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特開2019-166098放射線治療装置及びベッド位置決め装置並びにベッドの位置決め方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-166098(P2019-166098A)
(43)【公開日】2019年10月3日
(54)【発明の名称】放射線治療装置及びベッド位置決め装置並びにベッドの位置決め方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20190906BHJP
【FI】
   A61N5/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-56379(P2018-56379)
(22)【出願日】2018年3月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 低侵襲がん診療装置研究開発プロジェクト」「微粒子腫瘍マーカとリアルタイム3次元透視を融合した次世代高精度粒子線治療技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 真澄
(72)【発明者】
【氏名】藤本 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】梅川 徹
(72)【発明者】
【氏名】白土 博樹
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 菊男
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】八木 雅史
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC05
4C082AE01
4C082AJ05
4C082AJ16
4C082AL06
(57)【要約】
【課題】透視装置と照射野形成装置などの他の構造物との干渉の問題やスペースの問題を従来に比べて解決する。
【解決手段】透視画像の取得時は位置が固定される複数のX線透視装置と、傾斜角度を変更可能に構成されたベッド33を用いて、ベッド33の傾斜角度を順次変更しながら、ベッド33の傾斜角度毎に複数のX線透視装置により複数のX線透視画像を取得する。これら取得した複数のX線透視画像からCT画像を再構成し、基準CT画像と一致するようにベッド33の移動方向と移動量を算出し、その移動方向と移動量に基づいてベッド33を移動させる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向からの傾斜と水平面内での回転のうち少なくともいずれか一方が可能に構成されたベッドと、
前記ベッド上の撮像対象の透視画像を取得する放射線透視装置であって、前記透視画像の取得中はその位置が固定される、複数設けられた放射線透視装置と、
前記放射線透視装置によって取得した透視画像に基づいて前記ベッドの位置を移動させる機能を有する位置決め制御装置と、を備え、
前記位置決め制御装置は、複数のベッド傾斜角度で透視画像を取得し、得られた複数の透視画像に基づいて前記ベッドの位置を移動させる制御を実行する
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線治療装置において、
前記放射線透視装置は、前記透視画像をX線によって取得する透視装置である
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線治療装置において、
前記放射線透視装置は、前記透視画像を粒子線によって取得する透視装置である
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線治療装置において、
前記位置決め制御装置は、前記透視画像から再構成した断層画像を用いて前記ベッドの移動量を算出する
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項5】
請求項1に記載の放射線治療装置において、
前記位置決め制御装置は、複数のベッド傾斜角度の中に放射線を照射する角度と一致する角度がある場合は、放射線を照射する角度と一致する角度での透視画像の取得を最後に行うよう前記ベッドの傾斜角度を制御する
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項6】
請求項1に記載の放射線治療装置において、
前記位置決め制御装置は、前記複数のベッド傾斜角度の入力画面を表示装置に表示させる
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項7】
水平方向からの傾斜と水平面内での回転のうち少なくともいずれか一方が可能に構成された、放射線の照射対象を静置するためのベッドの位置決めを行うためのベッド位置決め装置であって、
前記ベッド上の撮像対象の透視画像を取得する放射線透視装置であって、前記透視画像の取得中はその位置が固定される、複数設けられた放射線透視装置と、
前記放射線透視装置によって取得した透視画像に基づいて前記ベッドの位置を移動させる機能を有する位置決め制御装置と、を備え、
前記位置決め制御装置は、複数のベッド傾斜角度で透視画像を取得し、得られた複数の透視画像に基づいて前記ベッドの位置を移動させる制御を実行する
ことを特徴とするベッド位置決め装置。
【請求項8】
水平方向からの傾斜と水平面内での回転のうち少なくともいずれか一方が可能に構成されたベッド上に静置された撮像対象に対して、少なくとも透視画像取得中はその位置を固定した複数の放射線透視装置を用いて、複数のベッド傾斜角度で透視画像を取得する取得工程と、
前記取得工程によって得られた透視画像に基づいて前記ベッドの位置を移動させる移動工程と、を有する
ことを特徴とするベッドの位置決め方法。
【請求項9】
請求項8に記載のベッドの位置決め方法において、
