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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-137922(P2019-137922A)
(43)【公開日】2019年8月22日
(54)【発明の名称】表面処理方法及び表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/12 20060101AFI20190726BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20190726BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20190726BHJP
【FI】
   C25D11/12 Z
   C25D17/00 A
   C25D11/04 101E
   C25D11/04 301
   C25D11/04 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-92836(P2019-92836)
(22)【出願日】2019年5月16日
(62)【分割の表示】特願2017-160602(P2017-160602)の分割
【原出願日】2017年8月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(71)【出願人】
【識別番号】598006336
【氏名又は名称】アルバックテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】石榑 文昭
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 さかえ
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勝博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋志
(57)【要約】
【課題】小電流密度の電源装置で、かつ簡易な電解液の冷却機構であっても、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理によって大きな面積の被処理体に対して酸化被膜を形成することが可能な表面処理方法を提供する。
【解決手段】被処理体11の被処理面を、連続的又は断続的に酸化処理する際の処理回数に合わせて、複数の処理区画A,B,C・・Nを設定する。第M工程(Mは2以上の整数)として、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとなるように設定し、前記複数の処理区画A,B,C・・Nに対して順にアノード酸化処理を行う。前記電圧Vを前記最高電圧Vmaxの方向へ順に増加させて所定の数値とし、前記第M工程を繰り返し行う。これにより、本発明の表面処理方法は、合計膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ金属からなる被処理体を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理を行い、前記被処理体に酸化被膜を形成する表面処理装置であって、
前記被処理体の被処理面上に前記アノード酸化処理によって前記酸化被膜を形成するための陽極手段と、
前記電解液を収納し、かつ、該電解液に対する前記陽極手段の浸漬を可能とする開口部を備えた電解液槽と、
前記電解液中において前記陽極手段と対向して配置された陰極手段と、
前記陽極手段と前記陰極手段が前記電解液に浸漬された状態において、前記陽極手段と前記陰極手段との間に電流Iを発生させて、前記アノード酸化処理を行うための電源手段と、
前記被処理体のうち特定の処理区画までを前記電解液に浸漬させるために、前記被処理体を前記電解液の深さ方向へ移動させ、かつ、前記特定の処理区画までが前記電解液に浸漬された位置に前記被処理体を静止させる機能を備えた前記被処理体の移動手段と、
前記電源手段と前記移動手段とを制御する制御装置と、
を含み、
前記移動手段は、前記被処理体の全域に亘って、所定の電圧を印加して一連のアノード酸化処理が終了する毎に、前記電解液の中から前記被処理体の全域が露呈する位置まで、該被処理体を該電解液から引き上げる方向へ前記陽極手段を移動させるように構成されている、
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記被処理体の全域に亘ってアノード酸化処理である第M工程を繰り返すとともに、
所定の電圧Vを印加したアノード酸化処理である前記第M工程が終了する毎に、次の第M工程においては、前記所定の電圧Vより高い電圧を前記被処理体に印加する機能を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流値Iとを比較し、
前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流Iとの関係が、「I≧I」を満たす場合に、前記被処理体を前記電解液の深さ方向に移動させるとともに、
前記アノード酸化処理時の電流値Iが、前記所定の電流値Iを超える場合は前記被処理体を静止させる機能を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の表面処理装置によって、前記電解液に浸漬した前記被処理体の前記被処理面に酸化被膜を形成する表面処理方法であって、
前記アノード酸化処理は、
前記電源手段によって、前記アノード酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持して前記被処理面の全域に亘って酸化被膜を形成する第M工程を備え、
前記第M工程は、複数回に渡って繰り返し行う工程であって、
前記アノード酸化処理の電圧を電圧Vで行う最初の第M工程から、前記アノード酸化処理の電圧を前記最高電圧Vmaxで行う最後の第M工程までの間を、前記アノード酸化処理の電圧を、前記電圧Vから前記最高電圧Vmaxになるまで段階的に増加させることで、前記被処理面の全域に合計膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を形成するものとされ、
それぞれの第M工程は、同一の前記電圧V条件に保持したままで、前記被処理体を前記電解液の深さ方向の幅を有する処理区画ごとに移動させる複数のステップから構成され、
