【課題】種々の屈折率のシリカ膜を容易に製造可能とする新規なシリカ膜の製造方法を提供する。また、このようなシリカ膜の製造方法により製造された低屈折率のシリカ膜を提供する。
【解決手段】基材上に組成物を塗布して組成物の塗膜を形成する工程と、塗膜を加熱してシリカ膜を形成する工程と、を含み、組成物は、溶媒と、溶媒に可溶である金属塩と、テトラアルコキシシランとテトラアルコキシシランの縮合物とのいずれか一方または両方と、を含み、金属塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩ならびにアルカリ金属およびアルカリ土類金属を含む複塩からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、シリカ膜を得る工程では、塗膜の加熱温度とシリカ膜の屈折率との対応関係に基づいて、加熱温度を制御するシリカ膜の製造方法。
前記テトラアルコキシシランおよびテトラアルコキシシランの縮合物の合計に対するアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンの合計のモル比と、前記シリカ膜の屈折率との対応関係に基づいて、前記組成物に含まれる前記アルカリ金属塩または前記アルカリ土類金属塩の濃度を調整する請求項1に記載のシリカ膜の製造方法。
前記生成物を放置する工程では、前記液滴を平面視したときの直径が1μm以上となるまで前記生成物を放置する請求項3から5のいずれか1項に記載のシリカ膜の製造方法。
前記塗膜に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオン半径と、前記シリカ膜の屈折率との対応関係に基づいて、前記組成物に含まれる前記アルカリ金属塩または前記アルカリ土類金属塩の種類を調整する請求項3から7のいずれか1項に記載のシリカ膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[シリカ膜の製造方法]
以下、
図1〜
図6を参照しながら、本実施形態に係るシリカ膜の製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0021】
図1、2は、本実施形態に係るシリカ膜の製造方法を示す工程図である。
【0022】
(塗膜を形成する工程)
まず、
図1に示すように、水を含む溶媒と、溶媒に可溶である金属塩と、テトラアルコキシシランとを含む組成物を、基材100の表面100aに塗布する。これにより、基材100の表面100aに組成物の塗膜1を形成する。本工程は、本発明における「塗膜を形成する工程」に該当する。
【0023】
(組成物:溶媒)
組成物に含まれる溶媒は、水を含むことが好ましい。組成物が水を含むと、テトラアルコキシシランとテトラアルコキシシランの縮合物とのいずれか一方または両方は、効率よく縮合反応する。また、理由は明確ではないが、組成物が水を含むと、後述するシネレシスを効率よく起こすことができる。
なお、溶媒として有機溶媒を用いる場合、用いる有機溶媒に不可避的に混入する水分を、溶媒の必須成分である水と扱ってもよい。
【0024】
有機溶媒は、溶媒に対する金属塩およびテトラアルコキシシランの溶解度を調整するために適宜用いる。使用可能な有機溶媒は、代表的には水に可溶な極性溶媒を挙げることができる。
【0025】
上記極性溶媒としては、炭素数1〜4のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;酢酸エチル、酪酸エチルなどのエステル類を挙げることができる。
なお、エチレングリコールモノメチルエーテルは、メチルセロソルブとも称する。またエチレングリコールモノエチルエーテルは、エチルセロソルブとも称する。
【0026】
(組成物:金属塩)
組成物に含まれる金属塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩ならびにアルカリ金属およびアルカリ土類金属を含む複塩からなる群から選ばれる少なくとも1つである。金属塩は、上記溶媒に可溶である。
【0027】
アルカリ金属としては、Li,Na,K,Rb,Csを挙げることができる。
【0028】
アルカリ土類金属としては、Mg,Ca,Sr,Baを挙げることができる。
【0029】
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を構成する陰イオンとしては、OH
−、R
1O
−、COOH
−、NO
3−,SO
42−、CO
32−、HCO
3−、PO
43−、F
−,Cl
−,Br
−,I
−を例示することができる。R