前記取得工程では、前記放射線透視装置として前記透視画像をX線によって取得する透視装置を用いる
ことを特徴とするベッドの位置決め方法。
【請求項10】
請求項8に記載のベッドの位置決め方法において、
前記取得工程では、前記放射線透視装置として前記透視画像を粒子線によって取得する透視装置を用いる
ことを特徴とするベッドの位置決め方法。
【請求項11】
請求項8に記載のベッドの位置決め方法において、
前記移動工程では、前記取得工程で取得した透視画像から再構成した断層画像を用いて前記ベッドの移動量を算出する
ことを特徴とするベッドの位置決め方法。
【請求項12】
請求項8に記載のベッドの位置決め方法において、
前記移動工程では、複数のベッド傾斜角度の中に放射線を照射する角度と一致する角度がある場合は、放射線を照射する角度と一致する角度での透視画像の取得を最後に行うよう前記ベッドの傾斜角度を制御する
ことを特徴とするベッドの位置決め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いる治療装置及び患者ベッドの位置決め方法に係り、特に、陽子線や炭素線等の粒子線またはX線を患部に照射する放射線治療装置、及びそれに好適なベッド位置決め装置並びにベッドの位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベッドの位置決めに要する時間を短縮できる、イオンビームを用いる治療装置を提供することを目的として、特許文献1には、イオンビームを用いる治療装置は、X線管を備えたイオンビーム照射装置を設置した回転ガントリーを有し、複数のX線検出器を有するX線検出装置が、回転ガントリーの回転軸方向に移動可能に設置され、患者が載ったベッドが、照射装置のイオンビーム経路の延長線上に患部がほぼ位置するまで、移動され、X線管がイオンビーム経路に位置され、X線検出装置がその延長線上に位置され、回転ガントリーの回転に伴って、X線を放出するX線管及びX線検出装置が患者の周囲を旋回し、そのX線は、患者に照射され、患者を透過し、X線検出器で検出され、X線検出器から出力された信号に基づいて患者の断層像情報が作成され、この断層像情報を用いてベッドの位置決め情報が作成される、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4130680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
癌などの患者の患部に照射目標中心を設定して、陽子線や炭素線等の粒子線またはX線を照射する治療方法が知られている。この治療のうち、粒子線治療に用いる粒子線治療装置は、加速器及びビーム輸送系からなるビーム発生装置、照射野形成装置、及びX線透視装置と患者ベッドからなる位置決め装置を備えている。加速器で加速された粒子線は、ビーム輸送系を経て照射野形成装置に達し、この照射野形成装置によってモニタされかつ患者の患部の形に合うよう整形される。
【0005】
陽子線や炭素線等の粒子線は、停止する直前にエネルギーの大部分を放出する特性を有しており、その結果得られる線量分布の形はブラッグピークと呼ばれている。粒子線治療装置は、この特性を利用し、粒子線のエネルギーを選択することで粒子線を照射目標で停止させてエネルギーの大部分を患部に放出する。
【0006】
このような粒子線治療では、粒子線の照射位置や照射量を決定するために、予めX線CT装置で患者のCT画像(基準CT画像)を撮像する。この基準CT画像上で患部の位置を確認し、粒子線照射時の患者の配置を決定する。
【0007】
粒子線を照射する前に、線量が患部で最大となりかつ正常な組織を傷つけないように、照射野形成装置に対して患部が正しく配置されなければならない。このため、位置決め装置によって患者ベッドの位置決めを行う。その位置決め装置を用いて照射野形成装置に対する患者の位置決めを確実に行うために、主にX線透視画像による照合を実施する。
【0008】
ベッドに横たわった患者の両側には、X線発生器とX線受像機が配置されており、粒子線の照射に先立って、X線受像機は、患者のX線透視画像を生成する。この生成したX線透視画像と予め撮像した基準CT画像から計算される基準画像とが一致するような患者ベッドの照射野形成装置に対する移動方向及び移動距離を求めている。その後、求めた位置決め方向及び移動距離に基づいて患者ベッドの位置決め制御を行い、患者を位置決めする。
【0009】
上述の特許文献1では、患者の周りを照射野形成装置と共に回転するX線透視装置を用いて複数角度のX線透視画像を取得し、取得した画像から再構成されるCT画像(照射時CT画像)と基準CT画像とが一致するようにベッドの移動方向と移動量を算出し、患者を位置決めしている。
【0010】
ここで、照射時CT画像を再構成するためには、患者を中心として少なくとも180度分の方向からのX線透視画像が必要であり、特許文献1では照射野形成装置とX線透視装置が共に患者の周りを回転することにより、複数角度からのX線透視画像を取得している。
【0011】
また、治療装置では、特許文献1に記載されているように照射野形成装置が患者の周りを回転できる機構を備えたもの以外にも、照射野形成装置が固定されており、1台または2台の照射野形成装置でひとつまたはふたつの方向からのみ粒子線を照射する装置もある。このような装置においては、X線発生装置とX線受像機がC型の両端に配置された構造物を患者の周りで回転させることでCT画像を取得することができる。
【0012】
しかし、透視画像を取得する透視装置や、透視装置を移動させる構造物を備える場合、透視装置や構造物と照射野形成装置などの他の装置との干渉のおそれがあり、配置することが困難な場合がある。また、治療時には退避させる必要があるため、退避する場所を確保する必要があり、スペースの問題が生じる。
【0013】
