【解決手段】水質改善材10は、複数の鉄元素含有粒子1が粒塊状の無機材料からなる核材2の表面に固着された構造を有する。鉄元素含有粒子1は、有機バインダーに由来する炭素質物よって核材2に固定化されており、表面の少なくとも一部が炭素質物から露出した状態となっているものを含んでいる。有機バインダーに由来する炭素質物は、核材2の表面の少なくとも一部分を被覆しており、鉄元素含有粒子1を核材2に担持させるための結着材として機能するとともに、鉄元素含有粒子1との接触によって局部電池を形成している。
前記粒塊状の無機材料を核材とし、該核材の表面の少なくとも一部分を被覆するように、前記核材に比較して粒度の小さな多数の前記鉄元素含有粒子が固定化されている請求項1に記載の水質改善材。
前記炭素質物が、タール、ピッチ、天然高分子及び有機高分子より選ばれる1種以上の有機バインダー由来の炭素質物である請求項1から3のいずれか1項に記載の水質改善材。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る水質改善材の模式的断面図である。
図2は、
図1に示す水質改善材の要部を拡大して示す説明図である。
図1に示すように、本実施の形態の水質改善材10は、複数の鉄元素含有粒子1が粒塊状の無機材料からなる核材2の表面に固着された構造を有する。
図2に拡大して示すように、鉄元素含有粒子1は、有機バインダーに由来する炭素質物3によって核材2に固定化されている。有機バインダーに由来する炭素質物3は、核材2の表面の少なくとも一部分を被覆しており、鉄元素含有粒子1を核材2に担持させるための結着材として機能するとともに、鉄元素含有粒子1との接触によって局部電池を形成している。
【0020】
鉄と炭素の局部電池により鉄イオンを発生させるためには、
図2に符号1aで示す鉄元素含有粒子のように、少なくともその表面の一部が有機バインダー由来の炭素質物3から露出していればよい。それに対し、
図2において符号1bで示す鉄元素含有粒子のように、その全体が炭素質物3に埋包されているものは、局部電池は形成されているが、鉄元素含有粒子1bの表面が外部に露出していないことから、海水と接触せず、鉄イオンが発生しないため、好ましくない。ただし、水質改善材10は、全体が炭素質物3に埋包されている鉄元素含有粒子1bを含んでいてもよい。また、核材2と鉄元素含有粒子1は、両者が直接接触していてもよいし、あるいは、両者が有機バインダー由来の炭素質物3を介して接触していてもよい。
【0021】
<鉄元素含有粒子>
鉄元素含有粒子1は、鉄(Fe)を主成分とする粒子であればよい。ここで、「主成分」とは、全重量に対して鉄元素を純鉄換算で75重量%以上含有することを意味する。本実施の形態の水質改善材10は、核材2に固定された鉄元素含有粒子1が、炭素と接触して局部電池を形成することにより、水中へ2価鉄イオンを持続的に溶出し、夏場、特に貧酸素状態での悪臭(硫化水素など)や赤潮(異常プランクトン発生)を抑制するとともに、磯やけによる藻場の再生に寄与するものである。このため、焼成後の最終製品では鉄元素含有粒子1は少なくとも主成分が四酸化三鉄(Fe
3O
4:マグネタイト)、より好ましくは金属鉄、最も好ましくは金属鉄が90重量%以上となっていることが望ましい。
【0022】
鉄元素含有粒子1となる鉄原料としては、鉄粉の他、製鉄ダスト、砂鉄などの酸化鉄、鉄鉱石粉などを用いることが可能であるが、鉄を多く含有する鉄粉や酸化鉄が好ましい。より好ましくは鉄(Fe)を主成分として炭素(C)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)の少なくとも一種以上が0.5重量%以上含まれている鉄鋼材料である。なお、このような鉄元素含有粒子1として、鋳鉄や炭素鋼、ステンレス鋼等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本実施の形態の水質改善材10を構成する鉄元素含有粒子1は、海水等の水中において、接触している炭素との局部電池効果によって2価の鉄イオンを水中に持続的に放出する。そして、例えば式(1)、式(2)に示す反応機構によって、海水等に含まれる硫化水素やリンを化学的に固定化することができる。
Fe
2++HS
−→FeS↓+H
+ …(1)
3Fe
2++2PO
43−→Fe
3(PO
4)
2↓ …(2)
【0024】
炭素との局部電池効果を利用した上記反応機構によって、鉄元素含有粒子1は、海水中に長期間にわたってFe
2+を放出し続けるため、徐々に小さくなる。従って使用する鉄元素含有粒子1の粒度としては、例えば、JIS規格で7メッシュ以下であることが好ましく、JIS規格で200〜7メッシュであることがより好ましい。粒度がJIS規格で7メッシュを超えて大きすぎると混合や核材2への付着が難しくなる。なお、JIS規格ではメッシュの数値が小さくなるほど粒度は大きくなるため、「7メッシュ以下」というときは、例えば「6メッシュ」は含まないことを意味する。鉄元素含有粒子1の形状は、例えば球形などの粒状であればよく、不定形の塊状であってもよい。
【0025】
<核材>
本実施の形態の水質改善材10において使用される核材2は、粒塊状の無機材料により構成されている。ここで「粒塊状」とは、粉状ではないことを示しており、より具体的にはJ IS規格の試験篩で3.5メッシュ(目開き5.6mm)よりも大きい粒子であることを示す。
【0026】
