【解決手段】セラミックスからなる静電チャック部材2と、金属からなる温度調整用ベース部材3とを、接合層4を介して接合してなる静電チャック装置1であって、静電チャック部材2、温度調整用ベース部材3および接合層4に、その厚さ方向に貫通する冷却ガス導入孔17が設けられ、温度調整用ベース部材3を厚さ方向に貫通する収容孔18内に、接合層4を介してセラミックスからなる碍子21が接合され、温度調整用ベース部材3における冷却ガス導入孔17は、収容孔18内に配置された碍子21を厚さ方向に貫通する貫通孔22であり、碍子21は、静電チャック部材2側の端部において、温度調整用ベース部材3側から静電チャック部材2側に向けて水平断面の面積が徐々に小さくなるテーパ部23を有する静電チャック装置1。
前記テーパ部は、前記温度調整用ベース部材側における水平断面の直径と、前記静電チャック部材側における水平断面の直径との差が0.2mm以上かつ1.0mm以下である請求項1に記載の静電チャック装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の静電チャック装置の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
<静電チャック装置>
以下、
図1を参照しながら、本実施形態に係る静電チャック装置について説明する。
なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率等は適宜異ならせてある。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。
図1に示すように、静電チャック装置1は、円板状の静電チャック部材2と、静電チャック部材2を所望の温度に調整する円板状の温度調節用ベース部材3と、これら静電チャック部材2および温度調整用ベース部材3を接合・一体化する接合層4と、を有している。
以下の説明においては、載置板11の載置面11a側を「上」、温度調整用ベース部材3側を「下」として記載し、各構成の相対位置を表すことがある。
【0014】
[静電チャック部材]
静電チャック部材2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料を載置する載置面11aとされたセラミックスからなる載置板11と、載置板11の載置面11aとは反対の面側に設けられた支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に挟持された静電吸着用電極13と、載置板11と支持板12とに挟持され静電吸着用電極13の周囲を囲む環状の絶縁材14と、静電吸着用電極13に接するように支持板12の固定孔15内に設けられた給電端子16と、を有している。
【0015】
これら載置板11、支持板12および静電吸着用電極13には、その厚さ方向に貫通する冷却ガス導入孔17が中心軸に対して回転対称となる位置に計4個形成されている。
【0016】
[載置板]
載置板11の載置面11aには、半導体ウエハ等の板状試料を支持するための多数の突起が立設され(図示略)ている。さらに、載置板11の載置面11aの周縁部には、ヘリウム(He)等の冷却ガスが漏れないように、幅が1mm以上かつ5mm以下、高さが上記の突起と同じ高さの周縁壁が形成され(図示省略)ている。この周縁壁の内側は、板状試料を静電吸着する吸着領域とされている。上記の冷却ガス導入孔17を介して、載置板11の載置面11aと突起頂面に載置された板状試料との隙間に、冷却ガスが供給されるようになっている。
【0017】
載置板11を構成するセラミックスとしては、体積固有抵抗値が10
13Ω・cm以上かつ10
15Ω・cm以下程度であり、機械的な強度を有し、しかも腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するものであれば特に制限されるものではない。このようなセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化アルミニウム(Al
2O
3)−炭化ケイ素(SiC)複合焼結体等が好適に用いられる。
【0018】
載置板11の厚さは、0.3mm以上かつ3.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上かつ1.5mm以下であることがより好ましい。載置板11の厚さが0.3mm以上であれば、耐電圧性に優れる。一方、載置板11の厚さが3.0mm以下であれば、静電チャック部材2の静電吸着力が低下することがなく、載置板11の載置面11aに載置される板状試料と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性が低下することもなく、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。
【0019】
[支持板]
支持板12は、載置板11と静電吸着用電極13を下側から支持している。