本発明の目的は、透視装置と照射野形成装置などの他の構造物との干渉の問題やスペースの問題を従来に比べて解決することができる放射線治療装置及びベッド位置決め装置並びにベッドの位置決め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、水平方向からの傾斜と水平面内での回転のうち少なくともいずれか一方が可能に構成されたベッドと、前記ベッド上の撮像対象の透視画像を取得する放射線透視装置であって、前記透視画像の取得中はその位置が固定される、複数設けられた放射線透視装置と、前記放射線透視装置によって取得した透視画像に基づいて前記ベッドの位置を移動させる機能を有する位置決め制御装置と、を備え、前記位置決め制御装置は、複数のベッド傾斜角度で透視画像を取得し、得られた複数の透視画像に基づいて前記ベッドの位置を移動させる制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透視装置と照射野形成装置などの他の構造物との干渉の問題やスペースの問題を従来に比べて解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例における粒子線治療装置の全体構成を示す図である。
図2】本実施例の粒子線治療装置において、治療室内に配置される装置の概略構成を示す図である。
図3】本実施例の粒子線治療装置において、コンソールに表示されるベッドの傾斜角度の入力画面の一例を示す図である。
図4】本実施例の粒子線治療装置による粒子線照射を実施するフロー図である。
図5】本実施例の粒子線治療装置におけるベッド位置決めを実施するフロー図である。
図6】本発明の他の実施例である、粒子線による透視画像を用いて位置決めを実施する粒子線治療装置の治療室内に配置される装置の概略を示す図である。
図7】本発明の他の実施例である、X線治療装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の放射線治療装置及びベッド位置決め装置並びにベッドの位置決め方法の実施例を、図1乃至図7を用いて説明する。本実施例では、放射線治療装置の一種として粒子線治療装置を例に説明するが、後述するように、X線治療装置に対しても本発明を適用することで同様の効果が得られる。
【0018】
最初に、粒子線治療装置やベッド位置決め装置の概要について図1を用いて説明する。図1は、粒子線治療装置の全体構成を示す図である。
【0019】
図1において、粒子線治療装置は、荷電粒子ビーム発生装置11、高エネルギービーム輸送系20、照射野形成装置31A,31B、ベッド位置決め装置、中央制御装置312、メモリ313、照射制御装置314、コンソール(表示装置)315を備えている。
【0020】
このうち、ベッド位置決め装置は、ベッド33、ベッド駆動装置34、X線発生器35A,35B,35C,35D、X線受像機36A,36B,36C,36D、位置決め制御装置311から構成される。また、粒子線治療装置は、中央制御装置312を介して治療計画装置501に接続している。
【0021】
荷電粒子ビーム発生装置11は、イオン源12、前段加速器13、粒子ビーム加速装置14から構成される。本実施例は、粒子ビーム加速装置14としてシンクロトロン型の粒子ビーム加速装置を想定したものだが、粒子ビーム加速装置14としてサイクロトロン等、他の公知の粒子ビーム加速装置を用いることができる。シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置14は、図1に示すように、その周回軌道上に偏向電磁石15、加速装置16、出射用の高周波印加装置17、出射用デフレクタ18、および四極電磁石(図示省略)を備える。
【0022】
図1を用いて、粒子線が、シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置14を利用した荷電粒子ビーム発生装置11から発生し、患者40へ向けて出射されるまでの経過を説明する。
【0023】
最初に、イオン源12より供給された粒子は、前段加速器13にて加速され、ビーム加速装置であるシンクロトロンへと送られる。シンクロトロンには加速装置16が設置されており、シンクロトロン内を周回する粒子線が加速装置16を通過する周期に同期させて加速装置16に設けられた高周波加速空胴(図示省略)に高周波を印加し、粒子線を加速する。このようにして粒子線が所定のエネルギーに達するまで加速される。
【0024】
所定のエネルギー(陽子線の場合、例えば70〜250MeV)まで粒子線が加速された後、中央制御装置312より、照射制御装置314を介して出射開始信号が出力されると、高周波印加装置17に設置された高周波印加電極により、高周波電源19からの高周波電力がシンクロトロン内を周回している粒子ビームに印加され、粒子ビームがシンクロトロンから出射される。
【0025】
高エネルギービーム輸送系20は、シンクロトロンと照射野形成装置31A,31Bとを連絡している。シンクロトロンから取り出された粒子ビームは、高エネルギービーム輸送系20を介して治療室30内に設置された照射野形成装置31A,31Bまで導かれる。照射野形成装置はひとつまたは複数備えることができる。本実施例では2つ備えている。本実施例のように2つ備えている場合やそれ以上備えている場合には、高エネルギービーム輸送系20の分岐位置に配置された偏向電磁石21の励磁量を変更することで、粒子線を輸送する照射野形成装置31A,31Bを選択することができる。
【0026】
照射野形成装置31A,31Bは、最終的に患者40へ照射する粒子線の形状を整形する装置であり、その構造は照射方式により異なる。散乱体法とスキャニング法が、代表的な照射方式であり、本発明はどちらの照射方式でも有効である。本実施例ではスキャニング法を用いる場合について説明する。スキャニング法は、高エネルギービーム輸送系20から輸送された細い粒子線を3次元的に走査することで、最終的に標的のみに高線量領域を形成する。
【0027】
照射野形成装置31A,31Bは、それぞれが二つの走査電磁石、線量モニタ、ビーム位置モニタを備える。線量モニタはモニタを通過した粒子線の量を計測する。一方、ビーム位置モニタは、粒子線が通過した位置を計測する。これらのモニタからの情報により、計画通りの位置に、計画通りの量の粒子線が照射されていることを、照射制御装置314が管理する。