各ステップでは、前記移動手段により、処理を終えた前記処理区画に隣接する処理区画まで前記電解液に浸漬するように、前記被処理体を前記電解液の深さ方向に移動させる、
ことを特徴とする表面処理方法。
【請求項5】
前記第M工程では、前記ステップ毎に前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流値Iとを比較し、
前記アノード酸化処理時の電流値Iが、前記所定の電流値Iを超える場合は前記被処理体を静止させるとともに、
前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流Iとの関係が、「I≧I」を満たす場合に、前記被処理体を前記電解液の深さ方向に移動させて次のステップに進む、
ことを特徴とする請求項4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記第M工程では、前記ステップを連続した1つの工程と見なして、前記電解液の深さ方向に前記被処理体を連続的に移動するか、
または、
前記ステップ毎に前記被処理体を停止するとともに、前記電解液の深さ方向に前記被処理体を断続的に移動する、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理体に表面処理を行う表面処理方法及び表面処理装置に係る。より詳細には、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン等のバルブ金属からなる被処理体の被処理面に酸化被膜を形成する表面処理方法及び表面処理装置に関する。なお、バルブ金属は、バルブメタルあるいは弁金属とも呼称される。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、小面積の被処理体111に対してマイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理を行うことにより、被処理体の表面に酸化被膜を形成する表面処理方法が公知である。図7において、符号121は電解液槽を、符号122は電解液を、それぞれ表わしている。被処理体111が小面積の場合には、被処理体111の全体を電解液122の中に浸漬することにより酸化被膜を形成してもよい。しかしながら、被処理体111が大面積になるに連れて、図7に示す手法、すなわち、高電圧、高電流密度を必要とするマイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理では、電源、チラー等の設備が大きくなり、大面積の被処理体を処理するのは困難になる。
【0003】
この課題を解消するために、大面積の被処理体の表面を分割して複数回に分けてマイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理を行うことにより、被処理体の表面全体に酸化被膜を形成する表面処理方法を、本発明者は先に提案している(特許文献1)。ここで、マイクロアーク酸化処理(火花放電を伴うアノード酸化処理)とは、アノード酸化処理の一種であり、優れた酸化被膜を形成することが可能な表面処理方法を意味する。しかし、特許文献1に開示された方法では、電解液から被処理体を引き上げてマスク材を除去する工程があるため作業効率が悪いという課題があった。
【0004】
特許文献1の方法における課題を解決するため、マスクを用いず表面処理する方法を、本発明者はさらに提案している(特許文献2)。これにより、マスク材を除去する工程が不要となり、作業効率が改善された。しかし、特許文献2に開示された方法では、被処理体の処理面に縞模様が残存し、処理面の外観の改善が求められていた。
【0005】
そこで、本発明者は大面積の被処理体の表面を分割すること無く、数mの被処理体に対してマイクロアーク酸化処理する方法を検討した。マイクロアーク酸化処理(火花放電を伴うアノード酸化処理)の場合、火花放電を伴わない通常のアノード酸化処理と比較して、高い電流密度、かつ高電圧で処理を行う。このため、マイクロアーク酸化処理によって、処理面積が大きな被処理体に対して酸化被膜を形成する場合、大規模な電源設備や、大型の電解液冷却機構などが必要となり、設備面でコストがかかるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4836921号公報
【特許文献2】特許第5770575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、小電流の電源装置で、かつ簡易な電解液の冷却機構であっても、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理によって大きな面積の被処理体に対して断続的に酸化被膜を形成することが可能な、表面処理方法および表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は次のような表面処理方法および表面処理装置を提供した。すなわち、
バルブ金属からなる被処理体を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理を行い、前記被処理体に酸化被膜を形成する表面処理装置であって、
前記被処理体の被処理面上に前記アノード酸化処理によって前記酸化被膜を形成するための陽極手段と、
前記電解液を収納し、かつ、該電解液に対する前記陽極手段の浸漬を可能とする開口部を備えた電解液槽と、
前記電解液中において前記陽極手段と対向して配置された陰極手段と、
前記陽極手段と前記陰極手段が前記電解液に浸漬された状態において、前記陽極手段と前記陰極手段との間に電流Iを発生させて、前記アノード酸化処理を行うための電源手段と、
前記被処理体のうち特定の処理区画までを前記電解液に浸漬させるために、前記被処理体を前記電解液の深さ方向へ移動させ、かつ、前記特定の処理区画までが前記電解液に浸漬された位置に前記被処理体を静止させる機能を備えた前記被処理体の移動手段と、
前記電源手段と前記移動手段とを制御する制御装置と、
を含み、
前記移動手段は、前記被処理体の全域に亘って、所定の電圧を印加して一連のアノード酸化処理が終了する毎に、前記電解液の中から前記被処理体の全域が露呈する位置まで、該被処理体を該電解液から引き上げる方向へ前記陽極手段を移動させるように構成されている、
ことを特徴とする。
本発明において、前記制御装置は、前記被処理体の全域に亘ってアノード酸化処理である第M工程を繰り返すとともに、
所定の電圧Vを印加したアノード酸化処理である前記第M工程が終了する毎に、次の第M工程においては、前記所定の電圧Vより高い電圧を前記被処理体に印加する機能を備える、