粒塊状の無機材料は、例えば、セラミックやスラグ材料、自然石などを粒塊状にしたものであり、700℃で2時間焼成後の純水浸漬試験において、浸漬水のpHが8以上、好ましくは浸漬水のpHが8〜12、より好ましくはpH8〜10の範囲内となるものである。浸漬水のpHが12を超えると、水質改善材10としたときに高アルカリ性の状態が長期間継続するために鉄イオンの溶出を阻害してしまう。一方、浸漬水のpHが8未満であると水質改善材10としたときにリンを不溶化する効果が弱くなる。
なお、純水浸漬試験は、後記実施例に記載の手順にて行うことができる。
【0027】
本発明において核材2となる粒塊状の無機材料は、上記の条件を満たすものであれば特に限定されず、セラミック類としては耐火物やセメント・コンクリート廃材、採石場などで採取される自然石、鉄鋼スラグを始めとするスラグ材料などの人工物や天然物を広く使用することができるが、成分や溶出の安定性の面からスラグ材料を使用することが好ましい。
【0028】
スラグ材料としては高炉スラグ、製鋼スラグといった鉄鋼スラグが好ましく、高炉スラグとしては、例えば高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグなどを利用できる。製鋼スラグとしては、例えば転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグなどを例示できる。粒塊状の無機材料としては、上記2種以上の鉄鋼スラグを併用することができる。なお、スラグの炭酸化処理の有無は本発明においては特に問題とはならない。
【0029】
鉄鋼スラグは、例えば、CaO、MgO、カルシウムシリケート(2CaO・SiO
2、3CaO・SiO
2など)、カルシウムフェライト(2CaO・Fe
2O
3)などの酸化物を含有する。このように、鉄鋼スラグはCa、Mg、Siなどの元素を含んでおり、これらの元素は微生物を活性化する作用を有している。また、鉄鋼スラグは、海水等の水中でCa
2+などのアルカリ性成分を溶出するため、例えば式(3)、式(4)に示す反応機構によって、海水等の環境中に含まれる硫化水素源となる硫黄酸化物イオンやリンを化学的に固定化することができる。
Ca
2++SO
42−→CaSO
4↓ …(3)
5Ca
2++OH
−+3PO
43−→Ca
5(OH)(PO
4)
3↓ …(4)
【0030】
自然石を核材2として使用する場合は、純水浸漬試験での浸漬水のpHが8以上のものであれば一般用に市販されているものでも特に問題なく使用することができる。種類についても堆積岩や変成岩、火山岩などとくに限定されるものでもないが、アルカリ成分がCaO換算で5%以上含まれるものが適しており、安山岩のほか、長石を多く含む岩石(花崗岩、玄武岩)などが例示される。本発明には、スラグと同様の主成分を有し、アルカリ成分を溶出することができる自然石がより好ましい。
【0031】
セラミックス材料としては、例えば、セメントやセメント廃材、もしくはコンクリート廃材などを好適に使用することができる。
特に、建築物などとして長期間使用されたのちに破砕された廃材は、カルシウム分がほぼ炭酸化していることにより、純水浸漬試験での浸漬水のpHが、ほぼ8以上となるのでより好ましい。
【0032】
従来から、海水等に投入された鉄鋼スラグの周囲では、比較的短時間でCa
2+などのアルカリ性成分が放出されてしまうため、pHの局所的な急上昇が生じることが知られている。特にこれは間隙水で顕著であり、底生生物への悪影響が懸念されている。しかし、本実施の形態の水質改善材10では、以下の(1)、(2)の理由によって、アルカリ性成分の放出速度が制御されている。
(1)水質改善材10では、核材2である粒塊状の無機材料の表面の少なくとも一部分が鉄元素含有粒子1と炭素質物3によって被覆されているため、粒塊状の無機材料からのアルカリ性成分の放出速度が抑制される。つまり、水質改善材10では、鉄元素含有粒子1と炭素質物3による被覆度合いを調節することによって、アルカリ性成分の放出速度を制御することができる。
(2)水質改善材10では、局部電池効果による鉄元素含有粒子1からのFe
2+の放出が同時に生じるため、水質改善材10の周囲に水酸化鉄の膜が形成され、これによって核材2である粒塊状の無機材料からのアルカリ性成分の放出速度が抑制される。つまり、水質改善材10では、鉄元素含有粒子1からのFe
2+の放出量を調節することによって、アルカリ性成分の放出速度を制御することができる。
【0033】
核材2の形状は、粒状もしくは塊状であれば特に限定されるものではなく、丸みを帯びた形状であっても構わないが、散布後も定位置にとどまり続けることが望まれるため、表面積の大きい形状が好ましい。また、例えば球形、多面体状、板状、ブロック状などの任意の形状のものを核材2として使用することによって、これらの形状をなす水質改善材10が得られる。つまり、核材2を任意の形状に成形しておくことによって、水質改善材10を所望の形状にしてもよい。
また、一つの核材2に対して多数の鉄元素含有粒子1が固定化された形態とするため、核材2である粒塊状の無機材料の大きさは、一つの粒塊状の無機材料に付着している鉄元素含有粒子1の合計量に対して、体積比で1.5〜50倍程度大きくすることが好ましい。
【0034】
<炭素質物>