1は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0030】
また、これら例示した陰イオンの他、上述の溶媒に可溶である塩を、上述のアルカリ金属のイオンまたはアルカリ土類金属のイオンと構成可能な陰イオンであれば、適宜使用することができる。
【0031】
これらアルカリ金属塩およびアルカリ金属塩は、下記式(1)(2)のように示すこともできる。
[式1]
M
1aX …(1)
M
2bX
n …(2)
(式(1)中、M
1はアルカリ金属イオンを示し、XはOH
−、R
2O
−、COOH
−、NO
3−、SO
42−、PO
43−またはハロゲンイオンを示す。R
2はアルキル基を示す。aは1〜3のいずれかの整数である。
式(2)中、M
2はアルカリ土類金属イオンを示す。bは1または3であり、nは1または2である。)
【0032】
なお、上記式(1)(2)中のa、b、nはそれぞれ、塩を構成するイオンの価数に応じて定まる自然数である。
【0033】
また、金属塩として、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を含む複塩を用いることもできる。このような塩としては、例えばKCl・MgCl
2を挙げることができる。
【0034】
(組成物:テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシランの縮合物)
組成物に含まれるテトラアルコキシシランは、Si(OR
2)
4で表される化合物である。R
2は炭素数1〜10のアルキル基を示す。テトラアルコキシシランが有する複数のR
2は、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。
【0035】
R
2は、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0036】
このようなテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリメトキシエトキシシラン、テトラフェノキシシランが好ましく、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランがより好ましい。
【0037】
また、組成物においては、上述のテトラアルコキシシランに代えて、テトラアルコキシシランの縮合物を含むこととしてもよい。用いることが可能な縮合物は、上述のテトラアルコキシシランの一部縮合物である。一部縮合物は、縮合反応を生じ得るアルコキシ基およびシラノール基のいずれか一方または両方が残存する縮合物である。シラノール基は、テトラアルコキシシランが有するアルコキシ基の加水分解により生じる。
【0038】
テトラアルコキシシランの縮合物は、上述のテトラアルコキシシランと併用してもよい。
【0039】
本実施形態においては、シリカ膜を成膜したい基材100上に上述した組成物を塗布し、組成物の塗膜1を形成する。
【0040】
組成物の塗布は、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、インクジェット法、グラビア印刷法などの公知の塗布方法、印刷技術を用いて行うことができる。
【0041】
形成する塗膜1の厚みは、目的物であるシリカ膜の膜厚、および用いる組成物に含まれるテトラアルコキシシランの濃度に応じて適宜設定するとよい。例えば、組成物のテトラアルコキシシランの濃度が3mol/lの場合、塗膜1の厚みは、1μm以下である構成を示すことができる。
【0042】
(シリカ膜を得る工程)
次いで、
図2に示すように、形成した塗膜1を加熱する。組成物にテトラアルコキシシランが含まれる場合には、縮合反応を促進するため、40℃以上に加熱することが好ましい。加熱温度は、100℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。
【0043】
また、組成物にテトラアルコキシシランの縮合物が含まれる場合には、塗膜1に含まれる溶媒の種類に応じて、溶媒の蒸発を促進させる程度に加熱するとよい。
【0044】
上記加熱により、塗膜1に含まれる溶媒の蒸発が進行する。また、用いる組成物によっては、上記加熱により、テトラアルコキシシランの縮合反応と、テトラアルコキシシランの縮合反応によって生じるアルコールの蒸発と、が進行する。これらの結果、塗膜1からシリカ膜2が生成する。本工程は、本発明における「シリカ膜を得る工程」に該当する。
【0045】
なお、「塗膜1に含まれる溶媒」は、塗膜1の原料である組成物に用いられていた溶媒である。
