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特開2019-183077ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、押出成形品、押出成形品の製造方法、並びに輸送機、又は発電機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-183077(P2019-183077A)
(43)【公開日】2019年10月24日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、押出成形品、押出成形品の製造方法、並びに輸送機、又は発電機
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20190927BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20190927BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20190927BHJP
   B29C 48/32 20190101ALI20190927BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20190927BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08L23/00
   C08L63/00 A
   B29C47/20
   F16L11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-79010(P2018-79010)
(22)【出願日】2018年4月17日
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】大西 克平
(72)【発明者】
【氏名】守屋 翔太郎
【テーマコード(参考)】
3H111
4F207
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111DA26
3H111EA04
4F207AA03E
4F207AA34
4F207AB06
4F207AB07
4F207AB08
4F207AG08
4F207AH33
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL88
4F207KM15
4J002BB072
4J002CD192
4J002CN011
4J002FD010
4J002FD077
4J002FD096
4J002FD167
4J002FD207
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】良好な押出成形性と、例えば、樹脂製のチューブを、ニップル等の管継手に押し込んでも、ひび割れや裂けが生じないような柔軟性とを兼ね備える押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物と、押出成形品と、押出成形品の製造方法と、前述の押出成形品をロングライフクーラントを循環させる配管として備える輸送機、又は発電機と提供すること。
【解決手段】樹脂成分(A)として、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、特定の組成のエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)と、を含有し、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、樹脂成分(A)の質量の比率が95質量%以上であり、ISO527−1,2に従って測定される引張破壊呼び歪が40%以上である、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を押出成形に用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分(A)として、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)と、を含み、
着色剤(B)を含むか、又は含まない、押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、前記樹脂成分(A)の質量の比率が95質量%以上であり、
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)の質量を100質量部とする場合に、前記エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量が33質量部以上55質量部以下であり、
前記エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)が、α−オレフィンに由来する構成単位(A2a)と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位(A2b)と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位(A2c)とを含み、
前記エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量に対する、前記構成単位(A2b)の質量の比率が2質量%以上5質量%以下であり、且つ、前記構成単位(A2c)の質量の比率が20質量%以上40質量%以下であり、
ISO527−1,2に従って測定される引張破壊呼び歪が40%以上である、押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)のピーク分子量が50000以上である、請求項1に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
添加剤(C)として、酸化防止剤、離型剤、腐食防止剤、及び核剤からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項4】
ロングライフクーラントを流通させる配管の押出成形に用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項5】
拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続されて用いられる配管の押出成形に用いられる、請求項4に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項6】
押出直後の形状として、外径が8.0mm以上50.0mm以下、内径が5.0mm以上49.5mm以下、肉厚が0.5mm以上3.0mm以下、及び長さ100cm以上である円筒状の配管の押出成形に用いられる、請求項4又は5に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる、押出成形品。
【請求項8】
ロングライフクーラントを流通させる配管である、請求項7に記載の押出成形品。
【請求項9】
拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続されて用いられる配管である、請求項8に記載の押出成形品。
【請求項10】
