【解決手段】標的26の位置を計測する標的監視装置35,36と、標的監視装置からの信号に基づき走査電磁石31,32の励磁電流値を補正して荷電粒子ビームを標的26に照射する追尾照射、および標的監視装置からの信号に基づき標的26の深さを演算し、標的26の深さが予め定めた深さ許可範囲内にあるとき荷電粒子ビームを照射するゲート照射を行う制御システム7と、を備え、制御システム7は、標的監視装置によって計測した標的26の深さが深さ許可範囲内にあるときに追尾照射を行う。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、ゲート照射と走査電磁石による追尾照射とを実施する本発明の粒子線照射システムと、それに好適な照射計画装置の実施例について
図1乃至
図8を用いて説明する。
【0020】
最初に、粒子線照射システムや照射計画装置の構成について
図1乃至
図5を用いて説明する。
図1は粒子線照射システムの全体概略構成を示す図である。
図2は粒子線照射システムに備えられる照射制御装置の構成を示すブロック図面である。
図3Aは照射対象に単一の粒子線を照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図、
図3Bは照射対象に複数の粒子線を照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図、
図4は照射対象に粒子線を照射した場合に得られる横方向の線量分布を示す図である。
図5はデータベースに記憶される照射パラメータを示す概念図である。
【0021】
図1に示すように、本実施例の粒子線照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置1、ビーム輸送系2、治療室17、制御システム7および照射計画装置41を備えている。
【0022】
荷電粒子ビーム発生装置1は、荷電粒子ビームを生成して出射する装置であり、イオン源および前段荷電粒子ビーム加速装置から構成されるライナック3と、シンクロトロン4とを有する。シンクロトロン4は、高周波印加装置5、および加速装置6を有する。
【0023】
高周波印加装置5はシンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極8および高周波印加電源9を備える。高周波印加電極8と高周波印加電源9はスイッチにより接続されている。加速装置6は粒子線の周回軌道に配置された高周波加速空洞および高周波加速空洞に高周波電力を印加する高周波電源を備える。出射用デフレクタ11がシンクロトロン4とビーム輸送系2を接続する。
【0024】
ビーム輸送系2は、ビーム経路12,四極電磁石,偏向電磁石13,14,15,16を有する。ビーム経路12は、治療室17内に設置された照射装置21に接続されている。
【0025】
治療室17内には、略筒状のガントリー18が設置されている。
【0026】
ガントリー18には、ビーム輸送系2の一部である偏向電磁石15,16、標的26に荷電粒子ビームを照射する照射装置21、X線発生装置35,36、X線検出器37,38が設置されている。ガントリー18の内部には照射対象25を設置するために、カウチ24と呼ばれる治療用ベッドが設置される。
【0027】
ガントリー18は、モーターにより回転可能な構造をしている。偏向電磁石15,16と照射装置21、X線発生装置35,36、およびX線検出器37,38は、ガントリー18の回転と共に回転する。このガントリー18の回転および各機器がこの動きに連動することにより、照射対象25に対してガントリー18の回転軸に垂直な平面内のいずれの方向からも粒子線を照射することができる。
【0028】
ガントリー18に備えられた照射装置21は、走査電磁石31,32、位置モニタ34、線量モニタ33を内部に有する。本実施の粒子線照射システムは、照射装置21が二台の走査電磁石31,32を備え、荷電粒子ビームを進行方向と垂直な面内の二つの方向(X方向,Y方向)にそれぞれ偏向(走査)し、照射位置を変更することで荷電粒子ビームを標的26に照射する。
【0029】
位置モニタ34は、粒子線の位置と粒子線の広がりを計測する。線量モニタ33は、照射された粒子線の量を計測する。
【0030】
第一のX線発生装置35と第二のX線発生装置36は、ガントリー18に設置されており、透視用のX線を発生させる。照射装置21の照射口先端部には、フラットパネル型の第一のX線検出器37と第二のX線検出器38が設置されている。X線検出器37はX線発生装置35からのX線の信号を検出し、X線検出器38はX線発生装置36からのX線の信号を検出する。
