特開2019-163392(P2019-163392A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2019163392-段ボール用接着剤 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-163392(P2019-163392A)
(43)【公開日】2019年9月26日
(54)【発明の名称】段ボール用接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 103/02 20060101AFI20190830BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20190830BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20190830BHJP
   B31F 1/28 20060101ALI20190830BHJP
【FI】
   C09J103/02
   C09J11/06
   C09J11/04
   B31F1/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-52290(P2018-52290)
(22)【出願日】2018年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】592250975
【氏名又は名称】敷島スターチ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】松本 匠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英生
【テーマコード(参考)】
3E078
4J040
【Fターム(参考)】
3E078AA20
3E078BB46
3E078BC01
3E078CC16X
3E078CC22X
4J040BA111
4J040HA286
4J040HA326
4J040JA03
4J040JB02
4J040LA05
4J040MA09
4J040MB02
4J040NA07
4J040PA30
4J040PA33
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、安定性と接着力に優れた段ボール製造用接着剤(糊)を提供することである。特に本発明の課題は、接着力だけでなく糊液の安定性に優れた段ボール製造用の澱粉系接着剤を提供することである。
【解決手段】本発明によって、架橋剤と澱粉とをキャリア部に含む段ボール用接着剤組成物が提供される。本発明に係る架橋剤は、トリメタリン酸塩、無水アジピン酸、無水リン酸、オキシ塩化リン、アクロレイン、エピクロロヒドリン、グリオキザール、メラミンからなる群より選択される1以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中芯紙とライナー紙を接着させるための接着剤用組成物であって、
架橋剤と澱粉とをキャリア部として含み、架橋剤が、トリメタリン酸塩、無水アジピン酸、無水リン酸、オキシ塩化リン、アクロレイン、エピクロロヒドリン、グリオキザールおよびメラミンからなる群より選択される1以上である、上記接着剤用組成物。
【請求項2】
ステインホール方式で用いられる、請求項1に記載の接着剤用組成物。
【請求項3】
キャリア部の澱粉100質量部に対して0.1〜20質量部の架橋剤を含む、請求項1または2に記載の接着剤用組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、トリメタリン酸塩、無水アジピン酸およびオキシ塩化リンからなる群より選択される1以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤用組成物。
【請求項5】
1.0〜3.0という倍水率で使用される、請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤用組成物。
【請求項6】
ホウ素化合物と澱粉とをメイン部として含む、請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤用組成物。
【請求項7】
キャリア部の澱粉とメイン部の澱粉の合計に対するキャリア部の澱粉の重量割合が50質量%以下である、請求項6に記載の接着剤用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の接着剤用組成物から接着剤を調製する工程と、