押出直後の形状として、外径が8.0mm以上50.0mm以下、内径が5.0mm以上49.5mm以下、肉厚が0.5mm以上3.0mm以下、及び長さ100cm以上である円筒状の配管である、請求項9に記載の押出成形品。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を押出成形することを含む、請求項7〜10のいずれか1項に記載の押出成形品の製造方法。
【請求項12】
内燃機関と、前記内燃機関を冷却するロングライフクーラントを循環させる循環系とを備える装置であって、
前記循環系が、請求項9又は10に記載の前記押出成形品を前記配管として備える、輸送機、又は発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる押出成形品、前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる押出成形品の製造方法、並びに前記押出成形品をロングライフクーラント(LLC)を循環させる配管として備える輸送機、又は発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有している。このため、ポリアリーレンサルファイド樹脂は、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。
【0003】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の上記の優れた特性を活かした組成物として、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、α−オレフィン10〜50重量%と、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル50〜90重量%とからなるオレフィン系共重合体とからなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が提案されている(特許文献1を参照)。かかるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、ガラス繊維のような強化剤を含まずとも、耐衝撃性、引張伸び、表面状態等の種々の物性に優れる成形品を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−179791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物について、チューブ等の押出成形により製造され得る製品への適用も望まれているところ、特許文献1の実施例等に記載されているポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、メルトインデックスや溶融粘度が高いことに起因して、押出成形性が劣る。
【0006】
また、樹脂製のチューブについて、チューブを用いた流体の流路形成の容易さから、チューブ等をニップル等の管継手に拡径させつつ押し込んで接続可能であることが求められている。つまり、樹脂製のチューブをニップル等の管継手に押し込んでも、ひび割れや裂けが生じないような柔軟性が求められている。
しかし、特許文献1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物には、樹脂製のチューブをニップル等の管継手に押し込んでチューブと管継手とを接続する場合の割れが懸念され、柔軟性についての改良が求められる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、良好な押出成形性と、例えば、樹脂製のチューブをニップル等の管継手に押し込んでも、ひび割れや裂けが生じないような柔軟性とを兼ね備える押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物と、当該ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて製造される押出成形品と、当該ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる押出成形品の製造方法と、前述の押出成形品をロングライフクーラントを循環させる配管として備える輸送機、又は発電機とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、樹脂成分(A)として、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、α−オレフィンに由来する構成単位(A2a)と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位(A2b)と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位(A2c)とを含む、所定の組成のエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)と、を含有し、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、樹脂成分(A)の質量の比率が95質量%以上であり、ISO527−1,2に従って測定される引張破壊呼び歪が40%以上である、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を押出成形に用いることによって、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 樹脂成分(A)として、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)と、を含み、
着色剤(B)を含むか、又は含まない、押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、樹脂成分(A)の質量の比率が95質量%以上であり、
ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)の質量を100質量部とする場合に、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量が33質量部以上55質量部以下であり、
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)が、α−オレフィンに由来する構成単位(A2a)と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位(A2b)と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位(A2c)とを含み、
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量に対する、構成単位(A2b)の質量の比率が2質量%以上5質量%以下であり、且つ、構成単位(A2c)の質量の比率が20質量%以上40質量%以下であり、
