特開2019-172904(P2019-172904A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-172904(P2019-172904A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20190913BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20190913BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20190913BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
   C09G1/02
   B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-65204(P2018-65204)
(22)【出願日】2018年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 康行
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB03
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED10
3C158ED24
3C158ED26
(57)【要約】
【課題】タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨する研磨用組成物として、研磨速度が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くでき、経時的な増粘も抑制できるものを提供する。
【解決手段】この発明の研磨用組成物は、コロイダルシリカ、炭素数4〜11の脂肪族炭化水素基を有する1価または2価の脂肪族カルボン酸からなるカルボン酸成分、および水を含有し、コロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水の合計量に対するコロイダルシリカの量の割合が3質量%以上50質量%以下であり、この合計量に対するカルボン酸成分の量の割合が0.01質量%以上5質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ、炭素数4〜11の脂肪族炭化水素基を有する1価または2価の脂肪族カルボン酸からなるカルボン酸成分、および水を含有し、
前記コロイダルシリカ、前記カルボン酸成分、および前記水の合計量に対する前記コロイダルシリカの量の割合が3質量%以上50質量%以下であり、
前記合計量に対する前記カルボン酸成分の量の割合が0.01質量%以上5質量%以下である研磨用組成物。
【請求項2】
pHが7以上12以下である請求項1記載の研磨用組成物。
【請求項3】
タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなる基板表面の研磨で使用される請求項1または2記載の研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を用いて、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなる基板表面を研磨する研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、研磨用組成物および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨するための研磨用組成物としては、特許文献1〜4に記載されたものが挙げられる。
特許文献1には、研磨粒子として平均粒子径100nm以下のコロイダルシリカを含み、添加剤としてクエン酸化合物と硫酸塩を含有し、クエン酸化合物の添加量がコロイダルシリカに対して0.01〜0.12mol/Lである研磨用スラリーが記載されている。このスラリーは、研磨速度が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くする(例えば、表面粗さを小さくする)こともできるが、経時的に増粘することがある。
【0003】
特許文献2には、粒子径の異なる二種類のシリカと、エチレンジアミン四酢酸等のキレート性化合物を含む研磨用組成物が記載されている。この組成物は、研磨速度が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くすることもできるが、経時的に増粘することがある。
特許文献3には、研磨材と、グルコン酸カリウム等のアルドース誘導体と、水とを含有する研磨用組成物が記載されている。この組成物は、経時的に増粘することがないため安定性が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くすることもできるが、近年の高い研磨速度の要求に対応できるものではない。
特許文献4には、水および研磨粒子の他に、フタル酸やコハク酸等の有機酸を研磨促進剤として含む酸性の研磨スラリーが記載されている。このスラリーは、経時的に増粘しないため安定性が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くすることもできるが、近年の高い研磨速度の要求に対応できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−48359号公報
【特許文献2】特開2007−321159号公報
【特許文献3】特開2006−150482号公報
【特許文献4】特開2003−306669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、先行技術の研磨用組成物はいずれも、研磨速度が高いこと、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くできること、および経時的な増粘が抑制できることの全てを満たすものにはなっていない。
