【課題】薄型・軽量・フレキシブル化が可能であって、例えば、有機発光素子の継時的に生じる熱の分布を均一に拡散させ外部に放出することで、ディスプレイ表面の残像や焼き付きをなど防止することができるフレキシブル電子デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂に熱伝導性フィラーを30〜80wt%含有する熱伝導性樹脂材料を、金属支持体に塗布して熱伝導性樹脂基板と金属支持体からなる積層体基板を製造する工程、及び積層体基板の熱伝導性樹脂基板上にデバイス層を形成する工程を有することを特徴とするフレキシブル電子デバイスの製造方法、及びフレキシブル電子デバイスである。
ポリイミド樹脂に熱伝導性フィラーを30〜80wt%含有する熱伝導性樹脂材料を、金属支持体に塗布して熱伝導性樹脂基板と金属支持体からなる積層体基板を製造する工程、及び積層体基板の熱伝導性樹脂基板上にデバイス層を形成する工程を有することを特徴とするフレキシブル電子デバイスの製造方法。
熱伝導性樹脂基板の平面方向の熱伝導率λxyが0.7W/mK以上であり、厚み方向の熱伝導率λzが0.3W/mK以上であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル電子デバイスの製造方法。
金属支持体と熱伝導性樹脂基板の熱膨張係数差が15ppm/K以下であり、熱伝導性樹脂基板とデバイス層の熱膨張係数差が15ppm/K以下である請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブル電子デバイスの製造方法。
熱伝導性樹脂基板が2層以上のポリイミド樹脂からなる多層構造であり、少なくとも1層が熱伝導性フィラーを含有する熱伝導層であると共に、デバイス層と接する側の層は、表面が平滑な平滑層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフレキシブル電子デバイスの製造方法。
金属支持体、熱伝導性フィラーを30〜80wt%の範囲で含有するポリイミド樹脂からなる熱伝導性樹脂基板、及びデバイス層が、この順番で積層されてなるフレキシブル電子デバイス。
前記熱伝導性樹脂基板の平面方向の熱伝導率λxyが0.7W/mK以上であり、厚み方向の熱伝導率λzが0.3W/mK以上である請求項7に記載のフレキシブル電子デバイス。
前記金属支持体と前記熱伝導性樹脂基板の熱膨張係数差が15ppm/K以下であり、前記熱伝導性樹脂基板と前記デバイス層の熱膨張係数差が15ppm/K以下である請求項7〜9のいずれかに記載のフレキシブル電子デバイス。
【背景技術】
【0002】
現在、フラットパネルディスプレイ、電子ペーパーなどの電子デバイスの分野では、主としてガラス基板が用いられているが、ガラス基板には重く壊れやすく、軽量化、薄型化すると強度が低下するという問題があるため、樹脂材料へと置き換えたフレキシブル電子デバイスを実現しようとする検討が盛んに行われている。ガラス基板よりも高い靭性を持つ樹脂基板は、曲げたり丸めたりすることが可能なフレキシブルディスプレイパネルへの適用が検討されている。しかしながら、これらの技術の多くは新しい生産技術や装置を必要とするため、大量生産されるには至っていない。
【0003】
近年、フラットパネルディスプレイの製造方法としては、軽量化や壊れにくさを具備する材料として薄いガラス基板に樹脂層を設けた材料を用いる方法が提案されている。即ち、ガラス基板に樹脂層を形成した積層体を作製し、樹脂表面上に薄膜トランジスタ(以下、TFT)や透明電極等を形成し、ディスプレイ部材として用いることができる。また、フレキシブル電子デバイス用の部材を製造する方法として、前記積層体の樹脂表面上に薄膜トランジスタや透明電極等を形成した後にガラス基板をレーザーによる加熱や剥離層を設けて、剥離除去する方法(以後、リフトオフ法と記載)が提案されている。(特許文献1〜3など)。
【0004】
フレキシブル電子デバイス用部材の製造方法として、リフトオフ法が提案されており、ガラス基板に紫外レーザー光を照射することによりガラス基板から樹脂層を剥離することができる(特許文献1)。紫外レーザー光は、200nmを超える波長を照射している。しかしながら、ガラス基板から樹脂層をリフトオフする際に加熱効果を利用することに関して、潜在的な問題がある。リフトオフを生じさせるためには、十分なエネルギーが必要となるが、この場合、熱膨張の影響によって生じる、樹脂基板またはその上に形成された部材に損傷を与えないようにする必要がある。
【0005】
フレキシブル電子デバイス用部材の製造方法として、例えば特許文献2のように密着度の異なる剥離層をガラス基板と樹脂層の間に設けることで、ガラス基板からのリフトオフを行う検討も進められている。しかしながら、パリレンや環状オレフィン共重合体は耐熱温度が低くTFTのアニール工程では使用できないという課題がある。
【0006】
また、特許文献3においてもガラス基板と樹脂基板の間に、剥離層を設けて剥離する方法が検討されているが、剥離層を蒸着もしくは塗布で設けるため工程が煩雑になり、本質的な生産性の向上にはならない。
【0007】
一方で、フレキシブル電子デバイス部材には高い放熱性が求められており、有機発光素子から発生する熱を装置からいかに逃がすかという点は重要な課題となっている。