調製した接着剤を中芯紙に塗布する工程と、
接着剤が塗布された中芯紙とライナー紙を貼合する工程と、
を含む、段ボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボールの製造に用いられる澱粉系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に段ボールは、波状に加工した中芯紙をライナー紙で挟んで接着して製造される。この中芯紙とライナー紙を接着するために、種々の接着剤(バインダー)が使用される。
段ボール製造用の接着剤として、安価であるという理由から澱粉系高分子が広く使用されており、一般に、ステインホール方式(ツータンク、ワンタンク)、ノーキャリア方式、プレミックス方式などの製法によって接着剤が調製される。これら製法で調製した澱粉系接着剤は、キャリア部の澱粉(キャリア澱粉)、メイン部の澱粉(メイン澱粉)、ホウ素化合物などを含んでおり、中芯紙の接着部に塗布された澱粉系接着剤中の澱粉がライナー紙との間で膨潤・糊化・乾燥を経て接着力(貼合力)が発揮される。
【0003】
段ボールを製造する機械であるコルゲーターにおいて、中芯紙とライナー紙を加温接着する役割を有するのが熱板である。一般的に熱板は、ボイラで発生させた飽和蒸気(蒸気圧:1.0〜1.2MPa)を使用して、熱板の温度が180〜190℃となるように管理されている。中芯紙の接着部に塗布された澱粉系接着剤が熱板を通過する際に、ライナー紙との間で熱板の熱を受け、澱粉の膨潤・糊化・乾燥を経て段ボールが製造される仕組みとなっている。
【0004】
また、熱板を通過する際、中芯紙やライナー紙も熱板の熱を受ける。その結果、中芯紙やライナー紙に含まれる水分が急激に蒸発することで、紙繊維の伸縮が生じ、段ボールが平面でなくなる「反り」が発生する。この「反り」が極端な場合には、不良品発生の原因ともなり、段ボールの品質を大きく左右するものである。また、この「反り」を矯正するために多くの労働力が費やされており、人件費増大にもつながっている。さらには、段ボールを材料となる原紙の高騰により、原紙の質の低下が進んでおり、今までにも増して段ボールの「反り」が発生しやすい環境となっている。このため、「反り」が発生しない段ボール製造が近年の大きな課題となっている。
【0005】
紙繊維の伸縮により生じる段ボールの「反り」は、熱板の温度を低くして紙繊維の伸縮をなるべく抑えることによって抑制できることが明らかになってきた。また、熱板の温度を低くすると、飽和蒸気を発生させるための重油量を削減したり、二酸化炭素排出量を削減したりすることができる。このため、段ボールの「反り」を抑制するという品質向上だけでなく、燃料コストの削減、二酸化炭素排出量の削減にもつながり、低温貼合に期待が集まっている。
【0006】
ところが、低温貼合においては、コルゲーターの熱板の熱量が抑制されるため、澱粉が膨潤・糊化・乾燥を経て接着力(貼合力)を発揮するだけの熱量が足らず、貼合不良が発生しやすい。貼合不良を起こさないためには、段ボールの貼合速度を落とし、熱板との接触時間を延ばし、澱粉系接着剤に十分な熱量を与える必要がある。しかし、熱板との接触時間を延ばすと、段ボール製造において生産性の悪化につながってしまう。このため、低温貼合でも生産性を落とさない、少ない熱量でも接着力を発揮し、十分な接着強度を有した段ボールを製造できる接着剤の開発が望まれてきた。
【0007】
低温貼合に適した接着剤の条件として、接着剤に含まれる水分が少ないこと(倍水率が低い)、少ない熱量でも接着力を発揮できることなどが求められる。近年では、接着剤に含まれる水分が少ない接着剤として、アミロース含有量が高い澱粉を使用する技術が提案されている(特許文献1〜2)。また、少ない熱量でも接着力を発揮できる澱粉を含む接着剤を利用する技術などが提案されている(特許文献3〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−011213号公報
【特許文献2】特開平5−239423号公報
【特許文献3】特開2005−179586号公報