ISO527−1,2に従って測定される引張破壊呼び歪が40%以上である、押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(2) ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)のピーク分子量が50000以上である、(1)に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(3) 添加剤(C)として、酸化防止剤、離型剤、腐食防止剤、及び核剤からなる群より選択される1種以上を含む、(1)又は(2)に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(4) ロングライフクーラントを流通させる配管の押出成形に用いられる、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(5) 拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続されて用いられる配管の押出成形に用いられる、(4)に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(6) 押出直後の形状として、外径が8.0mm以上50.0mm以下、内径が5.0mm以上49.5mm以下、肉厚が0.5mm以上3.0mm以下、及び長さ100cm以上である円筒状の配管の押出成形に用いられる、(4)又は(5)に記載の押出成形用のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(7) (1)〜(3)のいずれか1つに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる押出成形品。
(8) ロングライフクーラントを流通させる配管である、(7)に記載の押出成形品。
(9) 拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続されて用いられる配管である、(8)に記載の押出成形品。
(10) 押出直後の形状として、外径が8.0mm以上50.0mm以下、内径が5.0mm以上49.5mm以下、肉厚が0.5mm以上3.0mm以下、及び長さ100cm以上である円筒状の配管である、(9)に記載の押出成形品。
(11) (1)〜(3)のいずれか1つに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を押出成形することを含む、(7)〜(10)のいずれか1つに記載の押出成形品の製造方法。
(12) 内燃機関と、内燃機関を冷却するロングライフクーラントを循環させる循環系とを備える装置であって、
循環系が、(9)又は(10)に記載の押出成形品を配管として備える、輸送機、又は発電機。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる配管が、拡径されつつ押し込まれて管継手に接続される方法の一態様を示す図である。
図2図2は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる配管が、拡径されつつ押し込まれて管継手に接続される方法の他の一態様を示す図である。
図3図3は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる配管が、拡径されつつ押し込まれて管継手に接続される方法のさらに他の一態様を示す図である。
図4図4は、実施例1のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の引張強さ測定用試験片を、エチレングリコールと水とを含むロングライフクーラントに、130℃で1000時間暴露する試験を行った際の、暴露時間の経過による引張強さ(MPa)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0012】
≪ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物≫
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、押出成形用の材料として用いられる組成物である。
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、樹脂成分(A)としてポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)とを含む。
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、樹脂成分(A)の質量の比率は95質量%以上である。
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、着色剤(B)を含むか、又は含まない。
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)は、α−オレフィンに由来する構成単位(A2a)と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位(A2b)と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位(A2c)とを含む。
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量に対する、構成単位(A2b)の質量の比率が2質量%以上5質量%以下であり、且つ、構成単位(A2c)の質量の比率が20質量%以上40質量%以下である。
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物のISO527−1,2に従って測定される引張破壊呼び歪は、40%以上である。
【0013】
かかるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、押出成形性が良好であり、特に、長さが100cm以上であるような長尺の配管であっても押出成形が容易である。
より具体的には、上記のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、押出直後の形状として、外径が8.0mm以上50.0mm以下、内径が5.0mm以上49.5mm以下、肉厚が0.5mm以上3.0mm以下、及び長さ100cm以上である円筒状の配管であっても、押出成形によって良好に製造することができる。
【0014】
また、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物のISO527−1,2に従って測定される引張破壊呼び歪が40%以上であることによって、かかるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる押出成形品では、押出成形品が弾性変形を受けた場合に、押出成形品にひび割れや裂けが生じにくい。
このため、上記のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、弾性変形により拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続されて用いられる配管の押出成形に好ましく用いられる。
【0015】
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の引張破壊呼び歪を調製する方法は特に限定されない。ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の引張破壊呼び歪を調製する方法としては、例えば、オレフィン系共重合体等のエラストマー成分の添加量や種類等を調整する方法や、可塑剤成分の添加量や種類等を調整する方法や、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)のピーク分子量を調整する方法等が挙げられる。
【0016】
