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特開2019-142775フラーレン誘導体、およびそれを含有する半導体材料、およびそれを含有する半導体薄膜
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  • 特開2019142775-フラーレン誘導体、およびそれを含有する半導体材料、およびそれを含有する半導体薄膜 図000026
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-142775(P2019-142775A)
(43)【公開日】2019年8月29日
(54)【発明の名称】フラーレン誘導体、およびそれを含有する半導体材料、およびそれを含有する半導体薄膜
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/58 20060101AFI20190802BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20190802BHJP
【FI】
   C07D209/58CSP
   H01L31/04 154F
   H01L29/78 618B
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-124488(P2016-124488)
(22)【出願日】2016年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆文
(72)【発明者】
【氏名】足達 健二
(72)【発明者】
【氏名】安蘇 芳雄
(72)【発明者】
【氏名】家 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】辛川 誠
【テーマコード(参考)】
4C204
5F110
5F151
【Fターム(参考)】
4C204BB09
4C204CB12
4C204DB11
4C204EB02
4C204FB03
4C204GB01
5F110AA01
5F110AA16
5F110AA28
5F110CC03
5F110DD05
5F110DD13
5F110EE08
5F110FF02
5F110GG05
5F110GG06
5F110GG58
5F110HK02
5F110HK32
5F151AA11
5F151CB13
5F151DA03
5F151DA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】適度な鎖長のパーフルオロアルキル基を含有したフラーレン誘導体を用いて、高い電子輸送性能、デバイス作成の容易性、およびデバイスの安定性の全てを満足する有機半導体材料の提供。
【解決手段】下記の反応等で得られるフラーレン誘導体。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
[式中、
は、メチル基を表し、
Arは、1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基を表し、
nは、1〜3の数を表し、
Yは、結合手、又は炭素数1〜4のアルカンジイル基を表し、
Rfは、炭素数1〜7のフルオロアルキル基を表し、及び
環Aは、フラーレン環を表す。]
で表されるフラーレン誘導体。
【請求項2】
Arが、アレーンジイル基である請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
Arが、1個以上の置換基を有していてもよいアレーンジイル基である請求項2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
Arが、ベンゼン−1,4−ジイル基である請求項3に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
Yが、−(CH−である請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
nは、1であり、
Yは、−(CH−であり、及び
Rfは、パーフルオロアルキル基である
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項7】
環Aは、C60フラーレン環である請求項1〜6のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を含有するn型半導体材料。
【請求項9】
有機薄膜太陽電池用である請求項8に記載のn型半導体材料。
【請求項10】
請求項9に記載のn型半導体材料を含有する有機発電層。
【請求項11】
請求項10に記載の有機発電層を備える光電変換素子。
【請求項12】
有機薄膜太陽電池である、請求項11に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体、およびそれを含有する半導体材料、およびそれを含有する半導体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体デバイスは、以下のような利点:
1)デバイス作成時のコストが安く出来る;
2)大面積化が容易である;
3)シリコン等の無機材料と比較して、可撓性を付与しやすく、応用の幅が広がる;
を有することが期待され、その開発が盛んに行われている。その具体的な応用製品としては、例えば、EL素子、電界効果型トランジスタ(FET)、太陽電池等が挙げられる。
これらのデバイスに用いられる有機半導体材料の性能は最近向上してきている。特に、p型では有機材料の選択肢が大きいため、多くの化合物が検討されてきており、ペンタセンなどで、既にアモルファスシリコンと同等のキャリア移動度を達成している。一方で、n型機能を示す有機化合物は限られているが、このうちで、シリコンに対抗できるだけのキャリア移動度を実証できたものの1つに、フラーレン(C60)が挙げられる。
しかしながら、フラーレンを用いるデバイスの作成には蒸着工程が必要なので、有機材料を用いる利点が損なわれている。この問題に対して、塗布法によるデバイス作成を目的として、有機溶媒に可溶なフラーレン誘導体の開発が行われている。例えば、[6,6]−フェニル C61−酪酸メチル エステル([6,6]-phenyl C61-butyric acid methyl ester (PCBM))によるFETの作成が報告されている(非特許文献1)。また、さらなる高機能を目指した化合物デザインがなされ、長鎖のアルキル基の導入によりC60を高度に配列させ、PCBMを凌ぐ電子移動度が達成されている(特許文献1、非特許文献2)。さらには、C60の配列をより強固にするために、アルキル基の替わりに長鎖のペルフルオロアルキル基を導入すると、さらに高い電子移動度が達成できることが報告されている。また、この化合物は高い電子移動度を有するだけでなく、作成したデバイスの大気中での安定性も向上させているが、溶液への溶解性の低下することも報告されている(特許文献2、非特許文献3、4)。
