【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0012】
また、本明細書において、化合物の具体名における表記「(メタ)アクリル」は「アクリル」および「メタクリル」を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」および「メタクリレート」を表すものとする。
【0013】
本発明は、HLBが7を超えるシリコーン系化合物および水を有する、研磨済研磨対象物を処理するために用いられる、表面処理組成物である。
【0014】
かかる構成の組成物で表面処理を行うことによって、研磨済研磨対象物表面への不純物(ディフェクト)を十分に除去できる。
【0015】
なお、本発明に係る組成物は、研磨済研磨対象物(基板)に残留する不純物(ディフェクト)を除去するが、その観点では、当該研磨済研磨対象物(基板)表面の表面状態を変化(処理)させると言える。そのため、当該組成物を「表面処理組成物」と称する。
【0016】
[研磨済研磨対象物]
本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0017】
研磨済研磨対象物(以下、単に「洗浄対象物」とも称する)は、窒化珪素(以下、単に「SiN」とも称する)、酸化珪素、またはポリシリコン(以下、単に「Poly−Si」とも称する)を含むことが好ましい。酸化珪素を含む研磨済研磨対象物としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0018】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP工程後の半導体基板であることがより好ましい。かかる理由は、特にディフェクトは半導体デバイスの破壊の原因となりうるため、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の洗浄工程としては、ディフェクトをできる限り除去しうるものであることが必要とされるからである。
【0019】
窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物としては、特に制限されないが、窒化珪素、酸化珪素およびポリシリコンのそれぞれ単体からなる研磨済研磨対象物や、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンに加え、これら以外の材料が表面に露出している状態の研磨済研磨対象物等が挙げられる。ここで、前者としては、例えば、半導体基板である窒化珪素基板、酸化珪素基板またはポリシリコン基板が挙げられる。また、後者については、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコン以外の材料は、特に制限されないが、例えば、タングステン等が挙げられる。かかる研磨済研磨対象物の具体例としては、タングステン上に、窒化珪素膜、酸化珪素膜、またはポリシリコン膜が形成された構造を有する研磨済半導体基板や、タングステン部分と、窒化珪素膜と、酸化珪素膜と、ポリシリコン膜いずれか1種以上が露出した構造を有する研磨済半導体基板等が挙げられる。
【0020】
ここで、本発明の奏する効果の観点から、本発明の一形態に係る研磨済研磨対象物は、ポリシリコンまたは酸化珪素を含むことが好ましい。研磨済研磨対象物がポリシリコンまたは酸化珪素を含む場合に、本発明の効果が一層発揮される理由としては、HLBが7を超えるシリコーン系化合物は、ポリシリコンまたは酸化珪素と親和性が高いため、均一な膜をポリシリコンまたは酸化珪素上に形成することができ、異物がポリシリコンまたは酸化珪素上に付着しにくいためであると考えられる。
【0021】
[表面処理組成物]
本発明の一形態は、HLBが7を超えるシリコーン系化合物および水を有する、研磨済研磨対象物を処理するために用いられる表面処理組成物である。以下、HLBが7を超えるシリコーン系化合物を単にシリコーン系化合物とも称する。ここで、「研磨済研磨対象物を処理するために用いられる」とは、表面処理組成物が、直接的な接触により研磨済研磨対象物の表面状態を変化させる(表面から不純物を除去する)ために用いられることを指す。また、処理にはリンス研磨または洗浄が含まれる。
【0022】
本発明者らは、本発明によって上記課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0023】
表面処理組成物は、表面処理組成物に含有される各成分と、研磨済研磨対象物の表面および異物とが相互作用する結果、研磨済研磨対象物表面の異物を除去し、または除去を容易にする機能を有する。
【0024】
表面処理組成物に含まれるシリコーン系化合物の表面張力が非常に低いため、水系表面処理組成物であっても、疎水性の研磨済研磨対象物に対して濡れ性が非常に高くなる。よって、研磨済研磨対象物への洗浄性を高める(ディフェクトを低減する)ことができる。加えて、シリコーン系化合物は、研磨済研磨対象物の表面への親和性が高いため、研磨済研磨対象物の表面に親水性基を外に向けた均一な親水性層を形成しやすい。研磨済研磨対象物の表面における親水性層の形成が不均一であると、親水性層が形成されていない、すなわち、研磨済研磨対象物の表面が露出している部分に、不純物(例えば、リンス研磨工程での研磨パッド屑や、洗浄で一旦除去された残留不純物)が付着しやすくなり、研磨済研磨対象物の表面に存在する不純物の増加につながる。一方、シリコーン系化合物によって研磨済研磨対象物の表面に均一な親水性層が形成されていることで、不純物(特に疎水性成分)が研磨済研磨対象物の表面に付着することを抑制することができる。
【0025】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0026】
以下、表面処理組成物に含まれる各成分について説明する。
【0027】
[シリコーン系化合物]
シリコーン系化合物のHLBは7を超える。HLBが7以下であると研磨済研磨対象物の表面に存在する不純物を十分に除去できない(後述の比較例2、3および4参照)。HLBが7以下であるとシリコーン系高分子の疎水性が高く、研磨済研磨対象物の表面に形成される層の疎水性が高くなる。その結果、不純物が付着しやすくなると考えられる。
【0028】
本発明の効果の点から、シリコーン系高分子のHLBが7.5以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。
【0029】
シリコーン系化合物のHLBの上限値は、特に限定されないが、一般的には、20以下であり、本発明の効果が一層発揮されることから、18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましく、12以下であることがさらにより好ましく、ディフェクト数が低減されることから、10以下であることが特に好ましい。ここで、HLBは、通常界面活性剤の分野で使用される親水性−疎水性のバランスで、通常用いる計算式、例えばグリフィン(Griffin)の次の式:
HLB値(グリフィン法による測定値)=20×親水部の式量の総和/分子量
により求められるものである。グリフィンの式は文献(W.C.Greiffin,J.Soc.Cosmetic Chemists,1,311(1949)に示されている。HLB値が大きいほど親水的であり、小さいほど疎水的であることを表す。また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
【0030】
シリコーン系化合物は、シロキサン結合による主骨格を持ち、親水性基を有する化合物である。シリコーン系化合物は、特に限定されるものではないが、室温(25℃)で液状のものが好ましく、シリコーンオイルであることがより好ましい。また、シリコーン系化合物は、25℃での動粘度は、特に限定されるものではないが、ディフェクト低減の効果を発揮するためには、下限として10mm
2/s以上が好ましく、50mm
2/s以上がより好ましく、100mm
2/s以上がさらに好ましく、150mm
2/s以上がさらにより好ましい。また、25℃での動粘度が適当で表面処理組成物の流動性を大きく変化させないため、上限として30,000mm
2/s以下が好ましく、10,000mm
2/s以下が好ましく、5,000mm
2/s以下が好ましく、1,000mm
2/s以下が好ましく、500mm
2/s以下が好ましい。以下、シリコーン系化合物の25℃での動粘度を単に粘度とも記載する。
【0031】
シリコーン系化合物は、ポリエーテル変性シリコーンであることが好ましく、ポリエーテル変性シリコーンオイルであることがより好ましい。ポリエーテル変性シリコーンオイルとしては、片末端変性型、両末端変性型、側鎖変性型、主鎖共重合型のいずれであってもよいが、側鎖変性型であることが好ましい。
【0032】
ポリエーテル変性シリコーンは、平均分子量が55000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましい。平均分子量は、重量平均分子量のことを表す。ここで重量平均分子量は、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒にTHFを用いて、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量で定義する。
【0033】
ポリエーテル変性シリコーン(オイル)は、市販品を用いてもよく、SH8400(HLB8、粘度260mm
2/s)、L−7002(HLB8、粘度1,200mm
2/s)、FZ−2104(HLB9)、FZ−77(HLB11、粘度20mm
2/s)、L−7604(HLB11、粘度400mm
2/s)(以上、東レ・ダウコーニング社製);KF−6011(HLB14.5、粘度130mm
2/s)、KF−6011P(HLB14.5、粘度130mm
2/s)、KF−6013(HLB10、粘度400mm
2/s)、KF−6043(HLB14.5、粘度400mm
2/s)、KF−351A(HLB12、粘度70mm
2/s)、KF−353(HLB10、粘度430mm
2/s)、KF−354L(HLB16、粘度200mm
2/s)、KF−355A(HLB12、粘度150mm
2/s)、KF−615A(HLB10、粘度920mm
2/s)、KF−640(HLB14、粘度20mm
2/s)、KF−642(HLB12、粘度50mm
2/s)、KF−643(HLB14、粘度19mm
2/s)、KF−644(HLB11、粘度38mm
2/s)、KF−6024(HLB10、粘度70mm
2/s)(以上、信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0034】
また、本発明で用いるポリエーテル変性シリコーン(オイル)は、例えば、特開2002−179797号公報、特開2008−1896号公報、特開2008−1897号公報に記載の方法または、これに準じた方法で、容易に合成できる。
【0035】
シリコーン系化合物の含有量は、表面処理組成物の総量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。シリコーン系化合物の含有量が0.01質量%以上であると、不純物の付着低減効果がより向上する。同様の観点から、シリコーン系化合物の含有量は、表面処理組成物の総量に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.08質量%以上であることがさらに好ましい。また、シリコーン系化合物の含有量は、表面処理組成物の総量に対して、1質量%以下であることが好ましい。シリコーン系化合物の含有量が1質量%以下であると、洗浄効果が増大するという観点から好ましい。同様の観点から、シリコーン系化合物の含有量は、表面処理組成物の総量に対して、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下が最も好ましい。
【0036】
[分散媒]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、分散媒(溶媒)として水を必須に含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒は、水のみであることがより好ましい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0037】
水は、研磨済研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下(下限0ppb)である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0038】
水の含有量は、表面処理組成物中、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0039】
[分散剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、分散剤をさらに含むことが好ましい。分散剤は、界面活性能により表面張力を低下させ、表面処理組成物による異物の除去に寄与する。よって、分散剤を含む表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面処理(洗浄等)において、研磨済研磨対象物の表面に残留する異物を十分に除去することができる。中でも、分散剤は高分子(分散剤)であることが好ましい。
【0040】