さらに、上記のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる押出成形品は、エチレングリコールやグリセリン等の有機溶媒成分と、水とを含む所謂「ロングライフクーラント(LLC)」に長期間接触しても、引張強度等の機械的特性が変化せず、また、膨潤、脆化、変形等を起こしにくい。
つまり、上記のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる押出成形品は、水、又は有機用溶媒に対する、特に「ロングライフクーラント」に対する優れた耐久性を有する。
このため、上記のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、例えば、4輪自動車等の内燃機関により駆動する輸送機において、「ロングライフクーラント」を流通させるための配管や、当該配管を接続するため継手を押出成形するための材料として好適に用いられる。
【0017】
以下、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が含有する、必須又は任意の成分と、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法とについて説明する。
【0018】
<樹脂成分(A)>
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、樹脂成分(A)としてポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)とを含む。
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が、ISO527−1,2に従って測定される引張破壊呼び歪が40%以上であるように、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)とを含むことにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は上記の効果を奏する。
【0019】
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)及びエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)以外のその他の樹脂(A3)を含んでいてもよい。
【0020】
樹脂成分(A)の質量における、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)及びエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量の合計の割合は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。樹脂成分(A)の質量における、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)及びエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量の合計の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0021】
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、樹脂成分(A)の質量の比率は95質量%以上であり、96質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、98質量%が特に好ましい。
【0022】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)]
ポリアリーレンサルファイド樹脂(以下、PAS樹脂とも記す)(A1)は、繰り返し単位として、−(Ar−S)−(なお、「Ar」はアリーレン基を示す)を主として構成された樹脂である。本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
PAS樹脂(A1)は、直鎖状の分子のみからなっていてもよく、分岐鎖状の分子を含んでいてもよい。
【0023】
PAS樹脂(A1)において、主鎖に含まれるアリーレン基は置換基を有していなくてもよく、置換基を有していてもよい。PAS樹脂(A1)の製造及び入手が容易で安価である点等からは、主鎖に含まれるアリーレン基が置換基を有していないことが好ましい。
【0024】
アリーレン基上の置換基としては、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、炭素原子数2以上4以下のアシル基、アミノ基、炭素原子数1以上4以下のアルキルを有するモノアルキルアミノ基等、及び炭素原子数1以上4以下のアルキルを有するジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0025】
炭素原子数1以上4以下のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、及びn−ブチル基等が挙げられる。炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、及びn−ブチルオキシ基等が挙げられる。炭素原子数2以上4以下のアシル基の具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基等が挙げられる。炭素原子数1以上4以下のアルキルを有するモノアルキルアミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、及びn−ブチルアミノ基等が挙げられる。炭素原子数1以上4以下のアルキルを有するジアルキルアミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn−プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、及びジn−ブチルアミノ基等が挙げられる。
【0026】
−(Ar−S)−におけるアリーレン基としては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。このようなアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種のアリーレンサルファイド基の繰り返しを含んだポリマーが好ましい。
【0027】
用途にもよるが、ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とする樹脂が好ましい。p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらには高い寸法安定性を示す。このようなホモポリマーを用いることで、非常に優れた物性を備える成形品を得ることができる。
【0028】
コポリマーとしては、上述したアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で相異なる2種以上のアリーレンサルファイド基を組み合わせて含む樹脂を使用することができる。アリーレンサルファイド基の組み合わせの中では、p−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが、成形性が良好であるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物と、耐熱性、及び機械的特性等の物性が良好である成形品が得られる点とから好ましい。また、p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上の割合で含むポリマーがより好ましく、80mol%以上の割合で含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有するPAS樹脂(A1)は、ポリフェニレンサルファイド樹脂である。