【0028】
荷電粒子ビーム発生装置11から高エネルギービーム輸送系20を経て輸送された細い粒子線は、走査電磁石によりその進行方向が偏向される。これらの走査電磁石は、ビーム進行方向と垂直な方向に磁力線が生じるように設けられており、二つの電磁石を利用することで、ビーム進行方向と垂直な面内において任意の位置に粒子線を移動させることができ、標的への粒子線照射が可能となる。照射制御装置314は、走査電磁石に流す電流の量を制御する。その電流量に応じた磁場が励起されることで粒子線の偏向量を自由に設定できる。
【0029】
スキャニング法のビームの走査方式は二通りある。一つは照射位置の移動と停止を繰り返す離散的な方式、もう一つは連続的に照射位置を変化させる方式である。
【0030】
離散的な方式では、まず、照射位置をある点に留めたまま、規定量の粒子線が照射される。この点のことをスポットと呼ぶ。規定量の粒子線がスポットへ照射されたら、続いて、一時的に粒子線の照射を停止させた後、次の位置へ照射できるように走査電磁石の励磁電流量が変更される。励磁電流量が変更され、次の照射位置に移動後、再び粒子線を照射させる。
【0031】
照射位置を連続的に移動させる方式は、粒子線を照射したまま照射位置を変化させる。すなわち、走査電磁石の励磁量を連続的に変化させながら、照射野内全体を通過するようにビームを照射しながら移動させる。この方法における照射位置ごとの照射量の変化は、走査速度か粒子線の強度(電流値)、あるいはその両方を変調させることで実現する。
【0032】
粒子ビームは、進行方向におけるある位置で停止し、その停止位置にエネルギーの大部分を付与する。ビームの停止する深さが標的内または標的近傍となるように粒子線のエネルギーが調整される。例えば離散的な方式の場合、調整されたエネルギーで照射するように登録されたスポットを順次照射する。スポット毎に照射する粒子線の量は予め決められており、スポット毎に決められた量の粒子線を照射する。全てのスポットの照射を完了すると、標的内の他の深さ位置を照射するために、ビームを停止させる深さが変更される。
【0033】
ビームの停止する深さを変化させるためには、患者40に照射するビームのエネルギーを変化させる。エネルギーを変化させる方法の一つは、粒子ビーム加速装置、すなわち本実施例においてはシンクロトロンの設定を変更することである。粒子線はシンクロトロンにおいて設定されたエネルギーになるまで加速されるが、この設定値を変更することで患者40に入射するエネルギーを変更することができる。この場合、シンクロトロンから取り出されるエネルギーが変化するため、高エネルギービーム輸送系20を通過する際のエネルギーも変化し、高エネルギービーム輸送系20の設定変更も必要になる。
【0034】
このように、スポット毎のエネルギー、照射位置、照射量の情報が入力されると、粒子線治療装置は、標的に向けて粒子線を照射し、線量分布を形成する。このスポット毎のエネルギー、照射位置、照射量などの情報は治療計画装置501により決定される。
【0035】
治療に先立ち、X線CT装置でCT画像(以下、基準CT画像と記載)が撮像される。治療計画装置501は、基準CT画像を用いて、粒子線が患者体内に形成する線量分布を計算し、標的が覆われるような線量分布を形成する患者40の設置位置、ベッド33の角度、照射野形成装置31A,31B、スポット毎のエネルギー、照射位置、照射量を決定する。治療室30には、アイソセンタと呼ばれる粒子線通過経路上にある治療室30に固定された基準位置がある。この基準位置に一致させるべき体内の位置を指定することで、患者40の設置位置を指定する。また、用いる照射野形成装置がひとつの場合は一意に決まるが、上方向と水平方向の二つの方向から粒子線が照射されるようにふたつの照射野形成装置31A,31Bを備えた本実施例のような治療室30の場合は、粒子線を照射する照射野形成装置31A,31Bを選択する。
【0036】
治療計画装置501は決定したこれらの情報を中央制御装置312に送信する。中央制御装置312は、受信した情報をメモリ313に記録する。
【0037】
図2を用いて治療室30の構成の詳細を説明する。図2では、患者40を足元側から見た場合を示している。
【0038】
図2に示すように、本実施例の治療室30は、ふたつの照射野形成装置31A,31Bとベッド33とベッド駆動装置34と4台のX線透視装置を備える。
【0039】
このうち、放射線透視装置は、X線発生器35AとX線受像機36Aの1対、X線発生器35BとX線受像機36Bの1対、X線発生器35CとX線受像機36Cの1対、X線発生器35DとX線受像機36Dの1対、計4つのX線発生器とX線受像機の対で構成され、透視画像をX線によって取得する透視装置である。
【0040】
ベッド33は、撮像対象であり、かつ粒子線の照射対象である標的がその内部にある患者40を静置するための天板からなる。ベッド33は、x軸およびy軸を中心に回転することで、水平方向からの傾斜を可能としているとともに、z軸を中心に回転することで、水平面内での回転を可能としている。
【0041】
ベッド駆動装置34は、ベッド33上に静置された患者40を、直交するxyz方向の3軸のそれぞれ方向への移動と、x軸、y軸、z軸のそれぞれの軸を中心にした回転移動とが可能に構成された装置であり、例えば多関節のロボットアームである。ベッド駆動装置34はベッド33と連結されており、位置決め制御装置311が指定した位置と角度へベッド33を移動させることができる。
【0042】
照射野形成装置31Aはベッド33上の患者40に対して垂直方向から粒子線を照射することができ、照射野形成装置31Bはベッド33上の患者40に対して水平方向から粒子線を照射することができる位置に配置されている。
【0043】