高分子分散剤の例としては、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物;リン酸(塩)基を有する高分子化合物;ホスホン酸(塩)基を有する高分子化合物;カルボン酸(塩)基を有する高分子化合物;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルイミダゾール(PVI)、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン、ポリアクリロイルモルホリン(PACMO)等の窒素原子を含む水溶性高分子;ポリビニルアルコール(PVA);ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物が好ましい。以下、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物について説明する。
【0042】
<スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物>
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、上記分散剤がスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物であると好ましい。スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物(本明細書中、単に「スルホン酸基含有高分子」とも称する)は、表面処理組成物による異物の除去により寄与しやすい。よって、上記スルホン酸基含有高分子を含む表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面処理(洗浄等)において、研磨済研磨対象物の表面に残留する異物をより除去しやすいという効果を有する。
【0043】
当該スルホン酸基含有高分子は、スルホン酸(塩)基以外の部分(すなわち、スルホン酸基含有高分子のポリマー鎖部分)と、異物(特に疎水性成分)との親和性により、ミセルを形成しうる。よって、このミセルが表面処理組成物中に溶解または分散することにより、疎水性成分である異物もまた効果的に除去されると考えられる。
【0044】
また、酸性条件下において、研磨済研磨対象物の表面がカチオン性である場合、スルホン酸基がアニオン化することにより、当該研磨済研磨対象物の表面に吸着しやすくなる。その結果、研磨済研磨対象物の表面には、上記スルホン酸基含有高分子が被覆した状態となると考えられる。他方、残留した異物(特にカチオン性を帯びやすいもの)には、スルホン酸基含有高分子のスルホン酸基が吸着しやすいため、異物の表面がアニオン性を帯びることとなる。よって、その表面がアニオン性となった異物と、研磨済研磨対象物の表面に吸着したスルホン酸基含有高分子のアニオン化したスルホン酸基とが、静電的に反発する。また、異物がアニオン性である場合は、異物自体と、研磨済研磨対象物上に存在するアニオン化したスルホン酸基とが静電的に反発する。したがって、このような静電的な反発を利用することで、異物を効果的に除去することができると考えられる。
【0045】
さらに、研磨済研磨対象物が電荷を帯びにくい場合には、上記とは異なるメカニズムによって異物が除去されると推測される。まず、疎水性である研磨済研磨対象物に対し、異物(特に疎水性成分)は疎水性相互作用によって付着しやすい状態にあると考えられる。ここで、スルホン酸基含有高分子のポリマー鎖部分(疎水性構造部位)は、その疎水性に起因して、研磨済研磨対象物の表面側に向き、他方、親水性構造部位であるアニオン化したスルホン酸基等は、研磨済研磨対象物表面側とは反対側に向く。これにより、研磨済研磨対象物の表面は、アニオン化したスルホン酸基に覆われた状態となり、親水性となると推測される。その結果、異物(特に疎水性成分)と、上記研磨済研磨対象物との間に疎水性相互作用が生じにくくなり、異物の付着が抑制されると考えられる。
【0046】
そして、研磨済研磨対象物の表面に吸着したシリコーン系化合物およびスルホン酸基含有高分子は、さらに水洗等を行うことにより、容易に除去される。
【0047】
なお、本明細書において、「スルホン酸(塩)基」とは、スルホン酸基(−SO
3H))またはその塩の基(−SO
3M
2;ここで、M
2は、有機または無機の陽イオンである)を表す。
【0048】
スルホン酸基含有高分子は、スルホン酸(塩)基を複数有するものであれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。スルホン酸基含有高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をスルホン化して得られる高分子化合物や、スルホン酸(塩)基を有する単量体を(共)重合して得られる高分子化合物等が挙げられる。
【0049】
より具体的には、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール(スルホン酸変性ポリビニルアルコール)、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸(塩)基含有ポリスチレン、スルホン酸(塩)基含有ポリ酢酸ビニル(スルホン酸変性ポリ酢酸ビニル)、スルホン酸(塩)基含有ポリエステル、(メタ)アクリル酸−スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体等の(メタ)アクリル基含有モノマー−スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体等が挙げられる。上記スルホン酸基含有高分子は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これら高分子が有するスルホン酸基の少なくとも一部は、塩の形態であってもよい。塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。特に、研磨済研磨対象物がCMP工程後の半導体基板である場合には、基板表面の金属を極力除去するという観点から、アンモニウム塩であると好ましい。
【0050】
また、スルホン酸基含有高分子がスルホン酸基含有ポリビニルアルコールである場合は、溶解性の観点から、鹸化度が80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい(上限100%)。
【0051】
スルホン酸基含有高分子の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましい。重量平均分子量が1,000以上であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、研磨済研磨対象物や異物を覆う際の被覆性がより良好となり、洗浄対象物表面からの異物の除去作用または研磨済研磨対象物表面への不純物(ディフェクト)の再付着抑止作用がより向上するからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、2,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましく、8,000以上であることが最も好ましい。
【0052】