【0029】
PAS樹脂(A1)は、従来公知の重合方法により製造することができる。一般的な重合方法により製造されたPAS樹脂は、通常、副生不純物等を除去するために、水あるいはアセトンを用いて数回洗浄した後、酢酸、塩化アンモニウム等で洗浄する。その結果として、PAS樹脂(A1)は末端に、カルボキシル末端基を所定量の割合で含む。
【0030】
所望する引張破壊呼び歪を示すポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を得やすいことから、PAS樹脂(A1)のピーク分子量は50000以上が好ましく、55000以上がより好ましい。
また、所望する引張破壊呼び歪と、良好な押出成形性との両立の点から、PAS樹脂(A1)のピーク分子量は、100000以下が好ましく、80000以下がより好ましい。
PAS樹脂(A1)のピーク分子量が上記の範囲内であることによって、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物についての、良好な押出成形性と、例えば、樹脂製のチューブをニップル等の管継手に押し込んでも、ひび割れや裂けが生じないような柔軟性とを両立しやすい。
【0031】
PAS樹脂(A1)のピーク分子量は、高温ゲル浸透クロマトグラフ法により、標準ポリスチレン換算された分子量分布のピークトップの分子量として測定することができる。高温ゲル浸透クロマトグラフ法では、例えば、株式会社センシュー科学製のSSC−7000等の装置(UV検出器:検出波長360nm)を用いて測定することができる。測定用の試料は、ポリアリーレンサルファイド樹脂を、溶媒である1−クロロナフタレンに230℃10分の条件で濃度0.05質量%となるように溶解させたものを用いることができる。また、PAS樹脂(A1)のピーク分子量は、周知の方法に従って、PAS樹脂(A1)の製造時の重合条件を調整することによって調整することができる。
【0032】
押出成形性が良好であり、特に、長さが100cm以上であるような長尺の配管の押出成形が容易であることから、310℃で測定した、せん断速度1216sec−1でのPAS樹脂(A1)の溶融粘度は、50〜300Pa・sが好ましく、80〜300Pa・sがより好ましく、100〜300Pa・sが特に好ましい。
【0033】
[エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)]
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)を含有する。エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)としては、α−オレフィンに由来する構成単位(A2a)と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位(A2b)と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位(A2c)とを含むオレフィン系共重合体が使用される。エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)は、上記の構成単位(A2a)と、構成単位(A2b)と、構成単位(A2c)とを含むブロックコポリマーであってもよく、ランダムコポリマーであってもよい。エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)を用いることによる所望する効果を得やすいことから、ランダムコポリマーが特に好ましい。
また、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)は、非グラフト共重合体であることが好ましい。
【0035】
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)が、ランダムコポリマーであったり、非グラフト共重合体であったりする場合、特定の構成単位のみからなるブロックが、エポキシ基含有オレフィン系共共重合体(A2)の主鎖又はグラフト鎖に偏在しにくい。
この場合、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)に含まれる、構成単位(A2a)と、構成単位(A2b)と、構成単位(A2c)とが重合体の分子中に偏在しないことによって、それぞれの構成単位が奏する効果を所望する程度に発揮しやすい。
以上の理由から、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)が、ランダムコポリマー、又は非グラフト共重合体であることが好ましい。
【0036】
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量に対する、構成単位(A2b)の質量の比率は2質量%以上5質量%以下であり、且つ、構成単位(A2c)の質量の比率は20質量%以上40質量%以下である。
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量に対する、構成単位(A2b)の質量の比率は、2.5質量%以上4質量%以下が好ましく、且つ、構成単位(A2c)の質量の比率は、25質量%以上35質量%以下が好ましい。
【0037】
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)が、上記の範囲内の量の構成単位(A2b)を含むことにより、押出成形性が良好であるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を得やすい。
また、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)が、上記の範囲内の量の構成単位(A2c)を含むことにより、良好な押出成形性と、例えば、樹脂製のチューブを、ニップル等の管継手に押し込んでも、ひび割れや裂けが生じないような柔軟性とを両立しやすい。
【0038】
なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0039】
構成単位(A2a)を与えるα−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、及びブチレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。α−オレフィンは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)がα−オレフィン由来の構成単位を含むことで、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて形成される成形品に可撓性を付与しやすい。
【0040】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、及びエタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−アミル、メタクリル酸−n−オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。