この発明の課題は、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨する研磨用組成物として、研磨速度が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くでき、経時的な増粘が抑制できるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明の一態様は、コロイダルシリカ、炭素数4〜11の脂肪族炭化水素基を有する1価または2価の脂肪族カルボン酸からなるカルボン酸成分、および水を含有し、コロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水の合計量に対するコロイダルシリカの量の割合が3質量%以上50質量%以下であり、この合計量に対するカルボン酸成分の量の割合が0.01質量%以上5質量%以下である研磨用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨する研磨用組成物として、研磨速度が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くでき、経時的な増粘が抑制できるものが提供される。
また、この発明の研磨用組成物を用いて、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなる基板表面を研磨することで、研磨速度を高くすることができるとともに、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
この実施形態の研磨用組成物は、コロイダルシリカ、炭素数4〜11の脂肪族炭化水素基を有する1価または2価の脂肪族カルボン酸からなるカルボン酸成分、および水を含有する。コロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水の合計量(Mt)に対するコロイダルシリカの量(Ms)の割合(Ms/Mt)が3質量%以上50質量%以下である。また、この合計量(Mt)に対するカルボン酸成分の量(Mc)の割合(Mc/Mt)が0.01質量%以上5質量%以下である。
【0009】
この実施形態の研磨用組成物を用いて、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨することにより、研磨速度が高く、研磨後の研磨対象物の表面品質を高くできるとともに、経時的な増粘も抑制できる。
コロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水を含有する研磨用組成物において、カルボン酸成分をなす1価または2価の脂肪族カルボン酸の脂肪族炭化水素基の炭素数が3以下であると、この研磨用組成物でタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨する際に、高い研磨速度(例えば、7.5μm/時間を超える速度)が得られない傾向にある。カルボン酸成分の脂肪族炭化水素基の炭素数が12以上であると、研磨時に研磨用組成物が泡立ちやすくなる傾向にある。カルボン酸成分の脂肪族炭化水素基の炭素数は4以上9以下であることが好ましく、7以上9以下であることがより好ましい。
【0010】
コロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水を含有する研磨用組成物において、カルボン酸成分の脂肪族炭化水素基の炭素数が4〜11であっても、3価以上の脂肪族カルボン酸であると、研磨用組成物が経時的に増粘しやすくなると推測される。
コロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水を含有する研磨用組成物において、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が3質量%未満であると、この研磨用組成物でタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨する際に、高い研磨速度(例えば、7.5μm/時間を超える速度)が得られない傾向にある。コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が50質量%より多いと、水の割合が50質量%未満となるため、研磨用組成物の分散安定性が不十分になる傾向にある。
【0011】
コロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水を含有する研磨用組成物において、カルボン酸成分の割合(Mc/Mt)が0.01質量%未満であると、カルボン酸成分の添加量が少なすぎて実質的にカルボン酸成分の添加による作用が得られない。そのため、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの酸化物単結晶からなる基板表面を研磨する際に、高い研磨速度(例えば、7.5μm/時間を超える速度)が得られない傾向にある。また、カルボン酸成分の割合(Mc/Mt)が5質量%を超えると、研磨用組成物が経時的に増粘しやすくなる傾向にある。
【0012】
カルボン酸成分の割合(Mc/Mt)の好ましい範囲は、0.05質量%以上4質量%以下であり、より好ましい範囲は、0.1質量%以上3質量%以下である。
コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)の好ましい範囲は、10質量%以上50質量%以下であり、より好ましい範囲は、10質量%以上45質量%以下であり、さらに好ましい範囲は、15質量%以上45質量%以下である。
この実施形態の研磨用組成物のpHは7以上12以下であることが好ましい。pHが7未満であると、研磨用組成物の分散安定性が不良になる場合があり、pHが12を超えるとコロイダルシリカが溶解する可能性がある。pHのより好ましい範囲は8以上12以下、さらに好ましい範囲は8以上11以下である。
【0013】
[研磨用組成物の構成成分について]
コロイダルシリカとしては、動的光散乱法により測定される累計の50%粒子径が15nm以上100nm以下であるものを用いることが好ましく、25nm以上80nm以下であるものを用いることがより好ましい。コロイダルシリカの粒子径が小さすぎると研磨能力が低下し、大きいと製造コストが高くなる。なお、コロイダルシリカの動的光散乱法による累計の50%粒子径の測定には、例えば日機装株式会社製のUPA−151を用いることができる。
【0014】
