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特開2019-175764リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
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  • 特開2019175764-リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-175764(P2019-175764A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20190913BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190913BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20190913BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20190913BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/13
   C01B25/45 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2018-64554(P2018-64554)
(22)【出願日】2018年3月29日
(11)【特許番号】特許第6477948号(P6477948)
(45)【特許公報発行日】2019年3月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】小山 将隆
(72)【発明者】
【氏名】忍足 暁
(72)【発明者】
【氏名】山屋 竜太
(72)【発明者】
【氏名】北川 高郎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB08
5H050DA09
5H050EA08
5H050FA18
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することを可能としたリチウムイオン二次電池用正極材料を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式LiFe1−y−zPOで表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなり、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、
炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、
メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルと、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルとがそれぞれ2本に分裂していることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの四極分裂値が0.4mm/sec以上かつ1.1mm/secであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、6本に磁気分裂したピークを含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
前記{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.02以上かつ0.07以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項6】
前記中心粒子がLiFePOからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項8】
正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極として、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
オリビン系正極活物質は、結晶内のリチウムイオンが一次元方向のみに拡散するため、オリビン系正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池は、大電流を瞬間的に流した際にリチウムイオンの拡散が追い付かず、過電圧(電圧降下)が高くなるという課題があった。
【0003】
従来、3価のFeの含有量が極めて少なくするように、リン酸鉄リチウム(LiFePO)またはリン酸マンガン鉄リチウム(LiMn1−xFePO)からなるオリビン系正極活物質を合成することにより、オリビン系正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池の高容量化が可能であることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4749551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することを可能としたリチウムイオン二次電池用正極材料、そのリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用正極、および、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}を0.01以上かつ0.1以下とすることにより、意図的に少量の3価のFeを結晶内に固溶させて、結晶内に欠陥を生成し、結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下である。
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する。
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極として、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することが可能となる。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、過電圧が低いリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、過電圧が低いリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】メスバウアースペクトルにおいて、スペクトルが2本に分裂している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下である。
【0016】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、LiFe1−y−zPOからなる中心粒子(正極活物質)の一次粒子の表面が炭素質被膜によって被覆されてなる。
【0017】
LiFe1−y−zPOからなる中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、10nm以上かつ800nm以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
ここで、LiFe1−y−zPO粒子の平均一次粒子径を上記の範囲とした理由は、次の通りである。LiFe1−y−zPO粒子の平均一次粒子径が10nm未満では、微細になり過ぎて結晶性を良好に保つことが難しくなる。一方、LiFe1−y−zPO粒子の平均一次粒子径が800nmを超えると、一次粒子内でのリチウムイオン拡散距離が長くなり、入出力特性が劣化するため好ましくない。
【0018】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、0.5質量%以上かつ3.0質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以上かつ2.8質量%以下であることがより好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素原子の含有量を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。炭素原子の含有量が0.3質量%未満では、一次粒子表面の炭素質被膜が不充分となるため、一次粒子表面におけるリチウムイオン脱挿入頻度が少なくなり、入出力特性が劣化するため好ましくない。一方、炭素原子の含有量が3.4質量%を超えると、一次粒子表面の炭素質被膜が過剰となるため、炭素質被膜がリチウムイオン伝導を阻害し、入出力特性が劣化するため好ましくない。
【0019】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料において、炭素原子の含有量の測定方法は、次の通りである。
炭素硫黄分析装置(商品名:EMIA−220V、堀場製作所社製)を用いて測定する。
【0020】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、メスバウアー分光法によるメスバウアー分光分析により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下であり、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.02以上かつ0.07以下であることが好ましく、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.03以上かつ0.06以下であることがより好ましい。
{β/(β+α)×(1−y−z)}を上記の範囲内とすることにより、LiFe1−y−zPOからなる中心粒子の結晶内に少量の3価のFeを固溶させて、結晶内に欠陥を生成し、結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することが可能となる。