ことを特徴とする。
本発明において、前記制御装置は、前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流値Iとを比較し、
前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流Iとの関係が、「I≧I」を満たす場合に、前記被処理体を前記電解液の深さ方向に移動させるとともに、
前記アノード酸化処理時の電流値Iが、前記所定の電流値Iを超える場合は前記被処理体を静止させる機能を備える、
ことを特徴とする。
本発明は、上記の表面処理装置によって、前記電解液に浸漬した前記被処理体の前記被処理面に酸化被膜を形成する表面処理方法であって、
前記アノード酸化処理は、
前記電源手段によって、前記アノード酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持して前記被処理面の全域に亘って酸化被膜を形成する第M工程を備え、
前記第M工程は、複数回に渡って繰り返し行う工程であって、
前記アノード酸化処理の電圧を電圧Vで行う最初の第M工程から、前記アノード酸化処理の電圧を前記最高電圧Vmaxで行う最後の第M工程までの間を、前記アノード酸化処理の電圧を、前記電圧Vから前記最高電圧Vmaxになるまで段階的に増加させることで、前記被処理面の全域に合計膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を形成するものとされ、
それぞれの第M工程は、同一の前記電圧V条件に保持したままで、前記被処理体を前記電解液の深さ方向の幅を有する処理区画ごとに移動させる複数のステップから構成され、
各ステップでは、前記移動手段により、処理を終えた前記処理区画に隣接する処理区画まで前記電解液に浸漬するように、前記被処理体を前記電解液の深さ方向に移動させる、
ことを特徴とする。
本発明において、前記第M工程では、前記ステップ毎に前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流値Iとを比較し、
前記アノード酸化処理時の電流値Iが、前記所定の電流値Iを超える場合は前記被処理体を静止させるとともに、
前記アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流Iとの関係が、「I≧I」を満たす場合に、前記被処理体を前記電解液の深さ方向に移動させて次のステップに進む、
ことを特徴とする。
本発明において、前記第M工程では、前記ステップを連続した1つの工程と見なして、前記電解液の深さ方向に前記被処理体を連続的に移動するか、
または、
前記ステップ毎に前記被処理体を停止するとともに、前記電解液の深さ方向に前記被処理体を断続的に移動する、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明は、バルブ金属からなる被処理体の被処理面に、複数の処理区画を設定し、各処理区画を断続的に電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理を行い、前記被処理面に酸化被膜を形成する表面処理方法であって、
前記アノード酸化処理は、前記被処理体を前記電解液の深さ方向の幅を有する前記処理区画ごとに移動させる複数のステップから構成される第M工程を備え、
前記第M工程は、
前記被処理体のうち最初の処理区画のみを前記電解液に浸漬させて、前記アノード酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとなるように、前記最初の処理区画に所望の酸化被膜を形成するステップに続けて、
一つ手前のステップを終えた前記被処理体を、処理を終えた前記処理区画に隣接する処理区画まで前記電解液に浸漬させて、先のステップと同一電圧V条件で最初と最後の間の前記処理区画に対して所望の酸化被膜を形成するステップを繰り返し行い、
最後の処理区画まで前記電解液に浸漬させて、先のステップと同一電圧V条件で前記最後の処理区画に所望の酸化被膜を形成するステップを行うことで、前記電圧Vに保持して前記被処理面の全域に亘って酸化被膜を形成するものとされ、
さらに、前記第M工程は、複数回に渡って繰り返し行う工程であって、
前記アノード酸化処理の電圧を電圧Vで行う最初の第M工程から、前記アノード酸化処理の電圧を前記最高電圧Vmaxで行う最後の第M工程までの間を、前記アノード酸化処理の電圧を、前記電圧Vから前記最高電圧Vmaxになるまで段階的に増加させることで、前記被処理面の全域に合計膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を形成する、
ことができる。
【0010】
本発明は、上記において、前記第M工程の繰り返しが2以上である、ことができる。
本発明は、上記において、前記第M工程を繰り返し行う際における所定の電流の値が、前記電流Iと同じである、ことができる。
本発明は、上記において、前記被処理体における複数の前記処理区画を順に前記電解液に浸漬させる際には、該電解液の深さ方向へ該被処理体が進行するか、または停止するように、前記電解液の液面に対する前記被処理体の位置を制御する、ことができる。
本発明は、上記における前記最後の第M工程に続けて、
前記最後の第M工程が行われた前記電圧Vよりも低い電圧VM−まで、所定の時間で連続的又は断続的に電圧を降下させて、前記アノード酸化処理を行う工程Pと、
前記電圧VM−で定電圧処理を行う工程Qと、を順に、さらに備える、ことができる。
本発明は、上記に記載の表面処理方法によりアノード酸化処理を行い、前記被処理体に酸化被膜を形成する表面処理装置であって、
前記被処理体の被処理面上に前記アノード酸化処理によって前記酸化被膜を形成するための陽極手段と、
前記電解液を収納し、かつ、該電解液に対する前記陽極手段の浸漬を可能とする開口部を備えた電解液槽と、
前記電解液中において前記陽極手段と対向して配置された陰極手段と、
前記陽極手段と前記陰極手段が前記電解液に浸漬された状態において、前記陽極手段と前記陰極手段との間に前記電流Iを発生させて、前記アノード酸化処理を行うための電源手段と、
前記被処理体の前記処理区画のうち特定の処理区画までを前記電解液に浸漬させるために、前記被処理体を前記電解液の深さ方向へ移動させ、かつ、前記特定の処理区画までが前記電解液に浸漬された位置に前記被処理体を静止させる機能を備えた前記被処理体の移動手段と、を含み、