ベッド33上の患者40に対して垂直方向に撮像するX線透視装置(X線発生器35AとX線受像機36Aの対)および水平方向に撮像するX線透視装置(X線発生器35BとX線受像機36Bの対)のうち、X線受像機36A,36Bは、その位置が粒子線の照射経路と重なる。このため、X線透視画像の取得中はその位置が固定されるが、粒子線の照射時には粒子線の経路から退避できるように構成・制御される駆動機構(図示省略)を備えている。X線発生器35A,35Bは、治療室30の壁や床等に固定されている。2台のX線透視装置は、患者の正面と側方からの透視画像を撮像することができる。このような正面と側方からの透視画像は、粒子線治療装置を操作する医師などのオペレータにとってなじみのある画像である。
【0044】
他の2台のX線透視装置(X線発生器35CとX線受像機36Cの対、およびX線発生器35DとX線受像機36Dの対)は、患者40に対して45度の角度に配置される。この2台のX線透視装置は、照射野形成装置31A,31Bによって照射される粒子線の照射経路上には配置されていない。そのため、粒子線を照射している最中もX線透視画像を取得することができるようになっている。このため、これらの2対のX線透視装置は、粒子線の照射中にX線透視画像を取得することで、標的が動くような場合にもその位置を計測する、いわゆる動体追跡用に好適なX線透視装置である。このようなX線透視装置を用いて動体追跡を実施することで、計測した標的の位置が計画した位置に来た場合のみ粒子線を照射することができるため、より高精度に粒子線を標的に対して集中して照射することができる。X線発生器35C,35DやX線受像機36C,36Dは、退避の必要がないため、治療室30の壁や床等に固定されている。
【0045】
なお、本実施例では主な役割が異なる2種類の系統の2台のX線透視装置、合計4台のX線透視装置を備えることを仮定しているが、X線透視装置の台数は複数あれば何台でもよく、少なくとも2台以上であればよい。
【0046】
なお、X線透視装置の配置方法は図2に示すようなパターンに限られず、X線発生器35A,35B,35C,35DとX線受像機36A,36B,36C,36Dとの位置はそれぞれ入れ替わってもよい。その場合、粒子線の照射経路上にあるX線発生器35A,35Bが退避位置に移動するように構成する。
【0047】
図1に戻り、位置決め制御装置311は、X線透視装置によって取得したX線透視画像に基づいてベッド33の位置を移動させる機能を有している。この位置決め制御装置311は、ベッド33の傾斜角度を複数変えた状態で4台のX線透視装置によって取得されたX線透視画像に基づいてベッド33上の患者40内の標的の位置をアイソセンタに一致させるためのベッド33の移動量を算出し、ベッド駆動装置34に対して移動指令を出力する。
【0048】
例えば、位置決め制御装置311は、取得されたX線透視画像から照射時CT画像(断層画像)を再構成し、この照射時CT画像と予め取得していた基準CT画像と比較することで標的の位置をアイソセンタに一致させるためのベッド33の移動量を算出する。
【0049】
なお、この再構成には一般的な方法を用いることができるが、その際には、複数のX線透視装置の個々の個体差を考慮することが望ましい。通常、X線透視装置には設置の位置や、仕方、その仕様等に応じた個体差が含まれる。このため、取得したX線透視画像から照射時CT画像を再構成する際には、X線透視画像を取得したX線透視装置毎の個体差を考慮した上で再構成することが望ましい。
【0050】
また、位置決め制御装置311は、治療計画装置501から粒子線の照射に関する情報を取得し、複数のベッド傾斜角度の中に粒子線を照射する角度と一致する角度があると判断される場合は、粒子線を照射する角度と一致する角度でのX線透視画像の取得を最後に行うようにベッド33の傾斜角度、およびX線透視画像取得のスケジュールを制御する。
【0051】
また、位置決め制御装置311は、X線透視画像を取得する複数のベッド傾斜角度の入力画面をコンソール315に表示させ、コンソール315によって入力されたベッドの傾斜角度に基づいてベッド33を傾斜させる。図3にベッド33の傾斜角度を入力するための画面の一例を示す。
【0052】
図3において、コンソール315に表示されるベッド傾斜角度入力画面710には、個々のベッド傾斜角度入力欄712、O.Kボタン714、キャンセルボタン716が表示される。オペレータはコンソール315を操作して、個々のベッド傾斜角度入力欄712にX線透視画像を取得するベッド傾斜角度を入力し、全ての角度の入力が終了した際にはO.Kボタン714を押下する。O.Kボタン714が押下されると、ベッド傾斜角度入力欄712に入力されたベッド傾斜角度での複数のX線透視装置によるX線透視画像の取得が実行される。ベッド傾斜角度入力を終了する場合や入力をキャンセルする場合はキャンセルボタン716を押下する。
【0053】
次に、本発明のベッドの位置決め方法を含んだ粒子線照射の全体フローについて図4および図5を用いて説明する。最初に、粒子線照射の全体フローについて図4のフロー図を用いて説明する。
【0054】
図4に示すように、最初に、患者40が治療室30に入室する(ステップS101)。
【0055】
次いで、患者40がベッド33上に横になり、本発明の特徴であるベッド33の位置決めを実施する(ステップS102)。本ステップでは、メモリ313に記録された治療計画装置501が決定した情報を中央制御装置312が読み込む。位置決めに必要な情報は、中央制御装置312から位置決め制御装置311へ送信される。位置決めの詳細なフローについては図5を用いて後述する。
【0056】
次いで、粒子線を照射する照射野形成装置31A,31Bを選択する(ステップS103)。また、照射に必要なスポット毎のエネルギーや照射量などの情報を中央制御装置312から照射制御装置314に送信する。ステップS105から処理が戻った場合は、本ステップでは、粒子線を照射する照射野形成装置31A,31Bを変更する。
【0057】
次いで、中央制御装置312は、粒子ビーム発生装置と高エネルギービーム輸送系20と照射野形成装置31A,31Bを照射制御装置314と共に制御して粒子線を患者40へ向けて照射する(ステップS104)。
【0058】