本実施の形態の水質改善材10は、核材2の表面の少なくとも一部分が、炭素質物3によって被覆されている。水質改善材10は、核材2へ鉄元素含有粒子1を固着させるため、焼成により炭化する有機バインダーや結着助剤を使用する。炭素質物3は、有機バインダーや結着助剤が焼成によって炭化したものである。有機バインダーとしては、例えばタール、ピッチ、天然高分子及び有機高分子より選ばれる1種以上が好ましい。有機バインダーの焼成によって生成する炭素質物3は、核材2と鉄元素含有粒子1を強固に固着させるだけでなく、水質改善材10の強度などの物性を改善できる。また、炭素質物3による核材2の被覆割合によって、Ca
2+などのアルカリ性成分の溶出速度をコントロールできる。さらには、鉄元素含有粒子1と炭素質物3の間で局部電池を形成することによって、安定的、かつ高濃度な鉄イオンの溶出を促進することができる。そのような観点から、有機バインダーとしては、固定炭素分を20重量%以上有しており、芳香環を多く含有したピッチやフェノール樹脂、リグニン、またはフェノール成分を主成分とするリグニンスルホン酸塩などが好ましく、これらの中でも、化学合成樹脂であるために重金属などの環境に有害な物質を含まず、安価であり、固定炭素分が豊富で、結着力に優れたフェノール樹脂がより好ましく、特に、600℃前後の比較的低温での焼成によって効率良く炭化するフェノールノボラック樹脂が最も好ましい。
【0035】
フェノールノボラック樹脂は、不活性または還元雰囲気における500℃以上の焼成により、固定炭素以外の水素、酸素等が分解、揮発して、焼成物の実質97重量%以上が炭素となる。また、フェノールノボラック樹脂は、焼成時に、水素、酸素などが放出されて空隙が形成されることから、水と鉄との接触面積が多くなり、局部電池による効率的な鉄イオン発生に寄与する。さらに、フェノールノボラック樹脂は、導電性を有する強固な炭化物になるため、鉄元素含有粒子1を核材2に固定化するよいバインダーとなる。
【0036】
有機バインダーは、鉄元素含有粒子1となる鉄原料100重量部に対して、例えば3〜40重量部の範囲内で配合することが好ましく、10〜30重量部の範囲内がより好ましい。有機バインダーが3重量部未満では、バインダーとしての効果がなく、鉄元素含有粒子1が脱落してしまうので好ましくない。また、40重量部を超えると焼成時に有機バインダーが溶融して鉄元素含有粒子1が埋没してしまったりすることにより、鉄イオンを溶出させる能力が低下する場合がある。
【0037】
有機バインダーは、液状でも使用可能であるが、鉄元素含有粒子1となる鉄原料に対して均一に混合させるために、粉粒体がよい。この粉粒体の粒度としては、例えばJIS規格で200〜32メッシュがよい。有機バインダーの粒度が小さすぎると混合、混練性が悪化し、大きすぎると混合、加熱溶融が不均一になる可能性がある。
【0038】
また、有機バインダーには、フェノール樹脂などに加えて、製造時に核材2への鉄元素含有粒子1の付着を促進させるために有機溶剤や結着助剤を添加してもよい。有機溶剤は、有機バインダーを溶解させることができるものであれば特に限定されず、例えば、トルエンなどの芳香族化合物、ピリジン、キノリンなどの複素環式芳香族化合物や、ケロシンなどの脂肪族系化合物など一般的な有機溶剤が使用できるが、その後の溶剤回収や作業環境への影響を考慮すると、有機溶剤の代わりに結着助剤を使用することがより好ましい。
結着助剤は、焼成時に分解もしくは炭化するものであればよいが、分解にガスを発生するものが炭素被膜にポアを形成することができるので好ましい。結着助剤は例えば、ゼラチンやデンプン糊、廃糖蜜、リグニンスルホン酸塩、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが好適である。結着助剤を使用する場合、有機バインダーと結着助剤の重量配合比(有機バインダー:結着助剤)は、例えば99:1〜30:70とすることが好ましい。このような範囲内となるように結着助剤の配合比を調整することによって、鉄元素含有粒子1の付着性や鉄イオンの溶出等に悪影響を及ぼすことなく、本実施の形態の水質改善材10を容易に製造することができる。
【0039】
<組成>
本実施の形態の水質改善材10における鉄元素含有粒子1の付着量は、水中での2価鉄イオン溶出の持続性に応じて調整され得るが、例えば、核材2の100重量部に対して鉄元素含有粒子1が1〜100重量部の範囲内であり、好ましくは5〜80重量部の範囲内、より好ましくは20〜50重量部の範囲内である。鉄元素含有粒子1の付着量が1重量部未満であると、有機バインダー由来の炭素質物3に直接接触する割合が極端に少なくなるので局部電池を形成しにくくなり、また、表面に露出する鉄が少なすぎる結果、2価鉄イオンの供給能力が低いとともに持続性が悪くなる。一方、鉄元素含有粒子1の付着量が100重量部を超えると、局部電池が形成され十分な鉄イオン供給能力は備わるが、鉄イオンが急激にかつ大量に発生する為に、材料表面が鉄の水酸化物で厚く覆われてしまう。そのため、流れの弱い底層では海水との接触が遮断されて、かえって鉄イオン発生量が低減することがあり、好ましくない。
なお、鉄元素含有粒子1には、鉄以外にその他微量の元素(Ni、Mnなど)も含まれていてもよいが、上記付着量は、単純に鉄元素含有粒子1の付着量を指す。
【0040】
<鉄/炭素比>
本実施の形態の水質改善材10における鉄と炭素の比率については、有機バインダー、結着助剤等に由来する炭素の合計100重量部に対して、鉄を10〜1500重量部の範囲内が適する。つまり、炭素質物3の重量に対する鉄元素含有粒子1の重量比である鉄/炭素比が0.1〜15の範囲内である。鉄と炭素の比率が上記範囲内となるように最適化することによって、鉄と炭素による局部電池がより効果的に発現され、鉄イオンの溶出が高濃度で継続的に起こるとともに、核材2に対する鉄元素含有粒子1の強固な固着性を確保できる。