【0008】
有機発光素子は電圧が電極間に印加されて表示パターンに対応した電流が発光素子に流れることで発光するが、現状では発光の際に一部が熱エネルギーに変換され、有機発光素子がジュール熱などにより発熱してしまうことがある。有機発光素子の発熱は、輝度などの発光特性の低下や、有機発光素子自体の劣化を招く場合があるとされている。また、有機発光素子の温度が高くなるほど、有機発光素子の特性劣化を引き起こしやすい傾向がある。
【0009】
素子の過度な発熱が引き起こす問題として、例えば残像や焼き付き現象が挙げられる。前記の通り、表示パターンに対応した電流が発光素子に流れるため、表示パターンによって電流が多く流れる部分とほとんど流れない部分が生じ、表示パターンにより発熱量が異なることになる。このため、固定パターンを長時間にわたり表示し続けると、局部的に有機発光素子の発熱量が異なり、ディスプレイ表示画面に残像や焼き付きが発生する。残像は徐々に固定パターンが消えていくが、焼き付きは永久に固定パターンが消えない。このため、固定パターンの残像や焼き付きは、画質の低下を招く結果となる。そのため、局部的な発熱量の違いを防止するために、熱を迅速に外部まで拡散し、有機発光素子全体の発熱量を均一にする必要があり、有機発光素子が発する熱を素子外に放熱する方策が種々検討されている。
【0010】
素子の過度な発熱が引き起こすもう一つの問題として、例えば輝度のバラツキが挙げられる。例えば、画面全体を長時間に渡り白表示した場合、有機発光素子構造や有機発光素子を格納する筐体構造等の違いにより放熱されやすい部分とされにくい部分が生じる。その結果、局所的な温度差で発光特性に差が生じる結果を招き、表示画面の輝度にバラツキが生じることがある。表示画面の輝度を均一にするためには、局部的に発生した熱を均一に拡散させ、外部へ放出することが必要である。
【0011】
これら素子の過度な発熱が引き起こす問題を解決するために様々な手法がとられてきた。
【0012】
放熱性を改善する手法として、ガラスや金属、セラミックス材料を用いた高熱伝導性基板や、ファン又は水冷による放熱、凹凸による表面積の増大、被膜またはシートなどによる層を設けることにより、基板から外界への熱放射を大幅に向上させ、有機発光素子の温度上昇を抑制する手法が提案されている。(特許文献4)
【0013】
一般にガラスの熱伝導率は、1W/m・Kと低いために、発生した熱はガラスの内側から外側まで伝導しにくい。また、ガラスは熱が均一に拡散しにくいため、ガラス基板内で熱分布の偏りを生じ、有機発光素子やこれを実装する装置において、輝度バラツキ、寿命の経時変化などの特性に差が生じてしまう場合がある。
【0014】
特許文献5で支持体に金属基板を使った検討も行われているが、実施例では、厚さ2mmのCu基板を使用しており、フレキシブル化や薄型化が困難となる。また、特許文献5では凹凸による表面積の増大を利用した放熱の検討も行われているが、放熱性は構造が複雑化し、生産効率が低下してしまう。
【0015】
セラミックス基板を有機発光素子基板として用いた検討も行われた(特許文献6)が、フレキシブルなデバイスには対応できないという欠点があった。フィラーを含むフレキシブル電子デバイス基板の検討も行われている(特許文献7)が、これまでに有機発光素子基板としての検討は行われていない。寸法安定性や製造中の剥離に関与する熱膨張係数について検討されておらず、面方向と縦方向の熱伝導度の異方性ついても記載されていない。
【0016】
フレキシブル電子デバイス基板に樹脂とフィラーからなる複合体を用いた基板の製造検討も進められているが、これらは機械的強度を高め、熱膨張係数を低くする効果を発現している。例えば特許文献3や特許文献8では、熱伝導性の低いガラスフィラーが用いられ、また、特許文献9ではコロイダルシリカを用いているが、コロイダルシリカもまた熱伝導性が低いためフィラーを含んでいてもフレキシブル電子デバイス基板から放熱ができないという課題がある。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明のフレキシブル電子デバイスの製造方法について詳細に説明する。
【0031】
本発明は、樹脂とフィラーからなる熱伝導性樹脂材料を支持体に塗布して熱伝導性基板と支持体からなる積層体を製造する工程、熱伝導性基板上にデバイス層を形成する工程、及び、支持体と熱伝導性基板を剥離する工程を有する熱伝導性フレキシブル電子デバイスの製造方法である。
【0032】
この方法によると、例えば、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸(正式名;ポリアミド酸、以下同じ。)とフィラーとの混合溶液を、適当な支持体上に直接塗布し、乾燥及び硬化することによって形成することができる(いわゆるキャスト法)。そのため、樹脂とフィラーからなる熱伝導性基板に直接デバイスを形成することができ、金属などの放熱層の貼り付け工程を省略することができる。また、デバイスを形成した後は、熱伝導性基板を支持体から剥離することにより、フレキシブル電子デバイスを得ることができる。さらに、この方法は、既存のガラス基板を使用した生産装置をそのまま使用できるという利点があり、フラットパネルディスプレイ、電子ペーパーなどの電子デバイスの分野で有効に使用でき、大量生産にも適している。支持体から剥離する方法には、公知の方法を用いることができる。例えば、人が引き剥がしても良いし、駆動ロール、ロボット等の機械装置を用いて引き剥がしても良い。更には、支持体と熱伝導性基板の間に剥離層を設ける方法や、レーザー光によって分離させる方法を挙げることが出来る。支持体からの除去は、前述の公知の方法で行うことができるが、機械的な手法で除去することが好ましい。なお、以下では、熱伝導性樹脂材料としてポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を用いて、ポリイミド樹脂層を形成する例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