【0020】
支持板12は、載置板11を構成するセラミックスと同様の材料からなる。
支持板12の厚さは、0.3mm以上かつ3.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上かつ1.5mm以下であることがより好ましい。支持板12の厚さが0.3mm以上であれば、充分な耐電圧を確保することができる。一方、支持板12の厚さが3.0mm以下であれば、静電チャック部材2の静電吸着力が低下することがなく、載置板11の載置面11aに載置される板状試料と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性が低下することもなく、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。
【0021】
[静電吸着用電極]
静電吸着用電極13では、電圧を印加することにより、載置板11の載置面11aに板状試料を保持する静電吸着力が生じる。
【0022】
静電吸着用電極13を構成する材料としては、チタン、タングステン、モリブデン、白金等の高融点金属、グラファイト、カーボン等の炭素材料、炭化ケイ素、窒化チタン、炭化チタン等の導電性セラミックス等が好適に用いられる。これらの材料の熱膨張係数は、載置板11の熱膨張係数に出来るだけ近似していることが望ましい。
【0023】
静電吸着用電極13の厚さは、5μm以上かつ200μm以下であることが好ましく、10μm以上かつ100μm以下であることがより好ましい。静電吸着用電極13の厚さが5μm以上であれば、充分な導電性を確保することができる。一方、静電吸着用電極13の厚さが200μm以下でれば、載置板11の載置面11aに載置される板状試料と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性が低下することがなく、処理中の板状試料の温度を望ましい一定の温度に保つことができる。また、プラズマ透過性が低下することがなく、安定にプラズマを発生させることができる。
【0024】
静電吸着用電極13は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0025】
[絶縁材]
絶縁材14は、静電吸着用電極13を囲繞して腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用電極13を保護するためのものである。
絶縁材14は、載置板11および支持板12と同一組成、または主成分が同一の絶縁性材料から構成されている。絶縁材14により、載置板11と支持板12とが、静電吸着用電極13を介して接合一体化されている。
【0026】
[給電端子]
給電端子16は、静電吸着用電極13に電圧を印加するためのものである。
給電端子16の数、形状等は、静電吸着用電極13の形態、すなわち単極型か、双極型かにより決定される。
【0027】
給電端子16の材料は、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではない。給電端子16の材料としては、熱膨張係数が静電吸着用電極13および支持板12の熱膨張係数に近似したものであることが好ましく、例えば、コバール合金、ニオブ(Nb)等の金属材料、各種の導電性セラミックスが好適に用いられる。
【0028】
[温度調整用ベース部材]
温度調整用ベース部材3は、金属およびセラミックスの少なくとも一方からなる厚みのある円板状のものである。温度調整用ベース部材3の躯体は、プラズマ発生用内部電極を兼ねた構成とされている。温度調整用ベース部材3の躯体の内部には、水、Heガス、N
2ガス等の冷却媒体を循環させる流路(図示略)が形成されている。また、温度調整用ベース部材3の躯体の内部には、静電チャック部材2と同様に、固定孔15も形成されている。さらに、温度調整用ベース部材3の躯体の内部には、温度調整用ベース部材3を厚さ方向に貫通する収容孔18が形成されている。
【0029】
温度調整用ベース部材3に設けられた収容孔18内には、静電チャック部材2および温度調整用ベース部材3を接合・一体化する接合層4が延在し、その接合層4を介して、収容孔18にセラミックスからなる碍子21が接合・一体化されている。
碍子21には、碍子21の中央部を、その厚さ方向に貫通する貫通孔22が形成されている。碍子21に設けられた貫通孔22は、静電チャック部材2および接合層4に設けられた冷却ガス導入孔17と連通している。すなわち、温度調整用ベース部材3における冷却ガス導入孔17は、収容孔18内に配置された碍子21を厚さ方向に貫通する貫通孔22である。
【0030】
碍子21は、静電チャック部材2側の端部において、温度調整用ベース部材3側から静電チャック部材2側に向けて水平断面の面積が徐々に小さくなるテーパ部23を有する。すなわち、テーパ部23は、静電チャック部材2側における水平断面の面積(直径)が、温度調整用ベース部材3における水平断面の面積(直径)よりも小さくなっている。