次いで、中央制御装置312は、全ての照射方向での照射が完了したか否かを判定する(ステップS105)。もう一方の照射野形成装置31A,31Bから粒子線を照射する場合や、ベッド33の傾斜角度を変えて患者40の角度を変更した状態で粒子線を照射する場合は、完了していないと判定され、ステップS103に処理を戻し、照射野形成装置31A,31Bの選択と必要な場合にはベッド傾斜角度を変更し、ステップS104で粒子線を再び照射する。これに対し、完了したと判定されたときは、ステップS106に処理を遷移する。
【0059】
ステップS105において計画したすべての照射方向からの照射を完了したと判定されたときは照射を終了し、患者40はベッド33から降り治療室30から退室する(ステップS106)。
【0060】
次いで、図5のフロー図を用いて、本発明のベッド33の位置決め方法を含んだ図4のステップS102のベッド33の位置決め処理について詳細に説明する。
【0061】
図5に示すように、最初に、患者はベッド上で横になり、基準CT画像を撮像したときと同じ姿勢を再現する仮位置決めを行う(ステップS201)。この仮位置決めでは、両腕の位置や膝を曲げる角度などを、ベッド33に対して固定されたサポート具を用いて再現することが望ましい。標的の位置がアイソセンタに一致するようなおおよその位置にベッド33を移動させる。
【0062】
ベッド移動後、位置決め制御装置311は、X線透視装置(X線発生器35A,35BやX線受像機36A,36B)が粒子線の経路、すなわちX線透視位置から退避している場合には、退避しているX線発生器35A,35BやX線受像機36A,36BをX線透視画像の撮像が可能な位置に移動させ、4台全てのX線透視装置でX線透視画像を撮像する(ステップS202)。コンソール315から操作者がX線透視コマンドを入力することにより、そのコマンドを受信した位置決め制御装置311は、X線発生器35A,35B,35C,35Dを制御してX線を発生させ、X線受像機36A,36B,36C,36Dにて検出したX線透視画像を収集する。
【0063】
次いで、位置決め制御装置311は、他のベッド傾斜角度でも撮像する必要があるか否かを判定する(ステップS203)。他のベッド傾斜角度でも撮像する必要がある場合は、全ベッド角度での透視が完了していないと判定され、ステップS204に処理を遷移する。これに対し、全ベッド角度での透視が完了したと判定されたときはステップS205に処理を遷移する。
【0064】
完了していないと判定されたあとは、位置決め制御装置311は、ステップS204において、操作者がコンソール315にベッド傾斜角度を入力してコンソール315からベッド傾斜角度の変更コマンドを送信することにより、そのコマンドを受信した位置決め制御装置311がベッド駆動装置34を制御してベッド33の角度を変更する(ステップS204)。
【0065】
例えば、0度、−15度、15度のベッド33の傾斜角度でX線透視を実施すると仮定する。最初にベッド0度でのX線透視を完了したあとは、−15度、15度のベッド傾斜角度でX線透視を実施する必要があるため、ステップS204でベッド傾斜角度を−15度に設定する。ベッド傾斜角度の付け方は、患者の体軸方向と平行で、アイソセンタを通過する直線を回転軸としてベッド33を傾ける。ベッド33を傾けた後は、ステップS202において全てのX線透視装置でX線透視画像を撮像する。次に、15度のベッド傾斜角度でX線透視を実施する必要があるため、ステップS203からステップS204に処理が再度遷移し、ベッド傾斜角度を15度に設定し、ベッド33を傾ける。その後、ステップS202においてX線透視装置でX線透視画像を撮像する。以上により、3つの角度でそれぞれ4枚のX線透視画像が撮像され、合計12枚のX線透視画像が取得される。
【0066】
このステップS202〜S204の繰り返しが、水平方向からの傾斜が可能に構成されたベッド33上に静置された撮像対象に対して、少なくとも透視画像取得中はその位置を固定した複数の放射線透視装置を用いて、複数のベッド傾斜角度で透視画像を取得する取得工程に相当する。
【0067】
これらのステップS203,S204では、説明したような、ベッド傾斜角度を変更する毎に操作者がコンソール315からコマンドを入力する方法に限られず、X線透視画像取得開始前にベッド傾斜角度を図3に示すような入力画面によって予め設定しておき、X線透視画像取得コマンドを操作者がコンソール315から入力することで、順次自動で実施することができる。またそれ以外にも、コンソール315から入力することなく、装置の特性に応じて予め設定されたベッド傾斜角度に基づいて順次自動で実施してもよい。
【0068】
なお、ここでは簡単のためにベッド33の傾斜角度が3つの場合について説明したが、さらに傾斜角度を増やすことで、ステップS205において再構成する照射時CT画像の画質を向上させ、位置決め精度の更なる向上を図ることができる。
【0069】
また、X線透視画像を取得するベッド傾斜角度の順番は問わないが、複数のベッド傾斜角度の中に粒子線を照射する角度と一致する角度がある場合は、粒子線を照射する角度でのX線透視画像の取得を最後にすることが好ましい。
【0070】
また、ベッド33の傾斜角度が大きい場合には、患者40の位置が移動する可能性があるため、ベッド33の傾斜角度には制約を設けることが望ましい。
【0071】
こうして予め設定したベッド33の傾斜角度によるX線透視画像の取得が完了した後は、位置決め制御装置311は、CT画像を再構成して照射時CT画像(断層画像)を作成する(ステップS205)。再構成には、ステップS202からステップS204において取得した12枚のX線透視画像を用いる。
【0072】
再構成が完了すると、位置決め制御装置311は、再構成した照射時CT画像と基準CT画像をコンソール315に重ねて表示する。重ねて表示したふたつの画像が一致するように、ベッド33の移動量を計算する(ステップS206)。ベッド33の移動量は平行移動と回転の両方が含まれ、それぞれ3つのパラメータとして表される。すなわち、移動量は、直交するxyzの3軸のそれぞれの方向への移動量と、それぞれの軸を中心とした回転角度である。