また、支持体から除去することなく一体として用いることもできる。この場合、熱伝導性基板と接する支持体を金属層とすることで熱伝導性・放熱性を向上させることができる。金属種は特に限定しないが、好ましくはアルミニウム、銅もしくはそれらを主成分とする合金が好ましい。
【0034】
ポリアミック酸溶液の塗布は、公知の方法で行うことができ、例えば、バーコード方式、グラビアコート方式、ロールコート方式、ダイコート方式等から適宜選択して採用することができる。
【0035】
本発明に用いられる支持体は支持性と高温プロセスへの耐性を有していれば特に限定されないが、ハンドリング性や透明性を有する点でガラス基材が好ましい。
【0036】
本発明のフレキシブル電子デバイスの製造方法において、熱伝導性基板の熱伝導率は平面方向の熱伝導率λxyが0.7W/mK以上、厚み方向の熱伝導率λzが0.3W/mK以上であることが好ましく、更に、平面方向の熱伝導率λxyが1.0W/mK以上、厚み方向の熱伝導率λzが0.4W/mK以上であることがより好ましい。平面方向の熱伝導率λxyが0.7W/mKに満たないと熱を十分拡散させることができず、厚み方向の熱伝導率λzが0.3W/mKに満たないとデバイス層で発生する熱を伝えることができず、結果として十分な冷却効率が得られない。
【0037】
熱伝導性樹脂材料におけるフィラーは、熱伝導性を有するフィラーであることが好ましく、熱伝導性樹脂材料における熱伝導性フィラーの含有割合は、30〜80wt%の範囲であるのがよく、40〜70wt%の範囲が好ましい。熱伝導性樹脂材料におけるフィラーの含有割合が30wt%に満たないと、有機発光素子基板等の電子部材とした際の放熱特性が十分でなくなる。また、80wt%を超えると本発明の特徴であるフレキシブル化(屈曲性)の低下が顕著となり、ポリイミド樹脂層の強度も低下する場合があり、有機発光素子やバリア層といった隣接する部材を積層する際に破損したり、カールしたりしてしまう恐れがある。
【0038】
熱伝導性基板は支持体からの剥離性が良好であることが好ましく、フィラーの含有率によってピール強度を調整することができる。剥離性はピール強度の強弱で表現することができる。上述したように、熱伝導性フィラーの含有割合は、30〜80wt%の範囲であるのがよく、40〜70wt%の範囲が好ましい。熱伝導性樹脂材料におけるフィラーの含有割合が30wt%に満たないと、ピール強度が向上し、剥離しにくくなる。剥離しにくいと、有機発光素子やバリア層といった隣接するデバイス部材(デバイス層)に破損を与える場合がある。また、80wt%を超えるとピール強度が低下し過ぎて、製造中に剥離したり、皺やズレが生じてしまう恐れがある。
【0039】
本発明において、例えば電子デバイスとして有機発光装置を挙げられるが、有機発光素子層への水分や酸素の侵入を防ぐため、熱伝導性基板の少なくとも片面にはガスバリア層を設けることが一般的である。ここで、酸素や水蒸気等に対するバリア性を備えたガスバリア層として、酸化珪素、酸化アルミニヴム、炭化珪素、酸化炭化珪素、炭化窒化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素等の無機酸化物膜が好適に例示される。また、支持体としては、ガラスやシリコン材料、銅やアルミニウムといった金属材料等が好適に例示される。これら支持体と熱伝導性基板との熱膨張係数の差、及び、無機酸化物のガスバリア層と熱伝導性基板との熱膨張係数の差が大きいと、その後のTFTの製造工程中にカールが発生したり、寸法安定性が悪化したり、クラックの発生が起こるおそれがある。
【0040】
また、一般に大面積フィルムを製造した場合に反りが問題になるが、本発明の熱伝導性基板であれば、ガスバリア層との熱膨張係数の差が小さいため、このような不具合の問題が解消される。フレキシブル電子デバイスの製造方法において、支持体と熱伝導性基板の熱膨張係数差が15ppm/K以下であると共に、熱伝導性基板とデバイス層の熱膨張係数差が15ppm/K以下であることが好ましく、より好ましくは、支持体と熱伝導性基板の熱膨張係数差が10ppm/K以下であり、熱伝導性基板とデバイス層の熱膨張係数差が10ppm/K以下である。
【0041】
なお、表1には、支持体及びガスバリア層を形成する代表的な無機膜とその熱膨張係数を示す。ここで、熱膨張係数は同じ組成であっても製造方法によって変化するため、表1に示す値は目安である。また、ガスバリア層は上記のような無機膜の1種類から形成されてもよく、2種以上を含むようにして形成しでもよい。
【0043】