【0041】
<見かけ比重>
本実施の形態の水質改善材10は、その粒塊状物1個の重量がおよそ1〜250g程度であることが好ましく、5〜200gがより好ましく、10〜200gが最も好ましい。粒塊状物1個の重量が1g未満であると、鉄元素含有粒子1の付着量が少ないうえに、潮の干満などの水流による搖動で散布した位置から水質改善材10が流出してしまいやすくなる。また、250gを超えると粒塊状物1個あたりの表面積は小さくなってしまうことから、散布に際して大量の水質改善材10が必要となり、大掛かりな作業となってしまう。
【0042】
<鉄元素含有粒子の結着性>
本実施の形態の水質改善材10は、その表面の鉄元素含有粒子1が核材2に有機バインダー等に由来する炭素質物3によって間接的に固着されているため、輸送や散布時において鉄元素含有粒子1の脱落がなく、かつ散布後の持続的な鉄イオンの溶出を可能とする。
鉄元素含有粒子1の結着性は、所定量の水質改善材10を、ミキサーなどを用いて一定時間機械的に撹拌することによって評価することが可能である。鉄元素含有粒子1の結着性は、撹拌前の水質改善材10の重量aに対する撹拌後の水質改善材10の重量bの比率[(b/a)×100%]として表すことができる。結着性は、95%以上あることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。鉄元素含有粒子1の結着性が95%未満であると鉄元素含有粒子1の脱落が多くなり、水質改善効果が得られにくくなる。
【0043】
<核材の被覆率>
本実施の形態の水質改善材10は、核材2の内部からのアルカリ性成分の溶出を可能にするため、核材2の表面の少なくとも一部が、鉄元素含有粒子1及び炭素質物3から露出した状態となっていることが好ましい。なお、露出の目安として、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察からは、核材2の表面における鉄元素含有粒子1及び炭素質物3による被覆率は、15%以上であることが好ましく、50〜98%の範囲内がより好ましく、80〜95%の範囲内であることが最も好ましい。核材2の被覆率が15%未満であると、核材2の露出面積が大きすぎるために、Ca
2+などのアルカリ性成分の溶出速度が大きくなりすぎる傾向があり、溶出速度の制御が困難になるので好ましくない。一方、核材2の被覆率が98%を超えると、核材2の露出面積が小さすぎるため外部の水との接触が少なくなり、アルカリ性成分の溶出量が低下するので好ましくない。ただし、水質改善材10において、アルカリ性成分の溶出を目的としない場合は、核材2の全表面が被覆されていてもよい。なお、核材2の被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、水質改善材10を任意に50個選び、各水質改善材10について、その全表面積に対する、鉄元素含有粒子1及び炭素質物3で覆われている部分の面積の比率を算出し、平均したものである。
【0044】
<鉄溶出量>
本実施の形態の水質改善材10は、3重量%濃度の塩水(塩化ナトリウム水溶液)に7日間の浸漬を3回繰り返したときの3回目における水質改善材10の鉄付着量1gあたりにおける1日あたりの鉄溶出量が1.0ppm以上であることが好ましく、1.5ppm以上がより好ましく、さらに、2.0ppm以上であることが望ましい。このように底質等の環境中に高濃度の2価鉄イオンを供給することによって、硫化水素やリンをトラップして短期間で水質改善効果を得ることができるほか、微生物をはじめとする生物群の活性を高めてより高い水質改善効果を上げることが可能となる。
【0045】
<Ca溶出量>
本実施の形態の水質改善材10は、3重量%濃度の塩水(塩化ナトリウム水溶液)に7日間浸漬したときの水質改善材10の1gあたりにおける1日あたりのCa溶出量(Ca
2+として)が1ppm以上であることが好ましく、1.5ppm以上であることが望ましい。
また、Ca溶出量は、さらに、7日間の浸漬を3回繰り返したときの3回目において、水質改善材10の1gあたりにおける1日あたりの溶出量が3.5ppm以下となることが好ましく、3ppm以下となることがより好ましく、2ppm以下となることが最も望ましい。
このように底質等の環境中にCa
2+を供給することによって、硫化水素の発生源となる硫黄酸化物のイオンやリンをトラップして短期間で水質改善効果を得ることができるほか、カルシウムの過剰な溶出の影響による鉄溶出の妨害を無くし、微生物をはじめとする生物群の活性を高めてより高い水質改善効果を上げることが可能となる。
【0046】
<熱重量減少率>
さらに、本実施の形態の水質改善材10は、不活性雰囲気中での熱重量分析における100℃〜500℃までの温度における重量減少率が1%以下であることが好ましい。100℃から500℃までの重量減少率が1%以下であるということは、有機バインダーなどに含まれる有機物が完全に炭素化していることを示している。そのため、水中に散布したときに鉄元素含有粒子1が脱離しにくく、かつ環境に有害な有機化合物が水質改善材10から溶出することが無いため、本材料による新たな環境負荷を生じることもない。
【0047】