このような優れた電子輸送層材料の用途として、最近注目されているペロブスカイト太陽電池の電子輸送層がある。ペロブスカイト太陽電池は変換効率が高く、溶媒塗布プロセスで作製できるため、シリコン太陽電池に替わる低コスト太陽電池として注目されている。ペロブスカイト活性層と電極の間に電子輸送層材料が必要であり、溶媒塗布可能なフラーレン誘導体(現在では入手が容易なPCBM)が用いられている(非特許文献5)。ここで用いられる電子輸送層材料へ求められる性能として、電子移動度以外に、ペロブスカイト結晶の表面の凹凸と-電極間の隙間を十分に埋めることができるような、結晶面への追随性や密着性が求められる。
文献(非特許文献6)によれば、PCBMでは電子移動度が不足しており、より高い移動度を有し、且つ材料表面との親和性も十分な新規材料が求められている。
先行技術のフラーレン誘導体は、このような需要に対して十分な電子輸送性能を発現するが、長鎖のパーフルオロアルキル基を有する化合物は、以下の課題を有している。
1)化合物の有機溶媒への溶解度やデバイス作成時に用いられる材料や電極などの他の成分との親和性が不十分であり、塗布型デバイスを作成し難い。
2)さらには作成した後にも、作成したデバイスが温度変化や長時間の使用において安定した機能を発現できない。
これらはフッ素化合物特有の性質であり、高い電子移動度を達成するために導入したフッ素含有基の撥油効果による相分離、またはフラーレン分子の凝集阻害によるものと考えられる。また、パーフルオロアルキル基を有する化合物は、一般有機溶媒への溶解性が限られる。特に、有機デバイス作製時に塗布溶媒として一般的に用いられる、トルエン系溶媒への溶解度が限られることは良く知られている(フルオラス性)(非特許文献7-参照)。
以上のことから理解されるように、高い電子輸送性能、デバイス作成の容易性、およびデバイスの安定性を同時に達成することは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−60169号公報
【特許文献2】特開2007−251086号公報
【特許文献3】国際公開2011/152499号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Christoph Waldaufら、Advance Materials、2003年、15巻、2084頁
【非特許文献2】近松ら、Applied Physics letters、2005年、87巻、203504頁
【非特許文献3】近松ら、Chemistry of Materials、2008年、20巻、7365頁
【非特許文献4】L. Edmanら、Organic Electronics、2010年、11巻、1595頁
【非特許文献5】S. Seokら、Journal of Material Chemistry、2015年、3巻、3271頁
【非特許文献6】W. H. Jo ら、Chemical Communication, 2015年, 51巻, 17413頁
【非特許文献7】日本学術振興会 フッ素化学第155委員会 編集、フッ素化学入門、67頁、266頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、適度な鎖長のパーフルオロアルキル基を含有したフラーレン誘導体を用いて、高い電子輸送性能、デバイス作成の容易性、およびデバイスの安定性の全てを満足する有機半導体材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、炭素数が7以下のパーフルオロアルキル基を含有するフラーレン誘導体構造を種々検討した結果、後記式(1)の化合物によれば、高い電子輸送性能、塗布時の溶解度向上、および他の素子成分との親和性向上を同時に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
式(1):
【化1】
[式中、
は、メチル基を表し、
Arは、1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基を表し、
nは、1〜3の数を表し、
Yは、結合手、又は炭素数1〜4のアルカンジイル基を表し、及び
Rfは、炭素数1〜7のフルオロアルキル基を表し、及び
環Aは、フラーレン環を表す。]
で表されるフラーレン誘導体。
【0007】
本発明は、次の態様を含む。
【0008】
項1.
式(1):
【化2】
[式中、
は、メチル基を表し、
Arは、1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基を表し、
nは、1〜3の数を表し、
Yは、結合手、又は炭素数1〜4のアルカンジイル基を表し、
Rfは、炭素数1〜7のフルオロアルキル基を表し、及び
環Aは、フラーレン環を表す。]
で表されるフラーレン誘導体。
項2.
Arが、アレーンジイル基である項1に記載のフラーレン誘導体。
項3.
Arが、1個以上の置換基を有していてもよいアレーンジイル基である項2に記載のフラーレン誘導体。
項4.
Arが、ベンゼン−1,4−ジイル基である項3に記載のフラーレン誘導体。
項5.
Yが、−(CH−である項1〜4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
項6.
nは、1であり、
Yは、−(CH−であり、及び
Rfは、パーフルオロアルキル基である
項1〜4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
項7.
環Aは、C60フラーレン環である項1〜6のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
項8.
項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を含有するn型半導体材料。
項9.
有機薄膜太陽電池用である項8に記載のn型半導体材料。
項10.
項9に記載のn型半導体材料を含有する有機発電層。
項11.
項10に記載の有機発電層を備える光電変換素子。
項12.