本発明において、熱伝導性樹脂材料に含まれるフィラーの種類としては、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等からなる熱伝導性フィラーが挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類のフィラーが好ましい。フィラー形状は、特に制限されるものではなく板状、針状、棒状のいずれでも良い。これらの熱伝導性フィラーの含有量を高め、熱伝導性などの特性とのバランスを考慮すると球状フィラーと板状フィラーを併用することも好ましい。後述の平滑層が10μm以下の場合、または、平滑層を用いない場合は、デバイス層が形成される熱伝導性基板表面の平滑性を良好な状態とするため板状フィラーを用いることが好ましい。なお、フィラーの種類によっては微量ながらも金属不純物を含んでおり、この金属不純物が有機発光素子装置の製造工程内に混入してしまうと、不具合を生じることが懸念されるため、高純度なフィラーを使用することが好ましい。
【0044】
熱伝導性フィラーの粒子サイズは、熱伝導性基板の厚み方向にフィラーを均一に分散させる観点から、平均粒子径が0.01〜25μmの範囲にあることが好ましく、1〜8μmの範囲にあることがより好ましい。フィラーの平均粒子径が0.01μmに満たないと、個々のフィラー内部での熱伝導が小さくなり、結果として熱伝導性基板の熱伝導率が向上しないばかりでなく、粒子同士が凝集を起こしやすくなり、均一に分散させることが困難となる恐れがある。一方、25μmを超えると、熱伝導層への可能な充填率が低下し、かつフィラー界面により熱伝導性基板が脆くなる傾向にある。ここで言う平均粒径とは、レーザー回折・散乱法(測定装置:マイクロトラックMT3300EX)により測定した粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径をいう。
【0045】
本発明に用いる球状フィラーの最適なものは、平均粒径が0.5〜3.0μmの範囲内のフィラーであって、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムを用いることが好ましい。また、本発明に用いる板状フィラーの最適なものは、平均粒径が0.1〜15μmの範囲であり、特に好ましくは0.5〜8μmの範囲である。板状フィラーとしては窒化ホウ素を用いることが好ましい。この平均粒径が0.1μmに満たないと、熱伝導率が低くなり、板状の効果が小さくなってしまう。また、15μmを超えると製膜時に配向させることは困難となる。また、熱伝導性フィラーの平均粒子径は、ポリイミド樹脂層の厚みにも関係する。熱伝導性フィラーの平均粒子径は、ポリイミド樹脂層の厚みの70%以下、好ましくは50%以下とすることがよい。
【0046】
また、本発明においては、熱伝導性基板を2層以上のポリイミド樹脂からなる多層構造としてもよい。その場合、少なくとも1層が熱伝導性フィラーを含有する熱伝導層であると共に、デバイス層と接する側の層は、表面が平滑な平滑層とするのがよい。すなわち、樹脂と熱伝導性フィラーを含んだ熱伝導層の表面に、さらにもう一層の平滑層を設ける場合、平滑層の表面粗度(Ra)は100nm以下が好ましい。これ以上粗度が大きくなれば、凹凸が発光素子に影響し、画質の低下を招く場合がある。平滑層は樹脂だけで形成してもよく、熱伝導性フィラーを含んでもよい。平滑層に熱伝導性フィラーを含む場合は、形成される表面が平滑になるようにナノフィラーを用いることが好ましい。なお、表面粗度(Ra)は熱伝導層もしくは平滑層の大気に接する面を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面観察をタッピングモードで10μm角の視野観察を4回行い、それらの平均値を求めた算術平均粗さ(JIS B0601-1991)を表す。
【0047】
平滑層に用いるナノフィラーの平均粒子径は200nm以下の範囲にあることが好ましく、さらに100nm以下の範囲にあることがより好ましい。ナノフィラーの平均粒子径が200nmを超えると、表面が粗くなることにより、平滑性が低下する恐れがある。これ以上粗度が大きくなれば、凹凸が発光素子に影響し、画質の低下を招く場合がある。ただし、ナノフィラーの平均粒子径の実質的には10nmが下限である。ナノフィラーとしては、特に限定はないが、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素が挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類のナノフィラーが好ましい。フィラー形状は、特に制限されるものではなく板状、針状、棒状のいずれでも良い。ナノフィラーは表面処理されたものを使用するのが好ましい。ナノフィラーの平均粒子径については、熱伝導性フィラーにおける平均粒子径の場合と同様レーザー回折・散乱法(測定装置:マイクロトラックMT3300EX)により測定した粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を意味する。
【0048】
平滑層にナノフィラーを含有する場合、熱伝導層の熱伝導フィラーの含有割合よりも小さいことが好ましい。また、その含有割合は1〜50wt%の範囲であることが好ましく、10〜40wt%の範囲がより好ましい。平滑層におけるナノフィラーの含有割合が50wt%を超えると、隣接する部材に対する接着性が劣るだけでなく、平滑層の強度も低下する。