また、スルホン酸基含有高分子の重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が100,000以下であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、洗浄工程後のスルホン酸基含有高分子の除去性がより良好となるからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、50,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましく、20,000以下であることがより好ましく、15,000以下であることが最も好ましい。
【0053】
該重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には下記の装置および条件によって測定することができる。
【0054】
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD−LTII)
カラム:VP−ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、N
2GAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0055】
スルホン酸基含有高分子としては、市販品を用いていてもよく、例えば、日本合成化学工業株式会社製 ゴーセネックス(登録商標)L−3226、ゴーセネックス(登録商標)CKS−50、東亞合成株式会社製 アロン(登録商標)A−6012、A−6016A、A−6020、東ソー有機化学株式会社製 ポリナス(登録商標)PS−1等を用いることができる。
【0056】
スルホン酸基含有高分子の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。スルホン酸基含有高分子の含有量が0.01質量%以上であると、不純物(ディフェクト)の除去効果がより向上する。かかる理由は、スルホン酸基含有高分子が、研磨済研磨対象物および異物を被覆する際に、より多くの面積で被覆がなされるからであると推測される。これにより、特に異物がミセルを形成しやすくなるため、当該ミセルの溶解・分散による異物の除去効果が向上する。また、スルホン酸(塩)基の数が増加することで、静電的な吸着または反発効果をより強く発現させることができるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総量に対して、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、スルホン酸基含有高分子の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総量に対して、0.5質量%以下であることが好ましい。スルホン酸基含有高分子の含有量が0.5質量%以下であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、洗浄工程後のスルホン酸基含有高分子自体の除去性が良好となるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総量に対して、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
【0057】
[pH]
本発明の表面処理組成物は、pHが9.0未満であることが好ましい。pHが9.0未満であると、表面処理組成物を正電荷に帯電しうる性質を有する異物や洗浄対象物に対して用いる場合、洗浄対象物の表面または異物の表面をより確実に正電荷で帯電させることができ、静電的な反発により、より高い異物の除去効果が得られる。表面処理組成物のpHは、好ましくは8.0未満であり、より好ましくは7.0未満であり、さらに好ましくは6.0未満であり、4.0未満であってもよいし、3.5未満であってもよい。また、本発明の表面処理組成物のpHは、1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。
【0058】
pHを調整する場合は、pH調整剤を用いることが好ましい。かかるpH調整剤としては、公知の酸、塩基、またはそれらの塩を使用することができる。
【0059】
pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、2−メチル酪酸、ヘキサン酸、3,3−ジメチル−酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、3−フランカルボン酸、2−テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、2−ヒドロキシイソ酪酸およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。pH調整剤として無機酸を使用した場合、特に硫酸、硝酸、亜リン酸、リン酸等が好ましい。また、pH調整剤として有機酸を使用した場合、酢酸、乳酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、ヒドロキシイソ酪酸が好ましく、マレイン酸、クエン酸、酒石酸がより好ましい。
【0060】
pH調整剤として使用できる塩基としては、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、アンモニウム溶液、水酸化第四アンモニウム等の有機塩基、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、第2族元素の水酸化物、ヒスチジン等のアミノ酸、アンモニア等が挙げられる。これらpH調整剤の中でも、pH調整の容易性、不純物をより低減する観点から、硝酸、アンモニウム溶液、ヒスチジン等のアミノ酸がより好ましい。
【0061】
pH調整剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。pH調整剤の添加量は、特に制限されず、表面処理組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0062】
[他の添加剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物の原因となりうるため、できる限り添加しないことが望ましい。よって、必須成分以外の成分は、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。他の添加剤としては、例えば、砥粒、アルカリ、防腐剤、溶存ガス、還元剤、酸化剤およびアルカノールアミン類等が挙げられる。なかでも、異物除去効果のさらなる向上のため、表面処理組成物は、砥粒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する砥粒の含有量が0.01質量%以下(下限0質量%)である場合を指し、0.005質量%以下(下限0質量%)であることが好ましく、0.001質量%以下(下限0質量%)であることがより好ましい。