【0031】
照射対象25内には標的26があり、粒子線を照射することで標的26を覆うような線量分布を照射対象25内に形成する。ここで癌などの治療の場合は、照射対象25は人であり標的26は腫瘍である。
【0032】
本実施例の粒子線照射システムが備えている制御システム7について、
図1を用いて説明する。
【0033】
図1に示す制御システム7は、記憶装置であるデータベース42、中央制御装置46、加速器制御装置47、照射制御装置48および動体追跡装置49を備える。
【0034】
X線CT装置40は照射対象25内の標的26を撮像する装置であり、標的26が周期的に動くときその動きの位相毎にCT画像を作成する機能を備えている。特に照射対象25が人である場合は、照射対象25の呼吸位相毎のCT画像を取得可能に構成されている。
【0035】
照射計画装置41は、X線CT装置40によって撮像された位相毎のCT画像を基にして標的26へ荷電粒子ビームを照射するための照射計画を作成する装置である。その詳細は後述する。
【0036】
データベース42はX線CT装置40に接続された照射計画装置41に接続されており、照射計画装置41が作成した照射に必要な照射計画のデータを記録する。
【0037】
中央制御装置46は、加速器制御装置47、照射制御装置48、および動体追跡装置49に接続されている。また、中央制御装置46は、データベース42に接続されている。中央制御装置46は、データベース42からデータを受け取り、加速器制御装置47、照射制御装置48、および動体追跡装置49に必要な情報を送信することでその動作を制御する。
【0038】
加速器制御装置47は、荷電粒子ビーム発生装置1、ビーム輸送系2およびガントリー18に接続され、これらを制御する。
【0039】
照射制御装置48は、走査電磁石31,32を励磁する走査電磁石電源48aの制御と照射装置21内の各モニタからの信号を処理する。その詳細な構成については後述する。
【0040】
動体追跡装置49はX線発生装置35,36、X線検出器37,38に接続されており、これらの動作を制御する。
【0041】
本実施例においては、標的26の位置を計測する標的監視装置は、X線発生装置35,36、X線検出器37,38、動体追跡装置49から構成される。
【0042】
本実施例の制御システム7の照射制御装置48は、標的監視装置からの信号に基づき走査電磁石31,32の励磁電流値を補正して荷電粒子ビームを標的26に照射する追尾照射と、標的監視装置からの信号に基づき標的26の深さを演算し、標的26の深さが予め定めた深さ許可範囲内にあるとき荷電粒子ビームを照射するゲート照射とを行うために必要な制御を実行する。本実施例では、照射制御装置48は、標的監視装置によって計測した標的26の深さが深さ許可範囲内にあると判定されたときに追尾照射を行うようにシステム内の各機器の動作を制御する。以下、照射制御装置48の詳細について
図2を用いて説明する。
【0043】
図2に示すように、照射制御装置48は照射装置内の位置モニタ34、線量モニタ33に接続されており、これらの動作を制御する。また、動体追跡装置49および加速器制御装置47と接続されており、これらの機器と通信する。
【0044】
照射制御装置48は、走査電磁石31,32を励磁する走査電磁石電源48a、深さテーブルメモリ48b、深さ許可範囲メモリ48c、位置メモリ48f、線量メモリ48h、座標処理回路48d、照射制御回路48g、および位置監視回路48eを備えている。
【0045】
走査電磁石電源48aは、追加電流メモリ48a2、励磁電流メモリ48a3、および電磁石制御回路48a1を備えている。
【0046】
図3Aおよび
図3Bを用いて、本実施例による粒子線照射システムにおける照射対象25の表面を基準とした場合の標的26の深さと粒子線のエネルギーとの関係について説明する。
図3Aおよび
図3Bは、横軸が標的26の深さ、縦軸が粒子線の線量を示す図である。
【0047】
図3Aは、単一エネルギーの粒子線が照射対象内に形成する線量分布を深さの関数として示している。
図3Aにおけるピークをブラッグピークと称する。ブラッグピークの位置は粒子線のエネルギーに依存する。そのため、粒子線のエネルギーを調整することでブラッグピークの位置を調整でき、標的26の所望の深さに適切な線量の粒子線を照射することができる。
【0048】
標的26は深さ方向に厚みを持っているが、ブラッグピークは鋭いピークである。このため、いくつかのエネルギーの粒子線を適切な強度の割合で照射し、ブラッグピークを重ね合わせることで、
図3Bに表すように深さ方向に標的26と同じ厚みを持った一様な高線量領域(SOBP)を形成する。
