【実施例】
【0030】
種々の永久磁石(希土類磁石)を製造し、それらの電気特性(電気抵抗率)と磁気特性(磁束密度、比透磁率)を測定した。その結果を踏まえて、永久磁石内包(埋込)型モータ(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor/単に「IPMモータ」という。)のロータコアのスロットへ各永久磁石を装填したときの渦電流損をシミュレーションにより求めた。これらの具体例に基づいて、本発明を以下に詳しく説明する。
【0031】
《試料》
(1)原料
磁石粉末として、Nd系磁石粉末(粗粉末)である市販のNdFeB系異方性磁石粉末(愛知製鋼株式会社製マグファイン/Br:1.28T、iHc:1313kA/m、平均粒径:100μm)と、Sm系磁石粉末(微粉末)である市販のSmFeN系異方性磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製SmFeN合金微粉D /Br:1.10T、iHc:1170kA/m、平均粒径:3μm)を用意した。
【0032】
バインダ樹脂として、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂(日本化薬株式会社製K−60)と、熱可塑性樹脂であるPPS(ポリフェニレンサルファイド)を用意した。
【0033】
(2)圧縮成形ボンド磁石の製造(試料1、2、3、C1)
試料1〜3については、質量比で8:2に秤量したNd系磁石粉末とSm系磁石粉末をヘンシェエルミキサーでよく混合した。混合した磁石粉末へ、固形のエポキシ樹脂を加えて、バンバリーミキサーで加熱混練(110℃)した。こうして原料粉末となるコンパウンドを得た。コンパウンド全体(100質量%)に対して熱硬化性樹脂の割合は2.75質量%とした。
【0034】
各試料毎に、成形型のキャビティへ投入したコンパウンドを、磁場中(1.5T)で温間成形した。この際、成形温度はいずれも120℃とした。試料1、2の成形圧力は196MPa、試料3の成形圧力は98MPaとした。こうして、14×14×14mmの立方体形状の成形体を得た。
【0035】
この成形体を大気中で150℃×1時間加熱して(キュア処理)、バインダ樹脂(エポキシ樹脂)を熱硬化させた。この硬化処理した成形体を約6Tの磁場中で着磁した。こうして、各試料に係る圧縮成形ボンド磁石(供試材)を得た。
【0036】
なお、試料2と試料3は、圧縮成形前に、充填したコンパウンド上から、潤滑油(潤滑剤)であるポリオールエステル(日油株式会社社製ユニスターH−481R)を添加しておいた。その添加量は、コンパウンド全体(100質量部)に対して9質量%(10質量部)とした。なお、試料1は、潤滑油の添加を行わずに圧縮成形を行った。
【0037】
試料2と試料3は成形圧力が異なる。成形圧力が低いほど、成形体の密度が低下し、その内部に残存する潤滑油量も増加する。これはキュア処理後でも同様である。キュア処理後のボンド磁石内部に残存する潤滑油量(残存潤滑剤量)は、ボンド磁石全体(100質量%)に対して、試料2:0.5質量%、試料3:1.0質量%であった。
【0038】
なお、残存潤滑剤量は、キュア処理後のボンド磁石の質量から、成形型のキャビティへ投入したコンパウンドの総質量(圧縮成形前における磁石粉末とバインダ樹脂との合計質量)を差し引いた質量差を残存潤滑剤量とした。
【0039】
試料C1は、従来からある一般的な圧縮成形ボンド磁石である。試料C1は、試料1に対して、以下の点を変更して製造した。磁石粉末として、Nd系磁石粉末(粗粉末)である市販のNdFeB系異方性磁石粉末(愛知製鋼株式会社製マグファイン/Br:1.36T、iHc:1075kA/m、平均粒径:100μm)と、Sm系磁石粉末(微粉末)である市販のSmFeN系異方性磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製SmFeN合金微粉C /Br:1.38T、iHc:852kA/m、平均粒径:3μm)を使用した。
【0040】
バインダ樹脂として、熱硬化性樹脂であるビスフェノールA(エピコート1004)を使用した。その割合は、コンパウンド全体(100質量%)に対して2.0質量%とした。圧縮成形は、磁場中(1.5T)で温間成形(成形温度:120℃、成形圧力:882MPa)した。勿論、試料2、3で用いた潤滑油等は一切添加せずに圧縮成形した。
【0041】
(3)射出成形ボンド磁石の製造(試料C2)
質量比7:3に秤量したNd系磁石粉末およびSm系磁石粉末と熱可塑性樹脂を二軸混練機で加熱(300℃)しつつ混練した。得られた混練物を分断してペレット(一粒:φ1〜2mm×2〜3mm)にした。ペレット全体(100質量%)に対する熱可塑性樹脂の割合は10質量%とした。
【0042】
ペレットを射出成形機のホッパーへ投入して加熱し、溶融混合物を金型のキャビティへ充填した。こうして、既述した圧縮成形ボンド磁石と同形状な射出成形ボンド磁石を得た。なお、射出成形は、金型のキャビティに配向磁場(1.7T)を印加しつつ、金型温度:140℃、ノズル温度:300℃として行い、φ20mm×高さ13mmの円柱形状の成形体を得た。その後、磁気特性を測定後、11×11×11mmの立方体形状に加工し、電気抵抗率の測定を行った。なお、射出成形に際して、既述した潤滑油は添加しなかった。