【0063】
[不純物(ディフェクト)除去効果]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面上の不純物(ディフェクト)を除去する効果が高いほど好ましい。すなわち、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面処理を行った際、表面に残存する異物の数が少ないほど好ましい。具体的には、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、不純物(ディフェクト)の数が6000個以下であると好ましく、3000個以下であるとより好ましく、2000個以下であるとさらにより好ましく、1500個以下であると特に好ましい。一方、上記異物の数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、実質的には、100個以上である。
【0064】
なお、上記不純物(ディフェクト)数は、実施例に記載の方法により表面処理を行った後、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0065】
[表面処理組成物の製造方法]
上記表面処理組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、HLBが7を超えるシリコーン系化合物と、水と、を混合することにより製造できる。すなわち、本発明の他の形態によれば、HLBが7を超えるシリコーン系化合物と、水と、を混合することを含む、上記表面処理組成物の製造方法もまた提供される。上記のシリコーン系化合物の種類、添加量等は、前述の通りである。さらに、本発明の一形態に係る表面処理組成物の製造方法においては、必要に応じて、上記分散剤、他の添加剤、水以外の分散媒等をさらに混合してもよい。これらの種類、添加量等は、前述の通りである。
【0066】
上記各成分の添加順、添加方法は特に制限されない。上記各材料を、一括してもしくは別々に、または段階的にもしくは連続的に加えてもよい。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。好ましくは、上記表面処理組成物の製造方法は、シリコーン系化合物と、水と、必要に応じて添加される分散剤と、を順次添加し、水中で攪拌することを含む。加えて、上記表面処理組成物の製造方法は所望のpHとなるように、表面処理組成物のpHを測定し、調整することをさらに含んでいてもよい。
【0067】
[表面処理方法]
本発明の他の一形態は、上記表面処理組成物を用いて、研磨済研磨対象物の表面を処理することを含む、表面処理方法である。
【0068】
本発明の一形態に係る表面処理方法によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する不純物(ディフェクト)を十分に除去することができる。すなわち、本発明の他の一形態によれば、上記表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理する、研磨済研磨対象物の表面における不純物(ディフェクト)低減方法が提供される。
【0069】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。例えば、研磨済研磨対象物を、表面処理組成物中に浸漬させる方法や、さらに超音波処理を行う方法、あるいは、研磨済研磨対象物を、パッドを用いて回転処理しながら表面処理組成物を掛け流す方法などが挙げられる。パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。
【0070】
表面処理方法としては、主として、(I)リンス研磨処理による方法、(II)洗浄処理による方法が挙げられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理は、リンス研磨または洗浄によって行われると好ましい。リンス研磨処理および洗浄処理は、研磨済研磨対象物の表面上の異物(パーティクル、金属汚染、有機物残渣、パッド屑など)を除去し、清浄な表面を得るために実施される。上記(I)および(II)について、以下、説明する。
【0071】
(I)リンス研磨処理
本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理において好適に用いられる。リンス研磨処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行って研磨済研磨対象物を得た後、研磨済研磨対象物の表面上の不純物(ディフェクト)の除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる。このとき、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。その結果、研磨済研磨対象物表面の不純物(ディフェクト)は、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。不純物(ディフェクト)のなかでも、特にパーティクルや有機物残渣は、物理的な作用により除去されやすい。したがって、リンス研磨処理では、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦を利用することで、パーティクルや有機物残渣を効果的に除去することができる。
【0072】
具体的には、リンス研磨処理は、研磨工程後の研磨済研磨対象物表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済半導体基板とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物(リンス研磨用組成物)を供給しながら研磨済研磨対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0073】
ここで、処理条件には特に制限はないが、例えば、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとの圧力は、0.5〜10psiが好ましい。ヘッド回転数は、10〜100rpmが好ましい。また、研磨定盤(プラテン)回転数は、10〜100rpmが好ましい。掛け流しの供給量に制限はないが、研磨済研磨対象物の表面が表面処理組成物で覆われていることが好ましく、例えば、10〜5000ml/分である。また、表面処理時間も特に制限されないが、5〜180秒間であることが好ましい。なお、本発明においては、長時間の表面処理によってもディフェクト数の増加が抑制されることから、表面処理時間は20秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましく、45秒以上であることがさらに好ましい。なお、表面処理時間の上限は通常5分以内である。