また、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01未満では、結晶内の欠陥量が不充分となり、結晶内のリチウムイオン拡散速度が遅くなるため好ましくない。一方、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.1を超えると、電気化学的に不活性なFe比率が過剰となり、正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下するため好ましくない。
【0021】
メスバウアー分光分析は、固体中の放射性同位元素(線源)として組み込まれたメスバウアー核(57Co→57Feの壊変過程で励起基準にある57Fe)から放出されるγ線が、もう1つの固体(試料)中での基底状態にある同種のメスバウアー核によって反跳せずに共鳴吸収されるときに、その吸収量あるいは吸収後に放出される散乱量のエネルギー依存性(メスバウアースペクトル)を調べることにより行われる。
本実施形態では、このメスバウアー分光分析により得られたスペクトルがローレンツ型の理論線型式で近似できるものとし、成分毎のピーク半値幅は全て等しく、対称位置にあるピーク高さはそれぞれで等しく、スペクトルが理論線型の足し合わせであるとの仮定の元、カーブフィッティングを行い、ピーク位置を定め、各成分の面積強度を求める。理論線型式には下記の式(1)に示す式を用いる。
【0022】
【数1】
【0023】
上記の式(1)において、f(E)はドップラー速度Eにおけるカウント、Eはドップラー速度(エネルギーに1次で比例)、Bはベースラインのカウント、Iはi番目のピークの吸収強度、Γはi番目のピークの半値幅、x0iはi番目のピーク中心、δは異性体シフト、Δは四極分裂、Hは内部磁場を示す。
また、最小二乗法にて残差の二乗和が最小となるときの各成分の相対面積比をスペクトルの面積強度とする。
【0024】
本実施形態では、メスバウアー分光法により得られるスペクトルにおいて、そのFeが常磁性(内部磁場H=0)である場合は2本に分裂したピークとして得られ、そのFeが強磁性もしくは反強磁性(内部磁場H≠0)である場合は6本に分裂したピークとして得られ、2本もしくは6本以外のピークとしては観測されない。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルと、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルとがそれぞれ2本に分裂していることが好ましい。
これら2つのスペクトルがそれぞれ2本に分裂している、スペクトルが常磁性Feに帰属されるので、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルに帰属されるFeがリチウムイオンの脱挿入に伴う電荷補償を行うことができ、また、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルに帰属されるFeが結晶内に欠陥を作り、結晶内におけるリチウムイオンの二次元拡散や三次元拡散を可能とさせることができるので好ましい。
【0026】
なお、メスバウアースペクトルにおいて、スペクトルが2本に分裂しているとは、図1に示すような状態のことである。
【0027】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの四極分裂値が、0.4mm/sec以上かつ1.1mm/sec以下であることが好ましく、0.5mm/sec以上かつ1.1mm/sec以下であることがより好ましい。
スペクトルの四極分裂値が0.4mm/sec以上であれば、Fe周辺の等方性が低く、適度に結晶内に欠陥が存在するため、入出力特性を向上できるので好ましい。一方、スペクトルの四極分裂値が1.1mm/sec以下であれば、Fe周辺の等方性が高く、結晶構造が安定化し、充放電に伴う結晶構造の歪みを抑制できるので好ましい。
【0028】
なお、メスバウアースペクトルにおける四極分裂値とは、2本に分裂したピーク間隔である。一般的には、構造的に等方的でも電気陰性度の異なる配位子が配位している場合、構造的に配置が歪んでいる場合、および、これらの混合の場合に2本に分裂すると考えられている。
【0029】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、6本に磁気分裂したピークを含まないことが好ましい。
メスバウアースペクトルにおいて、強磁性もしくは反強磁性Feに帰属される6本に磁気分裂したピークを含まないことにより、電気化学的に不活性な強磁性もしくは反強磁性Fe化合物量を低減することができ、正極材料の単位質量当たりの電池容量を向上できるため好ましい。
【0030】
炭素質被膜の厚みは、1nm以上かつ5nm以下であることが好ましい。
炭素質被膜の厚みを上記の範囲とした理由は、次の通りである。炭素質被膜の厚みが1nm未満であると、炭素質被膜の厚みが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成することができなくなる。その結果、導電性が低下し、正極材料としての導電性を確保することができなくなる。一方、炭素質被膜の厚みが5nmを超えると、電池活性、例えば、正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下する。
【0031】
炭素質被膜の被覆率は、60%以上であることが好ましく、80%以上かつ95%以下であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることにより、炭素質被膜の被覆効果が充分に得られる。
【0032】
炭素質被膜によって被覆されたLiFe1−y−zPOからなる一次粒子の平均一次粒子径は、10nm以上かつ800nm以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被膜によって被覆されたLiFe1−y−zPOからなる一次粒子(以下、「炭素質電極活物質複合粒子」と言う。)の平均一次粒子径を上記の範囲とした理由は、次の通りである。平均一次粒子径が10nm未満では、炭素質電極活物質複合粒子の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量が増加し、充放電容量が低減する。さらに、炭素被覆が困難となり、充分な被覆率の一次粒子を得ることができず、特に低温や高速充放電において良好な質量エネルギー密度が得られない。一方、平均一次粒子径が500nmを超えると、炭素質電極活物質複合粒子内でのリチウムイオンの移動または電子の移動に時間がかかり、よって、内部抵抗が増加し、出力特性が悪化するので好ましくない。
【0033】
炭素質被膜によって被覆されたLiFe1−y−zPOからなる一次粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の粒子からなる正極材料を生成し易いことから、その形状も球状であることが好ましい。
ここで、球状が好ましい理由は、次の通りである。炭素質被膜で被覆されている、一次粒子と、結着剤と、溶媒とを混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができる。さらに、このリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストの電極集電体への塗工も容易となる。また、形状が球状であれば、一次粒子の表面積が最小となり、ひいては、添加する結着剤の混合量を最小限にすることができ、得られる正極の内部抵抗を小さくすることができる。
さらに、一次粒子の形状を球状、特に真球状とすることで最密充填し易くなる。これにより、単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなり、その結果、電極密度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の高容量化を図ることができるので好ましい。
【0034】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積に対する炭素担持量([炭素担持量]/[比表面積])は、0.4mg/m以上かつ2.0mg/m以下であることが好ましく、0.5mg/m以上かつ1.6mg/m以下であることがより好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における比表面積に対する炭素担持量を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。比表面積に対する炭素担持量が0.4mg/m未満では、リチウムイオン二次電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となる。一方、比表面積に対する炭素担持量が2.0mg/mを超えると、炭素量が多すぎて、一次粒子の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下する。
【0035】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積は、1m/g以上かつ100m/g以下であることが好ましく、3m/g以上かつ50m/g以下であることがより好ましく、6m/g以上かつ30m/g以下であることがさらに好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。比表面積が1m/g未満では、結晶内でのリチウムイオンの移動または電子の移動に時間がかかり、よって、内部抵抗が増加し、出力特性が悪化するので好ましくない。一方、比表面積が100m/gを超えると、炭素質電極活物質複合粒子の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量が増加し、充放電容量が低減する。さらに、炭素被覆が困難となり、充分な被覆率の一次粒子を得ることができず、特に低温や高速充放電において良好な質量エネルギー密度が得られないため好ましくない。
