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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-131859(P2019-131859A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】蒸着装置及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20190712BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190712BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   C23C14/24 U
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-14628(P2018-14628)
(22)【出願日】2018年1月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG32
4K029CA01
4K029DA03
4K029DB14
4K029EA01
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】複数の水晶振動子を備えた膜厚センサにおいて、複数の水晶振動子によって検知される蒸着速度のばらつきを抑え、長時間にわたり蒸着速度を高精度に制御する。
【解決手段】蒸着装置において、蒸着源は、真空容器内に設けられる。膜厚測定器は、蒸着源に対向する複数の水晶振動子を含む膜厚センサを有する。膜厚測定器は、膜厚センサから選択されるいずれかの水晶振動子によって蒸着材料の蒸着速度が検知可能である。膜厚測定器は、蒸着源に対する基板及び膜厚センサの配置位置によって生じる、基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と水晶振動子に形成される蒸着材料の蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数を複数の水晶振動子のそれぞれに対して設定可能である。制御装置は、水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、基板に形成される上記蒸着材料の膜厚を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器内に設けられた蒸着源と、
前記蒸着源に対向する複数の水晶振動子を含む膜厚センサを有し、前記膜厚センサから選択されるいずれかの水晶振動子によって蒸着材料の蒸着速度が検知可能であり、前記蒸着源に対する基板及び前記膜厚センサの配置位置によって生じる、前記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と前記水晶振動子に形成される前記蒸着材料の前記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数を前記複数の水晶振動子のそれぞれに対して設定可能な膜厚測定器と、
前記水晶振動子によって検知される前記蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の膜厚を制御する制御装置と
を具備し、
前記制御装置は、
(a)前記膜厚センサから第1水晶振動子を選択し、前記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の前記膜厚を制御するステップと、
(b)前記第1水晶振動子による前記蒸着速度の検知を続け、前記第1水晶振動子の検知時間または前記第1水晶振動子の共振周波数が許容範囲を超えた場合には、前記膜厚センサから第2水晶振動子を選択するステップと、
(c)前記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度と、前記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度との差が目的値でない場合には、前記第2水晶振動子の前記ツーリング係数を補正して、前記差を目的値にするステップと、
(d)前記第2水晶振動子を第1水晶振動子とみなし、みなされた前記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の前記膜厚を制御するステップと、
(e)前記(b)ステップから前記(d)ステップまでを繰り返す
蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸着方法において、
前記ステップ(c)において、
前記第1水晶振動子によって検知される前記蒸着速度は、前記第1水晶振動子の使用終了前の第1時間帯における蒸着速度の平均値とし、