【0049】
図4を用いて、ビーム軸に垂直な方向(XY平面の方向)の標的26の横方向の広がりと粒子線の関係について説明する。
図4では、横軸に標的26の横方向の広がりを、縦軸に照射スポットにおける線量を示す。ビーム軸に垂直な方向を横方向と呼ぶ。
【0050】
粒子線は照射装置21に達した後、互いに垂直に設置された二台の走査電磁石31,32によって走査されることで横方向の所望の位置へと到達する。粒子線の横方向の広がりはガウス分布形状で近似することができる。そのため、ガウス分布を等間隔で配置し、その間の距離をガウス分布の標準偏差程度にすることで、
図4に示すように、足し合わされた分布は一様な領域を有するものとなる。このように配置されるガウス分布状の線量分布をスポットと呼ぶ。粒子線を走査して複数のスポットを等間隔に配置することで、
図4に示すような横方向に一様な線量分布を形成することができる。
【0051】
以上により、走査電磁石31,32による横方向へのビーム走査と、ビームエネルギー変更による深さ方向へのブラッグピークの移動により均一な照射野を形成することができる。なお、同一のエネルギーで照射され、走査電磁石31,32による粒子線の走査により横方向へ広がりを持つ照射野の単位をスライスと呼ぶ。
【0052】
図1に戻り、照射計画装置41は、粒子線を標的26に照射する前に、照射に必要な照射パラメータ、深さテーブル、深さ許可範囲、ガントリー角度および照射対象位置情報を決定する。
図5に照射パラメータの構造を示す。
【0053】
図5に示すように、照射計画装置41で決定される照射パラメータはスライス数NとN個のスライスデータにより構成される。スライスは、同一のエネルギーで照射するスポットの集合を表す。スライスデータはスライス番号i、エネルギーEi、スポット数NiおよびNi個のスポットデータを含む。スポットデータはスポット番号j、照射位置(Xij,Yij)、目標照射量Dijを含む。これらの照射パラメータは例えば次のように手順により決定される。
【0054】
計画前に、予めX線CT装置40にて照射対象25を撮影し、n個の位相に対する照射対象25のCT画像を作成する。X線CT装置40は作成したCT画像を照射計画装置41に送信する。
【0055】
照射計画装置41は、受け取った画像データを表示装置(図示省略)の画面上に表示する。オペレータは位相毎のCT画像から基準となる位相のCT画像を選択する。例えば呼吸による標的26の移動を考える場合、呼気位相を選択する。
【0056】
オペレータは、選択したCT画像上で標的26を覆うように照射したい領域や、粒子線が照射されることを極力抑制したい領域(重要臓器)を指定する。照射計画装置41は、指定された領域に線量分布を形成できるような照射対象25の設置位置、ガントリー角度、照射パラメータを求めて決定する。
【0057】
すなわち、照射計画装置41は、オペレータが入力した照射対象情報に基づいて照射対象設置位置とガントリー角度を決定後、標的26(患部)を深さ方向の複数のスライスに分割し、必要となるスライス数Nを決定する。
【0058】
照射計画装置41は、照射対象設置位置に照射対象25を設置したとき、X線検出器37,38に投影される画像を計算し、それを照射対象位置情報とする。また、照射計画装置41はそれぞれのスライス(スライス番号i)の深さに応じた照射に適したイオンビームのエネルギーEiを求める。
【0059】
照射計画装置41は、さらに、各スライスの形状に応じてイオンビームを照射する照射スポットの数Ni,スポット番号j,各スポットの照射位置(Xij,Yij),各スポットの目標照射量Dijを決定する。
【0060】
照射計画装置41は、決定した各値により照射対象25を照射したときの線量分布を求め、求めた線量分布を表示装置に表示する。
【0061】
次に、照射計画装置41は、追尾照射とゲート照射を行う際に用いる、追尾照射を行う条件である深さ許可範囲と、標的26の深さ情報が記録された深さテーブルを求める。
【0062】
スライス番号iのスポット番号jのスポットが形成するスポットの経路上において、体表から標的26の浅い側の境界までの水等価厚をWijとする。深さ許可範囲はスポット毎に登録され、Wij±δとする。ここでδは定数であるが、全てのスポットに対して共通の値としてもよいし、スライス毎に異なる値を用いてもよい。
【0063】
深さテーブルは全ての位相のCT画像を用いて決定する。最初に位相毎にCT画像上の標的26の位置を特定する。次に基準となる位相での標的位置との差分を位相毎に計算する。この差分を粒子線の照射方向を考慮して投影した量が走査電磁石31,32により追尾される水等価厚演算用補正量である。この水等価厚演算用補正量を各スポットの照射位置に足すことで、スポット経路上における体表から標的26の浅い側の境界までの水等価厚を求める。