【0036】
「中心粒子」
中心粒子は、Li拡散に好適な結晶構造を有するLiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)からなる。
【0037】
LiFe1−y−zPOにおいて、xが、0.85≦x≦1.1を満たすこととした理由は、次の通りである。xが0.85未満であると、負極にリチウムイオンを含まない活物質を用いた場合、電池内のリチウムイオン量が少なくなり、電池容量が低下するので好ましくない。一方、xが1.1を超えると、オリビン構造を保つことができず結晶安定性が低下するので好ましくない。
【0038】
LiFe1−y−zPOにおいて、yが、0≦y≦0.85を満たすこととした理由は、次の通りである。yが0.85を超えると、Feの比率が小さくなり過ぎるため、結晶内のリチウムイオン拡散速度や電子伝導速度が低下し、入出力特性が低下するため好ましくない。
【0039】
LiFe1−y−zPOにおいて、zが、0≦z≦0.2を満たすこととした理由は、次の通りである。zが0.2を超えると、電気化学的に不活性な金属比率が大きくなるので、正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下するので好ましくない。
【0040】
本実施形態におけるLiFe1−y−zPOは、y=0かつz=0であるものが好ましい。すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料において、中心粒子はLiFePOからなることが好ましい。
中心粒子がLiFePOからなることにより、結晶内のリチウムイオン拡散速度や電子伝導速度が向上し、入出力特性が向上する。
【0041】
一次粒子が複数個凝集した造粒体の平均粒子径(平均二次粒子径)は、0.5μm以上かつ20μm以下であることが好ましく、0.7μm以上かつ8μm以下であることがより好ましく、0.7μm以上かつ6μm以下であることがさらに好ましい。
造粒体の平均粒子径が0.5μm以上であれば、正極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際の導電助剤、および結着剤の配合量を抑えることができる。それにより、リチウムイオン二次電池用正極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、造粒体の平均粒子径が20μm以下であれば、正極合剤層中の導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0042】
「炭素質被膜」
炭素質被膜は、原料となる有機化合物が炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。炭素質被膜の原料となる炭素源は、炭素の純度が42.00%以上かつ60.00%以下の有機化合物由来であることが好ましい。
【0043】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素質被膜の原料となる炭素源の「炭素の純度」の算出方法としては、複数種類の有機化合物を用いる場合、各有機化合物の配合量(質量%)と既知の炭素の純度(%)から、各有機化合物の配合量中の炭素量(質量%)を算出、合算し、その有機化合物の総配合量(質量%)と総炭素量(質量%)から、下記の式(2)に従って算出する方法が用いられる。
炭素の純度(%)=総炭素量(質量%)/総配合量(質量%)×100・・・(2)
【0044】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}を0.01以上かつ0.1以下とすることにより、意図的に少量の3価のFeを結晶内に固溶させて、結晶内に欠陥を生成し、結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することが可能となる。したがって、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むリチウムイオン二次電池用正極を備えるリチウムイオン二次電池は、過電圧が低い。
【0045】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、Li源、Fe源、A源、M源およびP源を、水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーαを、100℃以上かつ300℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて、LiFe1−y−zPO粒子を合成する工程と、炭素源を含む水溶媒中にLiFe1−y−zPO粒子を分散させてなる原料スラリーβを乾燥して、造粒した後、500℃以上かつ1000℃以下の範囲の温度に加熱することで、LiFe1−y−zPO粒子(一次粒子)の表面を炭素質被膜によって被覆する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0046】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下の範囲となるように調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、水熱合成時のFe源に2価Fe化合物と3価Fe化合物を共に用いることで、結晶内に3価のFeを固溶させる方法が挙げられる。その場合、2価Fe化合物と3価Fe化合物の使用量を調整することで、2価のFeに起因する異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度αと3価のFeに起因する異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度βを調整することができ、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下の範囲となるように調整することができる。
【0047】
LiFe1−y−zPO粒子の合成方法は特に限定されないが、例えば、Li源、Fe源、A(Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種)源、M(Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)源およびP源を、水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌してLiFe1−y−zPOの前駆体を含む原料スラリーαを調製する。
【0048】
これらLi源、Fe源、A源、M源およびP源を、これらのモル比(Li源:Fe源:A源:M源:P源)、すなわち、Li:Fe:A:M:Pのモル比が0.85〜5:0.1〜2:0〜2:0〜2:1〜2となるように水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌・混合して原料スラリーαを調製する。
これらLi源、Fe源、A源、M源およびP源は、均一に混合する点を考慮すると、Li源、Fe源、A源、M源およびP源をそれぞれ、一旦、水溶液の状態とした後、混合することが好ましい。
この原料スラリーαにおけるLi源、Fe源、A源、M源およびP源のモル濃度は、高純度であり、結晶性が高くかつ非常に微細なLiFe1−y−zPO粒子を得る必要があることから、0.1mol/L以上かつ3mol/L以下であることが好ましい。
【0049】
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩、および、これらの水和物が挙げられる。Li源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
なお、リン酸リチウム(LiPO)は、Li源およびP源としても用いることができる。
【0050】
Fe源としては、例えば、2価Fe化合物としては塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の鉄化合物またはその水和物等が用いられ、3価Fe化合物としてはリン酸鉄リチウム(III)(FePO)、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の鉄化合物またはその水和物等が用いられる。2価Fe化合物のみFe源としてもよいし、3価Fe化合物のみをFe源としてもよいし、2価Fe化合物と3価Fe化合物を共にFe源としてもよい。2価Fe化合物と3価Fe化合物を共にFe源とすれば、結晶内に3価のFeを固溶させやすくなるので好ましい。
【0051】
Mn源としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl)、硫酸マンガン(II)(MnSO)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Mn源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0052】
Co源としては、Co塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Co源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0053】
Ni源としては、Ni塩が好ましく、例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))および、これらの水和物が挙げられる。Ni源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0054】
Mg源としては、Mg塩が好ましく、例えば、塩化マグネシウム(II)(MgCl)、硫酸マグネシウム(II)(MgSO)、硝酸マグネシウム(II)(Mg(NO)、酢酸マグネシウム(II)(Mg(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Mg源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0055】