本実施の形態の水質改善材10は、局部電池効果による2価鉄イオンの溶出を妨げない範囲において、鉄と炭素以外に、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム等の元素を含有する鉱物系の無機物等をさらに含んでいても構わない。なお、前記の鉱物系の無機物には、鉛や銅、クロム、カドミウムなどの環境上有害な重金属は含まれない。
【0048】
[製造方法]
本実施の形態の水質改善材10は、核材2の表面に鉄元素含有粒子1が、有機バインダー等に由来する炭素質物3で結着され、鉄元素含有粒子1の一部が表面に露出していれば、製造方法としては特に限定されるものはない。
水質改善材10の好ましい製造方法として、以下の製法1〜3を挙げることができる。
【0049】
<製法1>
製法1は、以下の工程A〜工程Dを含むことができる。
工程A:
鉄元素含有粒子1となる鉄原料及び有機バインダー(さらに、必要に応じて有機溶剤や結着助剤を含んでもよい。以下、「有機バインダー等」と記すことがある)を混合し、それらの複合物を製造する工程。
工程B:
核材2を100℃〜300℃の範囲内の温度で加熱する工程。
工程C:
加熱された核材2の表面に、工程Aで得た複合物を付着させて鉄付着核材(鉄付着無機材料)を作製する工程。
工程D:
鉄付着核材を不活性または還元雰囲気において500℃以上の温度で焼成して水質改善材10を得る工程。
【0050】
<製法2>
製法2は、製法1の工程B、工程Cに替えて、以下の工程B1、工程C1を含むことができる。なお、工程A、工程Dは、製法1と同様である。
工程B1:
核材2を、有機溶媒に浸漬するか、又は核材2に有機溶媒をスプレーして、表面および内部を有機溶媒で濡らして含浸させる工程。
工程C1:
有機溶媒を含浸させた核材2と、工程Aで得た複合物を混合した後、有機溶媒により有機バインダーを溶解しながら鉄原料を核材2に付着させて鉄付着核材を作製する工程。
なお、工程C1は、常温で、または加温しながら行うことができる。
【0051】
<製法3>
製法3は、製法1の工程B、工程Cに替えて、以下の工程B2、工程C2を含むことができる。なお、工程A、工程Dは、製法1と同様である。
工程B2:
核材2をアクリル、エポキシなどの有機系又はでんぷんのりなどの水系の結着助剤に浸漬するか、または核材2に結着助剤をスプレーして、表面を濡らしておく工程。
工程C2:
結着助剤で濡れた核材2と、工程Aで得た複合物を混合し、鉄原料を核材2に付着させて鉄付着核材を作成する工程。
【0052】
なお、製法1〜3の工程Aにおいて、鉄原料や有機バインダー等の原料の配合順序は、特に限定されず、鉄原料と結着助剤などとの混合物をまず作成してから有機バインダーを配合してもよいし、すべての原料を一度に配合してもよい。他の添加物を配合する場合もまた同様である。
【0053】
配合方法については、各種ブレンダーやミキサーなど一般的な混合機を使用することができる。
【0054】
また、工程Bで核材2の表面を加熱する装置は、連続式、バッチ式を問わず、一般的な(熱風)高温炉、キルンなどでよい。また、不活性雰囲気が好ましい。また、工程B1で核材2を有機溶媒で濡らす場合には、一般的なスプレー塗布でもよく浸漬でもよい。浸漬の場合には、減圧にして核材2の内部までしみ込ませると接着性の面でさらによい。また、工程B2で核材2を結着助剤で濡らす場合も同様な方法でよい。
【0055】
工程Cで、核材2の表面に工程Aで得た複合物を付着させる方法としては、たとえば、ミキサー(コンクリートミキサーなどの回転式が簡便である)がよく、核材2を流動させながら複合物を噴きかけてもよい。
ただし、核材2の表面を加熱して有機バインダーを熱で溶融して結着させる場合には、核材2の表面温度を有機バインダーの軟化点または融点以上にしておく必要がある。具体的には、前段階の工程Bで核材2を、100℃〜300℃の範囲内の温度、好ましくは有機バインダーの軟化点または融点よりも30〜150℃の範囲内で高い温度に加熱しておくとよい。たとえば、軟化点が90℃のバインダーピッチやフェノールノボラック樹脂の場合には、核材2の表面を200℃くらいに加熱しておくと接着性が高くなる。加熱温度が低すぎると、有機バインダーが軟化または溶融せず、接着性が低く、鉄元素含有粒子1が欠落しやすい。加熱温度が高すぎると、有機バインダーがダマになり、核材2の表面に均一に付着しない。
【0056】
工程C、工程C1又は工程C2で作成された鉄付着核材2は、造粒時に水や有機溶剤を使用した場合は60℃以上で乾燥した後、工程Dで不活性又は還元雰囲気下において焼成される。焼成には、例えば、リードハンマー炉、トップチャージ炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンあるいはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、連続式又はバッチ式のどちらであってもよい。焼成温度は有機バインダーが炭化する温度であれば特に制限はないが、少なくとも500℃以上であることが好ましい。特に有機バインダーとしてバインダーピッチを使用する場合は、ベンゾピレンなどの芳香族化合物が残留することが無いようにするため、焼成温度は700℃以上であることがより好ましく、700〜900℃の温度範囲が更に好ましい。なお、焼成温度が900℃を超えると核材2から溶出するCa