【0031】
テーパ部23は、温度調整用ベース部材3側における水平断面の直径と、静電チャック部材2側における水平断面の直径との差が0.2mm以上かつ1.0mm以下であることが好ましく、0.4mm以上かつ0.8mm以下であることがより好ましい。
温度調整用ベース部材3側における水平断面の直径と、静電チャック部材2側における水平断面の直径との差が0.2mm以上であれば、碍子21と接合層4の界面の長さが長くなり、耐電圧性が十分に向上する。一方、温度調整用ベース部材3側における水平断面の直径と、静電チャック部材2側における水平断面の直径との差が1.0mm以下であれば、接合層4の厚さが厚くなることにより静電チャック部材2の温度の温度にばらつきが生じることを抑えられる。
【0032】
また、碍子21の静電チャック部材2の端面(上面)21aは、温度調整用ベース部材3の面(上面)3aと同一面上にあることが好ましい。
【0033】
温度調整用ベース部材3の躯体は、外部の高周波電源31に接続されている。また、温度調整用ベース部材3の固定孔15内には、その外周が絶縁材料32により囲繞された給電端子16が、絶縁材料32を介して固定されている。給電端子16は、外部の直流電源33に接続されている。
【0034】
温度調整用ベース部材3を構成する材料は、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限されるものではない。温度調整用ベース部材3を構成する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。
温度調整用ベース部材3における少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理またはポリイミド系樹脂による樹脂コーティングが施されていることが好ましい。また、温度調整用ベース部材3の全面が、前記のアルマイト処理または樹脂コーティングが施されていることがより好ましい。
【0035】
温度調整用ベース部材3にアルマイト処理または樹脂コーティングを施すことにより、温度調整用ベース部材3の耐プラズマ性が向上するとともに、異常放電が防止される。したがって、温度調整用ベース部材3の耐プラズマ安定性が向上し、また、温度調整用ベース部材3の表面傷の発生も防止することができる。
【0036】
碍子21を構成する材料は、プラズマやラジカル(フリーラジカル)に対して耐久性を有するセラミックスが好ましく、このようなセラミックスとしては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、サイアロン、窒化ホウ素(BN)および炭化ケイ素(SiC)からなる群から選択される1種からなるセラミックス、あるいは2種以上を含む複合セラミックス等が好適に用いられる。
【0037】
[接合層]
接合層4は、
図2に示すように、硬化体であるシリコーン系樹脂組成物と、フィラーとを含有する複合材料41に、静電チャック部材2を平面視した場合に多角形状のセラミックスからなるスペーサ42が複数個、同一平面内に略一定の密度で略規則的に配列されている。静電チャック部材2を平面視するとは、静電チャック部材2を載置板11の載置面11a側から視ることである。また、接合層4は、温度調整用ベース部材3に設けられた収容孔18内に延在し、収容孔18に碍子21を接合・一体化している。さらに、さらに、接合層4の内部には、静電チャック部材2と同様に、固定孔15および冷却ガス導入孔17も形成されている。
【0038】
図2では、スペーサ42が、最外周の同心円上に等間隔に8個、それよりも内側の同心円上に等間隔に8個、最内周の同心円上に等間隔に4個配置されている。これらのスペーサ42は、直線状に並ばないように配置されている。
【0039】
スペーサ42は、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを一定の厚さで接合するためのものである。スペーサ32の材料としては、高い誘電体損失(tanδ)を有しない材料、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、ジルコニア(ZrO
2)等の焼結体が好適に用いられる。なお、炭化ケイ素(SiC)焼結体、アルミニウム(Al)等の金属板、フェライト(Fe
2O
3)等の磁性材料といった高い誘電体損失を有する材料は放電の原因となるので好ましくない。
【0040】
以下、接合層4について、詳細に説明する。
シリコーン系樹脂組成物としては、公知文献(特開平4−287344号公報)に記載されているシリコーン樹脂を用いることができる。
このシリコーン樹脂は、耐熱性、弾性に優れた樹脂であり、シロキサン結合(Si−O−Si)を有するケイ素化合物重合体である。このシリコーン樹脂は、例えば、下記の化学式(1)、化学式(2)で表すことができる。
【0041】
【化1】