【0049】
上述したように、多層構造の場合は熱伝導性基板を構成する全ての層がフィラーを含有していてもよいし、少なくとも1層以上がフィラーを含有した層であればフィラーを含有しない層を含んでいてもよい。その場合、最も膜厚が厚い層がフィラーを含有した層であることが好ましい。すなわち、上記の例で言えば、熱伝導層の厚みは1μm〜100μmであるのがよく、好ましくは5μm〜50μmであるのが良い。この範囲より小さいと、フィラーによる凹凸が大きくなり、この範囲より大きいと熱伝導効率が低下する恐れがある。また、平滑層の厚みは0.1μm〜30μmであるのがよく、好ましくは2μm〜5μmであるのが良い。この範囲より小さいと十分な平滑化効果が得られず、この範囲より大きいと熱伝導性を阻害することになるので好ましくない。
【0050】
フレキシブル電子デバイスの製造例として、TFTの形成を例にすると、一般にTFTのアニール工程は300〜400℃程度の熱処理温度が必要であるため、支持基材として樹脂を用いる場合には、TFTの熱処理温度における耐熱性と寸法安定性を備えていることが必要になる。一方で、照明用の有機EL装置のようにTFTを必要としない場合があるが、支持基材と隣接する透明電極の成膜温度を上げることによって透明電極の抵抗値を下げ、有機EL装置の消費電力を減らすことができるため、照明用途の場合にも支持基材に耐熱性が求められることは同様である。そのため、本発明に用いられる樹脂はガラス転移温度が280℃以上であることが好ましく、より好ましくは350℃以上である。
【0051】
また他の例として透明電極の形成を例にすると、透明電極として一般にはITOなどの金属酸化物が用いられており、それらは0〜10ppm/Kの熱膨張係数であることから、クラックや剥離の問題を回避するためには同程度の熱膨張係数の樹脂が必要になる。樹脂の好ましい熱膨張係数は60ppm/K以下で、さらに好ましくは15ppm/K以下である。
【0052】
熱伝導性基板に用いられる樹脂に限定はないが、熱膨張係数を小さくするという観点からポリイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂は直鎖構造が好ましく、面方向の熱伝導性が縦方向の熱伝導率に比べて高いため、直鎖状構造が好ましい。より好ましくは下記一般式(1)で示されるポリイミド樹脂構造が好ましい。一般式(1)で表される構造単位を10〜95モル%、好ましくは50〜95モル%含有することが好ましい。すなわち、下記一般式(1)で表される構造単位を一定以上配合することで、線膨張係数を小さくし、面方向の熱伝導率を高め、熱の拡散効果を期待できる。
【化2】
【0053】
一般式(1)中、Ar1は芳香環を1個以上有する4価の有機基であり、Rは炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、又はハロゲンである。Ar1は、ポリイミド原料である芳香族テトラカルボン酸の残基と見ることができるので、芳香族テトラカルボン酸の具体例を示すことにより、Ar1が理解される。また、Rはポリイミド原料である芳香族ジアミンの残基の一部と見ることができる。
【0054】
芳香族テトラカルボン酸の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1, 2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。
【0055】
一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位としては、ポリイミド原料である芳香族テトラカルボン酸の残基と芳香族ジアミンの残基とに分けて説明すると、芳香族テトラカルボン酸の残基としては、上記Ar1で説明したと同様な芳香族テトラカルボン酸の残基を挙げることができる。
【0056】
芳香族ジアミンの残基としては、次に示すような芳香族ジアミンの残基が挙げられる。例えば、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4'-メチレンジ-o-トルイジン、4,4'-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4'-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3'-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,7-ジアミノジベンゾフラン、1,5-ジアミノフルオレン、ジベンゾ-p-ジオキシン-2,7-ジアミン、4,4’-ジアミノベンジルなどが挙げられる。
【0057】
熱伝導層を構成するポリイミド樹脂を合成する場合、ジアミン、酸無水物はそれぞれその1種のみを使用してもよく、2種以上を併用することもできるが、ジアミン及び酸無水物の少なくとも一方は2種以上を使用する。有利には、ジアミンとして2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルのような一般式(1)で表わされる構造単位を与えるジアミンを使用し、その他に一般式(1)では表わされない構造単位を与える他のジアミンを併用することがよい。