2+の量が著しく増加するために実使用時にpHが12を超えるため、2価鉄イオンの発生を阻害することになり、好ましくない。有機バインダーとしてフェノール樹脂を使用する場合は、バインダーピッチに比べて純度が高く、炭化しやすく、かつ安全性が高いことから500℃以上の焼成でよいが、コスト(炉の材質、焼成時間など)を考慮すると、好ましくは600〜800℃がよい。500℃以上の不活性または還元雰囲気下で焼成を行うことにより、有機バインダーを確実に炭化させるとともに、鉄原料中に含まれる酸化鉄の還元も行うことができる。焼成により得られた本実施の形態の水質改善材10は、BODの増加や有害な化学物質および重金属の溶出などの環境負荷がなく、局部電池効果によって2価鉄イオンを速やかに、かつ多量に溶出することができる。
なお、工程Dの焼成は複数回行ってもよく、一度焼成した水質改善材10を鉄やマンガンなどの化合物の水溶液に浸漬したのち、再度焼成を行うこともできる。
【0057】
以上のように、焼成工程を経た水質改善材10は、その後、不活性または還元雰囲気下のまま徐冷、もしくは徐冷の後、大気雰囲気下で取り扱いが可能な温度まで放冷されたのち、使用に供される。このようにして製造される水質改善材10は、例えば、河川や湖沼、海域の湾内などの水中に散布するだけで、底質環境や水質の改善効果が奏される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0059】
[鉄含有粒子の同定]
材料表面に焼結した鉄粒子と炭素質の被膜を粉砕したのち、さらに乳鉢で微粉砕(平均粒径75μm程度)し、X線回折装置(リガク社製、RINT−TTRIII、X線管球:CuKα、管電流:300mA、管電圧:50kV)にて鉄成分の同定を行った。
なお、表には同定された鉄成分のうち、主成分を記載した。
【0060】
[鉄付着量]
材料の被覆層の粉砕物を乳鉢でさらに微粉砕し、湿式分解−誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法にて測定した。
【0061】
[核材の被覆率]
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、実施例及び比較例で作製した水質改善材を任意に50個選び、各表面の任意の20箇所の画像を30倍率で撮影し、各水質改善材について、画像解析ソフト(WinRooF:三谷商事株式会社製)を用いてその撮像面積に対する、鉄元素含有粒子及び炭素質物で覆われている部分の面積の比率を算出し、平均したものである。
【0062】
[熱重量減少率測定]
核材に付着した鉄/炭素被膜を剥離・粉砕したものを窒素雰囲気下で熱重量分析(TGA)を行い、熱重量減少率を測定した。測定には、株式会社リガク製 急速加熱示差熱天秤 R−TG−DTA/H8120を用い、昇温スピードは15℃/分で、100℃から500℃まで昇温させたときの重量減少率を測定した。
結果については、100〜500℃における重量減少率が1wt%以内であれば○(良好)、1wt%超であれば×(不良)とした。
【0063】
[鉄粒子の結着性]
30回転/分のボールミル用ポットに水質改善材を入れて、30rpmで3分間回転したのち重量を測定し、処理前後の重量比から以下の基準により判定した。
○(良好):処理前後の重量比が95%以上
×(不良):処理前後の重量比が95%未満
【0064】
[純水浸漬試験]
次の(1)〜(3)の手順にて行った。
(1)700℃で2時間焼成した粒塊状の無機材料を、前記無機材料の重量に対して20倍量の純水(たとえば、無機材料が5gの場合には100gの純水に浸漬する)を入れたガラス製サンプル瓶に投入する。
(2)3日間静置後、サンプル瓶を5秒間で10回、手で振とうしたのち、無機材料をピンセットでとりだして浸漬水を廃棄した後、新しい純水に交換し、再び無機材料を浸漬する。
(3)上記(2)を計3回繰り返した後、3回目の浸漬水のpHを、pHメーターを用いて測定する。
【0065】
[塩水浸漬テストによる鉄、カルシウム溶出量の測定]
3重量%濃度の塩化ナトリウム水溶液を作製し、超音波で10分処理した後、25℃、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理したものを塩水浸漬テストに用いた。また、塩水浸漬は窒素雰囲気のデシケータ内で行った。
テストに用いた水質改善材の重量に対して、20倍量の塩化ナトリウム水溶液をガラス製サンプル瓶にいれる(たとえば、水質改善材が5gの場合には100gの塩化ナトリウム水溶液に浸漬する)。これを真空デシケータ内で、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理して、窒素ガスを大気圧になるまで封入する。
7日間静置後、サンプル瓶を5秒間で10回、手で振とうしたのち、水質改善材をピンセットでとりだして浸漬水を採取した後、新しい塩化ナトリウム水溶液に交換した。上記の要領で塩水浸漬テストを合計10回繰り返した。1、3、5、10回目終了後の浸漬テスト後の水溶液を回収し、10%の硝酸を塩化ナトリウム水溶液の1/30の容量加え、加熱攪拌して、発生した沈殿を全量溶解した。得られた溶解液について、パックテスト−Fe、デジタルパックテストマルチSP(登録商標;株式会社共立理化学研究所)および、イオンクロマトグラフィー法によって全鉄濃度とカルシウム濃度を測定し、下記の数式(a)、(b)に基づき鉄溶出量とCa溶出量を算出した。
【0066】
鉄溶出量(ppm/鉄1g/日)=(C
FX/W
F)/D …(a)
Ca溶出量(ppm/水質改善材1g/日)=(C
CX/W)/D …(b)
[数式(a)および(b)において、
C
FX :浸漬テストX回目の全鉄濃度(ppm)、