前記移動手段は、前記被処理体の全域に亘る前記第M工程が終了する毎に、前記電解液の中から前記被処理体の全域が露呈する位置まで、該被処理体を該電解液から引き上げる方向へ前記陽極手段を移動させるように構成されている、ことができる。
本発明は、上記に記載の表面処理方法によりアノード酸化処理を行い、前記被処理体に酸化被膜を形成する表面処理装置であって、
前記被処理体の被処理面上に前記アノード酸化処理によって前記酸化被膜を形成するための陽極手段と、
前記電解液を収納し、かつ、該電解液に対する前記陽極手段の浸漬を可能とする開口部を備えた電解液槽と、
前記電解液中において前記陽極手段と対向して配置された陰極手段と、
前記陽極手段と前記陰極手段が前記電解液に浸漬された状態において、前記陽極手段と前記陰極手段との間に電流を発生させて、前記アノード酸化処理を行うための電源手段と、
前記被処理体のうち特定の処理区画までを前記電解液に浸漬させるために、前記被処理体を前記電解液の深さ方向へ移動させ、かつ、前記所定の電流値Iと処理電流の値を比較し、前記所定の電流値Iを超える場合は前記被処理体を静止させる機能を備えた前記被処理体の移動手段と、を含み、
前記移動手段は、前記被処理体の全域に亘る前記第M工程が終了する毎に、前記電解液の中から前記被処理体の全域が露呈する位置まで、該被処理体を該電解液から引き上げる方向へ前記陽極手段を移動させるように構成され、かつ、前記第M工程の次の第M工程においては前記所定の電圧より高い電圧を所定の電圧として前記被処理体に印加している、ことができる。
【0011】
本発明は、バルブ金属からなる被処理体の被処理面に、複数の処理区画を設定し、各処理区画ごとに断続的に電解液に浸漬してアノード酸化処理を行い、前記被処理面に酸化被膜を形成する表面処理方法であって、
前記アノード酸化処理は、第M(Mは2以上の整数)工程から構成され、
前記第M工程は、
前記被処理体のうち第一処理区画のみを前記電解液に浸漬させて、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとなるように、前記被処理体の第一処理区画に所望の酸化被膜を形成する第Ma工程と、
前記第Ma工程を終えた被処理体を、前記第一処理区画に隣接する第二処理区画まで前記電解液に浸漬させて、第Ma工程と同一条件で前記二処理区画に所望の酸化被膜を形成する第Mb工程と、
前記第Mb工程を終えた被処理体を、第n処理区画まで前記電解液に浸漬させて、第Ma工程と同一条件で前記n処理区画に所望の酸化被膜を形成し、前記被処理面の全域に亘って酸化被膜を形成するする第Mn工程(nは1以上の整数)とを備え、
前記電圧Vを前記最高電圧Vmaxの方向へ順に増加させて所定の数値とし、前記第M工程を繰り返し行うことにより、合計膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を形成する、ことができる。
本発明は、上記において、前記アノード酸化処理は、前記nが1であり、前記第M工程を構成する、前記第Ma工程、前記第Mb工程、・・・前記第Mn工程が、前記被処理体を連続的または断続的に前記電解液に浸漬する、ことができる。
本発明は、上記において、前記第Mb工程、・・・前記第Mn工程における所定の電流の値が、前記第Ma工程における所定の電流Iと同じであることができる。
本発明は、上記において、前記被処理体における前記第一処理区画、前記第二処理区画、・・前記第n区画を順に前記電解液に浸漬させる際には、該電解液の深さ方向へ該被処理体が進行するか、または停止するように、前記電解液の液面に対する前記被処理体の位置を制御する、ことができる。
本発明は、上記において、前記電解液の液面に対する前記被処理体の位置を制御するために、前記電解液の液面の高さ位置を固定し、前記電解液の液面に対して前記被処理体の高さ位置を調整する、ことができる。
本発明は、上記において、前記電解液の液面に対する前記被処理体の位置を制御するために、前記被処理体の高さ位置を固定し、前記被処理体の高さ位置に対して前記電解液の液面の高さを調整する、ことができる。
本発明は、上記における最後の第M工程に続けて、前記最後の第M工程が行われた前記電圧Vよりも低い電圧VM−まで、所定の時間で連続的又は断続的に電圧を降下させて、前記アノード酸化処理を行う工程Pと、前記電圧VM−で定電圧処理を行う工程Qとを順に、さらに備えることができる。
【0012】
本発明は、バルブ金属からなる被処理体を電解液に浸漬してアノード酸化処理を行い、前記被処理体に酸化被膜を形成する表面処理装置であって、
前記被処理体の被処理面上にアノード酸化処理によって前記酸化被膜を形成するための陽極手段と、
前記電解液を収納し、かつ、該電解液に対する前記陽極手段の浸漬を可能とする開口部を備えた電解液槽と、
前記電解液中において前記陽極手段と対向して配置された陰極手段と、
前記陽極手段と前記陰極手段が前記電解液に浸漬された状態において、前記陽極手段と前記陰極手段との間に電流を発生させて、前記アノード酸化処理を行うための電源手段と、
前記被処理体のうち特定の処理区画までを前記電解液に浸漬させるために、前記被処理体を前記電解液の深さ方向へ移動させ、かつ、前記特定の処理区画までが前記電解液に浸漬された位置に前記被処理体を静止させる機能を備えた被処理体の移動手段と、を含み、
前記移動手段は、前記被処理体の全域に亘って、所定の電圧を印加して一連のアノード酸化処理が終了する毎に、前記電解液の中から前記被処理体の全域が露呈する位置まで、該被処理体を該電解液から引き上げる方向へ前記陽極手段を移動させるように構成されている、ことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る表面処理方法によれば、被処理体の被処理面が、断続的な酸化処理(マイクロアーク酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとする条件下で)、酸化被膜によって覆われるように、前述した第M工程(第M工程の繰り返しが2以上)を行う。また、前記電圧Vを前記最高電圧Vmaxの方向へ順に増加させて所定の数値VM+nとし、前記第M工程を繰り返し行うことにより、最終的な膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を形成する。これにより、本発明は、小電流密度の電源装置で、かつ簡易な電解液の冷却機構であっても、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理によって大きな面積の被処理体に対して断続的に酸化被膜を形成することが可能な、表面処理方法の提供に貢献する。
