特開2019-1690(P2019-1690A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 竹本油脂株式会社の特許一覧 ▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-1690(P2019-1690A)
(43)【公開日】2019年1月10日
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20181207BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20181207BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20181207BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20181207BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20181207BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20181207BHJP
   C04B 14/36 20060101ALI20181207BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B24/38 D
   C04B24/26 E
   C04B18/08 Z
   C04B18/14 A
   C04B18/14 Z
   C04B14/28
   C04B14/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-118548(P2017-118548)
(22)【出願日】2017年6月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和寿
(72)【発明者】
【氏名】山崎 未希
(72)【発明者】
【氏名】玉木 伸二
(72)【発明者】
【氏名】山川 勉
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MD01
4G112PA03
4G112PA10
4G112PA20
4G112PA27
4G112PA29
4G112PB40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】結合材の一部として黒色粒子を含有するものを用いて調製した水硬性組成物において、それが流動性の高い水硬性組成物であっても、かかる水硬性組成物から得られる硬化体の表面に黒ずみが発生するのを十分に抑制し、優れた表面美観の硬化体を得ることができる水硬性組成物の提供。
【解決手段】結合材、水溶性セルロースエーテル、ポリカルボン酸系減水剤及び水を含有する水硬性組成物。結合材が、セメントとフライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフュ―ム、石灰石微粉末及び亜炭から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種を含有する水溶性セルロースエーテルを用いて調製した水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、水溶性セルロースエーテル、ポリカルボン酸系減水剤及び水を含有してなる水硬性組成物であって、結合材が、セメントと、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末及び亜炭から選ばれる少なくとも1種を含有するものであり、且つ水溶性セルロースエーテルが、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種を含有するものであることを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが、ヒドロキシアルキル基の置換モル数が0.1〜3.0であり且つアルキル基の置換度が1.0〜2.2であるものである請求項1記載の水硬性組成物。
【請求項3】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースから選ばれるものである請求項1又は2記載の水硬性組成物。
【請求項4】
ヒドロキシアルキルセルロースが、ヒドロキシアルキル基の置換モル数が2.0〜3.3であるものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の水硬性組成物。
【請求項5】
ヒドロキシアルキルセルロースが、ヒドロキシエチルセルロースである請求項1〜4のいずれか記載の水硬性組成物。
【請求項6】
水溶性セルロースエーテルが、その2質量%水溶液の20℃における粘度が5000mPa・s以上のものであり且つその1質量%水溶液の20℃における粘度が30000mPa・s以下のものである請求項1〜5いずれか一つの項記載の水硬性組成物。
【請求項7】
結合材が、セメントを10〜95質量%と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末から選ばれるものを5〜90質量%の割合で含有し、且つセメントと、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末から選ばれるものを合計100質量%となるよう含有してなるものである請求項1〜6のいずれか一つの項記載の水硬性組成物。
【請求項8】
水溶性セルロースエーテルを、結合材100質量部に対し0.01〜0.20質量部の割合で含有する請求項1〜7いずれか一つの項記載の水硬性組成物。