【0058】
本発明では、熱伝導層に熱伝導性フィラーを含有するため、ポリイミド樹脂の優れた耐熱性や寸法安定性を維持しながら、その機械的強度を保持させる必要がある。そのような観点から、上記他のジアミンとしては、一般式(1)で表わされる構造単位を与えるジアミンより剛直性の少ない構造を有する芳香族ジアミンが適する。有利には、ジアミン成分に2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルを主成分とし、これに1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル及び4,4'-ジアミノジフェニルエーテルから選択される少なくとも1種のジアミンを他のジアミンとして併用し、酸無水物にピロメリット酸二無水物を主成分として用いることがよい。他のジアミンの使用割合は5〜50モル%の範囲が好ましい。
【0059】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミドは、弾性率が5GPa〜10GPa程度であって比較的硬い性質を有することから、それよりも弾性率の低いポリイミド層(平滑層)をデバイス層と接するように配して、応力緩和の役割を果たすようにしてもよい。
【0060】
平滑層を形成するポリイミド樹脂は、好適には、熱伝導層を形成するポリイミド樹脂よりもガラス転移温度(Tg)が低い必要があるが、200℃以上のTgを有する熱可塑性のポリイミド樹脂の層が好ましい。より好ましくは、Tgが200〜350℃の範囲にある熱可塑性樹脂であって、熱伝導層を構成するポリイミド樹脂より20℃以上Tgが低い層であることがよい。一方、熱伝導層は、熱伝導性基板の50%以上の厚みを有するベース層となるためTgも高いことが好ましく、310℃以上であることが好ましく、350〜450℃の範囲にあることがより好ましい。平滑層を構成するポリイミド樹脂は、上記物性を満足する限り、公知のポリイミド樹脂を用いることができ、上記した酸二無水物成分とジアミン成分から得ることができる。
【0061】
ここで、平滑層を製造するために用いられる酸二無水物成分としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)などの芳香族酸二無水物が例示される。また、ジアミン成分としては、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(BAPS)、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-DAPE)、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1, 3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン(DANPG)などの芳香族ジアミンが好ましいものとして例示される。
【0062】
平滑層は主に基板に平滑性を持たせるために設けられるため、その厚みは薄いことが好ましく、熱伝導性基板の大きさや発光素子の発熱量にもよるが、上述したように、およその目安として好ましくは30μm以下、より好ましくは5μm以下であることがよい。これ以上厚みが厚くなれば、熱伝導性が低下する場合がある。
【0063】
少なくとも熱伝導層を形成する場合について、熱伝導性フィラーを含有するポリアミック酸溶液は、例えば、予め重合して得られた溶媒を含むポリアミック酸溶液に熱伝導性フィラーを一定量添加し、攪拌装置などで分散させることで調製する方法や、溶媒中に熱伝導性フィラーを分散させながらジアミンと酸無水物を添加し重合を行い調製する方法が挙げられる。どちらの方法を用いてもよいが、粘度が高いポリアミック酸を用いる場合は、重合前にあらかじめ溶媒中に熱伝導フィラーを混合することが好ましく、粘度の低いポリアミック酸を用いる場合は重合後、ポリアミック酸溶液中に熱伝導性フィラーを混合することが好ましい。
【0064】
ポリアミック酸は、芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。すなわち、窒素気流下N,N−ジメチルアセトアミドなどの溶媒に上記ジアミンを溶解させた後、芳香族テトラカルボン酸二無水物を加えて、室温で3時間程度反応させることにより得られる。熱伝導層および平滑層を形成するに適したポリアミック酸の好ましい重合度は、その粘度範囲で表したとき、取り扱いやすさと平坦化能力の観点から、溶液粘度が5〜2,000Pの範囲であり、10〜300Pの範囲がより好ましい。溶液粘度の測定は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計によって行うことができる。なお、上記溶媒には、N,N−ジメチルアセトアミドの他、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらを1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0065】