前記第2水晶振動子によって検知される前記蒸着速度は、前記第2水晶振動子の使用開始後の第2時間帯における蒸着速度の平均値とする
蒸着装置。
【請求項3】
複数の水晶振動子を含む膜厚センサからいずれかの水晶振動子を選択し、前記水晶振動子に形成される蒸着材料の蒸着速度を検知することによって、基板に形成される前記蒸着材料の膜厚を制御し、蒸着源に対する前記基板及び前記膜厚センサの配置位置によって生じる、前記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と前記水晶振動子に形成される前記蒸着材料の前記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数を前記複数の水晶振動子のそれぞれに対して設定可能な前記膜厚センサを用いた蒸着方法であって、
(a)前記膜厚センサから第1水晶振動子を選択し、前記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の前記膜厚を制御するステップと、
(b)前記第1水晶振動子による前記蒸着速度の検知を続け、前記第1水晶振動子の検知時間または前記第1水晶振動子の共振周波数が許容範囲を超えた場合には、前記膜厚センサから第2水晶振動子を選択するステップと、
(c)前記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度と、前記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度との差が目的値でない場合には、前記第2水晶振動子の前記ツーリング係数を補正して、前記差を目的値にするステップと、
(d)前記第2水晶振動子を第1水晶振動子とみなし、みなされた前記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の前記膜厚を制御するステップと、
(e)前記(b)ステップから前記(d)ステップまでを繰り返す
蒸着方法。
【請求項4】
請求項3に記載された蒸着方法において、
前記ステップ(c)において、
前記第1水晶振動子によって検知される前記蒸着速度は、前記第1水晶振動子の使用終了前の第1時間帯における蒸着速度の平均値とし、
前記第2水晶振動子によって検知される前記蒸着速度は、前記第2水晶振動子の使用開始後の第2時間帯における蒸着速度の平均値とする
蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型の表示デバイスで代表される有機ELディスプレイ等では、その画素が多層構造になっている。このようなデバイスでは、各画素における光取り出し効率を高めるために、多層構造の各層の厚みをいかにして精度よく制御するかが重要になる。
【0003】
例えば、各層は、有機分子で構成されていることから真空蒸着によって形成され、その厚みは、水晶振動子を用いた膜厚センサにより制御されることが多い。特に、最近では、水晶振動子からのレート値が変動した場合、蒸着レート(蒸気量)を所望の膜厚にできるように調節し、所望の膜厚を得ることが可能な成膜方法が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−070227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の成膜方法では、1つの水晶振動子からのレート値と、電力センサからの加熱電力の変動により、該水晶振動子の外乱によるレート値の変化を検出し、水晶振動子からの出力に基づいて水晶振動子のツーリングファクタを変更している。
【0006】
このような方法では、複数の水晶振動子を有する膜厚センサを備えた蒸着装置では、複数の水晶振動子のそれぞれの特性が微妙にばらつく場合には、長時間にわたり蒸着速度を高精度に制御できない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、複数の水晶振動子を備えた膜厚センサにおいて、複数の水晶振動子によって検知される蒸着速度のばらつきが抑えられ、長時間にわたり蒸着速度が高精度に制御される蒸着装置及び蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着装置は、真空容器と、蒸着源と、膜厚測定器と、制御装置とを具備する。
上記蒸着源は、上記真空容器内に設けられる。
上記膜厚測定器は、上記蒸着源に対向する複数の水晶振動子を含む膜厚センサを有する。上記膜厚測定器は、上記膜厚センサから選択されるいずれかの水晶振動子によって蒸着材料の蒸着速度が検知可能である。上記膜厚測定器は、上記蒸着源に対する基板及び上記膜厚センサの配置位置によって生じる、上記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と上記水晶振動子に形成される上記蒸着材料の上記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数を上記複数の水晶振動子のそれぞれに対して設定可能である。