以下の説明では、「塗膜1に含まれる溶媒」および「テトラアルコキシシランの縮合反応によって生じるアルコール」を、合わせて「溶媒群」と称することがある。
【0046】
発明者らは、種々の検討を行った結果、上述の塗膜1の加熱温度と、得られるシリカ膜2の屈折率との間に相関があることを見出し、本発明を完成させた。塗膜1の加熱温度が高くなるほど、得られるシリカ膜2の屈折率は高くなる傾向がある。また塗膜1の加熱温度が低くなるほど、得られるシリカ膜2の屈折率は低くなる傾向がある。
【0047】
上述の傾向を利用し、本実施形態においては、シリカ膜を得る工程において、塗膜1の加熱温度と、得られるシリカ膜2の屈折率との対応関係に基づいて、塗膜1の加熱温度を制御する。
【0048】
塗膜1の加熱温度が500℃以上である場合、得られるシリカ膜2の屈折率は、石英ガラスの屈折率よりも高くなる。このような現象について、発明者らは、500℃以上の温度でテトラアルコキシシランを縮合させ硬化させた場合に、塗膜1に含まれるアルカリ金属またはアルカリ土類金属がシリカ膜2の組織内部に取り込まれるためであると考えている。
【0049】
シリカ膜2の組織内部に金属原子が存在することは、シリカ膜2についてX線光電子分光分析(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)を行うことで確認できる。
【0050】
対して、塗膜1の加熱温度が500℃未満である場合、得られるシリカ膜2の屈折率は、石英ガラスの屈折率よりも低くなる傾向にある。低屈折率のシリカ膜2を製造する際の塗膜1の加熱温度は、450℃以下であると好ましく、400℃未満であるとより好ましく、250℃以下であるとさらに好ましい。250℃以下の加熱温度条件で形成したシリカ膜は、低屈折率であることに加え、基板との密着力が高まる傾向にある。
【0051】
図3〜5は、上述のような現象について発明者らが予想するメカニズムの一つを説明する説明図である。
図3〜5は、
図1,2と同じ断面における一部拡大図である。
【0052】
発明者らは、400℃未満の温度で塗膜1を硬化させて得られるシリカ膜2は、以下のように多数の空隙が形成され、屈折率が低下すると考えている。
【0053】
まず、
図3に示すように、塗膜1には、テトラアルコキシシランの一部縮合物で形成された縮合膜10、および塗膜1に含まれる金属イオンと溶媒群Sとの溶液S1が含まれる。溶液S1中では、塗膜1に含まれるアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンが溶媒群Sに溶媒和されていると考えられる。
【0054】
以下の説明では、塗膜1に含まれる「アルカリ金属イオン」および「アルカリ土類金属イオン」を合わせて「金属イオン群」と称することがある。図中、金属イオン群は符号Mで示している。
【0055】
また、塗膜1において、溶液S1は、縮合膜10の構造の間隙に含まれ、凝集していると考えられる。
【0056】
次いで、
図4に示すように、このような塗膜1を400℃未満の温度で加熱すると、縮合膜10内では、縮合反応が進行し、Si−O−Si結合の緻密な網目構造が形成されて硬化膜3が生じる。この縮合反応に伴い、溶液S1が存在していた硬化膜3内の間隙が小さく縮む。その結果、縮合膜10の間隙に存在していた溶液S1は、縮合膜10の内部から硬化膜3の表面3aに絞り出されるようにして排出される。このような現象は、「シネレシス」と呼ばれる。
【0057】
また、硬化膜3は、本発明における「加熱後の生成物」に該当する。
【0058】
表面3aに排出される溶液S1には、溶媒群Sと金属イオン群Mとが含まれる。そのため、得られる硬化膜3は、塗膜1と比べ金属イオン群Mが減少したものとなる。
【0059】
上述のように金属イオン群Mが硬化膜3から排出されることは、XPS分析により確認できる。例えば、上述のように形成する硬化膜3においては、金属イオン群Mが排出された結果、XPS分析を行っても膜内に金属原子を確認することができないことがある。
【0060】
表面3aでは、排出された溶液S1から、溶媒群Sが蒸発する。その結果、表面3aには、硬化膜3から排出された金属イオン群Mが残存する。
【0061】
このようにして得られた硬化膜3の内部では、溶液S1が存在していた位置に、微小な空隙Vが多数形成されると考えられる。
【0062】
その結果、400℃未満の温度で塗膜1を加熱することで生成する硬化膜3は、硬化膜3の内部に、多数の空隙Vを有する多孔質体になると考えられる。形成される硬化膜3は、空隙Vが存在することにより低屈折率になると考えられる。
【0063】