【請求項9】
更に骨材を含有する請求項1〜8いずれか一つの項記載の水硬性組成物。
【請求項10】
水/結合材の質量比が0.35〜0.65である請求項1〜9いずれか一つの項記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水硬性組成物に関し、更に詳しくは結合材に含まれる黒色粒子がかかる結合材を含有する水硬性組成物から得られる硬化体の表面に黒ずみを発生するのを十分に抑制し、優れた表面美観の硬化体を得ることができる水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減のため、産業副産物の利用や、二酸化炭素排出量の低減を目的に、水硬性組成物の結合材として、セメントと共に、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末等を用いることがある。また水硬性組成物には天然物を使用することもあり、亜炭等を用いることもある。セメントと共に結合材の一部として用いるこれらの物質には主にカーボン粒子である黒色粒子が含まれている。とりわけ、フライアッシュは黒色粒子である未燃カーボンを多く含んでおり、コンクリート用フライアッシュのJIS規格(JIS A6201)では、未燃カーボン量の目安となる強熱減量は8.0%以下で管理されている。これらの物質に含まれる黒色粒子は、これらの物質を結合材の一部として用いた水硬性組成物から得られる硬化体の表面に浮き出て黒ずみとなり美観を悪くする。特に結合材の分散剤としてポリカルボン酸系減水剤を用いた場合は、黒ずみの発生が顕著である。更に水硬性組成物の流動性を高めると、材料分離抵抗性が低下し、黒ずみがより発生しやすくなる。これらの物質から黒色粒子を処理工程により低減することも可能であるが、エネルギー消費の増加をきたし、また処理設備の導入が必要であり、効率的ではない。従来、水硬性組成物から得られる硬化体の表面に黒ずみが発生するのを抑制するものとして、炭素数6〜10のモノオレフィンとマレイン酸の共重合体又はその塩(例えば、特許文献1参照)、炭素数6〜14の二価の炭化水素基からなる構成単位を有する重量平均分子量が1000〜20000のオレフィン-マレイン酸共重合体とそれ以外のポリカルボン酸系重合体とを含有するもの(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかし、かかる従来手段には、得られる硬化体の表面に黒ずみが発生するのを十分に抑制することができず、とりわけ流動性の高い水硬性組成物の場合にかかる水硬性組成物から得られる硬化体の表面に黒ずみが発生するのを十分に抑制できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−83303号公報
【特許文献2】特開2004−175651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、結合材の一部として黒色粒子を含有するものを用いて調製した水硬性組成物において、それが流動性の高い水硬性組成物であっても、かかる水硬性組成物から得られる硬化体の表面に黒ずみが発生するのを十分に抑制し、優れた表面美観の硬化体を得ることができる水硬性組成物を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく鋭意研究した結果、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種を含有する水溶性セルロースエーテルを用いて調製した水硬性組成物が正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、結合材、水溶性セルロースエーテル、ポリカルボン酸系減水剤及び水を含有してなる水硬性組成物であって、結合材が、セメントと、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末及び亜炭から選ばれる少なくとも1種を含有するものであり、且つ水溶性セルロースエーテルが、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種を含有するものであることを特徴とする水硬性組成物に係る。
【0007】
本発明に係る水硬性組成物に用いる結合材は、セメントと、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末及び亜炭から選ばれる少なくとも1種の黒色粒子含有物質を含有するものである。
【0008】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末及び亜炭の黒色粒子含有物質は、混合セメントとして調製されていてもよく、水硬性組成物の製造工場において調製されてもよく、JIS R5210での0〜5%で使用される少量混合成分として調製されるポルトランドセメントの一部として含有されていてもよい。水硬性セメント組成物に用いる結合材において、セメントと黒色粒子含有物質との割合は特に制限されないが、結合材としては、セメントを10〜95質量%及び黒色粒子含有物質を5〜90質量%の割合で含有し且つ双方の合計が100質量%となるよう含有するものが好ましい。また黒色粒子含有物質としては、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフュームが好ましく、高炉スラグ微粉末、フライアッシュがより好ましい。
【0009】
本発明に係る水硬性組成物に用いる水溶性セルロースエーテルは、1)ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、2)ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース、以上の1)及び2)から選ばれる少なくとも1種である。