Ca源としては、Ca塩が好ましく、例えば、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0056】
Co源としては、Co塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Co源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0057】
Sr源としては、Sr塩が好ましく、例えば、炭酸ストロンチウム(SrCo)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0058】
Ba源としては、Ba塩が好ましく、例えば、塩化バリウム(II)(BaCl)、硫酸バリウム(II)(BaSO)、硝酸バリウム(II)(Ba(NO)、酢酸バリウム(II)(Ba(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0059】
Ti源としては、Ti塩が好ましく、例えば、塩化チタン(TiCl、TiCl、TiCl)、酸化チタン(TiO)、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0060】
Zn源としては、Zn塩が好ましく、例えば、塩化亜鉛(II)(ZnCl)、硫酸亜鉛(II)(ZnSO)、硝酸亜鉛(II)(Zn(NO)、酢酸亜鉛(II)(Zn(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Zn源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0061】
B源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のホウ素化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0062】
Al源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のアルミニウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0063】
Ga源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のガリウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0064】
In源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のインジウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0065】
Si源としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、四塩化珪素(SiCl)、ケイ酸塩、有機ケイ素化合物等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0066】
Ge源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のゲルマニウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0067】
希土類元素源としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0068】
P源としては、例えば、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリン酸塩、および、これらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0069】
水を主成分とする溶媒とは、水単独、あるいは、水を主成分とし、必要に応じてアルコール等の水性溶媒を含む水系溶媒、のいずれかである。
水性溶媒としては、Li源、Fe源、A源、M源およびP源を溶解させることのできる溶媒であれば、特に制限されない。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの水性溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
次いで、この原料スラリーαを耐圧容器に入れ、100℃以上かつ300℃以下、好ましくは100℃以上かつ250℃以下の範囲の温度に加熱し、1時間以上かつ72時間以下、水熱処理を行い、LiFe1−y−zPO粒子を得る。
この場合、水熱処理時の温度および時間を調整することにより、LiFe1−y−zPO粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0071】
次いで、炭素源を含む水溶媒中に、LiFe1−y−zPO粒子を分散させて、原料スラリーβを調製する。
次いで、この原料スラリーβを、乾燥して、造粒した後、500℃以上かつ1000℃以下、好ましくは500℃以上かつ800℃以下の範囲の温度にて、1時間以上かつ100時間以下加熱し、LiFe1−y−zPO粒子(一次粒子)の表面を炭素質被膜によって被覆し、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を得る。ここで、500℃未満の温度で加熱した場合、炭素質被膜の炭化が不十分となり、導電性が著しく低下するので好ましくない。一方、1000℃を超える温度で加熱した場合、リチウムが一部揮発し、電池容量が低下するので好ましくない。
【0072】
「炭素源」
炭素源としては、中心粒子の表面に炭素質被膜を形成することができる有機化合物であれば特に限定されない。
有機化合物としては、水への溶解性もしくは水への分散性を有する化合物が好ましい。
例えば、サリチル酸、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、フェニルアラニン、水分散型フェノール樹脂等、スクロース、グルコース、ラクトース等の糖類、リンゴ酸、クエン酸などのカルボン酸、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等の不飽和一価アルコール、アスコルビン酸、ポリビニルアルコール等が挙げられ、1種類または2種類以上を混合して炭素の純度を42.00%以上として使用することができる。
【0073】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法において、炭素源の添加量(添加率)は、中心粒子と炭素源の合計質量を100質量%とした場合に、0.5質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上かつ10質量%以下がより好ましい。
【0074】
炭素源の添加量が0.5質量%未満であると、リチウムイオン二次電池用正極材料における混合安定性が低下するため好ましくない。一方、炭素源の添加量が15質量%を超えると、相対的に正極活物質の含有量が少なくなり、電池特性が低下するため好ましくない。
【0075】
また、炭素源として、複数種類の有機化合物を用いる場合、その有機化合物の炭素の純度が42.00%以上かつ60.00%以下となるように、上述のように、各有機化合物の配合量を調整する。
【0076】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層(正極)と、を備え、正極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。
すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
【0077】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合してなる、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する。
【0078】
「結着剤」
結着剤としては、水系で使用できれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸ビニル共重合体や、スチレン・ブタジエン系ラテックス、アクリル系ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス、フッ素系ラテックス、シリコン系ラテックス等の群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0079】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける結着剤の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ6質量%以下であることがより好ましい。
【0080】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0081】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける導電助剤の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上かつ10質量%以下であることがより好ましい。
【0082】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストでは、集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
主な溶媒は水であるが、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の特性を失わない範囲内で、アルコール類やグリコール類、エーテル類等の水系溶媒が含有されていてもよい。
【0083】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを得ることができる。
【0084】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0085】