【0064】
この計算を全てのスポットと位相の組み合わせに対して計算することで、スポット毎のテーブルとする。すなわち、位相の番号をkとすれば、スライス番号iのスポット番号jのスポットに対して、位相kでのスポット経路上の体表から標的26の浅い側の境界までの水等価厚を深さテーブルWijkとする。
【0065】
こうして作成する深さテーブルWijkのデータはガントリー角度の数だけ作成される。
【0066】
更には、ガントリー角度の数だけ作成される深さテーブルWijkのデータには、経路上に重要臓器が存在するか否かの情報も含める。
【0067】
作成された照射パラメータや、ガントリー角度、照射対象位置情報、深さ許可範囲、および深さテーブルWijkはデータベース42へ送信され、データベース42において記録される。
【0068】
<照射手順>
以上の手順により作成した照射パラメータ、深さ許可範囲、深さテーブルWijk、照射対象設置情報およびガントリー角度を使用して照射対象25に線量分布を形成する手順について
図6乃至
図8を用いて以下説明する。
図6は粒子線照射システムによって粒子線を照射する手順を示したフローチャートである。
図7は
図6に示す粒子線を照射する手順の一部の詳細を示したフローチャート、
図8は従来の粒子線照射システムによって粒子線を照射する手順の一部の詳細を示したフローチャートである。
【0069】
オペレータが中央制御装置46に接続されたコンソール上の照射準備開始ボタンを押すと、中央制御装置46はデータベース42から照射対象25の設置位置、ガントリー角度深さ許可範囲、深さテーブルWijk、および照射パラメータを受信する。
【0070】
中央制御装置46は、照射パラメータに記載されたエネルギーの情報とガントリー角度を加速器制御装置47に送信し、深さ許可範囲、深さテーブル、および照射パラメータを照射制御装置48に送信する。
【0071】
加速器制御装置47では、中央制御装置46から指定されたエネルギーの荷電粒子ビームを出射するための各走査電磁石31,32の励磁パターンを準備する。
【0072】
照射制御装置48では、中央制御装置46から受信した深さ許可範囲、深さテーブルWijk、照射パラメータを各メモリに設定する。より具体的には、照射位置を位置メモリ48fに、目標照射量を線量メモリ48hに、深さ許可範囲を深さ許可範囲メモリ48cに、深さテーブルを深さテーブルメモリ48bに記録する。また、照射位置とエネルギーから求めた各走査電磁石31,32の励磁電流値を走査電磁石電源48aの励磁電流メモリ48a3に記録する。
【0073】
照射対象25をカウチ24の上に乗せ、固定する。
【0074】
照射対象25の固定後は、計画した位置に設置されていることを確認するため、X線発生装置35,36とX線検出器37,38を用いて照射対象25内の標的26を透視する。透視した画像と照射対象位置情報の画像とを比較し、計画位置からのずれ量を算出する。そのずれ量に従い、カウチ24を移動して照射対象25の位置を調整する。
【0075】
照射対象25をカウチ24に対して位置調整した後は、ガントリー18の角度を設定する。オペレータが中央制御装置46に接続されたコンソール上のガントリー回転ボタンを押すと、加速器制御装置47は照射パラメータに記載されたガントリー角度までガントリー18を回転させる。
【0076】
ガントリー18の回転完了後、オペレータはコンソール上の照射開始ボタンを押す。照射開始ボタンが押されると
図6に示す手順に従って照射が開始される。
【0077】
図6に示すように、最初に、エネルギー番号i=1、スポット番号j=1のスポットから照射を開始する(ステップS201)。動体追跡装置49はX線発生装置35,36とX線検出器37,38を制御して標的26の位置の計測を開始する。加速器制御装置47は荷電粒子ビーム発生装置1を制御してエネルギー番号i=1のエネルギーE1に粒子線を加速する。
【0078】
また、動体追跡装置49はX線発生装置35,36を制御して一定の間隔(例えば30Hz)でX線を発生させる。動体追跡装置49はX線検出器37,38から取得した画像を用いて標的26の位置(標的座標)を算出し、標的座標を座標処理回路48dに送信する。
【0079】
なお、標的26の位置を特定し易くするため、予め標的26の付近に金属製の球などのマーカを刺入しておき、標的26の位置を計測する代わりにマーカの位置を計測してもよい。マーカはX線透視画像に写り易いため、精度よく標的26の位置を計測することができる。なお、マーカなしで標的26の位置を直接計測する場合は、マーカを刺入する手間を省くことができる、との効果が得られる。