【0043】
(4)焼結磁石(試料C0)
基準となる比較試料として、市販の希土類異方性焼結磁石(NeoMag社製N40SH)も用意した。
【0044】
《測定》
(1)電気特性
各試料(永久磁石)について、直交する3方向の電気抵抗を4端子法により測定し、各方向の電気抵抗率を求めた。各試料毎に、3方向の電気抵抗率の最大値を第1電気抵抗率(ρ1)とした。残りの2方向の電気抵抗率の平均値を第2電気抵抗率とした。こうして得られた各試料に係る第1電気抵抗率と第2電気抵抗率を表1に示した。
【0045】
なお、試料1〜3、C1はいずれも、圧縮方向に沿って測定した電気抵抗率が、3方向の電気抵抗率中で最大であった。従って、それら試料の第1電気抵抗率は、圧縮方向に沿った電気抵抗率となっている。
【0046】
試料C2は、射出方向(溶融混合物の流動方向)の電気抵抗率が3方向の電気抵抗率中で最大であった。従って、その電気抵抗率を第1電気抵抗率とした。残り2方向は、配向方向と、射出方向および配向方向に垂直な方向である。両方向に関して測定した電気抵抗率の平均値を第2電気抵抗率とした。
【0047】
(2)磁気特性
各試料について、磁気特性を直流BHトレーサー(東英工業株式会社製TRF−5BH−25Auto)を用いて常温で測定した。得られた残留磁束密度(Br)と比透磁率を表1に併せて示した。
【0048】
《シミュレーション》
(1)設定モデル
上述した各試料に係る永久磁石を用いたときの渦電流損をシミュレーションにより算出した。この算出は、
図1に示すモデルを用いて行った。モデルは、埋込型のスロットへ装填された永久磁石からなる4磁極の(インナー)ロータ(界磁子)と、24コイルスロットを備えるステータ(電機子)と、中央に回転軸を備えるIPMモータ(単に「モータ」という。)とした。
【0049】
その各諸元は次の通りとした。ステータ外径:φ112mm、ロータ外径:φ55mm、ロータの軸方向長さ(モータ軸長):60mm、電流:5Armsの3相正弦波電流、コイル巻数:35turns/slot、モータ回転数:6000rpm、30000rpmまたは60000rpm
【0050】
ロータとステータの筐体(コア)は、いずれも電磁鋼板(JFEスチール製無方向性電磁鋼帯JNEH2000、板厚:0.2mm)の積層体とした。ロータのスロットに装填される永久磁石は2.5×21.8×60mmの直方体状(板状)とした。軸方向の電気抵抗率と軸方向に直交する方向の電気抵抗率とには、それぞれ、表1に示した第1電気抵抗率と第2電気抵抗率を採用した。なお、実物のモータの永久磁石は接着剤等を用いてスロットに固定されるが、本シミュレーションは、永久磁石がスロットに隙間なく嵌挿されていると仮定した。
【0051】
(2)解析
各試料に係る永久磁石を用いたモータを上述した回転数で運転したときのモータトルクとモータ出力P(kw)を算出すると同時に、そのときの各永久磁石に生じる渦電流損w(W)を算出した。各永久磁石のBrが相違すると、発生するトルクが異なり、回転数は同じでも出力が異なる。そこで、各永久磁石に生じる渦電流損w(W)を、各永久磁石を用いたモータの出力Pで規格化すると共に、モータ出力を10kW(高出力モータレベル)に固定したときの各永久磁石の渦電流損W
e(W)を算出した。こうして得られた結果を表1に併せて示した。
【0052】
具体的には、W
e(W)=w(W)×10(kW)/P(kW))により、10kW時における各永久磁石の渦電流損W
eを算出した。また、モータ回転数と永久磁石に生じる渦電流損の関係を
図2に示した。なお、
図2には、縦軸の目盛幅を変更して、試料C0(焼結磁石)についても併せて示した。ちなみに、渦電流損の算出には磁界解析ソフトJMAG−Designer(JSOL社製)を用いた。
【0053】
《評価》
(1)表1から明らかなように、試料1〜3の圧縮成形ボンド磁石は、電気抵抗率が大きく、電気抵抗異方度も大きい。試料C1は、同じ圧縮成形ボンド磁石であるものの、電気抵抗率が小さく、で電気抵抗が等方的(電気抵抗異方度が1)であった。
【0054】
試料C2の射出成形ボンド磁石も、電気抵抗率が比較的小さく、電気抵抗もほぼ等方的に近かった。なお、試料C2は、試料C1よりも樹脂量が多いため、その分、電気抵抗率も高くなっている。なお、試料C0は、当然ながら、電気抵抗率が桁違いに小さく、電気抵抗もはほぼ等方的であった。
【0055】
(2)表1および
図2から明らかなように、永久磁石の渦電流損は、基本的に、各永久磁石の電気特性を反映した結果となった。つまり、第1電気抵抗率および電気抵抗異方度が大きい圧縮成形ボンド磁石(試料1〜3、特に試料2、3)を用いた場合、その渦電流損はモータ回転数が6万回転になっても0.05Wにも満たないほど小さくなった。
【0056】
従来の希土類焼結磁石に替えて圧縮成形ボンド磁石(試料1〜3)を用いることにより、渦電流損(例えば、モータの3万回転時)を約120〜1400分の1程度にまで大幅に低減できることがわかった。
【0057】
【表1】