有機薄膜太陽電池である、項11に記載の光電変換素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、n型有機半導体として用いた場合に、高い電子移動度を示すフラーレン誘導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例で用いたFET素子の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。
本明細書中、室温は、10〜40℃の範囲内の温度を意味する。
【0012】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、及びヘキシル等の、直鎖状、又は分枝鎖状の、炭素数1〜10のアルキル基が例示される。
【0013】
本明細書中、特に断りのない限り、「(ヘテロ)アレーンジイル基」は、ヘテロアレーンジイル基、及びアレーンジイル基を包含する。当該用語「アレーンジイル基」は、当業者が容易に理解する通り、狭義に、「ヘテロアレーンジイル基」を包含しないことを意図して用いられる。
【0014】
本明細書中、特に断りのない限り、「(ヘテロ)アレーンジイル基」は、芳香環から2個の水素を除去することより形成される基を意味する。
【0015】
本明細書中、「芳香環」の例は、
(1)ベンゼン環、及びナフタレン環等の芳香族炭素環;並びに
(2)フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、1,2,3−オキサジアゾール環、1,2,4−オキサジアゾール環、1,3,4−オキサジアゾール環、フラザン環、1,2,3−チアジアゾール環、1,2,4−チアジアゾール環、1,3,4−チアジアゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環、テトラゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環等の、環構成原子として、炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜3個含有する5又は6員の単環式芳香族複素環
を包含する。
【0016】
本明細書中、「(ヘテロ)アレーンジイル基」の具体例は、ベンゼンジイル基(例、ベンゼン−1,2−ジイル、ベンゼン−1,3−ジイル、ベンゼン−1,4−ジイル)、及びチオフェンジイル基(例、チオフェン−2,5−ジイル)を包含する。
【0017】
本明細書中、「炭素数1〜4のアルカンジイル基(すなわち、アルキレン鎖)」の具体例は、−CH−(すなわち、メチレン)、−(CH−(すなわち、エタン−1,2−ジイル)、−(CH−、−(CH−、−CH(CH)−、−CH(C)−、−CH(C)−、−CH(i−C)−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−CH(CH)(CH−、−(CHCH(CH)−、−CH−CH(CH)−CH−、−C(CH−、−(CH(CH))−、−CH−CH(CH)−、及び−CH−C(CH−を包含する。
【0018】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、及びヘキシル等の、直鎖状、又は分枝鎖状の、炭素数1〜10のアルキル基が例示される。
【0019】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルコキシ基」は、例えば、RO−(当該式中、Rはアルキル基である。)で表される基である。
【0020】
本明細書中、特に限定のない限り、「エーテル基」は、エーテル結合(−O−)を有する基を意味する。
【0021】
「エーテル基」の例は、ポリエーテル基を包含する。ポリエーテル基の例は、式:R−(O−R−(当該式中、Rはアルキル基であり、Rは各出現において同一又は異なって、アルキレン基であり、及びnは1以上の整数である。)で表される基を包含する。アルキレン基は前記アルキル基から水素原子を1個除去して形成される2価の基である。
【0022】
「エーテル基」の例は、また、ハイドロカルビルエーテル基を包含する。ハイドロカルビルエーテル基は、1個以上のエーテル結合を有する炭化水素基を意味する。「1個以上のエーテル結合を有するハイドロカルビル基」は、1個以上のエーテル結合が挿入されているハイドロカルビル基であることができる。その例は、ベンジルオキシ基を包含する。
【0023】
「1個以上のエーテル結合を有する炭化水素基」の例は、1個以上のエーテル結合を有するアルキル基を包含する。「1個以上のエーテル結合を有するアルキル基」は、1個以上のエーテル結合が挿入されているアルキル基であることができる。本明細書中、このような基をアルキルエーテル基と称する場合がある。
【0024】
本明細書中、特に限定のない限り、「エステル基」は、エステル結合(すなわち、−C(=O)−O−、または−O-C(=O)−)を有する有機基を意味する。その例は、式:RCO−(当該式中、Rはアルキル基である。)で表される基、および式:R−CO−R−(当該式中、Rはアルキル基であり、及びRはアルキレン基である。)で表される基を包含する。
【0025】
本明細書中、特に限定のない限り、「ハロゲン原子」の例は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を包含する。
【0026】
本明細書中、特に断りのない限り、「炭素数1〜7のフルオロアルキル基」は1個以上のフッ素原子で置換されたアルキル基を意味する。
【0027】
以下、本発明のフラーレン誘導体、及びそれを含有するn型半導体材料等について具体的に説明する。
【0028】
フラーレン誘導体
本発明のフラーレン誘導体は、後記式(1)で表されるフラーレン誘導体である。
【0029】
式(1):
【化3】
[式中、
は、メチル基を表し、
Arは、1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基を表し、
nは、1〜3の数を表し、
Yは、結合手、又は炭素数1〜4のアルカンジイル基を表し、及び
Rfは、炭素数1〜7のフルオロアルキル基を表し、及び
環Aは、フラーレン環を表す。]
で表されるフラーレン誘導体。
【0030】