【0074】
このような範囲であれば、不純物をより良好に除去することが可能である。
【0075】
リンス研磨処理の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温(25℃)でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0076】
リンス研磨処理は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、リンス研磨用組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。研磨装置のリンス研磨処理時の稼働条件は特に制限されず、当業者であれば適宜設定可能である。
【0077】
(II)洗浄処理
本発明に係る表面処理組成物は、洗浄処理において好適に用いられる。洗浄処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行って研磨済研磨対象物を得た後、または、上記リンス研磨処理を行った後、研磨対象物の表面上の異物の除去を目的として行われる。なお、洗浄処理と、上記リンス研磨処理とは、これらの処理を行う場所によって分類され、洗浄処理は、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外した後に行われる表面処理である。洗浄処理においても、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させて、当該対象物の表面上の不純物(ディフェクト)を除去することができる。
【0078】
洗浄処理を行う方法の一例として、(i)研磨済研磨対象物を保持した状態で、洗浄ブラシを研磨済研磨対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら洗浄対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、(ii)研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。かかる方法において、研磨対象物表面の異物は、洗浄ブラシによる摩擦力または超音波処理や攪拌によって発生する機械的力、および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。
【0079】
上記(i)の方法において、表面処理組成物(洗浄用組成物)の研磨済研磨対象物への接触方法としては、特に限定されないが、ノズルから研磨済研磨対象物上に表面処理組成物を流しながら研磨済研磨対象物を高速回転させるスピン式、研磨済研磨対象物に表面処理組成物を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。
【0080】
短時間でより効率的な汚染除去ができる点からは、洗浄処理は、スピン式やスプレー式を採用することが好ましく、スピン式であることがさらに好ましい。
【0081】
このような洗浄処理を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の研磨済研磨対象物を同時に表面処理するバッチ式洗浄装置、1枚の研磨済研磨対象物をホルダーに装着して表面処理する枚葉式洗浄装置などがある。洗浄時間の短縮等の観点からは、枚葉式洗浄装置を用いる方法が好ましい。
【0082】
さらに、洗浄処理を行うための装置として、研磨定盤(プラテン)から研磨済研磨対象物を取り外した後、当該対象物を洗浄ブラシで擦る洗浄用設備を備えている研磨装置が挙げられる。このような研磨装置を用いることにより、研磨済研磨対象物の洗浄処理を、より効率よく行うことができる。
【0083】
かような研磨装置としては、研磨済研磨対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモータ、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。なお、CMP工程の後、リンス研磨工程を行う場合、当該洗浄処理は、リンス研磨工程にて用いた研磨装置と同様の装置を用いて行うことが、より効率的であり好ましい。
【0084】
洗浄ブラシとしては、特に制限されないが、好ましくは、樹脂製ブラシを使用する。樹脂製ブラシの材質は、特に制限されないが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を使用するのが好ましい。そして、洗浄ブラシとしては、PVA製スポンジを用いることが特に好ましい。
【0085】
洗浄条件にも特に制限はなく、研磨済研磨対象物(洗浄対象物)の種類、ならびに除去対象とする不純物の種類および量に応じて、適宜設定することができる。例えば、洗浄ブラシの回転数は10rpm以上200rpm以下、洗浄対象物の回転数は、10rpm以上100rpm以下、洗浄対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下がそれぞれ好ましい。洗浄ブラシに表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、洗浄ブラシおよび洗浄対象物の表面が常に表面処理組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。洗浄時間も特に制限されないが、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。このような範囲であれば、異物をより効果的に除去することが可能である。
【0086】
洗浄の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温(25℃)でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0087】
上記(ii)の方法において、浸漬による洗浄方法の条件については、特に制限されず、公知の手法を用いることができる。
【0088】
上記(i)、(ii)の方法による洗浄処理を行う前、後またはその両方において、水による洗浄を行ってもよい。
【0089】
また、洗浄後の研磨済研磨対象物(洗浄対象物)は、スピンドライヤ等により表面に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。また、エアブロー乾燥により洗浄対象物の表面を乾燥させてもよい。
【0090】
[半導体基板の製造方法]
本発明の一形態に係る表面処理方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であるとき、好適に適用可能である。すなわち、本発明の他の一形態によれば、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記表面処理方法によって、研磨済研磨対象物の表面を処理することを含む、半導体基板の製造方法もまた提供される。
