【課題】本発明の目的は、成形品からのホルムアルデヒドの発生を極めて低レベルに抑制でき、かつ、安定的に生産時のモールドデポジットが抑制されたポリアセタール樹脂組成物を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は優れた諸特性を有し、その成形品は広汎な分野に利用されているが、その化学構造上の特徴から、加熱酸化雰囲気下や、酸性或いはアルカリ性条件下では分解されやすいという性質を有する。その為、ポリアセタール樹脂の課題として、熱安定性が高く、成形加工過程又は成形品からのホルムアルデヒドの発生を抑制することが挙げられる。熱安定性が低いと、押出又は成形などの加工工程において加熱によりポリマーが分解し、金型への付着物(モールドデポジット)が発生したり、成形性や機械的物性などが低下したりする。
【0003】
また、通常の使用条件下においてポリアセタール樹脂成形品から発生するホルムアルデヒドは極めて微少量であるが、発生したホルムアルデヒドは化学的に活性であり、酸化により蟻酸となってポリアセタール樹脂の耐熱性に悪影響を及ぼしたり、電気・電子機器の部品などに用いると、ホルムアルデヒド或いはその酸化物である蟻酸により金属製接点部品が腐蝕したり、有機化合物の付着により変色や接点不良を生じる要因になる場合がある。
【0004】
そこで、ポリアセタール樹脂を安定化させるため、酸化防止剤やその他の安定剤が配合されている。ポリアセタール樹脂に添加される酸化防止剤としては、立体障害を有するフェノール化合物(ヒンダードフェノール)、立体障害を有するアミン化合物(ヒンダードアミン)などが知られており、その他の安定剤として、メラミン、ポリアミド、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物などが使用されている。また、通常、酸化防止剤は他の安定剤と組み合わせて用いられる。
【0005】
しかしながら、このような汎用的な安定剤を通常のホルムアルデヒド品質を有するポリアセタール樹脂に配合しただけでは、発生するホルムアルデヒド、特に、成形品から発生するホルムアルデヒドを大幅に低減させることは困難である。さらに、上記のような問題を解決しホルムアルデヒドの発生量を低減させるため、種々の化合物を配合したポリアセタール樹脂組成物が開示されている。
【0006】
例えば、特定末端基のポリアセタール樹脂、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびヒドラジドを併用する技術が開示されている(特許文献1,2)。また、グラフト共重合体、脂肪酸エステル、シリコーンオイル、特定の大きさの炭酸カルシウムを共存させる技術も開示されている(特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
<(A)ポリアセタール重合体>
本発明に使用されるポリアセタール重合体は、オキシメチレン基(−OCH
2−)を構成単位とするホモポリマーでもよいし、オキシメチレン単位以外に他のコモノマー単位を有する共重合体であってもよく、共重合体であることが好ましい。
【0014】
一般的にはホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーを主モノマーとし、環状エーテルや環状ホルマールから選ばれた化合物をコモノマーとして共重合させることによって製造され、通常、アルカリ加水分解等によって末端の不安定部分を除去して安定化される。
【0015】
特に、主モノマーとしてはホルムアルデヒドの環状三量体であるトリオキサンを用いるのが一般的である。トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることにより得られ、これを蒸留などの方法で精製して使用される。重合に用いるトリオキサンは、水、メタノール、蟻酸などの不純物の含有量が極力少ないものが好ましい。
コモノマーとしては、一般的な環状エーテル及び環状ホルマール、また分岐構造や架橋構造を形成可能な化合物をコモノマーとして、グリシジルエーテルなどを単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0016】
上記の如きポリアセタール共重合体は、一般には適量の分子量調整剤を添加し、カチオン重合触媒を用いてカチオン重合することにより得ることができる。使用される分子量調整剤、カチオン重合触媒、重合方法、重合装置、重合後の触媒の失活化処理、重合によって得られた粗ポリアセタールコポリマーの末端安定化処理法などは多くの文献によって公知であり、基本的にはそれらが何れも利用できる。
【0017】
本発明で使用するポリアセタール共重合体の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が10,000〜400,000程度のものが好ましい。また、樹脂の流動性の指標となるメルトインデックス(ASTM−D1238に準じ、190℃、荷重2.16kgで測定)が0.1〜100g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは0.5〜80g/10分である。
【0018】
本発明において使用するポリアセタール重合体(A)は、特定の末端特性を有していることが特に好ましい。具体的には、ヘミホルマール末端基量が1.0mmol/kg以下、ホルミル末端基量が0.5mmol/kg以下、不安定末端基量が0.5質量%以下である。ここでヘミホルマール末端基は−OCH
2OHで示されるものであり、ヒドロキシメトキシ基あるいはヘミアセタール末端基とも称される。また、ホルミル末端基は−CHOで示される。このようなヘミホルマール末端基およびホルミル末端基の量は
1H−NMR測定により求めることができ、その具体的な測定方法は、特開2001−11143号公報に記載された方法を参照できる。