(但し、Rは、Hまたはアルキル基(C
nH
2n+1−:nは整数)である。)
【0042】
【化2】
(但し、Rは、Hまたはアルキル基(C
nH
2n+1−:nは整数)である。)
【0043】
このようなシリコーン樹脂としては、特に、熱硬化温度が70℃以上かつ140℃以下のシリコーン樹脂を用いることが好ましい。シリコーン樹脂の熱硬化温度が70℃以上であれば、静電チャック部材2の支持板12と温度調整用ベース部材3とを接合する際に、接合過程の途中でシリコーン樹脂の硬化が始まることがなく、接合作業に支障を来すことがない。一方、シリコーン樹脂の熱硬化温度が140℃以下であれば、支持板12と温度調整用ベース部材3との熱膨張差を吸収することができるため、載置板11の載置面11aの平坦度が低下することがない。また、支持板12と温度調整用ベース部材3との間の接合力が低下することがなく、これらの間で剥離が生じることもない。
【0044】
シリコーン樹脂としては、硬化後のヤング率が8MPa以下のものを用いることが好ましい。硬化後のヤング率が8MPa以下であれば、接合層4に昇温、降温の熱サイクルが負荷された際にも支持板12と温度調整用ベース部材3との熱膨張差を吸収することができるため、接合層4の耐久性が低下することを防止できる。
【0045】
フィラーとしては、高熱伝導性の材料であれば特に制限されるものではない。高熱伝導性のフィラーとしては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、酸化ケイ素(SiO
2)、窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス粉末や、アルミニウム(Al)等の金属粉末が挙げられる。フィラーとしては、熱伝導性に優れている点から、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO
2)からなる被覆層が形成された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子が好ましい。
【0046】
また、表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO
2)からなる被覆層が形成されているため、表面被覆が施されていない単なる窒化アルミニウム(AlN)粒子と比較して、優れた耐水性を有している。したがって、シリコーン系樹脂組成物を主成分とする接合層4の耐久性を確保することができ、よって静電チャック装置1の耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0047】
表面被覆が施されていない窒化アルミニウム(AlN)粒子は、下記の化学反応式(3)で示されるように、例えば、大気中の水により加水分解されて水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)とアンモニア(NH
3)を生成する。この水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)により、窒化アルミニウム(AlN)の熱伝導性が低下する。
AlN+3H
2O→Al(OH)
3+NH
3 (3)
【0048】
一方、表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面が、優れた耐水性を有する酸化ケイ素(SiO
2)からなる被覆層により被覆されているため、窒化アルミニウム(AlN)が大気中の水により加水分解されることがなく、窒化アルミニウム(AlN)の熱伝導性が低下することもない。したがって、接合層4の耐久性が向上し、また、半導体ウエハ等の板状試料への汚染源となることもない。
【0049】
表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、被覆層中のケイ素(Si)とシリコーン系樹脂組成物とにより強固な結合状態を得ることが可能であるから、接合層4の伸び性を向上させることが可能である。これにより、静電チャック部材2の支持板12の熱膨張率と温度調整用ベース部材3の熱膨張率との差に起因する熱応力を緩和することができ、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを精度よく、強固に接合することができる。また、使用時の熱サイクル負荷に対する耐性が充分なものとなり、静電チャック装置の耐久性が向上する。
【0050】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の被覆層の厚さは0.005μm以上かつ0.05μm以下であることが好ましく、0.005μm以上かつ0.03μm以下であることがより好ましい。