【特許文献4】特開2007−284568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1〜2に係る技術は、アミロース含有量が高い特殊な澱粉を使用するため価格が非常に高価である。また、従来の段ボール用接着剤は、性能として、製糊後1〜2日保存すると粘度が大きく上昇してしまい、粘度安定性に欠けるため使用しにくいといった課題があった。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、経時的な粘度上昇が少なく、十分な接着強度を有した段ボール用接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが上記課題について鋭意検討したところ、トリメタリン酸塩、無水アジピン酸、無水リン酸、オキシ塩化リン、アクロレイン、エピクロロヒドリン、グリオキザール、メラミンからなる群より選択される1以上の架橋剤をキャリア部に配合しておくことで、上記課題が解決できることを見出した。
【0012】
本発明は、これに限定されるものではないが、下記の態様を包含する。
(1) 中芯紙とライナー紙を接着させるための接着剤用組成物であって、架橋剤と澱粉とをキャリア部として含み、架橋剤が、トリメタリン酸塩、無水アジピン酸、無水リン酸、オキシ塩化リン、アクロレイン、エピクロロヒドリン、グリオキザールおよびメラミンからなる群より選択される1以上である、上記接着剤用組成物。
(2) ステインホール方式で用いられる、(1)に記載の接着剤用組成物。
(3) キャリア部の澱粉100質量部に対して0.1〜20質量部の架橋剤を含む、(1)または(2)に記載の接着剤用組成物。
(4) 前記架橋剤が、トリメタリン酸塩、無水アジピン酸およびオキシ塩化リンからなる群より選択される1以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載の接着剤用組成物。
(5) 1.0〜3.0という倍水率で使用される、(1)〜(4)のいずれかに記載の接着剤用組成物。
(6) ホウ素化合物と澱粉とをメイン部として含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤用組成物。
(7) キャリア部の澱粉とメイン部の澱粉の合計に対するキャリア部の澱粉の重量割合が50質量%以下である、(6)に記載の接着剤用組成物。
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の接着剤用組成物から接着剤を調製する工程と、調製した接着剤を中芯紙に塗布する工程と、接着剤が塗布された中芯紙とライナー紙を貼合する工程と、を含む、段ボールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、経時的な粘度上昇が少なく、十分な接着強度を有した段ボール用接着剤を得ることができる。本発明の接着剤用組成物は、粘度の安定性に優れるとともに、少ない熱量で高い接着性が得られるため、低温貼合での段ボール製造に特に好適である。
【0014】
また、本発明に係る接着剤用組成物を製糊して得られる接着剤は、製糊後一週間程度が経過しても粘度の変化が小さく、極めてハンドリング性に優れている。一般に、従来の澱粉系接着剤は、製糊後1〜2日後に糊の粘度が大きく上昇してしまうため、安定して段ボール製造に使用することが難しかったところ、本発明に係る特定の架橋剤を澱粉とともにキャリア部に使用すると、製糊後の粘度安定性に優れ、しかも十分な接着強度を有する段ボール用接着剤を得ることができる。好ましい態様において、本発明によって得られる接着剤は、保水性にも優れる。
【0015】
本発明によって優れた段ボール用接着剤が得られる理由については、その詳細は明らかでなく、本発明は下記の推論に拘束されるものではないが、特定の架橋剤とキャリア部の澱粉が製糊時に架橋反応することによって、製糊後の粘度変化が少なく、粘度の安定性に優れた接着剤が得られるものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実験1で調製した糊液の経時的な粘度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、段ボール製造用の接着剤に関する。特に本発明は、段ボールの中芯紙とライナー紙とを貼り合わせる際の接着剤に関し、本発明によって得られる接着剤は、粘度安定性に優れ、また、十分な接着力を備えたものである。
【0018】
本明細書において段ボールの製造に用いられる澱粉系接着剤とは、澱粉を含んでなる接着剤であって、接着剤を加熱することで澱粉の持つ吸水・膨潤・糊化の各物性を利用して接着機能を発現させ、中芯紙とライナー紙を接着させるものである。
【0019】