本発明における熱伝導性基板は、有機発光装置、つまりフラットパネルディスプレイ、液晶表示機用バックライトや照明用光源の基板として用いられることが好ましく、さらに好ましくは、有機発光装置のトップエミッション方式に構成される基板として用いることが好ましい。トップエミッション方式は発光素子側に放熱に寄与する部材がないために、蓄熱しやすいため、熱伝導性の高い基板を用いることが好ましい。また、熱伝導性基板は有機発光装置を構成する部材であって、熱伝導性基板に、薄膜トランジスタ、電極層、有機EL発光層、電子インク、カラーフィルターのいずれか、または二つ以上を形成することが好ましい。また、本発明における有機発光素子は、自家発光する有機物質からなる素子を意味し、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。有機エレクトロルミネッセンス素子の構成は発光層、電極、電子注入層などの必要な機能を有した層からなり、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子のことである。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0067】
本実施例に用いた略号は以下の化合物を示す。
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
4,4'‐DAPE:4,4‘‐ジアミノジフェニルエーテル
TPE‐R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸ニ無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0068】
また、実施例において評価した各特性については、下記評価方法に従った。
【0069】
[粘度の測定]
ポリアミック酸溶液の粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、25℃で測定した。
【0070】
[厚み方向熱伝導率(λzTC)]
ポリイミド樹脂フィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、周期加熱法による厚み方向の熱拡散率(アルバック理工製FTC‐1装置)、DSCによる比熱、水中置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0071】
[面方向熱伝導率(λxyTC)]
ポリイミド樹脂フィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、光交流法による面方向の熱拡散率(アルバック理工製LaserPIT装置)、DSCによる比熱、水中置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0072】
[熱膨張係数(CTE)]
3mm×15mmのサイズのポリイミド樹脂フィルムを、熱機械分析(TMA)装置にて5gの荷重を加えながら一定の昇温速度(20℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対するポリイミドフィルムの伸び量から熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0073】
[ガラス転移温度(Tg)]
ポリイミド樹脂フィルム(10mm×22.6mm)を動的熱器械分析装置(正式名;動的粘弾性測定装置(DMA))にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(tanδ極大値:℃)を求めた。
【0074】
[180度ピール強度]
積層体の銅箔層を幅1.0mm、長さ180mmの長矩形にパターンエッチングし、そのパターンが中央になるように、幅20mm、長さ200mmに試験片を切り抜き、IPC−TM−650.2.4.19により180°引剥し試験を行った。
【0075】
合成例1〜4
ポリアミド酸溶液Aを合成するため、窒素気流下で、m−TB(32g、0.90mol)及びTPE−R(4.8g、0.10mol)を1000mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc425g中に溶解させた。次いで、BPDA(9.7g、0.197mol)、PMDA(28.5g、0.788mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液Aを得た。以下、表2に示した組成に基づき、上記と同様の方法で、ポリアミド酸溶液B〜Dを合成した。ポリアミド酸溶液A〜Dはポリアミド酸と溶媒DMAcからなり、ポリアミド酸溶液について粘度と熱膨張係数、ガラス転移温度をそれぞれ測定した。
【0076】
【表2】
【0077】
合成例5〜18
次に、固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液Aを43.5重量部と、酸化アルミニウム[球状、平均粒径3μm]を3.25重量部と、窒化ホウ素[板状、平均粒径4.5μm]を3.25重量部とを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸とフィラーの混合溶液(サンプルE)を得た。
【0078】