次いで、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用正極を得ることができる。
【0086】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極によれば、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、過電圧が低いリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【0087】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備えてなる。
【0088】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、電解液、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。
また、電解液とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0089】
電解液は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0090】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたため、高容量かつ高エネルギー密度である。
【0091】
本実施形態のリチウムイオン二次電池によれば、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、過電圧が低いリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.96molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.04molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、190℃にて10時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール5gと、媒体粒子としての直径1mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて1時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例1の正極材料A1を得た。
【0094】
「リチウムイオン二次電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、正極材料A1と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、正極材料A1:AB:PVdF=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
次いで、この正極材料ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。正極と負極の容量比が1.2(負極/正極)となるように正極合剤層の厚さを調整した。
その後、正極合剤層を、正極密度が1.8g/mLとなるように、所定の圧力にて加圧した後、成形機を用いて正極面積9cmの正方形状に打ち抜き、実施例1の正極を作製した。
【0095】
次いで、溶媒である純水に、負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンラテックス(SBR)と、粘度調整材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、ペーストの質量比で、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1となるように加えて、これらを混合し、負極材料ペースト(負極用)を調製した。
調製した負極材料ペースト(負極用)を、厚さ10μmの銅箔(集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、銅箔表面に負極合剤層を形成した。負極合剤層の目付量が4.4mg/cmとなるよう塗布厚を調整した。
その後、負極合剤層を、負極密度が1.42g/mLとなるように、所定の圧力にて加圧した後、成形機を用いて負極面積9.6cmの正方形状に打ち抜き、実施例1の負極を作製した。
【0096】
作製した正極と負極とを、ポリプロピレンからなる厚さ25μmのセパレータを介して対向させ、電解液としての1mol/LのLiPF溶液0.5mLに浸漬した後、ラミネートフィルムにて封止して、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。LiPF溶液としては、炭酸エチレンと、炭酸エチルメチルとを、体積比で1:1となるように混合したものを用いた。
【0097】
[実施例2]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.94molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.06molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極材料A2を得た。
正極材料A2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0098】
[実施例3]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.92molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.08molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極材料A3を得た。
正極材料A3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0099】
[実施例4]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.90molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の正極材料A4を得た。
正極材料A4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0100】
[実施例5]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.86molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.14molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の正極材料A5を得た。
正極材料A5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
[実施例6]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.82molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.18molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の正極材料A6を得た。
正極材料A6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
[実施例7]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.78molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.22molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の正極材料A7を得た。
正極材料A7を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0103】
[実施例8]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.30molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.60molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例8の正極材料A8を得た。
正極材料A8を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
[実施例9]
2.00molのリン酸(HPO)と、5.70molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.70molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.20molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例9の正極材料A9を得た。
正極材料A9を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0105】
[実施例10]
2.00molのリン酸(HPO)と、5.70molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.10molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.80molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例10の正極材料A10を得た。
正極材料A10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0106】
[実施例11]