なお、塗膜1の加熱温度が400℃以上500℃未満である場合、屈折率は低下傾向にあるものの屈折率が定まりにくい。これは、塗膜1の加熱温度が400℃以上500℃未満である場合、塗膜1に含まれるアルカリ金属またはアルカリ土類金属が硬化膜3の組織内部に取り込まれる現象と、上述のように硬化膜3に空隙Vが形成される現象とが競争反応となるためであると考えている。
【0064】
そのため、形成する硬化膜3を低屈折率の膜とするためには、400℃未満の温度で塗膜1を加熱することが好ましい。
【0065】
上記加熱後、得られた硬化膜3を放置しておくと、
図5に示すように、表面3aに残存した金属イオン群Mには、大気中の水分Wが凝集することがある。その結果、硬化膜3の表面3aには、液滴S2が形成されることがある。
【0066】
本実施形態のシリカ膜の製造方法においては、加熱後の硬化膜3の表面3aに液滴S2が生じるまで、加熱後の硬化膜3を放置するとよい。本工程は、本発明における「放置する工程」に該当する。
【0067】
このようにして加熱後の硬化膜3の表面3aに液滴S2が形成されると、硬化膜3の表面近傍が吸湿すると考えられる。一方、硬化膜3の内部には、溶液S1の表面への移動だけでは除去しきれない金属イオン群M(溶液S1)が残存することが考えられる。
【0068】
そのため、硬化膜3の表面に形成される液滴S2により、硬化膜3の表面近傍が吸湿すると、硬化膜3の内部では金属イオン群Mが高濃度、硬化膜3の表面では金属イオン群Mが低濃度となる濃度勾配が形成される場合がある。このような濃度勾配が形成されると、硬化膜3内部の金属イオン群Mは、硬化膜3の表面に向けて拡散し移動する。その結果、硬化膜3の内部から金属イオン群Mがさらに排出されると考えられる。
【0069】
放置時間は、組成物に含まれる金属塩の種類に応じて、変更するとよい。金属塩の種類と、表面3aに液滴S2が形成されるまでに要する硬化膜3の放置時間と、の関係を、予備実験により求めておくことで、適切な放置時間を設定するとよい。
【0070】
また、放置時間は、例えば最大72時間とし、予備実験により液滴S2の生成が完了するまでの時間を確認しておくとよい。「液滴S2の生成が完了する」とは、液滴S2の大きさの経時変化を確認した場合に、経時で成長する液滴S2の大きさが、実質的に変化しなくなることを指す。
【0071】
液滴S2の大きさは、光学顕微鏡で観察することにより確認することができる。生成する液滴S2は、平面視で直径1μm以上であると好ましい。理由は定かではないが、液滴S2の平面視の直径が1μm以上であると、シリカ膜の屈折率が低下しやすい傾向にある。
【0072】
なお、本明細書において、「液滴S2の直径」とは、光学顕微鏡で確認した液滴S2について、液滴S2を2本の平行線で挟んだときの平行線間の距離のうち、最大のもの(最大フェレー径)を意味することとする。
【0073】
上述のように硬化膜3を放置した後、硬化膜3の表面3aの液滴S2を除去してもよい。本工程は、本発明における「除去する工程」に該当する。
【0074】
発明者らは、液滴S2には、溶媒群Sの他に金属イオン群も含まれることを間接的に確認している。そのため、硬化膜3の表面3aから液滴S2を除去することで、表面の汚れを抑制した高品質なシリカ膜2が得られる。
【0075】
液滴S2を除去する方法は、シリカ膜2の性能を損なわない範囲で種々の方法を採用し得る。例えば、液滴S2を拭き取って除去することとしてもよく、
図6に示すように、硬化膜3の表面3aを液体Lで洗浄することにより液滴S2を除去することとしてもよい。
【0076】
洗浄に用いる液体Lとしては、組成物に含まれる金属塩が可溶である極性溶媒を好適に用いることができる。このような液体Lとしては、水、炭素数1〜4のアルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類を例示することができる。これらは、1種類のみを洗浄に用いることとしてもよく、2種以上を混合した混合液を洗浄に用いてもよい。洗浄効率が良いことから、洗浄に用いる液体は水が好ましい。
【0077】
また、洗浄を2回行う場合、1種の液体Lを用いて全ての洗浄を行うこととしてもよく、洗浄毎に異なる液体Lを用いて洗浄してもよい。洗浄を3回以上行う場合も、同様に1種の液体Lを用いてもよく、2種以上の液体Lを用い、例えば洗浄の回数に応じて液体Lを使い分けてもよい。
【0078】
なお、シリカ膜の別の製造方法として、加熱後の硬化膜3の表面3aに液滴S2が形成される前に、硬化膜3の表面3aを洗浄することとしてもよい。本工程は、本発明における「洗浄する工程」に該当する。
【0079】