C
CX :浸漬テストX回目の全Ca濃度(ppm)、
W :試験に用いた水質改善材の重量(g)、
W
F :試験に用いた水質改善材の鉄付着量(g)、
D :浸漬テストの浸漬期間:7日間、
X :浸漬テストの回数(1〜10)、を意味する]
【0067】
[硫化水素の除去性能の評価試験]
底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶に150mlのヘドロ(福岡県平松漁港にて採取)を入れ、天然海水(福岡県平松漁港にて採取)を瓶内のヘドロが巻き上がらないように静かに注ぎ込み、次いで、瓶内に空気を残さないように内蓋及び外蓋で密閉し、27℃で静置した。10日後、開封し、ヘドロから1cm上部の海水を採取し、硫化水素濃度を測定したところ、約10ppmであった。硫化水素濃度は株式会社共立理化学研究所のパックテスト(型式:WAK−S)にて測定した。
硫化水素測定後、水質改善材を迅速に静かにヘドロ上の中心に置き、再度、空気が残らないように密封して、1日後、ヘドロから1cm上部の海水を採取し、硫化水素濃度を測定した。その後、空気が残らないように密封して、10日、20日後も同様に硫化水素濃度を測定した。なお、鋳鉄粉については、ヘドロ上に満遍なく散布した。
【0068】
[リン酸除去性能の評価試験]
リン酸水素2ナトリウム・12水塩から作成したリン25ppm及び塩化ナトリウム3%水溶液30mlを入れた50mlのサンプル瓶に、硫化水素除去性能の評価試験と同様の水質改善材を浸漬させた。その後サンプル瓶を密閉して1日、5日、20日にその都度開封して試料水を採取し、そのリン濃度をICPにて測定した。
【0069】
[使用原料]
・鉄粒子
鋳鉄粉(竹内工業株式会社製、28メッシュアンダー品 炭素:2〜4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5〜1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)
・核材
鉄鋼スラグA(転炉系スラグ)、純水浸漬試験後の浸漬水pH:11.8
鉄鋼スラグB(高炉系スラグ)、純水浸漬試験後の浸漬水pH:11.9
自然石(市販砕石)、純水浸漬試験後の浸漬水pH:9.2
コンクリート廃材(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社九州製造所内の解体現場から採取)、純水浸漬試験後の浸漬水pH:9.3
珊瑚石(市販品、奄美大島産)、純水浸漬試験後の浸漬水pH:10.2
アルミナボール(新東Vセラックス、Φ10mm)、純水浸漬試験後の浸漬水pH:7.5
・有機バインダー
バインダーA(フェノールノボラック樹脂;昭和高分子社製、BRG−555、軟化点67℃)
バインダーB(コールタールピッチ粉;日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、軟化点:85℃、固定炭素分:58重量%、50メッシュアンダー)
【0070】
[実施例1]
5.0g/個の鉄鋼スラグ塊[鉄鋼スラグA(転炉系スラグ)]を180℃のオーブンに3時間入れて加熱した。次いで、表1のとおり、焼成後の鉄/炭素比が0.15となるように鋳鉄粉とフェノールノボラック樹脂を混合した混合粉を準備し、先の加熱した鉄鋼スラグ塊とともに容器に入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、鉄鋼スラグ塊表面に鋳鉄粉とフェノールノボラック樹脂を付着させた。
【0071】
表面に鋳鉄粉とフェノールノボラック樹脂を付着させた鉄鋼スラグ塊は、燃料としてコークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉に入れ、100℃/時間で昇温し、700℃で2時間焼成した。焼成後は、自然放冷して、50℃以下になった時点で実施例1となる水質改善材である焼成物を取り出した。
【0072】
[実施例2]
5.0g/個の鉄鋼スラグ塊[鉄鋼スラグA(転炉系スラグ)]を230℃のオーブンに3時間入れて加熱した。次いで、表1のとおり、焼成後の鉄/炭素比が0.15となるように鋳鉄粉とコールタールピッチ粉を混合した混合粉を準備し、先の加熱した鉄鋼スラグ塊とともに容器に入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、鉄鋼スラグ塊表面に鋳鉄粉とコールタールピッチ粉を付着させた。
【0073】
表面に鋳鉄粉とコールタールピッチ粉を付着させた鉄鋼スラグ塊は、燃料としてコークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉に入れ、100℃/時間で昇温し、900℃で2時間焼成した。焼成後は、自然放冷して、50℃以下になった時点で実施例2となる水質改善材である焼成物を取り出した。
【0074】
[実施例3〜4]
鋳鉄粉の量及び焼成温度を表1に示すとおりとした以外は、実施例2と同様にして焼成物を得た。
【0075】
[実施例5〜6]
鋳鉄粉の量、及び鉄/炭素比を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして焼成物を得た。
【0076】
[実施例7]