【0019】
また、不安定末端基量とは、ポリアセタール重合体の末端部分に存在し、熱や塩基に対して不安定で分解し易い部分の量を示す。かかる不安定末端基量は、ポリアセタール共重合体1gを、0.5%(体積%)の水酸化アンモニウムを含む50%(体積%)メタノール水溶液100mlとともに耐圧密閉容器に入れ、180℃で45分間加熱処理した後、冷却し、開封して得られる溶液中に分解溶出したホルムアルデヒド量を定量し、ポリアセタール共重合体に対する質量%で表したものである。
【0020】
本発明において用いるポリアセタール重合体(A)は、ヘミホルマール末端基量が1.0mmol/kg以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.6mmol/kg以下である。またホルミル末端基量は0.5mmol/kg以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.1mmol/kg以下である。また不安定末端基量は0.5質量%以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.3質量%以下である。ヘミホルマール末端基量、ホルミル末端基量、不安定末端基量の下限は特に限定されるものではない。
【0021】
前記の如く特定の末端特性を有するポリアセタール重合体(A)は、モノマー及びコモノマーに含まれる不純物の低減、製造プロセスの選択およびその製造条件の最適化などを行うことにより製造できる。
【0022】
以下に本件の発明の要件を満たす特定の末端特性を有するポリアセタール重合体(A)を製造する方法は、例えば特開2009−286874号公報記載の方法を使用することができる。ただし、この方法に限定されるものではない。
【0023】
本発明において、ポリアセタール重合体(A)に分岐又は架橋構造を有するポリアセタール樹脂を添加して使用する場合、その配合量は、ポリアセタール重合体(A)100質量部に対し0.01〜20質量部であり、特に好ましくは0.03〜5質量部である。
【0024】
<(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤>
本発明において使用するヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)としては、一般的に使用される単環式ヒンダードフェノール化合物、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物などが挙げられ、具体的には、特開2009−286874号公報、特開2008−156489号公報記載の化合物、IRGANOX1010、同1035、同1076、同1098、同1135、同1330、同1425、同245、同259、同565、同3114等(以上製品名、BASFジャパン社製)等、市販の化合物を使用することができる。
これらのヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)の添加量は、ポリアセタール重合体(A)100質量部に対して0.01〜3質量部である。
【0025】
<(C)ヒドラジド化合物>
本発明において使用するヒドラジド化合物(C)としては、脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物(ステアリン酸ヒドラジド、12−ヒドロキシステアリン酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド等)、不飽和脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物(7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド等)、脂環族カルボン酸ヒドラジド系化合物(シクロヘキサンカルボン酸ヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド等)、芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル安息香酸ヒドラジド、1−ナフトエ酸ヒドラジド、2−ナフトエ酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド等)、ヘテロ原子含有カルボン酸ヒドラジド系化合物(1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン等)、ポリマー型カルボン酸ヒドラジド系化合物等が挙げられる。
【0026】
さらに、特開2009−286874号公報、特開2008−156489号公報、特開昭55−145529号公報、特開昭56−105905号公報記載の重合体、米国特許3574786号公報記載の共重合体など化合物を使用することができる。これらのヒドラジド化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
本発明において、上記の如きヒドラジド化合物(C)の添加量は、ポリアセタール重合体(A)100質量部に対して0.01〜1.0質量部であり、好ましくは0.03〜0.8質量部である。
【0028】
<(D)脂肪酸カルシウム塩>