一態様の研磨用組成物は、炭素数4〜11の脂肪族炭化水素基を有する1価または2価の脂肪族カルボン酸からなるカルボン酸成分を含有する。このカルボン酸成分としては、炭化水素基部分が直鎖状であっても分岐状であってもよく、n−吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、n−ヘプタン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、n−ノナン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2,4−ジエチルグルタル酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0015】
カルボン酸成分は、そのまま使用してもよく、塩基性化合物との塩として使用してもよい。カルボン酸成分の塩基性化合物との塩は、市販されているものをそのまま使用してもよく、カルボン酸成分と塩基性化合物とを個別に添加して使用してもよい。塩基性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、アミン化合物、およびこれらの水溶液などが挙げられる。
水は、研磨用組成物中の水以外の成分を分散又は溶解する媒質としての役割を担う。水は、工業用水、水道水、蒸留水、又はそれらをフィルター濾過したものであってもよく、不純物をできるだけ含有しないことが好ましい。
【0016】
一態様の研磨用組成物は、コロイダルシリカ以外の研磨材として、コロイダルシリカに加えてアルミナ、フュームドシリカ、非晶質シリカパウダーなどを含有してもよい。
一態様の研磨用組成物は、pH調整剤、防カビ剤、界面活性剤等をさらに含有してもよい。
pH調整剤は、硫酸や塩酸、硝酸、リン酸、炭酸などの無機酸、又は酢酸やシュウ酸などの有機酸であってもよいし、無機酸又は有機酸の塩であってもよい。また、pH調整剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、アミン化合物、水酸化テトラメチルアンモニウムなどのアルカリ化合物であってもよい。
【0017】
防カビ剤は、窒素及び硫黄を含有する有機系防カビ剤であることが好ましい。研磨用組成物中の防カビ剤の含有量は、好ましくは0.001質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。
界面活性剤は、例えば、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤は、研磨用組成物中の研磨材の分散性を向上させる作用を有する。
【実施例】
【0018】
実施例1〜9および比較例1〜10として、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。
[研磨用組成物の調製]
<実施例1>
200mL容量の樹脂製カップに、水を67.2g、カプリル酸(炭素数7の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸成分)を1.6g、48%水酸化カリウム水溶液を1.3g(水酸化カリウムとして0.61g)、動的光散乱法により測定される累計の50%粒子径(D50)が69nmである固形分濃度50質量%のコロイダルシリカを30.0g(固形分として15.0g)入れて、室温で30分間撹拌することにより、研磨用組成物を得た。
この研磨用組成物のコロイダルシリカ、カルボン酸成分、および水の合計量(Mt)に対するコロイダルシリカの量(Ms)の割合(Ms/Mt)は15質量%である。また、カルボン酸成分の量(Mc)の割合(Mc/Mt)は1.6質量%である。
【0019】
<実施例2〜9および比較例1〜10>
コロイダルシリカの添加量、カルボン酸成分の種類と添加量、水の添加量、およびこれら三成分以外の添加成分と添加量を、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同じ方法で、各研磨用組成物を得た。なお、比較例7では、カルボン酸成分と塩基性化合物を個別に添加する代わりに、市販のクエン酸三ナトリウム塩をそのまま用いた。比較例8では、市販のフタル酸水素カリウム塩を用いた。比較例10では、グルコン酸カリウム塩を用いた。
【0020】
実施例2および実施例3の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が実施例1より多い27質量%および20質量%の例である。
実施例3〜5の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が同じでカプリル酸の含有率を、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内で変化させた例である。
実施例6の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数9の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸であるカプリン酸を用いた例である。
【0021】
実施例7の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数7の分岐状の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸である2−エチルヘキサン酸を用いた例である。
実施例8の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数8の脂肪族炭化水素基を有する2価のカルボン酸であるセバシン酸を用いた例である。
実施例9の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数4の脂肪族炭化水素基を有する2価のカルボン酸であるアジピン酸を用いた例である。
【0022】
比較例1の研磨用組成物は、カルボン酸成分を含まない例である。
比較例2の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が1.5質量%の例である。
比較例3の研磨用組成物は、カルボン酸成分の割合(Mc/Mt)が0.005質量%の例である。
比較例4の研磨用組成物は、カルボン酸成分の割合(Mc/Mt)が6.3質量%の例である。
比較例5の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数13の脂肪族炭化水素基を有する1価のカルボン酸であるミリスチン酸を用いた例である。
