(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-182004(P2019-182004A)
(43)【公開日】2019年10月24日
(54)【発明の名称】船舶用ベルマウス
(51)【国際特許分類】
B63B 25/08 20060101AFI20190927BHJP
B63B 13/00 20060101ALI20190927BHJP
B63H 21/38 20060101ALI20190927BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20190927BHJP
【FI】
B63B25/08 B
B63B13/00 E
B63H21/38 B
F02M37/00 301Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-71239(P2018-71239)
(22)【出願日】2018年4月3日
(71)【出願人】
【識別番号】511161362
【氏名又は名称】常石造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100132964
【弁理士】
【氏名又は名称】信末 孝之
(74)【代理人】
【識別番号】100074055
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】中田 穂
(72)【発明者】
【氏名】石井 智憲
(72)【発明者】
【氏名】小柳 佑介
(72)【発明者】
【氏名】土井 康明
(72)【発明者】
【氏名】中島 卓司
(57)【要約】
【課題】液体タンクの底面との隙間を小さくしてタンク内に残る液体の量を少なくしつつ、圧力損失を低減して吸入能力を向上させることで排出時間の増加を抑制することの可能な、船舶用ベルマウスを提供する。
【解決手段】船舶の配管系統の流体吸入端部に接続される船舶用ベルマウス10であって、開口端周縁部に、外周方向及び内周方向の少なくとも1つに向けて膨出する形状の圧力損失低減部11を有する。圧力損失低減部の断面形状が、曲線を含むこと、又は多角形であることが好ましい。また、圧力損失低減部が、開口端周縁部に一体成形されていること、又は開口端周縁部に取り付けられたリング状の付加物であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の配管系統の流体吸入端部に接続される船舶用ベルマウスであって、
開口端周縁部に、外周方向及び内周方向の少なくとも1つに向けて膨出する形状の圧力損失低減部を有することを特徴とする船舶用ベルマウス。
【請求項2】
前記圧力損失低減部の断面形状が、曲線を含むことを特徴とする請求項1に記載の船舶用ベルマウス。
【請求項3】
前記圧力損失低減部の断面形状が、多角形であることを特徴とする請求項1に記載の船舶用ベルマウス。
【請求項4】
前記圧力損失低減部が、前記開口端周縁部に一体成形されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶用ベルマウス。
【請求項5】
前記圧力損失低減部が、前記開口端周縁部に取り付けられたリング状の付加物であることを特徴とする請求項1に記載の船舶用ベルマウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の配管系統の流体吸入端部に接続される船舶用ベルマウスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶には、カーゴタンク、バラストタンク、燃料タンク等の液体タンクが設置されている。このような液体タンクから液体を吸入して排出するために、配管系統の流体吸入端部には、船舶用ベルマウスが接続される。
図6は、船舶用ベルマウスの接続状態を示す図であり、配管系統2の流体吸入端部3にベルマウス1が接続されている。ベルマウス1は、その開口端(下端部)が液体タンク4の底面から隙間Hを空けた位置となるように設置されており、この隙間から液体を吸入するようになっている。
【0003】
ベルマウス1の開口端と液体タンク4底面との隙間Hが小さくなると、タンク内に残る液体が少なくなるので、より多くの液体をタンク4から吸入することができるが、液体を吸入する隙間自体が狭いため、吸入圧力の損失が増加することでベルマウス近傍に渦が発生しやすくなり、吸入能力が低下して、結果として排出時間の増加につながる。一方、ベルマウス1の開口端と液体タンク4底面との隙間Hが大きくなると、圧力損失は生じにくいが、タンク内に残る液体の量が増加してしまう。
【0004】