【0073】
移動量の算出には、二つの画像の一致度を示す相関を表す値が小さくなるように移動量を表す6つのパラメータを最適化する方法がある。相関を表す値には、例えば、画素の値の分散や相互情報量などがある。また、操作者が照射時CTと基準CTの重なり方をコンソール315で確認しながら、移動量の6つのパラメータを手動で調整することもできる。
【0074】
こうして調整された移動量の6つのパラメータは位置決め制御装置311に送信される。コンソール315上で操作者がベッドの移動コマンドを入力することにより、位置決め制御装置311はベッド駆動装置34を制御してベッド33を指定された移動量だけ移動させる(ステップS207)。
【0075】
これらのステップS206〜S207が、ステップS202〜S204の繰り返しによって得られた透視画像に基づいてベッド33の位置を移動させる移動工程に相当する。
【0076】
以上の操作により、治療計画装置501により計画した位置に患者40を移動することができる。
【0077】
患者の位置決めが完了すると、ベッド33が所定の位置に移動したかを確認し(ステップS208)、粒子線の照射経路上にあるX線受像機36A,36Bは、退避位置へ移動して、位置決めが完了する。
【0078】
なお、ここでは患者40の体軸および水平方向に対して平行な直線を回転軸としてベッド33を傾ける場合について説明したが、患者40を傾ける角度の軸は、患者40の前後方向と平行でアイソセンタを通過するような(体軸および水平方向に対して垂直な)直線を軸としてベッド33を傾けてもよい。この場合、ベッド33の水平が保たれるので、より多くの角度で患者40の位置が動くことなくX線透視画像を取得することができ、画質のよい照射時CT画像を再構成することができる、との利点がある。
【0079】
また、患者40を傾ける角度の軸は、患者40の体軸に対して垂直で、水平方向に対して平行な直線を軸としてベッド33を傾けてもよい。更には、患者40の体軸から傾斜して、水平方向に対して垂直もしくは水平な直線を軸としてベッド33を傾けてもよいし、体軸および水平方向に対して傾斜した直線を軸としてベッド33を傾けてもよい。このように、x軸、y軸、z軸のうちいずれか1つの軸を中心に回転することができる。
【0080】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0081】
上述した本実施例の放射線治療装置は、水平方向からの傾斜と水平面内での回転のうち少なくともいずれか一方が可能に構成された、患者40を静置するためのベッド33と、その位置決めを行うベッド位置決め装置を備えている。このうちベッド位置決め装置は、ベッド33上の患者40の透視画像を取得する、X線発生器35A,35B,35C,35DとX線受像機36A,36B,36C,36Dからなる放射線透視装置であって、透視画像の取得中はその位置が固定される、複数設けられた放射線透視装置と、放射線透視装置によって取得した透視画像に基づいてベッド33の位置を移動させる機能を有する位置決め制御装置311と、を備え、位置決め制御装置311は、複数のベッド傾斜角度で透視画像を取得し、得られた複数の透視画像に基づいてベッド33の位置を移動させる制御を実行する。
【0082】
このような傾斜角度を変更可能に構成されたベッド33を用いて、ベッド33の傾斜角度を順次変更しながら、ベッド33の傾斜角度毎に複数のX線透視装置により複数のX線透視画像を取得するため、透視画像取得の際にX線透視装置やX線透視装置を移動させる構造物を移動させる必要がなく、透視装置やX線透視装置を移動させる構造物の移動量を従来に比べて大幅に少なくすることができる。このため、透視装置と照射野形成装置などの他の構造物との干渉の問題を従来に比べて解決することができるとともに、透視装置やX線透視装置を移動させる構造物の退避用のスペースを大きく確保する必要がなく、スペースの問題も従来に比べて解決することができる。更に、X線透視装置を回転機構に配置しなくても複数角度からのX線透視画像を取得することができ、X線透視装置の回転機構がない場合であっても、高精度な位置決めが可能である、との効果が得られる。
【0083】
また、放射線透視装置は、透視画像をX線によって取得するX線発生器35A,35B,35C,35DとX線受像機36A,36B,36C,36Dから構成されたものであるため、簡易な構成によって位置決めのために必要な透視画像の精度を高いものとすることができ、より高精度な位置決めが可能となる。また、場合によっては別途の用途があるX線発生器やX線受像機を利用することもできるため、X線透視画像の取得のために新たな構造物を追加する必要がなく、干渉やスペースの問題が生じることをより解決できる、との効果も奏する。
【0084】
更に、位置決め制御装置311は、透視画像から再構成した断層画像を用いてベッド33の移動量を算出することで、骨などの密度が濃い物質以外にも、水の密度に近い軟組織の位置を確認してベッド33の位置を決めることができ、より高精度な位置決めが可能となる。
【0085】
また、位置決め制御装置311は、複数のベッド傾斜角度の中に放射線を照射する角度と一致する角度がある場合は、放射線を照射する角度と一致する角度での透視画像の取得を最後に行うようベッド傾斜角度を制御することにより、位置決め実施後、直ちに粒子線の照射を開始することができ、照射全体のスループットの向上を図ることができる。
【0086】
更に、位置決め制御装置311は、複数のベッド傾斜角度を入力するためのベッド傾斜角度入力画面710をコンソール315に表示させることで、標的の位置や患者40の状態に応じたベッド33の傾斜角度の設定やその確認が容易となり、X線透視画像の取得の設定の精度の向上や自由度の向上を図ることができる。
【0087】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0088】