本発明の脂肪酸カルシウム塩を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。このような脂肪酸としては、炭素数10以上の1価又は2価の脂肪酸、例えば、炭素数10以上の1価の飽和脂肪酸[カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の炭素数10−34飽和脂肪酸(好ましくは炭素数10−30飽和脂肪酸)等]、炭素数10以上の1価の不飽和脂肪酸[オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸等の炭素数10−34不飽和脂肪酸(好ましくは炭素数10−30不飽和脂肪酸)等]、炭素数10以上の2価の脂肪酸(二塩基性脂肪酸)[セバシン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、タプシア酸等の2価の炭素数10−30飽和脂肪酸(好ましくは2価の炭素数10−20飽和脂肪酸)、デセン二酸、ドデセン二酸等の2価の炭素数10−30不飽和脂肪酸(好ましくは2価の炭素数10−20不飽和脂肪酸)等]が例示できる。
【0029】
また、上記の脂肪酸には、その一部の水素原子がヒドロキシル基等の置換基で置換され、分子内に1又は複数のヒドロキシル基等を有する脂肪酸(例えば、12−ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ飽和炭素数10−26脂肪酸等)も含まれ、また精製の精度により炭素数が若干相違する脂肪酸も含まれるものである。本発明において、特に好ましい脂肪酸カルシウム塩は、ステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウムである。
【0030】
ポリアセタール樹脂組成物中の脂肪酸カルシウム塩の含有量は、ポリアセタール重合体100質量部に対して、0.01質量部以上0.5質量部以下である。脂肪酸カルシウム塩の含有量が0.01質量部以上であれば成形体の耐熱性が向上するという理由で好ましく、0.5質量部以下であれば成形体の変色が少ないという理由で好ましい。好ましい脂肪酸カルシウム塩の上記含有量は、0.02質量部以上0.4質量部以下である。
【0031】
<(E)3〜6価のアルコールの脂肪酸フルエステルであって、酸価が4以下である化合物から選択される少なくとも一種の脂肪酸フルエステル化合物>
本発明において使用される(E)脂肪酸フルエステルは、水酸基の数が3以上6以下の多価アルコールと脂肪酸とのフルエステル化合物の多価アルコール脂肪酸エステルであることが好ましい。フルエステルのエステル化率は、必ずしも100%である必要はなく、80%以上であれば足り、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0032】
多価アルコールは脂肪族であっても芳香族であってもよいが、ポリアセタール重合体との親和性の点で脂肪族であることが好ましい。
【0033】
多価アルコールの価数は3以上6以下であるが、3以上4以下であることが好ましい。また、多価アルコールの炭素数は特に限定されるものではないが、ポリアセタール樹脂との親和性の点で、3以上10以下であることが好ましく、3以上5以下であることがより好ましい。
【0034】
好ましい多価アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、メソエリスリトール、ペンチトース、ヘキシトール、ソルビトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ジペンタエリスリトール等が挙げられ、グリセリン、ペンタエリスリトールであることがより好ましい。
【0035】
脂肪酸の種類は特に限定されるものでないが、ポリアセタール樹脂との親和性の点で、炭素数10以上30以下の脂肪酸であることが好ましく、炭素数10以上20以下の脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。脂肪族カルボン酸は、1分子中のフルエステルの中で同じでも異なっていても良い。
【0036】
(E)脂肪酸フルエステルを形成するための好ましい脂肪酸として、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等が挙げられ、好ましくはステアリン酸が挙げられる。
【0037】
(E)脂肪酸フルエステルとして、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートが好適に用いられ、ペンタエリスリトールテトラステアレートがより好適に用いられる。なお、(E)成分は、それを構成する多価アルコールや脂肪酸が異なるエステル化物や、エステル化率の異なるエステル化物の2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明における(E)脂肪酸フルエステルの含有量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対し、0.01〜1.0質量部であり、0.05〜0.5質量部であることがより好ましい。
本発明の脂肪酸フルエステルは、酸価が4以下であることが特徴である。さらに、酸価は2以下であることが好ましい。
本発明の酸価は、JIS K0070(1992)に準じた中和滴定法によって測定することができる値である。酸価をこの範囲とすることで、ホルムアルデヒドの発生を抑制することと、モールドデポジットの抑制を同時に成立させることができる。
【0039】
その効果発現機構は、適当な酸成分によるポリアセタールポリマー不安定末端基の分解抑制およびそれによる、ホルムアルデヒドとヒドラジド化合物との反応生成物であるモールドデポジットの生成減少であると推定している。
【0040】
<その他の添加剤>
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、さらに、熱安定性、長期熱安定性等を向上させるために、金属酸化物、金属水酸化物から選ばれた化合物(F)を添加することが可能であり好ましい。その添加量は、ポリアセタール重合体(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部が好ましい。
【0041】