本発明の一態様において、Arで表される「1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基」における(ヘテロ)アレーンジイル基は、好ましくは(ヘテロ)アレーンジイル基(但し、チオフェンジイル基を除く)であり、より好ましくはアレーンジイル基、及び特に好ましくはベンゼン−1,4−ジイル基である。
【0031】
Arで表される「1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基」における(ヘテロ)アレーンジイル基は、具体的に好ましくは、ベンゼン−1,4−ジイル基、ベンゼン−1,3−ジイル基、又はチオフェン−2,5−ジイル基であり、及びより好ましくはベンゼン−1,4−ジイル基である。
【0032】
Arで表される「1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基」における置換基の例は、アルキル基、アルコキシ基、エーテル基(好ましくは、ポリエーテル基、又はアルキルエーテル基)、エステル基、ハロゲン原子、及びシアノ基を包含する。当該置換基の数は、例えば、0(無置換)、1、2、3、又は4であることができる。
【0033】
Yは、好ましくは、結合手、−CH−、又は−(CH−であり、及びより好ましくは−(CH−である。
Yが、−CH−、又は−(CH−[より好ましくは−(CH−]である場合、本発明のフラーレン誘導体は、高い電子移動度だけでなく、優れたサブスレショルド特性も与えることができる。
当該サブスレショルド特性はトランジスタのスイッチングに関係し、サブスレショルド特性に優れた材料で構築されたトランジスタは、応答速度が速く、また漏れ電流が少ないなどの利点を有する。
【0034】
本発明の好適な一態様では、
Arは、1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)アレーンジイル基(好ましくは、アレーンジイル基)であり、
nは、1であり、
Yは、−(CH−であり、及び
Rfは、炭素数1〜7のパーフルオロアルキル基である。
【0035】
Rfの炭素数が8以上であると、o−ジクロロベンゼン等の溶媒への溶解性が低くなりすぎる。このため、Rfの炭素数が8以上であると、素子(例、FET素子)等の製造に不利である。
【0036】
環Aは、好ましくは、C60フラーレン環、又はC70フラーレン環である。
【0037】
環Aは、より好ましくは、C60フラーレン環である。
【0038】
式(1)のフラーレン誘導体は、環AがC60フラーレン環であるフラーレン誘導体(以下、C60フラーレン誘導体ともいう。)、及び環AがC70フラーレン環であるフラーレン誘導体(以下、C70フラーレン誘導体ともいう。)の混合物であってもよい。
【0039】
当該混合物における、C60フラーレン誘導体及びC70フラーレン誘導体の含有量の比は、例えば、モル比で、99.999:0.001〜0.001:99.999、99.99:0.01〜0.01:99.99、99.9:0.1〜0.1:99.9、99:1〜1:99、95:5〜5:95、90:10〜10:90、又は80:20〜20:80であることができる。
当該C60フラーレン誘導体及びC70フラーレン誘導体の含有量の比は、好ましくは、80:20〜50:50、より好ましくは、80:20〜60:40であることができる。
当該混合物における、C60フラーレン誘導体の含有量は、例えば、0.001〜99.999質量%、0.01〜99.99質量%、0.1〜99.9質量%、1〜99質量%、5〜95質量%、10〜90質量%、又は20〜80質量%であることができる。
当該C60フラーレン誘導体の含有量は、好ましくは、50〜80質量%、及び
より好ましくは、60〜80質量%であることができる。
当該混合物における、C70フラーレン誘導体の含有量は、例えば、0.001〜99.999質量%、0.01〜99.99質量%、0.1〜99.9質量%、1〜99質量%、5〜95質量%、10〜90質量%、又は20〜80質量%であることができる。
当該C70フラーレン誘導体の含有量は、好ましくは、20〜50質量%、及び
より好ましくは、20〜40質量%であることができる。
当該混合物は、C60フラーレン誘導体、及びC70フラーレン誘導体から実質的になることができる。
当該混合物は、C60フラーレン誘導体、及びC70フラーレン誘導体からなることができる。
当該混合物は、C60フラーレン誘導体、及びC70フラーレン誘導体の混合物であることができる。
【0040】
なお、本明細書中、C60フラーレン(環)を、当該技術分野において、しばしば行われるように、次のような構造式:
【化4】
で表す場合がある。
【0041】
従って、環AがC60フラーレン環である場合、式(1)のフラーレン誘導体は、次の一般式:
【化5】
で表すことができる。
【0042】
本発明のフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示すので、塗布法による薄膜の形成が容易である。
更に、本発明のフラーレン誘導体は、n型半導体材料として、有機p型半導体材料と共に用いて有機発電層を調製した際に、バルクヘテロジャンクション構造を容易に形成できる。
【0043】
本発明のフラーレン誘導体は、好ましくは、室温におけるトルエンへの溶解度が0.5%以上である。
室温におけるトルエンへの溶解度は、ランベルト・ベールの法則を用いて、吸光度から求めることができる。初めに、濃度既知のフラーレン誘導体のトルエン溶液を用いてモル吸光係数を求める。フラーレン誘導体の過飽和トルエン溶液の上澄み溶液を一定量秤量し、これの吸光度を測定する。次式に従って濃度が算出できる。
C=A/εd
[式中、C:濃度; A:吸光度; ε:モル吸光係数; d:吸光度測定用セル長(1cm)]
【0044】
本発明のフラーレン誘導体を用い、以下の電子伝導度評価を実施した場合、本発明のフラーレン誘導体の電子移動度は、好ましくは0.01〜1μe/cm−1−1の範囲内、及びより好ましくは0.1〜1μe/cm−1−1の範囲内である。
<電界効果型トランジスタ作成および電子伝導度評価>
厚さ300nmのSiO絶縁膜を有するp−ドープSi(シリコン)基板をトルエン、アセトン、脱イオン水、イソプロピルアルコールで各15分間ずつ超音波洗浄する。その後、基板を30分間オゾン洗浄し、ヘキサメチルジシラザンのトルエン溶液に1時間浸する。その後、基板をトルエン、アセトンで各15分間超音波洗浄する。
