【実施例】
【0039】
本発明を以下の実施例及び比較例により説明する。
(1)焼成ドロマイト調製
ドロマイト(産地:栃木(葛生地方)、粒径(mm):3〜7mm)を用いて、焼成温度800℃又は1000℃で、焼成時間30分、60分、240分焼成して、各焼成ドロマイトを得た。
【0040】
(2)焼成ドロマイトの粉末X線回折及びリートベルト解析
得られた塊状の各焼成ドロマイトを、遊星ミルを用いて、平均粒径50±10μmまで粉砕(300rpm,10分)して、粉末X線回折測定及びリートベルト解析を用いて、CaMg(CO
3)
2、CaCO
3、MgO、CaO、SiO
2含有量をそれぞれ測定した。
その結果を下記表1に示す。
【0041】
なお、測定装置、粉末X線回折及びリートベルト解析の条件は以下のとおりである。
1)使用装置:PANalytical X’Pert Pro MPD
2)リートベルト解析ソフト:PANalytical High Score Plus
3)測定条件:管球 Cu−Kα,管電圧45kV,電流40mA
4)発散スリット 可変(12mm),アンチスキャッタースリット(入射側)無し,ソーラースリット(入射側)0.04rad.
5)受光スリット 無し,アンチスキャッタースリット(受光側)可変(12mm),ソーラースリット(受光側) 0.04rad
6)走査範囲 2θ=20〜70°,走査ステップ 0.008°,計数時間 最強線のカウント数が10000±1000cpsになるように調整
Goodness of fit≦6となった際に解析が成功したとみなした。
【0042】
【表1】
【0043】
(3)不溶化対象となるトンネル掘削ずりの物性
不溶化処理試験を実施するために、以下の掘削ずりを使用し、蛍光X線分析(ED−XRF)により、該掘削ずり中に含まれる各元素含有量を測定した。
その結果を以下の表2に示す。
【0044】
1)使用した掘削ずり:地質学的名称、中新世中・後期の海成層、主として凝灰質泥岩
2)蛍光X線分析(XRF)の条件
装置:PANalytical Epsilon 3(ED−XRF)
測定モード:Omnian
【0045】
【表2】
【0046】
次いで、上記掘削ずりについて「土壌の汚染に係る環境基準ついて(平成3年環境庁告示 第46号、以下「環告46号」)」に準じて、溶出液を作製し、「土壌汚染対策法施行規則第五条第三項第四号の規定に基づく環境大臣が定める土壌溶出量調査に係る測定方法(平成15年3月環境省告示第18号、以下「環告18号」)」に準じてJIS K0102:2013 67.3に従いセレン溶出量を測定した。また、ろ液のpH及び酸化―還元電位(ORP)を、(株)堀場製作所製の卓上型pHメーター:F−73(pH電極:9615S−10D、ORP電極:9300−10D)にて測定した。
その結果を下記表3示す。
【0047】
【表3】
【0048】
(4)LC−ICP−MSによるずり溶出液中のセレン価数分析
上記(3)で調製して得られたろ液中のセレンの価数分析を、LC−ICP−MSを用いて実施した。
価数に応じたセレンの溶出量の結果を、以下の表4に示す。
【0049】
なお、測定装置及び測定条件を以下に示す。
1)測定装置:液体クロマトグラフ:LC −10A システム(島津製作所)
ICP−MS 分析装置 7700x(アジレント・テクノロジー)
2)LC条件:
分離カラム:Hamilton PRP−X100(4.1mm×250mm)
移動相組成:10mM クエン酸アンモニウム緩衝液
流速:1.2mL/min
オーブン温度:40℃
注入量:250μL
3)ICP−MS条件:
RF出力:1550W
プラズマガス:15.0L/min
補助ガス:0.90L/min
キャリアガス:1.0L/min
測定元素:セレン(Se)
測定質量数:78
測定モード:CRI(H2ガス)
