【実施例】
【0018】
実施例1〜9および比較例1〜10として、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。
[研磨用組成物の調製]
<実施例1>
200mL容量の樹脂製カップに、水を67.2g、カプリル酸(炭素数7の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸成分)を1.6g、48%水酸化カリウム水溶液を1.3g(水酸化カリウムとして0.61g)、動的光散乱法により測定される累計の50%粒子径(D50)が69nmである固形分濃度50質量%のコロイダルシリカを30.0g(固形分として15.0g)入れて、室温で30分間撹拌することにより、研磨用組成物を得た。
この研磨用組成物のコロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水の合計量(Mt)に対するコロイダルシリカの量(Ms)の割合(Ms/Mt)は15質量%である。また、カルボン酸成分の量(Mc)の割合(Mc/Mt)は1.6質量%である。
【0019】
<実施例2〜9および比較例1〜10>
コロイダルシリカの添加量、カルボン酸成分の種類と添加量、水の添加量、およびこれら三成分以外の添加成分と添加量を、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同じ方法で、各研磨用組成物を得た。なお、比較例7では、カルボン酸成分と塩基性化合物を個別に添加する代わりに、市販のクエン酸三ナトリウム塩をそのまま用いた。比較例8では、市販のフタル酸水素カリウム塩を用いた。比較例10では、グルコン酸カリウム塩を用いた。
【0020】
実施例2および実施例3の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が実施例1より多い27質量%および20質量%の例である。
実施例3〜5の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が同じでカプリル酸の含有率を、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内で変化させた例である。
実施例6の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数9の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸であるカプリン酸を用いた例である。
【0021】
実施例7の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数7の分岐状の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸である2−エチルヘキサン酸を用いた例である。
実施例8の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数8の脂肪族炭化水素基を有する2価のカルボン酸であるセバシン酸を用いた例である。
実施例9の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数4の脂肪族炭化水素基を有する2価のカルボン酸であるアジピン酸を用いた例である。
【0022】
比較例1の研磨用組成物は、カルボン酸成分を含まない例である。
比較例2の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が1.5質量%の例である。
比較例3の研磨用組成物は、カルボン酸成分の割合(Mc/Mt)が0.005質量%の例である。
比較例4の研磨用組成物は、カルボン酸成分の割合(Mc/Mt)が6.3質量%の例である。
比較例5の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数13の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸であるミリスチン酸を用いた例である。
【0023】
比較例6の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数2の脂肪族炭化水素基を有する2価のカルボン酸であるコハク酸を用いた例である。
比較例7の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、三価の脂肪族カルボン酸であるクエン酸を用いた例である。
比較例8の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、芳香族カルボン酸であるフタル酸を用いた例である。
比較例9の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、四価の脂肪族カルボン酸であるエチレンジアミン四酢酸を用いた例である。
比較例10の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭化水素基を有さないグルコン酸を用いた例である。
【0024】
[研磨用組成物の物性測定と増粘性評価]
得られた各研磨用組成物のpHを測定した。この結果も表1に示す。