本発明に基づいて段ボール用接着剤を調製する場合、いわゆるステインホール方式を採用することが好ましく、ツータンクのステインホール方式であってもワンタンクのステインホール方式であってもよい。本発明の一つの態様において、例えば、ステインホール方式で糊液を調製する場合、アルカリ物質などを用いてキャリア部の澱粉を糊化してキャリア部を調製し、そのキャリア部にメイン部の成分を添加して糊液を調製することが可能である。ツータンクのステインホール方式では、1つのタンク(キャリアタンク)でキャリア部を調製し、そのキャリア部を別のタンク(メインタンク)においてメイン部と混合して糊液を製造することができる。ワンタンクのステインホール方式では、キャリア部を調製してから、そこにメイン部を添加して糊液を製造するため、1つのタンクで糊液を調製することができる。また別の態様において、プレミックス方式によって本発明に係る段ボール用接着剤を調製することもできる。プレミックス方式では、キャリア部の澱粉、メイン部の澱粉、ホウ砂があらかじめ1つのバックに入っており、1つのタンクで糊液を製造できるため、製糊における作業性が良好である。
【0020】
本発明の接着剤用組成物において、キャリア部に使用する澱粉は特に制限されず、種々の原料に由来する澱粉を使用することができる。好ましい態様において、例えば、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ(ワキシー種のコーンスターチ)、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉などを単独あるいは混合したものを使用することができる。また、酸化、酸処理、エステル化、エーテル化、α化など、を施した化工澱粉、あるいは、これらの化工処理を複数組み合わせた化工澱粉も、制限なく本発明に使用することができる。さらに、本発明の接着剤用組成物に使用する澱粉に関して、キャリア部の澱粉とメイン部の澱粉の合計に対するキャリア部の澱粉の重量割合は50質量%以下が好ましく、1〜45質量%がより好ましく、3〜40質量%がさらに好ましく、5〜35質量%がよりさらに好ましい。
【0021】
本発明の接着剤用組成物は、澱粉に加えて特定の架橋剤をキャリア部に含んでなる。具体的には、本発明の接着剤用組成物は、トリメタリン酸塩、無水アジピン酸、無水リン酸、オキシ塩化リン、アクロレイン、エピクロロヒドリン、グリオキザール、メラミンからなる群より選択される1以上の架橋剤をキャリア部に含み、好ましい態様において、架橋剤としてトリメタリン酸塩および/または無水アジピン酸および/またオキシ塩化リンをキャリア部に含む。これらの架橋剤を澱粉とともに接着剤用組成物のキャリア部に配合すると、その組成物から調製した糊液は経時安定性に優れた接着剤となる。
【0022】
本発明の接着剤用組成物においては、キャリア部の澱粉100質量部に対して0.1〜20質量部の架橋剤をキャリア部に配合することが好ましいが、架橋剤の配合量は2〜15質量部がより好ましく、3〜12質量部がさらに好ましく、4〜10質量部がよりさらに好ましい。
【0023】
本発明の接着剤用組成物には、アルカリ物質(水に溶解して塩基性を示す物質)を配合してもよい。アルカリ物質としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物などを好適に使用でき、具体的には、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウムなどの、段ボール用澱粉系接着剤に従来使われてきたものを制限なく使用できる。本発明の接着剤の苛性率は、適性糊化温度を得るために製糊条件に合わせて決めればよい。一般的には、アルカリの添加量は苛性率として、0.3〜1.2%の範囲が好ましい。また、接着剤を調製する場合、アルカリ条件で製糊すると架橋剤による架橋反応が効率よく進行するため好ましい。具体的には、pHを9以上にすることが好ましく、pHを10.5以上や12以上とすることがより好ましい。
【0024】
本発明の段ボール用接着剤用組成物には、ホウ素化合物を配合してもよい。例えば、ホウ砂やホウ酸などのホウ素化合物をメイン部に配合することによって、接着剤の初期接着力をより迅速に発現させることができるため、段ボール生産時の貼合スピードを上げることが容易になる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸、メタホウ酸ナトリウムなどを挙げることができる。本発明においては、ホウ素化合物を使用しなくてもよいが、使用する場合は、ホウ砂換算量として、メイン部の澱粉に対して3.0質量%以下で使用することが好ましく、2.5質量%以下、2.0質量%以下の量で使用してもよい。ホウ素化合物の使用量の下限は特にないが、例えば、ホウ砂換算量として、メイン部の澱粉に対して0.5質量%以上、1.0質量%以上、または、1.5質量%以上としてもよい。