上記制御装置は、上記水晶振動子によって検知される上記蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の膜厚を制御する。
上記制御装置は、
(a)上記膜厚センサから第1水晶振動子を選択し、上記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の上記膜厚を制御するステップと、
(b)上記第1水晶振動子による上記蒸着速度の検知を続け、上記第1水晶振動子の検知時間または上記第1水晶振動子の共振周波数が許容範囲を超えた場合には、上記膜厚センサから第2水晶振動子を選択するステップと、
(c)上記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度と、上記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度との差が目的値でない場合には、上記第2水晶振動子の上記ツーリング係数を補正して、上記差を目的値にするステップと、
(d)上記第2水晶振動子を第1水晶振動子とみなし、上記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の上記膜厚を制御するステップと、
(e)上記(b)ステップから上記(d)ステップまでを繰り返す。
【0009】
このような蒸着装置であれば、複数の水晶振動子を含む膜厚センサを用いても、複数の水晶振動子のそれぞれの水晶振動子の特性によって生じる蒸着速度のばらつきが抑えられるので、複数の水晶振動子のそれぞれによって蒸着源の蒸着量を長時間にわたり高精度に制御できる。
【0010】
上記の蒸着方法において、上記ステップ(c)において、上記第1水晶振動子によって検知される上記蒸着速度は、上記第1水晶振動子の使用終了前の第1時間帯における蒸着速度の平均値とし、上記第2水晶振動子によって検知される上記蒸着速度は、上記第2水晶振動子の使用開始後の第2時間帯における蒸着速度の平均値としてもよい。
蒸着装置。
【0011】
このような蒸着装置であれば、第1水晶振動子の使用終了直前の蒸着速度に基づいて、第2水晶振動子の使用開始直後の蒸着速度の補正がなされるので、複数の水晶振動子によって蒸着源の蒸着量を連続的に制御できる。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着方法は、複数の水晶振動子を含む膜厚センサからいずれかの水晶振動子を選択し、上記水晶振動子に形成される蒸着材料の蒸着速度を検知することによって、基板に形成される上記蒸着材料の膜厚を制御し、蒸着源に対する上記基板及び上記膜厚センサの配置位置によって生じる、上記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と上記水晶振動子に形成される上記蒸着材料の上記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数を上記複数の水晶振動子のそれぞれに対して設定可能な上記膜厚センサを用いる。
上記蒸着方法は、
(a)上記膜厚センサから第1水晶振動子を選択し、上記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の上記膜厚を制御するステップと、
(b)上記第1水晶振動子による上記蒸着速度の検知を続け、上記第1水晶振動子の検知時間または上記第1水晶振動子の共振周波数が許容範囲を超えた場合には、上記膜厚センサから第2水晶振動子を選択するステップと、
(c)上記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度と、上記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度との差が目的値でない場合には、上記第2水晶振動子の上記ツーリング係数を補正して、上記差を目的値にするステップと、
(d)上記第2水晶振動子を第1水晶振動子とみなし、上記第1水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の上記膜厚を制御するステップと、
(e)上記(b)ステップから上記(d)ステップまでを繰り返す。
【0013】
このような蒸着方法であれば、複数の水晶振動子を含む膜厚センサを用いても、複数の水晶振動子のそれぞれの水晶振動子の特性によって生じる蒸着速度のばらつきが抑えられるので、複数の水晶振動子のそれぞれによって蒸着源の蒸着量を長時間にわたり高精度に制御できる。
【0014】