このような製造方法の場合、洗浄に用いる液体の一部が、硬化膜3の表面3aから硬化膜3の内部に浸透すると推定される。硬化膜3に浸透した液体は、硬化膜3の内部の金属イオン群Mまたは金属イオン群Mが溶解する溶液S1を一部溶解させる。これにより、硬化膜3の内部では硬化膜3の表面よりも金属イオン群Mの濃度が高くなる。このような金属イオン群Mの濃度勾配に起因して、金属イオン群Mは、硬化膜3の内部から硬化膜3の表面3aに向けて拡散しやすくなる。
【0080】
以上のように、硬化膜3に浸透した液体は、溶液S1の表面3aへの排出を促進する。その結果、硬化膜3の表面3aに液滴S2が形成されることを待つことなく、表面の汚れを抑制した高品質なシリカ膜2が得られる。
【0081】
本実施形態の製造方法において上記洗浄する工程を採用する場合、洗浄が不足すると洗浄後のシリカ膜2から溶液S1が排出され、シリカ膜2の表面に再度金属イオン群Mが析出した後に、液滴S2が生じるおそれがある。そのため、洗浄時間、洗浄に用いる液体の種類、洗浄温度、洗浄回数などの洗浄条件と、得られるシリカ膜2の物性との関係を予め予備実験で確認しておき、適切な洗浄条件を設定するとよい。
【0082】
このように製造されるシリカ膜2は、高屈折率膜、低屈折率膜いずれも、光透過性を有する。
【0083】
本実施形態のシリカ膜の製造方法で製造されるシリカ膜について、「光透過性を有する」とは、波長400nmの光に対して透過率が90%以上であることとする。
【0084】
一例として、発明者らは、シリコン基板上に約0.5μm厚でシリカ膜2を形成し、波長400nmの光に対し、空気をリファレンスとして93%以上の光透過性を有するシリカ膜が得られたことを確認した。
【0085】
(シリカ膜の屈折率の制御方法)
上述のように、本実施形態のシリカ膜の製造方法においては、塗膜1の加熱温度と、得られるシリカ膜2の屈折率との対応関係に基づいて、塗膜1を加熱する温度を制御し、シリカ膜2の屈折率を制御することができる。また、本実施形態のシリカ膜の製造方法においては、その他、以下の方法によりシリカ膜の屈折率を制御することが可能である。
【0086】
まず、本実施形態のシリカ膜の製造方法においては、テトラアルコキシシランおよびテトラアルコキシシランの縮合物の合計に対する金属イオン群のモル比と、得られるシリカ膜2の屈折率との対応関係に基づいて、組成物に含まれる金属塩の濃度を調整することで、シリカ膜2の屈折率を制御することができる。組成物に含まれる金属塩の濃度を調整すると、組成物に含まれる金属イオンの濃度を調整することになる。
【0087】
低屈折率のシリカ膜を製造する場合には、組成物に含まれる金属イオン群の濃度が高いほど屈折率が低屈折率化する傾向があり、金属イオン群の濃度が低いほど高屈折率化する傾向がある。これは、金属イオン群の濃度が高いほど、硬化膜3の内部に相対的に多くの溶液S1が残存しやすく、その結果、空隙Vが多く形成されたシリカ膜2が得られるためであると考えられる。
【0088】
高屈折率のシリカ膜を製造する場合には、組成物に含まれる金属イオン群の濃度が高いほど高屈折率化する傾向があり、金属イオン群の濃度が低いほど低屈折率化する傾向がある。これは、金属イオン群の濃度が高いほど、相対的に多くの金属イオン群がシリカ膜2の内部に取り込まれるためであると考えられる。
【0089】
また、本実施形態のシリカ膜の製造方法を用い、低屈折率のシリカ膜を製造する場合には、塗膜1に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオン半径と、得られるシリカ膜2の屈折率との対応関係に基づいて、組成物に含まれるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の種類を調整することで、シリカ膜2の屈折率を制御することができる。
【0090】
塗膜1に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオン半径が大きいほど低屈折率化する傾向があり、イオン半径が小さいほど高屈折率化する傾向がある。
【0091】
このように得られたシリカ膜2は、熱的に安定である。例えば、低屈折率のシリカ膜2は、500℃まで加熱しても屈折率が変化しない。すなわち、得られた低屈折率のシリカ膜2は、500℃まで加熱しても、屈折率低下の要因となっている内部の空隙Vが保たれていると考えられる。
【0092】
[シリカ膜]
本実施形態のシリカ膜は、上述のシリカ膜の製造方法により製造されたシリカ膜である。詳しくは、本実施形態のシリカ膜は、製造方法として、塗膜1を400℃未満の加熱温度で加熱する工程を有するシリカ膜である。
【0093】
