【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りのない限り各種測定、評価は下記によるものである。なお、エポキシ当量、水酸基当量等の当量の単位はg/eqである。
【0041】
実施例で使用した材料の略号を以下に示す。記載のないものは一般に試薬として購入できるものを用いた。
(A)エポキシ樹脂
YD−128:BPA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YD−128、エポキシ当量188、アルコール性水酸基当量1800)
YD−8125:BPA型エポキシ樹脂・分子蒸留タイプ(エポキシ当量173)
YDF−170;BPF型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YDF−170、エポキシ当量169、アルコール性水酸基当量2400),
YDF−8170C:BPF型エポキシ樹脂・分子蒸留タイプ(エポキシ当量159)
(B)シアナミド:
CY−100;日本カーバイド工業株式会社製CY−100、
F1000;アルツケムアクチエンゲルシャフト社製F1000
(C)防止剤粒子
MX−154;コアシェルゴム(株式会社カネカ製MX−154、C成分40重量%、A成分60重量%のマスターバッチ、エポキシ当量300、平均1次粒径100nm)
MX−153;同上(C成分33重量%、A成分67重量%のマスターバッチ、エポキシ当量270、平均1次粒径100nm)
RY−200:ヒュームドシリカ(Aerosil RY−200、平均1次粒径12nm)
(D)硬化促進剤
2MAOK−PW、2MZA−PW、2E4MZ−CN:イミダゾール化合物(四国化成工業株式会社製)
PN−50J:エポキシアミンアダクト(味の素ファインテクノ株式会社製 PN−50J)
【0042】
その他
DICYANEX1400F:ジシアンジアミド(硬化剤)
TBB:ホウ酸トリブチル(東京化成工業株式会社製 試薬)
P2000;ポリプロピレングリコール(株式会社ADEKA製)
コスモネートPH:ジフェニルメタンジイソシアネート(三井化学株式会社製)
TSA−720:シリコーン消泡剤(モメンティブ社製)
【0043】
合成例1
セパラブルフラスコにYD−128(891.7g)をはかりとり、窒素気流中120℃に加熱した。昇温後1時間保持したのち、コスモネートPH(96.0g)を加え、溶解したら直ちにジブチルスズジラウレート(0.02g)を加えた。120℃を維持したまま1時間反応したのち、1,4−ブタンジオール(12.3g)を加えた。冷却してポリウレタン変性エポキシ樹脂(PUE1)を得た。
【0044】
合成例2
セパラブルフラスコにYDF−170(982.3g)とP2000(53.4g)をはかりとり、窒素気流中120℃に加熱した。昇温後1時間保持したのち、コスモネートPH(64.2g)を加え、溶解したら直ちにジブチルスズジラウレート(0.02g)を加えた。120℃を維持したまま1時間反応したのち、1,4−ブタンジオール(2.4g)を加えた。冷却してポリウレタン変性エポキシ樹脂(PUE2)を得た。
【0045】
実施例1
容器にYD−128(94.0g)をはかりとり、ディスパーにて高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)、RY−200(2.0g)を順に加え、外観と粒ゲージでの評価により均一を確認したところで20℃まで冷却した。ここに、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY−100(5.15g)を加えて均一になるまで攪拌して実施例1のエポキシ樹脂組成物(1)を得た。
【0046】
実施例2〜4
実施例1と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(2〜4)を得た。
【0047】
比較例1〜4
実施例1〜4と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(H1〜H4)を得た。
【0048】
実施例5
容器にMX−153(75g、粒子成分として30g)をはかりとり、高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)を加えた後、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY−100(15g)を加えて均一になるまで攪拌してエポキシ樹脂組成物(5)を得た。
【0049】
実施例6〜10、比較例5
実施例5と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(6〜10及びH5)を得た。
【0050】
比較例6
CY−100(100g)を50℃で溶解・保持し、高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)を加えた後、少量ずつRY200(2g)を加えて均一になるまで攪拌して組成物(H6)を得た。これを23℃に戻したところ、24時間以内に固化した。
【0051】
実施例11
容器にMX−153(25g、粒子成分として8.3g)をはかりとり、高速で攪拌しながらTSA−720(0.1g)を加えた後、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY−100(5g)を加えて均一になるまで攪拌して、混合液を得て、これに予め硬化促進剤(30g)とYD−128(650g)を三本ロールで混合したマスターバッチを(68g)混合し、エポキシ樹脂組成物(11)を得た。
【0052】
実施例12〜14、比較例7〜10
実施例11と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物(12〜14及びH7〜H10)を得た。
【0053】
エポキシ樹脂組成物の評価は、下記による。
外観;
50mLのガラス製バイアル瓶にエポキシ樹脂組成物50gを入れて、目視にて評価した。評価の記号の意味は次のとおり。