2.00molのリン酸(HPO)と、5.70molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.50molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例11の正極材料A11を得た。
正極材料A11を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例11のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0107】
[実施例12]
2.00molのリン酸(HPO)と、5.70molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.40molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molの硫酸亜鉛(ZnSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例12の正極材料A12を得た。
正極材料A12を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例12のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0108】
[実施例13]
2.00molのリン酸(HPO)と、5.70molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.40molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molの硫酸マグネシウム(MgSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例13の正極材料A13を得た。
正極材料A13を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例13のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0109】
[実施例14]
2.00molのリン酸(HPO)と、5.70molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.40molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molの硫酸ニッケル(II)(NiSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例14の正極材料A14を得た。
正極材料A14を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例14のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0110】
[実施例15]
2.00molのリン酸(HPO)と、5.70molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.40molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molの硫酸コバルト(II)(CoSO)と、0.10molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、実施例15の正極材料A15を得た。
正極材料A15を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例15のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0111】
[実施例16]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を2.5gとしたこと以外は実施例3と同様にして、実施例16の正極材料A16を得た。
正極材料A16を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例16のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0112】
[実施例17]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を2.0gとしたこと以外は実施例3と同様にして、実施例17の正極材料A17を得た。
正極材料A17を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例17のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0113】
[実施例18]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を1.5gとしたこと以外は実施例3と同様にして、実施例18の正極材料A18を得た。
正極材料A18を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例18のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0114】
[実施例19]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を14.0gとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例19の正極材料A19を得た。
正極材料A19を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例19のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0115】
[実施例20]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を13.0gとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例20の正極材料A20を得た。
正極材料A20を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例20のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0116】
[実施例21]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を12.0gとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例21の正極材料A21を得た。
正極材料A21を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例21のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0117】
[比較例1]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、2.00molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極材料B1を得た。
正極材料B1を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0118】
[比較例2]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.98molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.02molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極材料B2を得た。
正極材料B2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0119】
[比較例3]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.74molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.26molのリン酸鉄(III)(FePO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の正極材料B3を得た。
正極材料B3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0120】
[比較例4]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.40molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.60molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例4の正極材料B4を得た。
正極材料B4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0121】
[比較例5]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.80molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.20molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例5の正極材料B5を得た。
正極材料B5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0122】
[比較例6]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.20molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.80molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例6の正極材料B6を得た。
