【実施例】
【0034】
本実施例では、電磁鋼板の積層体からなる環状のアウターロータコアR(単に「コアR」という。)の内周側面(表面部)に、希土類異方性ボンド磁石を射出成形する際に使用する射出成形機Sを取り上げて、本発明をより具体的に説明する。
【0035】
《構成》
射出成形機Sの概要模式図を
図1Aに、その要部である可動型2と圧接ユニット3(圧接力調整ユニット)の拡大図を
図1Bに、
図1B中のA−A断面図を
図1Cに、圧接ユニット3の作動に必要な油圧回路4(油圧調整ユニット)を
図1Dにそれぞれ示した。なお、説明の便宜上、縦方向、横方向、一端側および他端側を、
図1Aに示すように設定した。また、
図1Bには、敢えて、
図1Aの状態(油圧OFF状態)に対して、後述する油圧シリンダー31のロッド3111、3121、クランク32等が僅かに一端側へ変位した状態を示した。
【0036】
射出成形機Sは、固定型1と、可動型2と、圧接ユニット3と、油圧回路4と、トグル式の型締めユニット5と、射出ユニット6と、フレーム7とを備える。フレーム7は、固定プラテン71と、可動プラテン72と、リアプラテン73と、固定プラテン71とリアプラテン73を連結し可動プラテン72の摺動軌道となるタイバー74とを備える。
【0037】
固定型1は、固定プラテン71に固定されると共に射出ユニット6のノズル先端(図略)が接続されるノズル口111を有する取付板11と、取付板11に固定されて主スプルーおよびランナーからなる流路121を形成する払い板12と、払い板12に分離可能に積層されてランナー、副スプルーおよびゲートからなる流路131を形成する型板13とを備える。なお、型板13の他端側にある分割面132は、型開き面となると共に、コアRの一端面r1が圧接される面ともなる。
【0038】
可動型2は、可動プラテン72に固定される取付板24と、取付板24の一端側に固定されるスペーサブロック231、232(両者を併せて単に「スペーサブロック23」という。)と、スペーサブロック23の一端側に固定される受板22と、受板22の一端側に固定される型板21と、型板21の一端側中央に嵌入されたキャビティガイド25と、キャビティガイド25に対して縦方向に進退(摺動)可能でありコアRが嵌挿されるキャビティ型26と、希土類焼結磁石(永久磁石)と配向ヨークからなりコアRの内周側から配向磁場を印加できる配向型27とを備える。
【0039】
なお、受板22の一端側には、キャビティ型26の他端側が僅かに収まる深さ(d)を有する凹部221が形成されている。キャビティ型26の他端面262が凹部221に接しているとき、キャビティ型26の一端面261も、型板21の分割面211(型開き面)やキャビティガイド25の分割面251に対して、その深さ分(d)だけ他端側へ凹んだ状態となる。本実施例では、後述するクリアランスc1等の最大値がその深さ(d)と等しくなる。
【0040】
圧接ユニット3は、油圧シリンダー311、312(両者を併せて単に「油圧シリンダー31」という。)と、取付板24の一端側に配置されるベースプレート33と、クランク321、322(両者を併せて単に「クランク32」という。)と、ベースプレート33の一端側に配置されるエジェクタープレート341、342(両者を併せて単に「エジェクタープレート34」という。)と、エジェクタープレート342に他端側が連結され一端側がキャビティ型26に連結されているガイドピン351、352(両者を併せて単に「ガイドピン35」という。)とを備える。
【0041】
なお、クランク32は、内周側がベースプレート33の側面に固定されると共に外周側が油圧シリンダー31のロッド3111、3121に固定されている。これにより、油圧シリンダー31の押圧力は、クランク32を介してベースプレート33に伝達され、ベースプレート33は取付板24に対して一端側へ移動する。但し、取付板24に固定されたストッパ36により、その移動量は所定範囲内(本実施例ではd以下)に規制されている。
【0042】
油圧回路4は、作動油が貯められたオイルパン41と、そのオイルパン41から作動油を汲上げ加圧して油路481へ供給するオイルポンプ42と、油路481内の油圧を所定値に調圧する調圧弁43と、オイルポンプ42へ過大な油圧が作用することを阻止する逆止弁45と、油圧シリンダー31へ通じる油路482を流れる作動油の流量を調整する流量調整弁46と、油圧シリンダー31内の油圧が過大になったときに作動油を油路483を通じてオイルパン41に戻すリリーフ弁47とを備える。この油圧回路4により、油圧シリンダー31へ作動油が供給されると共に、その油圧が所定範囲内に維持される。
【0043】
型締めユニット5は、トグルリンク51と、トグルリンク51を伸縮させるために縦方向に進退するボールねじ52と、トグルリンク51を各部に連結する支点53(図中の●/固定端)および支点54(図中の○/自由端)とを備える。ボールねじ52は電動機(図略)により駆動される。また、型締めユニット5には、可動プラテン72を貫通して進退するエジェクタロッド58を駆動する電動機(図略)も設けられている。
【0044】
射出ユニット6は、その詳細図を省略しているが、希土類異方性磁石粉末と熱可塑性樹脂を混練して製造したペレットを入れるホッパーと、そのペレットを加熱して溶融混合物とするヒータと、その溶融混合物を所定量圧送するシリンダと、その溶融混合物を高圧で射出するノズル等を備える。
【0045】
《作動》
(1)油圧OFF
油圧シリンダー31に油圧を作用させていないとき、圧接ユニット3は
図1Aに示す状態となる。つまり、キャビティ型26の他端面262と受板22の凹部221は接した状態となり、両者間のクリアランスc1は零となる。また、ベースプレート33も取付板24に接した状態となり、両者間のクリアランスc2も零となる。逆に、ベースプレート33とストッパ36のクリアランスc3は設定値(例えばd)となる。