上記の蒸着方法では、上記ステップ(c)において、上記第1水晶振動子によって検知される上記蒸着速度は、上記第1水晶振動子の使用終了前の第1時間帯における蒸着速度の平均値とし、上記第2水晶振動子によって検知される上記蒸着速度は、上記第2水晶振動子の使用開始後の第2時間帯における蒸着速度の平均値としてもよい。
【0015】
このような蒸着方法であれば、第1水晶振動子の使用終了直前の蒸着速度に基づいて、第2水晶振動子の使用開始直後の蒸着速度の補正がなされるので、複数の水晶振動子によって蒸着源の蒸着量を連続的に制御できる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明によれば、複数の水晶振動子を備えた膜厚センサにおいて、複数の水晶振動子によって検知される蒸着速度のばらつきが抑えられ、長時間にわたり蒸着速度が高精度に制御される蒸着装置及び蒸着方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】図(a)及び図(b)は、本実施形態に係る蒸着装置の概略的断面図である。図(c)は、本実施形態に係る蒸着装置に設置された膜厚センサの概略的斜視図である。
図2】本実施形態に係る蒸着装置のブロック構成図である。
図3】本実施形態に係る蒸着方法の概要を示すグラフ図である。
図4】本実施形態に係る蒸着方法の作用を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。
【0019】
図1(a)及び図1(b)は、本実施形態に係る蒸着装置の概略的断面図である。図1(c)は、本実施形態に係る蒸着装置に設置された膜厚センサの概略的斜視図である。図1(a)が正面図とした場合、図1(b)は、側面図に相当する。
【0020】
蒸着装置1は、真空容器10と、蒸着源20と、基板搬送機構30と、膜厚測定器40と、温度センサ50と、制御装置60とを具備する。蒸着装置1では、X軸方向における基板90と蒸着源20との相対位置を変えながら、基板90に蒸着材料20mが蒸着される。図1(a)、(b)では、蒸着源20が固定され、蒸着源20の上方をX軸方向に基板90が移動する蒸着装置が例示されている。
【0021】
真空容器10は、減圧状態が維持することが可能な容器である。真空容器10には、真空容器10内のガスを排気する排気系が設けられる。また、真空容器10には、真空容器10外から真空容器10内にガスを供給することが可能なガス供給機構が設けられてもよい。真空容器10をX−Y平面で切断したときの形状は、例えば、矩形状である。
【0022】
蒸着源20は、真空容器10内に設けられている。蒸着源20は、例えば、真空容器10内の底部または底部近傍に設けられている。蒸着源20は、複数の蒸着源20sを有する。複数の蒸着源20sのそれぞれは、基板90が移動する方向に対して交差する方向(例えば、直交する方向)に並ぶ。蒸着源20は、いわゆるリニアソース型の蒸着源である。
【0023】
複数の蒸着源20sのそれぞれは、蒸着材料20mを収容する。複数の蒸着源20sのそれぞれは、加熱装置(不図示)が設けられ、外部から供給される交流電圧によって加熱される。加熱装置は、例えば、誘導加熱装置または抵抗加熱装置である。複数の蒸着源20sのそれぞれが加熱されると、複数の蒸着源20sのそれぞれから、基板90に向けて蒸着材料20mが蒸発する。蒸着材料20mは、例えば、有機EL素子の発光層及びキャリア輸送層を構成する有機材料である。蒸着材料20mは、有機材料とは限らず、無機材料、金属等でもよい。
【0024】
基板搬送機構30は、蒸着源20上に設けられる。基板搬送機構30は、基板90が基板ホルダ91によって保持された状態で、基板90及び基板ホルダ91を真空容器10内で搬送する。基板搬送機構30には、基板90側に図示しないロール機構が設けられる。例えば、基板搬送機構30は、基板90及び基板ホルダ91を複数の蒸着源20sのそれぞれが並ぶ方向に対して直交する方向に搬送する。
【0025】
複数の蒸着源20sのそれぞれから、基板90に向けて蒸着材料20mが蒸発すると、基板90の成膜対象面90dに蒸発物質が付着して、基板90に所望の厚みの薄膜が形成される。また、基板90を一定速度で移動しながら、成膜対象面90dへの蒸着を行うことにより、成膜対象面90dにおける局所成膜が抑えられ、成膜対象面90dに均一な厚みの薄膜が形成される。
【0026】
膜厚測定器40は、膜厚センサ41と、膜厚センサ42とを有する。膜厚センサ41、42は、蒸着源20からの蒸着材料20mの量を測定し、基板90に形成される薄膜の厚み(または、蒸着速度)を制御する。膜厚センサ41、42は、蒸着源20に対向する。但し、膜厚センサ41、42は、蒸着材料20mが基板90に到達するのを妨げないように配置される。例えば、膜厚センサ41、42は、蒸着源20と基板90との間には配置されない。蒸着装置1では、蒸着源20に対する、膜厚センサ41、42のそれぞれの幾何学的位置が固定されている。膜厚センサ41、42の出力は、制御装置60に入力される。