【0010】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、MS(ヒドロキシアルキル基の置換モル数、以下同じ)が0.1〜3.0であり、且つDS(アルキル基の置換度、以下同じ)が1.0〜2.2であるものが好ましく、MSが0.1〜1.0であり、且つDSが1.0〜2.0であるものがより好ましく、MSが0.1〜0.3であり、且つDSが1.1〜1.7であるものが特に好ましい。なかでも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが好ましい。ヒドロキシアルキルセルロースとしては、MSが2.0〜3.3であるものが好ましく、MSが2.0〜2.8であるものがより好ましく、MSが2.0〜2.4であるものが特に好ましい。なかでもヒドロキシエチルセルロースが好ましい。
【0011】
尚、MSは、ヒドロキシアルキル基の置換モル数(molar substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシアルコキシル基の平均モル数である。またDSは、アルキル基の置換度(degree of substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たりに存在するアルコキシル基の個数である。かかるMSやDSの測定方法としては、第17改正日本薬局方記載のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の置換度分析方法により測定される値を換算することによって求めることができる。
【0012】
本発明に係る水硬性組成物において、水溶性セルロースエーテルは、その2質量%水溶液の20℃における粘度(以下、単に2%粘度という)が5000mPa・s以上のものであり且つその1質量%水溶液の20℃における粘度(以下、単に1%粘度という)が30000mPa・s以下のものが好ましく、2%粘度が5000mPa・s以上のものであり且つ1%粘度が20000mPa・s以下であるものがより好ましく、2%粘度が10000mPa・s以上のものであり且つ1%粘度が15000mPa・s以下のものが特に好ましい。尚、以上の粘度はいずれも、B−H型粘度計の20rpmにおける値である。
【0013】
水溶性セルロースの添加方法は、水溶性セルロースエーテルの粉末の添加、水溶性セルロースエーテルの水溶液の添加、水溶性セルロースエーテルをポリカルボン酸系減水剤中に分散又は溶解させた状態での添加、液体の収縮低減剤や液体の消泡剤等に分散または溶解させた状態での添加のいずれでもよい。水溶性セルロースエーテルの添加量は、水硬性組成物の流動性の観点から、結合材100質量部に対し、0.01〜0.20質量部とするのが好ましく、0.01〜0.15質量部とするのがより好ましく、0.02〜0.10質量部とするのが特に好ましい。水溶性セルロースエーテルの添加量が、結合材100質量部に対し、0.01質量部未満では、十分な黒ずみ抑制効果と材料分離抵抗性が得られず、逆に0.20質量部を超えると黒ずみ抑制効果があるが水硬性物質の流動低下が生じる。
【0014】
本発明に係る水溶性セルロースエーテルのレーザー回折法による平均粒子径は、黒ずみ抑制効果の観点から、好ましくは20〜500μm、より好ましくは20〜120μm、特に好ましくは40〜100μmである。平均粒子径は、体積換算粒子径であり、レーザー回折法を用いた粉体粒子径測定方法による値である。かかる平均粒子径は例えば、HELOS&RODOS(日本レーザー社製の商品名)を用いて測定できる。
【0015】
本発明に係る水硬性組成物において、ポリカルボン酸系減水剤は、不飽和カルボン酸単量体及び/又はその塩から形成された単位を構成単位とする(共)重合体であり、結合材の分散剤として用いられるものであるが、これには市販のものを使用できる。ポリカルボン酸系減水剤としての(共)重合体の構成単位を形成することとなる不飽和カルボン酸単量体及び/又はその塩としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、フマル酸及び/又はその塩等が挙げられ、1分子中に2個以上のカルボキシル基を持つ不飽和ジカルボン酸単量体は、一つのカルボン酸又はその塩以外にエステル結合やアミド結合等を有していてもよい。塩の種類は特に制限されず、これには例えばナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩やトリエタノールアミン塩等のアミン塩等が挙げられる。
【0016】
(共)重合体の構成単位を形成することとなるカルボン酸及び/又はその塩以外の単量体として、分子中に1〜300個の炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成されたポリオキシアルキレン基を有する不飽和単量体が挙げられる。