これに、電極として金を真空蒸着する。さらにこの上に供試化合物(フラーレン誘導体)の1wt%のo−ジクロロベンゼン溶液を滴下し、ホットプレートで70℃に加熱することでキャスト膜(有機層)を作製する。このようにして得るFET素子の概要は図1から理解される。
得られたFET素子を150℃で30分間アニールした後、真空下でソース−ドレイン間電圧を80V印加し、ゲート電圧を−20V〜80Vの範囲で変化させ、FET性能を測定して、電子伝導度を決定する。
【0045】
フラーレン誘導体の製造方法
本発明のフラーレン誘導体は、公知のフラーレン誘導体の製造方法、又はこれに準じた方法によって製造することができる。
本発明のフラーレン誘導体は、具体的には、例えば、下記のスキームの方法に従って、合成できる。スキーム中の記号は前記と同意義を表し、及び、当業者に明らかなように、式(a)、及び式(b)における各記号は、式(1)における各記号に対応する。
【0046】
【化6】
【0047】
<工程A>
工程Aでは、グリシン誘導体(化合物(b))をアルデヒド化合物(化合物(a))及びフラーレン(化合物(c))と反応させて、式(1)で表されるフラーレン誘導体(化合物(1))を得る。
【0048】
アルデヒド化合物(化合物(a))、グリシン誘導体(化合物(b))及びフラーレン(化合物(c))の量比は任意だが、収率を高くする観点から、通常、フラーレン(化合物(c))1モルに対して、アルデヒド化合物(化合物(a))及びグリシン誘導体(化合物(b))をそれぞれ0.1〜10モル、好ましくは0.5〜2モルの量で用いる。
【0049】
当該反応は、無溶媒又は溶媒中で行われる。
当該溶媒としては、例えば、二硫化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が例示される。なかでも、クロロホルム、トルエン、キシレン、及びクロロベンゼン等が好ましい。これらの溶媒は、適当な割合で混合して用いてもよい。
【0050】
反応温度は、通常、室温〜およそ150℃の範囲内であり、好ましくはおよそ80〜およそ120℃の範囲内である。本明細書中、室温は、15〜30℃の範囲内である。
【0051】
反応時間は、通常およそ1時間〜およそ4日間の範囲内であり、好ましくはおよそ10〜およそ48時間の範囲内である。
【0052】
得られた化合物(1)を、必要に応じて慣用の精製方法で精製できる。
例えば、得られた化合物(1)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒としては、例えば、ヘキサン−クロロホルム、ヘキサン−トルエン、又はヘキサン−二硫化炭素が好ましい。)で精製し、その後、更にHPLC(分取GPC)(展開溶媒としては、例えば、クロロホルム、又はトルエンが好ましい。)で精製できる。
【0053】
当該工程Aで用いられる、アルデヒド化合物(化合物(a))、グリシン誘導体(化合物(b))及びフラーレン(化合物(c))は、それぞれ公知の化合物であり、公知の方法、又はこれに準じた方法によって合成するか、商業的に入手可能である。
【0054】
アルデヒド化合物(化合物(a))は、公知の方法、又はそれに準じた方法により合成できる。具体的には、例えば、Rf-Ar-CHOは、パーフルオロアルキルヨージドとアリールヨージドとのウルマンカップリングにより合成すればよい。また、例えば、RfCH2CH2-Ar-CHOは、次のスキームに示す根岸カップリング反応により合成すればよい。
【化7】
【0055】
グリシン誘導体(化合物(b))は、具体的には、例えば、後記の方法(b1)、(b2)又は(b3)によって合成することができる。
【0056】
方法(b1):アニリン誘導体とハロゲン化酢酸との反応
【化8】
当該反応は、水、メタノール、エタノール、又はそれらの混合物などを溶媒として用い、及び必要に応じて塩基の存在下で実施できる。
【0057】
方法(b2):アニリン誘導体とハロゲン化酢酸エステルとの反応、及び当該反応で得られたグリシン誘導体エステルの加水分解
【化9】
この方法において、アニリン誘導体とハロゲン化酢酸エステルの反応は、例えば、メタノール、エタノールなどを溶媒として用い、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、3級アミンなどの塩基の存在下に行うことができる。グリシン誘導体エステルの加水分解は、通常、水溶性アルカリの存在下に、室温で行うことができる。
【0058】
方法(b3):芳香族ハロゲン化物とグリシンとの反応
【化10】
この反応は、例えば、触媒として一価銅を用い、及びバルキーなアミン、アミノ酸、又はアミノアルコールなどの存在下で行うことができる。反応溶媒としては、水、メタノール、エタノール、又はこれらの混合物が好ましく用いられる。反応温度は、室温〜100℃程度である。
【0059】
本発明のフラーレン誘導体は、このように、グリシン誘導体とアルデヒド化合物を原料として簡単な方法で合成できるので、低コストで製造可能である。
【0060】
フラーレン誘導体の用途
本発明のフラーレン誘導体は、n型半導体材料(特に、有機薄膜太陽電池、及びペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用のn型半導体材料)として好適に使用できる。
【0061】
本発明のフラーレン誘導体を有機薄膜太陽電池用のn型半導体材料として使用する場合、通常、有機p型半導体材料(有機p型半導体化合物)と組み合わせて用いられる。
当該有機p型半導体材料としては、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリ−アルコキシ−p−フェニレンビニレン、ポリ−9,9−ジアルキルフルオレン、ポリ−p−フェニレンビニレンなどが例示される。
これらは太陽電池としての検討例が多く、かつ入手が容易であるので、容易に安定した性能のデバイスを得ることができる。
また、より高い変換効率を得るためには、バンドギャップを狭くすることで(ローバンドギャップ)長波長光の吸収を可能にした、ドナーアクセプター型π共役高分子が有効である。
これらドナーアクセプター型π共役高分子は、ドナーユニットとアクセプターユニットとを有し、これらが交互に配置された構造を有する。
ここで用いられるドナーユニットとしては、ベンゾジチオフェン、ジチエノシロール、N−アルキルカルバゾールが、またアクセプターユニットとしては、ベンゾチアジアゾール、チエノチオフェン、チオフェンピロールジオンなどが例示される。