【0080】
次いで、中央制御装置46から加速器制御装置47へ加速信号が送信される。加速器制御装置47はイオン源、ライナック3、シンクロトロン4を制御して粒子線を加速する(ステップS202)。イオン源において発生した粒子線はライナック3により加速されシンクロトロン4へ入射される。入射された粒子線は加速装置6から高周波を印加され第一のスライス番号を照射するためのエネルギーE1まで加速される。粒子線の加速が完了すると加速器制御装置47から照射制御装置48へ加速完了信号が送信される。
【0081】
次いで、加速完了信号を受信した照射制御装置48はスポットの照射準備を実施する(ステップS203)。このステップS203の処理の詳細について
図7を参照して説明する。
【0082】
照射制御装置48内の照射制御回路48gは、加速完了信号を受信すると、照射制御回路48gは座標処理回路48d、位置監視回路48e、電磁石制御回路48a1に向けてスポット設定信号を送信する。
【0083】
座標処理回路48dは、スポット設定信号を受信すると、深さ許可範囲メモリ48cと深さテーブルメモリ48bからi=1,j=1のスポットの深さ許可範囲と深さテーブルWijkを読み出す(ステップS203A2)。前提として、座標処理回路48dは、動体追跡装置49から標的座標を一定の周期で受信しており(ステップS203A1)、受信した最新の標的座標が最も近い位相kに対するWijkを標的26の深さとして参照する。
【0084】
その上で、参照したWijkが深さ許可範囲Wij±δの中にあるか否かを判定する(ステップS203A3)。許可範囲内であると判定されたときはステップS203A4へ処理を進め、照射制御回路48gは、体表面から標的26までの粒子線の通過経路上に重要臓器が存在するか否かを判定する(ステップS203A4)。重要臓器が存在しないと判定されたときは深さが深さ許可範囲の外に出るまで出射許可信号を照射制御回路48gに送信し続ける。
【0085】
これに対し、ステップS203A3において許可範囲内であると判定されなかったときやステップS203A4において重要臓器が存在すると判定されたときは処理をステップS203A1に戻す。
【0086】
また、座標処理回路48dは、最新の標的座標を位置監視回路48eに送信する。更には、座標処理回路48dは、最新の標的座標と照射するエネルギーとから追加電流値を計算して、走査電磁石電源48aの追加電流メモリ48a2に計算した追加電流値を記録する。
【0087】
位置監視回路48eは、座標処理回路48dから標的座標を受信し、i=1,j=1のスポットの標的座標として記録する。
【0088】
電磁石制御回路48a1は、追加電流メモリ48a2に記録された追加電流値と励磁電流メモリ48a3に記録されたi=1,j=1のスポットに対応する励磁電流値との和を計算し、その和を励磁電流値とする。電磁石制御回路48a1は、走査電磁石電源48aを制御して求めた励磁電流値で走査電磁石31,32を励磁する。電磁石制御回路48a1は、走査電磁石電源48aの電流値の設定が完了すると照射制御装置48の照射制御回路48gに電磁石設定完了信号を送信する。なお、これらの電流値の設定はX軸に対応する走査電磁石32とY軸に対応する走査電磁石31の両方に対して実施される。
【0089】
照射制御回路48gは、電磁石設定完了信号を受信したときに出射許可信号を未だに受信していれば加速器制御装置に対し出射開始信号を送信する(ステップS203A5)。それに対し、照射制御回路48gは、電磁石設定完了信号を受信したときに出射許可信号を受信していない場合、再び出射許可信号を受信するのを待ち、出射許可信号を受信すると座標処理回路48d、位置監視回路48eおよび電磁石制御回路48a1に対しスポット再設定信号を送信する。
【0090】
座標処理回路48dはスポット再設定信号を受信すると、最新の標的座標を位置監視回路48eに送信し、最新の座標に対応する追加電流値を走査電磁石電源48aの追加電流メモリ48a2に送信する。
【0091】
位置監視回路48eはスポット再設定信号を受信すると座標処理回路48dから受信した標的座標をi=1,j=1の標的座標として記録し直す。
【0092】
電磁石制御回路48a1はスポット再設定信号を受信すると、座標処理回路48dが上書きした最新の追加電流値とi=1,j=1の励磁電流値との和を走査電磁石に設定する。電磁石制御回路48a1は設定が完了すると電磁石設定完了信号を照射制御回路48gに送信する。
【0093】