一方、特許文献1乃至特許文献3には、ベルマウスの吸入能力を高めるために、形状に工夫を凝らしたベルマウスに関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−141865号公報
【特許文献2】実公昭63−9519号公報
【特許文献3】実公昭45−10926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の船舶用ベルマウスは、タンク内に残る液体を少なくするためにタンク底面との隙間を小さくすると、圧力損失が増加することでベルマウス近傍に渦が発生しやすくなり、吸入能力が低下して、結果として排出時間の増加につながるという問題があった。また、特許文献1乃至特許文献3に記載された発明によっても、タンク底面との隙間を小さくしつつ圧力損失を低減することはできない。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、液体タンクの底面との隙間を小さくしてタンク内に残る液体の量を少なくしつつ、圧力損失を低減して吸入能力を向上させることで排出時間の増加を抑制することの可能な、船舶用ベルマウスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の船舶用ベルマウスは、船舶の配管系統の流体吸入端部に接続される船舶用ベルマウスであって、開口端周縁部に、外周方向及び内周方向の少なくとも1つに向けて膨出する形状の圧力損失低減部を有することを特徴とする。
【0009】
また好ましくは、前記圧力損失低減部の断面形状が、曲線を含むことを特徴とする。
【0010】
また好ましくは、前記圧力損失低減部の断面形状が、多角形であることを特徴とする。
【0011】
また好ましくは、前記圧力損失低減部が、前記開口端周縁部に一体成形されていることを特徴とする。
【0012】
また好ましくは、前記圧力損失低減部が、前記開口端周縁部に取り付けられたリング状の付加物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の船舶用ベルマウスは、船舶の配管系統の流体吸入端部に接続される船舶用ベルマウスであって、開口端周縁部に、外周方向及び内周方向の少なくとも1つに向けて膨出する形状の圧力損失低減部を有している。従って、膨出形状により開口端周縁部における流速を変化させて、ベルマウス内部の下端部近傍で回り込む流れを誘導することで剥離を低減し、圧力損失を少なくすることができる。そのため、ベルマウスの開口端と液体タンクの底面との隙間が小さくても圧力損失を少なくすることができるので、隙間を小さくしてタンク内に残る液体の量を少なくしつつ、圧力損失を低減して吸入能力を向上させることで排出時間の増加を抑制することができる。
【0014】
また、圧力損失低減部の断面形状が、曲線を含む場合には、開口端周縁部における液体の流れを、より滑らかにすることができる。
【0015】
また、圧力損失低減部の断面形状が、多角形である場合には、開口端周縁部における液体の流れを、より滑らかにすることができる。
【0016】
また、圧力損失低減部が、開口端周縁部に一体成形されている場合には、形状加工が容易である。
【0017】
また、圧力損失低減部が、開口端周縁部に取り付けられたリング状の付加物である場合には、既存のベルマウスにも取付可能であり、また低コストである。
【0018】
このように、本発明によれば、液体タンクの底面との隙間を小さくしてタンク内に残る液体の量を少なくしつつ、圧力損失を低減して吸入能力を向上させることで排出時間の増加を抑制することの可能な、船舶用ベルマウスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る船舶用ベルマウスの(a)平面図、(b)A−A断面図、(c)B−B断面図である。
【
図2】他の実施形態に係る船舶用ベルマウスの断面図である。
【
図3】他の実施形態に係る船舶用ベルマウスの断面図である。
【
図4】他の実施形態に係る船舶用ベルマウスの断面図である。
【
図5】他の実施形態に係る船舶用ベルマウスの断面図である。
【
図6】船舶用ベルマウスの接続状態を示す図である。
【
図7】ベルマウス内部の下端部近傍の流れを示す模式図である。
【
図8】実施例のシミュレーション条件の説明図である。
【
図9】実施例のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、
図1乃至
図9を参照して、本発明の実施形態に係る船舶用ベルマウスについて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る船舶用ベルマウスの(a)平面図、(b)A−A断面図、(c)B−B断面図である。本実施形態に係る船舶用ベルマウス10は、