金属酸化物、金属水酸化物としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが好ましい。
【0042】
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、さらに、成形加工性等を向上させるために、脂肪酸アミド、ポリオキシアルキレングリコール、シリコーン化合物から選ばれた少なくとも一種の離型剤(G)を添加することが可能であり好ましい。その添加量は、ポリアセタール重合体(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部が好ましい。
【0043】
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、さらに、耐侯(光)安定剤、耐衝撃性改良剤、光沢性制御剤、摺動性改良剤、充填剤、着色剤、核剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、抗カビ剤、芳香剤、発泡剤、相容化剤、物性改良剤(ホウ酸又はその誘導体など)、香料などを配合することが可能であり、本発明の目的を損なうことなく、それぞれの添加剤に応じた諸特性を向上させることができる。また、前述した以外の酸化防止剤、耐熱安定剤、加工性改良剤などを併用することも可能である。
【0044】
耐侯(光)安定剤としては、(a)ベンゾトリアゾール系化合物、(b)ベンゾフェノン系化合物、(c)芳香族ベンゾエート系化合物、(d)シアノアクリレート系化合物、(e)シュウ酸アニリド系化合物、(f)ヒドロキシフェニル−1,3,5−トリアジン系化合物、(g)ヒンダードアミン系化合物など、公知で市販の化合物を使用することができる。
【0045】
耐候(光)安定剤は、単独で用いてもよく、同種又は異種の化合物を、2種以上組み合わせて使用してもよい。耐候(光)安定剤は、ヒンダードアミン系化合物(g)と、他の耐侯(光)安定剤(a)〜(f)から選択された少なくとも一種とを併用するのが好ましく、特に、ベンゾトリアゾール系化合物(a)と、ヒンダードアミン系化合物(f)とを併用するのが好ましい。
【0046】
耐侯(光)安定剤の含有量は、例えば、ポリアセタール重合体100質量部に対して、0〜5質量部(例えば、0.01〜5質量部)、好ましくは0.1〜4質量部、さらに好ましくは0.1〜2質量部程度であってもよい。
【0047】
耐衝撃性改良剤には、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、アクリル系コアシェルポリマー、熱可塑性ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ゴム成分(天然ゴムなど)などが含まれる。
【0048】
光沢制御剤には、アクリル系コアシェルポリマー、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステルエラストマー、ポリアミド系エラストマー、アルキル(メタ)アクリレートの単独又は共重合体(ポリメチルメタクリレートなど)、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン、AS樹脂、AES樹脂など)、オレフィン系樹脂(ポリプロピレンや環状ポリオレフィンなど)などが含まれる。
【0049】
摺動性改良剤には、オレフィン系ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとα−オレフィンの共重合体、これらの酸無水物などによる変性体など)、ワックス類(ポリエチレンワックスなど)、シリコーンオイルやシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなど)、脂肪酸エステルなどが含まれる。
【0050】
充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維、金属繊維、アラミド繊維などの無機又は有機繊維状充填剤、ガラスフレーク、マイカ、グラファイトなどの板状充填剤、ミルドファイバー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、タルク、カオリン、シリカ、ケイソウ土、クレー、ウォラスナイト、アルミナ、フッ化黒鉛、炭化ケイ素、窒化ホウ素、金属粉などの粉粒状充填剤などが挙げられる。
【0051】
着色剤としては、各種染料及び顔料が使用できる。染料としてはアゾ系染料、アントラキノン系染料、フタロシアニン系染料、ナフトキノン系染料などが挙げられる。顔料としては無機顔料及び有機顔料のいずれも使用でき、無機顔料としては、チタン系顔料、亜鉛系顔料、カーボンブラック、鉄系顔料、モリブデン系顔料、カドミウム系顔料、鉛系顔料、コバルト系顔料及びアルミニウム系顔料などが例示でき、有機顔料としては、アゾ系顔料、アンスラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ジオキサジン系顔料及びスレン系顔料などが例示できる。
【0052】
これらのうち、光遮蔽効果の高い着色剤であるカーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料を用いると、耐候(光)性も向上できる。配合される着色剤の量は特に制限されず、一般的な着色目的の量が用いられる。
【0053】
本発明のポリアセタール樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、樹脂組成物の調製法として従来から知られた各種の方法により調製することができる。例えば、(1)組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法などが採用できる。
【0054】