照射制御回路48gは電磁石設定完了信号を受信したときに出射許可信号を受信するまで同様の動作を繰り返す。
【0094】
照射制御回路48gは電磁石設定完了信号を受信したときに出射許可信号を受信するとともに、体表面から標的26までの粒子線の通過経路上に重要臓器が無いと判定されたときには、加速器制御装置47へ出射開始信号を送信する。
【0095】
次いで、出射開始信号を受信した加速器制御装置47は高周波印加装置5を制御して粒子線に高周波を印加する。高周波を印加された粒子線は出射用デフレクタ11を通過し、ビーム経路12を通過して治療室17内の照射装置21に達する。粒子線は照射装置21内の走査電磁石31,32により走査され、位置モニタ34および線量モニタ33を通過して照射対象25内に到達し、標的26に線量を付与する(ステップS204)。
【0096】
標的26に到達した粒子線の量は線量モニタ33で検出され、照射制御回路48gでカウントされる。照射制御回路48gは線量モニタ33からの信号のカウントと線量メモリ48hの値を比較し、カウントが線量メモリ48hに記録されている目標照射量に達すると加速器制御装置47に対して出射停止信号を出力する。
【0097】
出射停止信号を受信した加速器制御装置47は高周波印加装置5を制御して高周波の印加を停止し、出射を停止する。また、照射制御回路48gは位置監視回路48eへスポット完了信号を送信する。位置監視回路48eは座標処理回路48dから受信した標的座標と位置メモリ48fに記録されている照射位置の値を足し合わせ、位置モニタ34により検出した位置との差を算出し、差が閾値以下になっていることを確認する。
【0098】
次いで、同一スライスに存在するスポットの中に照射が完了していないスポットがあるか否かを判定する(ステップS205)。未完了のスポットがあると判定された場合、すなわちスポット番号jがj<Niの場合、j+1番目のスポットを照射するため、ステップS203に処理を戻す。これに対し、同一スライスのスポットを全て照射したと判定された場合、すなわちj=Niの場合は、ステップS206に処理を進める。
【0099】
次いで、中央制御装置46から加速器制御装置47に減速信号を送信する(ステップS206)。減速信号を受信した加速器制御装置47は粒子線を減速させ、ライナック3から新たな粒子線を入射できる状態になる。
【0100】
次いで、照射が完了していないレイヤーがあるか否かを判定する(ステップS207)。本ステップにおいて、未完了のレイヤーがあると判定された場合、すなわちi<Nのときは、i+1番目のレイヤーを照射するためステップS202に処理を戻す。これに対し、全てのレイヤーの照射が完了したと判定された場合、すなわちi=Nの場合は、処理をステップS208に進め、照射完了となる。
【0101】
ここで、比較のために、
図6に示すステップS203に相当する上述の特許文献3でのステップの詳細について
図8を用いて説明する。
【0102】
図8に示すように、従来技術では、座標処理回路は、動体追跡装置から標的座標を一定の周期で受信しており(ステップS203P1)、受信した最新の標的座標が出射許可範囲の中にあるか否かを判定(ステップS203P2)して、許可範囲内であると判定されたときはスポット照射を実行するステップS204Pへ処理を進め、許可範囲内であると判定されなかったときは処理をステップS203P1に戻している。
【0103】
このような従来技術では、照射計画の作成時に直方体形状の出射許可範囲が決定されている。その上で、照射と並行して取得する標的の座標が予め定めた出射許可範囲内にあるか否かで追尾照射が実行されるか否かが判定されている。
【0104】
しかしながら、必ずしも、照射計画作成時から実際に照射するまでの間に標的の深さが変化しないとは限られない。このため、特許文献3に記載の技術では、上述のように垂直な方向にゲート範囲を設定することに対する照射時間を短縮する余地があるとの課題に加えて、照射時に計測される標的の位置が出射許可範囲内にあっても、照射位置の深さが計画時と高精度に一致しているとは限られず、更なる照射精度向上の余地があることが本発明者らの検討により初めて明らかとなった。このような従来技術においては、標的の座標が予め定めた出射許可範囲内にあるか否かで追尾照射を実行するか否かを判定する限り、照射精度を高く保つためには出射許可範囲の深さ方向を狭くとる必要があり、更なる治療時間の短縮の余地があることも初めて明らかとなった。
【0105】
これに対し、上述の