図6に示すように、船舶の液体タンク4(カーゴタンク、バラストタンク、燃料タンク等)から液体を吸入して排出する配管系統2の流体吸入端部3に接続される。そして、液体タンク4の底面から所定の隙間Hを空けた位置に設置される。
【0021】
船舶用ベルマウス10の材料としては、鉄等の金属、樹脂、FRP(繊維強化プラスチック)等を用いることができる。
【0022】
船舶用ベルマウス10は、圧力損失低減部11、拡径部12及び基端部13から構成された、ラッパ状の筒体である。基端部13の上端には、配管系統2の液体吸入端部3に接続するためのフランジ14が設けられている。基端部13の下端は拡径部12の上端につながっており、拡径部14が下方に向けて拡径している。なお、本実施形態に係る船舶用ベルマウス10は、拡径部12が横長の形状になっているが、これに限定されるものではない。また、配管系統とベルマウスとの接続は、フランジ接続に限定されるものではなく、例えばスリーブ接続であってもよい。
【0023】
拡径部12の下端は、船舶用ベルマウス10の開口端になっており、その周縁部に圧力損失低減部11が設けられている。圧力損失低減部11は、断面形状が円形のリング状であって、開口端周縁部に取り付けられている。ここでは、開口端周縁部の先端が損失低減部11の断面形状におけるほぼ中央になるように配置されている。これにより、損失低減部11は、船舶用ベルマウス10の開口端周縁部において、外周方向及び内周方向の両方に膨出する形状になっている。なお、取付は溶接や融着等、材質によって適切な方法により行うことができる。
【0024】
ここで、
図7を参照して、拡径部12の下端部に圧力損失低減部11を設けることにより、ベルマウス内部の下端部近傍の流れがどのように変化するかを説明する。
図7(a)は、従来のベルマウスにおける下端部近傍の流れを示しており、流入した液体がベルマウス下端部の内面から剥離している。そのため、ベルマウス下端部近傍に渦が発生しやすくなり、吸入能力が低下してしまう。これに対して、
図7(b)に示すように、圧力損失低減部11を設けた場合には、流入した液体を圧力損失低減部11に沿って回り込むように誘導し、ベルマウス下端部の内面からの剥離を低減することができる。そのため、ベルマウス下端部近傍に渦が発生しにくく、吸入能力が低下しにくい。
【0025】
このように、圧力損失低減部11を外周方向及び内周方向の両方に膨出する形状とすることにより、開口端周縁部における液体の流速を変化させて、拡径部12の下端部近傍でベルマウス内部に回り込む流れを誘導することで剥離を低減し、圧力損失を少なくすることができる。なお、圧力損失低減部は、外周方向及び内周方向の少なくとも1つに膨出する形状であれば、開口端周縁部における液体の流速を変化させて、拡径部12の下端部近傍でベルマウス内部に回り込む流れを誘導することで剥離を低減し、圧力損失を少なくすることができる。以下、
図2乃至
図5を参照して、他の実施形態に係る船舶用ベルマウスについて説明する。
【0026】
図2(a)に示す船舶用ベルマウス10は、
図1と同様であるため説明を省略する。
図2(b)に示す船舶用ベルマウス20は、圧力損失低減部21の断面形状を円形とし、開口端周縁部の外周側に取り付けたものであり、外周方向に膨出している。
図2(c)に示す船舶用ベルマウス30は、圧力損失低減部31の断面形状を楕円形とし、開口端周縁部の下部中央に取り付けたものであり、外周方向及び内周方向の両方に膨出している。
【0027】
図3(a)に示す船舶用ベルマウス40は、圧力損失低減部41の断面形状を半円形とし、円弧部分が外周方向を向くように開口端周縁部に取り付けたものであり、外周方向に膨出している。
図3(b)に示す船舶用ベルマウス50は、圧力損失低減部51の断面形状を半円形とし、円弧部分が下側を向くように開口端周縁部の下部中央に取り付けたものであり、外周方向及び内周方向の両方に膨出している。
図3(c)に示す船舶用ベルマウス60は、圧力損失低減部61の断面形状を半楕円形とし、開口端周縁部の下部中央に取り付けたものであり、外周方向及び内周方向の両方に膨出している。
【0028】
図4(a)に示す船舶用ベルマウス70は、圧力損失低減部71を下に凸となる曲板状とし、外周方向に膨出するように開口端周縁部に取り付けたものである。
図4(b)に示す船舶用ベルマウス80は、圧力損失低減部81を平板状とし、外周方向に膨出するように開口端周縁部に取り付けたものである。
図4(c)に示す船舶用ベルマウス90は、圧力損失低減部91の断面形状を、開口端周縁部が滴(しずく)形になるように一体成形し、外周方向及び内周方向の両方に膨出させたものである。
【0029】