【0025】
本発明の接着剤用組成物は、種々の澱粉をメイン部に使用することができる。メイン部に使用する澱粉は特に制限されず、種々の原料に由来する澱粉を使用することができる。好ましい態様において、例えば、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ(ワキシー種のコーンスターチ)、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉などを単独あるいは混合したものを使用することができる。また、酸化、酸処理、エステル化、エーテル化、α化、あるいは、これらの化工処理を複数組み合わせた化工澱粉などを施した化工澱粉も、制限なく使用することができる。
【0026】
本発明の接着剤用組成物には、アルデヒド基を持つ化合物や珪酸ナトリウムを配合してもよい。アルデヒド基を持つ化合物としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グルタルアルデヒド等が使用できる。アルデヒド基を持つ化合物の添加率は、使用澱粉量に対し、通常0.1〜5質量%、好ましくは0.3〜2質量%である。珪酸ナトリウムとしては、例えば、SiO/NaOのモル比が0.5〜4の珪酸ナトリウムが好適に使用できる。珪酸ナトリウムの添加率は、使用澱粉量に対して、0.5〜20質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0027】
本発明の好ましい態様において、低温貼合や低倍水率であっても粘度安定性や接着性に優れる接着剤が得られる。ここでいう「低温貼合」とは、段ボールの中芯紙とライナー紙を接着するコルゲーターから得られる熱量が低減される状況の貼合を意味する。本発明に係る接着剤によれば、十分な接着強度を有する段ボールを高速で製造することが可能であり、例えば、貼合温度を100〜170℃とすることができ、110〜160℃とすることが好ましく、120〜150℃としてもよい。また、本発明において「倍水率」とは、澱粉系接着剤における(全水量/全澱粉量)の質量比を意味し、「低倍水率」とは、(全水量/全澱粉量)の質量比が低いことを意味する。本発明の接着剤用組成物から接着剤を調製する場合、倍水率は、例えば、1.0〜4.5とすることができ、好ましくは1.1〜3.5、より好ましくは1.2〜3.0、さらに好ましくは1.3〜2.5であり、1.4〜2.0としてもよい。倍水率が低すぎると澱粉が糊化するために十分な水分が欠如して接着不良が発生しやすい一方、倍水率が高すぎると接着剤中の余剰水分が増加し、低温貼合での段ボール製造に適さない場合がある。上述のとおり、本発明によれば、粘度安定性に優れた段ボール用接着剤を得ることができる。
【0028】
本発明の段ボール用接着剤用組成物には、ホウ素化合物、アルカリ物質、珪酸ナトリウム、アルデヒド基を持つ化合物などを適宜配合してもよいが、これらの成分を本発明の接着剤用組成物にあらかじめ配合することはせず、例えば、糊液の調製時に、これらの成分を添加して製糊することもできる。
【0029】
本発明の接着剤用組成物から調製された糊液は経時的な粘度変化が少ないため、取扱いが容易である。好ましい態様において、本発明の接着剤用組成物から調製された糊液は、製糊から8日以内に使用する。一つの例示的な態様において、糊液は製糊後3日以内(72時間以内)に使用されるが、もちろん、製糊後24時間以内、製糊後10時間以内、製糊後5時間以内、製糊後3時間以内で使用しても構わない。
【0030】
本発明の接着剤用組成物から接着剤を調製する場合、例えば、糊化温度は35〜70℃が好ましく、40〜65℃がより好ましく、45〜60℃がさらに好ましい。糊化温度が低すぎると、本発明の接着剤用組成物の特定の架橋剤での架橋反応では粘度を安定させることが困難となり、一方、糊化温度が高すぎると、特に低温貼合において澱粉が糊化するだけの熱量が不足して十分な接着力を発揮できない場合がある。ここでいう、「糊化温度」とは、接着剤中の未糊化のメイン澱粉が、糊化を開始し、接着力を発揮し始める温度のことである。
【0031】
