり上記の第1循環経路内に空気を循環させる。これにより、第1循環経路内に存在する過酸化水素蒸気が空気により押し出され、過酸化水素蒸気は空気と一緒に上記の第1循環経路内を循環するときに酸素と水とに分解される。
【0063】
除湿工程、滅菌工程およびエアレーション工程の間のガスの流れは、
図4に太線で示されている。
【0064】
[主ガスラインパージ工程]
予め定められた時間だけエアレーション工程を行った後、(あるいは過酸化水素濃度計58が検出する過酸化水素濃度が予め定められた第1閾値を下回ったら)、滅菌ガス供給/回収ユニット50から空気(ドライエア)だけが送り出される状態を維持したまま、主ガスライン10の開閉弁10Vを開くとともに、滅菌対象モジュール4に対応する分岐供給ライン12の開閉弁12V並びに分岐排出ライン14の開閉弁14Vを閉じる(つまり、全ての開閉弁12Vおよび全ての開閉弁14Vを閉じた状態とする)。これによって、ガス送出ライン51、主ガスライン10(第1領域11の全域および第2領域13の全域)およびガス回収ライン56からなる循環経路(以下、「第2循環経路」とも呼ぶ)を通って空気が循環するようになる。
【0065】
これにより、デッドスペースとなっていた以下の2つの部分、すなわち、主ガスライン10の第1領域11のうちの滅菌対象モジュール4に接続された分岐供給ライン12の分岐点から開閉弁10Vまでの部分、並びに、第2領域13のうちの滅菌対象モジュール4に接続された分岐排出ライン14の分岐点から開閉弁10Vまでの部分に滞留していた滅菌ガスが、空気により上記部分から強制的に押し出され、空気と一緒に第2循環経路を循環し、この循環中に、滅菌ガス中の過酸化水素は酸素と水とに分解される。
【0066】
上記の状態を維持し、過酸化水素濃度計58が検出する過酸化水素濃度が予め定められた第2閾値(例えば人体に害が無い過酸化水素濃度である1ppm)を下回ったら、ガスラインパージ工程を終了する。
【0067】
主ガスラインパージ工程の間のガスの流れは、
図5に太線で示されている。
【0068】
エアレーション工程と主ガスラインパージ工程を統合してもよい。つまり、エアレーション工程を行うときに、主ガスライン10の開閉弁10Vを開いてもよい。こうすることにより、上記の第1循環経路および第2循環経路の両方に空気が流れ、第1循環経路および第2循環経路の内部空間を同時に空気でパージすることができる(このときのガスの流れは、
図6の太線を参照。)
【0069】
[リークチェック工程]
次に再びリークチェック工程を行う。
【0070】
[CI/BI回収工程]
その後、前述したCI/BI搬入工程にて滅菌対象モジュール4内に搬入したCIおよびBIを搬送ロボット82により搬出し、適正に滅菌が行われたことの確認を行う。以上により、一つの滅菌対象モジュール4の滅菌のための一連の工程が終了する。必要なモジュール(例えば全ての搬送モジュール2および全ての作業モジュール4)の滅菌が適正に行われたことが確認されたら、細胞培養に関連する作業を開始することができる。なお、他のモジュールの滅菌も上記と同様にして行うことができる。ところでBIにより滅菌ガス(本例ではH
2O
2)に対しての効果、即ちBIに含まれる菌がガスで死滅するかを確認することが出来るが、一方で定期的に無菌を確認する必要がある。その場合はBI回収に加え、滅菌処理後の無菌状態を確認する方法として、寒天培地を搬送し落下菌の採取、培養し細菌の有無確認を行ってもよい。対象モジュ−ルへ寒天培地を搬入し一定時間放置することで細菌がある場合は寒天培地表面へ落下する。これを一定時間増殖培養し装置から搬出し検査することで細菌の有無が確認できる。増殖培養は装置外部のインキュベータで行ってもよい。
【0071】
上記実施形態によれば、1本の連続した主ガスライン10の途中に開閉弁10Vを設け、滅菌処理時には開閉弁10Vを閉じることにより、主ガスライン10をガス供給用のライン(第1領域11)と、ガス排気用のライン(第2領域13)とに分割して利用することができる。そして、分岐供給ライン12および分岐排気ライン14の開閉弁12V,14Vを全て閉じた状態で開閉弁10Vを開き、主ガスライン10の一端からパージガス(例えばドライエア)を供給することにより、主ガスライン10の一端から他端までパージガスを流すことができる。このため、主ガスライン10に滅菌ガスは殆ど残留しない。このため、滞留していた滅菌ガスが放出されることによって細胞培養装置が設置されていた実験室内の雰囲気が汚染され、研究者、作業者等に害を与えることを防止することができる。
【0072】
また、上記実施形態によれば、主ガスライン10から分岐するとともに各々に開閉弁12V,14Vが設けられた分岐供給ライン12および分岐排出ライン14により滅菌対象モジュール(2,3,4)への給気および排気を行っているため、開閉弁(12V,14V)を切り替えることにより、一つの滅菌ガス供給/回収ユニット50によって複数の滅菌対象モジュールを順次効率良く滅菌することができる。
【0073】
また、上記実施形態によれば、主圧力計測ライン15から分岐するとともに各々に開閉弁16Vが設けられた分岐圧力計測ライン16を介して滅菌対象モジュール(2,3,4)内の圧力を離れた場所で計測することができる。このため、滅菌対象モジュール(2,3,4)から離れた位置に設置された圧力計59の検出値に基づいて滅菌ガス供給/回収ユニット50からのガス供給状態を容易に調節することができる。
【0074】
上記実施形態では、滅菌ガス供給/回収ユニット50は、滅菌対象モジュールに供給された後に戻ってきた滅菌ガスを再び送出ライン51に送り出し再利用しているが、これには限定されない。戻ってきた滅菌ガスは、細胞培養システム1の外部に設定された排気システムに捨ててもよい。