これには例えばα−ビニル−ω−ヒドロキシ(ポリ)オキシブチレン(ポリ)オキシエチレン、α−アリル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−アリル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−アリル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−アリル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−メタリル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−メタリル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−メタリル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−メタリル−ω−アセチル−(ポリ)オキシエチレン、α−(3−メチル−3−ブテニル)−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−(3−メチル−3−ブテニル)−ω−ブトキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−(3−メチル−3−ブテニル)−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−(3−メチル−3−ブテニル)−ω−アセチル−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−アクリロイル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−アクリロイル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−アクリロイル−ω−ブトキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−アクリロイル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−メタクリロイル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−メタクリロイル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−メタクリロイル−ω−ブトキシ−(ポリ)オキシエチレン、α−アクリロイル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−メタクリロイル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、α−メタクリロイル−ω−アセチル−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、ポリアルキレンポリアミンの活性イミノ基、活性アミノ基にアルキレンオキシドを付加させ且つ分子中に(メタ)アクリロイル基等の不飽和結合を持つポリアルキレンポリアミン系単量体、二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基に対してアルキレンオキシドを付加させ且つ分子中に(メタ)アクリロイル基等の不飽和結合を持つポリアミドポリアミン系単量体等が挙げられる。
【0017】
ポリカルボン酸系減水剤としての(共)重合体は、不飽和カルボン酸単量体及び/又はその塩から形成された構成単位と、分子中に1〜300個の炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成されたポリオキシアルキレン基を有する不飽和単量体から形成された構成単位とから構成されたものが好ましい。またその質量平均分子量は2000〜500000のものが好ましく、5000〜100000のものがより好ましい。
【0018】
本発明に係る水硬性組成物においてポリカルボン酸系減水剤は、水溶液として用いてもよいし、粉末として用いてもよく、その使用量は、結合材に対し、ポリカルボン酸系減水剤として、すなわち(共)重合体として、0.01〜2質量%となるようにするのが好ましく、0.05〜0.5質量%となるようにするのがより好ましい。
【0019】
本発明に係る水硬性組成物には骨材を用いることができる。かかる骨材としては、川砂、山砂、陸砂、硅砂、砕砂、高炉スラグ細骨材等の細骨材、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材等の粗骨材が挙げられる。水硬性組成物は乾燥収縮や自己収縮の低減、更には結合材による発熱を抑制するためには、細骨材や粗骨材等の骨材を含有することが好ましい。
【0020】
本発明に係る水硬性組成物において、水/結合材の質量比は0.35〜0.65とするのが好ましい。水/結合材の質量比が0.35より小さいと、水硬性組成物の流動性が悪くなり易く、また水/結合材の質量比が0.65より大きいと、十分な材料分離抵抗性を付与でき難くなる。
【0021】
本発明に係る水硬性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて例えば陰イオン界面活性剤からなるAE調整剤、例えばオキシアルキレン系の消泡剤、例えばオキシカルボン酸塩からなる凝結遅延剤、例えばアルカノールアミンからなる硬化促進剤、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる乾燥収縮低減剤、例えばイソチアゾリン系化合物からなる防腐剤、例えば高級脂肪酸誘導体からなる防水剤、例えば亜硝酸塩からなる防錆剤等を併用することができる。
【0022】
本発明の効果発現機構の詳細は不明であるが、以下のように推定される。水溶性セルロースエーテルがフライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末、亜炭から発生した黒色粒子を吸着するとともに、水硬性組成物中で水溶性セルロースエーテルの増粘作用により材料分離抵抗性も向上し、黒ずみ抑制と高い流動性の下での材料分離抑制を同時に行っているものと推察される。この特性は化学構造により効果が異なり、特定の水溶性セルロースエーテルを用いることにより、黒ずみ抑制と材料分離抵抗性の双方を持つ本発明に係る水硬性組成物となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、結合材の一部として黒色粒子を含有するものを用いて調製した水硬性組成物において、それが流動性の高い水硬性組成物であっても、かかる水硬性組成物から得られる硬化体の表面に黒ずみが発生するのを十分に抑制し、優れた表面美観の硬化体を得ることができるという効果がある。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等において、別に記載しない限り、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0025】