【0027】
ここで、膜厚センサ41は、実測用のセンサとして用いられる。膜厚センサ42は、膜厚センサ41に代わり、蒸着源20から発せられる蒸着材料20mの蒸発量を補正する代替用の予備センサとして用いてもよい。膜厚センサ42は、蒸着装置1から取り除いてもよい。
【0028】
膜厚センサ41は、本体41bと、複数の水晶振動子41cと、回転式のシャッタ41sを有する(図1(c))。膜厚センサ41は、例えば、12個の水晶振動子41cを含むマルチセンサである。膜厚センサ41に含まれる水晶振動子41cの数は、12個に限らない。
【0029】
シャッタ41sには、複数の水晶振動子41cのいずれかが露出する開口41hが設けられている。シャッタ41sの回転により、膜厚センサ41から任意の水晶振動子41cが露出、選択される。膜厚センサ41では、膜厚センサ41から選択される任意の水晶振動子41cによって、それぞれの水晶振動子41cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度が検知可能である。
【0030】
膜厚センサ42は、本体42bと、基準となる水晶振動子42cと、シャッタ42sとを含む。膜厚センサ42では、水晶振動子42cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度が検知可能である。
【0031】
また、膜厚測定器40では、蒸着源20に対する基板90と、膜厚センサ41との配置位置(幾何的位置)によって、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度と、複数の水晶振動子41cのそれぞれに形成される蒸着材料20mの蒸着速度とに、誤差が生じた場合、この誤差を補正するツーリング係数(T Factor(T.F.))を複数の水晶振動子41cのそれぞれに対して設定可能になっている。
【0032】
温度センサ50は、複数の蒸着源20sのそれぞれに設置されている。温度センサ50は、例えば、熱電対により温度を測定する。温度センサ50は、制御装置60に接続されている。温度センサ50は、適宜、蒸着装置1から取り除いてもよい。
【0033】
制御装置60は、膜厚測定器40及び温度センサ50の測定結果に基づいて、蒸着源20に設けられた加熱装置に供給される電力(交流電圧)を調整し、蒸着源20を所望の温度に調整し、蒸着材料20mの量が所望の値となるように制御する。
【0034】
図2(a)及び図2(b)は、本実施形態に係る蒸着装置のブロック構成図である。ここで、図中のSVは、設定信号であり、SPは、目標信号であり、MVは、制御信号であり、PVは、測定信号である。
【0035】
蒸着装置1では、膜厚測定器40の膜厚センサ41から任意の水晶振動子41cが選択され、水晶振動子41cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度を検知することによって、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚が制御される。
【0036】
例えば、図2(a)には、温度センサ50を使用しない例が示されている。この場合、使用者によって所望の蒸着速度(SV)が蒸着装置1に設定されると、蒸着速度(SV)と、水晶振動子41cによって検知された蒸着速度(PV)との差が目的値内に収まるように交流電源に制御信号(MV)が送られる。この結果、使用者は、所望する蒸着速度で基板90に蒸着材料20mを蒸着することができる。この制御は、例えば、PID(Proportional Integral Differential)制御により行われる。
【0037】
なお、水晶振動子41cによって検知される蒸着速度(PV)は、速度フィルタによって平均化処理がなされる。これらのPID制御及び膜厚測定器40の管理は、制御装置60により一括して行われる。
【0038】
一方、温度センサ50を使用し、蒸着源20の温度を管理することにより、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚を制御することもできる。例えば、図2(b)に示すように、蒸着速度(SV)と、蒸着速度(PV)との差は、温度差として予め変換される。そして、この温度差が目的値内に収まるように、温度センサ50によって検知された温度(PV)が所望の温度になるように、交流電源に制御信号(MV)が送られる。この結果、使用者は、所望する蒸着速度で基板90に蒸着材料20mを蒸着することができる。
【0039】
特に、リニアソース型の蒸着源20のように、熱容量が大きい蒸着源を用いる場合は、蒸着源20の蒸発量を直接的に検知して蒸着速度を制御する方法(図2(a))よりも、蒸着源20の温度を検知して蒸着速度を制御する方法(図2(b))のほうが、蒸発量の過度現象が抑制されて、より精度の高い膜厚制御ができる。
