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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-174733(P2019-174733A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】光素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/03 20060101AFI20190913BHJP
   G02F 1/035 20060101ALI20190913BHJP
【FI】
   G02F1/03 505
   G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-65082(P2018-65082)
(22)【出願日】2018年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝利
(72)【発明者】
【氏名】中野 清隆
(72)【発明者】
【氏名】村上 英司
(72)【発明者】
【氏名】市川 潤一郎
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA22
2K102BA01
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102BD09
2K102CA09
2K102DA04
2K102DB04
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】LN基板に直接電極を形成した光素子であって、ドリフト現象を抑制した光素子を提供する。
【解決手段】ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、基板上に配置した電極とを有する光素子において、基板と電極とが直接接触すると共に、電極側の接触する面に配置される接触金属は、酸化した時の1配位結合当りの標準生成エンタルピーが、五酸化ニオブの1配位結合当りの標準生成エンタルピーよりも大きい金属材料が使用されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子において、
該基板と該電極とが直接接触すると共に、
該電極側の前記接触する面に配置される接触金属は、酸化した時の1配位結合当りの標準生成エンタルピーが、五酸化ニオブの1配位結合当りの標準生成エンタルピーよりも大きい金属材料が使用されていることを特徴とする光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光素子において、該接触金属が、Co、Ni、Mo、W、Vの何れかを使用していることを特徴とする光素子。
【請求項3】
ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子において、
該基板と該電極とが直接接触すると共に、
該電極側の前記接触する面に配置される接触金属は、酸化物導体が使用されていることを特徴とする光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光素子において、該基板の厚みは、20μm以下であることを特徴とする光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光素子に関し、特に、ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信や光計測の技術分野にて、ニオブ酸リチウム(LiNbO。以下「LN」という。)を基板に用いた光変調器などの光素子が多用されている。
例えば、導波路型LN変調器は、波長チャープが小さく、位相・強度変調が可能であることから、高速・長距離用光通信の送信器に搭載されている。近年、マッハツェンダー(MZ)構造を有する導波路を複数個集積させた多値変調器が主流になっている。
【0003】
集積化のためには、変調効率を上げる必要があり、Xカット型のニオブ酸リチウム(LN)を持いた変調器では、LN基板に直接電極を形成する方法も採用されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、LN変調器は、光通信の基幹系に用いるため、長期間(約20年)に亘って動作させることが必要となる。この長期動作で課題になる現象としてドリフト現象がある。LN変調器におけるドリフト現象の解明やその改善は、LN基板と電極との間にSiO等の誘電体(バッファ(BF)層)を介在させた構造において行われている。この構造では正のドリフト現象を示し、SiO中にInやSn等をドーパントさせ、BF層の抵抗を調整することで、正のドリフト現象を抑制している。
【0005】
他方、上述したLN基板に直接電極を形成した場合については、これまで、このような構成が余り採用されなかったこともあり、ドリフト現象に関する原因の解明や改善は、あまり行われていない(特許文献1、3参照)。
【0006】
しかしながら、LN基板に直接電極を形成する方法は、集積化や変調効率において有利であることから、Xカット型のLN基板に直接電極を形成した光変調器を試作してドリフト現象の評価を行った。