具体的には、これらのユニットを組み合わせた、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン−co−ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]チオフェン)(PTBxシリーズ)、ポリ(ジチエノ[1,2−b:4,5−b’][3,2−b:2’,3’−d]シロール−alt−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)類などの高分子化合物が例示される。
これらのうちでも、好ましいものとしては、
(1)ポリ({4,8−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジイル}{3−フルオロ−2−[(2−エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4−b]チオフェンジイル})(PTB7、構造式を以下に示す)、
(2)ポリ[(4,8−ジ(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン)−2,6−ジイル−alt−((5−オクチルチエノ[3,4−c]ピロール−4,6−ジオン)−1,3−ジイル)(PBDTTPD、構造式を以下に示す)、
(3)ポリ[(4,4’−ビス(2−エチルヘキシル)ジチエノ[3,2−b:2’,3’−d]シロール)−2,6−ジイル−alt−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)−4,7−ジイル](PSBTBT、構造式を以下に示す)、
(4)ポリ[N−9’’−ヘプタデカニル−2,7−カルバゾール−アルト−5,5−(4’,7’−ジ−2−チエニル−2’,1’,3’−ベンゾチアジアゾール)](PCDTBT、構造式を以下に示す)、及び
(5)ポリ[1−(6−{4,8−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシ]−6−メチルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2−イル}{3−フルオロ−4−メチルチエノ[3,4−b]チオフェン−2−イル}−1−オクタノン)(PBDTTT−CF、構造式を以下に示す)
などが例示される。
なかでも、より好ましい例としては、アクセプターユニットとしてチエノ[3,4−b]チオフェンの3位にフッ素原子を有するPTB系化合物が挙げられ、特に好ましい例としては、PBDTTT−CF及びPTB7が例示される。
【0062】
【化11】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【0063】
【化12】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【0064】
【化13】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【0065】
【化14】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【0066】
【化15】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【0067】
本発明のフラーレン誘導体を、有機p型半導体材料との組み合わせにおいて、n型半導体材料として用いて調製された有機発電層は、高い変換効率を発現できる。
本発明のフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示すので、これをn型半導体材料として使用した場合、塗布法による有機発電層の調製が可能であり、大面積の有機発電層の調製も容易である。
【0068】
また、本発明のフラーレン誘導体は、有機p型半導体材料との相溶性が良好であって、且つ適度な自己凝集性を有する化合物である。このため、当該フラーレン誘導体をn型半導体材料(有機n型半導体材料)としてバルクジャンクション構造の有機発電層を容易に形成する。この有機発電層を用いることによって、高い変換効率を有する有機薄膜太陽電池、或いは光センサーを得ることができる。
【0069】
よって、本発明のフラーレン誘導体をn型半導体材料として用いることによって、低コストで優れた性能を有する有機薄膜太陽電池を作製することが可能となる。
また、本発明のn型半導体材料を含有する(又は、からなる)有機発電層の別の応用として、デジタルカメラ用イメージセンサーがある。デジタルカメラの高機能化(高精細化)の要求に対して、既存のシリコン半導体からなるイメージセンサーには、感度低下の課題が指摘されている。これに対して、光感度の高い有機材料からなるイメージセンサーにより、高感度と高精細化が可能になると期待されている。このようなセンサーの受光部を構築する材料には、光を感度良く吸収し、ここから電気信号を高効率で発生させることが求められる。このような要求に対して、本発明のn型半導体材料を含有する(又は、からなる)有機発電層は、可視光を効率良く電気エネルギーに変換できるので、上記イメージセンサー受光部材料としても、高い機能を発現できる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0071】
以下の合成例において、パーフルオロアルキル基は、特に記載のない限り、直鎖状のパーフルオロアルキル基である。
【0072】
合成例1
【化16】
化合物1
N−メチルグリシン(89mg, 1mmol)、C60フラーレン(360mg, 0.5mmol)、及び4-パーフルオロヘキシルベンズアルデヒド(212mg, 0.5mmol)を、クロロベンゼン100mL中、120℃で15時間撹拌した。反応生成液を減圧下に濃縮し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2)、さらにHPLCで精製し、目的物(化合物1)を108.2 mg(単離収率18.5 %)得た。(純度:99%以上)
1H-NMR (CDCl3)δ: 2.82 (3H, s), 4.30 (1H, d, J=9.9 Hz), 5.01 (1H, d, J=9.9 Hz), 5.02 (1H, s), 7.66 (2H, d, J=8.4 Hz), 7.98 (2H, bs).