【0046】
(2)型厚調整
油圧シリンダー31に油圧を作用させない状態で、
図2に示すような型厚調整がなされる。つまり、トグルリンク51を延ばして固定型1側の分割面132と可動型2側の分割面211を当接させる。そして、所望の型締力が得られるところに、トグルリンク51の支点53を設定する。なお、本実施例では、型締めユニット5の型締力:F1、油圧シリンダー31の押圧力:F2、射出圧力に抗するために最小限必要となる分割面132と一端面r1との間の圧接力:Fminとしたときに、Fmin<F2<F1となるように設定した。
【0047】
ちなみに、型厚とは、固定型1と可動型2との縦方向(ストローク方向)の長さの和であり、型閉じ完了時の固定プラテン71と可動プラテン72の間の距離(間隔)に相当する。また、
図2〜
図8では、油圧シリンダー31と連動する部材にハッチングを施した。
【0048】
(3)コアセット
油圧シリンダー31に油圧を作用させない状態で、
図3に示すように、型締めユニット5を作動させてトグルリンク51を畳み、型開きする。そしてキャビティ型26内にコアRをセットする。
【0049】
(4)油圧ON
油圧回路4から油圧シリンダー31へ油圧を作用させると、
図4に示すようになる。つまり、油圧シリンダー31の押圧力がクランク32、ベースプレート33、エジェクタープレート34、ガイドピン35およびキャビティ型26へ伝達される。この結果、ベースプレート33は一端側へ設定値(例えばd)移動してストッパ36に当接し、ストッパ36とベースプレート33のクリアランスc3は0となる。つまり、ベースプレート33は、それ以上に一端側へ移動できない。このベースプレート33の移動により、キャビティ型26の一端面261も一端側へ設定値(例えばd)移動し、型板21の分割面211やキャビティガイド25の分割面251と面一状態となる。また、キャビティ型26は凹部221に対してクリアランスc1が設定値(例えばd)だけ浮いた状態となり、ベースプレート33は取付板24に対してクリアランスc2が設定値(例えばd)だけ浮いた状態となる。
【0050】
このとき、キャビティ型26の一端面261、キャビティガイド25の分割面251および型板21の分割面211よりも、コアRの一端面r1が一端側へ少し突き出るように、型板21の厚さやキャビティ型26の深さ等が設定されている。本実施例では、分割面211(分割面251)に対する一端面r1の突出量(t)がクリアランスc1、c2の約半分程度(約d/2)となるように設定した。
【0051】
(5)型閉じ
図4に示した状態(油圧シリンダー31に油圧を作用させた状態)のまま、型締めユニット5を作動させてトグルリンク51を延して型閉じする。このとき、
図5に示すように、固定型1の分割面132にコアRの一端面r1が当接する。両面間に作用する圧接力は、油圧シリンダー31の押圧力により生じ、両面の当接後、トグルリンク51の伸長と共にその圧接力は増加する。
【0052】
但し、油圧回路4のリリーフ弁47により油圧シリンダー31に作用する油圧の上限値は規制されている。従って、分割面132と一端面r1の間に作用する圧接力(F)の上限値も所定値となり、既述したように、Fmin<F(≒F2)<F1となる。こうして分割面132と一端面r1は、略一定の力で安定的に圧接された状態となる。
【0053】
なお、型閉じは、型厚調整時に設定したストローク分だけ可動型2(可動プラテン72)が進行して完了する。このとき、固定型1と可動型2の間には、所定の型締力(F3>F)が生じるため、クリアランスc1、c2、c3は、
図4に示したときから、コアRの一端面r1の突出量(t)だけ略減少した値となる。
【0054】
(6)成形
型閉じ完了後、
図6に示すように、射出ユニット6から溶融混合物が射出される。その溶融混合物は、固定型1のノズル口111、流路121、131を経て、コアRと配向型27の間にできた円筒状のキャビティへ充填される。こうして、コアRの内周面にはリング状のボンド磁石が成形される。なお、そのボンド磁石は、配向型27による配向磁場の印加により、希土類異方性磁石粒子が各磁極毎に所定の向きに配向した状態となっている。
【0055】
(7)型開き
ボンド磁石の成形後、
図7に示すように、トグルリンク51が畳まれて、型開きがなされる。このとき、ボンド磁石(製品部)と、スプルーおよびランナー(残部)とがゲート部で分離される。
【0056】
(8)突き出し(エジェクト)
型開き後、
図8に示すように、エジェクタロッド58を進行させて、キャビティ型26を突き出す。そして、そのキャビティ型26から、ボンド磁石が一体成形されたコアR(ロータ)を取り出す。こうしてSPMモータのアウターロータが得られた。
【0057】
本実施例では、油圧シリンダー31に油圧を一旦作用させた後は、その状態(
図4に示す状態後)を継続したまま、次のコアRに対して射出成形を行った。つまり、コアセット(
図3)→型閉じ(
図5)→成形(
図6)→型開き(
図7)→突き出し(
図8)の操作を繰り返すことにより、順次、アウターロータを製造した。
【0058】
(9)補足
上述した実施例では、油圧シリンダー31の作動後に型閉じしたが、型閉じ後または型閉じ毎に油圧シリンダー31を作動させてもよい。この場合、逆止弁45やリリーフ弁47を設けずに油圧回路4を簡素することも可能である。但し、既述した実施例のように、油圧シリンダー31へ油圧を常時作用させておくと、射出成形毎に型閉じ完了を検出して油圧回路4を作動させる必要がなくなり、射出成形機全体の制御を簡素化できる。