被覆層の厚さが0.005μm以上であれば、窒化アルミニウム(AlN)の耐水性(耐湿性)を充分に発現することができる。一方、被覆層の厚さが0.05μm以下であれば、表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の熱伝導性が低下することがなく、ひいては載置板11の載置面11aに載置される板状試料と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性が低下することがない。したがって、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。
【0051】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径は、1μm以上かつ20μm以下であることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径が1μmを下回ると、粒子同士の接触が不十分となり、結果的に熱伝導率が劣化する虞があり、また、粒径が細か過ぎると取扱等の作業性の低下を招くこととなり好ましくない。一方、平均粒径が20μmを越えると、局所的に見た場合、接合層4内におけるシリコーン系樹脂組成物の占める割合が減少し、接合層4の伸び性、接着強度の低下を招くことがあり、また、その場合、粒子の脱離が発生し易くなり、接合層4に空孔(ポア)が生じることとなり、結果的に熱伝導性、伸び性、接着強度の劣化を招くので好ましくない。
【0052】
この接合層4における表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の含有量は、20vol%以上かつ40vol%以下であることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の含有量が20vol%を下回ると,接合層4の熱伝導性が低下し、ひいては載置板11の載置面11aに載置される板状試料と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性が低下し、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことが困難なものとなるからであり、一方、含有量が40vol%を越えると、接合層4の伸び性が低下して熱応力緩和が不充分となり、載置板11の載置面11aの平坦度、平行度が劣化するのみならず、支持板12と温度調整用ベース部材3との間の接合力が低下し、両者間で剥離が生じる虞があるからである。
【0053】
この接合層4の厚みは、50μm以上かつ180μm以下であることが好ましい。
この接合層4の厚みが50μmを下回ると、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性は良好となるものの、熱応力緩和が不充分となるからであり、一方、接合層4の厚みが180μmを超えると、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性を十分確保することができず、またプラズマ透過性も低下するからである。
【0054】
本実施形態の静電チャック装置1によれば、温度調整用ベース部材3を厚さ方向に貫通する収容孔18内に、接合層4を介して碍子21が接合され、温度調整用ベース部材3における冷却ガス導入孔17は碍子21を厚さ方向に貫通する貫通孔22であり、碍子21は、静電チャック部材2側の端部において、温度調整用ベース部材3側から静電チャック部材2側に向けて水平断面の面積が徐々に小さくなるテーパ部23を有するため、耐電圧性に優れ、温度調整用ベース部材とウェハの間の放電を抑制することができる。
【0055】
以下、本実施形態の静電チャック装置1の製造方法を、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3との接合方法に重点をおいて説明する。
【0056】
まず、公知の方法により、静電チャック部材2と、温度調整用ベース部材3とを作製する。
【0057】
一方、シリコーン系樹脂組成物と、フィラーとを、所定の比率で混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、シリコーン系樹脂組成物とフィラーとの混合物を調製する。この場合、シリコーン系樹脂組成物の粘度が塗布に適する範囲内、例えば、50Pa・s以上かつ300Pa・s以下となるように、混合物に、トルエン、キシレン等の有機溶剤を加えてもよい。
【0058】
次いで、温度調整用ベース部材3の接合面を、例えば、アセトンを用いて脱脂、洗浄し、この接合面上に、幅1mm、長さ1mm、厚さ0.1mmのセラミックス製のスペーサ41を、常温硬化型シリコーン接着剤を用いて接着する。
【0059】