F-NMR (CDCl3)δ: -80.57 - -80.67 (3F, m), -110.49 - -110.63 (2F, m), -121.11 - -121.45 (2F, m), -121.85 - -122.10 (2F, m), -122.50 - -122.80 (2F, m), -125.90 - -126.10 (2F, m).
Anal. calcd for C75H10NF13: C 76.87, H 0.86, N 1.20; found C 76.98, H 1.04, N 1.24.
【0073】
合成例2
4-トリデカフルオロオクチルベンズアルデヒドはD. P. Curran、Y. Oderaotoshi、Tetrahedron、2001年、57巻、5243頁に従い合成した。
【化17】
化合物2

N−メチルグリシン(89mg, 1mmol)、C60フラーレン(360mg, 0.5mmol)、及び4-トリデカフルオロオクチルベンズアルデヒド(226mg、0.5mmol)を、クロロベンゼン100mL中、120℃で15時間撹拌した。反応生成液を減圧下に濃縮し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2)、さらにHPLCで精製し、目的物(化合物2)を141.0 mg(単離収率23.5 %)得た。(純度:99%以上)
1H-NMR (CDCl3)δ: 2.30 - 2.47 (2H, m), 2.78 (3H, s), 2.87 - 2.96 (2H, m), 4.25 (1H, d, J=9.2 Hz), 4.91 (1H, s), 4.97 (1H, d, J=9.2 Hz), 7.26 (2H, d, J=8.2 Hz), 7.74 (2H, bs).
F-NMR (CDCl3)δ: -80.58 - -80.67 (3F, m), -114.35 - -114.56 (2F, m), -121.60 - -121.90 (2F, m), -122.60 - -122.90 (2F, m), -123.10 - -123.40 (2F, m), -125.90 - -126.10 (2F, m).
MS (FAB) m/z 1199 (M+).
【0074】
合成例3
【化18】
化合物3

トリデカフルオロノナナールを、M. L. Blancら、Tetrahedron Letters、1998年、39巻、8857頁に従い合成した。
N−メチルグリシン(180mg, 2mmol)、C60フラーレン(360mg, 0.5mmol)、及びトリデカフルオロノナナール(94mg, 0.25mmol)を、トルエン100mL中、120℃で15時間撹拌した。反応生成液を減圧下に濃縮し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2)、さらにHPLCで精製し、目的物(化合物3)を84 mg(単離収率29.9 %)得た。(純度:99%以上)
1H-NMR (CDCl3)δ: 2.60 - 2.88 (4H, s), 2.98 (3H, s), 4.02 - 4.10 (1H, m), 4.22 (1H, d, J=9.8 Hz), 4.85 (1H, d, J=9.8 Hz). F-NMR (CDCl3)δ: -80.50 - -80.90 (3F, m), -114.10 - -114.60 (2F, m), -121.50 - -121.95 (2F, m), -122.50 - -123.00 (2F, m), -123.00 - -123.30 (2F, m), -125.90 - -126.10 (2F, m).
MS (FAB) m/z 1123 (M+).
【0075】
合成例4
【化19】
化合物4

N−メチルグリシン(180mg, 1mmol)、C60フラーレン(720mg, 1.0mmol)、及び4-パーフルオロドデシルベンズアルデヒド(138mg, 0.2mmol)を、クロロベンゼン200mL中、120℃で16時間撹拌した。反応生成液を減圧下に濃縮し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2)、さらにHPLCで精製し、目的物(化合物4)を68.9 mg(単離収率24.6 %)得た。(純度:99%以上)
1H-NMR (CDCl3)δ: 2.82 (3H, s), 4.30 (1H, d, J=9.4 Hz), 5.00 (1H, d, J=9.4 Hz), 5.01 (1H, s), 7.64 (2H, d, J=8.2 Hz), 7.98 (2H, bs).
F-NMR (CDCl3)δ: -80.56 (3F, t, J=10.3Hz), -110.50 (2F, t, J=13.4Hz), -121.10 - -121.40 (2F, m), -121.60 - -122.20 (34F, m), -122.30 - -122.70 (2F, m), -125.80 - -126.10 (2F, m).
MS (FAB) m/z 1471 (M+).