ある観点からは、本発明は、段ボールの製造技術に関する。すなわち、本発明は、上述の接着剤用組成物から接着剤を調製する工程と、得られた接着剤を中芯紙に塗布する工程と、接着剤が塗布された中芯紙とライナー紙を貼合する工程と、を含む、段ボールの製造方法であると理解することができる。
【0032】
本発明の段ボールは、本発明の接着剤用組成物を用いて製造されるものであり、波形に成形された中芯紙と、中芯紙の片面又は両面に貼合されるライナー紙とから少なくとも構成され、中芯紙とライナー紙の貼合に、本発明に係る接着剤用組成物が用いられる。
【0033】
段ボールの製造においては、通常使用されるコルゲーターを用いることが可能である。すなわち、本発明の段ボールは、例えば、糊ロール及び糊ロールに澱粉系接着剤を付着させる手段を少なくとも有するコルゲーターを用い、波形に成形された中芯紙の頂縁と糊ロールとを当接させて頂縁に糊液を塗布する工程と、中芯の、澱粉系接着剤が塗布された両面にライナーを貼り合わせる工程と、を含むことができる。
【0034】
また別の観点からは、本発明は、上述の接着剤用組成物から調製された接着剤によって中芯紙とライナー紙が貼合されている段ボールに関する。本発明の段ボールは、中芯紙とライナー紙の貼合に本発明に係る接着剤用組成物から得られた糊液を用いるものであれば特に制限はなく、片面段ボール、両面段ボール、複両面段ボール、複複両面段ボールのいずれであってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の具体的な実験例を挙げながら本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は下記の実験例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、「%」などの濃度は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0036】
実験1:段ボール用接着剤の製造と評価
種々の接着剤用組成物から、ステインホール方式(ワンタンク)によって糊(接着剤)を調製し、調製した糊を用いて段ボールを製造した。
【0037】
(糊液の調製)
下表(キャリア部)に示す量で、架橋剤と酸化澱粉(敷島スターチ社製、コーン)を40℃の水に分散してスラリーとした後、水酸化ナトリウム水溶液50ml(水酸化ナトリウム:17g)を撹拌しながら加え、さらに40℃で20分間撹拌して糊化し、キャリア部を調製した(pH:約13)。
【0038】
次に、このキャリア部に、下表(メイン部)に示す量で、40℃の水、コーンスターチ(敷島スターチ製)、ホウ砂を添加し、さらに20分間、加温しながら撹拌して糊液を得た(糊液の仕上がり時の糊化温度:約53℃)。
【0039】
(製糊後の糊液粘度の測定)
全国段ボール工業組合連合会のフォードカップ法に基づいて、製糊直後から製糊7日後までの糊液のフォードカップ粘度(FCV)を測定した。下表に40℃における流出時間(秒)を示す。
【0040】
(段ボールの製造と接着強度の測定)
上記のように調製した糊液(接着剤)をガラス板に0.1mmの厚みで塗布した後、50mm(段と平行方向)×85mm(段と直角方向)の大きさのAフルート片段ボール(Kライナー、280g/m)の試験片(5cm×10cm、10段)と強化中芯(180g/m)の片段ボール片を押し付け、中芯の段頂に接着剤を転移させた。これに、同じ寸法のKライナー(280g/m)を140℃に加熱した鉄板に乗せ、7秒間、2.2kgの荷重をかけて圧着して、段ボールを製造した。糊液は、製糊後1時間以内に使用した。
【0041】
次いで、リングクラッシャー試験機(日本TMC社製)を用いて段ボールの接着強度を測定した。接着強度は、試験片のすべての段がライナーから剥がれるのにかかった重量(kg)として測定した。
【0042】
【表1】
【0043】
表から明らかなように、本発明に基づいて調製されたサンプル(実験1−1〜1−9)は、キャリア部に架橋剤を使用しないサンプル(実験1−10)と比較して、2倍程度も接着強度が大きくなっていた。
【0044】
また、製糊直後から7日後までの粘度変化を追跡したところ、本発明に基づいて調製された接着剤は、粘度が経時的に大きく変化することはなく、実用上、極めて取り扱いやすいものであった。一方、キャリア部に架橋剤を使用しないと、製糊3日後以降は、粘度があまりにも高く、フォードカップ法で使用するフォードカップが詰まってしまい粘度が測定不能であった(実験1−10)。
【0045】
実験2:澱粉の由来