【0007】
本試験(第1試験)では、図1(a)に示すように、Xカット型のLN基板に、Tiを熱拡散した光導波路を形成すると共に、制御電極を形成した光変調器を用いた。電極長は40mmであり、電極間間隔は25μmに設定した。図1(a)の点線A−Aにおける断面図である図1(b)に示すように、LN基板と接触する制御電極の材質(接触金属)として、一般的に用いられているTi(非特許文献1、特許文献2)を採用し、その上にAuのメッキ層を形成した。図1の光変調器に対し、サンプルAでは、測定前に、電圧を印加しない状態で、200℃で1時間の熱負荷を行っており、サンプルBでは、測定前に、電圧を印加しない状態で、280℃で1時間の熱負荷を行っている。この2種類のサンプルA及びBを、85℃で定電圧印加させた時のドリフト現象の挙動を図2に示す。
【0008】
熱負荷温度によって、ドリフト量が大きく異なっており、熱による変化が生じていることが解る。このドリフトの方向は負であるため、バイアス電圧は収束する方向に働く(特許文献4)ことから、実使用上問題ない。
【0009】
しかしながら、LN基板に直接電極を形成したLN変調器では、サンプルAとBのように、測定前の加熱温度が異なるだけで、ドリフト現象に差が発生し、ドリフト発生原因がこれまで特定できていなかった。また、原因が不明であるため、LN変調器の品質担保が難しいという問題も生じている。さらに、LN変調器のバイアス制御を高頻度で実施しなければならないという問題も発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4375597号公報
【特許文献2】特許第3954192号公報
【特許文献3】米国特許明細書第8070368号
【特許文献4】特許第2798350号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“A Review of Lithium Niobate Modulators for Fiber-Optic Communications Systems”, IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, Vol.6, No.1, pp 69(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上述した問題を解決し、LN基板に直接電極を形成した光素子であって、ドリフト現象を抑制した光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の光素子は、以下のような技術的特徴を有する。
(1) ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子において、該基板と該電極とが直接接触すると共に、該電極側の前記接触する面に配置される接触金属は、酸化した時の1配位結合当りの標準生成エンタルピーが、五酸化ニオブの1配位結合当りの標準生成エンタルピーよりも大きい金属材料が使用されていることを特徴とする。
【0014】
(2) 上記(1)に記載の光素子において、該接触金属が、Co、Ni、Mo、W、Vの何れかを使用していることを特徴とする。
【0015】
(3) ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子において、該基板と該電極とが直接接触すると共に、該電極側の前記接触する面に配置される接触金属は、酸化物導体が使用されていることを特徴とする。
【0016】
(3) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光素子において、該基板の厚みは、20μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子において、該基板と該電極とが直接接触すると共に、該電極側の前記接触する面に配置される接触金属は、酸化した時の1配位結合当りの標準生成エンタルピーが、五酸化ニオブの1配位結合当りの標準生成エンタルピーよりも大きい金属材料が使用されているため、ドリフト現象が抑制された光素子を提供することができる。
【0018】
また、本発明により、ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子において、該基板と該電極とが直接接触すると共に、該電極側の前記接触する面に配置される接触金属は、酸化物導体が使用されているため、ドリフト現象が抑制された光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ドリフト現象の第1試験をおこなったLN変調器の平面図(a)と断面図(b)である。
図2図1のLN変調器を用いて行なったドリフト現象の第1試験の結果を示すグラフである。
図3】ドリフト現象の第2試験をおこなったLN変調器の平面図(a)と断面図(b)である。
図4図3のLN変調器を用いて行なったドリフト現象の第2試験の結果を示すグラフである。
図5】ドリフト現象の第3試験をおこなったLN変調器の平面図(a)と断面図(b)である。