このようなシリカ膜の製造方法により製造されたシリカ膜2は、低屈折率のシリカ膜となる。このようにシリカ膜2の屈折率が低い理由は、内部に微小な空隙Vが多数形成されているためと考えられる。
【0094】
発明者らは、上記想定に基づいてシリカ膜2の断面を走査型プローブ顕微鏡(SPM)で撮像し、空隙Vの確認を試みた。しかし、撮像した写真からは、空隙Vの存在は確認できなかった。
【0095】
上述のように、シリカ膜2は光透過性を有する。そのため、シリカ膜2の内部に空隙Vが存在していたとしても、空隙Vは極めて小さく検出が困難であったものと考えられる。シリカ膜2の空隙Vの直接確認、空隙量の確認等、空隙Vに関する測定は、現状困難であり、確認しようとする場合には過度の試行錯誤が必要であると考えられる。
【0096】
また、本実施形態のシリカ膜2を屈折率や光学物性で特定しようとしても、本実施形態のシリカ膜2とは異なる低屈折率シリカ膜との区別がつかず、特定することができない。
【0097】
すなわち、本実施形態のシリカ膜2を構造または特性により直接特定することは不可能、または、およそ実際的でないという事情が存在すると考えられる。
【0098】
以上のような構成のシリカ膜の製造方法によれば、種々の屈折率のシリカ膜を容易に製造することができる。
【0099】
また、以上のような構成のシリカ膜によれば、低屈折率かつ光透過性を有するシリカ膜を提供することができる。
【0100】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0101】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
本実施例においては、以下の測定により物性を確認した。
【0103】
(屈折率)
得られたシリカ膜の膜厚および屈折率は、分光エリプソメータ(M−2000V、J.A.Woollam社製)にて測定した値を採用した。測定は、大気中室温環境下で行った。シリコン基板上に作製したシリカ膜について、直接測定を行った。
【0104】
(水準1)
(実施例1)
(a)テトラメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)、(b)硝酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)、(c)硝酸、(d)水、(e)メタノールを、以下のモル比とした溶液を調製した。調製した溶液は、本発明における「組成物」に該当する。
(1−1)(a):(b):(c):(d):(e)=1:0:0.01:20:4
(1−2)(a):(b):(c):(d):(e)=1:0.1:0.01:20:4
(1−3)(a):(b):(c):(d):(e)=1:0.2:0.01:20:4
(1−4)(a):(b):(c):(d):(e)=1:0.3:0.01:20:4
(1−5)(a):(b):(c):(d):(e)=1:0.5:0.01:20:4
【0105】
(b)硝酸ナトリウムに含まれる金属イオン(Na
+)の、調製した溶液中でのポーリングのイオン半径は、116pmである。なお、金属イオンは、溶液中で溶媒和されていると考えられるため、記載したNa
+のイオン半径は、6配位のNa
+についての値を示している。
【0106】
まず、1/2量の(e)メタノールに(a)テトラメトキシシランを溶解させた第1溶液と、残る1/2量の(e)メタノールに(b)硝酸ナトリウム、(c)硝酸、(d)水を溶解させた第2溶液を調製した。
【0107】
次いで、第1溶液と第2溶液とを混合し、室温で10分間撹拌して所望の組成の溶液を調製した。
【0108】
次いで、調製した溶液を、それぞれ20mm×40mmのSi(100)基板上にスピンコーティングして塗膜を形成した。基板は、予め600℃で10分間加熱したものを用いた。スピンコーティングは、回転速度3000rpm、回転時間60秒の条件で行った。
【0109】
次いで、塗膜から溶媒を蒸発させ、得られた膜をさらに200℃で10分間加熱して硬化膜を形成した。硬化膜を形成後、室温にて1時間放置した。
【0110】
次いで、硬化膜の表面を純水で洗浄し、200℃で10分間加熱して乾燥させることにより、目的とするシリカ膜を得た。
【0111】
(実施例2)
(b)硝酸ナトリウムの代わりの金属塩として、硝酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜を得た。硝酸マグネシウムに含まれる金属イオン(Mg
2+)のポーリングの、調製した溶液中でのイオン半径は、86pmである。なお、記載したMg
2+のイオン半径は、溶液中での溶媒和を考慮し6配位のMg