【0023】
比較例6の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭素数2の脂肪族炭化水素基を有する2価のカルボン酸であるコハク酸を用いた例である。
比較例7の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、三価の脂肪族カルボン酸であるクエン酸を用いた例である。
比較例8の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、芳香族カルボン酸であるフタル酸を用いた例である。
比較例9の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、四価の脂肪族カルボン酸であるエチレンジアミン四酢酸を用いた例である。
比較例10の研磨用組成物は、カルボン酸成分として、炭化水素基を有さないグルコン酸を用いた例である。
【0024】
[研磨用組成物の物性測定と増粘性評価]
得られた各研磨用組成物のpHを測定した。この結果も表1に示す。
得られた各研磨用組成物について、調製直後と、調製後に25℃で3か月間静置した後に、25℃での粘度を測定した。また、3か月間静置後の粘度から、研磨用組成物の増粘性を評価した。この結果も表1に示す。評価に関しては、25℃での粘度が100mPa・s以下であるものを、増粘性が低いと判断して表1に「○」で示し、25℃での粘度が100mP・sを超えた場合とゲル化した場合を、増粘性が高いと判断して表1に「×」で示した。
【0025】
[研磨用組成物の研磨試験と評価]
実施例1〜9および比較例1〜10の研磨用組成物を、上記と同じ方法で、それぞれ1kg調製した。得られた各研磨用組成物を使用し、以下に示す条件で研磨試験を行った。
<研磨条件>
研磨機:卓上研磨機EJ−380IN(日本エンギス株式会社製)
研磨パッド:ポリウレタン製研磨パッド(ニッタ・ハース(株)製SUBA 800)
研磨対象物:直径3インチ、厚さ0.5mmのタンタル酸リチウムウェハ
研磨圧力:400kg/cm2
定盤回転数:30rpm
ヘッド回転数:−20rpm(定盤の回転方向に対して逆方向に回転)
研磨用組成物の供給速度:250mL/分(循環)
研磨時間:30分間
【0026】
<研磨時の泡高さの測定>
研磨開始から10分後に、研磨用組成物の投入容器を観察し、研磨用組成物の液面からの泡の高さを測定するとともに、泡立ち性を評価した。この結果も表1に示す。評価に関しては、泡立ちが認められなかった場合と泡の高さが20mm以下の場合を、泡立ち性が低いと判断して表1に「○」で示し、泡の高さが20mmを超える場合を泡立ち性が高いと判断して表1に「×」で示した。
【0027】
<研磨速度の測定>
30分間の研磨後に、被研磨物を十分に洗浄して乾燥させてから、被研磨物の質量を測定した。この測定値と予め測定していた研磨前の質量とによる研磨前後の質量変化値と、被研磨面の面積と、を用いて算出される厚さの減少量から、一時間あたりの研磨速度を算出するとともに、研磨速度を評価した。この結果も表1に示す。評価に関しては、研磨速度が7.5μm/時間を超える場合を研磨速度が速いと判断して表1に「○」で示し、研磨速度が7.5μm/時間以下の場合を研磨速度が遅いと判断して表1に「×」で示した。
【0028】
<表面粗さの測定>
非接触表面形状測定機(ZYGO社製NewView5032)を用い、研磨試験後のタンタル酸リチウムウェハの表面高さの変化を、視野角289μm×217μmの範囲で計測し、算術平均粗さRaを算出した。また、この算出値から表面粗さを評価した。この値も表1に示す。評価に関しては、Raが0.500nm以下の場合を表面粗さが良好と判断して表1に「○」で示し、Raが0.500nmを超える場合を表面粗さが不良と判断して表1に「×」で示した。
なお、研磨時の泡高さが20mmを超えた比較例5では、研磨速度の測定および表面粗さの測定を行わなかった。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果から分かるように、実施例1〜9の研磨用組成物は、経時的な粘度変化が小さく、研磨時の泡立ちが低く、研磨速度が高く、研磨後のウェハの算術平均粗さRa(研磨後の研磨対象物の表面品質)が良好であった。
これに対して、比較例1〜10の研磨用組成物は、経時的な粘度変化、研磨時の泡立ち、研磨速度、および研磨後のウェハの算術平均粗さRa(研磨後の研磨対象物の表面品質)のいずれかの点が不良なものであった。具体的には以下のことが分かった。
【0031】
比較例1の研磨用組成物は、カルボン酸成分を含まないことで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例2の研磨用組成物は、コロイダルシリカの割合(Ms/Mt)が3質量%未満であることで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例3の研磨用組成物は、カルボン酸成分の量(Mc)の割合(Mc/Mt)が0.01質量%未満であることで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例4の研磨用組成物は、カルボン酸成分の量(Mc)の割合(Mc/Mt)が5質量%より多いことで、調製3か月後にゲル化した。つまり、経時的な増粘性が高いものであった。
【0032】
比較例5の研磨用組成物は、カルボン酸成分の脂肪族炭化水素基の炭素数が11より大きいことで、泡立ち性が高かった。
比較例6の研磨用組成物は、カルボン酸成分の脂肪族炭化水素基の炭素数が4より小さいことで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例7の研磨用組成物は、カルボン酸成分である脂肪族カルボン酸の価数が2より大きいことで、調製3か月後にゲル化した。つまり、経時的な増粘性が高いものであった。
比較例8の研磨用組成物は、カルボン酸成分が、脂肪族カルボン酸ではなく芳香族カルボン酸であったことで、高い研磨速度が得られなかった。
比較例9の研磨用組成物は、カルボン酸成分である脂肪族カルボン酸の価数が2より大きいことで、調製3か月後にゲル化した。つまり、経時的な増粘性が高いものであった。
比較例10の研磨用組成物は、カルボン酸成分である脂肪族カルボン酸が炭化水素基を有さないことで、高い研磨速度が得られなかった。