A;無色透明、B;無色微濁、C;白色微濁、D;結晶析出、J:結晶化、
E;白色液状、F;一部透明、G;乳白色、H;凝集
ここで、H;凝集は、コアシェルゴムが一次粒子として分散しておらず、凝集している状態を表す。
【0054】
粘度;
機産業社製RE85H型粘度計を用いて25℃での粘度を測定した。粘度の単位はPa・sであり、測定不可はNDで表す。
【0055】
粒ゲージによる評価;
コーティングテスター株式会社製グラインドメーターNO.402Wを使用し、JIS−K−5600−2−5に準じて測定を行い、線状痕が発生したスケールをμm単位で記載した。測定不可はNDで表す。
【0056】
濾過残渣の評価;
#150メッシュを備えた加圧濾過器をもちいて、エポキシ樹脂組成物の濾過をおこない、メッシュオンしたシアナミド粒子の有無を光学顕微鏡にて、次の基準で評価した。
N;固形物なし、Y;固形物あり、X:固形化(濾過不可)
測定不可はNDで表す。
硬化反応性の評価;
サンプルをアルミパンに封入し、日立ハイテクノロジーズ社製DSC7000Xを用いて、室温より320℃まで、10℃/minの速度で昇温した。エポキシ樹脂の硬化反応にともなう発熱ピークについて、
図1に示す初期温度1、ピーク温度2及び終点温度3を求めた。初期温度1及び終点温度3はそれぞれ点線の交点とした。
【0057】
狭小空間硬化性;
2枚の金型に離形剤を塗布し、塗布面を向かい合わせにして万力で固定した。毛細管現象でサンプルを浸透させ、150℃のオーブンで2時間保持した。得られた金型をはがし、浸透した樹脂の硬化状態を観察した。タックがないものを○、タックがあり硬化していない部分があるものを×とした。
【0058】
配合割合、評価結果を表1〜3に示す。配合割合における配合量は重量部である。評価結果における5℃・7日は、5℃保管7日後、5℃・14日は5℃保管14日後、23℃・7日は23℃保管7日後、23℃・14日は23℃保管14日後の状態での評価結果を示す。
表3において、*1は幕張りがあったことを示し、*2は硬化残があったことを示す。
【0059】
実施例1〜実施例4、および比較例1〜比較例4について説明する。
シアナミドを含有するエポキシ樹脂組成物における貯蔵安定性は、1)シアナミドの反応による増粘、2)結晶成長の2つによって阻害される。通常、エポキシ樹脂とシアナミドを混合し、室温で保管すると、7日目には結晶が析出し、14日を待たずに著しく増粘して硬化する。7日の時点で析出している結晶はシアナミドである。エポキシ樹脂の粘度が高いほど、析出する粒子が細かくなる傾向があった。比較例2と比較例4は、大きな結晶が析出していたが、それを除けば無色透明であり、サンプリング評価である粒ゲージ試験では結晶が検出されなかった。また、5℃で保管した場合にはいずれのサンプルも14日の経過により硬化することはなかったが、比較例1〜比較例4については結晶の析出が確認され、実施例1〜実施例4については結晶の析出が確認できなかった。以上のことから、防止剤粒子であるRY−200を添加することにより、結晶の成長を抑制できることが明らかになった。
【0060】
実施例5と実施例6は防止剤粒子としてコアシェルゴムを含有するため、白色不透明な液体で、内部を目視にて見通すことができないが、5℃保管で14日経過した後にも粒ゲージによる評価、および全量メッシュろ過によりシアナミド再結晶体の生成は認められなかった。
【0061】
実施例7と実施例8はウレタン変性エポキシ樹脂を含有し、ヒュームドシリカを添加したエポキシ樹脂組成物である。室温保管および5℃保管で14日経過した後にも粒ゲージによる評価、および全量メッシュ濾過によりシアナミド再結晶体の生成は認められなかった。
【0062】
実施例11以降は硬化促進剤を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物に関する。いずれの場合でもシアナミドの再結晶体が生成することはなく所望の特性を有する硬化物を得ることができた。
比較例7は液状の硬化促進剤を使用した場合であるが、比較的貯蔵安定性が悪い硬化促進剤であることもあって、若干の粘度上昇が見られるが、5℃で7日間保持したところでシアナミドの結晶が認められる。比較例8は硬化剤にジシアンジアミドを使用しているために、高い貯蔵安定性を有する。
比較例8は硬化剤としてジシアンジアミドを使用したものであり、高い潜在性と高い硬化反応性を両立する材料である。しかしながら、硬化剤が粉末であるがために金型の隙間などの狭小空間において拡散が不十分となり、硬化不良箇所が発生する結果を得た。つまり、炭素繊維間隙やガラス繊維間隙などでジシアンジアミドの拡散不良にともなう硬化不良が発生するおそれがあることを示している。一方で実施例11〜14においては、硬化促進剤がいずれも粉末成分であるが、硬化不良は見られなかった。比較例8のように硬化剤が固体であり、狭小空間での拡散が不十分となった場合には、主剤と硬化剤の比率が狂うために硬化不良に直結するが、硬化剤が液状で混和している実施例11〜14では硬化不良が発生しなかった。実施例11〜14に含まれる硬化促進剤はいずれも粉末のものであるが、多少のずれがあってもきちんと硬化することを表している。
比較例9は硬化剤としてカルボン酸無水物を使用したものであり、こちらも高い潜在性と高い硬化反応性を両立できる材料である。しかしながら、保管後、液面付近で幕張りが生じた。これはカルボン酸無水物が加水分解したために起こる現象であるが、実施例11〜14についてはそのような現象は起こらなかった。
比較例14は硬化剤として芳香族アミンを使用したものである。芳香族アミン系硬化剤は貯蔵安定性、硬化反応性がともに低く、所定のDSCのプログラム条件において硬化が完了しなかったが、実施例11〜14はいずれも貯蔵安定性に優れ、かつ硬化反応も速やかに起こる。
【0063】
本発明のエポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂と硬化剤が良好に混和しているため、モル比が場所により変化することなく、本質的に硬化不良は起こらない。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】