正極材料B6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0123】
[比較例7]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、1.60molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、0.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例7の正極材料B7を得た。
正極材料B7を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0124】
[比較例8]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.50molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.1molの硫酸亜鉛(ZnSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例8の正極材料B8を得た。
正極材料B8を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例8のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0125】
[比較例9]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.50molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molの硫酸マグネシウム(MgSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例9の正極材料B9を得た。
正極材料B9を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例9のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0126】
[比較例10]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.50molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molの硫酸ニッケル(NiSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例10の正極材料B10を得た。
正極材料B10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例10のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0127】
[比較例11]
2.00molのリン酸(HPO)と、6.00molの水酸化リチウム(LiOH)と、0.50molの硫酸鉄(II)(FeSO)と、1.40molの硫酸マンガン(II)(MnSO)と、0.10molの硫酸コバルト(CoSO)と、水とを、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて8時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質100g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gと、媒体粒子としての直径0.5mmのジルコニアボールとを加えて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体を540℃の非酸化性ガス雰囲気下にて40時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、比較例11の正極材料B11を得た。
正極材料B11を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例11のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0128】
[比較例12]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を1.0gとしたこと以外は実施例3と同様にして、比較例12の正極材料B12を得た。
正極材料B12を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例12のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0129】
[比較例13]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を15.0gとしたこと以外は実施例15と同様にして、比較例13の正極材料B13を得た。
正極材料B13を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例13のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0130】
[比較例14]
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を1.0gとしたこと以外は比較例1と同様にして、比較例14の正極材料B14を得た。
正極材料B14を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例14のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0131】
「評価」
(1)メスバウアースペクトル測定
実施例1〜実施例21および比較例1〜比較例14の正極材料について、メスバウアー分光法によるメスバウアー分光分析を行った。メスバウアースペクトルを透過法により測定した。詳細を下記に示す。
測定方法:等加速モード、室温、常圧下
線源:57Co/Rh マトリクス、1.85[GBq]
速度軸検量の方法:純鉄箔の室温でのスペクトルの6本の磁気分裂ピークのうち、内側4本のピーク中心位置をX2、X3、X4、X5[channel]として、下記の式で求めた。
X0[channel]=(X2+X3+X4+X5)/4
Γ[channel]=20.422/{0.0835(X5−X2)+0.8385(X4−X3)}
このメスバウアー分光分析により得られたスペクトルがローレンツ型の理論線型式で近似できるものとし、成分毎のピーク半値幅はすべて等しく、対称位置にあるピーク高さはそれぞれで等しく、スペクトルが理論線型の足し合わせであると仮定して、カーブフィッティングを行い、ピーク位置を定め、各成分の面積強度を求めた。理論線型式としは、上記の式(1)を用いた。
また、最小二乗法にて残差の二乗和が最小となるときの各成分の相対面積比をスペクトルの面積強度とした。
異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をα、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとした。結果を表1および表2に示す。
【0132】
(2)正極材料の炭素原子含有量
正極材料の炭素原子含有量を、炭素硫黄分析装置(商品名:EMIA−220V、堀場製作所社製)を用いてで測定した。結果を表1および表2に示す。
【0133】
(3)リチウムイオン二次電池の評価(放電容量)
リチウムイオン二次電池を、環境温度25℃にて、0.1C電流値で電池電圧が4.3Vになるまで定電流充電を行った後、定電圧充電に切替えて電流値が0.01Cとなった時点で充電を終了した。その後、10C電流値にて電池電圧が2.5Vになるまで定電流充電を行った際の放電容量を10C放電容量とした。
また、10C放電容量が3価のFe源を添加していないときと比べて20mAh/g以上向上した場合、電池評価を◎、10C放電容量が3価のFe源を添加していないときと比べて20mAh/g未満かつ10mAh/g以上向上した場合、電池評価を○、10C放電容量が3価のFe源を添加していないときと比べて10mAh/g未満かつ1mAh/g以上向上した場合、電池評価を△、10C放電容量が3価のFe源を添加していないときと比べて向上しない場合、電池評価を×と評価した。結果を表1および表2に示す。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
実施例1〜実施例7と比較例1を比較すると、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下である実施例1〜実施例7は3価のFe源を添加していない比較例1に比べて、10C放電容量が向上することが確認された。一方、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下でない比較例2および比較例3は、3価のFe源を添加していない比較例1に比べて、10C放電容量が低下することが確認された。
実施例8〜実施例15と比較例4〜比較例11を比較すると、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下である実施例8〜実施例15は、3価のFe源を添加していない比較例4〜比較例11に比べて、10C放電容量が向上することが確認された。