スペーサ41は、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを一定の間隔をおいて接合するためのものである。スペーサ31の個数、配置する位置は適宜でよい。例えば、直径298mmの静電チャック部材2と直径298mmの温度調整用ベース部材3とを接合する場合には、温度調整用ベース部材3上に最外周の同心円上に8個、さらに適度に中心方向に寄った同心円上に8個、さらに中心方向に寄った同心円上に8個配置する。これらのスペーサ41は、直線状に並ばないように配置する。さらに、中心方向の同心円上に4個、最内周の同心円上に4個配置する。
【0060】
次いで、常温に所定時間放置して、常温硬化型シリコーン接着剤を十分に硬化させた後、スペーサ41の上に、接合層4を形成するシリコーン系樹脂組成物を塗布する。シリコーン系樹脂組成物の塗布量は、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを一定の間隔を置いて接合するため所定の範囲内にする。
例えば、直径298mmの静電チャック部材2と直径298mmの温度調整用ベース部材3とを接合する場合には、温度調整用ベース部材3の接合面に20g〜22g、静電チャック部材2の接合面に15g〜17g、それぞれ塗布する。
【0061】
このシリコーン系樹脂組成物の塗布方法としては、ヘラ等を用いて手動で塗布する他、バーコート法、スクリーン印刷法等を用いることができる。
【0062】
塗布後、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とをシリコーン系樹脂組成物を介して重ね合わせ、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3との間隔がスペーサ41の厚さになるまで、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3の積層体を押し潰して、余分なシリコーン系樹脂組成物を押し出して、除去する。押し潰す際の温度は、シリコーン系樹脂組成物の流動性が最も高くなる温度が好ましい。
【0063】
また、シリコーン系樹脂組成物中の気泡を除去するために、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを重ね合わせた後に真空脱泡処理を施すことも、強固かつ均一な組織を有する接合層4を得るうえで有効である。
【0064】
その後、シリコーン系樹脂組成物を硬化させる。硬化条件は、用いるシリコーン系樹脂の最適硬化条件に従えばよく、また、硬化時に加圧してもよい。
【0065】
このようにして静電チャック部材2の支持板12と温度調整用プレート部材3とを接合し、支持板12と温度調整用プレート部材3の間に形成された接合層4の熱伝導率の平均値は0.35W/mK以上であり、熱伝導性に優れている。
【0066】
なお、本実施形態に係る板状試料としては、半導体ウエハに限るものではなく、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ等の平板型ディスプレイ(FPD)用ガラス基板等であってもよい。また、その基板の形状や大きさに合わせて本実施形態の静電チャック装置を設計すればよい。
【実施例】
【0067】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0068】
[実験例1]
接合層の絶縁破壊強度を測定するために、
図3に示す試験体を作製した。
図3に示す試験体100は、金属板101と、金属板101の一方の面(上面)101aに設けられた接合層102と、金属板101の一方の面101aにおいて、接合層102を囲繞するように設けられた筐体103と、筐体103により保持され、筐体103内にて一端部が接合層102内に配置された金属電極104と、導線105を介して金属板101と電気的に接続されるとともに、導線106を介して金属電極104と電気的に接続された高圧電源107と、を備える。
また、金属電極104は、その一端面(下面)104aが金属板101の一方の面101aと対向するように配置されている。
【0069】
接合層102を構成する接着剤としては、加熱硬化型シリコーン接着剤(商品名:TSE3221、モメンティブ株式会社製)を用いた。
金属板101の一方の面101aに金属電極104の一端面104aが対向し、金属板101の一方の面101aと金属電極104の一端面104aの距離d1が所定の長さとなるように、金属電極104を配置した。
次いで、上記の接着剤を金属板101の一方の面101aに塗布して塗膜を形成し、その塗膜を150℃にて1時間加熱して硬化させ、金属板101の一方の面101aに接合層102を形成した。この際、金属電極104の一端部(一端面104a側の端部)を接合層102内に配置した。
次いで、高圧電源107を用いて、金属板101−金属電極104間に電圧を徐々に印加していき、絶縁破壊することで電流が流れる電圧を調べた。なお、金属板101の一方の面101aと金属電極104の一端面104aの距離d1を、0.2mm、0.5mm、1.0mmと変化させた。
結果を表1に示す。
【0070】
[実験例2]
接合層と碍子の界面の絶縁破壊強度を測定するために、