図7に示す本実施例のように、照射時に取得する標的26の深さ情報が深さ許可範囲であるか否かによるゲート照射を行う場合、照射計画作成時から実際に照射するまでの間に標的26の深さが変化したとしても、照射と並行して取得する標的26の深さが、予め定めた深さ許可範囲と等価であると判断されたときには追尾照射を実行することができるため、照射精度を高く保つことができるとともに、深さ許可範囲を広くとることができるようになる。このため、照射可能な時間を長く確保することができ、治療時間の短縮を図ることが可能となる。
【0106】
以上の手順により実施される照射により、短時間に計画通りの線量分布を形成することができる。
【0107】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0108】
上述した本実施例の粒子線照射システムは、荷電粒子ビームを生成して出射する荷電粒子ビーム発生装置1と、荷電粒子ビームを走査する走査電磁石31,32を有しており、荷電粒子ビームを標的26に照射する照射装置21と、標的26の位置を計測するX線発生装置35,36、X線検出器37,38、動体追跡装置49からなる標的監視装置と、標的監視装置からの信号に基づき走査電磁石31,32の励磁電流値を補正して荷電粒子ビームを標的26に照射する追尾照射、および標的監視装置からの信号に基づき標的26の深さを演算し、標的26の深さが予め定めた深さ許可範囲内にあるとき荷電粒子ビームを照射するゲート照射を行う制御システム7と、を備え、制御システム7は、標的監視装置によって計測した標的26の深さが深さ許可範囲内にあるときに追尾照射を行うものである。
【0109】
また、本実施例の標的26へ荷電粒子ビームを照射するための照射計画を作成する照射計画装置41は、標的26の位置を計測する標的監視装置からの信号に基づき荷電粒子ビームを走査する走査電磁石31,32の励磁電流値を補正して荷電粒子ビームを標的26に照射する追尾照射、および標的監視装置からの信号に基づき標的26の深さを演算し、標的26の深さが予め定めた深さ許可範囲内にあるとき荷電粒子ビームを照射するゲート照射を行う際に用いる、標的26の深さ情報が記録された深さテーブルを予め作成するものである。
【0110】
このように、ビーム軸と垂直な方向への標的26の移動に対しては走査電磁石31,32の励磁量を補正することで計画通りの標的26の位置へ粒子線を照射することができ、標的26の深さが計画した深さから一定以上異なる場合には粒子線の照射を停止することで粒子線を計画通りの標的26の深さへ照射することができる。従って、スキャニング照射法による粒子線照射システムにおいて、従来に比べて粒子線を照射することができる時間を長くすることができ、照射時間(治療時間)を短くすることができる。
【0111】
そのうえ、上述のように、必ずしも照射計画作成時から実際に照射するまでの間に標的の深さが変化しないとは限られないが、本実施例のように照射時に取得する標的26の深さ情報が深さ許可範囲であるか否かによるゲート照射を行うことによって、照射可能な時間を長く確保した上で照射精度を高く保つことができ、治療時間の短縮を図ることが可能である、との効果も奏する。
【0112】
また、深さは、標的26を有する照射対象25の体表面から標的26までの水等価厚とするため、標的26までの水等価厚が変化することで粒子線の飛程が変化する場合でも水等価厚が等しくなる条件(タイミング)で追尾照射が実行されるため、短時間に計画通りの線量分布を形成することができ、より短時間での治療完了が可能となる。
【0113】
更に、制御システム7は、重要臓器が荷電粒子ビームの通過経路上に存在するときは、標的26の深さが深さ許可範囲内にあるときであっても追尾照射は行わないことで、重要臓器に対する粒子線の照射を抑制することができるため、粒子線の照射によって重要臓器に対するして好ましくない事象が生じる憾みを抑制することができる。
【0114】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0115】
例えば、標的26の位置を照射中に計測する方法について説明したが、標的26の位置と照射対象25の表面との位置関係を予め求めておき、照射対象25の表面の信号に基づいて標的26の深さを求め、ゲート制御と追尾制御を実施することができる。体表位置は、標的監視装置とは別の監視モニタ、例えばレーザー距離計やステレオカメラ等、体表位置の動きを計測することが可能な計測機器を用いることが望ましい。この場合も、上述の実施例と同様に、リアルタイムに計測した標的26の深さが深さ許可範囲の中にあることで出射許可信号を出力するものとする。
【0116】
また、標的26の位置を特定する方法はX線に限られず、電磁波や超音波を用いることができる。
【0117】