【0050】
【表4】
【0051】
(5)不溶化試験
上記掘削ずり100質量部に対し、各種不溶化材を3、5、10質量部添加し、さらにイオン交換水を30質量部添加して混合した。
その後、7日間養生し、上記環告18号及び46号試験によりセレン溶出量を確認した。
その結果を下記表5及び表6に示す。
なお、表中、「ブランク」は、上記(3)で測定した掘削ずりの溶出液である。
【0052】
なお、不溶化試験に用いた不溶化材としては、表1の焼成ドロマイトA〜E単体(表5)又は、焼成ドロマイトA〜Eを85質量%とし、これに、還元剤としての第一鉄化合物の代表例として硫酸第一鉄一水和物を内割で15質量%添加したもの(表6)を調製して用いて、不溶化試験を実施した。
【0053】
【表5】
【0054】
上記表5の結果より、焼成ドロマイト単体では、焼成度合に依存することなく、セレン溶出量を環境基準である0.01mg/L未満にまで低減させることが困難であることがわかる。よってずりから溶出するセレン不溶化材として十分なものではないことが明らかとなった。
【0055】
【表6】
【0056】
上記表6の結果より、焼成ドロマイトAを用いた際には、セレン溶出量を環境基準値未満にまで低減することはできない一方、本発明の焼成ドロマイトB〜Eを用いた不溶化材の場合には、セレン溶出量を環境基準値未満に低減することが可能となった。
従って、焼成ドロマイト中のCaCO
3の含有量が0≦x≦75.5(質量%)で、CaOの含有量が、2.3≦x≦75.5(質量%)である焼成ドロマイトに、硫酸第一鉄一水和物を添加して得られる不溶化材は、十分なセレン不溶化性能が得ることができるとともに、焼成ドロマイトの焼成度合とセレン不溶化性能に一定の比例関係があることが確認することができた。
【0057】
(6)第一鉄化合物の最適配合量決定
還元剤としての第一鉄化合物の最適配合量決定する試験を実施した。
具体的には、上記掘削ずり100質量部に対し、各種不溶化材を3、5、10質量部添加し、さらにイオン交換水を30質量部添加して混合した。
その後、7日間養生し、上記環告18号及び46号試験によりセレン溶出量を確認した。
なお、不溶化材としては、下記表7に示すように、焼成ドロマイトDと第一鉄化合物の一例としての硫酸第一鉄一水和物の配合割合を、下記表7に示すように変化させた不溶化材を調製して、上記(5)と同様の不溶化試験を実施した。
その結果を以下の表7に示す。
なお、「ブランク」は、上記(3)で測定した掘削ずりの溶出液である。
【0058】
【表7】
【0059】
上記表7の結果から、焼成ドロマイトと第一鉄化合物の配合比が質量比で、9:1〜1:9の場合に、セレン溶出量を環境基準値未満にまで低減することができることがわかる。
また、第一鉄化合物単体では、セレン溶出量を環境基準値未満にまで低減することができない。
【0060】
(7)不溶化材添加溶出液中のセレンの価数
セレン(VI)はセレン(IV)と比較し、安定な構造で存在するため、不溶化するのが難しいとされている。
下記表7に示す各不溶化材について、セレン(VI)の不溶化性能について試験した。
なお、上記(3)の掘削ずり土壌(ブランク)及び各種不溶化材配合土壌溶出液中のセレンの価数分析を、上記(4)に示すLC−ICP−MSを用いて行った。
その結果を下記の表8及び
図1に示す。
なお、土壌溶出液中のセレン(VI)割合は、以下のようにして求めた。
土壌溶出液中のセレン(VI)割合(質量%)=(土壌溶出液中のセレン(VI)濃度/土壌溶出液中の全セレン濃度)×100)
【0061】
【表8】
【0062】
上記表8及び
図1より、焼成度合の低いドロマイトである焼成ドロマイトAを用いた系では、溶出液中のセレン(VI)の割合がブランクと比較して高く、セレン(IV)に対してのみ不溶化性能を有することがわかる。