また、本発明の表面処理方法による被処理体の被処理面は、酸化被膜の形成時に最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとしたことにより、断続的に処理を行っても、処理面に色彩的な模様が残ることが無い。このため、処理面の外観の均質性に優れた酸化被膜を得ることが可能になる。
なお、本発明の表面処理方法において、前記アノード酸化処理は、前記第M工程の繰り返しが2以上であり、前記第M工程を構成するステップが、前記被処理体を連続的または断続的に前記電解液に浸漬する、こともできる。その際には、前記第M工程における所定の電流の値が、所定の電流Iで同じ数値とされる。
なお、本発明の表面処理方法において、前記アノード酸化処理は、前記nが1であり、前記第M工程を構成する、前記第Ma工程、前記第Mb工程、・・・前記第Mn工程が、前記被処理体を連続的または断続的に前記電解液に浸漬する、こともできる。その際には、前記第Mb工程、・・・前記第Mn工程における所定の電流の値が、前記第Ma工程における所定の電流Iと同じ数値とされる。
【0014】
本発明に係る表面処理装置は、被処理体のうち特定の処理区画までを電解液に浸漬させるために、前記被処理体を前記電解液の深さ方向へ移動させ、かつ、前記特定の処理区画までが前記電解液に浸漬された位置に前記被処理体を静止させる機能を備えた被処理体の移動手段を備えている。そして、前記移動手段は、前記被処理体の全域に亘って、所定の電圧を印加して一連のアノード酸化処理が終了する毎に、前記電解液の中から前記被処理体の全域が露呈する位置まで、該被処理体を該電解液から引き上げる方向へ前記陽極手段を移動させるように構成されている。これにより、本発明によれば、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理時の電流を所定の電流I以下に保持することが可能であるため、大容量の電源が不要となる。更に、全ての酸化皮膜の形成過程の発熱を積極的に下げることができるので、処理系の冷却するためのシステムを従来と比べて小さくすることができる。
ゆえに、本発明は、小電流密度の電源装置で、かつ簡易な電解液の冷却機構であっても、マイクロアーク酸化処理によって大きな面積の被処理体に対して断続的に酸化被膜を形成することが可能な表面処理装置をもたらす。
また、本発明の表面処理装置は、上述した陽極手段を備えているので、大面積の被処理物に対して、自動的に被処理物を覆うように所望の膜厚からなる酸化被膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る表面処理装置を示すブロック図。
図2】本発明に係る表面処理方法を示すフローチャート。
図3】本発明に係る表面処理方法を示す説明図。
図4】電圧および電流と処理時間との関係を示すグラフであり、本発明の方法で処理した場合の電圧電流曲線。
図5】電圧および電流と処理時間との関係を示すグラフであり、一括で処理した場合の電圧電流曲線。一括処理とは、被処理体の表面全域(全体)を同時に電解液に浸漬させ処理する方法である。
図6】浸漬する方向における被処理体の位置と処理時間との関係を示すグラフ。
図7】従来の表面処理方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る表面処理装置および表面処理方法の最良の形態について、図面に基づき説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る表面処理装置を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の表面処理装置は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被処理体11を電解液22に浸漬してアノード酸化処理を行い、前記被処理体に酸化被膜を形成する表面処理装置である。
この表面処理装置において、アノード酸化処理によって酸化被膜が形成される前記被処理体11が陽極手段として機能する。
【0018】
この表面処理装置において、電解液22を収納する電解液槽21は、該電解液に対する陽極手段(被処理体11)の浸漬を可能とする開口部を備えている。
電解液22の中には、浸漬された状態にある陽極手段(被処理体11)と対向する位置に、陰極手段17が配置されている。
本発明の表面処理装置は、前記アノード酸化処理を行うための電源手段30を備えている。この電源手段30は、陽極手段(被処理体11)と陰極手段17が電解液22に浸漬された状態において、陽極手段(被処理体11)と陰極手段17との間に電流を発生させて、前記アノード酸化処理を行う。
【0019】
本発明の表面処理装置は、被処理体11の移動手段(たとえば、アクチュエータ)40を備える。移動手段40は、第一支持部41と第二支持部42を介して被処理体11を保持する。この移動手段40は、被処理体11のうち特定の処理区画までを電解液22に浸漬させるために、被処理体11を電解液22の深さ方向(Z方向)へ移動させる機能と、前記特定の処理区画までが電解液22に浸漬された位置に被処理体11を静止させる機能とを備える。
【0020】
つまり、移動手段40は、上下動可能とされた第一支持部41と、この第一支持部41の他端と被処理体11の上端とを繋ぎ、被処理体11を釣り下げた状態に保つ第二支持部42を備える。これにより、被処理体11は、その全域(被処理体11が電解液22に浸漬される方向(Z方向)の全ての領域)に亘って、所定の電圧を印加して一連のアノード酸化処理を行うことができる。また、移動手段40は、前記一連のアノード酸化処理が終了する毎に、電解液22の中から被処理体11の全域が露呈する位置まで、被処理体11を電解液22から引き上げる方向へ前記陽極手段(被処理体11)を移動させるように構成されている。
【0021】
移動手段40の上下動は、シーケンサー50を介して情報処理装置60から制御される。情報処理装置60は、通信回線を通して、電源手段30から陽極手段(被処理体11)および陰極手段17に印加する情報(電圧、電流)を制御する。図1には、シーケンサー50と情報処理装置60が分割して配置される構成例を示しているが、これらを統合した制御装置としてもよい(不図示)。この制御装置が備える制御部は、上述した所定の電流の値と処理電流の値とを比較する機能を備えた比較部を有することが好ましい。
【0022】