例えば、ベッドの移動量の算出方法は、上述のステップS205〜S206で説明したような基準CT画像と照射時CT画像とを比較する方法に限定されず、基準CT画像から計算によって基準透視画像を作成し、得られた基準透視画像とX線透視装置が取得したX線透視画像とを比較することで移動量を算出することができる。本発明によれば、従来のひとつのベッド傾斜角度で透視画像を比較する方法に比べて比較する方向が増えるため、位置決め精度が向上する、との効果が得られる。
【0089】
また、ベッドの移動量の算出方法には、基準CT画像から複数角度の基準透視画像を計算し、X線透視装置が取得した透視画像と最も一致する基準透視画像を選択したうえでベッド33の移動量を算出する方法がある。最も一致する基準画像を選択することで、患者の体軸を回転軸とした回転量を精度良く計算することができる。本発明によれば複数のベッド傾斜角度においてX線透視画像を取得することから、この方法を用いる場合にも比較する方向が増えるため、位置決め精度が向上する、との効果が得られる。
【0090】
また、上述の実施例では、粒子線治療装置の照射野形成装置やX線透視装置が固定されている構成について説明したが、照射野形成装置やX線透視装置を患者40の周りで回転させる回転機構を備えている粒子線治療装置に対しても本発明は適用することができる。この場合は、X線透視装置の回転機構を停止させた状態で、ベッド傾斜角度を順次変更して複数のベッド傾斜角度におけるX線透視画像を取得することにより、本発明のベッド33の位置決め方法を実施することができる。本発明によれば、照射野形成装置やX線透視装置を回転させる回転機構を回転させることなく高精度な位置決めを実施することが可能である。回転機構が回転することにより照射野形成装置と患者固定具などが干渉してしまうような場合は、回転機構を回転させることができないため、本発明によるベッド33の位置決めが有効である。
【0091】
また、上述の実施例では、X線透視画像を用いて位置決めする手法について説明したが、粒子線による画像を取得して、その画像をもとに位置決めすることができる。以下、粒子線による位置決め画像を取得する粒子線治療装置の概略について図6を用いて説明する。図6に粒子線により取得した透視画像を用いて位置決めを実施する場合の治療室の構成を示す。
【0092】
図6に示すように、粒子線による位置決め画像を取得する粒子線治療装置では、治療室内に、患者40に対して照射野形成装置31Aの反対側の位置に粒子線検出器38Aが、照射野形成装置31Bの反対側の位置に粒子線検出器38Bが配置される。この場合、放射線透視装置は、照射野形成装置31Aと粒子線検出器38Aの1対、照射野形成装置31Bと粒子線検出器38Bの1対、計2つの照射野形成装置と粒子線検出器の対で構成され、透視画像を粒子線によって取得する透視装置となる。
【0093】
粒子線により位置決め画像を取得するためには、患者を突き抜けるために十分に高いエネルギーの粒子線を少量照射する。位置決め制御装置311Aが照射制御装置314Aに位置決め用に粒子線の照射信号を送信し、照射制御装置314Aは位置決め用に粒子線を照射する。照射された粒子線は、照射野形成装置31A,31Bから出射され、患者40を透過して粒子線検出器38A,38Bに到達する。粒子線は、患者の体内でエネルギーを減衰しながら進み、粒子線検出器38A,38Bに到達するため、粒子線のエネルギーが低い位置は通過経路上の密度が濃いことが分かる。このことから、粒子線検出器38A,38Bにより、ビーム軸に垂直な平面で、位置毎に粒子線のエネルギーを測定することで透視画像を得ることができる。
【0094】
なお、透視画像を取得する粒子線と治療に用いる粒子線の核種は、一致していてもよいし、異なっていてもよい。一致している場合には、荷電粒子ビーム発生装置が扱う核種が少ないため、シンプルな構成となる、との利点がある。一方、核種が異なる場合には、質量数が小さくて透過し易い核種を用いることで患者40が大きな場合にも透視画像を取得することができる、との利点がある。
【0095】
X線による透視画像の場合と同様に、複数のベッド傾斜角度において水平方向と上方向の両方の照射野形成装置31A,31Bから順番に粒子線を照射して、粒子線の透視画像を取得する。取得した透視画像から断層画像を再構成し、基準CT画像と比較することでベッド33の移動量を算出する。算出した移動量だけベッド33を移動して位置決めを完了する。再構成の方法やベッド33の移動量の算出方法は、X線による場合と同様の方法を用いることができる。
【0096】
また、本発明は、上述した粒子線治療装置以外にもX線治療装置に対して適用可能である。図7に本発明が適用されるX線治療装置の治療室の構成の一例を示す。
【0097】
図7に示すように、X線治療装置では、治療用X線を発生するX線照射装置50と、位置決め装置を備えている。X線照射装置50は、患者40の周りを回転できる回転機構51を備えている。位置決め装置は固定された複数のX線発生器35C,35DとX線受像機36C,36Dとベッド33とベッド駆動機構(図示省略)と位置決め制御装置311Bを備えている。このような構成でも図5のフローに従うことで本発明の特徴であるベッド33の位置決めを実施することができる。
【0098】
また、図7では、回転するX線照射装置50の例を示したが、X線照射装置はロボットアームの先端に取り付けられて任意の方向から治療用X線を患部に照射できるような構成であっても同様に本発明の位置決めを実施することができる。
【符号の説明】
【0099】
30…治療室
31A,31B…照射野形成装置
33…ベッド
34…ベッド駆動装置
35A,35B,35C,35D…X線発生器
36A,36B,36C,36D…X線受像機
38A,38B…粒子線検出器
40…患者
50…X線照射装置
51…回転機構
311,311A,311B…位置決め制御装置
312…中央制御装置
314,314A…照射制御装置
315…コンソール
501…治療計画装置
710…ベッド傾斜角度入力画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7