【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載には限定されない。
【0036】
試験例1
(1)スプレッドの調製
表1に示す配合にしたがって、油相及び水相の構成成分を用意し、以下に示す手順で、油脂構造化剤を変化させたスプレッド(油中水型乳化油脂組成物)を調製した。各成分の入手元を以下に示す。
・ハイオレイックサフラワー油(日清オイリオ株式会社)
・エステル交換油:構成脂肪酸として、C6:0+C8:0+C10:0=6重量%、C12:0=22重量%、C14:0+C16:0=17重量%、C18:0=22重量%、C22:0=22重量%、及びその他の脂肪酸=11重量%を含む(太陽油脂株式会社)
・油脂構造化剤
・・ライスワックス(横関油脂工業株式会社)
・・蜜蝋(三木化学工業株式会社)
・・TAISET−AD(太陽化学株式会社)
・乳化剤
・・グリセリン酸脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社)
・・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR)(太陽化学株式会社)
・香料
・イヌリン組成物(フジ日本精糖株式会社:重合度5〜29のイヌリンを95重量%以上含む)
【0037】
【表1】
【0038】
まず、75℃以上に加熱した水に食塩及びイヌリン組成物を溶解させて、水相部を調製した。
次いで、油相部を構成する材料を調合タンクに入れ、調合タンクのジャケットを約65℃に制御しながら、内容物を撹拌、混合して、油相部を調製した。
【0039】
次いで、調合タンク中の油相部に水相部を低流量で添加し、調合タンクのジャケットを約65℃に制御しながら、10分以上、内容物を撹拌、混合して、乳化液を得た。
【0040】
得られた乳化液を、殺菌、冷却後、混練機(コンビネーター)に供した。混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を0.3〜0.5MPa、マーガリン製造機の出口温度を23〜27℃、循環時間を15〜240分間に設定して運転し、低脂肪スプレッドを得た。
【0041】
得られた低脂肪スプレッドについて、スプレッド中の飽和脂肪酸は3.12重量%であり、油脂成分の全構成脂肪酸組成中の飽和脂肪酸は14.5重量%であった。また、トランス脂肪酸は検出されず、検出下限(0.05重量%)未満であった。
【0042】
(2)スプレッドの評価
油脂構造化剤を変えて調製した実施例1〜2及び比較例1のスプレッドについて、以下の項目の評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
[保存中の表面組織状態(保存性)]
実際のスプレッド使用時の環境を想定し、10℃で23.5時間、30℃で0.5時間のサイクル運転で14日間保存した。表面にひび割れがあり、組織状態の悪化が見られた場合は評点1、表面にひび割れはないが滑らかでなく、組織状態が良好でない場合は評点2、表面が滑らかで、組織状態が良い場合は評点3として、保存中の表面組織状態を評価した。
【0044】
[オイルオフ(乳化安定性)]
上述のサイクル運転を行った後、スプレッドの外観を以下の5段階の基準で評価した。
・評点5:通常の冷蔵状態と同じ外観を呈する。
・評点4:表面に照りがある、一度溶けた様子がある等、通常の冷蔵状態とは異なるが、液体の油の分離はない。
・評点3:カップ縁近くに濃い黄色の部分がある、又は表面にわずかな油滴がある。
・評点2:カップ縁近くに液体の油がわずかに分離している、又は表面に多くの油滴がある。
・評点1:明らかな液体の油の分離がある。
【0045】
[口溶け]
10名の専門パネルにより官能評価を行い、口溶けが良好(評点3)、口溶けがやや良い(評点2)、口どけが悪い(評点1)を判定した。
【0046】
[総合評価]
以上の各項目を総合的に評価し、5段階の基準で評点をつけた。1(不適)〜5(良)とした。
【0047】
【表2】
【0048】
従来既知の油脂構造化剤を使用した比較例1のスプレッドは、保存中にひび割れがみられ、保存性が不適であり、口溶けが悪かった。一方、ライスワックスを使用した実施例1及び蜜蝋を使用した実施例2のスプレッドは、保存中にひび割れがみられず、保存性が良好であり、口溶けが良好であった。
以上より、油脂構造化剤として、ライスワックス(実施例1)、蜜蝋(実施例2)を添加することにより、保存性・乳化安定性・口溶けの良好な、低脂肪・低トランス脂肪酸・低飽和脂肪酸のスプレッドを製造できた。
【0049】
試験例2
(1)スプレッドの調製
油脂構造化剤としてライスワックスを使用し、表3に示す配合にしたがって、試験例1と同様にスプレッド(油中水型乳化油脂組成物)を調製した。尚、比較例3は、実施例1と比較して、ライスワックスを配合しない代わりに、ハイオレイックサフラワー油を21%配合したものである。
【0050】
【表3】
【0051】
実施例3の低脂肪スプレッドについて、スプレッド中の飽和脂肪酸は3.1重量%であり、油脂成分の全構成脂肪酸組成中の飽和脂肪酸は14.0重量%であった。また、トランス脂肪酸検出下限未満であった。
【0052】
(2)スプレッドの評価
実施例1、3、及び比較例2、3のスプレッドについて、以下の項目の評価を行った。結果を表4に示す。
【0053】
