(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-174588(P2019-174588A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20190913BHJP
G02F 1/03 20060101ALI20190913BHJP
【FI】
G02F1/035
G02F1/03 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-61211(P2018-61211)
(22)【出願日】2018年3月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人情報研究通信機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/高い環境耐性を有するキャリアコンバータ技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】細川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】本谷 将之
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA01
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102BD09
2K102CA04
2K102DA04
2K102DB04
2K102DC03
2K102DC04
2K102DD03
2K102DD05
2K102DD07
2K102EA02
(57)【要約】
【課題】高周波領域における周波数応答性を改善した光導波路素子を提供する。
【解決手段】電気光学効果を有する基板10と、該基板に形成された光導波路11と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極12とを有する光導波路素子において、該基板を接着層20を介して保持する補強基板30を備え、該補強基板は、該補強基板を平面視した際の少なくとも一部の領域に、該補強基板を厚さ方向に区分するように、該補強基板よりも誘電率が低い低誘電率部31を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極とを有する光導波路素子において、
該基板を接着層を介して保持する補強基板を備え、
該補強基板は、該補強基板を平面視した際の少なくとも一部の領域に、該補強基板を厚さ方向に区分するように、該基板よりも誘電率が低い低誘電率部を有することを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、
該低誘電率部は、少なくとも該制御電極の入力端部又は出力端部の下方の領域に設けられることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光導波路素子において、
該制御電極は、該光導波路を伝搬する光波に変調作用を及ぼす作用区間を有し、
該低誘電率部は、少なくとも該作用区間の下方の領域に設けられることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光導波路素子において、
該低誘電率部は、該補強基板の側面から内部に向かって形成された凹部に、該基板よりも誘電率が低い低誘電率材を充填して形成されることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光導波路素子において、
該低誘電率部は、該補強基板を厚さ方向に略等分する位置に設けられることを特徴とする光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極とを有する光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極とを有する導波路型光変調器などの光導波路素子が多用されている。光導波路素子の中には、石英、ニオブ酸リチウム、半導体やポリマー材料などの基板に、異なる材料を添加することで基板材料より高屈折率としたり、リッジ型の凸状部を形成して光導波路を備えるものがある。
【0003】
近年、光導波路が形成される導波路基板を薄板化すると共に、導波路基板の裏面側に補強基板を接着剤層により接合して補強する構造の光導波路素子が開発されている。このような光導波路素子によれば、従来の数百μm〜数mmの厚い導波路基板を用いた光導波路素子で観測される基板共振による透過特性(S21)の損失(リップル)を回避することができる。
【0004】
ところが、ミリ波領域においてS21リップルが出現することが判明した。これは、補強基板側にミリ波が漏洩したためである。その対策として、特許文献1には、補強基板の上面、すなわち、接着剤層の下側に金属層(金や銅)を設け、ミリ波信号の漏洩を避ける方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、補強基板に金属層を形成するために、煩雑なプロセスが必要であった。また、特許文献1では50GHzまでの特性しか想定しておらず、5G技術などで想定されているより高い周波数領域においては問題が残っていた。また、導波路基板を薄くする方が低Vπ化に有利であるが、薄くすると裏面の金属層によって電磁界が乱され、周波数応答がより劣化してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3963313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、高周波領域における周波数応答性を改善した光導波路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子は、以下のような技術的特徴を有する。