図6図5のLN変調器を用いて行なったドリフト現象の第3試験の結果を示すグラフである。
図7】第4試験をおこなった試験サンプルの平面図(a)と断面図(b)である。
図8】第4試験の結果(経過時間と電流/電圧の変化)を示すグラフである。
図9】第4試験の結果(印加電圧と電流の立上り時間Tとの関係)を示すグラフである。
図10】第4試験の結果(測定温度と電流の立上り時間Tとの関係)を示すグラフである。
図11】Ti膜側からLN基板側へ深さ方向のAES(Auger Electron Spectroscopy)分析を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る光素子について、詳細に説明する。
本発明者は、鋭意研究を行った結果、LN基板に直接電極を形成した場合、接触する金属が基板内の酸素を取り込み、LN基板に酸素欠損を発生させることが、ドリフト現象を発生させることを見出し、本発明を生み出したものである。
【0021】
本発明は、ニオブ酸リチウム結晶で形成された基板と、該基板上に配置した電極とを有する光素子において、該基板と該電極とが直接接触すると共に、該電極側の前記接触する面に配置される接触金属は、酸化した時の1配位結合当りの標準生成エンタルピーが、五酸化ニオブの1配位結合当りの標準生成エンタルピーよりも大きい金属材料が使用されていることを特徴とする。具体的には、該接触金属は、Co、Ni、Mo、W、Vの何れかを使用することが好ましい。
【0022】
さらに、LN基板の厚みが20μm以下のように、薄板を用いる場合には、基板の厚みに対する酸素欠乏領域の深さが占める割合が高くなるため、ドリフト現象がより顕著に発生する。このため、20μm以下の厚みのLN基板を用いる場合には、本発明がより有効に効果を発揮することが期待される。
【0023】
LN基板に直接接触する金属(接触金属)について、接触金属を従来のTiやCrからNiやW等の酸化時の1配位結合当りの標準生成エンタルピーがNbよりも大きい材料にすることで、接触金属にLN基板の酸素が奪われることを抑制でき、接触金属とLN基板界面近傍の電気抵抗の低下を抑制できることから、接触金属とLN基板との界面の酸素欠損量の経時変化抑制や、LN基板の高抵抗が保持される。その結果、LN変調器等の光素子のドリフト量が小さくなるだけでなく、熱によるドリフト現象の変化も抑制される。
【0024】
酸素と金属の結合エネルギーに相当する、酸化金属の標準生成エンタルピーの一覧を表1に示す。表1の下に行くほど、金属が酸素と結合し易くなる。このため、LN基板から酸素欠損を抑制するには、表1のNbよりも上段にある金属を接触金属として選択することが好ましい。
【0025】
【表1】
【0026】
しかしながら、Ag、Pd、Rh、Cuは、LN基板との接着性が低く、接触金属とするのは不向きである。また、SbとBaは毒性(あるいは、毒物の疑いあり)のため使用すべきではない。Feは、透磁率が非常に高く、マイクロ波損失を増大させるため、光変調器などの変調電極(制御電極)には不向きである。Bi、Sn、Inは融点が低く、製造プロセスの最高温度が制約されるため、使用に不向きである。Geは潮解性等の問題がある。さらに、Znは他金属と合金を形成し易いため、プロセス設計に問題がある。
【0027】
以上のことから、総合的に検討すると、Co、Ni、Mo、W、V、がドリフト量と熱負荷による変化の抑制に効果的と言える。当然、Nbよりも下段にある、Cr、Ta、Si、Ti、Zr、Al等は、接触金属として不適当と言える。
【0028】
基板に接触する接触金属として、「酸化した時の1配位結合当りの標準生成エンタルピーが、五酸化ニオブの1配位結合当りの標準生成エンタルピーよりも大きい金属材料」を説明したが、これに限らず、「酸化物導体」を用いることも可能である。酸化物導体は、既に酸化した金属材料のため、それ以上、LN基板から酸素を奪うことが無い。このため、酸化物導体を接触金属として用いることで、DCドリフトが抑制される。酸化物導体の例としては、ITO(Indium Tin Oxide)やRuO,IrO等がある。
【0029】
接触金属の違いによるドリフト現象の効果を確認するため、接触金属にAlを用いて第2試験を行い、さらに接触金属にNiを用いて第3試験を行った。なお、第2及び第3試験は、接触金属の材料を変えた以外は基本的に同じ条件で試験を行っている。
【0030】
各試験では、Xカット型のLN基板にTi膜をパターニングし、熱拡散することで、Ti拡散導波路を形成する。なお、Ti膜厚や熱拡散温度等の諸パラメータは、非特許文献1にも開示されているが、本試験では、Ti膜厚が90nmで、990度で15時間の熱拡散を行なった。
【0031】
次に、このTi拡散導波路を形成したXカット型のLN基板に、接触金属膜100nmを形成し、その上にAu膜50nmを真空蒸着にて順次堆積させた。その後、フォトリソグラフィ技術と電解金メッキにて、3μmの厚みの制御電極(電極長40mm,電極間間隔25μm)を形成する。
【0032】
第2試験では、図3の平面図(a)及び断面図(b)に示すLN変調器を作成した。特に、接触金属にAlを用いているが、熱負荷によるAlとAuの合金反応を抑制させるために、AlとAuの間にTi(厚み100nm)を挿入している(図3(b)参照)。