[保存中の表面組織状態(保存性)]
試験例1と同様に評価した。
【0054】
[オイルオフ(乳化安定性)]
試験例1と同様に評価した。
【0055】
[耐熱性]
得られたスプレッドのサンプルをカップに入れ、30℃の恒温室に4時間静置し、1時間毎に「オイルオフ」及び「状態」について検査を行った。
「オイルオフ」とは表面状態の観察であり、試験例1と同じ5段階の基準で評価した。
「状態」は、傾斜台にカップの片側をのせ、10秒間カウント(保持)した時の状態を以下の5段階の基準で評価した。
・評点5:スプレッドが流動していない状態である。
・評点4:10秒以内に5mm未満のスプレッドの流動がみられる。
・評点3:10秒以内に5mm以上10mm未満のスプレッドの流動がみられる。
・評点2:10秒以内に10mm以上のスプレッドの流動がみられるが、カップの外には垂れない。
・評点1:スプレッドが流動して10秒以内にカップの外に垂れる。
4時間後に、「オイルオフ」と「状態」の両方が評点3以上のものを良好、その他を不良と判断した。
【0056】
[製造適性]
得られたスプレッドのサンプルの表面を薬さじで削り取り、スプレッドの内部を露出させて、削った面に露出した水滴の有無、大きさ、数を確認した。異なる12個のサンプルについて測定し、その平均を以下の5段階の基準で評価した。評点の異なる複数の基準に該当する場合は、低い評点をつけた。
・評点5:水滴が全くない。
・評点4:1mm未満の水滴がある。
・評点3:1mm以上4mm未満の水滴が1〜9個ある。
・評点2:1mm以上4mm未満の水滴が10個以上ある。
・評点1:4mm以上の水滴がある。
【0057】
[硬度]
レオメーター(島津製作所、EZ Test EZSX)により、5℃における初期硬度(gf/cm
2)を測定した。具体的には、試験力(gf)にプランジャー直径に応じた係数を乗じて、単位面積当たりの試験力、すなわち応力(gf/cm
2)を算出した。3回測定を行い、平均値を初期硬度とした。レオメーターの測定では、ロードセル容量500Nで、プランジャーは進入弾性治具(直径5mmのプランジャータイプ(ねじ接続型)(部品番号346−51687、島津製作所))を用い、試験速度を0.1mm/sとした。
【0058】
[口溶け]
試験例1と同様に評価した。
【0059】
[総合評価]
試験例1と同様に評価した。
【0060】
【表4】
【0061】
ライスワックスを使用した実施例1及び3は、評価項目すべてが良好であった。
実施例と比較例とを比較すると、口溶けは、実施例2及び3と比較例2及び3とで差がみられず、その他の評価項目は、実施例は比較例より良好な評価が得られた。
口溶けについて、従来既知の油脂構造化剤を使用した場合(比較例1)には、試験例1の結果のとおり悪い評価となるが、実施例2及び3では、他の評価項目を良好にしながら、口溶けを悪くすることなく、油脂構造化剤を使用しない比較例2及び3と同等に維持する結果が得られた。
以上より、ライスワックスを添加することにより、硬度・口溶け・保存性・耐熱性・乳化安定性の良好な、低脂肪・低トランス脂肪酸・低飽和脂肪酸のスプレッドを製造できた。
【0062】
試験例3
試験例1の実施例1〜2及び比較例1のスプレッドの油相を構成する成分について、冷蔵保存時の例示的な温度である5℃から、喫食時の環境温度(ヒトの体温)である35℃〜37℃までの温度範囲における固体脂含量を測定した。
具体的には、表1に示す配合にしたがって、試験例1の実施例1〜2及び比較例1のスプレッドの油相を構成する成分を用意した。これらの油相構成成分を70℃以上で完全に融解させた後、氷水浴にて急冷し、温度が5℃となるよう調温し、24時間保温して、固体脂含量(SFC)測定用サンプルを得た。
【0063】
サンプルを恒温槽に漬け、徐々に昇温させながら、5、10、15、20、25、30、35、36、37℃の各温度において、BRUKER社製パルス核磁気共鳴装置(p−NMR)ミニスペックmq−20(共鳴周波数:20MHz、磁場:0.23〜1.4T)を用いて固体脂含量(SFC、%)を測定した。結果を
図1に示す。
また、油相構成成分の5℃における固体脂含量に対する各温度における固体脂含量の割合を表5に示す。尚、試験は各3回ずつ実施し、各水準における標準誤差(SE)は0.34未満であった。
【0064】
【表5】
【0065】
試験例1における各スプレッドは、水相を構成する成分の組成は同じであるから、実施例1〜2及び比較例1の間での評価結果の違いは、油相構成成分の組成の違いに起因すると言える。したがって、油相構成成分の5〜37℃(スプレッドを冷蔵庫から取り出してから口中に含むまでの温度領域)での固体脂含量の挙動により、スプレッドの口溶けを評価することができると考えられる。図の結果から、実施例1及び2の油相構成成分は比較例1と比較して25〜37℃でのSFCが低くなることが分かる。また、その結果として、試験例1において実施例1及び2のスプレッドは比較例1と比較して口溶けが良好であったと言える。
【0066】
表5の結果から、油相構成成分について5℃でのSFCに対する各温度でのSFCの割合を比較すると、25℃において実施例1〜2と比較例1との間で大きな差が生じ、体温付近(35〜37℃)においても実質的な差がみられた。冷蔵温度から体温付近の温度に変化させたときの固体脂含量の減少により、スプレッドの良好な口溶けが提供されると言える。