【0042】
構成単位(A2a)と、構成単位(A2b)と、構成単位(A2c)とを含むエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。
例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体を得ることができる。
【0043】
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)は、本発明の効果を害さない範囲で、構成単位(A2a)、構成単位(A2b)、及び構成単位(A2c)以外に、α−オレフィン、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル、及び(メタ)アクリル酸エステル以外の他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0044】
より具体的には、エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)としては、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
【0045】
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−エチルアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−プロピルアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−ブチルアクリレート共重合体等を挙げることができる。これらの中でも、エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルアクリレート共重合体が好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0046】
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の含有量は、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)の質量を100質量部とする場合に、33質量部以上55質量部以下であり、37質量部以上55質量部以下がより好ましく、39質量部以上51質量部以下が特に好ましい。33質量部以上であると、充分な靭性を得やすく、また、55質量部以下であると、配管等を押出成形する際に、成形品の表面にスジや表面荒れのような表面欠陥が起こりにくい。
エポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の含有量が、上記の範囲内であると、例えば、樹脂製のチューブを、ニップル等の管継手に押し込んでも、ひび割れや裂けが生じないような柔軟性を押出成形品に付与でき、また、機械物性及び耐薬品性が良好である押出成形品を形成しやすい。
【0047】
[その他の樹脂(A3)]
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)及びエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)以外のその他の樹脂(A3)を含んでいてもよい。
前述の通り、樹脂成分(A)の質量における、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)及びエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量の合計の割合は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。樹脂成分(A)の質量における、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)及びエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)の質量の合計の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0048】
その他の樹脂(A3)の具体例としては、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエステル樹脂(例えば、液晶性ポリマー、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等)、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリ−4−メチルペンテン−1等)、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66、及び芳香族ナイロン等)、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリアクリロニトリルスチレン(AS樹脂)、ポリスチレン、及び環状オレフィン樹脂(例えば、ノルボルネン樹脂等)等が挙げられる。これらのその他の樹脂(A3)は2種以上を混合して使用することもできる。
【0049】
<着色剤(B)>
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、着色剤(B)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が着色剤(B)を含む場合、意匠性に優れる押出成形品を製造できたり、押出成形品を色分けすることにより、押出成形品を用いて製造される種々の機械等の組み立て・製造を容易にしたりすることができる。
【0050】
着色剤(B)としては、押出成形条件において退色又は変色しない耐久性を備える着色剤であれば、染料及び顔料のいずれも用いることができる。押出成形時の耐久性や、押出成形品における耐光性、耐候性等が良好であることから、着色剤(B)としては顔料が好ましい。
【0051】
着色剤(B)としては、種々の市販の着色剤を用いることができる。例えば、カーボンブラックや、カラーインデックス(C.I.;The Society of Dyers and Colourists社発行)において、ピグメント(Pigment)やダイ(Dye)に分類され、カラーインデックス(C.I.)番号が付与されている種々の化合物を、着色剤(B)として好ましく用いることができる。
着色剤(B)としては2種以上を組み合わせて用いることができる。着色剤(B)として、顔料と、染料とを組み合わせて用いてもよい。
【0052】
着色剤(B)の使用量は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の質量における、樹脂成分(A)の質量の比率が95質量%以上である限りにおいて特に限定されない。
【0053】
<添加剤(C)>
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、上記成分の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で、所望の物性付与のために、従来、ポリアリーレンファイド樹脂に配合されている種々の添加剤(C)を含んでいてもよい。添加剤(C)の好適な例としては、酸化防止剤、離型剤、腐食防止剤、及び核剤からなる群より選択される1種以上が挙げられる。