図2は、本発明に係る表面処理方法を示すフローチャートである。図3は、本発明に係る表面処理方法を示す説明図である。以下の図3に基づく説明においては、前記アノード酸化処理は、前記ステップの数が「3以上」であり、前記第M工程(第M工程の繰り返しが2以上)を構成する、第MA工程(ステップ)、・・・第MN工程(ステップ)が、前記被処理体を「断続的」に前記電解液に浸漬する場合について詳述する。
本発明に係る表面処理方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被処理体11の被処理面に、複数の処理区画A、B、C、・・Nを設定[図3(a)]し、各処理区画ごとに断続的に電解液に浸漬してアノード酸化処理を行い、前記被処理面に酸化被膜を形成する。ここで、「断続的」とは、最初に処理区画Aを、次に処理区画Bまでを、その次に処理区画Cまでを、・・最後に処理区画Nまでを(すなわち、被処理体11の被処理面の全域を)、順に電解液に浸漬してアノード酸化処理を行うことを意味する。
図3(a)において、x1は被処理体11の幅を、x2は被処理体11の高さを、x3は被処理体11の厚さ、おのおの表わしている。
【0023】
本発明の表面処理方法におけるアノード酸化処理は、後述する第M(Mは2以上の整数)工程からなる。すなわち、
前記第M(Mは2以上の整数)工程は、以下に説明する第MA工程(ステップ)、第MB工程(ステップ)、第MC工程(ステップ)、・・・第MN工程(ステップ)から構成される。
【0024】
第MA工程(ステップ)は、被処理体11をZ方向へ距離Δaだけ移動する。これにより、被処理体11のうち第一処理区画Aのみを電解液22に浸漬した状態とする。この浸漬した状態を保ちながら、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとなるように、被処理体11の第一処理区画Aに所望の酸化被膜を形成する[図3(b)→図3(c):第MA工程(ステップ)]。図3(b)、図3(c)において、符号Δaは第一処理区画AのZ方向の幅である。図3(c)において、符号15a1は第一処理区画Aに形成された酸化被膜である。ここで、所定の電流は、オペレーターが、この電流値を入力するものである。本発明の表面処理装置(図1)は、所定の電流値の入力部も備えている。
【0025】
次に、前記第MA工程(ステップ)を終えた被処理体11をZ方向へ距離Δbだけ移動する。これにより、被処理体11が第一処理区画Aとともに、該第一処理区画Aに隣接する第二処理区画Bまで電解液22に浸漬した状態とする。この浸漬した状態を保ちながら、第MA工程(ステップ)と同一条件で第二処理区画Bに所望の酸化被膜を形成する[図3(d):第MB工程(ステップ)]。
その際、第一処理区画Aには酸化被膜は殆ど形成されない。図3(d)において、符号Δbは第二処理区画BのZ方向の幅である。図3(d)において、符号15b1は第二処理区画Bに形成された酸化被膜である。
【0026】
次いで、前記第MB工程(ステップ)を終えた被処理体11をZ方向へ距離Δcだけ移動する。これにより、被処理体11が第一処理区画Aおよび第二処理区画Bとともに、該第二処理区画Bに隣接する第三処理区画Cまで電解液22に浸漬した状態とする。この浸漬した状態を保ちながら、第MA工程(ステップ)と同一条件で第三処理区画Cに所望の酸化被膜を形成する[図3(e):第MC工程(ステップ)]。その際、第一処理区画Aと第二処理区画Bには酸化被膜は殆ど形成されない。図3(e)において、符号Δcは第三処理区画CのZ方向の幅である。図3(e)において、符号15c1は第三処理区画Cに形成された酸化被膜である。
【0027】
第三処理区画C以降も同様に、被処理体11をZ方向へ所定距離だけ移動させて、順に隣接する処理区画まで電解液22に浸漬した状態とする。この浸漬した状態を保ちながら、第MA工程(ステップ)と同一条件で隣接する処理区画に所望の酸化被膜を形成する。
このように、MB工程(ステップ)、MC工程(ステップ)と同様の工程(ステップ)を順に繰り返し、被処理体11の最後の処理区画Nまで(すなわち、被処理体11の全ての被処理面が)電解液22に浸漬した状態とする。この浸漬した状態を保ちながら、第MA工程(ステップ)と同一条件で最後の処理区画(第n処理区画)Nに所望の酸化被膜を形成する[図3(f):第MN工程(ステップ)]。その際、第一処理区画A〜最後の処理区画Nの一つ手前の処理区画には酸化被膜は殆ど形成されない。これにより、被処理体11の被処理面の全域に亘って酸化被膜が形成された状態が得られる。図3(f)において、符号Δnは最後の処理区画NのZ方向の幅である。図3(e)において、符号15n1は最後の処理区画Nに形成された酸化被膜である。
【0028】
以上の第M工程(第MA工程(ステップ)〜第MN工程(ステップ))により、所定の電圧Vに保持して酸化被膜を形成する一連の工程は終了する。その後、酸化被膜が形成された被処理体11を電解液22に浸漬した状態から引き上げ(−Z方向に移動し)、被処理体11が電解液22から露呈した状態とする。
【0029】
そして、先に設定した所定の電圧Vより高い電圧であって、マイクロアーク酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧VM+1(V<VM+1<Vmax)に保持し、所定の電流Iとなるように管理しながら、被処理体11の第一処理区画Aに所望の酸化被膜を形成する。以下、上述した電圧VMの場合と同様に、一連の工程(第MA工程(ステップ)〜第MN工程(ステップ))を行う。これにより、被処理体11の被処理面の全域に亘って、所定の電圧Vにおいて形成された酸化被膜の上に、所定の電圧VM+1において形成された酸化被膜が形成された状態が得られる。
【0030】
前記電圧Vを前記最高電圧Vmaxの方向へ順に増加させて所定の数値(V<VM+1<VM+2<VM+3<・・<VM+n<Vmax)とし、前記第M工程(第MA工程(ステップ)〜第MN工程(ステップ))を繰り返し行うことにより、合計膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を、被処理体11の被処理面の全域に亘って形成することができる。
【0031】
つまり、本発明に係る表面処理方法は、被処理体の被処理面が、断続的な酸化処理(マイクロアーク酸化処理の最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとする条件下で)、酸化被膜によって覆われるように、前述した第M工程を行う。また、前記電圧Vを前記最高電圧Vmaxの方向へ順に増加させて所定の数値とし、前記第M工程を繰り返し行うことにより、合計膜厚が所望の厚さからなる前記酸化被膜を形成する。