図4に示す試験体を作製した。
図4に示す試験体200は、アルミナ板201と、アルミナ板201の一方の面(上面)201aに設けられた金属板202と、金属板202の一方の面(上面)202aに設けられた筒状の碍子203と、碍子203を厚さ方向に貫通する貫通孔203a内および金属板202を厚さ方向に貫通する貫通孔202a内に配置された金属電極204と、アルミナ板201の一方の面(上面)201aにおいて、金属板202の貫通孔202a内に設けられ、金属電極204をアルミナ板201および金属板202に接合する接合層205と、導線206を介して金属板202と電気的に接続されるとともに、導線207を介して金属電極204と電気的に接続された高圧電源208と、を備える。
また、金属電極204は、その一端面(下面)204aがアルミナ板201の一方の面201aと接するように配置されている。
【0071】
接合層205を構成する接着剤としては、加熱硬化型シリコーン接着剤(商品名:TSE3221、モメンティブ株式会社製)を用いた。
アルミナ板201の一方の面201aに金属電極204の一端面204aが接し、金属板202の貫通孔202a内に配置された金属電極204の外面204bと、金属板202の貫通孔202aの内側面202bとの距離d2が所定の長さとなるように、金属電極204を配置した。
次いで、金属板202の貫通孔202a内において、アルミナ板201の一方の面201aに、上記の接着剤を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を150℃にて1時間加熱して硬化させ、アルミナ板201の一方の面201aに接合層205を形成した。この際、金属電極204の一端部(一端面204a側の端部)を接合層205内に配置した。
次いで、高圧電源208を用いて、金属板202−金属電極204間に電圧を徐々に印加していき、絶縁破壊することで電流が流れる電圧を調べた。なお、金属板202の貫通孔202a内に配置された金属電極204の外面204bと、金属板202の貫通孔202aの内側面202bとの距離d2を、0.2mm、0.5mm、1.0mmと変化させた。
結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果から、接合層と碍子の界面の絶縁破壊強度は、接合層の絶縁破壊強度よりも低く、11.6kV/mm以下であり、碍子の絶縁破壊強度よりも低いことが分かった。
また、接合層の絶縁破壊強度は、50kV以上であり、碍子の絶縁破壊強度よりも高く、接合層と碍子の界面の絶縁破壊強度の4倍以上であることが分かった。
以上の実験結果から、温度調整用ベース部材とウエハの間における絶縁破壊に起因する放電を防ぐために、十分な耐電圧性を確保するためには、接合層と碍子の界面の距離を確保する必要があることが分かった。
【0074】
[実験例3]
碍子のテーパ部の効果を確認するために、
図5に示す静電チャック装置を作製した。テーパ部23における静電チャック部材2側の外径がd3、テーパ部23における温度調整用ベース部材3側の外径がd4となるように、碍子21を作製した。
まず、温度調整用ベース部材3の収容孔18内に碍子21を挿入し、加熱硬化型シリコーン接着剤4を介して、温度調整用ベース部材3に碍子21を接着した。
次に、碍子21の貫通孔22の位置と静電チャック部材2の冷却ガス導入孔17の位置を合せて、加熱硬化型シリコーン接着剤4を介して、温度調整用ベース部材3と静電チャック部材2を接着し、温度調整用ベース部材3と静電チャック部材2の間に接合層4を形成した。その際、接合層4が碍子21の貫通孔22内にはみ出さないように施工した。
静電チャック部材2における碍子21と対向する部分およびその近傍の耐電圧を評価するために、以下の試験を実施した。
まず、静電チャック部材2の冷却ガス導入孔17をテフロン(登録商標)テープで塞いだ後、静電チャック部材2側が下になるように静電チャック装置を配置した。
碍子21の貫通孔22の内部に水を注入し、貫通孔22の内部に電極を挿入し、温度調整用ベース部材3と電極間に10kVの電圧を印加し、10分間保持した。
10分間で電流値が増加した場合、絶縁破壊したとして不良と判定した。各条件で12箇所の貫通孔22の評価を行った。
結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2の結果から、碍子にテーパ部を設けることで、耐電圧性が向上することが確認された。耐電圧性が向上する理由は、碍子21にテーパ部23を設けることにより、
図5の右側に示すように、温度調整用ベース部材3の収容孔18内に挿入した碍子21が位置ずれするような施工のばらつきが生じても、碍子21と接合層4の界面の長さを十分に確保できるからである。
このように、碍子にテーパ部を設けた場合でも、接合層の内部を通って最短距離で放電することはなく、強度が低い接合層と碍子の界面で放電することや、接合層と碍子の界面の距離で耐電圧性が決まることが分かった。