下記の澱粉(未糊化)をキャリア部に用いた以外は、実験1と同様にしてステインホール方式(ワンタンク)によって糊を調製し、段ボールを製造した。
・コーンスターチ(敷島スターチ社製)
・タピオカ澱粉(敷島スターチ社製)
・小麦澱粉(敷島スターチ社製)
・ハイアミロースコーンスターチ(敷島スターチ社製)
下表から明らかなように、本発明に基づいて調製されたサンプル(実験2−1〜2−4)は、キャリア部に架橋剤を使用しないサンプル(実験2−5〜2−8)と比較して、2倍程度も接着強度が大きくなっていた。
【0046】
また、製糊直後から7日後までの粘度変化を追跡したところ、本発明に基づいて調製された接着剤は、粘度が経時的に大きく変化することはなく、実用上、極めて取り扱いやすいものであった。一方、キャリア部に架橋剤を使用しないと接着剤の粘度が経時的に大きく変化し、特に、実験2−5〜2−7では、製糊3日後以降は、粘度があまりにも高く、フォードカップ法で使用するフォードカップが詰まってしまい粘度が測定不能であった。なお、キャリア部の澱粉としてハイアミローススターチを使用すると、糊液粘度の経時的な上昇がやや抑えられていた(実験2−8)。
【0047】
【表2】
【0048】
実験3:化工澱粉
キャリア部に用いる澱粉を下記の化工澱粉(未糊化のコーンスターチ由来)に変更した以外は、実験1と同様にしてステインホール方式(ワンタンク)によって糊を調製し、段ボールを製造した。
・酸化澱粉(敷島スターチ社製、実験1と同じ)
・酸処理澱粉(敷島スターチ社製)
・エステル化澱粉(敷島スターチ社製)
・エーテル化澱粉(敷島スターチ社製)
・架橋化澱粉(敷島スターチ社製)
下表から明らかなように、本発明に基づいて調製されたサンプル(実験3−1〜3−5)は、キャリア部に架橋剤を使用しないサンプル(実験3−6〜3−10)と比較して、2倍程度も接着強度が大きくなっていた。
【0049】
また、製糊直後から7日後までの粘度変化を追跡したところ、本発明に基づいて調製された接着剤は、粘度が経時的に大きく変化することはなく、実用上、極めて取り扱いやすいものであった。一方、架橋剤を使用しないと、製糊3日後以降は、粘度があまりにも高く、フォードカップ法で使用するフォードカップが詰まってしまい粘度が測定不能であった。なお、実験3−6(キャリア部の澱粉:酸化澱粉)と実験3−10(キャリア部の澱粉:架橋化澱粉)を比較すると、架橋化澱粉を使用した場合に粘度の上昇度合が少し抑えられていた。
【0050】
【表3】
【0051】
実験4:糊化温度
キャリア部に用いる水酸化ナトリウムの量と糊液調製時の糊化温度を変更した以外は、実験1と同様にしてステインホール方式(ワンタンク)によって糊を調製し、段ボールを製造した。本実験では、17〜26gの水酸化ナトリウムを50mlの水に溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を使用した。
【0052】
下表から明らかなように、本発明に基づいて調製されたサンプル(実験4−1〜4−4)は、キャリア部に架橋剤を使用しないサンプル(実験4−5〜4−8)と比較して、2倍程度も接着強度が大きくなっていた。
【0053】
また、製糊直後から7日後までの粘度変化を追跡したところ、本発明に基づいて調製された接着剤は、粘度が経時的に大きく変化することはなく、実用上、極めて取り扱いやすいものであった。一方、架橋剤を使用しないと接着剤の粘度が経時的に大きく変化し、実験4−5や実験4−6では製糊3日後以降、実験4−7や実験4−8では製糊2日後以降、粘度があまりにも高く、フォードカップ法で使用するフォードカップが詰まってしまい粘度が測定不能であった。
【0054】
【表4】
【0055】
実験5:倍水率
倍水率を変更した以外は、実験1と同様にして糊を調製し、段ボールを製造した。
下表から明らかなように、本発明に基づいて調製されたサンプル(実験5−1〜5−4)は、キャリア部に架橋剤を使用しないサンプル(実験5−5〜5−8)と比較して、2倍程度も接着強度が大きくなっていた。また、水分含量が少なくなるにつれて(倍水率が低くなるにつれて)、接着強度が高くなる傾向があった。
【0056】
また、製糊直後から7日後までの粘度変化を追跡したところ、本発明に基づいて調製された接着剤は、粘度が経時的に大きく変化することはなく、実用上、極めて取り扱いやすいものであった。一方、架橋剤を使用しないと接着剤の粘度が経時的に大きく変化し、製糊3日後以降は、粘度があまりにも高く、フォードカップ法で使用するフォードカップが詰まってしまい粘度が測定不能であった。
【0057】
【表5】
図1