押出機を用いた組成物の調製においては、一カ所以上の脱揮ベント口を有する押出機を用いるのが好ましく、さらに、主フィード口から脱揮ベント口までの任意の場所に水や低沸点アルコール類をポリアセタール樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部程度供給し、押出工程で発生するホルムアルデヒド等を水や低沸点アルコール類と共に脱揮ベント口から脱揮除去するのが好ましい。これにより、ポリアセタール樹脂組成物およびその成形品から発生するホルムアルデヒド量をさらに低減することができる。
【0055】
このようにして調製された本発明のポリアセタール樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、吹き込み成形、発泡成形等、従来から知られた各種の成形方法によって成形することができる。
【0056】
本発明には、前記ポリアセタール樹脂組成物及び上記による着色されたポリアセタール樹脂組成物からなる成形品のリサイクルも含まれる。具体的には、これらの樹脂組成物からなる成形品又はその粉砕物を、単独で、或いは同一又は異なる組成の樹脂材料又は成形品と共に、溶融混練し押出してなるリサイクル樹脂組成物、及び、これらの樹脂組成物からなる成形品又はその粉砕物を、単独で、或いは同一又は異なる組成の樹脂材料又は成形品と共に、溶融混練し成形してなるリサイクル成形品である。
【0057】
このように、溶融熱履歴の繰返しを受けて調製されたリサイクル樹脂組成物及びリサイクル成形品も、それらの基になるポリアセタール樹脂組成物と同様に、ホルムアルデヒド発生量が極めて低レベルに保持されたものである。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」はすべて質量部を表す。また、実施例及び比較例において評価した諸特性及びその評価方法は以下の通りである。表1、2に記載の数値の単位は、質量部である。
【0059】
<成形品からのホルムアルデヒド発生量(VOC)評価>
実施例及び比較例で調製したポリアセタール樹脂組成物を用い、下記条件で平板状試験片(100mm×40mm×2mm)を成形した。この平板状試験片2枚を、10Lのポリフッ化ビニル製サンプリングバッグに封入し脱気して、4Lの窒素を入れ、65℃で2時間加熱した後、サンプリングバッグ内の窒素を0.5ml/minで3L抜き取り、発生したホルムアルデヒドをDNPH(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン)捕集管(Waters社製 Sep―Pak DNPH―Silica)に吸着させた。
【0060】
その後、DNPH捕集管からDNPHとホルムアルデヒドとの反応物をアセトニトリルで溶媒抽出し、高速液体クロマトグラフでDNPHとホルムアルデヒドとの反応物の標準物質を用いた検量線法により、発生したホルムアルデヒド量を求め、試験片単位質量あたりのホルムアルデヒド発生量(μg/g)を算出した。
【0061】
* 成形機 :FANUC ROBOSHOT α―S100ia (ファナック(株))
* 成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル−C1− C2− C3
190 190 180 160℃
射出圧力 60(MPa)
射出速度 1.0(m/min)
金型温度 80(℃)
【0062】
<モールドデポジット(MD)の評価>
実施例および比較例で調製したポリアセタール樹脂組成物を用い、下記条件でモールドデポジット試験片(20mmφ×1mmtの円盤型)を成形した。
[評価方法]
10000shot連続成形した後、金型内のキャビティ部表面を目視にて観察し、以下の基準に従って付着物量を目視で判定した。
0:付着物は全く確認されない
1:付着物はほとんど確認されない
2:付着物が確認される
3:多量の付着物が確認される
【0063】
* 成形機: FANUC ROBOSHOT S−2000i 50B(ファナック(株))
* 成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル−C1−C2− C3
205 215 205 185℃
射出圧力 40(MPa)
射出速度 1.5(m/min)
金型温度 23(℃)
【0064】
実施例で使用した各成分は以下のものである。
・ポリアセタール重合体(A)
a−1:トリオキサン96.7質量%と1,3−ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体(メルトインデックス(190℃,荷重2160gで測定):27g/10min)
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)
b−1:トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](Irganox245、BASF社製)
・ヒドラジド化合物(C)
c−1:セバシン酸ジヒドラジド
c−2:アジピン酸ジヒドラジド
・脂肪酸カルシウム塩(D)
d−1:ステアリン酸カルシウム
・脂肪酸フルエステル(E)
e−1:ペンタエリスリトールテトラステアレート 酸価1.8(エメリー オレオケミカルズ(株)製:ロキシオールVPG861)
e−2:ペンタエリスリトールテトラステアレート 酸価3.7(日油(株)製:ユニスターH−476)
e−3:ペンタエリスリトールテトラステアレート 酸価10(理研ビタミン(株)製:リケスターEW−400)
e−4:グリセリントリステアレート 酸価2.8(理研ビタミン(株)製:ポエムS−95)
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
上記の通り、本発明の酸価の範囲では、ホルムアルデヒド発生量およびモールドデポジットの発生量も安定的に抑制されることが明らかである。