核材として鉄鋼スラグB(高炉系スラグ)を180℃のオーブンに3時間入れて加熱した。次いで、表2のとおり、焼成後の鉄/炭素比が0.15となるように鋳鉄粉とフェノールノボラック樹脂を混合した混合粉を準備し、先の加熱した高炉系スラグとともに容器に入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、高炉系スラグ表面に鋳鉄粉とフェノールノボラック樹脂を付着させた。
その後は、焼成温度を表2のとおりとした以外は、実施例1と同様にして焼成物を得た。
【0077】
[実施例8]
核材の種類を自然石に変え、鋳鉄粉の量、及び焼成温度を表2のとおりとした以外は、実施例7と同様にして焼成物を得た。
【0078】
[実施例9]
核材の種類を破砕したコンクリート廃材に変え、鉄/炭素比を表2のとおりとした以外は、実施例7と同様にして焼成物を得た。
【0079】
[実施例10]
核材の種類を珊瑚石に変え、鉄/炭素比、及び焼成温度を表2のとおりとした以外は、実施例7と同様にして焼成物を得た。
【0080】
[比較例1]
鉄粒子を付着させずに、鉄鋼スラグA(転炉系スラグ)を単独でそのまま使用した。
【0081】
[比較例2]
鋳鉄粉の量、及び鉄/炭素比を表2に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして焼成物を得た。
【0082】
[比較例3]
鋳鉄粉の量及び鉄/炭素比、及び焼成温度を表2に示すとおりとした以外は、実施例2と同様にして焼成物を得た。
【0083】
[比較例4]
核材としてアルミナボールを180℃のオーブンに3時間入れて加熱した。次いで、焼成後の鉄/炭素比が0.17となるように鋳鉄粉とフェノールノボラック樹脂を混合した混合粉を準備し、先の加熱したアルミナボールとともに容器に入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、アルミナボール表面に鋳鉄粉とフェノールノボラック樹脂を付着させた。
その後は実施例1と同様にして焼成物を得た。
【0084】
以上で得られた実施例および比較例の焼成物の製造条件を表1〜表2にまとめて示した。また、これらの評価結果を表1〜表4に示した。なお、表3及び表4は、7日間の塩水浸漬テストを1回、3回もしくは5回繰り返したときの上記数式(a)、(b)に基づいて求められるCaとFeの溶出量を意味する。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
実施例1〜10の水質改善材は、核材となる粒塊状の無機材料に鉄含有粒子と炭化した有機バインダーによってその表面が適度に被覆されているため、投入初期における大量のCaの速やかな溶出と、その後の鉄と炭素の局部電池効果による2価鉄イオンの大量かつ長期的な溶出が可能である。このため、比較例1の鉄鋼スラグA(転炉系スラグ)単体のように初期のCa溶出が過剰であって、鉄の溶出が極わずかであったりすることがなく、本発明の目的に適した材料であることが分かる。また、鉄/炭素比及び核材の被覆率がコントロールされていない比較例2、3について、比較例2では鉄含有粒子の剥落が生じてしまい、比較例3では核材からのFe及びCaの溶出が極めて少なかった。核材をアルミナボールとした比較例4は、アルカリ性成分を含まないため、Caの溶出が観られなかった。
【0090】
[実施例11〜20、比較例5〜12]
次に、本発明の水質改善材の硫化水素及びリン酸の除去性能を確認するために、評価試験を行った。
硫化水素の除去性能の評価試験に使用した実施例及び比較例の水質改善材の詳細と試験結果を表5に示す。
また、リン酸除去性能の評価試験に使用した実施例及び比較例の水質改善材の詳細と試験結果を表6に示す。
なお、比較例8、12では、市販の水質改善材として、キレート化された鉄イオン(フルボ酸鉄)とケイ素を溶出するもの(商品名;キレートマリン、日の丸産業株式会社製)を用いた。
【0091】
【表5】
【0092】
表5の結果から、実施例11〜15の水質改善材は、初期から持続的に硫化水素濃度が低下したのに対して、比較例5の高炉系スラグ単体では、ほとんど硫化水素濃度の低下は見られず、比較例8のキレートマリンでは、逆に硫化水素濃度上昇が見られた。高炉系スラグ単体では、硫化水素濃度の低減効果はなく、キレートマリンでは、それ自体に有機物が含まれていることから逆に硫酸塩還元菌の活性が高まったためと思われた。また、比較例6の鋳鉄粉や核材をアルミナボールとした比較例7は、実施例の水質改善材と同様に硫化水素濃度の低下が確認された。
【0093】
【表6】
【0094】
表6の結果から、実施例16〜20の水質改善材は、投入初期に溶出したカルシウムと長期的に溶出する鉄イオンの影響により、安定的にリン濃度が減少した。それに対し、比較例9〜12では時間の経過とともにリンの除去性能が低下した。これは、比較例9の高炉系スラグ単体の場合には、時間の経過とともにカルシウム及び鉄の発生が消滅したためと考えられる。また、核材をアルミナボールとした比較例11や、鋳鉄粉またはキレートマリンを使用した比較例10、12では、投入初期のカルシウムの溶出が無い事に加え、時間の経過とともに鉄イオンの発生量が低下したためと思われる。
【0095】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、鉄元素含有粒子1に比較して、有意に粒度が大きい粒塊状の無機材料を核材2として組み合わせた水質改善剤10を例示したが、鉄元素含有粒子1と、例えばJIS規格の試験篩で3.5メッシュ以上のサイズとなるように微粉砕した無機材料の非粒塊状物もしくは粉末状物とを炭素質物3によって固化して水質改善剤10としてもよい。