【0076】
合成例5
4-ノナフルオロオクチルベンズアルデヒドを、D. P. Curran、Y. Oderaotoshi、Tetrahedron、2001年、57巻、5243頁に記載の方法に準じて合成した。
【化20】
化合物5

N−メチルグリシン(180mg, 2.0mmol)、C60フラーレン(720mg, 1.0mmol)、及び4-ノナフルオロオクチルベンズアルデヒド(352mg、1.0mmol)を、クロロベンゼン200mL中、120℃で15時間撹拌した。反応生成液を減圧下に濃縮し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2)、さらにHPLCで精製し、目的物(化合物5)を340.7 mg(単離収率31.1 %)得た。(純度:99%以上)
1H-NMR (CDCl3)δ: 2.30 - 2.48 (2H, m), 2.78 (3H, s), 2.88 - 2.98 (2H, m), 4.24 (1H, d, J=9.4 Hz), 4.90 (1H, s), 4.96 (1H, d, J=9.4 Hz), 7.25 (2H, d, J=8.4 Hz), 7.74 (2H, bs).
F-NMR (CDCl3)δ: -80.63 (3F, t, J=10.0Hz), -114.47 (2F, t, J=13.9Hz), -122.60 - -122.90 (2F, m), -125.88 - -126.12 (2F, m).
MS (FAB) m/z 1099 (M+).
【0077】
合成例6
【化21】
化合物6
2−(ドデシルアミノ)酢酸(243mg, 1mmol)、C60フラーレン(720mg, 1.0mmol)、及び4-トリデカフルオロオクチルベンズアルデヒド(226mg、0.5mmol)を、クロロベンゼン200mL中、120℃で16時間撹拌した。反応生成液を減圧下に濃縮し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2)、さらにHPLCで精製し、目的物を155.6 mg(単離収率23.0 %)得た。(純度:99%以上)
1H-NMR (CDCl3)δ: 0.87 (3H, t, J=10.5Hz), 1.20 - 1.60 (17H, m), 1.60 - 1.75 (1H, m), 1.82 - 2.05 (2H, m), 2.50 - 2.62 (1H, m), 3.12 - 3.23 (1H, m), 4.10 (1H, d, J=9.6Hz), 5.02 (1H, s), 5.11 (1H, d, J=9.6 Hz), 7.62 (2H, d, J=8.2 Hz), 7.96 (2H, bs).
F-NMR (CDCl3)δ: -80.56 (3F, t, J=9.3Hz), -114.46 (2F, t, J=13.4Hz), -121.60 - -121.90 (2F, m), -122.55 - -122.90 (2F, m), -123.15 - -123.40 (2F, m), -125.80 - -126.10 (2F, m).
MS (FAB) m/z 1353 (M+).
【0078】
試験例1:溶解度(トルエン溶液で測定)
フラーレン誘導体の溶解度は、紫外可視吸光光度計を用いて測定できる吸光度により算出した。
先に、一定濃度のフラーレン誘導体の吸光度測定により、各化合物のモル吸光係数を決めておいた。
フラーレン誘導体のトルエン過飽和溶液を調製し、これの上澄み溶液の一定量を取出し、これの吸光度を測定した。
ここで得られた吸光度の数値と、前記モル吸光係数より、過飽和トルエン溶液における上澄み溶液の濃度(溶解度)を決定した。その結果を、以下に記載する。
【0079】
溶解度
化合物1 トルエン溶解度1.5%
化合物2 トルエン溶解度0.9%
合成例4 トルエン溶解度0.14%
【0080】
これから明かな通り、化合物1、2、及び4はいずれもトルエンに溶解した。特に、12のパーフルオロアルキル基鎖長を有する対照化合物(合成例4)の溶解度に比べ、それぞれ6のパーフルオロアルキル基鎖長を有する化合物1、及び2の溶解度は非常に高かった。
【0081】
これらの化合物1、2、及び4の各トルエン溶液をガラス基板に塗布、及び乾燥した結果、いずれも塗膜が得られたが、特に、化合物1、及び2の各トルエン溶液からは、色の濃さの均一性が高い塗膜が得られた。
【0082】
試験例
前記の合成例で合成した化合物の電界効果トランジスタ(FET)特性において、その電子移動度を評価した。
<電界効果型トランジスタ作成および電子伝導度評価>
厚さ300nmのSiO絶縁膜を有するp−ドープSi(シリコン)基板をトルエン、アセトン、脱イオン水、イソプロピルアルコールで各15分間ずつ超音波洗浄した。その後、基板を30分間オゾン洗浄し、ヘキサメチルジシラザンのトルエン溶液に1時間浸した。その後、基板をトルエン、アセトンで各15分間超音波洗浄した。
これに、電極として金を真空蒸着した。さらにこの上に前記合成例で合成した各化合物(フラーレン誘導体)の1wt%のo−ジクロロベンゼン溶液を滴下し、ホットプレートで70℃に加熱することでキャスト膜(有機層)を作製した。得られたFET素子の概略図を図1に示す。
得られたFET素子を150℃で30分間アニールした後、真空下でソース−ドレイン間電圧を80V印加し、ゲート電圧を−20V〜80Vの範囲で変化させ、FET性能を測定した。
結果を表1に示した。これにより、化合物1、及び2の、電子輸送層材料としての実用性が確認された。
【0083】
【表1】
図1