【0033】
図3のLN変調器に対し、測定前に、電圧を印加しない状態で、200℃で1時間の熱負荷を行ったものと、280℃で1時間の熱負荷を行ったものを用意した。次に、LN変調器に、85℃で定電圧印加(8Vの電圧印加)させた時のドリフト現象の評価結果を図4に示す。
【0034】
図2に示す接触金属がTiの時のグラフと同様に、熱負荷でドリフト現象がより大きく変化することが確認できる。これは、接触金属をTiからAlにすることで、LN基板中の酸素欠陥の生成が多くなったことが原因であると想定される。
【0035】
第3試験では、接触金属にNiを用いたLN変調器を作成した。電極間のAu膜や接触金属のNi膜はケミカルエッチング等で除去される。Au膜のエッチング液は、ヨウ素ヨウ化カリウム水溶液、Ni膜のエッチング液は、希硝酸等が好適に用いられる。第3試験で使用するLN変調器は、図5の平面図(a)及び断面図(b)に示されている。
【0036】
図5のLN変調器に対し、測定前に、電圧を印加しない状態で、200℃で1時間の熱負荷を行ったものと、280℃で1時間の熱負荷を行ったものを用意した。次に、LN変調器に、85℃で定電圧印加(8Vの電圧印加)させた時のドリフト現象の評価結果を図6に示す。図6に示すように、接触金属にNiを用いた場合には、ドリフト現象に関しては、熱負荷による変化がほとんど見られなかった。
【0037】
図2、4及び6に示すグラフから明らかなように、LN基板に直接電極を形成したLN変調器では、ドリフト現象が接触金属によって変化することが理解される。しかも、接触金属がLN基板から酸素を奪い、LN基板に酸素欠損を生じさせ、その結果、ドリフト現象が測定前の熱負荷によって変化すると想定される。
【0038】
次に、接触金属によって、LN基板の酸素が奪われる場合、熱負荷による加速変化だけでなく、印加電圧による加速変化が考えられる。そのため、接触金属がTiのサンプルを作成し、定電圧印加時の電極間の電流の時間変化を調べる第4試験を行った。
【0039】
試験サンプルは、測定誤差を避けるために、図7に平面図(a)及び断面図(b)を示すように、LN基板の外周に沿ってガード電極を配置し、電極は櫛形構造(電極A及びB)にしている。図7(a)に示すように、電極長10mm、電極間間隔15μmの櫛形電極を形成し、電極A及びBは、外周の接地電極から100μm以上離れている。図7(b)に示すように、LN基板上に、接触金属Tiを100nm、その上面にAuメッキを4μm形成している。
【0040】
電極Aに所望の電圧を印加し、電極Bの電圧を0Vにする。この時の電極Bを流れる電流を評価する。測定結果の1例を図8に示す。図8では、電極Aに印加する電圧は60Vである。空気雰囲気にてLN基板の導電性(抵抗の逆数)の経時変化を測定している。図8に示すように、電圧印加初期は電流があまり流れないが、ある時刻を境に急激に電流が流れ出す。図8に示す両矢印部分を、「電流の立上り時間(T)」と定義する。
【0041】
図9は、電流の立上り時間(T)と印加電圧の関係を調べた結果を示している。図9は、両対数グラフであり、測定結果が直線上にあることが解る。
【0042】
さらに、印加電圧を固定し、温度(T)依存性を調べた結果を図10に示す。図10は、片対数グラフであり、Tと温度(T)の関係は、アレニウスの式に従っていた。つまり、接触金属をTiとした場合は、Tは、以下の式1に示すアイリングモデルに従っている。
【0043】
【数1】
【0044】
この結果から、Tiを接触金属としたLN変調器を高温・高電圧下で、長時間使用するとドリフトの挙動が変化する理由が理解できる。このアイリングモデルは、セラミックコンデンサの寿命予測で用いられており、セラミックコンデンサのリーク電流のメカニズムは、酸素欠損が関連していることが知られている。LN基板でも同様に、酸素欠損によって、低抵抗化していることが推測される。
【0045】
これに対し、図7の接触金属をTiからNiに置き換えた場合には、図8に示すような電流の立上り現象が発生しなかった。このため、上述したTを定義することはできなかった。この比較試験は、熱処理によるドリフト現象が図5及び6の接触金属Niでは生じなかった結果と整合している。
【0046】
さらに、接触金属によって、LN基板との界面に酸素欠損が生成されることを確認する試験を行った。まず、Xカット型のLN基板上にTi膜を膜厚200nm堆積させた。この基板を3分割し、3種類の熱負荷(なし、200℃、300℃)を加えた。3つのサンプルをTi膜側からLN基板側へ深さ方向のAES(Auger Electron Spectroscopy)分析を行った結果を図11に示す。
【0047】
図11の、熱負荷が300℃のサンプルを見ると、LN基板の表面近傍では、LN基板から酸素が奪われており、Ti膜のLN基板への接触面近傍では、酸素量が増加し、Ti膜が酸化させていことが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上、説明したように、本発明によれば、LN基板に直接電極を形成した光素子であって、ドリフト現象を抑制した光素子を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11