【0091】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0092】
また、半導体基板の製造方法としては、研磨済半導体基板の表面を、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いて表面処理する、または本発明の一形態に係る表面処理方法によって表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば特に制限されない。かかる製造方法として、例えば、研磨済半導体基板を形成するための研磨工程および洗浄工程を有する方法が挙げられる。また、他の一例としては、研磨工程および洗浄工程に加え、研磨工程および洗浄工程の間に、リンス研磨工程を有する方法が挙げられる。以下、これらの各工程について説明する。
【0093】
<研磨工程>
半導体基板の製造方法に含まれうる研磨工程は、半導体基板を研磨して、研磨済半導体基板を形成する工程である。
【0094】
研磨工程は、半導体基板を研磨する工程であれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)工程であることが好ましい。また、研磨工程は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理工程は、上記仕上げ研磨工程後に行われると好ましい。
【0095】
研磨用組成物としては、半導体基板の特性に応じて、公知の研磨用組成物を適宜使用することができる。研磨用組成物としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、酸塩、分散媒、および酸を含むもの等を好ましく用いることができる。かかる研磨用組成物の具体例としては、スルホン酸修飾コロイダルシリカ、水およびマレイン酸を含む研磨用組成物等が挙げられる。
【0096】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0097】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0098】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm以上100rpm以下が好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0099】
<表面処理工程>
表面処理工程とは、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面における異物を低減する工程をいう。半導体基板の製造方法において、リンス研磨工程の後、表面処理工程としての洗浄工程が行われてもよいし、リンス研磨工程のみ、または洗浄工程のみが行われてもよい。
【0100】
(リンス研磨工程)
リンス研磨工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程および洗浄工程の間に設けられてもよい。リンス研磨工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(リンス研磨処理方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0101】
研磨装置および研磨パッド等の装置、ならびに研磨条件については、研磨用組成物を供給する代わりに本発明に係る表面処理組成物を供給する以外は、上記研磨工程と同様の装置および条件を適用することができる。
【0102】
リンス研磨工程で用いられるリンス研磨方法の詳細は、上記リンス研磨処理に係る説明に記載の通りである。
【0103】
(洗浄工程)
洗浄工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程の後に設けられてもよいし、リンス研磨工程の後に設けられてもよい。洗浄工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(洗浄方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0104】
洗浄工程で用いられる洗浄方法の詳細は、上記洗浄方法に係る説明に記載の通りである。
【実施例】
【0105】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件下で行われた。
【0106】
<表面処理組成物の調製>
[実施例1:表面処理組成物A−1の調製]
組成物全体を100質量部として、有機酸としての濃度30質量%マレイン酸水溶液を1.0質量部(マレイン酸として0.3質量部)、シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)(HLB8、粘度260mm
2/s)を0.1質量部、高分子分散剤としてポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量10,000)を0.025質量部、および水(脱イオン水)を98.875質量部、混合して、表面処理組成物A−1を調製した。
【0107】
表面処理組成物A−1(液温:25℃)について、pHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは2.0であった。
【0108】
[実施例2:表面処理組成物A−2の調製]
シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製)(HLB8)の代わりに、L−7002(東レ・ダウコーニング社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)(HLB8、粘度1200mm
2/s)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物A−2を調製した。表面処理組成物A−2(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0109】
[実施例3:表面処理組成物A−3の調製]
シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製)(HLB8)の代わりに、L−7604(東レ・ダウコーニング社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)(HLB11、粘度400mm
2/s)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物A−3を調製した。表面処理組成物A−3(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0110】
[実施例4:表面処理組成物A−4の調製]
シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製)(HLB8)の代わりに、KF−6043(信越化学工業社製、PEG−10ジメチコン)(HLB14.5、粘度400mm