【0032】
以上、図3に基づき、アノード酸化処理において、前記ステップの数が「3以上」であり、前記第M工程を構成する、前記第MA工程(ステップ)、前記第MB工程(ステップ)、・・・前記第MN工程(ステップ)が、前記被処理体を「断続的」に前記電解液に浸漬する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
前記ステップの数は「1又は2」であっても構わない。また、前記第M工程を構成する、前記第MA工程(ステップ)、前記第MB工程(ステップ)、・・・前記第MN工程(ステップ)が、前記被処理体を「断続的」に前記電解液に浸漬する代わりに、前記被処理体を「連続的」に前記電解液に浸漬する方法を採用してもよい。
すなわち、アノード酸化処理において、前記ステップの数が「1」であり、前記第M工程を構成する、前記第MA工程(ステップ)、前記第MB工程(ステップ)、・・・前記第MN工程(ステップ)が、前記被処理体を「連続的」または「断続的」に前記電解液に浸漬することもできる。その際には、前記第MB工程(ステップ)、・・・前記第MN工程(ステップ)における所定の電流の値が、前記第MA工程(ステップ)における所定の電流Iと同じ数値とされることが好ましい。
【0033】
以下では、統合した制御装置が備える制御部を採用した場合、第M工程(Mは2以上の整数)の前記第MA工程(ステップ)、前記第MB工程(ステップ)、・・・前記第MN工程(ステップ)において、前記被処理体を前記電解液に浸漬する際に「断続的」に制御する為に利用する、「目標値、現在値、操作量、移動量」の典型的な対応について述べる。
目標値はオペレーターが入力した所定の電流値である。
現在値は処理電流(アノード酸化処理時の電流)である。
操作量は被処理物を浸漬する速度である。なお、この浸漬速度は典型的にはオペレーターが入力する固定された速度であるが、目標値と現在値との差分に比例定数を乗じた値の速度としてもよい。後者の場合はより短時間での表面処理を行うことが可能となる。
【0034】
移動量は被処理物のZ方向への移動距離である。移動量は図示しないセンサ等によって制御部に取り込まれる。この時、ある処理区画までの浸漬とは、当初位置から次の処理区画に対応する移動量に一致するまでZ方向へ移動する事と同義である。
または、操作量を時間積分した値を移動量とし、センサ不要として、次の処理区画に対応する移動量に一致するまでZ方向へ移動することとしてもよい。ここで処理区画に対応する移動量の定義はオペレーターが入力する任意の値となるが、制御部の制御周期時間に対応する値を設定することが望ましい。この設定を行うことで最小の処理区画を実現可能となるためである。
【0035】
制御部は、ある処理区画までの浸漬が完了したことを、「移動量」と「処理区画に対応する移動量」とを比較することによって検知し、次に「目標値」と「現在値」の比較を行う。この比較の結果、所定の電流値以下であれば停止する必要がないため、次の処理区画に対応する移動を許可する。
なお、所定の電流値を超える場合は、浸漬を停止させる処理、すなわち操作量をゼロとする。しかしながら、被処理物が微小に逆方向へ移動する事は実機の調整範囲内として許容可能である。
上述したように、本発明においては、制御部はこの一連の処理を複数回繰り返し実行することで、前記第MA工程(ステップ)、前記第MB工程(ステップ)、・・・前記第MN工程(ステップ)の処理を行う。つまり、目標値と現在値とを比較した結果次第で、「断続的な処理」となったり、「一部が連続的な処理」となったり、「全てが連続的な処理」となる場合がある。
【0036】
図2(a)は、上述した本発明に係る表面処理方法を示すフローチャートであり、第M工程(第MA工程(ステップ)〜第MN工程(ステップ))を繰り返し行うことを表わしている。図2(b)は、図3(b)と図3(f)に相当する、被処理体11と電解液22との位置関係を模式的に示した図である。
つまり、図2(a)は、アノード酸化処理時の電流値Iと所定の電流Iとの関係が、「I≧I」を満たす場合に、YESの方向へ進むことを表わしている。
なお、「I≧I」を満たす場合でも、アクチュエータ−位置をZ<Zにしても構わない。この条件を満たす際は、第M工程を構成する「第MA工程(ステップ)〜第MN工程(ステップ)」は、おのおの区分されずに、連続した1つの工程と見なされる。ここで、Zは基板の前側面が液面に接した状態における基板の後側面の位置(高さ)、Zはアノード酸化処理時の基板の後側面の位置(高さ)、をおのおの表わす[図2(b)]。
【0037】
ゆえに、本発明は、小電流密度の電源装置で、かつ簡易な電解液の冷却機構であっても、マイクロアーク酸化処理によって大きな面積の被処理体に対して断続的に酸化被膜を形成することが可能な、表面処理方法をもたらす。
【0038】
また、本発明の表面処理方法による被処理体の被処理面は、断続的な酸化処理によって形成された酸化被膜の多層構造によって覆われる。酸化被膜の形成時に最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持し、所定の電流Iとしたことにより、断続的に処理を行っても、処理面に色彩的な模様が残ることが無い。このため、本発明は、処理面の外観の均質性に優れた酸化被膜の提供に寄与する。
【0039】
図4は、酸化被膜の形成時に印加する電圧および電流と処理時間との関係を示すグラフであり、本発明の方法で処理した場合の電圧電流曲線である。図4において、実線が電圧を、点線が電流を、おのおの表わしている。
図4より、本発明の表面処理方法においては、酸化被膜の形成時に最高電圧Vmaxよりも低い電圧Vに保持した際に、所定の電流Iを保つように制御されていることが分かる。また本発明では、図4に示すように、前記電圧Vを前記最高電圧Vmaxの方向へ順に増加させて所定の数値(V<VM+1<VM+2<VM+3<・・<VM+n<Vmax)とし、前記第M工程(第MA工程(ステップ)〜第MN工程(ステップ))を行った場合でも、所定の電流Iを保つように制御されている。
【0040】
さらには、図4に示すように、最後の第M工程(第MA工程(ステップ)〜第MN工程(ステップ))に続けて、前記最後の第M工程が行われた前記電圧Vよりも低い電圧VM−まで、所定の時間で連続的又は断続的に電圧を降下させて、前記アノード酸化処理を行う工程Pと、前記電圧VM−で定電圧処理を行う工程Qとを順に、さらに備えてもよい。