添加剤(C)の使用量は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の質量における、樹脂成分(A)の質量の比率が95質量%以上である限りにおいて特に限定されない。
【0054】
<充填材(D)>
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、充填材(D)を含んでいてもよい。ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の押出成形性の点からは、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物における充填材(D)の含有量、5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0質量%以下が特に好ましい。
充填材(D)の具体例としては、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、及び金属繊維(例えば、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、及び真鍮繊維等)等の無機繊維;ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、及びアクリル樹脂繊維等の有機繊維;シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、及びウォラストナイト等)、金属酸化物(例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、及びアルミナ等)、炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、及び硫酸バリウム等)、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、及び各種金属粉末等の粉末状無機充填材;マイカ、ガラスフレーク、及び各種の金属箔等の板状充填材が挙げられる。これらの無機充填材は、2種以上を併用することができる。
【0055】
<ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法>
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法は、この樹脂組成物中の成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されず、従来知られる樹脂組成物の製造方法から適宜選択することができる。例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出した後、得られた樹脂組成物を粉末、フレーク、ペレット等の所望の形態に加工する方法が挙げられる。
【0056】
≪押出成形品≫
押出成形品は、上述したポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用い、押出成形を行うことにより製造される。上述したポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を材料として用いることを除いては、一般的な押出成形品と同様である。
【0057】
押出成形品の製造方法は特に限定されない。例えば、円筒状の配管は、チューブ用のダイスを用いて押出成形される。押出成形品が配管である場合、多層配管であっても、単層配管であってもよい。配管を、ニップル等の管継手に押し込んでも、ひび割れや裂けが生じにくいことから、配管は、前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる単層配管であることが好ましい。
【0058】
前述の通り、前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて押出成形により形成された配管は、エチレングリコールやグリセリン等の有機溶媒成分と、水とを含む所謂「ロングライフクーラント」に長期間接触しても、引張強度等の機械的特性が変化せず、また、膨潤、脆化、変形等を起こしにくく、水、又は有機用溶媒に対する、特に「ロングライフクーラント」に対する優れた耐久性を有する。
このため、前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて押出成形により形成された配管は、ロングライフクーラントを流通させる配管として好適に使用される。
【0059】
また、前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて押出成形により形成された配管について、拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続されても、ひび割れや裂けが生じにくい。
このため前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて押出成形により形成された配管は、拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続される配管として好適に使用される。
【0060】
以下、図1図3を参照しつつ、配管は、拡径されつつ管継手に押し込まれることにより管継手に接続される態様について説明する。図1図3には、いずれも、配管20及び管継手10の径方向に対して垂直な、配管20及び管継手10の断面を示す。
【0061】
図1には、接続部11の開口端から根元側の方向に向けて外径が拡径する複数の段差を備える接続部11を有する管継手10に対して、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる配管20が拡径されつつ押し込まれて、管継手10に接続される状態が示される。図1中に接続前の状態と接続後の状態とを示す。
図2には、平滑な表面を有する略錘状の接続部11を有する管継手10に対して、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる配管20が拡径されつつ押し込まれて、管継手10に接続される状態が示される。図2中に接続前の状態と接続後の状態とを示す。
図3には、平滑な表面を有し、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる配管20の内径よりもやや大きな外径を有する円筒状の接続部11を有する管継手10に対して、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる配管20が拡径されつつ押し込まれて、管継手10に接続される状態が示される。図3に示される接続部11では、接続部11の開口端の、配管20と当接する箇所が面取りされているため、配管20が拡径されやすい。図3中に接続前の状態と接続後の状態とを示す。
【0062】
前述のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて押出成形により形成される配管の形状は、押出直後の形状として、外径が8.0mm以上50.0mm以下、内径が5.0mm以上49.5mm以下、肉厚が0.5mm以上3.0mm以下、及び長さ100cm以上である円筒状であることが好ましい。
配管の、外径、内径、及び肉厚は、均一であることが好ましいが、必要に応じて、位置毎に変化させてもよい。
【0063】