(1)電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極とを有する光導波路素子において、該基板を接着層を介して保持する補強基板を備え、該補強基板は、該補強基板を平面視した際の少なくとも一部の領域に、該補強基板を厚さ方向に区分するように、該基板よりも誘電率が低い低誘電率部を有することを特徴とする。
【0009】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該低誘電率部は、少なくとも該制御電極の入力端部又は出力端部の下方の領域に設けられることを特徴とする。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、該制御電極は、該光導波路を伝搬する光波に変調作用を及ぼす作用区間を有し、該低誘電率部は、少なくとも該作用区間の下方の領域に設けられることを特徴とする。
【0011】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該低誘電率部は、該補強基板の側面から内部に向かって形成された凹部に、該基板よりも誘電率が低い低誘電率材を充填して形成されることを特徴とする。
【0012】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光導波路素子において、該低誘電率部は、該補強基板を厚さ方向に略等分する位置に設けられることを特徴とする光導波路素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光導波路が形成される基板を保持する補強基板は、該補強基板を平面視した際の少なくとも一部の領域に、該補強基板を厚さ方向に区分するように、該補強基板よりも誘電率が低い低誘電率部を有するので、該補強基板における共振を原因とするリップルの周波数が、より高周波側にシフトする。したがって、高周波領域における周波数応答性を改善した光導波路素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光導波路素子の例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る光導波路素子の別の例を示す図である。
【
図3】補強部材の厚さ方向における低誘電率部の位置を説明する図である。
【
図4】補強部材の厚さ方向における低誘電率部の位置を説明する図である。
【
図5】本発明構成による周波数応答性を従来構成(1)と比較した図である。
【
図6】本発明構成による周波数応答性を従来構成(2)と比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。なお、以下で示す例によって本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態に係る光導波路素子の例を示す図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る光導波路素子の別の例を示す図である。
【0016】
本発明の光導波路素子は、
図1,
図2に示すように、電気光学効果を有する基板10と、該基板に形成された光導波路11と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極12とを有する光導波路素子において、該基板を接着層20を介して保持する補強基板30を備え、該補強基板は、該補強基板を平面視した際の少なくとも一部の領域に、該補強基板を厚さ方向に区分するように、該補強基板よりも誘電率が低い低誘電率部31を有することを特徴とする。
【0017】
基板10としては、石英、ニオブ酸リチウム、半導体材料など光導波路を基板に形成できる材料であれば、特に限定されない。光変調器等の電極が形成する電界で光導波路を伝搬する光波を変調する場合には、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板を用いることが好ましい。また、30μm以下の薄い基板を用いる場合には、本発明をより効果的に適用することができる。電気光学効果を有する基板には、結晶基板に例えばエピタキシャル成長などで電気光学効果を有する膜を形成したものも含まれる。
【0018】
光導波路11の形成方法としては、Ti等の金属を基板中に熱拡散し、基板材料より高屈折率な部分を形成する方法や、基板表面に凹凸を形成しリッジ型導波路を構成する方法などが適用可能である。光導波路11としては、マッハツェンダー型導波路や、マッハツェンダー型導波路を入れ子状に組み合わせたネスト型導波路などを用いることができる。
【0019】
制御電極12としては、高周波信号(RF信号)が印加される変調電極やこれを取り巻く接地電極、DC信号が印加されるバイアス電極などがある。なお、
図1,
図2では、変調電極のみを図示している。これら制御電極は、基板表面にTi・Auの電極パターンを形成し、金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO
2 等のバッファ層を設けることも可能である。
【0020】
基板10の裏面(下側)には、光導波路素子の機械的強度を高めるために、補強基板30が接着層20を介して接合される。補強基板30は、基板10と同様に、種々の材料を用いて形成することができる。補強基板30は、基板10と同じ材料を用いることが好ましいが、異なる材料を用いても構わない。