【0040】
しかし、膜厚センサ41は、複数の水晶振動子41cを含む。これら複数の水晶振動子41cのそれぞれの特性が微妙にばらついた場合、蒸着材料20mの蒸発量が一定だとしても、複数の水晶振動子41cのそれぞれによって検知される蒸着速度が同じ値を示すとは限らない。例えば、複数の水晶振動子41cのそれぞれの表面状態(例えば、研磨状態)、厚みが異なる場合、複数の水晶振動子41cのそれぞれによって検知される蒸着速度が異なってしまう。特に、蒸着速度が低くなるほど(例えば、0.01nm/秒〜数10nm/秒)、蒸着速度のばらつきが顕著になる。
【0041】
これにより、図2(a)、(b)で示した制御を試みても、PID制御で用いられる蒸着速度(PV)の信号が水晶振動子ごとにばらついてしまい、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度が水晶振動子ごとにばらつくことになる。
【0042】
このような状況の中、蒸着装置1では、以下の蒸着方法により、蒸着速度(PV)の信号が水晶振動子ごとにばらつくことなく、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度が各水晶振動子を用いて高精度に制御される。この方法は、制御装置60によって自動的に行われる。例えば、制御装置60は、複数の水晶振動子41cを含む膜厚センサ41からいずれかの水晶振動子41cを選択する。この水晶振動子41cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度を検知することによって、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚が制御される。
【0043】
図3は、本実施形態に係る蒸着方法の概要を示すグラフ図である。
図3の上段には、時間と基板90に形成される薄膜の蒸着速度との関係が示されている。図3の下段には、時間と膜厚センサ41で計測される薄膜の蒸着速度との関係が示されている。上段、下段の時間のスケールは同じである。また、上段、下段ともに、水晶振動子41cが切り替えられるときの蒸着速度が示されている。
【0044】
制御装置60は、膜厚センサ41からいずれかの水晶振動子41c−1(第1水晶振動子)を選択し、最初に選択された水晶振動子41c−1によって検知される蒸着速度に基づいて、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚を制御する(ステップ10)。この区間をA区間とする。
【0045】
A区間での水晶振動子41c−1による蒸着速度の検知が続けられ、水晶振動子41c−1の検知時間または共振周波数が許容範囲を超えた場合には、シャッタ41sを回転し、膜厚センサ41において次の水晶振動子41c−2(第2水晶振動子)が選択される(ステップ20)。
【0046】
但し、A区間での水晶振動子41c−1によって検知される蒸着速度のデータとしては、水晶振動子41c−1が使用される終了前の第1時間帯における蒸着速度の平均値が取得される。例えば、第1時間帯は、水晶振動子41c−1の使用が終了される時点から70秒前まで遡ってからの60秒間とする。
【0047】
次に、水晶振動子41c−1から水晶振動子41c−2に切り替えられた直後は、水晶振動子41c−2が表示する蒸着速度が安定するまで予備時間(待機時間)を設ける。予備時間では、水晶振動子41c−2による蒸着速度の表示を非表示にしてもよい。
【0048】
次に、予備時間が経過した後、水晶振動子41c−2による蒸着速度の表示を開始する。続いて、水晶振動子41c−2による表示開始後から第2時間帯において、水晶振動子41c−2による蒸着速度の平均値が取得される。例えば、第2時間帯は、水晶振動子41c−2の使用開始後の予備時間が過ぎてから10秒経過後の60秒間とする。
【0049】
次に、水晶振動子41c−1によって検知される蒸着速度(平均値)と、水晶振動子41c−2によって検知される蒸着速度(平均値)との差d1が目的値でない場合には、水晶振動子41c−2のツーリング係数を補正して(T補正)、その差d1を目的値にする(ステップ30)。目的値は、例えば、"0"とする。
【0050】
次に、ツーリング係数が補正された水晶振動子41c−2によって検知される蒸着速度に基づいて、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚を制御する(ステップ40)。この区間をC区間とする。
【0051】
次に、水晶振動子41c−2を水晶振動子41c−1とみなし、ステップ20からステップ40までを再び繰り返すことで、水晶振動子41c−1、2以外の水晶振動子41cの全てについて、ツーリング係数が適宜補正される。