長さの上限は押出成形可能である限り特にないが、生産性を考慮すると、連続的に可能な限り長い成形品を成形することが好ましい。長さの上限は、例えば、500cm以下でもよく、300cm以下でもよく、200cm以下でもよい。
このようにして製造される長尺の配管は、100cm未満の所望の長さに切断された状態で用いられるのも好ましい。
また、長尺の配管は、直管として形成されたのち、周知の方法により曲げ加工や凹凸加工等の形状変更を加える加工を施されてもよい。
【0064】
以上説明した、押出成形品との配管は、4輪自動車等の自動車、オートバイ、及び航空機、船舶等の輸送機や、発電機等の内燃機関(エンジン)と、ロングライフクーラントを循環させる循環系とを備える装置において、循環系を構成する配管として特に好ましく用いられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
〔実施例1〜3、比較例1〜3〕
実施例及び比較例ではポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の材料として、以下の材料を用いた。
【0067】
<(A1)成分:ポリアリーレンサルファイド樹脂>
A1−1:フォートロンKPS((株)クレハ製、溶融粘度130Pa・s(せん断速度1216sec−1、310℃)、ピーク分子量65000)
A1−2:特開2006−063255号公報に記載の重合方法で重合して得たポリフェニレンサルファイド樹脂(ピーク分子量41000)
ここで、A1−1及びA1−2のピーク分子量は以下のようにして測定して得た。
[ピーク分子量の測定法]
溶媒として1−クロロナフタレンを使用し、A1−1又はA1−2をオイルバスで230℃/10分間加熱溶解させて、0.05質量%濃度の溶液を調製した。測定装置としてセンシュー科学製SSC-7000、UV検出器(検出波長:360nm)を用いて高温ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定を行い、標準ポリスチレン換算された分子量分布のピークトップの分子量を算出した。
<(A2)成分:エポキシ基含有オレフィン系共重合体>
A2−1:住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)BF−7L、エチレン(70質量%)−グリシジルメタクリレート(3質量%)−メチルアクリレート(27質量%)共重合体)
<(A2’)成分:エポキシ基含有オレフィン系共重合体>
A2−2:住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)BF−E、エチレン(88質量%)−グリシジルメタクリレート(12質量%)共重合体
<(A2’’)成分:エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体>
A2−3:ダウ・ケミカル日本(株)製、Engage 8003、エチレン−オクテン共重合体
【0068】
それぞれ、表1に記載の量の各成分をシリンダー温度320℃の二軸押出機で溶融混練して、実施例及び比較例の樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた樹脂組成物を用いて、以下の方法に従い、引張強さ、引張破壊呼び歪を評価した。これらの機械的特性の評価結果を表1に記す。
【0069】
<機械的特性評価条件>
実施例及び比較例の樹脂組成物のペレットを用いて、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO3167に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用い、ISO527−1,2に準じて引張強さ(MPa)と引張り破壊呼び歪(%)を測定した。
【0070】
<ロングライフクーラントに対する耐久性試験>
実施例1のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の引張強さ測定用試験片を、エチレングリコールと水とを含むロングライフクーラントに、130℃で1000時間暴露する試験を行った。当該試験における、暴露時間の経過による引張強さ(MPa)の変化を示すグラフを図4に示す。
図4からは、実施例1のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物がロングライフクーラントに1000時間もの長時間暴露されても、引張強さがほとんど変化しないことが分かる。
【0071】
<長尺配管成形試験>
実施例及び比較例のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物のペレットを用いて、外径20mm、内径16.6mm、肉厚1.7mm、長さ120cmの円筒状配管を以下の押出成形条件にて成形した。得られた成形品の外観、形状を観察し、スジや表面荒れのような表面欠陥や、歪みのような形状の欠陥が無い場合を「良」と判定し、前述の表面欠陥や形状の欠陥が生じた場合を「不良」と判定した。試験結果を表1に記す。
押出成形条件:シリンダー温度:310℃
【0072】
<ニップルへのはめ込み試験>
長尺配管成形試験で得た配管状成形品を長さ15cmに切断して、管状試験片を得た。オートグラフ試験機を用いて、治具で固定したニップルに、得られた管状試験片を上から500mm/分の速さで15mm押し込み、管状試験片のひび割れの有無を確認した。ひび割れが生じなかった場合を「良」と判定し、ひび割れが生じた場合を「不良」と判定した。試験結果を表1に記す。
ニップル(管継手)の形状は、概略図1に示される形状である。また、ニップルの接続部における最大の外径は19mmである。
【0073】
【表1】
【0074】
表1より、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A1)と、所定の要件を満たすエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)と、それぞれ所定の比率で含み、引張破壊呼び歪が40%以上である、実施例1〜3のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる場合、100cm超の長尺の配管を良好に押出成形でき、また、押出成形された配管をニップルに押し込んで接続しても、配管にひび割れや裂けが生じにくいことが分かる。
【0075】
他方、所定の要件を満たさないエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2’)と、エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体(A2’’)とを組み合わせて含み、引張破壊呼び歪が40%未満である比較例1のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる場合、100cm超の長尺の配管を良好に押出成形することが困難であり、また、押出成形された配管をニップルに押し込んで接続する際に、配管にひび割れが生じた。
また、所定の要件を満たすエポキシ基含有オレフィン系共重合体(A2)を含むが、引張破壊呼び歪が40%未満である比較例2及び比較例3のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる場合、100cm超の長尺の配管を良好に押出成形することはできたものの、押出成形された配管をニップルに押し込んで接続する際に、配管にひび割れが生じた。
【符号の説明】
【0076】
10 管継手
11 接続部
20 配管
図1
図2
図3
図4