【0021】
接着層20の屈折率は、基板10を構成する電気光学材料よりも低いことが好ましい。また、接着層20の誘電率は、基板10を構成する電気光学材料よりも低いことが好ましい。接着層20としては、例えば、エポキシ系接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化性接着剤など、種々の接着剤を用いることができる。
【0022】
本発明の主な特徴は、補強基板30が、補強基板を平面視した際の少なくとも一部の領域に、補強基板を厚さ方向に区分するように形成された低誘電率部31を有することである。つまり、補強基板30の表面(上側)や裏面(下側)ではなく、補強基板の厚さ方向の中間部分に低誘電率部31を設けるようにした。
【0023】
このように補強基板の一部に低誘電率部が介在すると、補強基板の実効的な誘電率が小さくなるので、補強基板における共振周波数はより高周波側にシフトすることになる。その結果、上記共振現象に起因するS21リップルをより高周波側にシフトさせ、ミリ波領域における周波数応答性を改善することが可能になる。
【0024】
低誘電率部31は、基板10より低い誘電率であればよく、単なる空洞でもよい。ただし、機械的強度を高めるために、基板よりも誘電率が低い低誘電率材を充填することが好ましい。低誘電率材としては、接着層20と同様に、種々の材料を用いて形成することができる。低誘電率材は、接着層20と同じ材料を用いることが好ましいが、異なる材料を用いても構わない。
【0025】
補強基板30に低誘電率部31を設ける領域としては、制御電極12に印加される高周波の制御信号の影響が現れやすい領域であればよい。具体的には、
図1に示すように、制御電極12の入力端部又は出力端部の下方の領域に設けることが好ましい。更には、低誘電率部31は、
図2に示すように、制御電極12の作用区間、すなわち、光導波路12を伝搬する光波に変調作用を及ぼす区間の下方の領域に設けることが好ましい。
【0026】
なお、
図1,
図2に示す低誘電率部31は、補強基板30の側面から内部に向かってダイサー等で溝加工して形成できる凹部を用いることで、簡易に作製することができる。上述したように、凹部の空洞部分は低誘電率材を充填して補強することが好ましい。もちろん、他の手法により低誘電率部を形成しても構わない。例えば、少なくとも一方に凹部を設けた2枚の基板を、凹部が内側になる配置で接合することで、制御電極の作用区間の下方の領域のみに低誘電率部を有する補強基板を形成することもできる。
【0027】
低誘電率部31は、
図3に示すように、補強基板30を厚さ方向に略等分する位置に設けることが好ましい(A1≒A2)。また、低誘電率部31は、補強基板30の厚さ方向に複数設けてもよい。この場合にも、
図4に示すように、補強基板30を複数の低誘電率部31で厚さ方向に区分した各区画の厚さが、それぞれ略同一になるようにすることが好ましい(B1≒B2≒B3)。
【0028】
次に、本発明構成による周波数応答性の改善効果について、
図5,
図6を参照して説明する。ここでは、基板10の厚さをTとした場合に、接着層20の厚さを約5T、補強基板30の厚さを約50Tとした条件の下で、周波数応答性の検証を行った。
【0029】
図5には、基板10に接着層20を介して補強基板30を接合しただけの従来構成(1)の周波数応答性(破線)と、この補強基板30に低誘電率部31を設けた本発明構成の周波数応答性(実線)とを示してある。なお、本発明構成は、補強基板30の厚さ方向を、低誘電率部31より上側の区間、低誘電率部31の区間、低誘電率部31より下側の区間に3等分した構造となっている。
図5によれば、従来構成(1)では、50GHzを超えたあたりからS21リップルが出現しているのに対し、本発明構成によれば、85GHzあたりまで安定した周波数応答性が得られていることが理解できる。
【0030】
図6には、補強基板30の表面、すなわち接着層20と補強基板30の間に金属膜(Au)を設けた従来構成(2)の周波数応答性(破線)と、本発明構成の周波数応答性(実線)とを示してある。なお、従来構成(2)は、背景技術において説明した特許文献1の構成に対応するものである。
図6によれば、従来構成(2)では、70GHzの後半あたりからS21リップルが出現しているのに対し、本発明構成によれば、85GHzあたりまで安定した周波数応答性が得られていることが理解できる。
【0031】
以上のように、本発明によれば、従来方式に比べ、高周波領域における周波数応答性を改善できることが分かる。また、特許文献1のような補強基板の表面に金属膜を形成するプロセスが不要となり、高周波領域における周波数応答性が優れた光導波路素子を簡易に提供することが可能となる。
【0032】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した内容に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更することが可能である。また、各実施例を適宜組み合わせ得ることは言うまでもない
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、高周波領域における周波数応答性を改善した光導波路素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 基板
11 光導波路
12 制御電極
20 接着層
30 補強基板
31 低誘電率部