【0052】
なお、区間Aと区間Cとの間のB区間では、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚が水晶振動子41cを用いて制御されていない。B区間では、A区間の終了間際の蒸着源20の温度を維持する。これは、B区間では、水晶振動子41c−2の動作が安定する予備時間やT補正を要し、この区間での水晶振動子41c−2を用いて、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚を高精度に制御できないからである。
【0053】
但し、B区間は、水晶振動子41c−2の予備時間とT補正に要する時間とを合わせた程度の短時間となるため、A区間の終了間際の蒸着源20の温度を維持することにより、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚は、高精度に制御される。
【0054】
このような蒸着方法であれば、複数の水晶振動子41cを含む膜厚センサ41を用いても、複数の水晶振動子41cのそれぞれの特性によって生じる蒸着速度のばらつきが抑えられるので、複数の水晶振動子41cのそれぞれによって蒸着源20の蒸着量を長時間にわたり高精度に制御できる。
【0055】
特に、本実施形態では、水晶振動子41c−1の使用終了直前の蒸着速度に基づいて、次に使用する水晶振動子41c−2の使用開始直後の蒸着速度の補正がなされるので、複数の水晶振動子41cによって蒸着源20の蒸着量を連続的に制御できる。この現象を以下に説明する。
【0056】
図4は、本実施形態に係る蒸着方法の作用を示すグラフ図である。
【0057】
例えば、水晶振動子41c−1によって検知される初期の時点1sでの蒸着速度を仮に10nm/sとする。このとき、基板90における蒸着速度も10nm/sであるとする。但し、蒸着源20に同じ電力を供給しつつ、蒸着材料20mの基板90への蒸着を続けると、蒸着源20からの蒸発量が経時で変動する場合がある。この要因は、例えば、蒸着を続けた結果、蒸着源20内の蒸着材料20mの量が変動した場合には、蒸着源20に同じ電力を供給しても、蒸着材料20mの単位体積あたりに投入される電力が変動するからである。
【0058】
本実施形態では、この蒸発量の変動を複数の水晶振動子41cを用いて連続的に追跡することができる。
【0059】
例えば、水晶振動子41c−1によって検知される終期の時点1eでの蒸着速度が10nm/sから11nm/sになったとき、次の水晶振動子41c−2によって検知される初期の時点2sでの蒸着速度は、水晶振動子41c−1の終期の時点1eでの蒸着速度の情報を引き継ぎ、11nm/sに補正される。ここで、目的値は、「0」としている。
【0060】
続いて、水晶振動子41c−2によって検知される終期の時点2eでの蒸着速度が11nm/sから12nm/sになったとき、次の水晶振動子41c−3によって検知される初期の時点3sでの蒸着速度は、水晶振動子41c−2の終期の時点2eでの蒸着速度の情報を引き継ぎ、12nm/sに補正される。なお、蒸着源20に投入される電力は、時点1sから一定であるとする。
【0061】
このような補正が水晶振動子41c−3以降に選択される水晶振動子41cに対してもなされるため、蒸発量の変動を複数の水晶振動子41cを用いて連続的に追跡することができる。
【0062】
例えば、3番目の水晶振動子41c−3の補正が直前の水晶振動子41c−2の終期2e以外の蒸着速度を基に補正されると、以下のような不具合が起き得る。例えば、3番目の水晶振動子41c−3が1番目の水晶振動子41c−1の初期の時点1sでの蒸着速度を基準に補正されてしまうと、水晶振動子41c−3の初期の時点3sでの蒸着速度が「目的値」を0とするために、12nm/sから10nm/sと不連続に補正されてしまう。このため、蒸発量の変動(揺らぎ)が補正に反映されなくなる。
【0063】
なお、実際には、複数の水晶振動子41cのそれぞれによって検知された蒸着速度に基づいて、蒸着源20に投入する電力が適正に制御される。これにより、複数の水晶振動子41cを用いて、基板90に形成される薄膜の蒸着速度が一定値(上記の例では、終始10nm/s)に制御される。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合させることができる。
【符号の説明】
【0065】
1…蒸着装置
10…真空容器
20、20s…蒸着源
20m…蒸着材料
30…基板搬送機構
40…膜厚測定器
41、42…膜厚センサ
41h…開口
41s、42s…シャッタ
41b、42b…本体
41c、41c−1、41c−2、41c−3、42c…水晶振動子
50…温度センサ
60…制御装置
90…基板
90d…成膜対象面
91…基板ホルダ
図1
図2
図3
図4