また、焼成度合の高いドロマイトである焼成ドロマイトEを用いた本発明の不溶化材では、溶出液中のセレン(VI)の割合が、ブランクとほぼ同等になっていることがわかる。
この結果はセレン(IV)だけでなくセレン(VI)に対しても不溶化性能を有することを示すものである。
【0063】
上記試験結果より、焼成ドロマイト及び硫酸第一鉄一水和物の2成分系では、主成分となる焼成ドロマイトの焼成度合が低い焼成ドロマイトを用いた不溶化材の場合、セレン(VI)に対する不溶化性能は発現せずセレン(IV)しか不溶化されない。一方、焼成ドロマイトの焼成度合が高い焼成ドロマイトを用いた不溶化材の場合、セレン(IV)及びセレン(VI)の両者に対する不溶化性能が発現されることがわかる。
その結果、本発明の、焼成度合の高い焼成ドロマイトを用いた不溶化材は、掘削ずりから溶出するセレン等の重金属等に対する不溶化性能が優れるものであることが明確になった。
【0064】
(8)フッ素溶液を用いたフッ素吸着試験
図2に示すXRDチャートを示す酸化鉄を主成分とする鉄系不溶化材と、実施例4に示す不溶化材について、フッ素溶液を用いて、掘削ずり中に含まれるフッ素吸着試験をそれぞれ行い、各フッ素吸着性能を評価し、その結果を下記表9及び10に示す。
フッ素溶液の初期濃度が5mg/Lの溶液を用いた場合の結果を
図9に、フッ素溶液の初期濃度が100mg/Lの溶液を用いた場合の結果を
図10に示す。
なお、上記
図2に示すXRDチャートを示す酸化鉄を主成分とする鉄系不溶化材を用いた場合を比較例21とする。
【0065】
具体的には、50mLコニカルチューブに、上記の各不溶化材を0.3g秤量し、試薬フッ化ナトリウム(特級)を用いて、作製した5mg/L又は100mg/Lフッ素溶液を30mL加え、4時間振とうした。その後、0.45μmメンブランフィルターを用いて吸引ろ過を行い、ろ液中のフッ素濃度を定量し(JIS K 0102:2013 34.4 ふっ素連続流れ分析法に準拠)、下記式を用いて、吸着除去率を算出した。また、ろ液のpHについても測定した。
吸着除去率(%)=(Ci‐Cf)/Ci×100
(但し、上記式中、Ci=フッ素初期濃度(mg/L),Cf=ろ液中のフッ素濃度(mg/L)を示す)
【0066】
なお、
図2より比較例21の鉄系不溶化材は主成分である酸化鉄(Fe
2O
3)の他に石膏(CaSO
4)を含有していることが確認できた。
(XRD測定条件)
使用装置:PANalytical X’Pert Pro MPD
測定条件:管球 Cu−Kα,管電圧45kV,電流40mA
発散スリット 可変(12mm),アンチスキャッタースリット(入射側)無し,ソーラースリット(入射側)0.04rad.
受光スリット 無し,アンチスキャッタースリット(受光側)可変(12mm),ソーラースリット(受光側) 0.04rad
走査範囲 2θ=20〜70°,走査ステップ 0.008°,計数時間 0.10°/sec
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
上記試験結果より、本発明の不溶化材は酸化鉄を主成分とする鉄系不溶化材を用いた比較例21と比べて、フッ素に対して優れた不溶化性能を有することがわかる。
【0070】
(9)生石灰(CaO)と硫酸第一鉄一水和物との2成分系の不溶化材を、下記表11に示す配合割合で調製した。上記掘削ずりを用いて、上記と同様にして、セレン不溶化試験を実施した。
その結果を下記表11に示す。
【0071】
【表11】
【0072】
生石灰及び硫酸第一鉄の2成分系不溶化材を、掘削ずり100質量部に対して5質量部の添加した場合であっても、セレン溶出量を環境基準値未満にまで低減させることはできず、かかる2成分系の不溶化材は、掘削ずりから溶出するセレンを不溶化するには適切ではないことがわかる。