試験区分1(水硬性組成物としてのモルタルの調製)
JIS R 5201セメントの物理試験方法に準拠したモルタルミキサを用い、消泡剤(竹本油脂社製の商品名AFK−2)を結合材100質量部に対し0.005質量部の割合で添加して、表1に記載の配合条件下、表2に記載の内容で240秒間練混ぜた。かかる練混ぜ及び以下の試験は材料温度を20±3℃、室温を20±3℃、湿度を60%以上にて行った。モルタルフローは、タッピングなしのモルタルフローとし、ポリカルボン酸系減水剤と消泡剤以外の添加剤を使用しない場合にモルタルの縁に水のにじみが確認される295±5mmを目標に行った。未硬化モルタルのモルタルフロー、黒ずみの程度の判定、分離抵抗性の判定は、モルタルフローコーンを引き上げてから3分後に行った。このモルタルを円筒形型枠(直径5cm、高さ10cm)に充填し、20℃で24時間、室内養生した後に脱型し、硬化モルタルの黒ずみの程度を判定した。結果を表2にまとめて示した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1において、
OPC:普通ポルトランドセメント
BB:高炉セメントB種
FA1:フライアッシュ(強熱減量5.3%)
FA2:フライアッシュ(強熱減量2.1%)
SF:シリカフューム(強熱減量4.3%)
細骨材:大井川水系産陸砂





【0028】
【表2】
【0029】
表2において、
使用量:結合材に対する使用量(%)(水溶液で使用した場合は、水溶液中の固形分の結合材に対する使用量(%))
PC−1:竹本油脂社製のポリカルボン酸系高性能AE減水剤(商品名チューポールHP−11)
PC−2:BASFジャパン社製のポリカルボン酸系高性能AE減水剤(商品名マスターグレニウムSP8SV)
PC−3:日本シーカ社製のポリカルボン酸系高性能AE減水剤(商品名シーカメント1100NT)
CB:花王社製の特殊ポリカルボン酸型界面活性剤の黒ずみ抑制剤(商品名スキッシュ21B)
水溶性セルロースエーテル:表3に記載のものを使用した。





【0030】
【表3】
【0031】
表3において、
粘度:2質量%水溶液の20℃における粘度(mPa・s)。但し、1質量%水溶液のものについては(1%)と付記した。
【0032】
黒ずみ程度の判定は、目視により、以下の基準で行なった。
黒ずみ程度の判定基準
◎:黒ずみが殆ど目立たない
○:黒ずみが僅かに確認された
×:黒ずみが明らかに確認された
【0033】
分離抵抗性の判定は、目視により、以下の基準で行なった。
分離抵抗性の判定基準
◎:非常に良好(分離なし)
○:良好(分離はないが、水硬性組成物の表面がやや白っぽい)
△:水硬性組成物に僅かに水のにじみが確認される
×:水硬性組成物から明らかに水のにじみがある
【0034】
試験区分2(水硬性組成物としてのコンクリートの調製)
表4に記載の配合条件下、表5に記載の内容で、次のようにコンクリートを調製した。50Lのパン型強制練りミキサーに普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm)、フライアッシュ(密度2.29g/cm、強熱減量2.3%)、高炉スラグ微粉末(密度2.88g/cm)、細骨材(大井川水系産陸砂、密度2.58g/cm)及び粗骨材(岡崎産砕石、密度2.68g/cm)を投入して10秒間空練りした後、スランプフローが65±2cm及び空気量が2%以下の範囲となるよう、消泡剤(竹本油脂社製の商品名AFK−2)を結合材100質量部に対し0.005質量部の割合で添加すると共に、試験区分1で使用したポリカルボン酸系減水剤及び水溶性セルロースエーテルを練り混ぜ水と共に投入し、120秒間練り混ぜた。なお、ポリカルボン酸系減水剤および消泡剤は水の一部とみなした。調製したコンクリート組成物について、練り混ぜ直後のスランプフローをJIS−A1150に準拠して測定し、また空気量をJIS−A1128に準拠して測定した。未硬化コンクリートのスランプフロー、黒ずみの程度の判定、分離抵抗性の判定は、スランプコーンを引き上げてから3分後に行った。この未硬化コンクリートを円筒形型枠(直径10cm、高さ20cm)に充填し、20℃で24時間、室内養生した後に脱型し、硬化コンクリートの黒ずみの程度を判定した。結果を表5に示した。
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
表5において、
使用量:結合材に対する使用量(%)(水溶液で使用した場合は、水溶液中の固形分の結合材に対する使用量(%))
ポリカルボン酸系減水剤及び水溶性セルロースエーテル等:試験区分1で使用したもの
【0038】
黒ずみ程度の判定は、目視により、以下の基準で行なった。
黒ずみ程度の判定基準
◎:黒ずみが殆どない
○:黒ずみが僅かに確認された
×:黒ずみが明らかに確認された
【0039】
分離抵抗性の判定は、目視により、以下の基準で行なった。
分離抵抗性の判定基準
◎:非常に良好(骨材とモルタル・ペーストの分離なし)
○:良好(骨材とモルタル・ペーストが僅かに分離)
△:悪い(骨材とモルタル・ペーストが分離)
×:非常に悪い(骨材とモルタル・ペーストの分離が顕著)