2+についての値を示している。
【0112】
(実施例3)
(b)硝酸ナトリウムの代わりの金属塩として、硝酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜を得た。硝酸カルシウムに含まれる金属イオン(Ca
2+)のポーリングの、調製した溶液中でのイオン半径は、114pmである。なお、記載したCa
2+のイオン半径は、溶液中での溶媒和を考慮し6配位のCa
2+についての値を示している。
【0113】
(実施例4)
(b)硝酸ナトリウムの代わりの金属塩として、硝酸ストロンチウム(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜を得た。硝酸ストロンチウムに含まれる金属イオン(Sr
2+)のポーリングの、調製した溶液中でのイオン半径は、132pmである。なお、記載したSr
2+のイオン半径は、溶液中での溶媒和を考慮し6配位のSr
2+についての値を示している。
【0114】
図7は、屈折率の測定結果を示すグラフである。
図に示すように、用いた組成物においてテトラアルコキシシランに対する金属イオン比が高いほど、シリカ膜の屈折率が低くなることが分かった。
【0115】
また、用いた組成物に含まれる金属イオンのイオン半径が大きく、イオンの価数が大きいほど、シリカ膜の屈折率が低くなる傾向にあることが分かった。
【0116】
(水準2)
(実施例5)
(a)テトラメトキシシラン、(b)硝酸カルシウム、(c)硝酸、(d)水、(e)メタノールを、以下のモル比とした溶液を調製した。
(a):(b):(c):(d):(e)=1:0.5:0.01:10:4
【0117】
(実施例6)
シリカ膜の再加熱温度を300℃にしたこと以外は実施例5と同様に行った。
【0118】
(実施例7)
シリカ膜の再加熱温度を400℃にしたこと以外は実施例5と同様に行った。
【0119】
(実施例8)
シリカ膜の再加熱温度を500℃にしたこと以外は実施例5と同様に行った。
【0120】
図8は、屈折率の測定結果を示すグラフである。
図に示すように、得られたシリカ膜を再加熱しても、屈折率に影響がないことが分かった。シリカ膜の内部に存在すると考えている空隙は、再加熱では消失しないことが確認できた。
【0121】
(水準3)
(実施例9)
(a)テトラメトキシシラン、(b)硝酸カルシウム、(c)硝酸、(d)水、(e)メタノールを、以下のモル比とした溶液を調製した。
(a):(b):(c):(d):(e)=1:0.5:0.01:10:4
【0122】
調製した溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、目的とするシリカ膜を得た。
硬化膜形成後、室温にて1時間静置しておくと、硬化膜の表面に液滴が生成していることが確認できた。
【0123】
表面に生成した水滴を拭き取る前の硬化物と、水滴を拭き取った後の硬化膜と、について、赤外吸収スペクトル(IR)測定を行った。測定の結果、水滴を拭き取る前の硬化物に存在していた硝酸アニオンのピークが水滴を拭き取った後の硬化膜では消失していた。そのため、表面に生成した水滴には、硝酸アニオンが含まれていることが分かった。
【0124】
また、用いた原料に含まれ、且つ硝酸アニオンの対イオンとなり得るカチオンは、カルシウムイオンである。そのため、硬化膜の表面に生成した水滴には、硝酸カルシウムが含まれていると推認される。
【0125】
また、シリカ膜の表面洗浄後は、表面に液滴が生じることは無かった。
【0126】
(実施例10)
塗膜から溶媒を蒸発させて得られた膜を、300℃で10分間加熱して硬化膜を形成したこと以外は、実施例9と同様にして、目的とするシリカ膜を得た。
硬化膜形成後、室温にて1時間静置しておくと、硬化膜の表面に液滴が生成していることが確認できた。硬化膜の表面に生成する液滴には、Ca
2+が含まれていることを確認した。シリカ膜の表面洗浄後は、表面に液滴が生じることは無かった。
【0127】
(実施例11)
塗膜から溶媒を蒸発させて得られた膜を、400℃で10分間加熱して硬化膜を形成したこと以外は、実施例9と同様にして、目的とするシリカ膜を得た。
【0128】
(実施例12)
塗膜から溶媒を蒸発させて得られた膜を、500℃で10分間加熱して硬化膜を形成したこと以外は、実施例9と同様にして、目的とするシリカ膜を得た。
【0129】
図9は、屈折率の測定結果を示すグラフである。
図に示すように、硬化膜を作製する際の加熱温度を高くすることにより、得られるシリカ膜の屈折率が高くなる傾向があることが確認できた。
【0130】
以上の結果より、本発明が有用であることが確認できた。