得られた各研磨用組成物について、調製直後と、調製後に25℃で3か月間静置した後に、25℃での粘度を測定した。また、3か月間静置後の粘度から、研磨用組成物の増粘性を評価した。この結果も表1に示す。評価に関しては、25℃での粘度が100mPa・s以下であるものを、増粘性が低いと判断して表1に「○」で示し、25℃での粘度が100mP・sを超えた場合とゲル化した場合を、増粘性が高いと判断して表1に「×」で示した。
【0025】
[研磨用組成物の研磨試験と評価]
実施例1〜9および比較例1〜10の研磨用組成物を、上記と同じ方法で、それぞれ1kg調製した。得られた各研磨用組成物を使用し、以下に示す条件で研磨試験を行った。
<研磨条件>
研磨機:卓上研磨機EJ−380IN(日本エンギス株式会社製)
研磨パッド:ポリウレタン製研磨パッド(ニッタ・ハース(株)製SUBA 800)
研磨対象物:直径3インチ、厚さ0.5mmのタンタル酸リチウムウェハ
研磨圧力:400kg/cm
2
定盤回転数:30rpm
ヘッド回転数:−20rpm(定盤の回転方向に対して逆方向に回転)
研磨用組成物の供給速度:250mL/分(循環)
研磨時間:30分間
【0026】
<研磨時の泡高さの測定>
研磨開始から10分後に、研磨用組成物の投入容器を観察し、研磨用組成物の液面からの泡の高さを測定するとともに、泡立ち性を評価した。この結果も表1に示す。評価に関しては、泡立ちが認められなかった場合と泡の高さが20mm以下の場合を、泡立ち性が低いと判断して表1に「○」で示し、泡の高さが20mmを超える場合を泡立ち性が高いと判断して表1に「×」で示した。
【0027】
<研磨速度の測定>
30分間の研磨後に、被研磨物を十分に洗浄して乾燥させてから、被研磨物の質量を測定した。この測定値と予め測定していた研磨前の質量とによる研磨前後の質量変化値と、被研磨面の面積と、を用いて算出される厚さの減少量から、一時間あたりの研磨速度を算出するとともに、研磨速度を評価した。この結果も表1に示す。評価に関しては、研磨速度が7.5μm/時間を超える場合を研磨速度が速いと判断して表1に「○」で示し、研磨速度が7.5μm/時間以下の場合を研磨速度が遅いと判断して表1に「×」で示した。
【0028】
<表面粗さの測定>
非接触表面形状測定機(ZYGO社製NewView5032)を用い、研磨試験後のタンタル酸リチウムウェハの表面高さの変化を、視野角289μm×217μmの範囲で計測し、算術平均粗さRaを算出した。また、この算出値から表面粗さを評価した。この値も表1に示す。評価に関しては、Raが0.500nm以下の場合を表面粗さが良好と判断して表1に「○」で示し、Raが0.500nmを超える場合を表面粗さが不良と判断して表1に「×」で示した。
なお、研磨時の泡高さが20mmを超えた比較例5では、研磨速度の測定および表面粗さの測定を行わなかった。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果から分かるように、実施例1〜9の研磨用組成物は、経時的な粘度変化が小さく、研磨時の泡立ちが低く、研磨速度が高く、研磨後のウェハの算術平均粗さRa(研磨後の研磨対象物の表面品質)が良好であった。
これに対して、比較例1〜10の研磨用組成物は、経時的な粘度変化、研磨時の泡立ち、研磨速度、および研磨後のウェハの算術平均粗さRa(研磨後の研磨対象物の表面品質)のいずれかの点が不良なものであった。具体的には以下のことが分かった。
【0031】
比較例1の研磨用組成物は、カルボン酸成分を含まないことで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例2の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が3質量%未満であることで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例3の研磨用組成物は、カルボン酸成分の量(Mc)の割合(Mc/Mt)が0.01質量%未満であることで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例4の研磨用組成物は、カルボン酸成分の量(Mc)の割合(Mc/Mt)が5質量%より多いことで、調製3か月後にゲル化した。つまり、経時的な増粘性が高いものであった。
【0032】
比較例5の研磨用組成物は、カルボン酸成分の脂肪族炭化水素基の炭素数が11より大きいことで、泡立ち性が高かった。
比較例6の研磨用組成物は、カルボン酸成分の脂肪族炭化水素基の炭素数が4より小さいことで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例7の研磨用組成物は、カルボン酸成分である脂肪族カルボン酸の価数が2より大きいことで、調製3か月後にゲル化した。つまり、経時的な増粘性が高いものであった。
比較例8の研磨用組成物は、カルボン酸成分が、脂肪族カルボン酸ではなく芳香族カルボン酸であったことで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例9の研磨用組成物は、カルボン酸成分である脂肪族カルボン酸の価数が2より大きいことで、調製3か月後にゲル化した。つまり、経時的な増粘性が高いものであった。
比較例10の研磨用組成物は、カルボン酸成分である脂肪族カルボン酸が炭化水素基を有さないことで、高い研磨速度が得られなかった。