2/s)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物A−4を調製した。表面処理組成物A−4(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0111】
[実施例5:表面処理組成物A−5の調製]
シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製)(HLB8)の代わりに、KF−6011(信越化学工業社製、PEG−11メチルエーテルジメチコン)(HLB14.5、粘度130mm
2/s)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物A−5を調製した。表面処理組成物A−5(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0112】
[比較例1:表面処理組成物C−1の調製]
シリコーン系化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物C−1を調製した。表面処理組成物C−1(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0113】
[比較例2:表面処理組成物C−2の調製]
シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製)(HLB8)の代わりに、FZ−2203(東レ・ダウコーニング社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)(HLB2、粘度4500mm
2/s)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物C−2を調製した。表面処理組成物C−2(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0114】
[比較例3:表面処理組成物C−3の調製]
シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製)(HLB8)の代わりに、SH8700(東レ・ダウコーニング社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)(HLB6、粘度1200mm
2/s)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物C−3を調製した。表面処理組成物C−3(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0115】
[比較例4:表面処理組成物C−4の調製]
シリコーン系化合物としてSH8400(東レ・ダウコーニング社製)(HLB8)の代わりに、KF−6012(信越化学工業社製、PEG/PPG−20/22ブチルエーテルジメチコン)(HLB7、粘度1500mm
2/s)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物C−4を調製した。表面処理組成物C−4(液温:25℃)について、実施例1と同様の方法により確認されたpHは2.0であった。
【0116】
<評価>
<研磨済研磨対象物(表面処理対象物)の準備>
下記化学的機械的研磨(CMP)工程によって研磨された後の、研磨済ポリシリコン基板(研磨済半導体基板)を、表面処理対象物(研磨済研磨対象物)として準備した。
【0117】
[CMP工程]
半導体基板であるポリシリコン基板およびTEOS基板(200mmウェハ)について、研磨用組成物M(組成;スルホン酸修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid−functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246−247(2003)に記載の方法で作製、平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)4質量%、濃度30質量%のマレイン酸水溶液0.018質量%、溶媒:水)を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。
【0118】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:アプライドマテリアルズ社製 MirraMesa
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100mL/分
研磨時間:60秒間。
【0119】
[リンス研磨(表面処理)工程]
CMP工程によって研磨された後の研磨済ポリシリコン基板およびTEOS基板について、各表面処理組成物を使用し、下記の条件でリンス研磨を行った。
【0120】
(リンス研磨装置およびリンス条件)
研磨装置:アプライドマテリアルズ社製 MirraMesa
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:1.0psi
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
表面処理組成物の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:100mL/分
表面処理(リンス研磨)時間:60秒間。
【0121】
<評価>
上記リンス研磨工程後の各研磨済研磨対象物について、下記項目について測定し評価を行った。評価結果を表1に合わせて示す。
【0122】
[総ディフェクト数の評価]
上記洗浄工程を行った後の研磨済研磨対象物について、0.13μm以上の総ディフェクト数を測定した。総ディフェクト数の測定にはKLA TENCOR社製SP−2を使用した。測定は、研磨済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分を除外した残りの部分について行った。
【0123】
各表面処理組成物について、評価結果を下記表1に、それぞれ示す。表中、Poly−Siのディフェクト数は研磨済ポリシリコン基板の表面処理後のディフェクト数を、TEOSのディフェクト数は研磨済TEOS基板の表面処理後のディフェクト数をそれぞれ表す。
【0124】
【表1】
【0125】
上記表1から明らかなように、実施例の表面処理組成物は、ポリシリコン基板およびTEOS基板に対する表面処理後のディフェクト数が900個以下であった。これに対し、比較例の表面処理組成物は、表面処理後のディフェクト数が3000を超えるものであった。
【0126】
したがって、HLBが7を超えるシリコーン系化合物を表面処理組成物に用いることで、研磨済研磨対象物表面上のディフェクトを除去する効果が非常に高いことがわかる。