これにより、後者の電圧(VM−)では絶縁破壊されないが、後者の電圧(VM−)よりも高い前者の電圧(V)では絶縁破壊されるような、弱い部分を十分に修復し、より高い耐電圧、耐食性を有する酸化被膜を得ることが可能になる。
このような、前者の電圧(V)と後者の電圧(VM−)の間の電圧変化を複数回繰り返すことにより、膜の修復をより確実に行うことが好ましい。
【0041】
図5は、酸化被膜の形成時に印加する電圧および電流と処理時間との関係を示すグラフであり、一括で処理した場合の電圧電流曲線である。図5において、実線が電圧を、点線が電流を、おのおの表わしている。
図4図5を比較することにより、一括処理を行うと、処理時間は本発明の方法で処理した場合の1/3であるが、処理電流は本発明の方法で処理した場合の3倍必要になることが分かる。これより、本発明に係る連続処理は、処理電流を抑えることができ、小さな設備で大面積な被処理体を処理できることが明らかとなった。
【0042】
図6は、浸漬する方向における被処理体の位置と処理時間との関係を示すグラフである。
図6より、処理電圧が低い場合には、試料全体が浸漬されて、その電圧における処理が完了するまでの時間が短いことが分かる。一方、処理電圧が高い場合には、試料全体が浸漬されて、その電圧における処理が完了するまでの時間が長いことが分かる。
【0043】
本発明の表面処理方法においては、前記被処理体における前記第一処理区画、前記第二処理区画、・・前記第n区画を順に前記電解液に浸漬させる際には、該電解液の深さ方向へ該被処理体が進行するか、または停止するように、前記電解液の液面に対する前記被処理体の位置を制御することが好ましい。
これにより、被処理体11の被処理面のうち、未だ膜が形成されていない領域が、電解液22の液面に対して、出たり入ったりするような動作を防ぐことができる。ゆえに、絶縁破壊の現象が発生しにくい状態で、酸化被膜の形成を安定して行うことが可能となる。
【0044】
このように、電解液22の液面に対する被処理体11の位置を制御する方法としては、以下に述べる2通りの手法が挙げられる。
第一の手法は、前記電解液の液面の高さ位置を固定し、前記電解液の液面に対して前記被処理体の高さ位置を調整する方法である。
第二の手法は、前記被処理体の高さ位置を固定し、前記被処理体の高さ位置に対して前記電解液の液面の高さを調整する方法である。
いずれの手法においても、電解液22の液面に対する被処理体11の位置を制御することができる。被処理体11が小さい(処理面積が狭い)場合には、いずれの手法を選択しても構わない。しかし、被処理体11が大きい(処理面積が広い)場合には、電解液22を収納する電解槽21も大容量となるので、第一の手法が好適である。
【0045】
本発明の表面処理装置として、図1に示すような表面処理装置が挙げられる。すなわち、
本発明に係る表面処理装置は、被処理体のうち特定の処理区画までを電解液に浸漬させるために、前記被処理体を前記電解液の深さ方向へ移動させ、かつ、前記特定の処理区画までが前記電解液に浸漬された位置に前記被処理体を静止させる機能を備えた被処理体の移動手段を備えている。そして、前記移動手段は、前記被処理体の全域に亘って、所定の電圧を印加して一連のアノード酸化処理が終了する毎に、前記電解液の中から前記被処理体の全域が露呈する位置まで、該被処理体を該電解液から引き上げる方向へ前記陽極手段を移動させるように構成されている。
【0046】
これにより、本発明によれば、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理時の電流を所定の電流I以下に保持することが可能であるため、大容量の電源が不要となる。
更に、全ての酸化皮膜の形成過程の発熱を積極的に下げることができるので、処理系の冷却するためのシステムを従来と比べて小さくすることができる。
ゆえに、本発明は、小電流の電源装置で、かつ簡易な電解液の冷却機構であっても、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理によって大きな面積の被処理体に対して断続的に酸化被膜を形成することが可能な表面処理装置をもたらす。
また、本発明の表面処理装置は、上述した陽極手段を備えているので、大面積の被処理物に対して、自動的に被処理物を覆うように所望の膜厚からなる酸化被膜を形成できる。
【0047】
本発明において着目した「電流密度」とは、被処理体のうち特定の処理区画までを電解液に浸漬させた状態において、電解液の液面により特定される被処理体の表面周囲の長さ(周長)で電流値を除した数値であり、いわゆる「線電流密度」である。
図3(a)において、被処理体のサイズが、x1=2500mm、x2=3000mm、x3=50mmとした場合、被処理体の表面周囲の長さ(周長)は、「2500×2+50×2」となる。(直流)電源装置から印加する(最大)電圧を50V、(最大)電流を50Aとした場合、「線電流密度」は0.0098A/mm(≒50/5100)と算出される。つまり、電解液の液面が接する被処理体の表面周囲(周長部)には、極めて微弱な電流が作用するだけである。よって、本発明によれば、酸化被膜の成長領域以外は絶縁破壊の現象が発生しにくい状態で、酸化被膜の形成を安定して行うことが可能となる。
【0048】
本発明は、このように極めて微弱な電流が作用するだけで、酸化被膜を形成できる。ゆえに、本発明によれば、大電流を供給するような電源装置は必要なく、小電流密度の電源装置でも十分に酸化被膜を形成することが可能である。したがって、本発明は、簡易な電解液の冷却機構であっても、マイクロアーク酸化処理を含むアノード酸化処理によって大きな面積の被処理体に対して断続的に酸化被膜を形成することが可能な表面処理装置をもたらす。
また、本発明の表面処理装置は、上述した陽極手段を備えているので、大面積の被処理物に対して、自動的に被処理物を覆うように所望の膜厚からなる酸化被膜の安定した形成を実現する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、バルブ金属からなる被処理体の表面処理法に広く適用可能である。本発明は、真空装置の内部空間で使用される物品、たとえば、加熱ヒータパネルや、シャワープレート、チャンバの内壁材などの表面処理法として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0050】
11 被処理体、21 電解液槽、22 電解液、22a 液面、15a1、15b1
、15c1、・・15n1(15) 酸化被膜、A、B、C、・・N 処理区画。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7