以下、表3及び4に示した組成に基づき、上記と同様の方法で、残りのサンプルF〜Rを合成した。この時、ポリアミド酸溶液Bにおける固形分濃度は15wt%、ポリアミド酸溶液C及びDにおける固形分濃度は12wt%として用いた。また、ポリアミド酸溶液AおよびBを用いる場合(サンプルE5〜15)は、粘度調整のためDMAcをポリアミド樹脂溶液に対して20%(8.72重量部)添加し、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合した。なお、表2〜4中のジアミン、テトラカルボン酸二無水物、ポリアミド酸溶液及びフィラーの数値は、各成分の重量部を表す。
【0079】
サンプルE〜Rは表2におけるポリアミド酸溶液A〜Dと熱伝導性のフィラーを表3の配合表に基づき混合した混合溶液である。熱伝導性のフィラーとして、Al2O3は平均粒径3μmと0.6μmの球状フィラー、BNは平均粒径4.5μmと2.3μmの板状フィラー、AlNは平均粒径1.1μmの球状フィラーを用いた。なお、ここでの平均粒径は、レーザー回折・散乱法(測定装置:マイクロトラックMT3300EX)により測定した粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を表す。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
フィルム作成例及び参考例
合成例3で得たポリアミド酸樹脂溶液Cを硬化後の厚みが約2μmとなるようにガラス基板に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に合成例5で得たポリアミド酸樹脂Eの溶液を硬化後の厚みが約21μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上に合成例3で得たポリアミド酸樹脂溶液Cを硬化後の厚みが約2μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120〜360℃の温度範囲で、段階的に30分かけて昇温加熱して、ガラス上に3層のポリイミド樹脂層(C/E/C)からなる熱伝導性基板用積層体を作製した。ポリイミド樹脂層の特性を評価するために、ガラス基板からポリイミド樹脂層を剥離して、ポリイミド樹脂フィルム(M1)を作製した。このポリイミド樹脂フィルムのCTE、熱伝導率を評価した。以下同様にしてガラス基板上で3層、2層、単層のポリイミド樹脂フィルムM2〜M14、M16〜M21を作成した後、CTE、熱伝導率を評価した。結果を表5に示す。
【0083】
ここで、表5におけるM1〜M6は、ポリイミド樹脂と熱伝導性フィラーからなるフィルムとポリイミド樹脂からなるフィルムとの積層体フィルムである。M7〜M14はポリイミド樹脂と熱伝導性フィラーからなる単層のフィルムである。M15は物性比較のための参考例であり、デュポン社の熱伝導性ポリイミド樹脂フィルム(カプトン(登録商標)MT:厚み43μm)である。M16〜M17は組成の異なるポリイミド樹脂フィルムからなる積層体である。M18〜M21は組成の異なるポリイミド樹脂からなる単層フィルムである。フィルムの層構成及び厚み構成は表5の通りである。M1〜M21について、熱膨張係数と縦方向と横方向の熱伝導率、表面粗度を測定した。M3の熱膨張係数に関しては、機械的強度不足のため測定ができなかった。
【0084】
【表5】
【0085】
実施例1〜2
ポリアミド酸溶液DとAlN(71wt%)からなる樹脂組成物(Q)を20μm銅箔の上に塗布し、イミド化して厚さ5μmの積層体フィルム(M22)を得た。得られた積層体フィルムの銅箔とのピール強度を表6に示す。この積層体フィルムに既知の方法を用いて、ガスバリアとしてのSiN層(150μm)及びSiO層(100μm)を順次形成したのちTFTとなるアモルファスシリコン層50μmを形成し、TFTが形成された積層体フィルムを得たのち、銅箔からTFTが形成された熱伝導性基板を剥離してフレキシブル電子デバイスを得た。TFT形成後もピール強度に大きな変化はなかった。同様に、ポリアミド酸溶液DとAlN(51wt%)からなる樹脂組成物を銅箔の上に塗布しイミド化した積層体フィルム(M23)を作成し、TFTを形成したところ同様なフレキシブル電子デバイスが得られた
【0086】
【表6】
【0087】
比較例1、2
熱伝導性フィラーを含有しないポリイミド樹脂層と銅箔との積層体フィルム(M24、M25)表2の層構成にて作成した。180度ピール強度を測定したのち、実施例1、2と同様にTFTを形成したが、銅箔から物理的に剥離は可能であったが、TFTに割れが発生した。
【0088】
上記実施例及び比較例について、実施例1、2に用いたフィルム(M22・23)は比較例1、2に用いたフィルム(M24・25)に対し、樹脂層において熱伝導性フィラーの有無により、支持体からの剥離特性が異なること、そして樹脂単独の層よりも樹脂と熱伝導性フィラーからなる層の方が基材からの剥離性が良好である点から、表示装置に最適な材料である。
【0089】
また、樹脂層において熱伝導性フィラーの有無により、熱伝導率が上がっただけでなく、熱伝導性フィラーの量や種類を最適な条件にしたことで、横方向の熱伝導率を飛躍的に高めることができた。つまり、比較例の縦方向と横方向の熱伝導率の差に比べ、実施例の同方向の熱伝導率差が大きいため、焼き付きや残像の原因となっていた、蓄積された熱を速やかに拡散することができる。