図5(a)に示す船舶用ベルマウス100は、圧力損失低減部101の断面形状を四角形とし角の1つが下側を向くように開口端周縁部の下部中央に取り付けたものであり、外周方向及び内周方向の両方に膨出している。
図5(b)に示す船舶用ベルマウス110は、圧力損失低減部111の断面形状を三角形とし、辺の1つが上側を向くように開口端周縁部の下部中央に取り付けたものであり、外周方向及び内周方向の両方に膨出している。
図5(c)に示す船舶用ベルマウス120は、圧力損失低減部121の断面形状を三角形とし、角の1つが上側を向くように開口端周縁部に取り付けたものであり、外周方向に膨出している。
図5(d)に示す船舶用ベルマウス130は、圧力損失低減部131の断面形状を六角形とし、角の1つが上側を向くように開口端周縁部の下部中央に取り付けたものであり、外周方向及び内周方向の両方に膨出している。なお、八角形等のその他の多角形とすることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、本実施形態に係る船舶用ベルマウスによる圧力損失低減効果に関するCFDシミュレーション結果について説明する。CFDシミュレーションの条件は、以下の通りである。
【0031】
図8は、本実施例のシミュレーション条件の説明図である。まず、出入口境界間の圧力差を定義した。
入口境界:総圧40(kPa)
出口境界:静圧0(Pa)
上下面:すべりなし壁面
そして、クリアランス(底面との隙間)を変化させながら、圧力損失の程度を示す係数である損失係数ζを算出した。
【0032】
図9は、本実施例のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、
図9(b)は、
図9(a)の縦軸を部分的に拡大したものである。
図9に示すように、同じクリアランスの場合、実施例の方が比較例よりも損失係数ζが小さいことがわかる。従って、実施例によれば、比較例と同じ損失係数に抑えつつ、クリアランスを下げることが可能といえる。すなわち、圧力損失を増加させることなく、クリアランスを下げることで、タンク内の残水を低減することができる。
【0033】
本実施形態に係る船舶用ベルマウスは、船舶の配管系統2の流体吸入端部3に接続される船舶用ベルマウスであって、開口端周縁部に、外周方向及び内周方向の少なくとも1つに向けて膨出する形状の圧力損失低減部を有している。従って、膨出形状により開口端周縁部における流速を変化させて、拡径部12の下端部近傍でベルマウス内部に回り込む流れを誘導することで剥離を低減し、圧力損失を少なくすることができる。そのため、ベルマウスの開口端と液体タンク4の底面との隙間Hが小さくても圧力損失を少なくすることができるので、隙間Hを小さくしてタンク内に残る液体の量を少なくしつつ、圧力損失を低減して吸入能力を向上させることで排出時間の増加を抑制することができる。
【0034】
また、圧力損失低減部の断面形状が、曲線を含む場合には、開口端周縁部における液体の流れを、より滑らかにすることができる。
【0035】
また、圧力損失低減部の断面形状が、多角形である場合には、開口端周縁部における液体の流れを、より滑らかにすることができる。
【0036】
また、圧力損失低減部が、開口端周縁部に一体成形されている場合には、形状加工が容易である。
【0037】
また、圧力損失低減部が、開口端周縁部に取り付けられたリング状の付加物である場合には、既存のベルマウスにも取付可能であり、また低コストである。
【0038】
このように、本実施形態に係る船舶用ベルマウスによれば、液体タンクの底面との隙間を小さくしてタンク内に残る液体の量を少なくしつつ、圧力損失を低減して吸入能力を向上させることで排出時間の増加を抑制することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態に係る船舶用ベルマウスについて説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 船舶用ベルマウス
2 配管系統
3 液体吸入端部
4 液体タンク
10 船舶用ベルマウス
11 圧力損失低減部
12 拡径部
13 基端部
14 フランジ
20 船舶用ベルマウス
21 圧力損失低減部
30 船舶用ベルマウス
31 圧力損失低減部
40 船舶用ベルマウス
41 圧力損失低減部
50 船舶用ベルマウス
51 圧力損失低減部
60 船舶用ベルマウス
61 圧力損失低減部
70 船舶用ベルマウス
71 圧力損失低減部
80 船舶用ベルマウス
81 圧力損失低減部
90 船舶用ベルマウス
91 圧力損失低減部
100 船舶用ベルマウス
101 圧力損失低減部
110 船舶用ベルマウス
111 圧力損失低減部
120 船舶用ベルマウス
121 圧力損失低減部
130 船舶用ベルマウス
131 圧力損失低減部