実施例1〜実施例21と比較例1および比較例4〜比較例11を比較すると、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下である実施例1〜実施例21は、3価のFe源を添加していない比較例1および比較例4〜比較例11に比べて、10C放電容量が向上することが確認された。一方、比較例12〜比較例14と比較例1および比較例11を比較すると、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下ではないおよび比較例12〜比較例14は、3価のFe源を添加していない比較例1および比較例11に比べて10C放電容量が低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下であるため、このリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて作製したリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池は、放電容量が大きくなるため、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性および高速充放電特性が期待される次世代の二次電池に対しても適用することが可能であり、次世代の二次電池の場合、その効果は非常に大きなものである。
図1
【手続補正書】
【提出日】2018年12月20日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、
炭素原子の含有量が0.35質量%以上かつ2.91質量%以下であり、
メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下であり、
前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルと、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルとがそれぞれ2本に分裂しており、
前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、6本に磁気分裂したピークを含まないことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの四極分裂値が0.4mm/sec以上かつ1.1mm/secであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.02以上かつ0.07以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記中心粒子がLiFePOからなることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極として、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、炭素原子の含有量が0.35質量%以上かつ2.91質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}を0.01以上かつ0.1以下とし、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルと、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルとがそれぞれ2本に分裂しており、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、6本に磁気分裂したピークを含まないことにより、意図的に少量の3価のFeを結晶内に固溶させて、結晶内に欠陥を生成し、結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子の表面が炭素質被膜で被覆されてなるリチウムイオン二次電池用正極材料であって、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下であり、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をαとし、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとしたとき、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下であり、前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルと、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルとがそれぞれ2本に分裂しており、前記メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、6本に磁気分裂したピークを含まない
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0114
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0114】
参考
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を14.0gとしたこと以外は実施例15と同様にして、参考の正極材料A19を得た。
正極材料A19を用いたこと以外は実施例1と同様にして、参考のリチウムイオン二次電池を作製した。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0115
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0115】
参考
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を13.0gとしたこと以外は実施例15と同様にして、参考の正極材料A20を得た。
正極材料A20を用いたこと以外は実施例1と同様にして、参考のリチウムイオン二次電池を作製した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0116
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0116】
[実施例19
有機化合物としてのポリエチレングリコールの添加量を12.0gとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例19の正極材料A21を得た。
正極材料A21を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例19のリチウムイオン二次電池を作製した。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0131
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0131】
「評価」
(1)メスバウアースペクトル測定
実施例1〜実施例19、参考例1、2および比較例1〜比較例14の正極材料について、メスバウアー分光法によるメスバウアー分光分析を行った。メスバウアースペクトルを透過法により測定した。詳細を下記に示す。
測定方法:等加速モード、室温、常圧下
線源:57Co/Rh マトリクス、1.85[GBq]
速度軸検量の方法:純鉄箔の室温でのスペクトルの6本の磁気分裂ピークのうち、内側4本のピーク中心位置をX2、X3、X4、X5[channel]として、下記の式で求めた。
X0[channel]=(X2+X3+X4+X5)/4
Γ[channel]=20.422/{0.0835(X5−X2)+0.8385(X4−X3)}
このメスバウアー分光分析により得られたスペクトルがローレンツ型の理論線型式で近似できるものとし、成分毎のピーク半値幅はすべて等しく、対称位置にあるピーク高さはそれぞれで等しく、スペクトルが理論線型の足し合わせであると仮定して、カーブフィッティングを行い、ピーク位置を定め、各成分の面積強度を求めた。理論線型式としは、上記の式(1)を用いた。
また、最小二乗法にて残差の二乗和が最小となるときの各成分の相対面積比をスペクトルの面積強度とした。
異性体シフト値が1.0mm/sec以上かつ1.4mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をα、異性体シフト値が0.3mm/sec以上かつ0.7mm/sec以下の範囲にあるスペクトルの面積強度をβとした。結果を表1および表2に示す。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0134
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0134】
【表1】
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0136
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0136】
実施例1〜実施例7と比較例1を比較すると、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下である実施例1〜実施例7は3価のFe源を添加していない比較例1に比べて、10C放電容量が向上することが確認された。一方、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下でない比較例2および比較例3は、3価のFe源を添加していない比較例1に比べて、10C放電容量が低下することが確認された。
実施例8〜実施例15と比較例4〜比較例11を比較すると、{β/(β+α)×(1−y−z)}が0.01以上かつ0.1以下である実施例8〜実施例15は、3価のFe源を添加していない比較例4〜比較例11に比べて、10C放電容量が向上することが確認された。
実施例1〜実施例19と比較例1および比較例4〜比較例11を比較すると、炭素原子の含有量が0.35質量%以上かつ2.91質量%以下である実施例1〜実施例19は、3価のFe源を添加していない比較例1および比較例4〜比較例11に比べて、10C放電容量が向上することが確認された。一方、比較例12〜比較例14と比較例1および比較例11を比較すると、炭素原子の含有量が0.3質量%以上かつ3.4質量%以下ではないおよび比較例12〜比較例14は、3価のFe源を添加していない比較例1および比較例11に比べて10C放電容量が低下することが確認された。