また、上述の実施例では深さテーブルを治療前に予め作成する手法について記述したが、標的26の深さは、体表位置などの他の情報を用いてリアルタイムに計測した値を使用することが可能である。この場合も、リアルタイムに計測した標的26の深さが深さ許可範囲の中にあることで出射許可信号を出力するものとする。
【0118】
また、上述の実施例では、深さとして照射対象25の体表面から標的26までの水等価厚を用いたが、水等価厚以外の指標を用いることができる。例えば標的26の周りが水として近似できるような場合には、照射対象25の体表面から標的26までの距離を水等価厚の替わりに用いることもできる。
【0119】
また、上述の実施例では、ゲート照射の基準として、標的26の深さのみについて記載したが、標的26の絶対位置、照射対象25の体表面から標的26までの距離、照射対象25の体表面から標的26までの水等価厚のうち、少なくともいずれか一つ以上を単独、あるいは組み合わせて照射の可否判定に用いることができる。
【0120】
このように、ゲート照射の条件として、深さと、照射対象25の体表面から標的26までの水等価厚、または照射対象25の体表面から標的26までの距離と、のうち少なくとも一方がそれぞれの許可範囲内にあるときに追尾照射を実施することで、標的26に対する粒子線の照射時間をより長く確保することができ、治療時間の更なる短縮が可能となる。
【0121】
また、照射対象25の体表面の位置の監視を、標的監視装置とは別の監視モニタを用いることにより、標的26の深さ情報の取得方法を増やすことができ、深さの判断精度の向上や冗長性を確保することができる。
【0122】
また、上述の実施例では、標的26の深さが照射対象25の体表面から標的26の浅い側の境界までとしたが、標的26の深い側の境界、あるいは標的26の内側の任意の点までの距離のいずれかとすることができる。
【0123】
また、上述の実施例において、座標処理回路48dはスポット毎に新しい情報を送信するものとした。これは、ひとつのスポットを照射する時間は数msと小さく、その間に標的26が動く距離は実質的に無視できるためである。しかしながら、ひとつのスポットを照射している最中も追加電流メモリ48a2を更新し標的26の位置に合わせて励磁電流値を変更することができる。ひとつのスポットの照射時間が長いような場合、スポット照射中も励磁電流値を変更することが有効である。
【0124】
また、上述の実施例では、座標処理回路48dが動体追跡装置49から受信する標的26の座標により、出射許可タイミングと追加電流値を制御するものとした。しかし、座標処理回路48dは動体追跡装置49から受信した標的26の座標を用いて標的26の位置を予測するものとすることができる。位置を予測することにより、制御システム7の処理時間による出射許可タイミングと追加電流値の遅れを回避することができる。また、予測することでX線撮影周期より短い周期で出射許可タイミングと追加電流値を制御することができ、照射時間の更なる短縮を図ることが可能である。
【0125】
また、上述の実施例では、出射許可状態になった後に走査電磁石31,32を走査する方法が記載されている。しかしながら、走査電磁石電源48aは出射許可状態に関係なく一定の周期で励磁量を更新することができる。この場合、励磁量を更新する周期と同等の周期で座標処理回路48dが追加電流メモリ48a2を更新することが望ましい。この周期は、動体追跡装置49から座標情報が送られてくる周期と同等とすることができる。また、この周期は、動体追跡装置49から送信される座標情報を基に予測した座標を使用することで、動体追跡装置49から座標情報が送信される周期より短い周期とすることもできる。
【0126】
このように出射許可状態ではないときも追加電流値を走査電磁石電源48aに送信し、常に標的26の移動に合わせて走査することで、出射許可信号が送信されてから粒子線が出射されるまでの時間を短縮することができる。
【0127】
また、上述の実施例ではスポット毎に粒子線の出射を停止するスポットスキャニングを例に説明したが、粒子線の出射を停止しないラスタースキャニングおよびラインスキャニングにも本発明を適用することができる。
【0128】
また、上述の実施例では360度回転するガントリー18を例に説明したが、本発明は180度回転するガントリー、或いはガントリーがない粒子線照射装置に対しても同様に本発明を適用することができる。
【0129】
また、荷電粒子ビーム発生装置1の加速器がシンクロトロンの場合を例に説明したが、加速器はサイクロトロン型やシンクロサイクロトロン型の様々な加速器を用いることができる。例えばサイクロトロンの場合は、出射はサイクロトロンから輸送系へ向けてビームが出ることを表す。